神魔戦記 第七十章

                    「エアの力(T)」

 

 

 

 

 

 夜も深き時。

 王都エアのわずかに南、城砦グエインTはいま大きな声が飛び交っている。

 それは装備、道具の準備、隊列、小隊規模でのメンバー確認などの声だ。

 いまここにいるのは常駐している部隊だけではない。その主たる者たちは……カノン侵攻部隊である。

 カノン侵攻部隊は第二、第三師団と第二、第三部隊の計四つ、合計にしておよそ四千強の兵で形成されている。

「――作戦は以上だ。異論、質問等はあるか?」

 作戦室ではいま円形のテーブルに四人が座り、一人が黒板の前に立っている。

 作戦を図で説明しているのが第三師団長霧島聖だ。今回の作戦では全部隊の総指揮を務めている。

 机に座っているのは右から順に第二師団長神尾晴子、第二部隊長国崎往人、第三部隊長霧島佳乃、第四部隊長遠野美凪の四名。

 それら四人に異論がないことを確認し、聖は一つ頷いた。

「ふむ。異論、質問共にないようなので作戦説明は以上とする。――国崎くん」

「わかってる。今回の作戦は俺の動きで全て決まる」

 視線を向けた聖に対し、往人はただ憮然と頷くだけだ。

 観鈴が敵の内にあるということで不安だったが、感情的にはなっていない。大丈夫なようだ。

「今回の戦闘の第一目標はカノン城制圧、第二目標は神尾観鈴王女の救出だ。どちらも国崎くんの腕によるところとなる。

 我々はそのアシスタントとなるわけだが、決して油断はするな。カノンは兵力こそこちらより遥かに下だが、一人一人の質はあちらの方が高い」

「そうだねー。以前あたしたちが侵攻したときは負けちゃったもんねー」

 はぁ、と息を吐く佳乃。それに同調するように美凪も頷く。

「……それに、カノン軍のメンバーも取り込んでるから……以前より手強いはずです」

「だろうな。救いはクラナドとの同時攻撃で戦力が減っていることだな。純粋な兵力差なら優に五倍はある」

「質で劣るなら量でカバー。うん、良いなぁ、うちはそういう簡単なの好きやなぁ〜」

 聖の言葉に相槌を打ったのは晴子だ。だがそんな晴子に聖は小さく嘆息し、

「晴子さん? 肩に力を入れすぎないということは良いことだが……あなたは少し気楽過ぎる節がある」

「ええやんかー。こんなもん、成るようにしか成らんし」

「確かにそうなんだが……まぁ、良い。あなたはいつもそうだ。今更何を言ったところでどうにもならないか」

「む。なんか馬鹿にされた気がするな〜。ま、ええけど」

 ケラケラと笑う晴子は確かに傍目お気楽に見える。

 ……だが、その心中は姪である観鈴の心配で満たされている。ただそれを表に出していないだけだ。

 それをわかっていながら聖も言葉を合わせたのだ。

 晴子ではないが、あまり肩に力を入れすぎるのも確かに良くはない。それは戦場に出た経験を多く持つ者にとっては共通の認識だ。

 だから場を和ませる意味でも、こうした流れの会話は意味はあるだろう。

「さて――」

 時間を確認し、聖は皆を見渡した。

「進軍開始は日の出と同時に開始する。それまで各師団、部隊長は自らの指揮下部隊のチェックを怠らないように」

「「「「了解」」」」

「では、解散だ」

 腰を上げ、それぞれ退出していく隊長クラスの面々。

 その背中を見送り、聖はもう一度時計を見やった。

「……あとおよそ四時間半、か」

 その時間になったとき――カノンとエアは正式に戦争へと突入することになる。

 

 

 

