神魔戦記 第百六章

                     「始まりの鐘」

 

 

 

 

 

 祐一率いるカノン軍は軍靴を鳴らしアストラス街道を東に進んでいた。

 無論、向かう先はワン自治領。

 進むカノンの軍勢は全兵力のおよそ六割という大所帯である。

 王都は香里を総指揮に留美以下千近くの兵士が警戒態勢で警護している。エアやクラナド、あるいはシズクの奇襲も十分に考えられるからだ。

 それに加え今回はルミエ、杏、リリスが城で待機となっている。

 ルミエとリリスは渚のためで、杏は武器となる呪具をルミエに預けてしまっているためだ。

 また、朋也もこの戦いに参加したがっていたがそれは祐一が切り捨てた。ただでさえ弱っている渚を一人にさせるのは酷だろう。

 そしてもちろんユーノは約束通り国の戦いには参加せず、当然なのはも参加はしていない。

 なのはは亜衣のような民間協力者でもなんでもない。いくら力を持っているからと言え呼びつけるわけにもいかないし、できればしたくない。

 本人の意思でもなければ、できれば子供は戦いに参加させたくない、というのが祐一の本音だった。

「……まぁ、今回は亜衣も参加しているんだがな」

 わずかに振り向く後ろ、時谷と並ぶようにして歩く亜衣の姿。その顔に表情は無い。

 大掛かりな戦闘は初めて。その緊張……ともとれるが、おそらくそれだけではないだろう。

 クラナドには鹿沼葉子――エクレールの仇がいる。

 そのことを考えているのだろう。亜衣の周囲にはチリチリとした張り詰めた空気が漂っている。

 チラッと時谷を見やる。こちらの視線に気付いた時谷は、嘆息交じりに肩をすくめた。何を言っても無駄、ということなんだろう。

 復讐から全てを始めた祐一に何かを言う権利は無い。それは人に言われてどうにかなることでないことは祐一自身がよくわかっている。

 だから亜衣に関する思考はこれで終わりだ。そしてこれからのことを考える。

 進行速度、距離などを統合して考えるなら、エアとクラナドの合流軍がワンと接敵するのはカノンより二時間から三時間は早いはず。

 兵力差を考えればそれだけの時間はかなり痛い。下手をすれば到着したときには既に終わっている、なんてこともありえなくはない。

 しかし澪たちは絶対に持たせる、と言った。だからいまは信じて突き進むのみ。

 と、そのときだ。

「主様」

 空間から湧くようにして出現したのは、澪たちと先にワンに行かせたはずの美汐だった。

「美汐? どうした、お前には一時的にワンの指揮下に入るよう言ってあったはずだが?」

「折原王より言伝を預かってきました」

「言伝?」

 はい、と頷いた美汐は何故か小さく笑って、

「『高らかに宣言してくれ』……と」

「……高らかに宣言? なにそれ」

 祐一の隣で滞空していたあゆが小首を傾げる。だが祐一は訝しむこともなく視線だけを美汐に向け、

「もしかして兵に俺たちが援軍に行くことを言ってないのか?」

「はい」

 美汐の返事に思わず祐一は苦笑した。

「……随分と曲者だな、あの男は。いや、ここは『らしい』と表現するべきか?」

「概ね私も同感です。何も考えていないようで随分とずる賢い」

 祐一と美汐が笑いあう中、一人意味のわからないあゆがさらに「?」を連発する。

「ねぇ、結局どういう意味なの?」

「そうですね。つまり――」

 美汐の言葉を祐一が受け継ぎ、一言。

「折原浩平は人を煽るのが上手い、ということだ」

 

 

 

