神魔戦記 第十二章

                 「前方に大波、後方に断崖(X)」

 

 

 

 

 

「ふっ!」

 鈴菜が気合と共に魔力を付与した矢を放つ。

 暗黒の波動を乗せて漆黒の弾丸となったそれは幾人もの傭兵を打ち抜いていった。

「っ!」

 とはいえ、状況は多勢に無勢。

 一方向にだけ気を配っていてはすぐに命を散らすこの状況。キャパシティで圧倒的に有利だからと油断できるわけではない。

 横から放たれる刃の一撃を紙一重で回避し、横をすり抜けざまに矢を直に首に突き刺す。

「ぐぁ!」

 血飛沫を舞い上げ倒れていく兵士を乗り越えるようにしてまたさらに数人の傭兵が襲い掛かってくる。

「この、しつこいのよ!」

 この距離では矢を放つことは不可能と判断。弓に魔力を付与してそのまま叩きつけた。

 吹き飛ばされる男に巻き込まれるようにして離れた傭兵に向かって矢を引き絞り、放つ。

 その一撃でその集団は絶命した。

「まったく・・・、あと何人いるの!?」

 周囲を見渡せばまだまだ敵はいる。逆に味方の影はどこにも見えなかった。

「これはいよいよ、まずそうね・・・」

 頼みの祐一は遥か向こうで女剣士と激しい攻防を繰り広げている。

 あまりに高レベルな戦いに誰も近づけないようだが、そのツケがこっちに回ってくるようではいい迷惑だ。

 そして水菜はもう契約した使い魔が尽きてきているらしく、自分の護衛に回すので手一杯の様子。

 ・・・となると、自然この大群の相手をするのは自分一人となってくる。

(これだけの大人数でも久遠の月の一撃でけりが着く。でも、あれはまだコントロールが不完全だし・・・)

 自分の知る限り最強の技はまだ完全に習得できていない。

 あれは大量の敵を相手にするのに最も有効な殲滅技。しかし一度コントロールを失えば、祐一や水菜をも巻き込んでしまう。

「・・・となると、あれしかないか」

 周囲にいた傭兵たちをとりあえず打ちのめし、間隔を取る。

 魔力を矢に宿し、鈴菜は弓を上空に向かって構えた。

「降り注げ!―――闇時雨!」

 放たれた暗黒の弾丸はそのまま空高く飛来し―――、

 パァン!

 ―――空中で爆ぜた。

 突如飛来する幾十もの闇の弾丸。

 雨のように降り注ぐ闇を宿した矢は敵を突き刺し大地を焼く。そこかしこで爆炎を撒き散らし、それはさながら爆撃とでも表現できようか。

 突如の上空からの攻撃に動転する傭兵集団に、さらに鈴菜が闇時雨を連発する。

 それが五度を数えたくらいで、ようやくその攻撃が鈴菜の所業であることに気付き始めた傭兵たちが止めんがために襲いかかろうとするが、

 ズドドドド!

 近付けない。降り注ぐその爆撃は明らかに鈴菜の周囲のほうが密度が濃い。

 近付くのに躊躇った者も、違う方向から落ちてきた闇時雨に穿たれていく。

「いけるかな・・・?」

 いや、正直このまま決着がつくとは思えない。

 闇時雨にも欠点はある。

 まず第一に、その攻撃は完全なランダムであること。闇時雨は大量の魔力を込めた矢を空中に放ち、それを破裂。霧散した魔力の塊で地上を爆撃する技だ。故に最初の一撃こそ方向修正できるが、その後の爆撃は完全に自由落下に任せたもの。こちらでコントロールすることが出来ないので、味方と敵が入り乱れる乱戦では使用できない。まぁ、今回はもう味方がほとんどいないので撃ってはいるが。

