神魔戦記 第六十三章

               「理想郷を目指して(前編)」

 

 

 

 

 

 そして命運を握る日がやってきた。

「……柄にもなく緊張しているな、俺は」

 王室。あまり着慣れない礼装というものに身を包んだ祐一は居心地悪そうに襟を構う。

「喉も渇いてきた……」

「少し意外です。陛下は緊張などというものには縁のないものばかりと思っていました」

 言うのは隣、鏡の前で着付けされている有紀寧だ。ちなみに着付けは美咲が行っている。

「戦いではそんなことはないがな。こんなことには慣れてない。逆にお前たちは随分と平気そうだな?」

 お前たち、という言葉に有紀寧だけでなく奥で既に着付けを完了させて座っていた観鈴も視線を合わせる。

「うん、まぁこういうのは昔からよくやってきたから……」

「特にクラナドはエアとはしょっちゅうでしたしね」

「にはは」

 二人視線を合わせ微笑みあう。もともと友好だった二国の王女だ。こういう場に互いに居合わせたこともさぞ多いことだろう。

「ですが、わたしたちも多かれ少なかれ緊張していますよ?」

「とてもそうは見えんがな」

「そんなことないよ、祐くん。

 ……わたしたちにとってはシャッフルやエターナル・アセリアと言えば表面上はともかく実質的には敵対国みたいなものだったから」

 なるほど、そう言われてみてば確かにそうだろう。

 以前から異種族の共存を掲げていた両国は、それこそ神族こそ、魔族こそ、人間族こそ頂点と思い込んでいる国からすれば敵も同然。

 とはいえ、

「ま、いまはもう同じ目標を持つ国だ。そしてお前たちはその国の王妃なんだ。敵じゃない。気にするな」

「わかってます。だからそれほど緊張してないんですよ?」

 言外に、それでも緊張しているのはそっちだろう、と言われたような感覚。

 ただニコニコ笑っている有紀寧からは、それがわかっていながらの発言なのかどうかは識別できない。

 ――有紀寧はこれで頭が回るからな。

 もしかしたら皮肉かもしれない。少し悔しい気がしないでもない祐一だった。

「でしたら、ご主人様。少し気分転換に歩いてこられてはいかがです? まだもう少し着付けにも時間掛かりますし」

 と、美咲。

「そんなに時間掛かるのか?」

「そうですね。ざっと十分から十五分といったところでしょうか」

「……まだそんなにあるのか」

「女性の身支度は時間が掛かるものなのですよ、ご主人様」

 そう言われてしまえば返す言葉もない。元貴族の美咲が言うからにはそうなのだろう。

「それじゃあ、しばらく散歩でもしてくる」

「あまり遅くならないでくださいね陛下」

「わかってる」

 有紀寧に言葉を返し、祐一は部屋を出た。

「ふぅ……」

 寒い空気に当てられ、思わず吐息。

 これだけでも少し張り詰めていたものが抜けたような気がする。

 だが、まだ時間もある。ここはさっき言ったとおりしばらくは歩いて回ることにしよう。

 

 

 

 壁ばかりの廊下をしばらく歩けば、外と触れる廊下へと出る。城としてはごくごく当たり前の造りだ。

 そうして手すりに身を預け空を見上げれば、

「……雪か」

 どおりで寒いはずだ、と祐一は頷いた。

 カノンはスノウ王国と並ぶ雪国だ。一年中寒い気候に覆われている。

 それも仕方ない。山々に覆われ他国と空気が循環しないこともあるが、それよりもマナが一番の起因になっている。

 カノンには“水の神(アーティマ)”の正教会が、スノウには氷の神(ザイファ)”の正教会があることからわかるように、この二国のマナはそっち寄りだ。寒いのも仕方ないだろう。

