神魔戦記 第五十章
「決戦、カノン(U)」
剣撃音が耳を打った。瀑布が轟き、悲鳴がこだまする。
その中央を奔る複数の影がある。
先頭を行くのは剣を片手にする相沢祐一だ。後ろに続くのは彼の部下であり同志である。
左右にはいつもは賑やかなのだろう商店が並び、その向こうにはいよいよ王城も見えてきた。
そこにも複数の影が見える。
その光景に祐一は小さく苦笑する。
向こうはこちらを待っている。敵であるこちらを。
距離が近付く。近付き、あちら側の者たちの顔が見える距離で全体に一度止まる指示を出した。
城の周囲には侵入者防止用であり、また生活用水として街全体へと行き渡っている深く広い人工川がある。
城への入り口は唯一つ、掛け渡された橋のみである。
それを塞ぐようにしてカノン軍が展開している。他、魔術師だろうと思われる風体の者が防衛用であろう塔の上でこちらを見下ろしている。
「ふぅん。あなたが相沢祐一のようね」
声は真正面。敵部隊中央に立つ、傍目に目立つ真紅の鎧を身に着けた者から。
高圧的な態度。だが、それに見合うだけの威圧感を携えている。
「・・・そういうお前は、聖騎士の美坂香里かな?」
「ご明察。なら・・・わかるわね?」
剣を向けられる。切っ先からは、火のマナが踊った。
「ここから先は通さないわ」
「いや、通らせてもらう」
二人の視線が交錯する。そして、
「・・・消えなさい、あなたはここで!」
香里の剣が振るわれた。そこから強烈な炎の波が押し寄せてくる。
技でもない。魔術でもない。それは純粋に彼女の剣撃に火のマナが反応しただけだ。
これぞ聖騎士。神に愛された戦士。
その炎波を祐一は魔力付与した剣で切り払う。その間を縫うようにしてさくらが躍り出て、魔術を放つ。
「『凄絶なる灰の矛(』!」
放たれる炎の槍。それは間違いなく香里に直撃した。
「やった・・・?」
「なにを言っているの?」
だが、晴れる爆煙の向こうには、無傷の香里が悠然と立っている。
「あたしは炎の聖騎士。“火の神”に愛されし者。
そのあたしに、火の魔術が通用するとでも?」
「噂には聞いてたけど・・・。そっか、やっぱり効かないんだ」
神に愛されし聖騎士には、その司る属性の攻撃は一切効かないという。
いまの一撃はその確認の意味も込められていた。
「では、みなさーん。佐祐理たちも美坂さんに続きますよー!」
声は頭上から。仰ぎ見れば、一際強烈な魔力を醸し出してこちらを見下ろす少女がいる。
「お前が・・・倉田佐祐理か」
「はい、カノン王国魔術部隊長を勤めさせていただいてます、倉田佐祐理と申しますー。
ですが、すいません。これから佐祐理たちはあなたを狙わせていただきます」
微笑を浮かべ、
「生き延びたかったらどうぞ、死ぬ気で避けてくださいね?」
そして佐祐理の両腕が向けられて、
「『貫く紫電の槍(』」
その他、全ての塔から数多くの魔術が祐一目掛けて放たれる。
が、その祐一の前に少女が立ち塞がった。黒い翼を背に生やす、青い髪を靡かせた少女。
「祐一には指一本触れさせない!」
名雪。
「不通の闇よ! 何物をも遮る盾となれ!」
剣を水平に構え、名雪は吼えた。
「遮鏡の夜(!」
すると名雪の眼前に円形に漆黒が生まれた。大きさは半径で人一人分というところか。
殺到する魔術の雨。だが、それら全てを受けてなお、遮鏡の夜はまるで壊れる素振りを見せなかった。
「名雪・・・」
「えへへ。わたしだってアーフェンでただ待ってただけじゃない・・・ってこと。
それより祐一、号令を!」
祐一は頷く。
剣を高く掲げ、
「第一部隊、第二部隊はここにいる敵と相対せよ! 敵は強い! ―――抜かるなよ!」
声が返ってくる。それに安堵の笑みを浮かべ、祐一は再び叫んだ。
「名雪! 神耶! 付いて来い! 城へ突入する!」
言うと同時に駆ける。そしてすぐに右で翼をはためかせ付いてくる名雪と、左で共に疾駆する神耶が並ぶ。
「行かせないと・・・言ったでしょう!」
そうして駆けていく祐一たちを、香里が群がる魔族兵共々焼き払おうと炎の一撃を放つ。
だがそれは祐一たちに到達する前に突如現れた大きな水の壁に遮られた。
なに、と思い首を巡らせて―――香里は思わず愕然とした。
「・・・栞?」
そこには強い決意の色を瞳に宿した自分の妹・・・栞が立っている。
