神魔戦記 第百七十二章

                         「惨状の証明」

 

 

 

 

 

 エルシオン他二隻はシズクから離脱し、その進路をキー大陸のクラナドへと向けていた。

 当初の予定では一度リーフのトゥ・ハート王国に寄った後、各国のメンバーを順々に送っていく手筈だったのだが、状況はそんな悠長なことを許さなかった。

「ウォーターサマー……か。報告では聞いていたが、このタイミングで攻めてくるなんてね」

 腕を組み、唸る綾香。臨時のトゥ・ハート代表となった彼女は観鈴が来てすぐにクラナドとの連絡を試みた。

 シズクを覆っていた謎の念波遮断結界のせいですぐには接続出来なかったが、シズクを少し離れた辺りでようやく通信が繋がった。

 現在エルシオンの艦橋、メインモニターにはクラナドで避難民の誘導など全てを統括している有紀寧が映し出されている。

『はい。完全に想定していなかったわけではないのですが……それでもダ・カーポを攻め落としてからこれだけの日数でこっちにまで攻めて来るとは』

「普通誰しもそう思うだろう。戦に勝てば終わりというわけではない。民のためにも戦後処理は必要不可欠だ。だが……」

「ウォーターサマーの目的はあくまでも邪魔な敵の殲滅。彼らにしてみれば、戦に勝てばそれで終わりってことだよ」

 ハクオロの言葉に答えたのは、そのウォーターサマー出身のさやかだ。彼女は肩をすくめながら、

「まぁ正確に言うなら彼らの狙いはことり王女と裏切り者の私たちがカノンにいたから、ってことでしょうけど。……でもその情報どこから漏れたのやら」

 いつかはわかることだろうとは思っていたが、今回の一件はあまりにも露見が早すぎる。

 おそらくはカノン内部にスパイがいたか、あるいはそうでなくてもウォーターサマーとつぶし合いをしてほしい第三勢力が情報を流したのか。その辺りだろう。

「ともあれ、カノンを落とされちゃったのなら奪還しないわけにはいかないよね。私にも責任はあるし。きっちり手伝わせてもらうよ」

「もちろん王都カノンは奪還する。陛下がいないいまだからこそ、あたしたちがしっかりしなければ」

 香里が決意を表すように剣を握る。未だシズクでの戦いの傷や疲れを引きずる者も多くいたが、カノンの者たちは皆が皆同様の顔で頷いた。

『祐一さん……』

 対して、モニターの有紀寧の表情は暗い。

 彼女からすれば、祐一行方不明という事実が何より重いのだろう。

 美汐やマリーシア、ヒミカといった連中が消息不明であるうえに頼みであった夫さえも行方が知れないのだから無理もない。

 しかしそんな有紀寧に対し、思わぬ人物が声を投げかける。

「大丈夫ですよ、王妃様」

『え、里村さん……?』

「確かに相沢陛下は消息が不明です。良い意味でも悪い意味でもあの人が中心だったカノンにとって、これは大きな歪みとなるでしょう」

 俯く有紀寧に、茜は「ですが」と続け、

「私は信じています。例え相沢陛下がいなくとも、それでもなおカノンの方々は立ち上がり戦うことを。もちろん我らワン自治領も、同盟国として協力を惜しみません」

『里村さん……』

「あれ、王である俺の意思は?」

「あなたとも何年の付き合いだと思っているのですか浩平。あなたなればこそ、この状況で放っておくはずがないでしょう。私は余計な時間は使わない主義です」

「はっはっ、俺ぁ優秀な外交官を持ったなー」

「ま、そういうわけですから、どうぞご安心を」

『――はい、ありがとうございます』

 茜と有紀寧のやり取りを横で見ていた綾香はポリポリと頬を掻きながら、瞼を閉じて溜め息を吐いた。

「本来ならこっちもいろいろと協力してあげたいところなんだけど……女王不在の上に戦力ガタ落ちだからねぇ」

『その心遣いだけで十分です、綾香様。そもそもエルシオン艦隊の進路をこちらに向けてくださっているだけでも感謝しなければなりませんのに』

「むしろそれくらいしか出来ないのが情けないとこだけどね」

 トゥ・ハートは女王である芹香が行方不明である上に、主力部隊の一員である長岡志保の戦死、加えて魔導人形の大量消費により六ヶ国では戦力の低下具合が最も顕著だ。

 綾香としてみれば、同盟国の危機には駆けつけたい――もちろんそれは今後の関係に関する打算も少なからずあるが――ところだが、さすがにこれでは動くに動けない。