「それを考えると香里も不便だろうな」

 火の聖騎士である香里は、大気にある火のマナを使用する。つまり火のマナが薄いカノンにいる限り彼女は本領を発揮でないのだ。

火の神(ガヴェウス)”の正教会がある王国ビックバン・エイジ、あるいは温暖な気候のエア、ウォーターサマーあたりではそれこそ無類の強さを発揮できるだろうに。

「って、なにを考えているんだろうな、俺は」

 どうにも一人で思考に埋没すると考えるのは戦いのことばかりだ。魔族は野蛮だ、などと言われても仕方ないのかもしれない。

「あれ、陛下……?」

「ん?」

 不意な声に振り返る。そこにいたのは――、

「栞か。なんだ、お前が城に来るなんて珍しいな。どうした?」

 美坂栞。

 あのころに比べれば随分と大人っぽくなったように見受けられる。たった二ヶ月で外見がどう変わるわけでもないのだが……おそらく雰囲気のせいだろう。

 いまも“水の神(アーティマ)”の修道衣を着込んではいるが、以前よりもずっと威厳のようなものを感じられる。

 そんな栞は一度会釈を寄越し、

「はい。少しお姉ちゃ――あ、じゃなくて姉さんにお話が」

「別に正さなくても良い。呼びやすいように呼べ。あと周囲の目がないときは陛下と呼ぶなと言っただろう?」

「ですが、陛下は陛下ですし……」

「そういう呼ばれ方はどうにも好きになれないんだ。一応弁えてるつもりだし、仕方ないときは仕方ないが……。

 それとも、人を助けたいと願う修道女が人の嫌がることを率先してするのか?」

 う、と栞の顔がわずかに下がる。そうして見上げる視線で、

「……祐一さん、意地悪です」

「……はぁ」

「ど、どうしてそこで溜め息なんですか?」

「いや、まぁあれだ」

 ポン、と祐一が栞の頭に手を乗せる。「え、え?」と少し顔を赤くする栞に対し、

「いまみたいな態度はあまり取るなよ。男に襲われても文句は言えないからな」

「そ、それってどういう意味でしょうか……?」

「言葉どおりの意味だ」

 納得できないんですが、と小声で呟いた栞は、しかし何かを思いついたように顔を上げ、

「でも、祐一さん。こんなところにいて良いんですか? そろそろ同盟会議の時間では……」

「あぁ、そろそろだな。だが、どうにも俺は少し緊張しているらしくてな。まだ有紀寧の着付けに時間が掛かるということで少し気分転換を、な」

「緊張? 祐一さんが?」

「……なんだその意外だと言わんばかりの言葉は」

「あ、いえ、すいません。でも、本当に意外で……。祐一さんはそういうのとは無縁の方かと……」

 嘆息一つ。祐一は自らの額に手を乗せ、

「お前も有紀寧と同じことを言うか。……俺だって慣れてないことには緊張もするぞ?」

「あ、あはは、すいません。イメージとして合わなかったもので……」

 苦笑を浮かべる栞。それを見つつ、今度は祐一が問いを放った。

「で、そっちは香里に話があるとかいうことだったが……どうした?」

「え、あ、はい。お姉ちゃんに以前頼まれていた王都内、また近郊の診療所の手伝いの件を了解してこようと思ったので」

「そうか、あの話か」

「え、祐一さん知ってるんですか?」

「あぁ、以前香里に進言されて俺が許可を出した。現状、このカノン王国で最高の治療魔術師は栞だからな。その栞が手伝ってくれれば診療所の者たちも助かるだろう、とな」

「そ、そんな私なんてまだ……」

 最高の治療魔術師、という名前に思わず俯く栞。

 照れもあるのだろうが、実際に自分はまだまだだと思っているのだろう。

 良いことだ、と祐一は思う。自分がまだまだだと思っていられるうちはまだ伸びるのだから。

「だが、栞は大変かもしれないな。自分の診療所もあるだろう?」

 栞は一ヶ月ほど前、自分の診療所を開いた。

 それは祐一の医療施設の細分化政策の一環ではあったが、そこの一つを栞に任せたのだ。

