神魔戦記 第百七十八章

                         「炎の舞」

 

 

 

 

 

 白亜の人形群が勢いを持って突撃を開始する。

 迎え撃つ浩平たちは迫りくる人形を破壊しつつ、しかしその場から一歩も動けなくなっていた。

「くそ、なんて数だ……!」

「落ち着いてください浩平。……まぁ確かにうんざりするほどの数ではありますが」

 人形一体一体の力は大したものではない。そこらの兵と大きな差はないだろう。強いて言えば若干硬いというところだが、その程度ここにいる五人には差にさえならない。

 だが、何より問題なのはその圧倒的なまでの数と、人にはない完全に統率された動きだった。

 どれだけ訓練をしようとも、数万規模の部隊の動きは鈍い。即座の反転など出来ようはずもないし、陣形戦術は出来ても戦闘自体は各々の判断となるのは当然だろう。

 しかしこの人形たちはそれさえやってしまうのだ。一体の攻撃がさばかれれば即座に左右の人形がカバーをし、一体の人形が破壊されてもその隙を突くように死角から攻めてくる。

「これが“群”の人形遣い、か」

 数万規模の人形を、これほど細かく操作してのける技術。四大人形遣いの名はやはり伊達ではない。

 迫りくる軍勢を水で払いのけた茜は、遥か距離を置いてジッとこっちを見据えているアリスを見て、呻く。

「厄介ですね。あまり相性の良い者がここにはいない……」

 人形遣いにしろ魔物使いにしろ、何かを統制し制御する者を相手にした場合のセオリーは、無論操り主を倒すことだ。

 が、それは当人もわかっていることであり、何かしらの対策を取るのは当然である。そしてアリスの取った対策はとても単純。距離を置いて回避に専念することだ。

 もちろん、それも本来であれば難しい。自意識を持つ魔物ならともかく、人形の場合は自我がない分操作に集中力を必要とする。

 そのような状況で、常に相手を警戒したうえ、あらゆる攻撃を回避してのけるなど至難の業だ。

 だがそれをやってのけてこそのダ・カーポ六戦将にして四大人形遣いである。その回避力たるや、浩之の放った銃撃さえ容易くかわしてのけるほどだ。

 とはいえ浩之の銃『紫貫』は元来長距離射撃には向いていない。距離が延びればその分威力も速度も落ちるため、技術力云々以前に無理があるのは確かだ。

 となると、このメンバーの中でアリスに有効な攻撃が出来そうな者は浩平かリリスしかいない。

 浩平なら人形群を存在解除で突破して一気にアリスに近付けるだろうし、リリスならばそもそもこの距離からの長距離狙撃が可能だ。

 だが……そのどちらも予想外に難しかった。

「今度こそ!」

 浩平は自らの存在を解除しマナとなる。誰に見えるはずもなく、また気配も散漫となって普通の相手ならば気付かれずに近付くのは容易……の、はずなのだが、

「……そこですね」

 アリスは浩平の接近を事前に察知し、速やかに大きく距離を取った。アリスの移動速度は浩平のそれを遥かに上回っているため、追いつくことはないだろう。

「くそ、どうして気付かれる!?」

 元の姿に戻った浩平の呟きに答えたのは、アリスの元同僚である明日美だった。

「……多分、魔力リンクだと思います」

「魔力リンクって……使い魔や人形を操る時に使う魔力のパスのことだよな?」

「はい。イメージ的には魔力によって作られた目に見えぬ糸です」

「それがどう関係する?」

「普通の人形遣いなら問題にならないでしょう。でもアリスさんは“群”の人形遣い。操る人形が千や万になるということは、同時にアリスさんの魔力リンクも千や万あるということです」

 そして魔力というのはその特性上、他者の魔力に遮られればそこを通り抜けることは出来ない。相手の体内に攻撃出来ないことと同じことだ。

 いかに存在を薄くしようと、そして目に見えずとも、浩平のマナは確かにそこに存在している。

 魔力リンクに触れれば、わずかとはいえアリスの魔力パスは減衰するだろう。即ち、減衰するリンクが多いところに浩平がいるとアリスは感知出来るのだ。

 故に、人形を展開しそのための魔力リンクを四方八方に敷き詰めたアリスは、その範囲内においてあらゆる敵の察知を可能とするのである。

「……ってことは何か。接近しなくちゃ倒せないのに、そもそも俺じゃ接近出来んというわけか」

「すいません。そういえば以前、気配遮断能力を持っている人でさえ感知出来ると聞いたことがあります……。もっと早く思い出していれば……」

 気配を完全に遮断できるといったところで、そこにその人物がいることに間違いない。魔力リンクに触れれば遮られてしまうのだから感知も容易だ。

 アリスの能力における副次的な効果とも言えるが、戦闘中の彼女に対する奇襲強襲は無意味であると言えよう。

「となると……やっぱここはリリスに任せるしかなさそうだな」

 接近が不可能ということならば、接近せずに攻撃すれば良い。長距離の狙撃が可能であるリリスならば、と浩平は視線を送るが、当のリリス本人はどこか悔しげな表情を浮かべながら首を横に振った。

