神魔戦記 第百六十四章
「幕下りて災い満つる」
――08:52――
突如アインナッシュの上空に出現した黒くて紅い少女は、軽い調子で告げた。
「世界の終わりと始まりの、その序章を初めましょう」
何をわけのわからないことを、と口を挟む者はいない。
力ある者は皆が理解していた。この少女の力は自分では到底及ばぬ、まさしく別次元の存在であるということを。
それが本能でわかるほどに、彼女――慧花の重圧は凄まじかった。
「ぐ、ぅ……!」
「純一!? 純一大丈夫!?」
アイシアの声もいまの純一には届かない。
以前伊吹風子という怪物と戦ったこともあったが、このプレッシャーはそれさえ上回る。
だが何より彼を苛んでいるのは身体に圧し掛かる重圧感ではなく……。
「ぐ、ぁ、あああああ!」
強烈な痛みを訴える魔眼の方だった。
もはやその痛みは頭にまで及び、まるで脳の中に手を突っ込まれてグチャグチャとかき混ぜられているかのような激しい痛みに襲われている。
これまでも危機に瀕した時、純一の『夢現の魔眼』は疼きとも呼べる小さな痛みを訴えかけていた。
だがそんな比じゃない。いっそ殺してくれと思ってしまうほどの痛みが、ただひたすらに純一を襲っていた。
「ふぅん。アタシの力に当てられて過剰反応してるのか……。いやはや、やっぱ怖いね。その魔眼は」
慧花は純一を一瞥し、肩をすくめる。純一には何を言っているかわからないが、どうやら向こうはこちらのことを知っているらしい。
普段ならそれを疑問にも思っただろうが、あまりの激痛に思考が纏まらない。
そんな純一の横で、よろけながらも立ち上がった者がいる。
岡崎朋也だ。
「ペンタグラム……だと? 何だそれは」
「いまはその名前だけ覚えておけば良いわよ〜。いずれ嫌でも聞くことになるだろうからねん。そんなことよりさー、気をつけた方が良いよ〜?」
ニヤニヤと、嘲るように口元を綻ばせた慧花はスッと下を指さし、
「君たちが月島拓也を倒したってことは……だ。さて、それまで従っていた無口な植物の王様は、どんな動きをするかしらん?」
「「!?」」
それは、まるでその言葉を待っていたかのようだった。
ズゴゴゴゴゴゴ……!!
「くっ……!?」
大地が、揺れる。否、そんな表現では足りない。まるで地面が爆発しているかのように、上下左右に激しく揺さぶられる。
地面が割れ、岩が飛び、至る場所から木が、根が、葉が、茎が、枝が、葉が、剣山のように生えいずる。
「馬鹿な!? 祐一たちの攻撃をあれだけ受けていてまだこれだけ動ける力があったのか……!?」
「誤ってシズク軍を攻撃しないように月島拓也があれこれ指示してたみたいだからねぇ? でもその鎖もいまや千切れ、残ったのは吸血鬼としての衝動のみ」
さぁ、と面白い舞台が始まるのを待つ一観客のような目で、黒の少女は言う。
「手負いの獣は怖いよん? どうするどうする〜?」
――08:54――
その変化は、その場にいる誰にでも感じられ、そして誰もが危険だと理解した。
「退け退け! すぐにアインナッシュの領域から撤退しろー!」
「反撃しようとするな! アインナッシュは無尽蔵だぞ!」
シズク軍との激しい戦いを潜り抜け、辛くも勝利をもぎ取った合同軍が蜘蛛の子を散らすように方々へ撤退していく。
だがそれは仕方ないことだった。
シズク軍との戦いで疲弊してもいたし、精神感応が解除されて意識が元に戻った者たちの介抱をしている隙でもあったのだ。
だが何よりも――彼らを勇気づけたあの祐一、さやか、芹香、郁美の攻撃を受けてなおこれだけの生命力を見せるアインナッシュに対抗手段が見えなかった、ということが最も大きな要因だった。
しかし彼らの目的はシズク軍、月島拓也の撃退であり腑海林アインナッシュの殲滅ではないのだ。
倒す必要もなく、倒す手段もないとなればすべきことはただ逃げることだけだろう。
……とはいえ、そう簡単に逃がしてくれるほど死徒二十七祖というものは甘い種ではない。
「ぐぁぁぁ!?」
「ぎゃー!!」
比ではない。そう、それはあまりに違いすぎる。
速度が、射程が、数が。シズクと戦っていた時のアインナッシュの動きとは明らかに違いすぎた。
これがアインナッシュの本気なのだろう。
元来衝動のままに捕食を繰り返していた腑海林に、精神感応という異能を持ってコミュニケーションをとった月島拓也が異常だったのだ。
取捨選択して食らうのと。全部纏めて食らうのと。どっちが簡単かなんて――言うまでもない。
「ちぃ!?」
「主様!」
「大丈夫だ! いまはとにかくここから抜け出すぞ!」
中でも最悪なのが、中心部に降り立ったεチームの面々だった。
既に外周付近に移動している朋也たちや綾香たちはまだ良い。
