神魔戦記 第百五章

                   「明かされた狙い」

 

 

 

 

 

「絶好調〜!」

 と、いう叫びが室内にこだました。

 割合広い面積を持つここは、カノン王城の医務室。

 そこで数日前まで寝込んでいた少女……ミチル=レッドスピリットがそりゃあもう元気よく天井に向かって拳を握り締めていた。

「ミチル……。もうそんなに動いても大丈夫なの?」

「んに、大丈夫だよ美凪! ミチルはとっても元気だよ♪」

 ほらほら、と見せ付けるように美凪の周りを走り回る。そんなミチルを見て、ずっと心配そうな表情を浮かべていた美凪にようやく笑みが戻った。

「元気そうで何よりだ」

 それを見て美凪に付き添ってきた祐一も安堵の息を吐いた。

 その声が聞こえるまで祐一の存在に気付かなかったのか、ミチルは驚いたように祐一を見て、スッと美凪の後ろに隠れた。

 そこからそーっと顔を出して、

「……誰?」

「ミチル、失礼よ。……この人はこのカノンの王様、相沢祐一陛下。私たちを快く引き受けてくれた方なんだから。ほら、お礼を」

「別に構わんぞ」

「いえ、駄目です。ミチルの治療までしてくれたんですから。……ほら、ミチル」

「んに……」

 不安そうな、おどおどとした表情でゆっくりと美凪の影から身体を出してくる。

 瞳に込められた感情は――恐怖、か。無理もないだろう。ここに来ざるを得なくなった経緯を考えれば、対人恐怖症になってもおかしくない。

 そのまま数秒。口を開いたり閉めたりして、しかしようやく顔を上げて、細い声で一言。

「……あり、がとう」

「あぁ、どういたしまして」

「あ――」

 どうしようか迷ったが、祐一はそのミチルの頭を撫でた。

 軽く、安心させるようにゆっくりと。

 拒絶されるかとも思ったがミチルはただボーっと、不思議そうな表情で祐一と、その腕を見上げている。

「嫌か?」

 するとミチルはフルフルと首を振り、

「……なんでだろう。不思議と、嫌な感じがしない」

「そうか」

 とりあえず一安心して、祐一は撫でるのを続ける。するとあれだけ不安そうにしていたミチルの表情がゆっくりとほぐれていった。

 そんなミチルを見て、まるで母のような表情を見せる美凪。

 ――本当にミチルのことを大切に想っているんだな。

「お前が眠っていた頃は、美凪も随分元気がなかった。……もう、美凪を心配させるようなことはするなよ?」

「祐一さん……」

「……うん。大丈夫」

 だって、と前置きし、

「ミチルは美凪が大好きだから!」

「そうか。なら、平気だな」

「うん。ね、美凪!」

 パタパタと美凪に駆け寄り抱きつくミチル。それを抱きとめる美凪も含め、二人の表情はどこまでも優しいものだった。

 微笑ましい光景。しかし、

「……良かった。本当に……」

「……美凪?」

「……ごめん、ごめんね。私のせいで、ミチルに忘れられない傷をつけてしまった」

「美凪……」

 ミチルの元気な姿を見て感極まったのだろうか。ミチルをギュッと抱きしめながらかみ締めるように呟く美凪。

 けれどミチルは小さく横に首を振り、その背をあやすように抱きしめて、

「大丈夫、大丈夫だよ美凪。前も言ったけど、ミチルは美凪のためなら何でもできるもん」

「でも、それは――」

「だって、美凪はミチルや他の第四部隊の皆のために何でもしてくれるから。だからミチルたちも同じことをしてるだけだよ」

「ミチル……」

「いまだって、美凪は皆のために戦ってるんでしょ?」