「……駄目、当たらない」

 リリスは先程から近寄る人形たちの迎撃を茜たちに任せ、スナイプモードにしたクラウ・ソラスでアリスを狙っていたのだが、

「……『必中』の軌跡が見えない。どう撃っても、必ずかわされてしまう」

「マジかよ……」

 リリスの『必中の魔眼』は必ず当たる軌跡を見出す魔眼だ。それは事象変化ではなく事象予測であり、この魔眼は未来視系統に分類される。

 つまり浩之と戦ったときのように相手の回避力がリリスの手腕より遥かに高く『どうあっても当たらない』場合には、その軌跡は魔眼には映し出されない。

 そんなことが起こらないようにと浩之たちの下で研鑽を積んだリリスだからこそ、この結果には悔しいのだろう。

 だがむしろ驚嘆すべきはアリスの回避能力か。

「アリスさんの回避能力はダ・カーポでも随一でした。攻撃を当てたいなら人形の包囲網を一瞬で掻い潜って詰め寄るだけのスピードか、あるいは人形もろともアリスさんを攻撃できるだけの破壊力と射程のある技を使うか、それともアリスさんが思いもよらぬ奇策を使うかしかないかと」

「このメンバーじゃどれも無理だな……」

 リリスと浩平は既にアウト。明日美は戦力としてはさほど能力は高くないし、浩之は近〜中距離がメインだ。

 もしも雨でも降っていれば、茜の能力で人形ごと一網打尽に出来るだろうが、空は憎たらしいほど雲一つない。つまりは浩平の言う通りこのメンバーでは詰みだ。

「誰か他のやつが来るまで耐えるしかない、ということか」

「面倒だけどそうするしかなさそうだ。やれるか浩之?」

「耐えるだけなら問題ない。一時間でも二時間でもな。この程度の人形にやられるようじゃ、トゥ・ハート三強なんて言われないさ」

「頼もしいことで。そんじゃまぁ、持久戦と行きますかね」

「持久戦?」

 それを聞いたアリスがクスリと笑った。明日美が見たこともないような、嘲るような笑みと共に見下ろし、

「そんなことが出来ると……思っているの?」

 瞬間、空を新たな白亜の軍勢が埋め尽くした。

「おいおい、マジかよ……」

 新たに出現したアリスの人形、その数十万。先の人形と合算すれば実に  という数だ。

 どれだけ一つ一つが大した力を持っていないとしても、純粋な物量というのはそれだけで脅威だ。

 あの柾木良和でさえこの人形の数を持って『鬼の衣』を突破されたほどなのだから。

「持久戦などありはしない。あなたたちはここで私の人形が蹂躙する」

 スッと片手をあげる。周囲一帯を包囲する白亜の人形たちが揃って攻撃体勢を示し、

「……あの人のために、死ね」

 腕を振り下ろすと同時、軍勢が一気に殺到した。

「ちっ……! 茜、水を全部防御に回せ!」

「わかりました」

「浩之は南、俺が北、リリスが東を担当! 明日美もなるべく西を対処してくれ!」

「おう!」

「了解」

「が、頑張ります!」

 迫り来る数十万の軍勢に五人が決死の覚悟を決めた――まさにその瞬間。

 

 唐突に、包囲の一角が叩き潰された。

 

「なっ――」

 その絶句はアリスか、あるいは他の誰かか。

 密集していた人形たちは突如空から何かに叩きつけられたかのように押し潰され、バキバキという破砕音と共に砕け消えていく。

 その威力は絶大で、浩平たちから見て南側の人形が根こそぎ消えてなくなるほどのものだった。

「はは……」

 誰もが驚き、人形でさえ動きを止める中、浩平だけが小さく笑った。

 何故なら彼はこの『技』を知っている。その操り主が誰であるかもすぐに理解した。故に、笑うしかなかった。

「ホント、良いタイミングだぜお前」

「だったら良かったわ。帰ってきたらいきなりこんなんだし、あたしも状況わかんなくて迷ったんだけど……ま、結果オーライってことで」

 浩平の言葉に応じたのは少女の声。

 その声の方向に皆が視線を向けると、建物の屋上の縁に立つ一人の騎士がいた。

 青の髪を二つに結い、カノンの騎士甲冑に身を包む少女。そして彼女が肩に担いでいる大剣は――聖剣『地ノ剣』。

 なるほど、と茜が頷き、そしてリリスは懐かしい顔に笑みを携えた。

「……あなたは、何者ですか」

 警戒して問うアリスに対し、騎士たる少女は毅然と告げた。

「聖剣『地ノ剣』を継承した五大剣士・七瀬の末裔にしてカノン王国騎士団長――七瀬留美」

 本家から正式に受け継いだ聖剣『地ノ剣』の切っ先を向け、

「あなたがカノンの敵ならばあたしにとってもあなたは敵よ。カノンの騎士として、あたしが相手をしてあげる」

 絶対の自信と大いなる覇気を持って、宣戦布告する。

 

 

 