数年前別れたあの時とは比べ物にならない魔力を高ぶらせ、栞は強い口調で自らの姉に言う。
「祐一さんの邪魔は・・・させません」
その一言で・・・香里のなにかが外れた。
「―――栞ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
香里の剣に炎が集束する。そして振り抜かれた一撃は、炎の弾丸となって栞へと向かう。
が、その途中で上から何か強大な物が落ちてきてその炎を消し飛ばした。
それは槌であり、脇には杏が立っている。肩越しに栞を振り返り、
「一人で戦おうとはしないことね。頼りなさい、仲間を」
「・・・はい!」
返事に満足気に頷いた杏が前を向き、
「鈴菜!」
「うん!」
杏の隣にいた鈴菜が弓を引き絞り、複数の暗黒の矢を射る。
「ちっ・・・!」
香里こそそれを剣で切り払ったが、何人かの兵が串刺しになっていく。
香里はいまなお飛び交う矢をバックステップで回避しつつ、頼りになる仲間の名を呼んだ。
「倉田さん!」
「はーい。行きますよ〜」
塔の上、杏や鈴菜に向けて魔術を放たんと魔力を組み立てる佐祐理だが、
「させないよ!」
「!」
横合いからいきなり飛んできた炎球を防ぐための結界に使用してしまい、魔力が霧散した。
振り向けば、宙に浮くさくらの姿。
「風のマナが・・・。でも火の魔術を使うということは二神信仰者ですか。 ・・・失礼ですが、お名前は?」
「ボク? ボクの名前は芳野さくらだよ」
佐祐理は頷き、
「では、改めまして。佐祐理は倉田佐祐理と申します。そして―――」
にこりと笑みを持ち、片手をこちらに向けて、
「あなたと同じ二神信仰者でもあります。二神信仰者同士、仲良くしましょう」
「!」
「『灼熱の烈火(』」
地面から湧き上がる火柱をさくらは旋回して回避する。冷や汗を垂らし、
「雷と火の二神信仰者かぁ。うーん、厄介だなぁ」
「さくらさん!」
下からの声は美咲のものだ。だからさくらは親指を立てて見せ、
「大丈夫。この人の相手はボクに任せて。美咲ちゃんは他をお願い」
「・・・わかりました」
「さて・・・と」
さくらは前を向く。塔の上、ニコニコと微笑んでいる佐祐理がいる。
手強い、というのはわかる。けれど・・・、
「当然だよね。世界は広いんだし」
黎亜もそうだった。だからこそ、
勝つ。
「いくよ」
「はい」
二人の周囲でマナが蠢いた。
ジャラジャラジャラジャラジャラ・・・。
耳を打つ不規則かつ断続的な音が時谷の周囲を踊った。
「ちっ・・・!」
舌打ちし、時谷は自分の身体が覚えている経験という側面から弾き出される予知そのままに身体を捻る。
瞬間、先ほどまでいた場所を鎖鎌が襲った。
鎖の方向に敵はいる。乱立する石像の向こう、日頃は温厚そうな笑顔が似合いそうな少年が、戦士の表情でそこに立つ。
疾駆する。これ以上余計なことはさせまいと、必殺をかけて拳を握る。・・・だが、
「―――形は意思を成す―――」
聞こえてくる声と同時、鎖鎌が輝きに包まれ、一瞬の後に盾へと形状を変えた。
「・・・っ!」
だが既に半ばまで放たれた拳が止まるはずもない。盾へと激突―――、
「―――」
しなかった。衝突の寸前、盾がゆるやかにスライドされ、インパクトそのままにやや右側へ流される。
しまった、と思う頃には時谷の身体は無防備な状態で一弥の横を行く。
「―――形は意思を成す―――」
時谷にとって不吉な言葉が間近で届いた。
「っ!」
慣性なんて無視。そんなものを力ずくでねじ伏せ、時谷は脚力だけで強引に身体を右へと持って行く。
だが、間に合わない。それが剣のようなリーチの短い武器なら間に合っただろうが、彼の持つ武器は・・・いまは槍だった。
「づっ・・・!」
脇腹に熱い感触。それが刃による傷みであると時谷は知っている。
だがそんなことに構っている余裕はない。時谷はそのまま投げ出すようにして距離をとろうと―――、
「―――形は意思を成す―――」
・・・できなかった。
時谷の足に巻きつく鎖。それに引っ張られるようにして距離を失くされ、
「―――形は意思を成す―――」
今度は剣と変わった一撃が真上から振り下ろされる。
無理な体勢。自らの回避は不可能。ならば・・・、
―――向こうをずらすまでだ!