 それよりおよそ一時間後。

 エアとクラナドの合同軍はついにワン自治領の国境線にまで辿り着いていた。

 いまだ目視には至らないが、気配察知が鋭敏な者にはこの先にワン軍が集結していることを察知できるだろう。

 そんなわずかの距離を置き、クラナドの国王宮沢和人は小さくほくそ笑んだ。

「ご機嫌そうですね」

「当然だ」

 隣を行く葉子の言葉に和人は笑って答える。

「ここまで来ればアレを手に入れるまで目前だ。ようやく望んだものが手に入る。……機嫌も良くなるというものではないか?」

「しかしカノンが来るとは限りません」

「いや、来るな」

 断言する。

「なんせ古河渚を救出するためにやって来るような奴らだぞ? ライフラインのワンが大事というときに来ないほうが逆におかしい」

 それに来てもらわなければ困る。

 和人の望む存在。それはカノンにいるからだ。

 ワンを叩こう、とエアに進言したのは和人だが、そもそもワンの壊滅などオマケでしかない。邪魔だからいまのうちに消してしまおう、という程度のことだ。

 本来の目的はエアの力の実力を間近で把握することと、カノンを引きずり出すことの二つ。

 エアも遠野美凪の一件で浮き足立っており、またワンの人間がカノン軍に見られたこともあり予想より早く良い返事が返ってきた。

 これら全てが和人には、まるで自分のために世界が進んでいるようにさえ感じられた。

 全てが全て思い通りに言っている。これまではまさに完璧の進み具合だった。

 そして今回も見落としはない。穴はない。

 絶対の力はもはや目前まで迫っていた。

「宮沢陛下」

 そんな思考の上から、エア王国軍の総指揮を任された霧島聖がゆっくりと下降してきた。

 本来ならば、クラナドの和人同様にエア側の総指揮はエア女王の神尾神奈であるはずだった。

 和人自身、それを望んでいた。神族で五指に入ると言われる最強クラスの人物の能力がいかほどのものか試したかった。

 しかし神奈は単身王都に残った。出来る限り女王を戦場に出すわけにはいかない、という各部隊長の進言でこうなったのだという。

 おそらく隊長たちの頭には七年前の天沢郁未の件があるに違いない。あのとき神族有数の実力者だからと当時の女王を迂闊にも戦場に出し死なせたのだから。

 二度も同じ鉄は踏まない、ということなんだろう。和人の思惑で唯一外れた事柄でもあった。

 まぁこれはあくまで願望であり必須事項ではないので和人も無理強いはしなかった。逆にそんなことをして不信感を持たれたら意味がない。

「どうした、聖殿」

「はっ。ワンの軍勢との距離ももうわずかです。本陣を敷くのはこの辺りが妥当かと」

「いちいち進言してくれなくても構わん。私は戦場での指揮には無知だ。君に任せよう」

「はっ」

 恭しく頷き、再び上昇すると聖は周囲の部下たちに陣の形成を言い渡していく。

 それを一瞥し、和人は葉子が敷いた簡易椅子に腰を下ろした。

「しかし、力加減というものは微妙だな。一気にワンを壊滅させては、カノンが途中で引き返してしまうかもしれない」

「カノンがたどり着くまで、生かさず殺さず……ですか」

「それで今回の作戦なわけだ」

 今回エア・クラナドの合同軍が立てた作戦は、いわゆる波状攻撃というものだ。

 ただでさえ総兵力に三十倍近い差があるのだ。一気に畳み掛けるのが最も効率的だが、

「この地形により、それは適わない」

 地図を広げればわかるが、ワンの国境線上の半分はアゼナ連峰で埋め尽くされている。更に東側には森があり進軍には向かない。

 結局ワンへ向かうにはアゼナ連峰とこの森との間にあるわずかな平野を行くしかないわけだ。

 それでも十分な広さではあるが、この兵力を一気に進軍させるとなると手狭になる。

 故に和人は部隊を三分割し、それぞれ順に進行していくことを提案した。

 三分割したとしても十倍以上の兵力差があり、加え三つに分割していれば罠や奇襲などの不測の事態にも対応できるという利点もある。

 そして仮に最初の軍団を倒せたとしても同じ兵力の軍団が後ろに二つもあるとなれば敵の精神的疲労も見込める。

 あらゆる意味で理に適ったこの作戦は、すぐさま通っていった。

「……ワンを即時壊滅させないための作戦であるとも知らずにな」

 ククッ、と喉で笑う和人。結局全ては彼の思うままだった。

「実に……実に愉快だねぇ」

 そんな和人を、葉子はいつもの無表情でただ見下ろす。そんな葉子に言い聞かせるように、和人は軽く手を揺らせ、

「さぁ、始まるよ。お前もここでゆっくり見物していると良い。……この俺が絶対の力を手に入れる瞬間を」

 

 

 