「あ、あ……!」

 さやかの目の前で、大好きな蒼司が血塗れで崩れ落ちていく。

 受身も取れてない、足から崩れる倒れ方だ。そこに彼の意識はもはやない。

 まさか、という不安がジワジワと身体を蝕んでいく。身体が冷え、逆に瞳が熱くなり、たださやかは叫んだ。

「蒼司くん! 蒼司くん!!」

 しかし動かない。

「お願い、返事してよ蒼司くん!!」

 何度呼びかけても、彼は血の海に沈んだまま返事をしてくれない。

「や……やだよ、蒼司くん……こんなの、やだぁ……!」

 すぐに駆けつけてその身体を抱き起こしたい。大丈夫なんだと確かめたい。

 けれど身体は動かない。さやかもまた相当の出血をしてるのだ。身体の冷えは不安というのもあるが、純粋に血が流れすぎたということでもある。

 それを証明するかのように、瞼も重くなり意識も消えかかってきていた。

 ここまで精神力でどうにか持たせていたが、彼女の支えたる蒼司が倒れたいま、もはや意識が落ちるのも時間の問題だろう。

 そんな彼女たちを見下しながら、惨状を生み出した少女はケタケタと大笑いしていた。

「あは……あはは、アハハハハハハ! 良い! 良いわぁこの光景! あの『白河の魔女』が女々しく泣き喚いてるじゃない! 最高! アハハハ!」

「あ、あんたってやつはぁぁぁぁ!!」

 ついに耐え切れなくなり、美絵が一気に小夜へ詰め寄る。だが、

「何よ、あたしのこの喜びに水を差さないでくれる?」

 小夜から放たれた熱線が無情にも美絵の四肢を焼き貫いた。

「うあぁ!?」

「みっちゃん!?」

 足を撃たれつまづいた美絵の頭を、近付いた小夜が上から踏みつける。

「ぐっ……!」

「雑魚は雑魚らしくそうやって地べたを這いつくばってなさいよ。あんたにあたしがどうにか出来ると思ってるの?」

「殺す……あんただけは殺してやる……!」

「やれるものならどうぞご自由に。でもこの状況でそんなこと吼えるんだもの、何されたって文句言えないってことも理解してる?」

 口元を歪め、小夜がスッと手を掲げる。『不通』が再度手を覆い、そしてすぐさま熱線が放たれる。

「ぐ、あ、うああああ!?」

 頬、耳、指、足、腰……致命傷にならない箇所を敢えて選んで熱線で突き刺していく。

 四肢を穿たれ、踏みつけられたままの美絵に回避の手段などあるはずもなく、ただただその攻撃に曝され続けるしかない。

 そんな光景をただ見せ続けられたさやかの精神は既に限界に達していた。

「もう……もうやめて……お願いだから……」

 萌に裏切られ、蒼司がなぶり殺されるのをただ見ていることしか出来ず、いまも美絵が苦しむ声を聞いているだけしか出来ない。

 何も出来ない。どうにもならない。その絶望が、さやかの屈強な精神を瓦解させた。

「ふぅん。お願い……ね」

「がはっ!」

 足元の美絵を蹴り飛ばし、小夜は緩慢な動作でさやかへと近付いていく。

「うっ……!」

 そのまま屈み込んだ小夜はさやかの綺麗な黒髪を無造作に掴むと引っ張り上げ、苦痛に顔を歪めるさやかを歪んだ笑みで見つめた。

「じゃああんたがそこの女を殺しなさい。そうすれば愛しの蒼司くんは助けてあげる」

「なっ……」

「気配探知も出来ないほど衰弱しちゃってる? 彼、まだ生きてるわよ。そういう風に攻撃したもの」

 蒼司がまだ生きている。その事実に一瞬安堵したが、

「ま、もう殺すつもりだけど」

「待って!」

「良いわよ? それが嫌ならそこに転がってる女をあんたが自分の手で殺しなさい。それが出来れば蒼司くんは助けてあげる」

「そんなこと、出来るわけ――!」

「あ、そう」

 小夜が『貫焔の夜』を発動する。後方へ捻じ曲がった数条の熱線は意識を失っている蒼司の身体を的確に貫いた。

 もはや身動きも取れぬ蒼司の身体が攻撃にさらされるたびにビクビクと揺れる。

 それはあまりに残酷な光景だった。

「やめて!!」

「だから止めてあげても良いって言ってるでしょう? あなたにはその選択肢をちゃんと用意してあげてるじゃない」

 蒼司か、美絵か。自分で選べと小夜は言う。

 選べるわけがない。さやかにとって蒼司は大事な恋人であり、美絵は大事な親友なのだから。

 しかしここで何もしなければ蒼司も、そして美絵も死んでしまう。さやかも死ぬだろう。

 ……ならばせめて、この手に友を掛けることになろうとも、一人助かる道を選ぶべきではないか……?