 そしてそれは――、

「コミックパーティーもほぼ状況は同じ。ウタワレルモノが比較的被害は少ないけど、ここでウタワレルモノが出ちゃったらリーフががら空きになるわけで」

「シズク戦の最後に出てきたあのペンタグラムの一員と名乗った女の一件もある。リーフから戦力を失くすわけにも……な」

 アインナッシュを燃やし尽くした女、慧花。神奈が聞いたという彼女の目的からすればすぐさま何かをしてくるということもないだろうが、用心は必要だろう。

「自国優先であることは当然のことです。お気遣いだけ十分、ありがたく」

 香里はそう頭を下げると立ち上がり、有紀寧と、そして艦橋に集まるカノンの面々を一瞥して告げる。

「我々もシズクとの戦いで結構な被害を受けてる。各自クラナドに着くまで身体を休めておいて。そして戦えるだけの力が残っている者は準備も忘れずに。

 状況が状況だけに少数精鋭になるとは思うし、どういう構成で行くかはその時残ったメンバーで考えるけど……意志があるのなら、入念にね」

 シズクとの戦いで疲弊しているのはカノンとて同じだ。もちろんワンも。

 もしも自分の身体の状況を考慮して戦えないと判断するならば、それは正しい判断だろう。むしろ戦えない身体なのに戦おうとする者の方が多いと予想する。

 だからひとまずは休息を。エルシオン級ならばクラナドまでそう時間は掛からないが、それでもその間意識的に身体を休めることは体力回復に繋がるだろう。

 香里の意を汲んで、皆はそれぞれ艦橋から去っていく。自室に戻るなりなんなり、準備を整えるために。

「浩平。私たちも行きましょう」

「そうだな。それじゃあまた後で」

 浩平を筆頭にワンも艦橋を後にする。それに追従するように神奈もまた立ち上がった。

「今回我々は手を出さん。加勢は出来ぬが、邪魔もさせん。それで良いか?」

「それだけでも助かります」

「すまぬな。……泣き疲れて眠っておる観鈴にも後でそう伝えておいてくれ」

 艦橋の端、横長の椅子に身体を横にして眠っている観鈴に一度目を向け苦笑めいた笑みを浮かべると、外套を翻し神奈も去っていった。

 それを見送ってから、画面の有紀寧は香里に視線を向けた。

『観鈴さんは寝てしまっているのですか?』

「はい。こちらに来るまでずっと緊張していたのもあるのでしょう。事情を話し終えた途端に」

『そうですか……。でもそれも仕方ないことですよね。いまは寝かせておいてあげてください』

「それはわかりましたが……有紀寧様こそ少し身体を休まれてはいかがですか? 画面越しにもわかるほどに顔が青いですよ」

『ええ。もう少しこちらが落ちついたら休ませてもらいます』

 嘘だろう。責任感のある有紀寧のことだ。きっと自分たちがクラナドに到着するまであれこれと奔走するに違いない。

 国に仕える聖騎士としては戒めて意地でも休憩させたいところだが、有紀寧の性格を知っている香里はそれがすぐに無駄であると切り捨てた。

 自国の危機に加え祐一不在という状況で、あの有紀寧がまだ山のようにある残務を放り出して休憩などするわけがない。それこそ倒れるまで。

 であれば……、

「……せめて無茶はしないでください。すぐに我々もそちらに向かいます。その時に有紀寧様が倒れられていては士気にも影響しますからね」

 必要以上に追い詰めず、無茶をしたことで生じるリスクだけを提示する。きっと有紀寧にはこれが一番有効だと理解して。

『わかりました……。香里さんには敵いませんね』

「何のことやらわかりかねます」

『ふふ……。では、お待ちしていますね』

 通信が切れる。ふぅ、と息を吐く香里に対し、その場に残っていた綾香が苦笑交じりに声を向けた。

「王妃様もなかなかのやり手のようだけど……あなたも大したものね」

「ありがとうございます」

「あなたも身体、休めておきなさいよ。食べ物とか薬とか必要なら言って。こっちで全部用意するから」

「本当に、ご協力感謝します」

「ま、同じ聖騎士ってのもあるし。個人的にもあなたには頑張ってほしい。応援してるわ」

 立ち上がり近付いてきた綾香が手を差し出してくる。

 それを見て、香里は小さく微笑むとその手を握り返した。

 

 

 