 だよね、という視線が祐一に向けられる。それに頷いて見せると笑顔で、ほらね、と囁いて、

「だからね、ミチルたちも戦えるんだよ」

 美凪はいつも自分たちの盾であってくれた。そして先頭に立ってくれた。

 自分たちを守るように、自分たちを導くように。皆のために剣を抜き、戦ってくれたのだ。だからこそ、

「ミチルは、他の誰でもない。美凪のために戦うよ」

「ミチル……!」

 どこまでも互いを思いやり、涙する二人を見て、祐一はその場から離れることにした。

 いまはそっとしておく方が良いだろう。

 そして今度は別のベッドに足を運ぶ。そこで上半身を起こし本を読んでいるのは、

「随分元気そうだな、名雪」

「あ、祐一」

 青い髪をベッドに垂れかけながら、にっこりと笑う名雪。読んでいた本を閉じそれを脇の小棚の上に置く。

「お見舞いに来てくれたの?」

「あぁ。ついでにな」

「うわ、その言い方はひどいよ……」

「そうか?」

 言い合い、互いに笑う。

 祐一は見舞い者用の椅子をベッドの脇に置き腰を下ろして、ゆっくりと名雪を見据えた。

「しかし本当にもう調子は良さそうだな」

「うん。身体の傷はあの日にもう栞ちゃんに治してもらっちゃったからね。あとはちょっと酷使しちゃった魔術回路が自然治癒するのを待つだけ」

「痛みはないんだな?」

「うん。随分前から何もしない状態ならまったく痛みを感じなくなったよ。だから本当は普通の生活だってできるんだけど、どうしても栞ちゃんが……」

「あいつはそういうところ、頑固だからなぁ」

 栞はどうしても完治しない限りベッドから出してくれようとしない。祐一もホーリーフレイムとの戦いの後にそれを経験している。

 思い出し苦笑して、まぁそれなら仕方ないと頷いた。

「まぁあまり無理はするな」

「ふーん。率先して無理をする祐一がそれを言うんだ?」

「……それを言われると何も言い返せないな」

「ふふ、でしょう? ……でもホント、さっきのミチルちゃんの言葉じゃないけど、わたし、祐一のためなら無理したって後悔しないよ」

「……聞こえてたのか」

「当たり前だよ。広いと言っても、同じ部屋だよ?」

 確かに。

 それに魔族として標準以上の肉体キャパシティを持っている名雪の耳は人間族のそれに比べて格段に良い。聞こえないはずがなかったか。

「だから祐一。多少の無理は目を瞑ってね? 仕方ないな、って笑ってくれてたら……わたしはそれで十分だよ」

「名雪……」

「うん。だからもう少し待ってて? また戦えるようになって、祐一を助けるから」

「……そうか。それじゃあ、期待して待ってるさ」

「うんっ」

 ――本当に、仲間に恵まれているな、俺は。

 花のような笑顔を浮かべる名雪に別れを告げ、医務室から出たところで祐一はその幸せを噛み締めた。

 これだけしてくれる仲間がいる。その大切さを考えようともしなかった、あの頃。

 でもいまは違う。大切だと思い、だからこそ負けられないという意思がある。

「勝つんだ」

 この戦い、どこまで広がりいつまでかかるかはわからないが、それでも。

「絶対に、勝つ」

 この国を、失いたくはないから。

 と、

「陛下、ここにおられましたか」

 突如空間跳躍で美汐が現れた。

「どうした?」

「陛下に客人です」

「客?」

「はい、しかも二組」

 美汐は一拍を置き、告げた。

「王国エターナル・アセリアより大賢者ヨーティア様、そして王国ムーンプリンセスより蒼崎橙子様らがお見えに」

 

 

 