「どうだ?」

 浩平は地べたに胡坐をかきながら、隣にいる清水なつきに訊ねた。

「どうやら国境線の手前に本陣を敷くみたいですね」

「まぁ、それはそうだろうなぁ。他には?」

「……なんか神族の偉そうな人……あぁ、霧島聖さんですね。が、いろいろ指示を出してます。それを受けて兵が分かれていって……。

 んー……どうも兵力を三分割するみたいですね、これは」

 まるで見ているかのように言うなつきだが、ここからではエア・クラナド軍の影などまるで見えない。

 気配感知は並の浩平なんかは気配すら未だ感じられないほどの距離だ。

 にも関わらず、確かになつきには見えているのだ。全てのことが。

 眼鏡を外した彼女の眼が、翠に薄く発光している。

 千里眼。

 遠方を凝視し、いかなる角度からも見通すことのできる一種の魔眼である。

 その魔眼に方向は関係ない。見たい場所をどこからでも見ることができるのが、この千里眼の特徴だ。

 魔眼の中ではランクの低いものだが、どのような物も使いようである。弓兵である彼女にとって視力は純粋なアドバンテージになるのだから。

「……うん、間違いない。兵力を分断してます。どうやら波状攻撃をしかけてくるようですね」

「波状攻撃、か。兵力が豊かな国は贅沢な使い方ができて良いねぇ。……くそ」

 皮肉を言いつつも、悔しそうに舌打ちをする浩平。

 意気込み進軍をして、国境線付近で敵を待ち構えているワンの面々。まずは奇襲から力押しで行くつもりだったのだが……。

「しかし……まずいな。あの作戦は一度きりだ。二度も三度も通用しないぞ」

 数で負けている側が数の多い相手に勝つ手段は限られている。

 地形を利用して罠を張る。あるいは完全な奇襲を成功させる。はたまた陣形戦術でどうにかするか。

 ともかく正攻法で行けば負けるのは確実なのだ。その辺りで対処する他ないのだが、

「数に物を言わせて一気に攻めてくると思ってたんだが……さすがにあちらも馬鹿じゃない、か。慎重なこって」

 毒吐くもそれで状況は好転しない。

 一度に攻めてきてくれればまだ勝算はあった。

 作戦が成功し、敵戦力が浮き足立てばそこを突き押し切ることもできただろう。

 だが分割されてしまえばそれも意味はない。一つの部隊を潰したところでまだ二つ、同じ数の部隊が残っているのだから。

「さーて、どうしたもんか……」

「でもあの作戦が成功すれば、相手もしばらく様子見で動かなくなるかも」

 はい、と紙コップを差し出してきたのは瑞佳だ。受け取ったコップには湯気の立つ紅茶。

 浩平はあまり紅茶は好きじゃないのだが、雲で太陽が覆われ気温の下がっているいまその暖かさは心地よい。

 サンキュ、とその紅茶を一気に呷りその熱さに、く〜、と呻きながら、

「……その可能性もなくはない。だが、相手に優秀な軍師か指揮官がいれば十中八九そのまま攻め込んでくると思うぜ」

 もしかしたら、なんていう綱渡りはできることならしたくない。それはもうそこにしか選択肢が残ってない場合の賭けだ。

「せめてあと一つ。三つの部隊のうち二つでも壊滅できれば、あとは陣形戦術でもどうにかなりそうな気がする。

 カノンが来るまでの時間。……残り一時間か二時間の時間稼ぎにはなるだろう」

「あと一つ、かぁ……」

「早く決めたほうが良さそうです。最初の部隊が動き出しちゃいましたよ」

「ちっ」

 いまだ視認できない距離だが、国境線手前からここまではそれほどの距離もない。十分もすれば視認もできるだろう。

 そして普通の人間が視認できる距離は超魔術クラスの射程範囲。大規模戦闘において出だしで超魔術により敵戦力を減らすのは戦における常套手段だ。

 そこまで近付かれるともう考え事なんかしている余裕はなくなる。決断は残り十分に絞られた。

 ――落ち着け、考えろ。何か、何か手はあるはずだ……。

 この状況を打破する方法が、必ずどこかにあるはず。そう信じて諦めることなく思考を展開するが……時間は無常に進んでいく。

 一分、二分、五分……。その頃には浩平にもエア・クラナド合同軍の気配を感じられるようになっていた。

 それでも何も思いつかない。やはりあの作戦を最初に持ってくるしかないか、とそう思ったとき……、

「お?」

 ザ、と。地をしっかりと踏みしめ浩平の前に立つ少女がいた。それは、

「澪……?」

『あれを、“万物流転”を使うの』

 澪の指が描いた字を見て、そこにいた誰もが驚愕した。

「駄目だ!」

 そしてすぐさま立ち上がり、浩平はそれを却下した。

「あれは二度と使うなって言っただろう!? わかってんのか!? あれはお前にかけられた呪いの集大成! あれを使ったら……お前の寿命が縮まるんだぞ!?」

『わかってるの』

「なら……!」

『でも、あれを使えば一つの部隊を壊滅させることなんて簡単なの』

 思わず浩平は言葉に詰まる。

 確かに、澪の『万物流転』を使えばあの程度の軍勢、一撃で消し去ることもできるだろう。

 だが、代償があまりに大きい。それを使えばただでさえ短い澪の寿命が更に縮まることになってしまう。

 けれど、澪は笑って字を描き続けた。

『大丈夫なの。寿命程度でこの危機が乗り切れるのなら安いものなの』

「程度ってお前……」

『だって、ここにいる皆は命を賭けているの。戦いに出る、ってそういうことなの。違う?』

 それはそうだ。相手だって殺すためにやってくる。戦場はいつ死んでもおかしくない空間だ。

『それは誰もが同じことなの。わたしも、そうなの。だから……たかが寿命程度でどうにかなるのなら、使うべきなの』

「澪……」

『あるものは有効活用するの。……たとえ、それがずっと忌み嫌った力でも』

 そう言って、澪はゆっくりと振り向いた。浩平に背を向け、天に字を綴る。

『わたしも皆の仲間なの』

 だから、

『指示を』

「っ……」

 浩平は堪えるように自らの拳をギュッと握り締め――そして諦めたように大きく息を吐き、言った。

「澪、頼む。俺たちのために、お前の力を」

 言葉に、澪は首だけ振り向かせ笑顔でこう書いた。

『喜んで、なの』

「敵軍……超魔術の射程範囲に入ります!」

 なつきの声により誰もが前を見る。

 そこから、見えた。

 地平の彼方、こちらへ進軍してくる人の群れが。

「確認! 第一陣には裏葉さんや柊勝平さんがいます!」

「やっぱりセオリー通り最初は魔術で攻めてくるか」

 これは大方の予想通り。両軍とも超魔術を扱えるレベルの魔術師をこの第一陣に動員しているだろう。

 だが、関係ない。

 澪の前に、超魔術など意味がない。

 浩平の見る先、そこで澪は手に持っている本を勢いよく開き、中空に字を綴った。

『写本、起動』

 