 エルシオンの廊下を神奈は歩く。

 気配を探り、周囲に誰もいないことを確認してから後ろに追従する裏葉に視線を向けた。

「のう裏葉よ」

「何でしょうか神奈様」

「往人はどうしておる?」

「言わずもがな……ですわ」

「ま、そうであろうなぁ」

 確認しておいてなんだが、そうだろうとは思っていた。だがそれはあらゆる意味で都合が良い。

「貴族や民の目もあるゆえ、大々的にカノンの支援は出来ぬが……幹部の一人が暴走して突っ走ってしまうくらいは仕方あるまいな?」

「ええ、仕方ありません。何せ事が事ですからね」

「あぁ。ウォーターサマーの連中、事もあろうに観鈴を泣かせたからのう。それが大嫌いなカノンを助けることになるとか、そういうことももう頭にはあるまい」

 それはもはや呪いでもあるが、国崎往人にとって相沢観鈴という存在は何よりも重く、何よりも尊いものなのだ。

 その観鈴が涙を流し、悲しんでいた。それを見て国崎往人がジッとしていることなどありえない。

 彼は戦うだろう。例えそれがカノンの利になろうとも、観鈴を泣かせた相手をそのままにしておくほど彼は我慢強い男ではない。

「精々気をつけるがいい、ウォーターサマーよ。観鈴が絡んだ時の往人の力は、余であっても相手にはしとうないほど故にな」

 むしろ愉快気に口元を釣り上げ、神奈は再び歩き出した。

 

 

 

「ふぅ……」

 割り振られた自室に戻ると、香里はベッドに身を投げ出し大きく息を吐いた。

 気分を落ち着けたいところだが、頭は勝手にぐるぐると回りあれこれと思考が飛びまくる。

 無理もない。今日はいろいろありすぎた。

 シズクとの決戦。アインナッシュへの突撃。死徒となってしまった栞との激突。久しぶりの神化。どこかへ飛ばされてしまった陛下。自分のいないうちに落とされた王都。

 そしてこれからクラナドへ戻り、エーテル・ジャンプ装置を用いてカノンへ潜入、王都奪還のために戦う。

 ……未だに半日も経っていないというのに、もう一週間以上の時が過ぎたようにさえ感じる。

「悪いことは重なる……いや、現実なんて常にそんなものよね」

 連戦となるため、万全である者など一人とていない。シズクとの戦いは文字通り激戦であったのだ。むしろまだ戦える、と言える者の方が少ないに違いない。

 自分とて万全かと問われればもちろんノーだ。

 身体の傷は自己再生で治っているし、魔力を消費しない香里はその点も問題はないが、神化の反動が大きく残る。いま戦えば常の七割くらいの力しか出せないだろうな、と香里は客観的に計算する。

 しかし、だからと言って体力や皆の回復を待っている時間はない。

 クラナドという避難場所があったとはいえ、多くの民が自分の住処から離れるのを余儀なくされたうえに、クラナドも突然倍近い人間を支えていけるほど潤沢ではない。

 いまはまだ祐一やカノン軍の過去の実績があるから堪えていられるだろうが、時間が経てば不満が募り暴動へと発展しかねない。

 鎮圧は簡単だろうが、一度民心が離れてしまえばもはやその流れは止められなくなってしまうだろう。

 だからこそ早急にカノンを奪還しなくてはならない。祐一がいないいまだからこそ、その留守を預かることになった自分たちがしっかりとしなければと強く思う。

 ……それに、早くいけば行方不明となっている美汐たちだって救出出来るかもしれない。それが楽観的な観測だとは重々理解しているが。

 ――コンコン。

 渦巻いていた思考が、そのノックによって霧散する。

 あと数時間しかない自由時間で、わざわざ自分に会いにくる相手とは誰だろうか?