 そして第二に、魔力の消費が激しいこと。先程も述べた通りこれは大量の魔力を付加した矢を空中で破裂させる技。一回で結構な魔力を消費してしまう。

 こうなると、後は自分の魔力が尽きるのが先か敵が全滅するのが先かという話になってくる。

「根競べか。正直私そういうの好きじゃないんだけど・・・」

 とはいえやるしかない。ここで自分が挫けたら、きっと浩一に笑われてしまうから。

 ―――と、

「うおぉぉぉ!」

 大声を上げてこちらに向かってくる傭兵たち。どうせどこにいても当たる可能性があるのなら、逆にどこにいたって変わらない。どうやらその事実に気付いたらしい。

 といってもそれで鈴菜の対応は変わらない。否、変えられない。

 ここで闇時雨を放つことを止め向かってくるものに対してのみ矢を放てば、別の方向からの接近を許すことになる。

 鈴菜に出来ることは、ただ闇時雨がその者たちに当たることを祈るのみ。

 だが、これだけの人数。ランダムの攻撃だけでは限界がある。

「もらったぞ、女!」

 向かってきた数十人の者の中で二人、こちらを射程に入れた者がいた。しかも前後、真逆からだ。

「っ!」

 このタイミングでは対処できてもどちらか片方のみ。対応が間に合わない。

 これまでか、と思った瞬間―――、

「うわぁ、なんか派手にやってるね」

 ―――声は上から。

 刹那、空中から煌く刀身が降り落ち、その影は迫った二人を切り捨てた。

「あ・・・」

 一対の漆黒の翼を生やし、靡くは腰まで届くかという長く艶やかな青髪。

 よく見覚えのある、懐かしい背中だ。

 だから呼ぶ。その、懐かしき名を。

「―――名雪!」

 その少女は青髪を翻しながらこちらへと振り返り、いつものほにゃっとした笑みで、

「久しぶりだね、鈴菜。でも―――」

 少女、名雪は周囲を見やり、

「どういう事情かわかんないけど、いまは久しぶりの挨拶をしてる暇はなさそうだね」

「うん、理由は後で説明する。いまは―――」

 名雪はただ頷き、その翼をはためかせて上空へと飛び上がった。

「祐一のこといじめる人はみんなわたしの敵だよ」

 名雪が掲げた剣の先、暗黒の塊が出現する。

「闇は全てを遮る暗黒の世界。そこにあるのただ凍りつくような寒さだけ・・・。味わってみるといいよ、これがなにもない世界っていうやつだから」

 落下。

 そのまま剣を地面に突き刺し、

琉落の夜(るらく よ)

 大地を闇が染めた。

 そのままそれは名雪を中心に一定まで広がると、端がせり上がりドーム状に一帯を覆い包む。

 染まり、

 凍り、

 砕けて、

 消える。

 数秒たった後割れるようにして晴れた闇の中には、名雪以外の傭兵たちは誰一人として立っていなかった。

 琉落の夜。

 あまりに凝縮された闇はなにものをも通さない一種の結界にまで上り詰める。

 それがその技の正体だ。

 一定空間を闇で包み込む。その中はなにもない。ただ浸透するように広がる深い闇は温度すら奪い全てを凍らせ破砕する。

 その技は数多くいる魔族の中でもある一族にしか使えないもの。

 水瀬。

 いかなるものも凍らせる絶対不通の闇を司る一族。

 そう。名雪は、いま現在キー大陸最強と言われているあの水瀬秋子の娘。

 その名を、―――水瀬名雪と言う。

「一気にいくよ、鈴菜!」

「任せてよ、名雪がいれば百人力だわ!」

 名雪の加勢に勢いを取り戻した鈴菜。

 二人の猛攻はすでに百や二百の雑兵では話にならなかった。

 既に勝敗は決した。逃げ出す者も出始めた。

 地上での戦いの決着はもう、時間の問題だろう。

 

 

 

 あとがき

 ども、神無月です。

 いやー、名雪強いですねー。だって秋子さんの娘ですからね。

 神魔戦記での名雪は待遇良くするつもりです。名雪ファンよここに立ち上がれ!

 ・・・こほん。さ〜て次回は祐一VS留美の決着ですよー。

 

 

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