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神魔戦記 第十四章
「前方に大波、後方に断崖(Ⅶ)」
「ほらよ!」
放たれる破壊という二文字を持った拳弾。
咄嗟にかわす真琴の後ろで、激突した壁が轟音を上げ大きく破砕した。
「・・・!」
なんという威力か。
たかだか拳の一撃が魔術の中でも単純な破壊力なら最強の炎系魔術、それの中級魔術ほどの破壊力を有していた。
真琴はすぐさま思考を切り替える。
パワーでは負けている、なんていうレベルではない。これは当たれば終わりという次元のものだ。
一撃でやられる気はしないが、大きく姿勢は崩すだろう。しかもこれは魔術ではなくただの拳の一撃、いかようにも連続攻撃や連携など繋げられる。
それ故の一撃で終わり。一撃浴びれば、あとは捕まって終了。
だが、答えは簡単だ。
それは攻撃を喰らわなければ良いだけのこと。
「獣人だからって舐めたつけを、その身体に刻み付けてあげるわ!」
炎をその手に纏わせて、疾駆する。
「!」
途端、訓練場から真琴の姿が消えた。否、視認できないスピードで動き始めた。その動きに眼を見張る時谷。
「ふっ!」
半瞬で時谷の側面へ。
だが、繰り出される爪の一撃を時谷は見ることなく回避する。
「なっ!?」
「速さは大したもんだが、戦闘経験は少ねぇみたいだな。動きがバレバレなんだよ」
時谷は片足を軸にそのまま回転、裏拳を叩き込む。
「うわぁ!」
防御。しかしその衝撃は易々とガードを突き抜けて真琴の身体に襲い掛かる。
「そら・・・よ!」
そのまま吹き飛ばされ、真琴は壁に背中を大きく打ち付けた。
「あ・・・ぐ」
一瞬、呼吸が出来なくなる。だが、そんなことで動きを止めているわけにもいかない。
―――第二撃はすぐそこまで迫ってきているのだから。
「おら!」
「―――っ!」
目の前にまで迫った一撃を跳躍でどうにか回避する。そのまま天井を蹴りつけ、爪を構えて急降下する。
「こっのぉぉ!」
だが甘い。
時谷はそのまま大地に向かって強く拳を振り下ろす。
ドゴォォォ!
粉砕される大地。そのあまりの威力に砕かれた岩が―――空中に踊った。
「!―――っ、この!」
迫る岩やら何やらを灼熱の爪で切り払う。
「えっ!?」
するとそこに先程までいた時谷の姿がない。
どこに、と探すより早くその声は横から響いてきた。
「どうしたよ。脇ががら空きだぜ?」
「!?」
声と同時に衝撃。
横から放たれた一撃は防御する暇なく真琴の横っ腹を直撃し、その身体を大きく吹き飛ばした。
地面の上を砂埃を巻き上げながら転がり、止まる。
「が・・・はぁ・・・」
あまりに強力な一撃。揺さぶられた肺は正常に機能していないようで、呼吸すらまともにできなくなっている。
「おいおい、まさかあれだけ大口叩いといてこれで終わり、なんて言うんじゃねぇだろうなぁ、おい?」
声もどこか遠く聞こえる。
・・・まずいな、と真琴は初めてそんなことを考えた。
正直時谷の実力を甘く見すぎていた。
どれだけ力があろうと自分の素早さがあればかわしきれると、そう踏んでいた。
だが実際はどうだ。戦闘を始めてまだわずかにも関わらず既に二発、しかも内一撃は防御も出来ずに直撃だ。
「っ・・・」
骨が折れている。もしかしたら内臓もいくつかいかれているかもしれない。
それでも真琴は震える膝を押さえて立ち上がった。
祐一の敵は自分の敵だ。
・・・負けるわけにはいかない。
「そうでなくっちゃな。せいぜいもう少し楽しませてくれよ」
楽しそうにわずかに笑みを浮かべ、時谷が再び奔り出す。
迎撃のために構えを取ろうとするが、駄目だ。下半身から崩れていきそうになる。
もう一撃喰らったら、間違いなく意識は飛ぶだろう。
ならば、この一撃に賭けるしかない。
「・・・あん?」
訝しげに首を傾げる時谷の視線の先、真琴は静かに瞳を閉じると自分の腕の前で両腕をクロスさせた。