「どうぞ」

 入室を促すと、開いた扉から入ってきたのは予想外の人物だった。

「失礼するね、お姉ちゃん」

「栞……?! あなた、もう動いて大丈夫なの!?」

「うん。さすがは吸血鬼だね。動く分にはもう全然問題ないよ」

 どこか苦笑交じりに言う栞に、香里は一瞬言葉を失ってしまう。

「……そう」

「隣、良いかな?」

「え? えぇ、構わないわ」

 栞は微笑むと、宣言通り香里の横に腰を沈めた。二人分の重さにベッドがギシリと揺れる。

「……千堂さんから聞いた。祐一さんが行方不明で、そして王都がウォーターサマーに奪われたって」

「ええ。多大な犠牲を払ってようやくシズクとの戦いが終わったというのにね。息の休まる余裕もない」

「もちろんお姉ちゃんも戦いに行くんだよね?」

「当然よ。あたしはカノンの聖騎士なんだから」

「うん、だよね」

「あなたは大丈夫なの? 身体は……まぁ吸血鬼だからともかくとして、精神操作の後遺症とか……」

「それも大丈夫。あの人がいなくなって、あれだけ渦巻いてた黒いものが全部消えて清々しいくらいだよ」

「そう。それは何よりだわ」

「でもそれはきっと、あの人が消えたってことよりも、お姉ちゃんからのお説教が効いたんだと思うんだけどね」

「そう。なら命を賭けた甲斐もあるってものね」

「ごめんねお姉ちゃん。それとありがとう」

 膝の上で掌を握りながら、栞は力強い顔で香里を正面から見据える。

「たくさんの人を殺してしまった。でもその罪に潰されず、言い訳にせず、わたしはこれからも生きていくよ。

 ……だから次の戦い、わたしも一緒に行かせて欲しいの。いまのわたしの力なら、きっと役に立てると思うから」

 確かにいまの栞は強い。元々優秀な魔術師であった上に、吸血鬼としての身体能力に加え『水化』という特殊能力を得た栞は死徒二十七祖とさえ比肩するかもしれない。

 もちろんその意思は尊いものだし、カノンのために戦いたいという言葉は本物だろう。だがそれを抜きにして、香里には一つ気掛かりがあった。

「……栞。一つ確認したいんだけど」

「なに?」

「あなた、それだけ力を使って……吸血鬼としての特性は大丈夫なの?」

「――」

 吸血鬼とは、血を吸う生き物だから『吸血鬼』というのだ。真祖は別にしても、そこから生み出された死徒はすべからくその運命を背負わされる。

 それはもちろん栞も同じだろう。しかし、血であるのならまだ良い。誰かから適当に少し血を分けてもらえばすむだろう。しかし、

「あなた、言ってたわね? 『血を吸えない』って。対象を水に変化して飲むことしか出来ない、って。……それがあなたにとっての生命維持活動なんでしょう?」

 だとすればとんでもなく生きにくい力だと言わざるを得ない。暴走中のように誰かを殺すことも厭わない者なら問題ないだろう。

 だが平穏に過ごすにはどうすれば良い? 対象を水化して吸収する、など『一部分けてもらう』なんて出来ない代物だ。

 つまり栞は誰かの命を奪わなければ生きていけない身体であるということだ。しかも力を行使すればするほど、その必要性は増すのだろう。

 しかし栞は力のない笑みで手を振る。

「大丈夫だよお姉ちゃん。豚とか鳥とか、じゃなければ魔物とか……それでも多少は抵抗あるけど、そういった動物とかでも代用出来るから」

「……それで足りるの?」

 いかに魔物とはいえ、人に比べて魔力量が多い魔物などそう多くはない。あれだけの力を行使するのに、それだけで大丈夫なのだろうか?

「それはさすがにわかんない。わたしは死徒化してまだ日が浅いし……あの時は人しか吸収してなかったから」

 また辛いことを言わせてしまったか、と反省する一方で、これは聞いておかなければいけないことだ、とも思う。

「そう。……まぁわかったわ」

 しかし一応対応策があると言うなら頷いておこう。

 それにずっと祐一の傍にいて新生カノンの立ち上げまで一緒にいた栞だ。自分の命が危うかろうと戦うと言うに違いない。

 であるならば、下手に突き返すより同行を許可した方が無茶もしないだろう。そう考える辺りまだ甘いわ、と自分に苦笑しつつ、香里はベッドから立ち上がった。

 そのまま栞の正面に回り、膝を着く。そうして彼女の両手を取って、

「あなたの意志はわかった。頑張ってもらうし、期待もしましょう。……でも良い? これだけは約束して」

「なに?」

「絶対に無茶はしないって。陛下の……いえ、祐一にとってあなたの存在は大きいの。彼のためにも、あなたはどうあっても生きていて」

「……うん、わかった。ありがとうお姉ちゃん」

 そうして二人は笑いあった。

 

 

 