だが途中で進路を変更した関係で中央部から抜け切れていなかったハクオロとカルラ、そして栞との戦いでずっと動けないでいたシャルたちがアインナッシュの猛攻に曝されていた。
数十本、数百に及ぶ触手のような木々のによる攻撃は、一撃一撃こそ大した威力を持たないが、こうも数があっては迎撃するだけで難しい。
ましてや走りながらともなれがその難易度は更に増す。
「おぉぉ!」
鉄扇でそれらを薙ぎ払い、いなし、切り落しながら、ウタワレルモノの皇、ハクオロは荒い息をつく。
「きりがないな! このままでは……!」
「こうなったら一気に道を開くしかありませんわね。主様、背中をお任せしますわ」
併走するカルラがわずかに前に出る。そして足を止め、一気にその巨大な刀を振り上げた。
力を溜める体勢。だがこの場でそんなことをすれば狙い撃ちにされるのは自明の理。しかしカルラの顔には分の悪い賭けに挑むような必死さはない。
「まったく、お前というやつは!」
殺到するアインナッシュの攻撃を、ハクオロが見事に迎撃する。
鉄扇が舞い、風が巻き起こり、火が爆ぜ、水が逆巻き、大地が刺となり串刺しにする。
四大元素を属性とするハクオロの、多様な技の前にアインナッシュの攻撃がギリギリで届かない。
「長くは続かんぞ、カルラ!」
「わかっていますわ……!」
振り上げ、腰を捻り、限界まで引き絞る。そのまま腰が砕けそうなほどに上体を反らしたカルラは、ゆっくりと息を吸い、
「!」
力を爆発させる。
カルラの立つ地面があまりの反動に陥没し、なお止まらぬ豪速でその刃を一気に振り下ろす!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
極限にまで集約された力の塊が巨大な風となって一直線上のものを根こそぎ消し飛ばしていった。
何が驚きかと言えば、この一撃が単なる腕力によることであるということだ。世界広しと言えど、純粋な力だけで言えばこのカルラに並ぶものはそうはいまい。
「さ、主様! 行きますわよ!」
「ああ!」
そして二人は切り開いた道を駆けていく。その最中にも再生を始めるアインナッシュの木々を横目に見ながら、ハクオロが呟く。
「……勝利を確信してこれでは、大きな被害が出るな。皆無事でいてくれれば良いが……」
――08:55――
外周側からアインナッシュ内部へと突撃した部隊がある。
α-24部隊。速術機甲部隊を主格においたトゥ・ハートの高速戦闘部隊だが……。
その部隊がいま、大きなピンチに飲み込まれていた。
「くそ、退け! 早く退くんだ!」
「わかってますけど……ぐぁぁぁ!?」
彼らは速度を売りにした部隊だ。故にアインナッシュへの突入も早く、そして以後も内部の敵を悉く返り討ちにした。
……だが、彼らは速すぎた。中央に突っ込みすぎたのだ。
加えて彼らの速度の象徴たる走行機甲(も、これだけの障害物を前に効力が激減している。
敵は地面から生えるのだ。数が数ならどうとでもなるが、逃げ場がなくなるほどに密集されてしまえばその速度も生かせない。
「密集隊形を取れ! 散ったら一気に食い殺されるぞ!」
浩之が指示を出すが、駄目だ。既に崩壊した陣形が、敵の身体のど真中のような場所で再び構築出来るわけがない。
「隊ちょ――うああああ!?」
「ライナ!? ライナァァァァ!」
浩之の部下がまた一人、アインナッシュの木に串刺しにされ、その血を一気に抜き取られていく。
干からびて皮だけになった身体はすぐに塵となって空中に霧散した。
「くそ……!」
既に速術機甲部隊十三名のうち三名がやられた。このままでは全滅も免れない。
浩之は考える。ここで留まっていても状況は好転しないだろう。ならば突っ切るしかない。――多少の被害を覚悟してでも。
無情な選択かもしれない。誰かが死ぬのを前提とした策などクソ食らえだが……これは戦で、理想論だけでは成り立たない。
そしてその考えを実行できない者に、人を纏める資格はない。
決断は一瞬だった。
「全員、南に進路を取れ! アインナッシュを突っ切る!」
言うや否や、浩之は雷光を纏った裏神殺し・魔銃『紫貫』を南に向け、撃つ。
「雷時雨 !!」
拡散する雷の放流が包囲するアインナッシュを消し飛ばした。範囲は広い……が、威力はそう高くはない。
焼け爛れた木々の再生も早く、おそらくは完全再生まで数秒しかかかるまい。だからこそ、
「急げ!!」
浩之たちは走行機甲(を全開にし、一気にその狭き道を疾走する。
「あかり! 後ろを頼む!」
「わかった!」
神族たる彼女は走行機甲(なしに高速飛行が可能だ。故に殿で追ってくるアインナッシュの迎撃を任せる。
「『光の槍』を展開――残留!」