「……」

「さぁどうするのかしら『白河の魔女』? もう返事は待たないわ。選びなさい」

 どす黒く歪んだ瞳に見据えられ……さやかは、大きく息を吐くと、告げた。

「……蒼司くんは絶対に助ける」

「ふぅん。じゃああの女を殺すのね? アハハ、やっぱ友達より恋人か。まぁそれが女よね。ならほら、連れてってあげるからトドメを刺しなさい」

「勘違いしないで」

「?」

 起こしかけた腰が止まる。怪訝な表情を浮かべる小夜に対し、さやかは――どこまでも強固な視線で、

「みっちゃんだって絶対に助ける。……私も、私の心も、そして二人も、あんたなんかの好きにはさせてやらない」

「へぇ」

 射竦めそうな視線に、しかし小夜は薄く笑うのみだ。

 しかし無理もない。既にさやかに小夜をどうにか出来るだけの力はない。蒼司も美絵も、この場にいる人間の命は小夜の些事加減一つでどうとでもなる。

 何を恐れる必要があるだろうか。小夜は立ち上がると、なおこちらを毅然と睨むさやかを見下ろし、

「だったらお望みどおり殺してあげるわ。愛しの彼と親友をあなたの目の前でね。その後あなたも後を追わせてあげるから感謝なさい。それじゃあ――サヨナラ」

 小夜が漆黒の『不通』に覆われた両手を広げながらいよいよトドメを刺そうとする……が、小夜は不意に足元に違和感を覚えた。

 倒れ伏すさやかを見る視界の隅、いつの間にか小さな水溜りがあった。先程まではこんなものはなかったはずだ。ならばこれは……?

 と、訝しんだ瞬間だった。

 突如水が盛り上がったかと思えば、それは人間の腕を形成し襲いかかって来た。

「新手か。面白い芸当だけど……それで一体何が出来ると?」

 小夜の反応は的確だった。

 迫る腕を『遮鏡の夜』で弾き、カウンターのように熱線を叩き込まんとする。だがそこで小夜にとって予想外の展開が起きる。

「なっ――!?」

 打ち払うことは成功したが、同時に『不通』の闇もかき消された。

 その驚きに身を固めている間に、水溜りはまるで生きているかのように立ちのぼり、見る間に人の形を成していく。

 それは水色の修道着の少女だった。一見戦闘には向いてないようなタイプに見えるが、培ってきた経験と勘が小夜に危険信号を告げる。

(擬態、あるいは物質変化? ともあれただの人間に出来る芸当じゃないわね……)

 それに感じるこの気配。つまりは、

「魔族……しかも四大魔貴族の上位種ってところかしら!」

 さすがは全種族共存などを謳うカノンといったところか。小夜は舌打ちしつつバックステップで距離を取る。

 どういう理屈かはわからないが、あの手に触れられると結界を無効化されてしまうようだ。ならば、

「距離を取って串刺しにしてあげれば良いだけよ」

 追いすがろうとする少女に対し『貫焔の夜』を放とうとして、

「!」

 小夜は更なる気配を察知して上を振り仰いだ。

 空から、巨大な真紅の焔が落ちてくる。

「ちぃ……!」

 小夜の『遮鏡の夜』は掌を覆う程度しかないため、大規模攻撃を防ぐのは困難だ。やむなく小夜は更に大きく後方へと飛び退いた。

 眼前、地面へと突き刺さった炎は巨大な爆発を巻き起こすと、あれだけ吹き荒れていた炎が嘘のように消えていく。

 その爆心地の中央には一人の少女が立っていた。ウェーブのかかった髪を撫で上げ、火の粉を払うように剣を振るう。

 その少女の隣に、先程の魔族の少女もまた並んだ。

「折角の良いところで邪魔をしてくれるわね。あんたたち何者?」

 小夜の問いに、騎士甲冑を着込んだ火の少女が告げた。

「美坂香里」

 そして隣に立つ修道着の少女もまた告げる。

「美坂栞」

 それは火と水、人と魔、聖騎士と吸血鬼の姉妹が再びカノンの地に揃って並んだ瞬間だった。

 

 