 リリスは自分の部屋でクラウ・ソラスを磨いていた。

 本当なら、戦いが終わったら祐一か佐祐理のもとへ行こうかと考えていたのだが、その祐一は現在おらず、佐祐理は弟である一弥の看護に出向いている。邪魔は出来ないだろう。

 なのでいまはクラウの手入れをしている。

 さっきの戦いでは慣れない戦術や強引な行使もしたのでその労いと、そしてこれからの戦いも一緒に頑張ろうという奮起も込めて。

Thank you

「うん」

 簡素な返事だが、口下手なのはお互い様だしきっとクラウにはきちんと伝わっているだろう。いまはそれよりも……。

「いつまでそこにいるの?」

「あー。やっぱり気付いてたか。というか気付かない方がどうかしてるか」

「入ってきたら?」

「んじゃお言葉に甘えさせてもらうとするわ」

 そう言って苦笑交じりに扉を開けて入ってきたのは浩之だ。一時期彼の下で訓練をさせてもらっていたのだ、気配に気付かないわけがない。

 だが浩之はどこに座るでもなく、ただ立ち尽くす。何かを言いたくて、でも言い出せない。そんな雰囲気。

 そんな彼の態度からおおよその意図を察したリリスはゆっくりと身体ごと向き直った。

「わかってる。志保のことでしょう?」

「……それも気付いてたか」

「さっき艦橋にいなかったし、それに……あかりがいまにも泣きだしそうにしてたから」

 艦橋に志保だけがおらず、あかりの他、マルチたちまでも沈痛な面持ちをしていればいくらなんでも察しはつくというものだろう。

「俺が弱かったばっかりに志保を守れなかった……。また皆で一緒に、って約束したのにな」

「浩之のせいじゃない。もちろん志保のせいでもない。ただこれが『戦争』ってだけ」

「リリス……」

「悲しいよ。凄く悲しい。……大好きだった人が死ぬってこと、胸が張り裂けそうに痛いの。……でもいまは立ち止まれないし泣くわけにもいかない」

 だって。

「だってわたしは……カノン王相沢祐一の娘だから」

 祐一がいない間にカノンが奪われた。祐一がいればきっとすぐに王都の奪還のために動くだろう。

 でも現在いない祐一にそれは出来ない。だからこそ、その娘である自分がするのだ。祐一のためにも、そして……カノンで過ごす一人の民としても。

「……お前は強くなったな。ホント、一緒に訓練する前とは別人みたいだ」

「だったらそれは皆のおかげ。……私の記憶にも心にも、志保から教わったことは根付いてる」

「あぁ」

「だから戦える。前みたいに戦うために戦うんじゃない。護りたいから、救いたいから戦うの」

 昔の自分とは違う。戦うために生まれてきたから戦うのではなく、戦うことしか出来ないから戦うのでもなく、自分の意志と決意と目的を持って戦うのだ。

 この違いはきっとこれからの戦いにとってとても必要なことで、自分一人じゃきっとわからなかったことだろうから。

「ありがとうね、浩之」

 浩之は一瞬キョトンと、しかしすぐに笑みを浮かべるとリリスの頭に手を載せて、満面の笑みで頷いた。

「おう。きっと志保も喜んでるぜ」

「くすぐったいよ浩之」

「へへ。……しかしこうなると、あれだな。見ててやりたいな、お前の成長」

「え?」

 うんうん、と一人頷く浩之は中空に視線を掲げ、ぽつりと、

「ちょっと綾香に相談してみるかな」

 そんなことを呟いた。

 

 

 

 目が覚めたとき、倉田一弥は自分が立っているのか横になっているかすら曖昧なほどに意識が朦朧としていた。

「ん……ここは……」

「あ、一弥。目、覚めた?」

 どこかボーっとする頭で横を見れば、安堵したような姉である佐祐理の顔があった。

(これは……寝かされているのか、僕は。でもなんで僕はベッドなんかに横になって……っ!?)

 考えている間に、記憶がようやく追いついた。そうだ、自分はシズクの精神感応にやられて、カノンと……佐祐理と敵として激突したのだ。

「姉さ――ぐっ!」

「だ、駄目だよ一弥いきなり起き上がっちゃ! 傷はもう治療済みだけど、長い間精神感応で操られてたせいで精神が不安定みたいだから」

 精神が不安定? なるほど、この地に足が着かないような感覚はそのためか。

 ただでさえ心配そうな顔をしている佐祐理にこれ以上負担を強いたくはない。一弥は言われるままに再度ベッドに横たわった。

 そうして息を落ちつけて、口を開く。まずは真っ先に聞かなければいけないことがある。

「……シズクとの戦いはどうなった?」

「終わったよ。とんでもない被害が出たし……祐一さんが行方不明になったりとかいろいろありはしたけど、どうにか勝ちはした」

「陛下が行方不明? それはどういう……」

 佐祐理は力ない笑みを浮かべ、シズク戦からその間に起きたことをとつとつと説明し始めた。

 祐一がどこかに飛ばされたこと。ペンタグラムという謎の集団の登場。アインナッシュの消滅。シズク軍の長である月島拓也の遺体が見つからなかったこと。

 そしてその間にウォーターサマーがカノンに侵攻を開始し、王都も落とされてしまったこと。

 だが中でも一弥が衝撃を受けたのは――、

「あと……民の避難はどうにか完了してるんだけど、その時の戦いのせいで美汐さんとエターナル・アセリアのヒミカさん、そして……マリーシアさんが行方不明だ、って」

「え、マリーシアが……?」

 おかしい。そもそも戦闘能力をほぼ持たず、そのうえ戦を嫌う性格だったはず。真っ先に逃げても良いようなものだが……。

「これは不確かな情報ですが、どうやらマリーシアさんは逃げる民の方々を守るために戦っていたのではないか、と」

「そう……なんだ」

 確かに彼女は学園で戦闘のための魔力の繰り方など学んではいたが、積極的ではなかったし、あれはそもそも亜衣やリリスたちに付き合うためにやっていたように見えた。

 そんな彼女が、一体何を想い、何のために戦いの場へと足を踏み出したのだろうか。

 ……だが彼女は行方不明。状況から考えれば、その結果はおそらく最悪のものだろう。

「か、一弥! 手から血が出てる!」

「え……? あ、本当だ」

 無意識に強く拳を握りしめてしまっていたらしい。手を開けばポタポタとベッドに垂れるほどの出血をしていた。

 何とも滑稽な姿だ、と一弥は自嘲する。

 敵にまんまと操られた挙句、姉と敵対し敗れ、その間に仕える国の王都が落とされた上に守ると言ったマリーシアまでいなくなってしまった。

「本当に僕は……落ちこぼれで、弱い。誰も守れないばかりか迷惑まで掛けて……ホント、僕は何のために戦ってきたんだろう」

 必死に修練して培った力が、何の役にも立ちはしない。才能なんかなくとも努力次第でどうとでもなると、そこだけは譲れず生きてきたがその結果がどうだ?