あかりから放たれた十数本の光の槍が、アインナッシュを貫きながらその場に残る。残った力はそのまま迫るアインナッシュを切り裂いていく。
……が、縦横無尽、有象無象と湧き立つアインナッシュの前では残留の力も大した効果は発揮できない。
「志保の隊は左! 雅史の隊は右だ! 正面は俺の隊が! 他は俺が全部カバーする!」
「オッケー!」
「了解!」
志保たちのチャクラムが左から、雅史たちの銃撃が右から迫る木々を切り裂き、撃ち抜いていく。
だが彼らの攻撃は対多ではなく対人。手数を増やしたところで限界がある。
「しまっ……うああああ!?」
一人が背後から伸びた蔓に捕まり、そのまま引きずられて消えた。
「あ、きゃああああ!?」
一人が突如地面から飛び出て来た枝に貫かれ、絶命した。
「……ッ!」
唇を噛む。ここで止まってしまっては元も子もない。隊長として、一人でも多くの者を助けなくてはならない使命がある。
「出口が見えてきました!」
併走するマルチの言うとおり前方に光が見える。森の切れ目がすぐそこまで迫っているようだ。
「全員全速力だ! 急げよ!」
攻撃を掻い潜り、撥ね退け、そして――、
「抜けた!」
「そのまま走れ!!」
自分の部下にそう命じ、浩之は即座に反転。これから抜けてくるであろう仲間を援護するため武器を構える。
「浩之!」
「ヒロ!」
そしてその間に雅史と志保の部隊が抜けた。あとはあかりたちの部隊だけだ。が……来ない。
まさか……?
「ちっ……!」
次の瞬間には浩之は走行機甲(で地面を滑りあげ、再度アインナッシュの中に突入していた。
「あかりぃぃぃ!!」
「浩之ちゃん!」
呼べばすぐに返事が来た。声の方向を見れば、あかりが一人の少女に肩をかしながらこっちに向かっていた。
浩之はその少女を知っている。あかりの部隊に配属されている神族の少女だ。それだけでおおよそ察した浩之は、声を張り上げる。
「お前はそいつを連れて早く下がれ! 残ってるあかりの部下たちはそのままサポート!」
「「はい!」」
相棒である裏神殺しの銃と槍を構える。ここで逃げ切ればこちらの勝ちなのだ。
「だからこれ以上好き勝手させてはやらねぇぞ死徒二十七祖……!」
「ヒロ!」
「志保!? どうしてお前まで――」
「いつも暴走するあんたのサポートをするのはあたしの役目よ。ほら、何か言うことは?」
「ったく……。援護を頼むぜ。特に背後は志保に任せる」
「ま、ヒロの頼みとあっちゃー仕方ない。この志保ちゃんが一肌脱いであげますかっ」
「よし、行くぞ!」
奔る。あかりとすれ違い、いまにも彼女を貫かんとしていた木々を『紅牙』と『紫貫』で迎え撃つ。
雷光が迸り、あらゆる者が光と共に塵へと消える。遅れて届く雷鳴が響く頃には周囲は焦土と化していた。
浩之は強い。個として見ればトゥ・ハートでも綾香や環とも互角に渡り合うだけの力を持つ。……しかしそれは一対一ならば、の話だ。
再び這い出てきた根が刺のようになり浩之へと襲いかかる。それをどうにか回避しながら、浩之は誰にも届かない程度に小さく舌打ちする。
彼は対多に弱い。聖騎士のような強大な魔力もなければ、環のような破壊力もない。彼の力は研ぎ澄まされた技術と動体視力による撹乱・高速戦法にある。
そんな彼にとってはアインナッシュのような全方位からかつ終わりの見えないような相手は相性最悪と言って過言ではなかった。
だが、そのために彼には優秀な仲間が存在する。彼が部隊を任されているのは指揮能力が高いという理由だけでなく、そういう側面の意味合いもあった。
「ヒロ! あかりたちが森を抜けたわ!」
「よし! なら俺達も退くぞ!」
苦手な敵の渦中に居続ける理由はもはやない。浩之が後退しようとした、その瞬間だった。
「――――――――!!!」
幻聴ではないだろう。その時、腑海林アインナッシュが雄叫びをあげた。
人の声とも獣の声とも魔物の声とも違う、聞いたことのないような不可思議な音が森の中から外までを震撼させた。
「な、んだ……?」
一体何が起きようとしているのか。思わず意識を逸らした浩之の――それが大きな仇となった。
ガギン! と重い響きと同時、一瞬にして速度を失った浩之はつんのめるようにして地面へ転がった。
「ヒロ!?」
「チッ!」
理由はすぐに判明した。左足の走行機甲(にアインナッシュの蔓が絡み、破砕したのだ。
刹那、機ありやと言わんばかりにアインナッシュの木々が一斉に浩之に殺到した。
これまでの攻撃も苛烈だったが、その動きは先よりも更に激しいものだった。おそらく先程の雄叫びと何か関係あるのだろう。
浩之は右手で地面を弾き、バク転の要領で立ちあがるとそれらの迎撃をせんと『紫貫』を構え、放つ。