 カノンの対エア部隊は既に城を後にし、現在はアゼナ連峰との中間地点にて陣を敷いていた。

 クラナドと同時に攻めてこない以上、タイミングを計るのはもう無理だろう。

 エアの部隊が王都エアから城砦グエインTまで移動したことを確認した時点で、祐一たちは移動を開始していた。

 陣の設営は全て完璧。装備関係は城にいる間に整えている。

 あとは相手が動き出すのを確認し、部隊を動かせば良いというところまで漕ぎ着けている。

「エア……か」

 ほとんど住んだという記憶すらない自らの生まれ故郷。

 いまからそこと戦うことになる。

 躊躇はない。気負いもない。けれど……このわずかに感じるものはなんだろうか。

「祐一くん、ちょっと良い?」

「ん……?」

 振り返るとそこに立っていたのは、

「あゆか。準備は万全なのか?」

「準備は平気。もともとグランヴェールに手入れとかはいらないし、小隊長でもなんでもないからね」

「そうか。だったら、どうした?」

「ん……、いまちょっと時間あるかな? 少しお話したいんだけど……」

「あぁ、構わないぞ」

「うん、ありがと」

 あゆは祐一の隣にまで移動し、しかし座ることなく上を見上げた。

 そこには外部確認用の小さな窓が取り付けられており、そこから見える風景は……黒い大海原に散りばめられた星々だ。

 それを見上げながら、あゆはポツリと呟く。

「ねぇ、祐一くん」

「なんだ?」

「ボクたち……これからエアと戦うことになるんだね」

 納得した。

 そう、祐一にとってエアが故郷であるように……あゆにとってもまたエアは故郷なのだ。

「あぁ、そうだ」

 だが事実は変わらない。そう頷くことしか祐一にはできない。

 あゆは……もしかしたら少し躊躇があるのだろうか。あるいは気負いがあるのだろうか。

 その表情は、……どこか悲しそうなようにも見える。

「あはは、ごめんね。わかりきったこと聞いてるね」

「……あゆ。躊躇や気負いがあるなら別に無理して戦闘に参加する必要はないんだぞ?」

 けれどあゆは首を横に振る。その口元を苦笑として、

「ううん、違う。そういうんじゃないんだ。……ただ、ね」

「……ただ?」

「うん。ただ……ちょっと、寂しいなぁ、って思ってさ」

「寂しい……?」

「うん。……あそこは、あの国はボクたちが生まれた場所で、ボクたちが短い間でも住んでいた場所で、そしてボクたちが追い出された場所でしょ。

 そこの国の人とさ、別の国として戦うことになるなんて……なんかちょっと複雑だね。

 もう復讐をしようとか、恨みをぶつけようとか、そういう気持ちはとっくに無くなって……。でも結局戦うことに変わりはないんだなぁ、と思って」

「……」

「でも、仕方ないよね。エアが全種族共存なんて認めないって……ボクたちが身を持ってわかってたことなんだし。

 この道を貫く以上いつかは通る道だっていうのもわかってたけどさ。……それでも、やっぱりボクは寂しいよ。

 周りの人たちがボクたちにしたこととは別に、どうしたってボクたちはエア生まれだもんね」

 あはは、と苦笑するあゆを見て、わかった。

 先程感じた躊躇いでも気負いでもないわずかな感覚……。あれはあゆの言うとおり、小さな寂しさなのかもしれない。

 周囲の連中の冷たい視線、冷たい言葉。それを憎く思い、恨んだ気持ちはまだ残っている。それはあゆも同じだろう。

 だがあゆはそれはもうないと言った。……それは完全に消えた、というわけではなく以前ほど強く感じない、というだけなのだろう。少なくともそれで身体を突き動かされるような強い衝動はないはずだ。