 自分がいままで行ってきたこと、貫いてきた信念がボロボロと崩れて行くようだ。情けなくて涙が出そうになる。

「姉さん……僕はやっぱりただの足手纏いだね。誰も守れず救えず、そればかりか味方すら手をかけて……ハハッ、ホント……情けない」

 横で、佐祐理の立つ気配を感じた。愚痴のような言葉に呆れたのだろうか? あぁそれもきっと仕方ないだろう。

 だがそっちに顔を向ける気力もわかない。このまま出て行くのならそれでも良い。そもそも自分みたいな役立たずはいっそシズクの戦いの折にいなくなってしまっていれば――、

「一弥。先に謝っておく。ごめんね」

「え――?」

 

 パン! と、疑問に思う余地もなく頬を叩かれた。

 

「ね、えさん……?」

 痛くなどはない。戦場や訓練での痛みの方がよっぽど痛いし、そもそもシズクで佐祐理から貰った一撃はこの万倍は痛かった。

 でも目を見開いて驚いてしまうのは、自分の記憶の中で姉に頬を叩かれた記憶などないからだろう。

「一弥。自分をいじめて楽しい?」

「ねえさ――」

「一弥の気持ちはわかるよ。不甲斐なさとか無力さに自分を責めたくなる気持ちも、わかる。……でもそれ以上は駄目。

 それ以上追いつめたら一弥はきっと戻ってこれなくなる」

「戻る……?」

「そう。これ以上は……もう戦えなくなる」

 戦えなくなる? というよりまだ戦えと姉は言うのだろうか。戦っても足手纏いにしかならず、守りたい者さえ守れぬ自分に。

 そう考えいたら、不意に胸倉を掴まれ引っ張られた。ベッドに片足を乗せ近付く佐祐理の顔は、弟である一弥がこれまで見たこともないほどに真剣だった。

「マリーシアちゃんは死んだの?」

「!? ……そんなの、状況から考えて死んでるに決まってるじゃないか。まだ生きてるかもしれないなんて気休めにもならないよ。

 ウォーターサマーってのはそういう国でしょう?」

「気休め……か。それじゃあ一弥、一つ聞くけど……もしもマリーシアちゃんが生きていて、すぐに駆けつけていれば間に合ったという状況だったとき……動かずにいた一弥は『死んでいると思っていたから仕方ない』ですませるの?」

「――っ!?」

「……確かに可能性は少ないと思う。絶望的だとも思う。でも死んだと決まったわけじゃないんだよ?

 なのに諦めるの? 一弥にとってマリーシアちゃんや、美汐さんたちはその程度の相手だったの?」

 掴まれた胸倉に、何かがポタリとこぼれて落ちた。

 泣いている。隠しもせずにボロボロと、倉田佐祐理が涙を流していた。

「佐祐理は……ううん、私は諦めない。マリーシアちゃんも、美汐さんも、ヒミカさんも……そしてどこかに飛ばされてしまった祐一さんや真琴さん、他国の方々だって。未確定なものを諦めたりしない。だって――」

 握られていた胸倉の力が抜ける。俯く佐祐理の肩は震え、そこにいるのはただ弱々しい少女のように見えた。

「……だって、何も出来ない時に起こってしまった不幸より、出来る時に何もせず起こってしまった不幸の方が、何倍も何倍も辛いって知っているから」

 ――あぁ、そうか。

 理解する。記憶にはないが、確か自分は幼少の頃一度死にかけたことがあった。

 子供の頃の訓練のことだったか。佐祐理と自分はとある剣術家の元へ出向き、そこに通って剣の稽古をしていた。

 そんな折、ちょっとした事故が起きてしまう。僕が他の門下生の一撃を頭に直撃し倒れたのだ。

 でも当時の一弥は自分に才能がないことを妬み、荒び、とても不真面目で仮病なんかも使っていたから姉を含め誰もがいつものことだと気にしなかった。

 だが結局それが原因で一弥は長期療養を強いられるほどに頭にダメージを負ってしまったわけだが……。

(……きっと姉さんはいまでもそのことを悔いている)