だが体勢が悪かった。正面はともかく、左右や上からの攻撃に対処しきれていない。
「くそ……!」
伸びるアインナッシュの木々に浩之は対処が出来ず、
「危ない、ヒロッ!」
しかしそれらが浩之に届くよりも先に、志保が浩之を突き飛ばした。
だがアインナッシュは止まらない。その矛先は志保へと変わり、そして、
「う、あ……!?」
長岡志保は数多の木々に、その身を串刺しにされた。
「志保!? 志保―――――!!」
「逃げ、て……ヒ、ロ……」
血塗れの手が差し出される。浩之はその手を握り締めようとして……しかし更に降り注ぐ木々に貫かれ、もはや埋もれて見えなくなった。
「く……そ……!」
その木々を根こそぎ消し飛ばし、怒りを叩きつけたい衝動、そして遅いとわかっていながらも志保を助け出さねば、という気持ちは間違いなく存在した。
だがこれまでの戦場での経験と、軍団長としての冷静な部分が彼女の死を理解し、感情とは別にして身体は逃亡の体勢を取っていた。
命惜しさ、ではない。自分一人の損害が部隊に、更には国に及ぼす影響を考えての対応だった。
「くそ……!」
わかっている。これが戦場だ。わかっている。これが命のやり取りだ。
あぁ、わかっている。わかっているが……悲しくないわけじゃない!
「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」
慙愧の絶叫は遠く、どこまでも空しく響いていった。
――08:58――
咆哮を機に、更にアインナッシュの動きが活発化した。
空にいる者にはわかっただろうが、大地の鳴動と共にアインナッシュ自体が徐々に拡大し始めている。
再生だけではない。いまこの瞬間にもアインナッシュは成長をしているのだ。
暴れ狂うアインナッシュに、地上にいる連合軍の者たちは次々と喰われ、殺され、果てていく。
「んー、やっぱこうなるのねぇ〜」
それを空から眺めている人物の一人である慧花は、おおよそ予想通りの展開に小さく息を吐いた。
アインナッシュの一連の動きは、間違いなく慧花の登場が契機だった。
アインナッシュは意思なき植物であるが、生き物である以上『本能』というものがある。その本能が訴えているのだろう。
慧花は危険だ。殺さなければならない相手だ、と。
だからいま成長しているのは慧花を殺すための準備であり、破損された身体の修復でもあり、一定以上の力を行使出来るようになれば一気に襲いかかるだろう。
そして――そんなことは慧花とて百も承知でなのである。
「ただまぁ、そんなの待たないけどねん☆」
慧花は何もこの様子を観察に来たわけではない。
彼女がここに来た理由の一つは――、
「アインナッシュに退場してもらうことなのよねぇ」
慧花はゆっくりとした動作で腰にある剣を抜いた。
それは刀身の黒い、不気味な剣だった。精巧な作りなのだろうが、そこに磨き上げられた武具特有の美しさは欠片もなく、あるのはただただ禍々しい狂気だ。
おそらくこの剣の名を知らされたところで、縁のある者はそれを否定するに違いない。
其の名は――裏神殺し・魔剣『黒王』。
裏神殺しは所有者の扱いやすい形にその形状を変える性質を持ってはいるが……それはもはや『変貌』と言って良い領域だ。
その『黒王』を慧花は片手で頭上に掲げる。
すると、大気が軋んだ。まるで恐れ戦くように、ギシリと軋む虚空から徐々に湧き出るものがある。
それは、闇よりもなお深き、漆黒の炎だ。
おそらくさくらや、それに比肩する魔術師ならばその炎を見てすぐに思い浮かべるものがあるだろう。
火属性古代魔術の最高位、『灰燼と帰す煉炎』。
魂すら焼き払う冥界の炎を召喚する魔術だが、その炎と瓜二つ……否、純度で言えば遥かに慧花の生みだしているそれの方が高い。
その炎に、アインナッシュは反応した。これ以上は捨て置けないと言わんばかりに、突如として全ての攻撃の矛先を慧花へと転じたのだ。
「ま、そうなるわよね〜。でも無駄だけど」
もはや数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの木々が慧花へ躍りかかるが、それらは慧花に届く前に黒き炎の結界に遮られる。
いかにアインナッシュと言えど、植物である以上炎に弱い。ましてやそれが煉獄の炎ならば言うに及ばずだ。
こと相性という観点で言えば、アインナッシュでは慧花に傷を負わせることは難しい。
それを察したのか、アインナッシュは木々を下げた。そうして何をするのかと思えば、無数の木々が混じりあい絡み合い、何かを形成していく。
「へぇ?」
それは――巨大な顎だった。
人一人を呑み込むような大きさではない。あるいはエルシオンさえ一飲み出来るほどの巨大さだ。