 それがありながらあゆは言った。寂しい、と。

 それは周囲の神族たちの反応などではなく、自分たちが生まれた国、エアに対して戦うということなのだろう。

 自らが生まれた国に対し、なにか特別な感情を抱くのは誰にでもあることのはずだ。

 おそらくクラナドと戦っているはずの杏も、似たような心境ではないだろうか。

 ――俺にも、そんな感情があったんだな。

 馬鹿みたいだが、新しい自己の発見だった。そういったことを思うことの出来る感情が、まだ残っていようとは。

「ね、祐一くん」

「なんだ?」

「勝とうね」

 強く、はっきりとあゆは言う。

「エアに勝とう。思いっきり勝って、そして見せ付けようよ。全種族共存国の強さをさ」

「……あゆ」

「そうして、エアもさ、少しずつでも良いからそれを見て、教えて……全種族共存国家にさせちゃおうよ。

 ……もうボクたちみたいなのが出ないように、エアをさ、変えちゃおうよ」

 ね、と同意を求めてくるあゆの瞳はただ真っ直ぐで。

 素直に、純粋に、エアがそうなっていくことを望んでいる。そんな眼だ。

 ――良い目だな。

 もう、いつも後ろを着いて回ってきていたあの泣き虫で臆病なあゆじゃない。

 戦いを潜り抜け、身体的に……そして精神的に強くなった、前を目指そうとする戦士の目をしている。

 最も共にいたであろう存在。その成長と力強さを確認し、祐一は頷いた。

「あぁ、そうだな。そうしよう」

「うん。だから頑張ろうね、祐一くん!」

「あぁ、約束だ」

「……うん、約束」

 幼少時代。まだエアにいた頃。

 何も知らずただ無邪気に遊んでいたあのとき。

 その頃のように、二人は小さな指切りを交わした。

 

 

 

 日が、昇る。

 夜が開け、新しい一日が始まる合図の光が連峰越しに輝いた。

「そろそろか」

 それを見た祐一は、そろそろエアが動くであろうと予想した。

 夜中に進軍して来なかったからには、タイミング的にはここしかないはずだ。

 クラナドとの侵攻タイミングをずらすにしても、あまり差をつけてはそれこそ意味がない。その効力を発揮する限界ギリギリの時間がいまだ。

 それを肯定するように、少し慌てた様子で兵が陣へ入ってくる。一度敬礼し、

「報告いたします! エア軍、進軍を開始した模様!」

「わかった。お前も配置に戻れ」

「はっ!」

「いよいよだな……」

 退出する兵を一瞥し、祐一は傍に立てかけてあった剣を手に取った。

 腰に装着し、陣を出る。すると、目の前には整列を完成させた部隊が目の前に広がっており、祐一はその光景に頷きを見せつつ剣を抜いた。

 それを空高く掲げれば、刀身が朝日に反射し輝きを放つ。そうして一息の後、祐一は剣を振り下ろし、

「――カノン軍、進軍せよ! エアを王都に近付かせるな!!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 

 

 

