神魔戦記 第五十三章

                  「決戦、カノン(X)」

 

 

 

 

 

 爆発が空中に舞った。

 激突する魔術と魔術。その一撃一撃の魔力量は、周囲で戦っている魔術師たちが全力で結界を張っても難なく突き破るであろうほど。

 その射手は、二人。

 芳野さくらと、倉田佐祐理である。

「「『凄絶なる灰の矛(グレイダスランス)』!」」

 同種の魔術が激突する。そのまま爆発。威力は・・・ほぼ互角。

「ふぇー、すごいですねー。佐祐理と魔術で撃ち合いできる人なんて、裏葉さんか澪さんくらいでしたよー」

「にゃはは、そっちこそ。魔力、技術、能力・・・。全部予想以上だよっ」

 二人は笑っている。とても楽しそうに。とても面白そうに。

 なぜなら楽しいから。なぜなら面白いから。

 多大な才能を持って生まれた二人の魔術師は、それこそ自分以上の魔術師や同等の魔術師と会う機会が少なかった。

 確かに過去、そういう人物とも出会ったことはある。だが、少ない。

 そして数少ない機会がいま、目の前に存在する。

 ならばいま―――楽しくないわけがなかった。

 少女たちは笑う。

 二人とも別段戦いが好きなわけではない。だが、いまこうして戦いに悦びを見出している。

 魔術師とは探求者。

 自分が魔術師で、相手も魔術師で・・・そして力が拮抗しているから。だから、

 ―――日頃計り得ない自らの能力を計ることができる!

 だからこの戦いに躊躇や手加減などありはしない。両者共に、己が力を出し合うまで。

「「・・・・・・」」

 不意に、まるで示し合わせたかのように二人の撃ち合いが止まった。

 怪訝に思う周囲の者の視線を浴びて、しかし二人の表情に浮かぶは微笑。

 魔術の撃ち合いが止んだのは、いままでのが前座だったから。つまり、小手調べ、というやつだ。

「では、・・・そろそろ始めましょうか?」

「そうだね」

 だからここから。

 ここからが―――真の勝負となる。

「―――参ります」

 先に動いたのは佐祐理だった。

 両腕をかすかに振る。すると袖口からなにかが飛び出し、それを佐祐理は器用にキャッチしてこちらに向けた。

 それは長方形の紙・・・札だ。そしてそこにはなにかの文字が書き込まれており・・・、

「文字魔術だね・・・!」

「はい。この日のために用意しておきました。

 紙での文字魔術はせっかく刻み込んでも一度限りの使い捨てですが―――」

 佐祐理がフッと息を吐き、それを中空へ放った。その数・・・六枚。

「ほんのちょっとの魔力を通すだけで、詠唱なしに使えるのが利点ですね?」

 札が、光る。

「『爆ぜし雷球(オリュオス・アゼ)』」

 空中で六つの巨大な雷球が出現した。

 向かってくるそれらに対し、さくらの詠唱は間に合わない。

「くっ・・・!」

 しかも上級魔術六発。上級魔術以下の結界では防ぎきれない。ならば―――、

「仕方ない!」

 まだ使うには早いと思ったが、背に腹は替えられない。

「使うよ、おばあちゃん・・・!」

 刹那、さくらの瞳が紅に染まる。

 それは―――時空の魔眼。

「―――接続(コンタクト)遡ること一日(ザ・ファースト・・・ゴーイング・バック・・・)