「うらぁ!」
上から来る一撃を時谷は横から刀身を殴ることにって軌道を逸らせた。
「!」
その行動に驚く一弥の気配を敏感に感じ取り、時谷はその隙に大きく距離をとった。
「すごいですね・・・。いまの一撃は確実だと思ったんですが・・・」
「・・・ハン、そいつは皮肉かてめぇ」
「いえ、正直な感想です」
言って、一弥は再び剣を小さく振るった。
「―――形は意思を成す―――」
そして再びそれは鎖鎌へと変化を遂げた。
「・・・ちっ」
思わず舌打ちがこぼれる。
・・・その形状を自由自在に変える武器こそ、時谷が苦戦を強いられている結果である。
その呪具、名を『烙印血華(』と言うらしい。取り出したときに本人が言っていた。
その呪(いは言わずもがな。
形は意思を成す。
つまり、形状を所有者の意思のままに変えることができるという呪具。
だが・・・もちろんそれを持てば誰もが誰も時谷を追い込めるとのかと言うとそうではない。
その呪具が時谷を追い込む結果だと言うのなら、その原因はその所有者にして使用者であるこの倉田一弥という少年自身にある。
決して能力が高いわけではない。
腕力もない。魔力もない。体力はありそうだがタフというほどではなく、またスピードは並みの人間族をわずかに上回るかという程度。
ならなにが、と言えばただ一つ。
その技術だ。
しかも全て。
剣、槍、盾、斧、槌、爪、短刀、鎖鎌・・・。どれにしろほぼ完璧な動きで扱う。
洗練された、完成された動きだ。おそらく、かなりの修行を積んだに違いない。
しかしだからこそ、この一弥という少年は全てを網羅し、またそれらを接続したり連撃に繋げたりする事を可能とするのだろう。
この人物にしてこの呪具あり。
まさに最高の組み合わせとして・・・その少年は目の前に立つ。
「良いですね、あなたは」
と、そんな少年がまるで世間話でもするように声をかけてきた。
眉を潜める時谷に対し、一弥は小さく苦笑すると、
「卓越した腕力。そして決断の早さとその戦闘センス。・・・ほんと、羨ましいですよ。そういう『才能(』持ってる人は」
クルクルと、鎖鎌を回転し始める。そのまま言葉を続け、
「でも、僕はそんな人たちにこれまで勝ってきました。必死に努力をして・・・才能なんてなかったけど、でもこうして勝ってきたんです。
そしてこれからも勝ち続けましょう。そんな努力が、決して無駄ではないと証明するために。そして誇るために。
僕も、カノン王国に代々仕えてきた倉田家の人間であると・・・胸を張って言えるように!」
目が見開かれ、鎖鎌が放たれる。
それを時谷は当たり前のように回避し・・・しかし突っ込まない。
このまま無闇に突っ込んでも先の二の舞だ。
ただの接近戦ではおそらく負ける。悔しいが、こうもトリッキーな戦法では自分の経験から来る戦闘予知は意味がない。
なにか・・・なにかをしなければ。
「もうこちらには来ないんですね。怖気付きましたか?」
簡単な挑発だ。もちろんそんなことに時谷は反応しない。
・・・いや、以前までなら人間族相手と反応していたかもしれないが。
ともかく時谷は反応しなかった。
そんな反応が意外だったのか、一弥が驚きの表情を浮かべる。そして一瞬苦々しい表情も。
―――なんだ?