 それを栞は嬉々として受け入れ、いまでは王都カノンで誰もが認め集う憩いの空間にまでなっている。

 怪我だけでなく相談ごとでも訪れる者が多く、しかしそれを栞は嫌な顔一つせず対応している。おそらく魔族批判の減少はの一つには栞にも起因があったに違いない。

 だが、そうして人気になれば無論栞も忙しくなる。このところ城にも来れなかったようだから、それは推して測るべきだろう。

 しかし栞は首を横に振り、

「忙しくはありますが、私はいまとても楽しくて嬉しいんです。人の助けができること、人を支えることができること。だってそれは私の願いでしたから。

 それに、マリーシアちゃんも手伝ってくれてますし」

「マリーシアが?」

 意外な名に思わず聞き返してしまう。

「はい。あれ、知りませんでしたか?

 時々マリーシアちゃんが診療所手伝ってくれるんです。で、たまに歌ってくれたりもするんですが、この歌がまた好評で。

 いまじゃマリーシアちゃんの歌を聞きたいがために診療所に来る人までいるんですから」

「まぁ、……確かにあの歌ならな」

 思い出すのはアーフェンで聞いたあの清らかな歌声だ。

 確かにあれなら何度も聞きたいと思わせるだろう、と納得できる。祐一ですらもう一度聞きたいと思うのだから。

 と、 

「ここにおられましたか陛下」

 不意に届く男の声。 聞き違えるはずもないその声は、

「久瀬か。どうした?」

「どうした、ではありません。今しがた王国エターナル・アセリアの方々がご到着されました。お先に会議室へお通ししておきましたが……」

「なに?」

 思わず時計を見やるが、まだ予定の時刻より随分と早い。

「……とはいえ、来てしまったものは仕方ない、か。久瀬、会議室に通したからにはそっちの準備はできていたんだな?」

「無論でございます」

「よし、わかった。なら俺は有紀寧たちと共に会議室へ向かうことにする。久瀬は引き続きシャッフルに対する迎えを」

「御意」

「さて、栞。引き止めて悪かったな」

「いえ、祐一さんの気分転換になれたのなら」

 そういえばいつの間にか緊張感がなくなっている。まぁ、扉の前に立てばまた再発するのだろうが、それでも、

「あぁ、ありがとう。だいぶ気が楽になった」

 そう言い残して、祐一はその場を後にした。

「頑張ってくださいね」

 これからのカノンを想い、栞はその背中にエールを送った。

 そうして去っていく祐一から視線を逸らし……、

「……え?」

 栞は、奇妙なものを見た。

 前には久瀬隆之がいる。その隆之は去っていった祐一を見ていた。それは良い。自分もそうして見送ったのだから。

 けれど、ならば――その瞳に宿る冷たい光はなんなのだろう。

 その瞳を……栞はどこかで――、

「あ」

 思い出す。それは、

 ――初めて祐一さんと会ったときの、あの冷たい眼差し……。

 スッと、隆之の視線が外れ栞へと向く。すると、

「!」

 あのときと同じ、心臓を握られたような圧迫感に襲われた。

 ……だが、それも一瞬。

「失礼」

 頭をわずかに垂らし、外套を翻して隆之もまた背中を向け立ち去っていった。

「は……あぁ……」

 思わず息が漏れる。よほど力を張っていたのか、壁に寄っ掛かる形になった。

 それにしてもあの眼。いったいどういうことなのか。

 祐一の腹心とまで言われている隆之が、なぜその祐一にあんな眼を向けるのか。

「祐一さん……」

 嫌な予感がする。

 栞はこの予感がただの杞憂で終わることを祈るばかりだった。

 

 

 

 有紀寧と観鈴、そして美咲を引き連れて祐一は会議室に入室する。

 内装はこの日のために侍女たちよってに整えられている。普段あまり寄り付かない場所のせいか、なんとなく気後れのようなものを感じた。

 ……いや、それとも単純に心の持ちようだろうか?