 謁見の間に移動した祐一は、正直その光景に唖然とした。

 何故ならば、

「ほうほう、なるほど。魔導タービンをそっちではなくこっちに着けるか。すげぇ発想だ。……いや待て。だとするとこれはどうなる?」

「集約エンジンはこの構造ならば準備から発動までの過程のほぼ後半。とすれば、順番や効率を考えるのならこっちに設置した方が得策だな」

「あ〜、なるほど。いや、さすがは魔術と建築学の両方を兼ね備えた人間は頭が違うねぇ。人形遣い蒼崎橙子の名は伊達じゃあなさそうだ」

「それはこっちの台詞だよヨーティア博士。こんな構造や理論、普通誰も考えないしましてや実現などさせない」

「はは、ま、誰しもが成し得ないことをするからこその天才なのさ」

 ……というように、なんかすごい意気投合して話し合っている二人の女性がいたからだ。

 と、そのうちの一人。祐一の見知った側の女性――古い知り合いである蒼崎橙子がこちらに気付いた。

「あぁ、祐一じゃないか。玉座なんかに現れて随分と偉そうだな」

「……偉そうじゃなくて偉いんだ。一応、国王だからな、橙子」

「じゃあ言い換えよう。随分と偉くなったじゃないか祐一。そして年上の人間に対する無礼な呼び方も変わらないようだ」

「それくらいの分別はもう着く。だが、どうしてもそっちの方が呼びなれているだけにな、今更変えようと思わないだけだ」

「はた迷惑な話だ。何はともあれ……久しぶりだな、祐一」

「あぁ、本当に」

「どうして橙子さんも祐一兄さんも挨拶より先に皮肉が口を突くんでしょうかね」

 お、とその声に視線を移せば、橙子の後ろに二人の少女がいた。

 どこかオロオロとした見慣れない少女の隣、憮然とした表情で腕を組み半目でこっちを見るのは、成長した、どこか懐かしい顔。

「お前……は、鮮花、か?」

「ええ、そうです。お久しぶりですね、祐一兄さん」

「……あぁ、本当に久しぶりだな。その呼び方も、その刺々しい台詞も。……素直じゃない性格も相変わらずそうだな?」

「なっ――!? い、いきなり人を侮辱するとは祐一兄さんは随分と意地悪になられたようで!?」

「さて、どうだかな」

「ぬぐ……!」

「おいおい祐一。あまり人の弟子をいじめるな。いじめて良いのは私だけだ」

「なるほど。それはすまないことをした」

「と、橙子さん!? 祐一兄さんまで何を……!」

 うがー、と両手を上げて怒る様はいつもの整然とした鮮花の面影はない。

 しかしその一連のやり取りに懐かしさを感じつつスルーして祐一はその隣の少女を見やった。

「そっちの子は?」

「あぁ、私の弟子二号だ。浅上」

「あ、はい!」

 挨拶をしろ、という意の視線を受け、浅上と呼ばれた少女がギクシャクと明らかに緊張した足取りで数歩前に出て、

「あ、あ、あの、わ、わたしはあ、浅上ふじ、ふ、藤乃って言います! その、ど、どうぞよろしくお願いし――ひゃあ!?」

 転んだ。しかも顔面から思いっきり。

 橙子がクツクツと喉を鳴らしながら笑い、鮮花がやれやれと頭を抱えている。その反応からして別段珍しいものでもないらしい。

「い、いたた……。う、うぅわたし、なんて恥ずかしい……」

「浅上、何をそんなに緊張している? ……あぁ、もしかして一国の王の城に足を踏み入れるのは初めてか?