疑問に思うも、それも一瞬。一弥は小さく笑みを浮かべ、
「では、こちらから行きましょう!」
駆けてくる。鎖をジャラジャラとかき鳴らせながら、円を描くような動きでこちらへと迫ってくる。
だが時谷は迎撃しようとせず、後退した。一定間隔をキープするように距離を置く。
近接戦に持ち込まれるわけにはかない。なんの策もなしに懐に入れば、あの多種多様な攻撃に翻弄されてしまう。
だから距離を取る。時間稼ぎのためにも。
「・・・逃げるんですか、魔族ともあろう者が。人間族相手に!」
「いや、認めてやるよ。種族なんか関係なしにてめぇは強い」
すると、一弥は再び苦々しく舌打ちをした。そして放たれる鎖。
だがこの距離、この動きの中ならその程度の攻撃を回避することは容易い。それをあっさりと避け、しかし時谷の思考を埋めるのは、
―――なんだ?
やはり疑問だった。
先程からのあの表情は一体何か。挑発が効かないことに腹を立てている? いやまさか、と自分の思考に否定する。
では、と疑問に思いながら再びの鎖攻撃を避けたとき、時谷はふと思った。
―――いま俺は戦いの最中なのに考え事をしながら動いている。
それは即ち敵の攻撃に余裕があると言うことだ。だからこうして攻撃を受けずにいる。
と、そこに至って理解した。一弥の表情の正体を。
―――あいつ、近接距離以外じゃろくな攻撃できないのか。
即ち、先程自分が考えたことの逆だ。接近戦になるとまずいということは・・・それ以外ならたいしたことはないということだ。
つまり近距離こそが相手の領域。だが魔族である自分にスピードで一弥は追いつけない。
だからこその挑発。自分で追いつけないのなら、相手に向かってきてもらうしかない。人間族を蔑む魔族なら、普通挑発を受けるだろう。
だが、時谷はそれをしなかった。それこそ一弥の表情の真意。
つまり、―――この状況において一弥は時谷を倒す術がない。
ならば、そこが時谷の付け入る隙となる。
―――しっかしなぁ。
だが、事はそううまくもいかない。
なぜなら、中距離以上において攻撃手段がないのは時谷も同じだからだ。
―――きっと祐一なら簡単に思い付くんだろうな。
そう思う。祐一ならこの相手にも簡単に勝つだろうという、そんな確信もある。
おそらく誰も予想が付かないような奇策で敵を翻弄するのだろう。
「奇策・・・ねぇ」
たとえばこの状態なら祐一はどうするだろうか、と考える。
こちらは近距離戦闘しかできない。が、その距離では向こうのほうが上手。だからと相手が無力になる中距離を維持すれば、こちらも攻撃ができなくなる。
一見八方塞だ。
だが、祐一は絶対この状況でも笑みのままに乗り越えていくだろうと意味のない確信がある。つまり・・・光明はどこかにある。
別に祐一の真似でなくても良い。なにか、なにか手があれば―――、
「この、いい加減に・・・!」
一向に縮まらない距離にイラついたのか、いままでより少し乱雑な感じで鎖鎌が放たれた。
荒い。見切れる。
そしていつもの経験から来る条件反射の動きで鎖を掴んでしまった。
「あ、やべ・・・」
かわすべきだった。ここで引き寄せられればもともこもない。
しかし、ここで時谷は妙案を思いついた。
―――そう、そうか。
逆転の発想だ。そして自分には・・・それを実現できる『属性』がある。
―――いける!