 

 

 エア、クラナド両軍の第一陣。

 その先頭には裏葉、そして柊勝平と春原芽衣がいた。

 霧島佳乃は長期戦を警戒して第三陣に組み込まれ、一ノ瀬ことみは魔術の発露を封印されておりいまはクラナドで待機中。

 というわけでこの第一陣で超魔術以上の魔術を扱えるのはこの三人だけだった。

「射程範囲内、ですね」

 翼をはためかせながら、どこかのんびりした口調で裏葉。

 その下で勝平と芽衣がそれぞれ頷く。

「ワンには上月澪さんがいるけど、ま、三発はさすがに防げないよね〜」

「そう、ですね」

「では参りましょう」

 裏葉の両手に強大な魔力が練り込まれていく。

 勝平と芽衣も各々詠唱を開始し、超魔術を形成していく。そして、

「『永劫の斬風道(トュアリアスド・ゼロ)』!」

「『墜落の地龍道(アークェリア・ゼロ)』!」

 勝平から風の超魔術が、芽衣から地の超魔術がそれぞれ放たれ、その上から、

 

裁きの聖十字(グランド・クロス) ”!

 

 ワンの部隊を焼き尽くさんとする光の古代魔術が放たれた。

 

 

 

 澪は感じた。

 前方の軍団から発射された三つの力を。二つは超魔術。そして一つはそれを上回る……古代魔術だ。

 だが数や力など澪にとってさしたる意味もない。

 結局、自分のすべきことはこれ一つなのだから。

『第零章を参照、禁節の禁項を解放。術式発動』

 本が中空に漂い、弾けるように魔力が飛び散った。

 荒れ狂う魔力の衝撃。近くにいる浩平や瑞佳たちが吹き飛ばされそうになるのを必死に堪えるほどである。

 そして写本からは何ページもの紙が破られ、円を描くように舞い、そしてそのそれぞれは六ヶ所に集中していく。

 上に、下に、右上方と下方、左上方と下方。

 そしてそれぞれが澪の指をなぞるように線を結ぶ。浮かび上がったそれは、

『六芒星、配置』

 綴られた文字に呼応するようにそのラインが発光する。そして澪はゆっくり手を移動させ、

『火』

 上を指差せば上に密集したページが燃え、

『水』

 下を指差せば下に密集したページから水が流れ出し、

『風』

 同じように右上方、風がうなり、

『地』

 左下方、砂が密集し岩を形成し、

『氷』

 右下方、凍結し、

『雷』

 左上方、帯電し、

『万物六種、ここに集いて一を紡ぎ、証の果てに流転する』

 そして六芒星の中心を指差し、そこに全ての力が密集した。

『そして、全てを終わらす零を生む』

 火、水、風、地、氷、雷。

 本来相容れぬ六つの属性が合体し、消失し、しかし反転して結合し、あり得ざるものがあり得ないものに転換された刹那、

 

万物流転(ファンタレイル)

 

 全てを消し去る六色の極光が世界を薙いだ。

 

 

 

 裏葉は一瞬何が起こったのか理解できなかった。

 ワンの陣営から突如湧き上がったあまりに巨大な魔力。それが何かを見極めるより早く、凄まじい光が放たれた。

 それにどれだけの力が内包されているのか、魔力の感知に敏感な裏葉でさえ計り知れない。

 そしてそれは裏葉たちが放った古代魔術と超魔術などまるで問題ではないとばかりに瞬時に消し去り、突き進んでくる。

 圧倒的な奔流。結界などあの前には無意味だと直感で悟る。

 だから裏葉は全力で上空へ逃げた翼をはためかせ、本能が警告する恐怖のままに。

 隣では勝平も風の魔術で同じことをしており、芽衣は地の魔術で地中へ逃げ込んだ。

 だが魔術師でもない兵士たちには逃げる術がない。

 六色の波濤が、到達する。

 瞬間、音が消えた。

「っ……!?」

 その魔力の奔流に煽られ、直撃ではないはずなのに結界を張っていないと耐えられない。

 全力で結界を張っているのに、余波でさえ防ぎきれず、破砕しようとしている。ここで結界が消えれば、あの光に巻き込まれそれこそ消し飛ばされるだろう。

 だから裏葉はただがむしゃらに魔力を上乗せして結界の維持に力を注いだ。

 まるで絶対の恐怖が過ぎ去るのを待つかのように、必死に自らの結界にすがり付いて。

 ……そしてしばらくすると、それは治まった。

 何秒か、あるいは何分か。それこそ裏葉たちには永久とすら思えたその一瞬。

 だが、その一瞬が全てを喰らい尽くした。

「……これ、は……」

 見下ろす先。そこには一切の何もがない。

 兵も、その死体も、鎧や武器も。草も、木も、埃も、一瞬だが酸素さえ消し飛んだ。

 あまりに絶大。あまりに圧倒的。

 生き残ったのは、裏葉と勝平、そして芽衣のみ。

「……ほ、本陣に退きます!」

 言うも、二人は愕然として声が届いていない。

「二人とも! ここにいてはまたいつあれが撃たれるかわかりません! 撤退を!!」

「「ッ!」」

 ようやく我に返る二人。それを従えて裏葉は急いで本陣へと戻っていった。

 