アインナッシュの内部は固有結界のそれに近い。この口に飲み込まれれば魔術なども使えなくなるだろう。故の形成。
喰われれば、まさしくそれで終わりだ。
「一応、考えてるみたいだねぇ」
だが慧花は動かない。その巨大な顎が近付こうともただ笑みを浮かべ見据えるのみ。
動かない。
まだ動かない。
そして遂に慧花はアインナッシュの口に飲み込まれ――、
「――でも、駄目だね♪」
一瞬で口を形成していたアインナッシュが漆黒の炎に飲み込まれ塵と消えた。
「固有結界だろうと一つの世界自体を内包出来るわけじゃない。アタシの力は一つの世界を形成する力。残念だけど、その手はエターナル(には通じないのさ」
集約する炎は更に膨れ上がり、慧花の周囲を踊っている。既にそこに込められた魔力量は、古代魔術を軽く凌駕していた。
慧花は『黒王』をまるで指揮棒のように振るい、漆黒の炎を纏め上げ、
「んじゃ、ここらで終わりにしとこうか。腑海林」
一気に振り下ろした。
解き放たれた漆黒の炎は全てを焼きつくさんと垂直に落下し、アインナッシュを一気に呑み込んだ。
既に明けたはずの夜が再び戻って来たかのように周囲一帯を暗く照らしあげ、そして瞬時にして燃やしつくしていく。
「――――――!!」
発声器官などありはしないが、それは間違いなくアインナッシュの断末魔の叫びだった。
従来のアインナッシュなら、燃やし尽くされる前に逃げ切ることが出来ただろう。しかし祐一らの強大な魔術を受けた後というのがそれを許さない。
そもそも慧花がこのタイミングまで姿を現さなかったのはそれが理由だ。キー・リーフ連合とシズクを戦わせて、アインナッシュにもダメージを蓄積させるため。
故に、アインナッシュはただただその場で火に焙られるしかない。魂すら焼失させる業火に焼かれ、朽ちていくしかないのだ。
世界を震撼させ、多くの植物を配下とし、数多の人間を捕食し、擬似的な不死を確約するという神秘の実を宿す腑海林アインナッシュが……。
この時、世界から消え失せた。
「任務完了、と」
焦土と化した大地を見つめ、ただ彼女は笑う。
アインナッシュの討滅。この世界の表舞台に出る最初の問題にして難関をクリアした安堵に口を緩ませ――
その時、爆発するような勢いで地上から飛び上がってきた何かが慧花に激突した。
ガキィン! と金属同士が激突する音がこだまする。
「おお?」
既にわかっていたかのように剣で受け止めながら、慧花はそれを見る。
それは魔術でもなければ砲弾でもない。純白の翼を生やした一人の少女にして一国の女王――神尾神奈であった。
「貴様、一体何が目的だ?」
慧花の『黒王』と神奈の『タテノミタマノツルギ』が鍔迫り合い、ガチガチと音を立てる。
慧花の圧力で身体も萎縮しているだろうに、そんな様子はおくびにも見せず、神奈は強く慧花を見据えた。
「目的、ねぇ。いくつかあるよん? 一つは宣誓をすること、もう一つはアインナッシュをこれからの争いに介入させないようにすること」
もう一つペンタグラムとしての目的はあったがそれは慧花の管轄ではなかったし、既に達成されたこと。言う必要もない。
だが、それとは別にもう一つ……。
「それだけではないじゃろ。お主の眼がそう言っておる」
「アハッ。勘が良いんだー。あー、あるいは推論? ま、それでも凄いと思うけどぉ」
でもぉ、と慧花はおちょくるように残った手で指を振り、
「安心して良いよん。もう一つの目的はあなたたちとは無関係だからさ〜」
「無関係?」
「そ。だってもう一つは……月島拓也の遺体を回収することなんだから」
「なに……?」
神奈が怪訝に顔を染めた瞬間、その隙を見て慧花は大きく剣を振り抜き神奈と距離をとった。
「ぬ!?」
「だからアタシたちのことはとりあえず放っておきなよ。あんたたちも割とピンチっしょ〜? だから無駄な争いは止めてさ、自分たちの場所へ戻ると良いさ」
「待て!」
「お生憎。アタシはアタシで忙しいのさ。やりあいたい、ってならもうちょい後にしてねん。んじゃ、またね〜」
黒い炎が慧花を覆い、次の瞬間には姿も気配も消え失せていた。
神奈は慎重に周囲を確認した後、完全に気配が途絶えているのを感じとって剣を下げた。
「ペンタグラム……か。アインナッシュを葬るだけの力を持つ者……。しかし、月島拓也の遺体を回収とは、一体どういうことだ……?」
いやいま考えても詮無いことか、と神奈は考えながら……荒れた地上を見つめた。
激戦の荒野が広がり、多くの死者を生んだ戦場の跡がそこにある。
諸手を挙げては喜べない状況。想定外のことも多々あったが、しかしこれでようやく……、
「シズクとの戦いは終わった、か」
それだけは、はっきりと言える確かなことだった。