 溢れる魔力。数割を組み上げ、数割を補佐にま回す。うたまるが吼え―――ここに超魔術を成す。

「『断罪の業炎壁(エルメキア・ハイウォール)』!」

 さくらの魔力に従い、圧倒的な炎を纏った巨大な壁が出現する。迫る雷球は全てその壁に阻まれ、四散した。

「ふぇー、超魔術を無詠唱で発現するなんて・・・。すごい魔力コントロールと魔力量ですねー。

 それに魔眼も持ってるなんて・・・。紅色の魔眼・・・、時空の魔眼ですか」

「そっちこそ文字魔術をこれだけ行使できるなんて・・・。あれはボクでもなかなか理解できない分野なのに」

「あははー。佐祐理も一人ではできませんでした。数年前にワン自治領の上月澪さんに少し教わったんですよー。

 世界広しと言えど、文字魔術をあれだけ完璧にこなせる人はきっと澪さんだけでしょうから」

 確かに上月澪の名はさくらも聞いたことがある。

 世界的にも有名な、文字魔術を扱う魔術師だ。その文字魔術の理解度、また扱い方は世界最高峰と言われている。

 ―――けど、まずいな。

 おそらく文字魔術の書かれた札が、先程の六枚で終わりではないだろう、とさくらは考える。

 こちらも無詠唱で対応できるとは言え、消費魔力の違いがでかすぎる。

 向こうは下級魔術並みの消費であるのに対し、こっちは超魔術一回につきその二倍分消費しているくらいになる。

 時空の魔眼があるとはいえ、限界はある。このままでは・・・いずれこっちの魔力が先に枯渇する。

 だが、文字魔術にも限界はある。おそらく文字媒体で超魔術並みの力を引き出せるのはあの上月澪くらいなものだろう。

 だから佐祐理の札の限界は上級魔術。だとするならば、

「超魔術を放てば、札では防げない!」

 すぐさま魔術式を展開。第一工程から全てをカット。詠唱全てを省いて、その余波は魔力で力ずくでねじ伏せる。そして、

「『断罪の業炎道(エルメキエスド・ゼロ)』!」

 放った。圧縮された炎の弾丸が、一直線に佐祐理へ向かう。

「超魔術ですか。なるほど、これでは札では打ち勝てませんね。でも・・・」

 しかし佐祐理の笑みは崩れない。そこになにか嫌な予感を得て、さくらは身震いする。

 が、佐祐理が取り出したのはやはり札だ。・・・だが、その数八枚、それを投げ、

「『爆ぜし雷球(オリュオス・アゼ)』」

 発現する。そしてそれらはさくらの放った超魔術と激突した。

「くっ・・・!」

 唸るさくら。

 通常、超魔術一発の威力は上級魔術十発分と言われている。

 もちろんそれは使用された魔力量に比例するので、あくまで目安程度のものではあるが。

 で、今回放ったさくらの超魔術は通常時よりさらに魔力を込めて放ったものだ。自身の上級魔術で換算するなら、威力としてざっと十五発分はあると思われる。

 とはいえ、上級魔術八発も喰らえば威力は激減するし、消し飛ばすにも時間がかかるだろう。

 事実さくらの超魔術は佐祐理の雷球に阻まれて前に進めない。もう少しすれば雷球が耐え切れずに消滅するだろうが、それは、

 ―――あっちに時間を与えることになる!

 時間稼ぎか。それとも超魔術の威力を少しでも減らすのが目的か。

 ・・・さくらはその両方だろうと考える。

 だからなにかをしてくるはずだ。さくらは詠唱を開始した。無詠唱じゃなくても良い状況では、無詠唱での魔術は極力避けたい。

 だが、

「複合魔術式展開、第一元素『雷』、第二元素『火』・・・。其と其の力、我の魔を持って紡がれん。いま一度の恩恵を授けたまえ

 聞こえてきた詠唱に、さくらは愕然とした。

我は呼ぶ。シュナウドを。我は呼ぶ。ガヴェウスを。共に錯綜し、共存し、集約し、脈動せよ。・・・平伏せ、ここに、二神が舞い降りる

「しまった・・・! 複合魔術・・・!?」

咆哮せよ! 『雷神の熾紅蓮(トール・スマッシャー)』!」

 佐祐理から真っ赤な雷が轟いた。

 それは激突により威力を弱めていた雷球と真紅の弾丸を飲み込み―――勢いを衰えさせることなくさくらへと迫る。

「・・・っ!?」

 さくらの知る限り、最も厄介な複合魔術は『火』と『雷』の複合魔術である。

 火属性は、全属性の中で最も攻撃魔術の威力が高い。

 雷属性は、全属性の中で最も攻撃魔術の速度が速い。

 つまりこの二つの複合魔術は―――威力が高くスピードも速いという、最高の攻撃魔術へと昇華される!