確信し、時谷は奔った。鎖を手に捕らえたまま、一弥へ向けて一直線へ。
突如のことに一瞬慌てる一弥だが、すぐさま冷静になる。だが、その冷静になった頭の片隅では、いままでとは何かが違うことを悟っていた。
しかし一弥ができることは烙印血華を用いて近接戦闘にて敵を倒すことだけだ。だから、
「―――形は意思を成す―――」
呪(いを発言する。だが、
「『戒めなる鎖(』!」
聞き慣れぬ魔術の真名。そして・・・変形しない自らの呪具。
なにが、という驚愕が隙となった。次の瞬間に一弥が感じたのは頬に感じる鈍痛だった。
「―――っ!?」
自分が殴られたのだと理解できたのは、視界に空が広がったときだ。
「くっ・・・!」
慌てて身体を捻り着地するが・・・、
「おせぇ!」
「がはっ!」
既にそこには時谷の姿。放たれた拳は鎧を破砕し溝に強烈にめり込んだ。
たたらを踏むが、なんとか耐える。ぐっ、と唇を噛み、一弥は鎖鎌の形から変形が解けない烙印血華を見下ろし呆然と、
「・・・な、なぜ・・・」
「俺の属性が特殊属性なんだよ」
顔を上げた先、時谷がゆっくりと進んでくる。
「俺の属性は『封印』。それ以外どんな魔術も使えないのが俺だ。だがまぁ・・・逆を言えば封印魔術に関しちゃ俺の右に出る者はいねぇ」
そう、それこそ逆転の発想。
近距離でしか戦えない自分。しかし敵のほうが近距離が上手。
だから中距離でどうにかなるようななにかを模索したが、そうじゃない。
逆を言えば・・・相手の「近距離が得意」という根底が破壊できれば良いのだ。
そして時谷にはそれができる術があった。
それこそ『封印』。一弥の呪具としての性能を封印することで、近接戦闘の主導権を握ること・・・!
「・・・行くぜ!」
駆ける。
防衛しようと一弥が手に残る鎖鎌形態の烙印血華を振るうが、当たらない。
「ただの鎖鎌使いだってんなら・・・俺に攻撃は当たらねぇよ!」
肉薄、繰り出す拳。・・・直撃。
「がっ・・・!」
「てめぇは強い。それだけの肉体ポテンシャルしかないのによくここまでやったよ」
二撃。
「ぐぅ!」
「でまぁ、どちらかと言えば俺も魔族からすりゃあ落ちこぼれだ。だが・・・」
三撃。
「かはっ!」
時谷は攻撃を繰り出しながら思う。
たとえ才能なんかなくても、工夫次第では勝てる。
祐一もそうして能力的には上の相手を倒してきた。そして・・・癪だが、そういう祐一のようになりたいとも思う。
だから、
「わりぃが―――」
蹴り上げる。顎に直撃し、一弥の身体がふわりと浮かぶ。
そこへ追撃として拳を振り上げ・・・、
「今回は俺の勝ちだ!」
全力で叩き落した。
「―――っかは」
地面に叩き落され、一弥の喉からかすれるような喘ぎ声が響いた。
・・・動きは消えた。
だが、息はある。死んではいない。ただ気絶しているだけだ。
しかし時谷にはとどめを刺そうという意思がなかった。
それは同じく才能がない者への同情か。それとも才能がないにもかかわらずここまでの力を見せた一弥への敬意か。
・・・いや、違う。
「・・・ちっ」
何故か、
不意に、
・・・亜衣の顔が浮かんで消えた。
「アホか」
思わず頭を強く振り、その場に座り込む。
至るところでまだ戦いが行われている。が、時谷はその場から動こうとしなかった。
動けないわけではない。動こうという気がなかった。
「・・・ま、どいつもこいつもなんとかなるだろ」
不思議と誰かが負けるようなことはあり得ないと思った。
だから行く必要もないだろう、と。
時谷自身よく意味のわからない思いだが・・・、
・・・人はそれを『信頼』と呼ぶのだ。
あとがき
あい、神無月です。
いやー、いよいよ神魔も五十章ですねー。
ここまで来たのも皆さんのおかげですねー。感謝感謝。
さて、時谷VS一弥終了。で、次は浩一VS舞ですね。
浩一の強さを見よ。
ではではー。