――09:05――
アインナッシュが焼き尽きた、主戦場より少し離れた小高い丘の上。
そこで息も絶え絶えの男が一人、血を流しながら歩いていた。
「ぐ、は、ぁ……くそ、くそ、くそ、クソォォォ!」
青い顔で悪態を吐いているのは、見紛うことなく月島拓也だった。
彼は未だ生きていた。
ペンタグラム強襲のどさくさに紛れて辛くも逃げ出したのだ。慧花の圧倒的な存在力があったため、消えかけの気配になど誰も気を配らなかった。
……そう、消えかけ。心臓を貫かれた彼は生きているというよりはむしろ死にかけのままである、と言った方が正しい。
超再生能力によってどうにか持ち堪えているが、心臓を抉り出すかどうにかしなければ、対消滅の力は消えずこのまま絶命するだろう。
しかし拓也自身にそんな怪力はなく、また現状の彼の乱れた精神感応では誰かを支配することも難しい。
即ち、もはやどうしようもない。彼に生き残る術は残っていないのだ。
それでも彼はまだどうにかなると根拠もなく信じ込み、その妄信に寄って必死に逃げていた。
「瑠璃子が、あんなことを……ぐっ、言うはずが、ないんだ。そうだ、誰かに誑かされたんだ……。ハハ、待ってろよ、瑠璃子。必ず、必ず助け出してやる……」
うわごとのようにブツブツと呟きながらどこへともなく進んでいく。その先に活路などあるべくもないのだが。
しかし全ては周到なシナリオの上であり。
彼の死は、時を待たずして訪れることになる。
「あぁ、お疲れ様。よくやってくれたね」
瞬間、物理的にではなく、精神的に叩き潰された。
「ぐ、ぁあ!?」
立っていられず倒れ込んだ拓也は、襲い来る激痛にのたうち回る。
おかしい。おかしいおかしい。痛覚は遮断しているはずなのに。なのに何故こんなに痛いんだ。何故こんな脳味噌を延髄ごと引き抜かれているかのような耐えがたい激痛に襲われるのか。
なまじ精神感応能力で自我を確立している分痛みで狂うことも出来ず、ただただその激痛を受け続ける。
「……にしても、不様だね。その姿は」
足音。
痛みで気付かなかったが、目の前には足があった。それがさっきの声の主だ。
拓也は緩慢な動作でその足の主を見上げる。ゆっくりと視界に入ってくるその男の姿は――見知らぬ(ものだった。
「おま、え、は……誰だ!?」
「覚えてない、か。まぁ仕方ない。僕の名前は長瀬祐介。元々はあなたや瑠璃子と同じ、ここに住んでいたものだよ。そしていま僕は瑠璃子と一緒にいる」
「そうか……貴様か、瑠璃子を誑かしたのは!」
「あんたがどう思おうと自由だけど……現実は僕は瑠璃子についていっただけだ。いまの道を選んだのは彼女自身だよ。
そして加えて言うなら……あんたが望んだあんたのこの国を滅ぼすきっかけを作ったのも彼女だ」
「な、に……?」
「あんたは自分の力に自信を持っていたようだから気付きもしない、知ろうともしなかったみたいだけど。おかしいと思わなかったのか?
あれだけいがみ合ってたカノン・ワンとエアが停戦を組み、リーフ連合と共同してこんな大規模の侵攻作戦を決行したのか」
シズクを脅威と考えたからだと拓也は思っていた。
それはそうだろう。だがそれだけではない。
「事前に大きな実害があったからだ。キー四国が同時に襲われた、というね。まぁあんたはそれを知らないだろうが」
拓也はそのとき、いつぞやの鹿沼葉子の言葉を思い出していた。
『……あなたはやりすぎました。特にキー四国への同時攻撃などはその最たるものでしょう。
あれはあのまま四国同士やり合わせていれば良かった。そうすれば今回のようにキーの国々が一時的にとはいえ手を組むこともなかったはず』
あれは、まさか。
「瑠璃子が、やったと言うのか……!? 馬鹿な、ありえん! 彼女の精神感応はそれほど強力なものでは――!」
「まぁね。計画したのは瑠璃子だし、潜入してあれこれ整えたのも彼女だけど、実際に精神感応を使って彼らを操っていたのは僕だよ」
「なっ……!? Sクラスの精神感応を貴様が……? まさか――!!」
「あぁ。瑠璃子を抱いた」
それが瑠璃子の能力。
彼女を抱いた男は、あらゆる障害を突破して自分の最高の能力を導き出すことが出来る。
努力も、経験も、一切合財をすっ飛ばして能力の限界に到達させる特例(。
拓也もまた、実の妹を抱いて最強クラスの精神感応を手に入れた。
だが拓也はそれを知っていて瑠璃子を抱いたわけではない。彼は瑠璃子を愛していて、そのうえで抱いたのだ。精神感応はそのおまけに過ぎない。
故に、彼が覚えた激情は嫉妬。憎悪の炎に瞳を揺らし、激痛に苛まれながらも立ちあがって、一気に飛びかかった。
「き……さまぁぁぁぁぁぁ!!!」
祐介はそんな拓也に小さく嘆息を返し、