 カノン軍は陣を出て、アゼナ連峰寄りにわずかに進軍。エアが来るのを待っていた。

 そうしてしばらくが経ち、

「来たぞ!」

 誰かの言葉。それに従うように連峰の上空……朝日を背に無数の黒点が浮かび上がる。

 最初は十程度。しかしそのまま見ていればそれは徐々に五十になり百になり、そして五百になり千へなり、徐々に朝日を埋め尽くしていく。

「多い……」

「……なんて数だ」

「飲み込まれるな! 兵力はエアの方が上回っていることなど最初からわかっていたことだろう!」

 動揺を見せる兵士たちに、祐一は一喝する。

 数の違いは戦術的にも、精神的にも大きい。多い側は安心を、少ない側は恐怖を思うだろう。

 だが、祐一はそんなことを恐れない。そもそも……自分たちの方が数が上での戦闘など未だかつて一度も無いのだから。

 とはいえ、だからと油断する気は無い。相手はキー大陸最大の国家だ。その兵力も十分な脅威となる。

 故に作戦もまた重要。祐一は胸元から連絡水晶を五つ取り出し、その全てに魔力を込めた。

「――声は伝わる――」

 発光する連絡水晶。それを確認し、祐一は言葉を掛ける。

「こちら、総指揮相沢祐一だ。各部隊長、聞こえるか?」

『騎士団臨時隊長、水瀬名雪。聞こえてるよー』

『空撃部隊長、芳野さくら。こっちもOKだよ〜』

『魔術師団長、倉田佐祐理。聞こえています』

『弓兵部隊長、倉木鈴菜。うん、聞こえてる』

『遊撃部隊長、時雨亜沙。ばっちり聞こえてまーす』

「よし。作戦は昨夜取り決めた通り行う。隊列編成は前衛から順に騎士団、魔術師団、弓兵部隊とする」

『『『了解』』』

「空撃部隊は空中から、遊撃部隊は随時臨機応変に行動」

『りょうか〜い』『まっかせてー』

「いいか。相手の出方はおおよそ見当が付く。

 空中移動できることを利用して立体的な隊列を組んでくるだろう。おそらく、超上空を行く部隊と、匍匐飛行してくる部隊があるはずだ」

『匍匐部隊が地上にいる佐祐理たちと戦闘。その隙に超上空部隊はそのまま戦場を突っ切って一気に王都カノンへ……ですね』

「佐祐理の言うとおりだ。だがそれを許すわけにはいかない。まずは、佐祐理の超遠距離魔術で先制攻撃を仕掛ける」

『御意』

「ここで相手の布陣が崩れれば良し。……だが相手はエアだ。おそらくすぐに立て直すだろう。

 以降は、騎士団、魔術師団で匍匐飛行部隊を攻撃、足止めし、空撃部隊と弓兵部隊で超上空の敵を叩く。良いな?」

『『『『了解』』』』

「相手の出方次第では作戦の変更も考えられる。各隊長は連絡水晶にいつでも出れるようにしておけ」

『『『『『了解』』』』』

「では、佐祐理。頼む」

『はっ』

 掌に乗せた連絡水晶から輝きが消える。それを胸元にしまい、祐一は連峰の方へ視線を向けた。

 先程まで黒点にしか見えなかったものが、いまやそれが人であるとはっきりとわかるところにまで近付いてきている。

 いよいよ始まる。

 そう思いエア軍を直視していた祐一の頭上をいま、強烈な魔術の閃光が通り過ぎた。

 

 

 