 

 

「命中。……生存者はわずか三名みたいです」

 なつきの言葉にワンの兵士が歓声を上げた。だが、それと同時に澪の身体がぐらりと斜めに揺らいだ。

「澪ッ!」

 慌てて受け止め、浩平は澪の顔を見た。

 真っ青、なんてもんじゃない。その顔は汗に塗れすでに土気色にさえなっていた。

「くそ! だから無理するなって言ったのに……!」

 六属性の融合、なんて本来は成しえない事象だ。

 対になる属性がぶつかればそれは消滅する。それが世の理。

 しかし澪はそれを力ずくで制した。呪いを受けた澪だからこそできる、否、澪にしか使えない魔術。

 万物流転。

 それは古代魔術でもなければ超魔術でもない、澪のオリジナル多重複合魔術である。

 威力は見ての通り。やろうと思えば強固な結界に防護された城でさえ一撃で抹消する脅威の魔術。

 だが、リスクも当然ある。

 そもそも六属性を使えること自体が呪いによるものなのだ。そして呪いは確実に澪の身体を蝕んでいる。

 そしてそれの集大成である『万物流転』は澪の命を削り取る魔術だ。

 できることなら使わせたくなかった。こうなることがわかっていたから……。

「救護兵ッ! 何をボサッとしてる!? 澪を連れてサディンまで下がれ!」

「は、はい!」

 慌てて救護兵がやって来て澪を担架に乗せて下がっていく。

 それを眺めていると、ポン、と瑞佳が肩に手を置いてきた。

「……そんなに自分を責めないで。浩平のせいじゃないんだから」

「わかってるさ。わかっててもどうにもならないことだってある……」

 澪の力は禁忌の力。手を出してはいけない領域に踏み入ろうとした上月家の夢想の具現が澪。

 ……それを阻止するために上月家を叩き潰しておいて、同じことを……力を要求した自分を浩平はぶん殴りたくなった。

 だが――そんなのは自分のエゴだ。

 これは澪自身の意思だった。

 そしてこうなることがわかっていながらも魔術を行使した澪のためにも、ここで怒りと悔しさに沈んでばかりはいられない。

 大きく深呼吸。それで全ての思考と感情をクリアにし――浩平は振り切るように前を見た。

「とりあえず第一陣は凌いだ。第二陣もあの作戦でどうにかなるだろう。時間稼ぎには十分か」

「かもしれない。いまの魔術を見てすぐに第二陣を寄越す気にはなれないだろうし」

 あれだけの威力の魔術を見せ付けられれば、誰もが恐怖し戦意を失うだろう。

 向こうはこちらの事情を知らない。また撃たれるのではないか、という疑心がある以上そう簡単に第二陣はやって来ない……はずだ。

「できることならこのまま撤退して欲しいね」

「……そう簡単に話が済めば良いけどな」

 

 

 

 そして案の定、浩平たちの読み通りエア・クラナド合同軍は三十分以上動きを見せなかった。

 

 

 

「とっとと第二陣を出せ!」

 仮設されたデスクを叩き、和人が本陣で叫んでいた。

「グズグズしている時間はない! 時間を掛ければその分相手に大勢を立て直す隙を与えるだけになるんだぞ!?」

 既に第一陣が謎の魔術により壊滅してから三十分。和人の怒りは頂点に達していた。

 いままでが全て上手くいっていた反動か。まさかついでとしか思っていなかったワンに計画の頓挫を突きつけられると思っていなかっただろう。

 ともかく、和人の狙い上、あまり時間を掛けてはまずいことになる。

 このままワンが無傷のままにカノンと合流してしまえば、数でこそ未だ勝っているが個人戦力の豊富な二国が相手だ。下手をするとこちらが撤退、なんてことにもなりかねない。

 そうなってしまえば全軍で進軍などという行動に出た意味がない。全てリスクだけで終わってしまう。

 だからこそ迅速に、いますぐ動き出さなければいけない。

「ですが、もう一度あの魔術を放たれたらそれこそ我々は追い込まれます!」

 しかし、浩平たちの言うとおり兵は先程の魔術が強烈過ぎてその恐怖心を払拭できてない。

 将兵たちもまた自分の部下をただの死地に送り込むことを良しとせず次の行動を渋っているという状況である。

 それすらもどかしいと言いたげに再び和人は机を叩きつけた。

「そもそもあんな魔術が連発できるのならこちらに近付いてとっくにこの本陣目掛けてあれを撃っている! そうすればこの戦いは終わりだ!