「―――再接続(リコンタクト)遡ること二日(ザ・セカンド・・・ゴーイング・バック・・・)・・・!」

 判断は一瞬。詠唱はキャンセル。そんな暇はない。

 無詠唱。全てを刹那に叩き込み、

「『永劫の斬風壁(トュアリアス・ハイウォール)』・・・!」

 一秒で最強の障壁を展開する。が、

「―――っ!!」

 わずかに遅い。その超魔術の結界が完全に完成する前に真紅の雷はさくらへ到達した。

 轟音。爆音。破砕音。

 最初の音はワンテンポ遅れた雷の音であり、次の音は大地へ衝突した音であり、その次の音は未完成のまま破壊された超魔術の音だった。

 

 

 

「え・・・?」

 栞は呆然とその光景を眺めていた。

 否、眺めざるを得なかった。

 杏に足手まといと言われ、杏と香里の戦場から離れて・・・そしてここに来た矢先の出来事だった。

 ゴゴゴ、という奇妙な音の中、巻き上げられた砂塵が晴れていく。その中央・・・立っている人の姿は、ない。

 わずかに視線を下に向ける。するとそこに、あった。

 倒れている、さくらの姿が。

「あ・・・!」

 駆ける。駆けて、その傍に立ったとき、栞は愕然とした。

 さくらはボロボロだった。

 服や外套も魔術を通しにくい素材でできているのだろうが、それも所々焼け爛れている。

 腕や脚、また顔なんかには強烈な火傷があり、焦げたような臭いが鼻に付く。また出血も夥しく、左足は得体の知れない方向へ曲がっていた。

 しかし息はしている。ゆっくりで、かすかにではあるが、確かに息はしていた。

 あれほどの魔術を受ければ普通は即死だろう。だが、最後に張ったあの結界。未完成だったとは言え、それでもいくらか威力は殺ぎ取ったようだ。

 とはいえ、このまま放置していれば遠からず息絶えるだろう。

「そ・・・んな・・・」

 栞にとって、さくらは最高の魔術師だった。

 知識も、魔力も、能力も、センスも・・・。どれを取っても自分なんかでは到底到達できないような。そんな魔術師だったのだ。

 それが、そのさくらが・・・いまこうして目の前で倒れている。

 それがとても・・・信じられなかった。

「栞さん!」

 呼ばれる声に、ハッとした。

 そして迫る魔力があることにも気が付いた。が、遅い。栞には、こんな一瞬で結界を張れる技量はない・・・!

 だが、その間に割り込んでくる者がいた。

 美咲だ。

「『深淵の氷結壁(ヴァージカルド・ハイウォール)』!」

 事前に詠唱していたのだろう。眼前に現れる巨大な氷壁に、群がる魔術が遮断されていく。

 よく見れば、魔術を放ったのは佐祐理ではなかった。周囲の他の魔術兵がこれを好機と撃ってきているのだ。

 佐祐理の魔術なら、美咲の超魔術といえど破壊されていただろう。

 その佐祐理はどういうわけか動きを見せていない。どういう意図かはわからないが、こちらにとって都合が良いのは事実だ。

「栞さん! 何をやっているんですか!」

 と、結界に魔力を上乗せしている美咲が叫んだ。

「さくらさんの治療を、早く!」

「で、でも・・・」

 さくらの方へ向き直る。

 怪我の状態がかなりひどい。これでは通常の治療魔術では追いつかないだろう。

 そう・・・聖なる母の水陽くらいの魔術でなければ。

 真琴を助けるために練習はしてきた。が、いまだに一度も成功したためしがない。

 攻撃や防御の超魔術の場合、少しくらい魔力コントロールが崩れても、勢いでどうにかなるところがある。

 が、治療魔術でそれはできない。わずかな魔力コントロールの差で治療魔術は暴走を起こす。

 魔力が暴走を起こせばもちろん受けていた側に多大なダメージを及ぼす。しかも聖なる母の水陽は超魔術。そこに込められた多大な魔力が暴走すれば・・・死に至る。

「駄目です、怖い・・・!」

 できない。

 いままで一度も成功しなかったのだ。いまさら都合良くできるわけがない。

 そこへ、

「馬鹿っ!!」

 鼓膜を打つ、強烈な叱責が飛んだ。

 あまりの大声にキョトンと見返す栞に、美咲は振り返ることなく言葉を紡ぐ。

「できるとかできないとか・・・なんでそんな余計なことを考えるんですか!

 栞さんは、人を助けたいと願って修道女になってアーフェンまで来たのでしょう!? そのときの思いはもう途切れたのですか!?」

「そ、それは違―――」

「違うのなら、前を見てください! そこには、いまにも死んでしまいそうな人がいます!

 そしてそれを救える可能性を持っているのは栞さん、あなたしかいないんですよ!

 なのに・・・なのにできないとか言って逃げて、助けたいと願っていた人を見捨てて、そして死なせるつもりですか!!」

「―――!?」

「人を助けたいと願うなら! 願うだけでなく助けてあげてください!