 香里は敵である水瀬小夜を見据えたまま、隣の栞に小さく問いかける。

「栞。あなた本当に動けるの?」

「いまの私は水さえあればいくらでも再生出来るから大丈夫。むしろお姉ちゃんこそ本当に平気なの? 怪我はともかく、かなり無理してたのに」

「カノンがこんな連中に好きに踏み荒らされることを考えれば、このくらいどうってことないわよ」

「そっか……そうだね。それじゃあお姉ちゃん」

「ええ。あいつはあたしがやる。栞は皆の治療を」

 コクリと栞は頷くとスッと右手を掲げた。その瞬間、無詠唱魔術によって水が溢れ、それぞれが栞の姿へ変形させていく。

 水による分身だ。三人の栞はそのまま速やかに散り、それぞれさやか、蒼司、美絵の元へと駆け寄っていき、

「これから治療します。少々違和感があるかもしれませんが、我慢してくださいね」

 言うや、そっと両手を広げ、

「『聖なる母の水陽(フェネティリア・マテリアル)』」

 治療魔術を発動する。

 水属性最高の治療魔術だが、吸血鬼として魔力量も底上げされた栞の術はその回復速度を大いに向上させていた。

 だが逆にあまりに早すぎる回復は傷付いた肉体に違和感をもたらす。意識を失っている蒼司たちはともかく、さやかは感じる違和感に眉を顰めた。

 しかしその間にも見る間に三人の怪我は回復していく。このスピードなら三分と待たずに全快するだろう。

 だが、それを水瀬小夜が黙って見ているはずがない。

「吸血鬼でありながら水属性魔術? なかなか希有なやつもいたもんだけど、そう好き勝手させてたまるもんですか!」

「そうはさせないわ。あなたの相手はあたしよ」

「ハッ! お呼びじゃないのよ人間風情が!」

 小夜は両手それぞれに『不通』を展開し『貫焔の夜』を発動。数十条の熱線が四方八方へ迸り、

「――力は捻じ曲がる――」

 呪いによって角度を捻じ曲げた熱線は香里の脇を潜り抜け、さやかたち三人へ殺到する。熱線の威力は最大、栞さえ貫く強力な攻撃だ。

「栞!」

「っ……!」

 小夜は知らぬことだが、栞自身は『貫焔の夜』に突き刺されたところでなんら問題はない。

 水化して攻撃をいなすことも出来るし、仮に肉体のまま直撃したとしてもすぐに再生できる。

 だが栞にこれらを防ぐ術はない。栞を貫通してさやかたちへ襲いかかる熱線をどうこう出来る手段はないのだ。

 これが巨大な攻撃数発であれば、栞の水化の能力で無効化も出来ただろう。だが数が多い上に速い。とても栞じゃ全て処理しきれる数ではなかった。

 しかしその熱線は、

遮鏡の夜

 突如出現した『不通』の結界によって、全て遮られた。

「なっ――」

 これには小夜も思わず絶句する。

 小夜の『貫焔の夜』はその貫通性から水瀬の『不通』さえ容易く突破する。故にこそ水瀬でありながら水瀬の天敵とさえ言われているのだ。

 その小夜の攻撃を『遮鏡の夜』で防ぎ得る人物など……小夜は一人しか知らない。

 弾かれるように視線を向けた先、民家の屋根に立つ、小夜にとってあまりに見知った顔の少女がそこにいた。

 結界を構築するためだろう右手を向けながら、悲しそうな顔で見下ろす少女。その名は――水瀬伊月。

「伊月……? どうしてあんたがカノンにいるわけ……?」

 小夜は知らない。伊月がさやかたちと共にカノンに来ていたことを。

 もしも良和がカノンにちとせがいたことを皆に教えていれば推察も出来ただろうが、宏のことを考え良和はそれを口にしなかったのだ。

 また、ウォーターサマー側の些事も全て部下に投げ打っていた小夜は伊月が消えていたなどという連絡も受けておらず、まさに驚愕に見舞われていた。

 しかしそれも長くは続かない。数秒の間にさやかたちがカノンに来ていたことと伊月の関連性に答えを出したのだろう。今度は燃えるような怒りの視線で伊月を見上げる。

「そう、伊月……。あんた、ウォーターサマーを、あたしを裏切るのね」

「……」

「確かに伊月とあたしは考えも性格も違ったし、いろいろ喧嘩もしてたけどさ……最終的にはあたしの味方だとずっと思ってた。そう思ってたのはあたしだけ?」

「……私もそう思ってた。思いたかったよ。でも小夜ちゃん……きっともう、無理だと思う。小夜ちゃんは、もう私にとって届かないところへ行ってしまった」

 沈痛な面持ちで告げる伊月に対し、小夜は逆にその表情から感情を失くしていった。

 はぁ、と小さく嘆息すると小夜はつまらなそうな視線で、

「……あ、そう。これまでは姉だからと思って意志を尊重してたけど。そう来るんならもう話は別。伊月――あんたもここで死んでしまえば良い」

「――!」

 あまりもあっさりとした物言いに伊月の肩が震える。だが予想もしていたのか、すぐに震えを抑え、伊月は普段の彼女らしからぬ強い瞳で見返す。

 その瞳は、絶対に退かないと暗に告げていた。