 それをしないのは何故だ!? あれが連射できないという何よりの証拠だろうッ!」

「それはそうですが、しかし確証が――」

「確証を求めて戦うなど愚の骨頂だ! 貴様は敵の正体や規模や能力やそれら全てに確証を得られなければ戦えないとでも言う気か!?」

「そういうわけでは……」

「ではなんだ!!」

 はっきりしない将兵に和人はクソ、と吐き捨てる。

 さっきからこの会話のループだ。なんだかんだと理由をつけつつ、出撃を渋っている。

 まずい、という思考が頭を過ぎる。思いもしなかった妨害に行き当たり和人の中に焦りが生まれ始めていた。

 だが、無論ここで引き下がれないのは和人のいるクラナドだけではない。

「宮沢陛下。エアの第二陣要員は準備が整いました」

 やって来たのは霧島聖だ。その顔には和人の目の前にいるクラナド将兵のような怯えは微塵も感じられない。

「……大丈夫なんだな?」

「確かに兵の士気は下がっています。が、宮沢陛下の言うとおり連射が可能なのであればこの時点で我々は壊滅しているでしょう。

 それがない、という時点で我々に残された道はただ二つ。怯えて逃げ帰るか、その可能性を信じ突き進むか」

 そこで一拍を置き、

「――そして、我らエアはこの程度で逃げることを良しとしません」

「……はは、そうか。さすがはエアだ。素晴らしい」

 そこで和人はキッとクラナドの将兵たちを見渡し、

「貴様らもこれくらいの気概を見せろ! 第二陣準備! 行けぇ!」

「は、はっ!」

 さすがにエアにこれだけ言われては将兵として引き下がるわけにもいかない。和人に言われるがまま慌てて将兵たちは出撃準備に取り掛かった。

「では、私もこれで」

「武運を祈る」

「はっ」

 恭しく頭を垂らし踵を返す聖を見送り、和人は安堵の息を吐いた。

 聖のおかげでどうにか撤退、という最悪の事態は免れた。が、時間は戻らない。

 このタイムラグがこれからの大事における致命的なミスに繋がらないことを祈るだけだった。

 

 

 