 エア部隊はグエインTからアゼナ連峰までは徒歩で進軍した。

 いくら翼があり飛んだ方が速いとはいえ、延々と飛んでいられるわけではない。体力的な問題を考慮してだ。

 アゼナ連峰に辿りついた時点で飛行開始、順次隊列を維持したまま前進していく。

 四千近いエア軍が空を舞う。その光景はさながら空を襲う津波のようだった。

「さて――」

 アゼナ連峰を越えればおそらくカノンと接触、戦闘となるだろう。

「国崎くん。作戦の手筈は把握しているね?」

「わかってる。アゼナ連峰を越え、カノンとの戦闘が開始されたと同時に俺は戦列を抜ける、だろう?」

 返事に聖は翼をはためかせつつ、

「上出来だ」

 国崎往人は今回の作戦の要だ。それが失敗すれば、こちらも共倒れで心配するだろう。 

 だが、聖は往人を信頼している。この男ならしっかりと成すべき事を成すはずだ、と。

「そろそろアゼナ連峰を越える。第二部隊は国崎くんが抜けた後は第二師団の指揮下に。その他の部隊も隊列編成を開始せよ」 

 聖の指揮の下、エアの部隊が空中で編成を組んでいく。

 というのも、敵の使い魔がどこで見ているかわからない以上、地上進軍時に編成を組むわけにはいかなかったからだ。

 だが、ここまで来れば接触までおよそ数分。万一ここでこちらの狙いに気付いたとしても部隊の編成や隊列の変更をしている余裕は無いだろう。

「見えてきたな……」

 連なる山々の景色が途切れ、風景が変わる。空気も変わった。

 エアとはまるで違う、肌にひんやりと来る冷たい空気。数日以内に雪でも降ったのか、大地にはそこそこに雪の跡が見て取れた。

 その更に向こう。そこにいま、これから戦う敵がいる。

 地上。白い大地と対比するかのように黒の塊が均等に配置されている。……カノン軍だ。

 こちらを待ち構えている。場所的にも予想通りだ。

「編成完了次第隊列変形開始! その後カノンとの戦闘に――」

 入る、という言葉はしかし紡がれなかった。

 視界の中になにか光るものが見えた。それがなに、とわかるより早く本能がまずい、と告げた。

「――回避!!」

 咄嗟の一言。考える暇すらなく出した言葉に従うように自ら翼を大きくはためかせ、回避運動を取る。

 すぐ後ろにいた隊長クラス他、勘の良い者はすぐさま聖の言葉に従った。

 しかし声が届かなかった者、聖の言葉の真意を汲み取れずにいた者がいる。それらはただ首を傾げ――、

「「「!?」」」

 突如飛来した超魔術級の一撃に飲み込まれていった。

「ぐっ……!? あんな場所からだと!?」

「おい聖、部隊の編成中で防御もなにもしてないんだぞ!? 直撃組は……!」

 往人に言われずともわかる。いま超魔術を直撃した者たちは間違いなく一撃死だったはずだ。

「くっ……」

 迂闊だった。まさかこれほどの距離から……超距離魔術を放てる者がいようとは。

 気配感知にはそれほど鋭いわけではないので大雑把な計算になるが……いまのでざっと百数十は持っていかれただろう。

「各部隊、結界の詠唱をしつつ全速前進! 距離が開いていれば一方的にやられるぞ!」

 聖の指示によりエア兵士たちがそれぞれ詠唱の開始をしつつ、全速力でカノンとの距離を詰めようとする。

 だがそれは相対距離を詰めることになり、つまりは――魔術の到達速度も上げる結果になる。

「詠唱が早い……!? 第二派、来るぞ!」

 だが聖の言葉に反応するするより先にその中央を光速の雷が薙ぎ払う。

 込められた魔力も半端じゃないようで、数十人が結界を張ろうがそんなもの無視して突き進んでいった。

 ……速度特化の雷属性魔術による超長距離魔術。反則も良いところだ。

 カノン軍との距離、術者の詠唱速度を考えればもう一発来るか来ないかということろ。

「……仕方ない! フォーメーション分離! 作戦を実行に移す!」

「で、でもお姉ちゃん! いまここでフォーメーション変更なんてしたら防御ができなくて――」

「一つに纏まっていては良い的だ! 防御しても意味ないほどの威力なら、防御を捨てて運に任せろ!」

「……っ、りょ、了解!」

「聖!」

「何をしている国崎くん! 君も早く作戦に移れ!」

「だが……」

「距離さえ詰めればどうにでもなる! だから早く! 君が早くしてくれればこちらの生存率も上がる!」

「ちっ……わかった!」

 高速飛行の中、戦列を抜ける往人を一瞥し、聖は前を見る。

 かなり近くなってきたカノン軍を直下に見下ろし、

「あまり調子に乗るなよカノン! 戦いはこれからだ!」

 

 

 

「『天罰の神雷道(ジャッジメント・ゼロ)』!」

 三度、強烈な閃光が空を染め上げた。

 部隊の隊列を変更しようとしていたエア軍をあざ笑うかのようにその中央を消し飛ばしていく。

 良い調子だ、と祐一は思う。接触する前に三発もの超魔術を撃てたのはかなり美味しい。

 これで千弱は減ったはずだ。相手の初期規模はおよそ四千程度のはずだから、これでざっと三千。それに対しこちらはおよそ千強。

 兵力比では依然エア側優勢だが、兵の質を考えれば三倍程度の数どうにかなると祐一は確信している。

 いける。そう思い――だが、相手の動きに祐一は眉を傾げた。

「……なに?」

 なんとエアが二つではなく三つにその部隊を分けているのだ。

 祐一の予想通り、地上戦力と戦う匍匐飛行部隊、カノンへ直行しようとする超上空部隊。だが、予想外の部隊がもう一つ……その二つの部隊の中間に挟まるようにして展開した部隊がある。