 あなたにできることを! あなたがしたいことを! それをやって駄目だったときに嘆いてください!

 何もする前に投げ出したら・・・そんなのただの駄目人間です!!」

 ―――あぁ、本当に私は・・・いったいなにを考えていたんだろう。

 そうだ。全て・・・全て美咲の言うとおりだ。

 自分は、他者の助けになりたいと願った。そうして生きてきた。

 なのになにもせずに、ただ人を見殺しにすることは・・・ただの逃げだ。

 自分のせいで死んだのだと、そうなることを恐れていた。

 違う。

 それは違う。

 たとえ本当にそうなったとしても・・・それこそ自分の落ち度なのだ。

 反省せよ。猛省せよ。決して忘れることなく、そのときに嘆けば良い。

 そして見失うな。自分が望むことは、一人でも多くの人を助けること。

 ・・・ならば、最初からすべきことなど決まっているではないか。

 顔を上げる。その表情から―――迷いが消えた。

「美咲さん」

「・・・」

「ありがとうございます」

「・・・はい」

「そして・・・もう少しの間、お願いします」

「はい!」

 笑みの声が来た。そして美咲の超魔術の壁が、さらに硬度を増す。

 それを一瞥し、栞は再度さくらを見下ろす。

 息が遠い。命の灯火が消えかかっている。

 だが・・・、

「待っていてくださいね、さくらさん。いま私が・・・必ず救って見せますから」

 ギュッと、自らの腕を握り締めた。

 瞼を閉じ、集中する。

 助ける。

 助ける。

 絶対に・・・助ける!

アーティマの名において願う。美しき母なる海原よ、我が手に集いて力となれ

 詠唱を開始する。脈動するマナ。それを取り込み、魔術回路を通していく。

蒼きは流れ、儚きは雫。我が呼び声が届くのならばしかと聞け。癒しを与える者、それに処断するものはなく、ただ享受のみ。望むもの、それを潤す糾いの手こそ水の力

 魔力が成す。それを組み上げ、紡ぎ、魔術式を展開する。

 ・・・ここまでは良い。問題は、この先だ。

そしてその名を真に呼びし者はここにあり。其の力は絶対。いまこそここに、アーティマに契り願うは静寂の証・・・!」

 詠唱は完了する。

 だが、抑えきれない魔力が暴れようとする。

 ・・・集中せよ。

 それを必死に留める。ここで失敗したら、意味がない。

 ・・・集中せよ。

 魔力の流れを緩やかに。コントロールは正確に。常に一定を保ち、解放は瞬時にて。

 ・・・集中せよ。

 助けるのだ。ここに、自分の助けが必要な人がいる。

 ・・・集中せよ。

 だから・・・だからいま、その力を解放するとき!

『行きなさい。栞の力を必要とする戦場へ』

 リフレイン。そして、

「ここが・・・私の戦場です!」

 告げた。

「『聖なる母の水陽(フェネティリア・マテリアル)』!」

 水のマナが、弾けた。

 栞を中心に青い光が踊る。

 栞の身体から魔力が生まれ、更に青い光を加速させる。

 キラキラ、キラキラと。幻想的な光景。

 そして緩やかに舞い上がったその青い光は、突如として静止し、さくらの身体へゆっくりと沈み込んでいった。

 まるでそれは雪のように。フワリフワリとさくらを包む。

「お願い・・・!」

 真摯な声が響く中、青い光が空へと舞った。

 

 

 