 そっちの方が比重が大きいかもな、と思いつつ視線を巡らす。

 長大なテーブルの最奥、そこに座る少女がいる。

 街で見かけるような服装をした、一見普通の少女だ。が、この場において、誰よりも気品が高くまた凛々しいイメージを受けるその少女。

 眼が合う。すると少女は立ち上がり、

「はじめまして、カノン王。この度は同盟会談へお呼びいただき、真に嬉しく思います」

 一礼。そして顔を上げ、

「改めて。私が王国エターナル・アセリア女王、レスティーナ=ダィ=ラキオスです」

「こちらこそ、こうして出会えたことを光栄に思います。レスティーナ女王」

 にこりと微笑むレスティーナ。その笑みは、やはり有紀寧などにも通じる人の上に立つ者の笑みだった。

 王国エターナル・アセリア女王、レスティーナ=ダィ=ラキオス。

 先代の王が亡くなってからというもの、それまでの圧政を解除し、スピリットやその他の種族との共存を掲げた張本人。

 その芯の強さ、気高さ、こうして正面に立つだけで伝わってくるようだ。

 一国を背負う者の雰囲気とでもいおうか。それはあのときの宗采にも通ずるものがあった。

 そんなレスティーナを見つつ、祐一は小さく頭を垂らし、

「まずは、そのような格好で来させることになってしまったこと、心から謝罪申し上げる」

 レスティーナの格好は、どう考えても王国関係の者が身に着けるようなものではない。

 だが、これには理由があった。

 カノン王国も王国エターナル・アセリアも現在は隣国との関係はよろしくない。シャッフルも二国ほどではないにしろ似たようなものだ。

 だから、ここで公に同盟会議などと表明してしまえば、ここを襲われるかもしれないし、またこれを機とばかりに王族が国を離れるエターナル・アセリアとシャッフルを攻めるかもしれない。