 あのときすぐにでも治療していれば、命に関わるような問題にはならなかっただろう。助かったとはいえ、結局それは『運が良かった』というだけの話にすぎない。

 だから、佐祐理は泣きながら一弥に告げるのだ。先に立つ後悔などないのだと。

「戦え、とは言わない。無茶をしてほしいって言っているわけでもない。……ただ自分を投げ出さないで。そして全てを諦めないで。お願いだから、一弥……!」

「姉さん……」

 一弥にとってマリーシアはもちろん、佐祐理だって守りたい者の一人である。

 思えば自分がいまこうして生きて正気に戻っているのは佐祐理の命懸けの行動によるものだ。

 そう、佐祐理は言うとおり諦めなかったのだ。最後の最後まで、自分を救うことを……。

「まったく……姉さんは本当に、時々強引だよね」

「一弥……?」

「うん、大分落ち着いてきた。人間って近くで誰かがパニックになったり泣きだしたりすると冷静になる、っていうけど、あれは本当みたいだ」

「っ!」

 どうやら自分が涙を流していることに気付いていなかったらしい。佐祐理はバッと勢いよく離れると後ろを向いて必死に目元をごしごし袖で拭い始めた。

 そんな反応がまた何とも笑いを誘う。堪えようとしたが、しかしどうやら口から漏れてしまったらしい。目元を真っ赤にして振り向く佐祐理はぷくっと頬を膨らませていた。

「笑うことないと思うんだけどな……」

「はは、ごめん姉さん。……それとありがとう。姉さんの言葉はきちんと届いたよ」

「一弥……」

「姉さんが諦めなかったからこそ、僕はこうしてここにいる。ならそうして救われた僕も、救われたなりの意地を見せないといけないよね。それに……」

「それに?」

「倉田佐祐理の弟がこんなことで全てを投げ出してちゃ、姉さんの顔に泥を塗る。そんなこともしたくないって気付いたしね」

「そんなのは気にしなくて良いのに」

「僕が勝手に気にするだけさ。姉さんは僕にとって最大の誇りであり目標であり憧れでもあるんだ。だから守りたいと思う」

 そして守るためにもっともっと強くなりたいと思う。佐祐理だけじゃない。マリーシアや、そして他の皆々までも。

 どれだけ途方のない道程でも、止まってしまえばそれまでなのだ。だったら亀のようにゆっくりであっても前へ進みたい。

 そう思っていた、考えていた自分をようやく思い出した気がする。

 あぁ、へこたれている場合じゃない。マリーシアだって生きているかもしれない。救えるチャンスが残ってるかもしれない。だから、

「強くなる。戦うよ。もう挫けない。……そう思えるのも姉さんのおかげだ。だからありがとう」

「ううん、立ち直ったのは一弥の強さだよ。佐祐理は少し背中を押しただけ」

 だから、

「頑張ろう。きっとまた厳しい戦いになるだろうけど……」

「うん。一緒に」

 手を握る。昔に戻ったかのように、笑いながら。

 あの頃と何も変わらない。願った意志はいまも胸に灯ってる。

 

 

 

 元クラナド王国の王都であり、現カノンの第二首都であるクラナドは帰還した誰もの予想を超えて混沌としていた。

 あらゆる場所に人が腰を下ろし、歩くスペースを見つけるだけでも難しい。王都カノンだけでなく、エフィランズなどの街や村の人々もここに避難しているのだからこの人口密度も仕方ないといえばないのだが……。

 何より問題だったのはクラナド城内の庭や訓練場なども避難民用に公開されており、エルシオン級が着陸出来るスペースがないことだった。

 とはいえただでさえ人で溢れているこの状況で、エルシオン級が着地出来るだけの場所を確保するために移動してくれと頼むのも酷すぎる。

 下手をすればそんな些細なことで暴動だって起きかねないくらい人々の心は不安に包まれているのだ。

 よって時間はかかるが、やむを得ず小型船を利用して少人数を順次降ろしていくという手を使うことになった。

 まず真っ先にクラナドへ下りた香里の元へパタパタと有紀寧が駆けよって来る。

 その顔はいつも通りに見えなくもないが、ただ化粧で誤魔化しているだけだとすぐに悟った。あれだけ言ってもやはり休憩は取っていないらしい。

 しかしいまそれを言っても仕方ない。有紀寧は有紀寧なりに王妃として国を支えるために動いているのだから。

「おかえりなさい香里さん。まずはシズクからの勝利、おめでとうございます。多くの仲間も救えたようで」

「ありがとうございます王妃様。しかし国の一大事にお傍にいれなかったのは痛恨の極みです」

「何を言いますか。あなたはあなたの責務を全うしたではないですか。悔いる必要などどこにもありません」

「……ありがたい言葉です。では早速ですが会議室を使わせていただきます」

「奪還作戦……ですね?」

「はい。とはいえ、エルシオンでの移動中にある程度の策は出てきているので、ここからは最終確認となりますが……王妃様も?」

「もちろん同席させてもらいます。駄目ですか?」

「まさか。それに観鈴王妃も同じことを言っていましたからね」

「あら」

 クスクスと微笑む有紀寧。そうとは知らず二番目の小型船から下りた観鈴はそんな有紀寧の反応に首を傾げていた。

 