 その反応はやや意外だったのか逆に小夜が目を見開くが、それも一瞬。彼女はすぐにこの場を離脱しようと踵を返した。

 小夜では伊月の『不通』を突破出来ない。しかも数分後にはさやかたちまで完治する。そうなっては小夜に勝ち目などあろうはずはない。

 小夜は自身の能力を過剰評価したりはしない。自分の力に自信は持っているが、それを良和のように慢心したりしない冷静さも合わせ持っていた。

 故に撤退する。良和や水夏たちと合流後に全員皆殺しにすれば良い。そう思い退こうとする小夜を、しかし遮るようにして一人の少女が立ち塞がった。

 美坂香里である。

「カノンで好き勝手やってくれた相手をそう簡単に逃がすと思ってるのかしら」

「だったらどうするって言うの?」

「決まってる」

 香里が剣の切っ先を小夜に向け、告げた。

「あなたに後悔させてあげるわ。この国に手を出した事を」

 小夜は目を見開き、

「……く、くく……あは、あはははははは!」

 腹を抱えて笑い出した。目尻に涙を浮かべるほど笑い、そして侮蔑の表情で香里を見る。

「それ、本気で言ってるのだとしたら面白い冗談だわ。あんた既にボロボロじゃない。そんな状態であたしに勝てると、本気で思ってるつもり?」

 香里は未だシズクで栞と戦った時のダメージが抜けきっていない。

 見た目こそ自己再生で完治しているように見えるが、神の力を扱った反動で魔力系統がボロボロだ。とても満足に力を行使出来る状態ではない。

 が、香里の返答はただ一言。

「ええ」

 即答だった。

 まるで揺るがぬ視線。その事実に疑いの余地など一切ないと言わんばかりの発言だった。

 これはさすがに笑えないのか。小夜はピタリと嘲笑を止め、睨みつける。

「……身の程知らずもここまで来ると哀れね。もう逃げても許しはしないわよ」

「そんな遠慮は結構。そもそもカノンにおいてあたしが逃げるなんてありえない。何故なら――」

 しっかりと足を踏みしめ、香里は射抜くように小夜を見据え真っ直ぐ地を蹴った。

「それがあたしの使命だもの」

「そう。じゃあ――」

 一直線に向かってくる香里に対し、小夜が両手を掲げる。左右の手を『不通』の闇が包みだし、そして、

「この国共々滅んでしまえッ!」

 数十条もの熱線が突き奔った。それらは各方面へ散らばるが、

「――力は捻じ曲がる――」

 呪いが告げられ、一斉に方向転換すると超高速の熱線が香里へと殺到した。

「蜂の巣になるのね!」

 かわす間もなくそれらは香里を射抜き――血が舞った。

 

「……え?」 

 

 その光景を、疑った。

 どうして。何故、と。考えもしなかったことに一瞬思考が止まりかけるが……灼熱の痛みに意識が引きずり戻された。

「なんでよ……!」

 叫ぶ。

「なんで……無傷なのよぉぉぉ!?」

 吼えたのは小夜。血飛沫が舞っているのは切断された彼女の左手から。

 血走らせた目で見る正面、そこには剣を振り抜いた姿勢の香里がいる。そして彼女は……まったくの無傷だった。

 ありえない。なんせ小夜の『貫焔の夜』は間違いなく香里に命中していたはずなのだ。ならば何故傷一つないのだろうか。

「バカね」

 香里が口元を釣り上げて笑った。

 答えは、至って単純である。

「あたしは美坂香里。カノンに仕える炎の聖騎士よ?」

 ハッとする小夜。彼女も気付いたのだ。その事実に。

「そのあたしに、炎の攻撃が通用するとでも思っているの?」

 そう。

 聖騎士にはそれぞれの属性神の加護があり、司る属性の攻撃はいかなる威力であろうと無効化するのである。

 たとえそれが自然発生であろうと魔力により作り出されたものであろうと……そして、何がしかで加工されたものであろうとも、それ自体が属性に分類されるものであればその結果はもたらされる。

 どれだけ『不通』の闇を利用し威力を向上したところで、元が『火』である以上香里に通用するはずがないのだ。

「あなたのことは水瀬伊月に聞いてある」

 香里が、剣を持つ手を切り返す。

「生憎だけど、あなたじゃあたしには絶対に勝てないわ」

「なっ、あ……!?」 

 再び剣が振るわれる。小夜が条件的反射的な動作で後ろに下がったおかげで直撃は免れたが、その一撃は小夜の身を確かに裂いた。

「ぐっ!?」

「逃がさない!」

 再度振るわれる攻撃を残った手の『遮鏡の夜』で弾き返す。だがそれも長くは続かないだろう。

 いかに香里が万全でないとはいえ、肉体自体は自己再生によって既に完治している。ただの剣技であれば、いまの香里でも十全に行うことが出来る。

 対し、小夜は攻撃手段を一つしか持たない。その一つが効かないいま、彼女に出来るのは防御か逃亡の二つだけだが、そもそも退却しようとしたところを香里に遮られた状況であるため、後方には伊月やさやか、栞たちがいるのだ。下がれば下がるだけ、不利になるのは自明の理だった。