「……死に逝くあんたに、最高のプレゼントを渡してやるよ」
瞬間、より一層の激痛が拓也を襲った。
「ぬ、ぉああああああああああ!?」
目に見えた何かが襲ってきたわけじゃない。火や水、などといった直接的な攻撃ではない。
これは内からくる痛み。心が崩されて、自己という存在が破壊されていく感覚は、
「ば、馬鹿な!? これ、は、精神感応……!? 僕に、こんなものが、届くはず……!?」
「精神感応能力者には精神感応は効かない。それは正しいよ。ただまぁ、それは所詮一般論だけどな」
そう言って、彼は見せびらかすように……否、実際に見せるためだろう。自分の首から下がるネックレスを指で持ち上げた。
「永遠神剣・第三位『浸透』。こいつの力で僕の精神感応は既に通常の精神感応の領域からは逸脱してるんだよ」
「な、に……!?」
「あんたが僕を覚えてないのも無理はない。だって僕はエターナル(なんだから」
精神の防壁を構築しても、それを端から端まで破壊されていく。
まさしく圧倒的だった。最強の精神感応能力と呼ばれた拓也がまるで玩具のように精神を破壊されていく。
消える。消えていく。自己を構成していた全ての因子が欠片も残らず消えていく。
「う、が、あ……!?」
「消えろ、月島拓也。あんたのその身体は僕たちが有用に使ってやる」
長瀬祐介が口元を釣り上げ、
「る、り、こ……」
月島拓也という存在が、その肉体から消え失せた。
――10:22――
戦いは終わった。
無事だった者、精神感応が解け救出した者を含めそれぞれエルシオン級に回収し、かの戦場から飛び立っていく。
月島瑠璃子が行方不明になったことも気がかりであるが、負傷者の治療なども考えて探索は一時間で打ち切られた。
ペンタグラムと名乗る者たちの襲来、月島拓也の遺体が消えたことなど諸々の問題もあるが……ともあれ多くの者が負傷し、また死んでいった戦いも、一応の目的を達成し勝利したと言って良いだろう。
しかし、その爪痕はあまりに大きい。
「芹香女王が、消えた……!?」
各国の主要メンバーが集められた一番艦、エルシオンの会議室。そこでまず皆が聞かされたのは祐一、芹香、郁美の三王の消失だった。
「空間転移でどこかに……。術式が独特すぎてどこに飛ばされたかはわからないけど、でもかなり遠くなのは間違いないと思います」
あのとき近くにいたユーノがそう告げる。祐一たちが消えてすぐに探知魔術を発動したものの、わかったことはそれくらいだった。
「遠く……か。かなり漠然としているな」
ハクオロの呟きに誰もが顔を俯かせる。探すにしてもそれだけでは途方もなさすぎる。
しかし探すにしてもまず決めなければならないことがある。ささらが皆を見渡しながら、
「とりあえず代理の代表を立てないといけませんね」
環が同意する。
「確かにそうねぇ。となると……やっぱりうちは綾香様かしら?」
「ま、そうなるでしょうね」
来栖川芹香の妹である綾香。トゥ・ハートにおいては王位継承権を残している者は彼女を置いて他にいないのでこれはもはや決定事項だろう。
そもそも芹香は政務などが得意ではなく、大半を綾香が代行していた。そういう意味では代表が綾香に代わったところで政務に支障は出ないだろう。
だがトゥ・ハートはそれで良くともコミックパーティーとカノンは違う。
「俺たちは……どうするか」
和樹が呟くように、コミックパーティーは郁美に兄がいるが、彼は既に王位継承権を放棄している。つまり現状王位継承権を持つ者は現状いないのだ。
となると身近な人間からとりあえずの代表を立てるしかないわけだが……。
「ならば牧村女史で良いのではないか? 人格は元より、ずっと女王の補佐をしていたのだからな」
「大志の割には良いこと言うじゃない。あたしも賛成」
瑞希の言葉に、他のコミックパーティーの面々も賛同を示す。指名された牧村南はやや困ったように頬に手をやり、首を傾げた。
「……私で良いのでしょうか?」
「あくまで郁美が帰ってくるまでの代理だよ、南さん」
「そうですね。皆さんがそう言うのでしたら……わかりました。しばらく頑張らせていただきます」
これでコミックパーティーも決まった。あとはカノンだが……。名雪が困ったように皆を見やる。
「それじゃあ、わたしたちはどうしようか?」
誰もが答えられず、口をつぐんだ。
カノンはコミックパーティーとは逆に、王位継承権を持つ者が多い。
妹である二葉。義理とはいえ娘であるリリス。そして妻である王妃の有紀寧と観鈴だ。
しかし妹の二葉はつい先日までエアの一員だったことを考えれば、一部の者に反感を抱かせてしまう恐れがある。
そしてリリスはあくまで養子だ。更に言えばリリスに政務などが出来るとは到底思えない。