「なんの真似だか知らねぇが、こいつでキメだ」
闘気を宿し、その一撃を振りかぶり、
「死妖曲、第五楽章・・・」
不意に真琴の口から紡がれる言葉。
それとほぼ同時、膨れ上がる真琴の魔力。
なんだ、と思い時谷が足を止めた瞬間―――、
「烈火・狐旋(!」
真琴の背中から灼熱の炎が舞い上がった。
それはそのまま翼のような形を成し、開かれた真琴の瞳孔は獣のそれのように細く切れ長になっていた。
「こいつは・・・」
時谷にも聞いたことはあった。上位に位置する獣人族には、代々伝承される奥義のようなものがあると。
獣人とはそれすなわち獣。獣の階級制度となれば、自然それは単純な弱肉強食・・・強い者が上に居座ることになる。
それはつまり上位に位置付けされた獣人族は他にはないなにかを持つということ。
妖狐といえばその眼にも止まらぬスピードと、多大な魔力。そして炎を手足のように操る術を持つことで有名な獣人族だ。
その妖狐の一族で伝承される奥義こそ『死妖曲』と呼ばれるものであるという。
とはいえ、それを生で見たのは時谷も初めてだ。なるほどこの威圧感、確かに奥義と呼ばれるだけのことはある。だが―――、
「まぁ、いいか。野暮な詮索は後にして、いまはこの状況を楽しまなくっちゃな」
強い者と戦うのは胸躍る。
魔族とはもともと好戦的な種族だ。ご多分に漏れず時谷もそういう性格をしている。
とはいえ、絶対に戦いたくない者もいるが。
・・・まぁ、いまはいいさ。
思考を振り捨て、時谷は構えを取った。
その眼前で灼熱の翼をはためかせて、真琴は一陣の風となった。
先程の二倍ほどのスピードをもって時谷の横に回りこむ。
「!」
あまりのスピードにさしもの時谷の反応速度も追いきれていない。
「はぁ!」
業火を纏った爪を一閃。
今回初めて当たった真琴の一撃は、易々と時谷の左腕を切り払った。
「っ!・・・おらぁ!」
腕を切られた激痛があるにもかかわらず、浮かぶは笑み。そのまま残った右腕で反撃をかまそうとするが、
「ちっ!」
そこにはもう真琴の姿はない。姿を探れば、真琴は天井近くに浮遊していた。
「なるほどな。それは自己を強化させる技か」
「もうあんたのスピードじゃいまの真琴には勝てないわ」
「さ~て、そいつはどうかな?」
「・・・!」
その余裕の笑みに、真琴はその身を加速させて滑空する。
妖狐の炎をふんだんに宿した爪を構え、
「これで終わりよ、斉藤時谷!」
いまの真琴のスピードなら肉薄は一瞬。・・・しかし、
「なめんなよ。切り札を持ってんのがてめぇだけだと思ってんのか?」
「なっ・・・!?」
―――向けられたこの世ならざる視線に、真琴の身体が硬直した。
「どんな種族にも例外的な属性を生まれつき持つ奴っつーのがいる。知ってるか?」
「・・・そ、そんな、だって・・・あり得ない・・・!」
真琴の背中から炎が掻き消え、そのまま自由落下していく。
「だって、その眼は・・・!」
こちらを見上げる時谷の瞳は先程とは全てが違った。
灰色の眼に四角い瞳孔。水晶細工のように洗練された虹彩は既に人の眼球の領域を超えていた。
特例と呼ばれる代物。
―――それは、石化の魔眼。
「Aランクの魔眼を魔眼殺しなしで封印してたのが不思議なんだろ?だからよ、それが俺の属性なんだよ。
俺の属性は“封印”。俺が魔術を使わないのは使えないからなのさ。なぜなら俺の使える魔術は封印魔術しかないからな」
闘気を拳に。動きを静止し徐々に手足から石化して墜落してくる真琴に向かって、
「あばよ。沢渡真琴。獣人にしてはお前はなかなかおもしろかったぜ」
突き出される拳。
それは真琴の腹に突き刺さり赤を撒き散らして、・・・貫通した。
あとがき
真琴敗北。
次回はこの現場に美咲たちや祐一たちが現れて・・・あとはお楽しみに。
ってか、誰だよ。あと少しで終わるなんて言った奴はー。俺だー。無理だー。
まだあと二話くらい続くぞー。