 追い詰められたことで、普段は冷静な思考がグチャグチャになっていく。そしてその憎悪は裏切った姉である伊月へ向けられる。

「伊月ぃぃぃぃぃぃ!!」

「それだけのことをしでかしたのよ、あなたは!」

 目を見開く。既に香里がすぐそこまで迫っていた。

「クソ……! クソ!」

 速度的に距離を取るのは間に合わない。だから迎撃に転じる。だが無論小夜の攻撃は香里には通じない。

 既に小夜は冷静な判断力を失っていた。彼女の頭にあるのはただ怒りと憎悪のみ。

「クッソォォォォォォォ!!」

 小夜の手からこれまで以上の『貫焔の夜』が放たれる。だがそれらを突き破り香里は肉薄して、

「おおおおお!」

 剣に炎が灯り、そして一閃! 残ったもう一方の手が切り裂かれ宙を舞う。

「がぁ……!?」

 弾ける痛みに、それでも小夜は諦めず大きく距離を取ろうとした。だがそれが悪手であったとすぐに悟る。

「第五の魔宝――」

 ギチリ、と空気が硬化する。肌が痺れるほどの魔力の波動に、振り向く余裕さえなく、

「――ゲイ・ボルグ!!」

 赤き魔槍が小夜の心臓を刺し貫いた。

「が、は……」

 顔だけで後ろを見れば、既に全快したのだろうさやかたちが立ち上がっているのが見て取れる。

 もはや勝敗は決した。

 前方に炎の聖騎士。後方に白河の魔女。両腕を断たれ、心臓を貫かれた小夜にもはや挽回の余地などありはしない。

「小夜ちゃん!」

 その小夜に、伊月の声が届く。

「いまならまだ治療も間に合うわ……。だからお願い、皆にこれまでのこと謝って! そしてまたここから、ここから一緒にやり直しましょう!」

 蒼司や美絵が怒りにも似た視線で伊月を見るが、さやかが二人の肩を叩いてそれを制する。栞や香里も様子を見るように動きを止めていた。

「小夜ちゃん! お願いだから……!」

 必死な姉の叫びに小夜は、

「く、ククク……どこまでも甘いよね、伊月は」

 小さく笑って振り返り、伊月を真正面から見返し、言う。

「あたしは水瀬小夜。魔族七大名家、水瀬の一員。例えこの場で果てるとしても自分の道を、行ってきた全てを投げ打ってまで生きたいなんて思わない」

「どうして……!?」

「それがあたしのプライド、矜持なのよ。あたしは強者。強者には強者の生き方と死に方ってものがある! 命乞い? 反省? ハッ、ありえないわ!」

 もはや無くなった腕を振り上げ、血を撒き散らしながら小夜は吼える。

「伊月! あんたも水瀬の一員であるのならそんな生易しい感情は捨てなさい! 自分で決めていまこの国に肩入れしているんでしょう!?

 ならその道を踏み外すな! 例え何があろうとも、自分の信念を貫きなさい!」

「小夜……ちゃん……」

「あたしは自分の道を行くわよ。最期の最期まで……この命が燃え尽きようともッ!!」

 ゴッ!! と小夜の周囲に拳大の『不通』が数多生み出されていく。

 本来小夜は両手を使わないと上手くコントロール出来ないが、その両腕がない上にこんな数を発現させたら魔力回路が焼き切れて遠からず自滅するだろう。

 だが小夜にはそうするだけの理由があった。

 無理はしない。勝てそうになければ死ぬ前に退く。

 相手が一人じゃ倒せぬ敵なら複数で戦うことに躊躇はしないし、そうでなければ奇策や罠なども存分に使う。卑怯だと言われようと構わない。

 小夜は常にそういうスタンスで生きてきたが、それは決して死ぬのが怖いからなどではなく、ただ合理的に戦ってきただけにすぎないのだ。

 何故なら彼女は戦うのが好きだから。戦い、勝利し、相手を下す愉悦を美酒とする戦の化身。魔族らしい魔族と言えるだろう。

 多くの戦いと勝利を手にするために生き長らえる。だが、死を前にしたとしてもなお自分の命に縋るような生き汚さはいらない。

 だから最期の最期まで自分らしく、抗って死ぬ。故にそこに彼女の敗北はない。

「さぁ殺せ……! 盛大に、激しく、より苛烈に! そうでなければ、地獄まで一緒に来てもらうことになるわよ!!」

 それからの彼女はまさに修羅だった。

 さやかの魔宝や栞の水化攻撃、香里の炎の剣技に蒼司や美絵の短剣の連撃を受けながらもなお反撃に転じ、死に物狂いで足掻き続けた。

 普段行使しないほどの魔力を操り、魔力回路は完全にショート、血管が切れ、肉体が断裂し、骨が軋み砕けながらもなお立ち上がり、壮絶なまでに戦い続けた。

 熱線を撒き散らしながら、獣のように吼え縦横無尽に駆け廻る様はまさに炎の舞を見ているかのようだ。

 気付けば、両腕が断たれてから小夜は十分以上も戦闘を繰り広げていた。

 だがそれも――もう終わる。

「ぐ……がはぁ!」

 口から盛大に血を吐きながら、満身創痍の小夜はそれでも膝を地につけなかった。

 両腕は無いままに、身体は血まみれのズタズタ、服などもはや全て切れ飛び、顔の半分も焼け焦げている。

 魔力回路もボロボロで、既に『不通』の行使は不可能になっていた。それでもなお戦意を失わない小夜に、むしろ対峙するさやかたちの精神が疲弊し始めていた。

「……どうしたの? もう終わり? あたしはまだこうして生きているわよ」

 息も切れ切れであるが、小夜の眼は確かにまだ強烈な光を灯していた。

「……あなたの考え方は決して相容れないものだけれど、その生き様だけは素直に称賛するわ」

 一歩を踏み出したのは香里だった。こちらも疲労で息を乱しているが、力強い一歩で小夜との距離を詰めていく。

「あなたに言葉は無用。……だからもう終わりにさせてもらうわよ」

「やれるものならやってみなさい」

 なお強気な台詞に香里は小さく苦笑し、そして大きく地を蹴った。

 地面を滑るようにして奔る香里に小夜は何も出来ず、しかし視線だけはまだ負けぬと見返し、

 