 故に今回の同盟会議は秘密裏に行われることになった。三国でも同盟会議があるのを知っているのは王族と、ごく少数の軍の人間だけだ。国民すら知らない。

 そしてそれを悟られぬよう、エターナル・アセリアとシャッフルの者は、民間人のように変装をしてカノンへ来ることになっていた。

 一国の女王として、このような扱いは屈辱的だろう……と思っていたのだが、予想に反してレスティーナは笑みを解かずに、

「いえ、実は日頃からこのように変装して城下に下りたりしていたのです。今日はまたその延長線上の旅行のように感じていたので、楽しかったですよ」

 気遣いの笑み、という感じではない。本当に心の底から楽しんでいたような、そんな笑みだ。

 どうやら随分と規格違いな女王のようだ。風の噂で民にとても好かれている女王だ、とは聞いていたが、なんとなく理解できた気がする。

「あ、そうです。紹介しておきましょう」

 言って、レスティーナはわずかに視線を後ろに向ける。

 そこには、レスティーナ同様やはり一般人のような格好をした三人の少女がいる。だが……違う。

 容姿は普通だが、気配が人間のそれではない。これは……、

「スピリット?」

「はい。右から順に、セリア=ブルースピリット、ハリオン=グリーンスピリット、ヘリオン=ブラックスピリットです」

 三人が前に出て、頭を下げる。だが、その動作一つからして三人はバラバラであった。

 まず一番右、スッと頭を下げすぐに頭を起こした青い髪の少女がこちらを値踏みするような視線で、

「セリア=ブルースピリットです。……よろしく」

 良い目だ、と祐一は評価する。こちらを伺うような、試すような視線。

 そこには侮蔑などの感情は一切なく、純粋にこちらを『見定めている』という瞳。冷静に判断しそうな雰囲気も悪くない。

 こと国同士の取り決めなどにおいて、一人こういった者がいるのといないのとでは結果も大きく変わってくるだろう。

 そして真ん中。一人だけ時間軸がずれているのではないかと思えるほどのゆっくりとした動作で頭を下げた緑の髪をした少女は、それこそ太陽のような朗らかな笑みを携えて、

「ハリオン=グリーンスピリットです〜。どうぞ、よろしくお願いします〜」

 のんびりとしているが、傍にいる者を安心させるような……どこか栞に近い雰囲気を持つ少女だ。

 そして最後、一番左の黒髪の少女は慌てた動作で頭を下げ、あたふたしながらこちらを見上げ、

「え、えと……へ、ヘリオン=ブラックスピリットです! はじめましてよろしくお願い申し上げましゅ!」

 言葉が噛み合ってない上に最後舌を噛んだようだ。「あぅ〜」と涙目になる様は、どことなく頼りない。

 人見知りをするのか、単に気弱なのか。どちらにしろ人と話すのは苦手そうだ。

 だが、一生懸命なんだ、ということはわかる。そういう部分もなんとかしたい、なんとかしようと奮闘しているのだろうというの雰囲気で伝わってくる。

 三者三様、そんな彼女たちを見て、祐一は一言。

「面白い人たちですな」

 それをどう受け取ったのか、セリアは表情を変えず、ハリオンは手を合わせて微笑み、ヘリオンは顔を赤くして俯いた。

 そんな三人を眺めつつ笑みを浮かべるレスティーナが向き直り、

「こう見えても、腕は確かです。護衛として、今回は同行してもらいました」

「なるほど」

 もちろん王ないし女王一人での遠征などあるまじき行為だろう。護衛がいるのはむしろ当然だし、祐一もこの三人がそれなりに強いのは見た瞬間にわかっていた。

 特に一番左、このヘリオンというブラックスピリット。いまでこそこの三人の中で一番弱いが、おそらく素質としては他の二人を大きく越えている。

 楽しみな存在だ、と思いつつ祐一はレスティーナに着席を促した。

 着席するレスティーナに合わせ、祐一もその対面に座る。観鈴と有紀寧がその両隣に着席した。美咲は祐一の後ろに控えている。

 祐一は自分含め皆の紹介をとりあえず終える。

 と、着席したレスティーナはそこで何かに気付いたように、あ、と声を上げ、

「すいません。指定の時間より随分と早く来てしまって……。予定も狂ってしまわれたのではないですか?」

「いえ、準備は基本的に昨日中に終えてありましたから。ただ少し……」

「少し?」

「心の準備、というものが」

 レスティーナは一瞬唖然とし、次いで耐えられないというように小さく笑いだした。レスティーナは緩む口を抑えながら、

「す、すいません。ちょっと意外だったので……。風に聞くカノン王の噂は、もっと雄々しく威厳がありしかし優しく民を思いやる王だと聞いていたので。戦場にも自ら出陣なされる方が、心の準備、というのがなんとなく……」