 佐祐理は見た。

 巨大な氷の壁の向こう、突如青い光が現れ、それが一点に集束したのを。

 そして佐祐理は見る。

 その青光は立ち上り、いま中空を舞っているのを。

 佐祐理は笑みを浮かべた。

「良いお仲間を・・・持っているようですね?」

 問いかけの向こう、青い光がある。その光に包まれているのは・・・さくらだ。

 全ての怪我が―――完璧に治っている。

「うん・・・そうだね。ボクの、大切な仲間だよ」

 意識もしっかりとしているようだ。

 さくらは一度、二度と頷き、大地を見下ろす。

 美咲がいる。栞がいる。

 いつも魔術を教えている二人に、しかし―――、

 ―――助けられたね。

 助け合うのが仲間だ。そして助けられたからには、

「ボクは、それに見合うだけの動きを見せなきゃいけないね・・・!」

 飛ぶ。更に上へ。

「―――再接続(リコンタクト)遡ること三日(ザ・サード・・・ゴーイング・バック・・・)!」

 迸る魔力を腕に。集束し、自らの一日の魔力全てを持って、一撃と成す。

 停止。そして急降下を開始し、

「『断罪の業炎道(エルメキエスド・ゼロ)』!!」

 撃つ。

 空を真っ赤に染め上げるような、強烈な炎が一直線に佐祐理へと放たれる。

「・・・!」

 先の比ではない。

 その内包魔力、通常の魔術師十人を軽く凌駕する。

 普通の人間なら、百度死んでも余りある、明らかに桁違いの一撃が天から振り落ちる。

「くっ・・・!」

 四の五の言っている暇はない。佐祐理は自分の持ちえる全ての札・・・十八枚全てを放り、撃つ。

「『爆ぜし雷球(オリュオス・アゼ)』!」

 十八つの雷球が空を駆ける。

 だが、それすらも飲み込み、しかしなお紅蓮の業火は衰えを見せない。

 だが、少しの時間稼ぎにはなる。この間に詠唱を―――、

「―――再接続(リコンタクト)遡ること四日(ザ・フォース・・・ゴーイング・バック・・・)

 声は、横から。

 弾かれるようにして振り向けば、同じ視界の高さでさくらがいる。

 ボロボロになった外套を靡かせて、掌にはまた凶悪なまでの魔力を従えて。

「一度は負けた。そして・・・これでボクの勝ちだ。だから・・・」

 振り被る。そして魔術が起動せんと魔力を爆発させ、

「これで・・・“おあいこ”だよっ!!」

 放つ。

「『永劫の斬風道(トュアリアスド・ゼロ)』――――――!!」

 理解する。

 先程の断罪の業炎道はあくまで囮。注意を引き付けるためだけに、一日分の魔力を使用したのだと。

 認めよう。

 負ける。上から、そして横からやってくる超魔術。勝ちようがない。だが、

「・・・佐祐理はこう見えて、往生際が悪いんです!」

 詠唱の完了した魔術を、発動する。

「『天罰の神雷壁(ジャッジメント・ハイウォール)』、『断罪の業炎壁(エルメキア・ハイウォール)』!」

 頭上に炎の壁が巻き起こり、横に紫電の壁が振り落ちた。

「二種同時詠唱!? まだこんな隠し種を・・・!?」

 二種同時詠唱。

 二つの詠唱を同時に行うという魔術スキルでは最難度の技術。

 それを行使する佐祐理は、やはり最高峰の魔術師だろう。

 だが―――込められた魔力量の桁が違う。

 激突した瞬間、すぐさま結界に亀裂が走った。そう、持ちはすまい。

「あ、あははー・・・。これは、佐祐理の負けですねー」

 必死に魔力を上乗せし結界を維持する佐祐理は、だがやはり笑みを絶やさず、

「あなたたちがこれだけする・・・その相沢祐一という人・・・。是非佐祐理もお話してみたいですねー・・・」

「すると良いよ。話せばきっと、いろいろと面白いと思うよ。だから・・・」

 結界の亀裂が限界を迎える。その向こうでさくらも笑みを浮かべ、

「今回の戦いは・・・ボクたちの勝ちだ」

 破裂する。

 二つの魔術の刃が、佐祐理のいた塔を撃破した。

 

 

 

 祐一はその豪華な作りの扉を蹴破った。

 そこは、一際広い空間だった。

 赤い絨毯がまっすぐに敷かれ、煌びやかな装飾が壁一面に広がり、そして最奥には玉座がある。

 玉座の間。

 その中央。

 二振りの剣を両手に携え、ただ悠然と立つ青年がいる。

 初めて見る顔。初めての出会い。

 だが、・・・だが互いは互いをわかっていた。

「北川潤か」

「相沢祐一だな」

 言葉が交錯する。

 そして視線が交錯する。

 二人は相対を遂げた。あとは・・・、

 

 己が思いを剣に乗せ、戦うのみ。

 

 

 

 あとがき

 はい、神無月です。

 さぁ、なんとなく規模的には一番ド派手な戦いになったさくらVS佐祐理。

 一勝一敗という結果になりました。

 まー、佐祐理は生きていますのでご安心ください。彼女とて天才と呼ばれる魔術師。結界を完全な防御にわずかにでも軌道を逸らせることに成功しています。

 直撃ではないので、怪我こそしていますが生きてます。

 ま、それはさておき・・・いよいよです。

 祐一と潤の一騎打ち。お楽しみに。

 

 

 

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