 灼熱の剣が小夜の身体を突き刺した。

 

「おおおおおお!」

「ああああああああ!!」

 身の内から迸る神の炎に、全てが焼かれていく。

 しかしそれでもなお倒れようとしない小夜は、近付く死の気配に恐怖を感じはしなかった。

 自分が興じた戦場で、命のやり取りなど当然であり、いずれ自分もこうなるだろうとどこかでは思っていたのだ。

 予想よりその到来は早かったが、だがまぁそれも仕方ないか、と破顔する。

「あたしの生涯に……反省も、後悔も、ない! あたしは生きたいように生きたもの! その果てがこの結果なら――全部受け止めてやるわ」

 言い放ち、炎で焼け焦げていく痛みを感じながらも小夜は視線を伊月へと転じた。

 泣いていた。あぁ、そうだ。伊月はいつだって優しくて泣き虫で、だからこそ自分が守ろうと思ったのだ。

 誰よりも強くなって。魔族だけの世界にしようと……。

 ……いや、違う。そうではない。そうではなかったはずだ。それにそもそも伊月を守ろうとしたとき自分は一人ではなかったはず。

 誰かと、約束をしたはずだ。共に伊月を守って、そして三人で一緒に誰にも邪魔されない幸せを築こうと――。

「……あ」

 するとその瞬間、何故か小夜の意識がクリアになった。激痛なども消え去り……不意に、鮮明な光景が駆け廻る。

「……思い、出した……」

 そうだ。何故こんな重要なことを忘れていたのだろう。

 伊月にとっても自分にとっても、それこそかけがえのないほど大切なモノだったはずなのに。

 小夜はゆっくりと腕を上げた。まるでそこに何かがあるかのように、それを掴むように。

 だがもはや肩から先の感覚がなかった。灰になって崩れたのか、燃え尽きたのか。

「い、伊月……」

 ならばせめて教えなくては。きっとまだ思い出していない姉に。このことを。

 だがもう意識が消えかける。命が……消えていく。

 ただ悲しい。折角思い出したのに、またそれが消えてしまうことが。

 だから最後の最後に、

「忘れ……な、ぜ……あい、つ……あたし、たち……の、大事、な……ひ、と……」

 ソレを告げて、

「……あ、き……ら」

 力尽きた。

 

 

 

 その光景を見届けた伊月はギュッと両手を握りしめた。

 結局、最後の最後まで相容れることは出来なかったが……しかし小夜のその強烈なまでの生き様は、伊月にとっても、否、この場にいる全員の心に何かしら残したことだろう。

 ――自分で選んだ道は、最後まで貫き通せ。

「……うん、そうだね小夜ちゃん」

 元はと言えば、ろくに自分の意思も言いだせぬ臆病な自分が姉であったことが切っ掛けだったのかもしれない、と伊月は思う。

 元気で、強く、いつもどこでも自分を貫き、誰であろうと自分の意思を明確に出来る小夜に頼りきってしまったのが間違いだったのだろう。

 強くならなければならない。戦闘がどう、とかではなく……妹の道を否定し、自らの道を押し通した、勝者として。姉として。

 だから、

「……ばいばい、小夜ちゃん。あなたの分も、私は生きて自分の成したいことを成していくよ」

 灰となって空へ舞っていく妹を、伊月は涙を振り払って見送った。

 

 

 

 あとがき

 どうもこんばんは、神無月です。

 年の瀬も近くなり、寒くなってきましたね〜。来年には三大陸編も終わらせたいなぁ……w

 さて、まずは対アリス戦。おそらく大半の方が忘れていたであろう人物、七瀬の登場です!

 聖剣を引き継いだ彼女がどれほど進化したか、お楽しみに。

 さて今回のメイン、対小夜戦。サブタイから美坂姉妹の援軍を既に予期されていた人もいましたねw まぁサブタイ自体は小夜を示す単語でしたが。

 小夜からすれば相性最悪の姉妹です。どっち相手にしたって攻撃通じませんからね……。秋子なら二人とも楽々倒せるのに。

 むしろ現状ほぼ無敵と化した栞相手にアドバンテージ取れる秋子。一定空間凍結破砕はやはり強いんですよね。まぁいまなら美咲でも似たようなこと出来ますが。

 んでもって小夜。彼女はこれまであまりいなかったタイプの敵です。弱者をいたぶるだけではなく、自分の道に絶対の自信を持っていた少女。

 やっていたことは月島や良和とあまり変わりませんが、その内面は大きく異なっておりました。ある意味、最も魔族らしい魔族と言えるかもしれませんね。

 ともあれ、これでウォーターサマー側の水瀬は壊滅。まぁまだ征木も稲葉も健在ですが、カノンからすれば大きな一歩でしょう。

 さて次回は今回冒頭で出てきた七瀬VSアリスの続きとなります。

 ではでは〜。

 

 

 

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