 失礼な物言いだと思ったのか、少し顔を俯かせるレスティーナ。だが祐一はそれに頷き、

「戦闘などで緊張することなんかないんですがね。どうにも、こういう場は初めてなものですから。こうしているいまも、正直息苦しい」

 会議で言う言葉じゃないな、と思いつつ、祐一。下手な相手ならここで激怒するのだろうが、レスティーナはただ笑い、

「なるほど」

 と頷いた。

 ……この会話を傍から見ていた美咲は、正直驚いていた。

 初見、レスティーナは祐一とは対称的なイメージを受けた美咲だが、しばらくの会話を見てそのイメージは上書きされた。

 確かに雰囲気は違う。だがその根本的な部分は、むしろ似ているのではないか……と美咲は感じたのだ。

 と、そこへノックが響いてきた。扉が開き入ってきたのは久瀬隆之だ。隆之は頭を垂らしながら祐一を見上げ、

「失礼します。シャッフル王国の方々がご到着されました。お通ししても?」

「あぁ、頼む」

 御意、と隆之が下がっていく。そして数秒、扉からやはりレスティーナたちのように一般人のような服装をした者たちが入室してきた。

 四人。先頭に青年と言って良い歳の者が一人、そしてその後ろに少女が三人連れ添っている。

 先頭の青年が祐一と、そしてレスティーナを等分に見渡し、

「はじめまして、相沢王、レスティーナ女王。俺はシャッフル王国の王をしている、土見稟。よろしく」

 気さくな物言いだ。最初にこんな言い方をされれば普通なら怒りを覚えるのだろうが、そんなことに反応する祐一やレスティーナではない。

 稟はそれがわかっていたかのように笑みを浮かべながら、

「これから種族共存を目指し同盟を組むんだ。堅苦しい話し方とかは無しの方向で行きたい。……良いかな?」

 ――むしろこちらが気遣われていますね。

 そう美咲は判断する。

 国力で考えれば三国で最もシャッフルが強大。故にこの同盟会議でもシャッフルの存在感は否が応でも強くなる。

 その国の王である稟がこう言えば祐一やレスティーナも気分が楽だろう。最も敵に回したくない相手がそう言ってくれたのだから。

 だから祐一とレスティーナも力を抜き、

「では、敬語はなしで行こう。レスティーナ女王もそれで良いか?」

「別に構いませんよ。これから肩を揃えて先に進もう、という同志なのですから」

 レスティーナは敬語のままだが、それでも言葉の中にあった『他人行儀さ』が抜けているように感じた。

 そんな二人に稟は、そうしてくれると助かる、と笑みを浮かべた。

「あぁ、そうだ。とりあえず紹介しておこう。こっちが俺の后」

「土見ネリネです。どうぞよろしくお願いします」

 腰まで届こうかという青い髪を揺らして会釈するネリネ。無駄のない動作は、まさしく王家のものだろう。

「本当は他にシア―――リシアンサスと楓っていう后がいるんだが、今日は都合が悪くて連れて来れなかった。

 で、こっちの二人はシャッフル軍のメンバー、時雨亜沙さんにカレハ先輩」

 向かって右側、活発そうな印象を受けるショートカットの時雨亜沙と呼ばれた少女が盛大にため息を吐き、

「……稟ちゃん。前から言ってるけど、稟ちゃんは王様なんだからボクのことは『さん』付けしなくて良いって何度も……」

「だったら亜沙さんこそ『ちゃん』付けやめてくださいよ。俺は一応亜沙さんの言う王様なんですけどね?」

「むー……」

「まぁまぁ、二人とも。その辺にしておかないと、二国の方々に呆れられてしまいますわよ?」

 仲裁に入ったのは左側にいたカレハと呼ばれた少女だ。腰まで靡く金色のウェーブの髪が眩しい。王家の者だ、と言っても通じるほどの気品も感じられる。

「あ、……ははは。ご、ごめんなさい〜」

 亜沙が苦笑いのまま祐一やレスティーナを伺う。だが、二人とも面白そうにその光景を眺めているだけだった。

 ――えーと。

 美咲は、思わず思考してしまう。

 ――国の将来を左右する同盟会議がこんなに和やかで良いんでしょうか……?

 いや、厳かな雰囲気を期待していたわけでも望んでいたわけでもないが、それにしてもこの空気はそんな場には不釣合いだろう。

 それでも、まぁ、

「こういうのも、良いですよね」

 こんな会議も、悪くない。

 そう思えるものが、ここにはあった。

 

 

 

 あとがき

 はい、神無月です。

 長くなってしまったので分割させていただきました(またか……

 まー……良いよね?(ぇ

 こうして予定話数を超えていくわけですねー。うーん、困った。

 では、また。

 

 

 

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