 そして第二陣が出撃する。

 なつきの千里眼により、それはすぐさま浩平たちにも知れ渡った。

「三十分か……。長森、どう思う?」

「思ったより早かったかもね」

「同感だ」

 とはいえその三十分も澪のくれた貴重な時間。

 無駄にする気は――微塵もない。

「さて……次は例の作戦で行くぞ」

 頷く瑞佳となつき、そして茜と繭。ここにみさおとみさきの部隊、そして雪見はいない。彼女たちは既に作戦位置で待機中だ。

「タイミングは奴らが超魔術の射程を通過して、こちらから魔術が来ないことを知って安堵した瞬間。

 ちょうどアゼナ連峰と森の間を抜ける頃合だ。細かい些事は長森に任せる」

「うん、任されたよ」

 瑞佳がゆっくりとフルートに口を添える。

 それを見て茜が傘を閉じわずかに前に出て、なつきの部隊が弓に矢をつがえ、繭の部隊が姿勢を落とし、タイミングを計る。

 緊張による静寂がワン側の陣を包み込む。

 そこに聞こえてくるザ、ザ、ザ、という大地を踏みしめる音。徐々に大きくなっていくのは無論エア・クラナドの第二陣だ。

 数分もするうちに視認ができるようになる。そして先程の魔術の応酬が行われた射程にまで先頭が入り、

「!」

 魔術が来ないことを知って一気に進軍スピードが上がった。

 もう怖いものはないとばかりの動き。しかしその勢いが逆に隊列を少しずつ乱していく。

 頃合だ。

「長森!」

 コク、と頷いた瑞佳がフルートを吹き始めた。

 華麗な音色。場所が場所であれば聴き入ってしまうであろう旋律だが、ここは戦場。

 しかし、音の絶え間ないその戦場でその音は不自然なほどに遠距離まで響き渡った。

 これもまた、クリスのフォルテール同様、一つの魔力楽器である。用途は単純。ただ遠くまで鮮明に音が響くだけ。

 だが、それこそが重要なポイント。

 その曲が始まったと同時、繭の部隊は一斉に地中へ姿を消し、茜は単身地を蹴って前進。なつきの部隊が弓を大きく上方に構えた。

 そこで曲調が一瞬変わる。テンポが落ちた。

 それを聴き、なつきの部隊が揃って弓を引き絞った。

「方位修正! 各員、なつきに合わせてください!」

「了解!」

「魔術装填! 目標、敵神族飛行部隊! ……射てッ!!」

 刹那、百近い矢が一斉に進軍してくるエア・クラナドの第二陣へ放たれた。

 だが、距離は未だ超魔術クラスでなければ届かないほどの距離。普通の矢なんてどう考えてもその半分までしか届かない。

 エア・クラナド側もその矢は見えただろう。そして何を馬鹿なことをしてるんだ、と鼻で笑う者もいた。

 しかし、清水部隊はワンの誇る四大部隊の一つである。

 無論、これで終わるはずがない。

「展開ッ!」

 なつきが叫んだ瞬間、射た矢が破裂し、そこから色取り取りの魔術が放たれた。

 突然のことに対応できず、その魔術に空中のエアの部隊が撃墜されていく。

「どうですか! これがなつきたちの力です!」

 なつきが率いているのはただの弓兵部隊じゃない。彼女の率いるこの部隊は、魔術弓兵部隊である。

 言うなれば魔術剣士の弓兵版。矢に魔術を込めて扱うという極めて特殊な存在だ。

 矢は言うなれば魔術発現の遠距離移動用の媒体であると言える。

 これは純粋に魔術を放つより射程が長くなり、命中率も上がるという利点が上げられる。

 その分弓の腕もなくてはならないが、そんなものは訓練でどうにでもなるものだ。

「第二射、構え! ――射てッ!!」

 続いて第二射が空を行く。

「くそ、厄介な攻撃を……! 各員高度を落とせ! このままでは狙い撃ちだぞ!」

 それを見て、第二陣の指揮を執っていた聖が高度を下げる指示を出した。

 しかし、堪らずエアの飛行部隊が高度を下げることこそ狙い通り。

 瑞佳のフルートのテンポが戻った。その瞬間、

「みゅー!」

 進軍する第二陣のど真ん中から、繭の部隊が地中から一気に出現した。

 だが勢い余って飛び出た繭たちは中空へ浮かぶ。驚きはしたもののすぐさまクラナドの兵たちが剣を抜き落下を待ち構え、

「そんなもので、どうするのー?」

 にこりと笑った繭が一瞬で、まるで空気を蹴るように地面に着地。そして手を大地に叩きつけ、

!」

 ズン! という音と共に高圧力の衝撃が大地に叩きつけられた。

 さて。いま地中には繭以下、十名以上もの椎名部隊が掘ってきた穴がある。そんな状況で上から地をも震わす一撃を叩き込めばどうなるか。

「なっ!?」

 当然、地面は崩落する。

 それはまるで強大な落とし穴のように大地を穿ち、クラナド部隊の真ん中にいた者たちが沈んでいった。

 慌てて穴から距離を取ろうと部隊が左右に分断する。

 が、それこそこの作戦の狙い通り。

 瑞佳のフルートが一際強い音を放ち、リズムをあげる。

 するとそれを合図にしたように、連峰の麓、そして森からそれぞれ少数の人影が姿を現した。

 右側からはみさき、以下部下五名。左側からはクリスと雪見、同様に以下部下五名。

 総勢にして十三名という少人数。クラナドの者たちも出現にこそ驚いたが、敵の数に緊張を解き、

「そこで安心してるようじゃ、駄目だねー。ま、こっちからすると楽で良いけど?」

 みさきは軽く微笑み剣を抜いて、

「いくよ、『明月』」

 みさきの永遠神剣『第六位・明月』の黄金の一振りが十人以上の兵士を吹っ飛ばした。

 その反対側でクリスも永遠神剣『第六位・贖罪』を振りかぶり、

ダークマター

 鎌を突き立てた大地から十本の漆黒の刃が伸び、兵士たちを串刺しにしていた。

「わたしも張り切らせてもらうわよ!」

 そして『デュナミス』と『エネルゲイア』により上級魔術を連発しながら雪見も剣を振るう。

「「突撃!」」

 みさき、クリスの号令を皮切りに他の者たちも突っ込んでいった。

 ワンの誇る四大部隊の一つ、川名部隊の精鋭が十二名に加えて雪見。その強さはクラナドの兵士数倍を相手にして怯むどころか押していた。

 それはなつきに繭、みさきやクリスの攻撃で虚を突かれたというのもあるが、純粋な能力差でもある。