となれば妻である二人のどちらか、性格や能力を考えれば有紀寧が妥当だと思われるが、その当人はいまこの場にいない。
「……とりあえずこの場では美坂……いや、香里が代理をして、正式な代理はカノンに戻ってから決める、というのでどうだ?」
「そうですね。佐祐理もそれで良いと思います」
朋也の提案に佐祐理が、そして次々と他の者たちも頷いた。
「香里さん、それで良いですか?」
「ええ。まぁ当面の間で良いなら、ね」
怪我の治療をどうにか終えたものの神化までして疲労の激しい香里は、椅子に深く背を預けながらそう答えた。
正直眠りたいというのが本音だが、預かった信頼には応えねばなるまい。香里はゆっくりと立ち上がり、ふらつきながらも前に出る。
「それではカノンの代表代行としてお訊ねしますが……今後どういう流れになるでしょうか」
「そうね。やはりまずは各々の国に戻って負傷兵などの治療に当たりつつ、王らの探索をするのが最善でしょう」
綾香が言い、ハクオロも頷く。
「だろうな。その間は同盟継続としよう。王不在の間に諍いがあっても困るから、な」
チラリと見られたのは神奈だ。エアがカノン王不在の間にカノンを再度攻め込むことも考えられる。それに配慮しての言葉だろう。
それをわかった上で、神奈は小さく苦笑しながら頷いた。
「わかった。こちらとしてもそれで構わんよ。我らの被害も大きいからな」
神奈としてももうカノンと戦いたくはない。これで体裁は保てる以上、臣下からも文句は出てこないだろう。
各国代表の賛同を得て、綾香が纏めに入る。
「じゃあ当面はその方向で。ではこれから各国探索班の検討を始めましょう。他の大陸に飛ばされたことも十分に考慮したうえでメンバーを選択――」
「会議中失礼します」
だが綾香の言葉を切るように、会議室に入ってくる者がいた。それは、
「セリオ……?」
綾香付きの魔導人形、セリオだった。いつも冷静であるはずの彼女の表情が、いまに限ってはやや緊張に固まっている。
「セリオ、どうしたの? 何かあった」
「はい。緊急事態です」
緊急事態。
その単語に、場にいる全ての者の顔が引き締まった。
「続けて」
「いえ、私ではなく……王妃よりお聞きください」
「王妃……?」
セリオは半歩ずれる。すると後ろから息も絶え絶えの一人の少女が入室していた。
綺麗なドレスは所々破れ、多少の血が滲んでいる。綺麗なはずの金髪も埃に塗れたその少女の姿を見て、一部の者が絶句した。
この場にいるはずのない者。その人物の名は、
「観鈴!?」
それまで傍観を決め込んでいた往人が叫ぶ。
そう、会議室に入って来た少女は間違いようもなく、カノン王の王妃、相沢観鈴であった。
「大変……大変なの! 祐一! 祐一はどこ!?」
明らかに狼狽している観鈴は、会議室にいるであろう夫、祐一の姿を探す。
だがもちろんこの場に彼はいない。それをいま告げればより混乱しそうだと判断した神奈が、観鈴に詰め寄った。
「落ちつくのじゃ観鈴!」
「か、神奈お姉ちゃん……!?」
「まず何があったか説明せよ! 一体何があったのじゃ!」
「う、うん」
祐一がいない動揺もあったが、信頼する神奈の登場により少なからず落ち着きを見せた観鈴が、深く息を吸い呼吸を整える。
「そ、それが……」
涙を瞳にうかばせた観鈴が震える口で放った言葉は、誰もが予想しえない最悪のものだった。
「王都カノンが……突然襲ってきたウォーターサマーに落とされちゃったの!」
あとがき
えー、お久しぶりです。神無月です。
神魔でこれだけ更新が開いたのは新章突入のときくらい? ともあれお待たせしました。
まぁ主な原因はアインナッシュなんですけどね(汗
彼の攻撃方法を描写するとどうしても似たり寄ったりになってしまいああでもないこうでもないと唸りながら書いておりました……。
やっぱあれですね。私は世界観構築や物語の整合性などを取る能力はあれども、地の文の描写が弱い。
まぁ単純に語彙が少ないのと表現力が低いってのが大きいんですけどねぇ……。あぁ、やはり小説は難しい(汗
えー、さて。とりあえず今回でシズク編は終了です。またぼちぼち彼らやあれらが表舞台に出てくる頃ですね。慧花なども以降から本格参戦してきます。
んでもって次回からは最後にあった通り視点がカノンに戻り、時間も若干戻ります。
そもそもシズク編で通して時間表示があったのはこちらと重ねたかったってのが大きいんですけどね〜。
年明け……1月はちょっとサンクリや修士論文などが忙しいので2月から通常通りに戻るかと思います。
というわけで、いろいろお待たせしてすいませんが、よろしければお付き合いくださいませ。
……でもそろそろ番外も書かないとなぁw