 

 

 場所をクラナド城内の会議室に移す。

 時間は掛かったがカノン、元クラナド、ワン、そしてリーフから数人のメンバーが集まっている。他の面々はそのままエルシオンに残り自国へと戻っていった。

「ちなみにうちの臨時代行綾香、ウタワレルモノのハクオロ皇、コミックパーティー臨時代行の牧村南女史から言伝を預かってるぜ。武運を祈る、ってな」

「ありがたいことだけど……あなたは良いの? トゥ・ハートの藤田浩之と言えば郁美女王を除けば三本柱と聞くけど」

 リーフから残った数人の一人である彼、藤田浩之は気にするなと言わんばかりにひらひらと手を振りながら、人懐っこい笑みを浮かべた。

「綾香に許可はちゃんと取ってあるよ。まぁ散々小言は言われたけどな。リーフからの助っ人と状況の観察も含めて協力させてもらうからよろしく!」

「まぁ、あなたのような戦力が協力してくれるのはとても助かるけれど。あなたたちも同じ理由で?」

「あぁ、まぁな」

 頷いたのはコミックパーティーの千堂和樹、そしてその隣に立つウタワレルモノのトウカまた首肯した。

「えぇ。大々的に援軍を出すことは出来ませぬが、某らを派遣することでリーフ各国の応援としたい、と」

「そういうことだ。だから気兼ねすることはない。あんたたちの考えた策を聞かせてくれ」

「……助力に感謝を。王が戻ってきた暁にはきちんと礼と挨拶に向かわせていただくわ」

 さて、と香里は前置きし、集った皆を見渡した。

 シズクとの戦いで心身共に疲弊した者、あるいはシズクに操られ最近正気を取り戻した者。それぞれだが、その顔は揃って戦意に満ちていた。

 聞くまでもない。きっと出向く意志がある者、と問えば皆が挙手するだろう。ならそれは時間の無駄だ。省き、本題中の本題に入る。

「現在我々の王都カノンはウォーターサマーによって占拠されている。残していた兵の実に八割以上が犠牲となったものの、民の被害は……完全に防げたわけではないけれど、軽微。そこだけが唯一の救いと言えば救いでしょうね。もちろんそれは命を懸けて戦ってくれた皆の奮戦あってこそだけど」

「あ、あの……」

 おずおずと、挙手したのは亜衣だった。

「情報も集まってきてるんですよね? その……ま、マリーシアちゃんや美汐さんたちは……」

 瞬時に会議室が静まり返った。いや、元々静かではあったが、こちらの返答に注目しているということなのだろう。しかし残念ながら、

「……エターナル・アセリアのヒミカ殿も含めて、三名の生死は確認できてないわ。明日美さんの千里の魔眼とかでも視てもらいはしたけど、ね」

「そうですか……」

 本末転倒な話だが、気配探知に長けたマリーシアがいればあるいは生死の確認だけは出来たかもしれないが、そんなことを言っていても始まらない。故に、

「でも諦めては駄目。無事に逃げ切っているかもしれない。そうでなくても捕まっていたりする可能性もある。だから諦めず、いまは自分たちが出来ることをしましょう」

「はい!」

 さぁここからが本題だ。

「ではこれよりカノン奪還作戦、及びそれに参加するメンバーを選定するわ」

 スッと、香里の横に二人の少女が並んだ。香里は彼女たちを一瞥し、告げる。

「まず今回の作戦はウォーターサマーと実際の戦闘経験があるダ・カーポの軍師明日美さんと、元ウォーターサマーのさやかさんを中心に戦略組み立ての上手い者とで考案したわ。と言っても、実にシンプルだけどね」

 明日美、さやかが揃って頷く。結局何度考えたところで、状況から考えるとこれ以外の手はなかった。

 至って単純な解。それは――、

「エーテル・ジャンプ装置を利用した、少数精鋭による強襲作戦よ」

 

 

 

 あとがき

 どうもこんばんは、神無月です。

 さぁいよいよ三大陸編も大詰めとなってきました。……長かったね、ごめんね(汗

 これから始まるカノンVSウォーターサマー、リベンジマッチにて三大陸編は終了となります。

 ……やべぇ、番外の方まったく消化してねぇ。そろそろこっちも手をつけないと……!

 あと今回からちょっと話数増えてでもコンスタントに出そうと思って意図的に少し短く纏めてみました。え、あんま短くない?

 まぁそこは慣れというか、今後の技術力次第ですなぁ。動画にしろSSにしと、一話を短く纏める技術が私には欠けているなぁw

 ってなところで今回はこの辺で。

 次回からは再びバトルの始まりですよ!

 

 

 

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