 ワンは兵力こそ少ないが、だからこそ緻密な作戦と陣形配置、連携戦、そして各々の能力で戦っていく。

 そしてそれら全ての指揮の正体は瑞佳のこのフルートの旋律である。

 その二つ名、『戦場の指揮者(マエストロ)』。

 この方法であれば全ての者に音は届くが、意味するところを知らなければただの音楽でしかない。

 だからこそ、情報は味方にのみ正確に伝わる。

 信頼と訓練の賜物。

 彼女の演奏が、逐次ワン軍の動きを指揮していた。

「くそ、やってくれるなワンめ……。我々は地上クラナド軍の援護に回る! 続け!」

 地上での巧みな戦術に翻弄されるクラナド軍を見て、聖はそう部下に告げる。

 このままでは部隊大きく突き崩される。急いで大勢を立て直せねば、と下に降りようとして、

「!?」

 刹那、真上から得体の知れない攻撃が降り注いだ。

「なんだ……!?」

 聖こそ慌てて回避行動を取り難を免れたが、聖の部下たちが次々とその攻撃により切り刻まれていく。

 不可視の斬撃。それはそう表現するしかないものだった。

 そして真上。そこにいくつかの影がある。

「ワンにも空戦戦力があったのか……!?」

「ま、空戦もできるってだけでそれがメインなわけじゃないけど」

 声はその人影の群れの中央から。

 やや高度を落としてきたその影がようやく見えるようになってくる。

 それは、少女だった。黒髪と、爛々と輝く隻眼。そして背から生える……蝙蝠のような白い翼。

「貴様、何者だ……!」

「わたし? わたしは折原部隊隊長、折原みさお。そして――」

 クスリ、口元を歪めて笑い、

「――蜘蛛よ」

 な、と驚く間もない。みさおが振るった手の先から、キラリと光る何かが放たれる。

 ほぼ不可視、光の反射でどうにか見えるその正体は、

「糸……!?」

 よくよく見れば、背の翼に見えたものも翼ではない。

 蜘蛛の足のようなものの間に何重にも糸が巻かれている。それが翼の役割をしているだけのようだ。

「本当に、蜘蛛か……!」

「そ。不幸な事故で蜘蛛になってしまった哀れな人間よ。……まぁ、その力も使い道次第だって思うけどね!」

 みさおの指から糸が踊る。

 それら一本一本がまるで生きているかのように滑らかに動き、エアの兵士を切り刻んでいく。

「おーけーおーけー。良い感じだな」

 それらの光景を見て浩平はうんうんと満足そうに二度頷く。

 左右はみさきとクリスと雪見が、上からはみさおが、そして前面はなつきたちの矢により身動きが取れない。

 間髪入れぬ連携攻撃にエア・クラナドの部隊も陣形が崩れ上手く対応が出来ていない。

 集団が固まり、逃げ場もなく隙も出来た。

 こここそ、好機。

「さーて、詰みだ。……茜!」

「わかってます」

 いつもは差しているだけの傘を閉じ、その切っ先を天空へ向ける。

「全力で行きます」

 大きなマナの流動。 そして、

「――水は集まる――」

 囁かれた(まじな)いと同時、桁違いの規模で大気中のマナが水へと変化した。

 周囲一帯の水のマナの大半を一気に、だ。普通の呪具であれが明らかにキャリーオーバーだし、当人の魔力も枯渇するだろう。

 しかし茜もその呪具も平然としていた。

 さも当然。なぜなら精霊に憑かれる者は先天的に魔力を多く持つ者が多く、加えて茜に憑いている水精は五十二柱。

 またその呪具もあの小牧郁乃が作り出した一品である。

 故にこの程度は、造作もないこと。

「長森さん」

「うん」

 瑞佳のフルートの曲調が変わった。どこかアップテンポであったものが、一気にスローテンポに。

 まるで死者を弔う鎮魂歌の如く。

「「「「!」」」」

 それを聴いて繭たちが再び地中へ潜り、みさきやクリスたちが散開、そしてみさおたちは上空へそれぞれ牽制しつつ距離を取る。

 そして、それを待っていたのだろう。大量の水が、確固たる意思を持ってうねりをあげた。

――Annihilate the enemy (全て喰らい尽くしなさい)

 死の宣告。

 それと同時、上級魔術――否、超魔術をも上回る巨大な津波が一気にクラナド・エア軍の第二陣へ襲い掛かり一気に飲み込んでいった。

 水圧に叩き潰される者、水流に巻き込まれ溺死する者、様々なれど波に飲まれた時点でもはや生存の道はない。

「馬鹿な……こんな……!」

 聖を含めいくらかのエア兵は津波から逃れたが、地上を行くしかないクラナドの兵は全滅と言っても良い惨状だった。

「これが……ワン自治領の力、なのかッ!?」

 聖が愕然とワン本陣の方向を見やる。

 それが見えたわけでもないが、浩平は笑って言い捨てた。

「舐めてるからこういう目にあうんだよ。……これが俺たちワンの力だ!」

 その声はどこまでも高らかに、その姿はどこまでも雄々しく。

 ワン自治領。

 ここにその力が示された瞬間だった。

 

 

 

 あとがき

 はい、どうも神無月です。

 長いですね。えぇ長いですまた長い(ぁ

 本当はね、カノンが来るまで書きたかったんですが、あまりに長くなったのでここで切ってしまいました。

 最近こんなんばっかだなぁ(汗

 でもタイミングというか、ほら、切りにくい場所ってあるじゃないですか。今回も切りどころがなくてねぇ。

 一瞬澪の魔術発動後で切ろうかとも思ったけどそれじゃあ逆に短いってんでこんな状況に。うぅ〜、駄目だなぁ自分。

 さて、ともかく今回はワンの強さが見えたことでしょう。

 ……とはいえ、これは作戦や陣形や地形戦術なんかがあってこその結果です。

 個々の戦力は確かに高いですが、正攻法に正面から激突したら数十分で全滅するでしょう。それが数の差。そこんとこお間違えのなきよう。

 それにエア・クラナド側はまだ主戦力である往人や柳也、智代なんかを投入してませんしね。

 さて、次回はカノン軍到着と……そして、キー大陸編の山場とも呼べるアクシデントの発生。

 お楽しみに。

 

 

 

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