「――なるほど、そういうことか!」

 理解した。

 あれは――壁だ。超上空部隊へ攻撃を通さないための、言うなれば防御部隊。

 それを肯定するように、その部隊の兵士たちは皆攻撃をしようとせず結界を張ったまま前進している。

「ちっ!」

 作戦で一枚上を行かれた。祐一はすぐさま連絡水晶を取り出し作戦変更を伝える。

「相手はここでの戦闘をほぼ捨てる形で王都へ侵攻するつもりだ! なんとしてでも食い止める!

 魔術師部隊は中間の部隊――防御部隊を迎撃! できそうならそいつらごと超上空部隊を攻撃! 匍匐飛行部隊は騎士団で抑える!」

『水瀬名雪、任せてよ!』

『倉田佐祐理、了解です!』

「空撃部隊は超上空部隊を最優先で討つ! 弓兵部隊は後退しつつ超上空、防御部隊の討ち洩らしを撃破!」

『芳野さくら、りょーかい!』

『倉木鈴菜、了解!』

「遊撃部隊はそれぞれの部隊の消耗率を視野に入れつつ即時臨機応変に!」

『時雨亜沙、了解!』

「よし、俺も騎士団に参加し匍匐飛行部隊を討つ! 以上だ!」

 返事すら聞かず連絡水晶を切り、剣を抜きつつ祐一は地を蹴った。

 既に先頭の部隊では戦闘が開始されている。後方でも魔術の撃ち合いが始まった。

 本格的な戦闘の幕開けだ。

「おぉぉぉぉ!」

 翼を利用して超低空飛行から攻撃してくる神族。その特性上神族の兵は剣ではなく槍が標準装備だ。あゆが槍を使用しているのもこれと同じ理由だが。

 そうしてこちらを突き刺さんとする空からの攻撃を回避し、そのまま剣で切れ伏す。

 基本的に神族の身体能力は魔族よりも劣る。一般兵程度に祐一がやられるはずもない。

 しかし――、

「!」

 直感のままに剣を掲げれば、甲高い音と衝撃が剣を打撃した。

「くっ……!? 視認できないほどの剣筋……、これは!?」

 横を見る。いつの間に回りこんできたのか、そこには今回のエア部隊唯一飛行能力を持たない少女がいた。

 優雅な佇まいをいながらも独特の気配を醸し出す、居合いを得手とする少女。その姿は二度目であり、

「……お久しぶり、とでも言いましょうか。相沢祐一さん。……いえ、カノン王」

「第四部隊長……遠野美凪、か」

 厄介な相手だ、と正直に思う。

 しかも今回は前回のようにはいかないらしい。

「……気付かれたようですね。そう……今回は前回のようにはいきません」

 腰に携えられた二本の刀。その柄端には、遠野家の家紋が刻み込まれており――、

「……聖剣『冥ノ剣』。以前のように、そう安々と壊れはしませんよ……?」

「そのようだな」

 美凪が柄に手を掛ける。祐一は剣を構え、魔力を練り上げ始めた。

 怒号響き合う戦場の中、そこだけ切り取ったかのような静寂に身を包んだ二人は、

「「――!」」

 同時に一撃を繰り出した。

 

 

 

 あとがき

 ども、神無月です。

 さて、今度はエアとの戦闘です。今回は集団戦闘っぽさをアピールしようかと思っていますが……どうでしょかね?

 クラナドとのときよりも長くなる予想ですので、お付き合いください。

 では、また。

 

 

 

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