 そういえば入城する前からどこか緊張している素振りだったな」

「だ、だって普通王城になんか踏み入りませんし! 平気そうな橙子さんや鮮花がおかしんですっ!」

「と言われても祐一相手に緊張など出来ないしな」

「私もまぁ、似たような理由でしょうか」

 あっさりと言い放つ橙子と鮮花。すると何かショックを受けたかのように沈没する藤乃。

 ……なんとも仲の良い三人組だ、と祐一は苦笑。昔の橙子からは考えられないところだが、祐一同様いろいろとあったのだろう。

 五、六年もあれば人は変わるものだ。

 さて、と祐一はその三人から視線を外しもう一組の客に向けた。そこにいる、ボサボサの髪に白衣を着こんだ女性を見やり、

「挨拶が遅くなって申し訳ない。あなたが大賢者ヨーティア殿か?」

「あぁ、いかにも私はヨーティアだ。ヨーティア=リカリオン。んで、こっちが私の護衛で着いてきてくれた二人だ」

 ヨーティアに付き従うように二人のスピリット。服装は人のそれとほぼ同じだが、髪や瞳の色からグリーンスピリットとレッドスピリットだろう。

 そのうちの一人、グリーンスピリットを見て祐一は軽く頷き、

「あぁ、一人は見覚えがある。確か……ハリオン、だったか」

「お久しぶりです相沢陛下〜。覚えていてくださって光栄です〜」

 ほんわかした口調で嬉しそうに微笑むハリオン。その笑顔は見る者全てを癒してくれそうな、そんな花のような笑顔だった。

「こら、ハリオン。もうちょっと言葉を選びなさい」

 で、そんなハリオンを嗜めるレッドスピリット。

「はじめましてカノン王。この度ヨーティア様の護衛として随伴しましたヒミカ=レッドスピリットです」

「ヒミカ、か。しばらくの間よろしくな」

「は、はい……」

 どこか不審そうな視線。それを見て祐一はヒミカの考えをおおよそ把握し、

「……スピリット相手に『よろしく』というのが珍しいか?」

「え、あ、いや……」

「まぁ、そうだろうな。スピリットのいままでの境遇を考えれば」

「別に、わたしは――」

 ヒミカが慌てて否定しようとした瞬間、勢い良く謁見の間の扉が開け放たれた。

 奔ってきたのか、息切れしつつやって来たのは、

「ヘリオン……?」

「あ、ほ、ホントだ! ハリオンさんにヒミカさんです!」

 わぁい、とヘリオンがダッシュして二人に飛びつく。するとハリオンは「まぁまぁ」と暢気に慌て、ヒミカは「ちょ、うわ」と割合本気で慌てていた。

 その光景を見て祐一は嘆息。横に仕えている美汐と香里を半目で見て、

「どっちだ?」

「美汐です」

「香里さんです」

 ようは二人とも、ということか。

「まったく……。言ってやるにしてももう少し後でも良かったろうに。こうなることは目に見えてたろう?」

「お言葉ですが陛下――」

「我が国カノンの誇る無茶苦茶なまでの平等さや自由さをアピールするにはこういう方法が一番かと」

 平然と無表情で美汐、そして香里。祐一はさらに半目を強くして、

「……明らかに皮肉に聞こえるんだがな?」

「「皮肉のつもりですが」」

「……お前たち随分と息が合ってるじゃないか」

「「別にそんなことは」」

「……そうか」

 はぁ、と重い嘆息。

 考えてみれば、美汐と香里は似ているところが多い。理路整然としているところや、頭が切れるところなども。

 そういう意味では意気投合してもなんらおかしくはない。まぁ仲が良いことは良いことだ、とやや強引に考えを帰結させた。

 と、そんなヘリオンたちやこちらの光景を見ていたヨーティアが声も隠さず笑い声をあげ、

「あっはははは、いや、まぁレスティーナ殿から聞いちゃいたがまさかここまで奔放な国だとは思わなかったよ!

 全種族共存国、か。言うだけはあるってことかねぇ? 祐一殿も随分と皆から慕われているようだし」

「はい、祐一さんは素晴らしい人ですよ!」

 ヘリオンが嬉々として答え、さらにヨーティアが大笑いする。祐一としてもそこまで笑われればいっそ清々しかった。

「はははは……あー、苦しい。いや、ともかくなによりだ。レスティーナ殿みたいな人物は稀かとも思ったけど、いやはやいるところにはいるんだねぇ」

「レスティーナ女王はもっとしっかりしてそうだが」

「い〜や。あれはあれでなかなか茶目っ気たっぷりだよ。本人は隠せてると思ってるあたりがまた微笑ましいところだけど」

 そうなのか。会った感想としては随分と凛々しく、どこまでもしっかりとしていそうなイメージだったが……。

 ――いや、そういえば新発明云々のときはある意味茶目っ気があった、とも言えるか。

 あのときの悪戯を楽しんでいるような笑顔は、歳相応の少女のそれだった。あれを考えるに、きっとそのレスティーナの方が地なんだろう。

 それはともかく、だ。

「ま、レスティーナ女王の話はまたいずれ聞くとして、だ。……ヨーティア殿と橙子は既に知り合いだったのか?」

 先程の会話から察するに旧知の仲というわけではなさそうだが……。

 すると橙子が、それはな、と煙草をふかし、

「偶然同じ船に居合わせてな。私が声をかけた」

「同じ船に?」

「あぁ。本当はチェリーブロッサム王国の港を経由して来ようと思ったんだが、そちらはどういうわけか出港が止まっててね。

 やむを得ず王国エターナル・アセリアを経由して来ることになったわけだが……」

 無造作に髪を払って、

「ワン王国行きの便に乗っているときに、見るからに科学者然としている人を見つけたんだ。加えてスピリットを二人も連れている……。

 祐一からの依頼の手紙を受け取っていたことから考えても、まぁ、ほぼ間違いないだろうと思い声をかけた」

「私としてはかーなり驚いたけどね。何分狙われることの多い身だから、最初は敵かと思った」

 その疑いもすぐに橙子の自己紹介で消え、互いが今回共同作業をする相手だとわかり、話をした結果すっかり意気投合。

「で、そのまま一緒にここまで来た、というわけだ」

「なるほど。つまり王国エターナル・アセリアからの新技術の内容は――」

「既に聞いている。材料さえ揃っているのなら、いつでも建設を開始しよう」

「いや待て。橙子は聞いていても俺はまだ聞いてない」

 このやや自己中心的なところは相変わらずのようだ、と思いつつ祐一はヨーティアに向き直り、

「まずはそれがどういったものなのかを教えて欲しい」

「あぁ、良いよ。私は私の発明を説明するのが大好きだからね。長くなるけど良いかい?」

「……できる限り手短に頼む」

 ちぇ、と頭を掻き、ヨーティアは脇から一枚の紙を取り出し渡してきた。それは、

「設計図、か……?」

「そう。それこそ今回この天才たる私が作り出したもの。その名も……『エーテルジャンプ装置』」

「『エーテルジャンプ装置』……? それは一体……?」

 するとヨーティアはよくぞ聞いてくれました言わんばかりに大仰に胸をそらし、解説を始める。

「いかなる生き物もマナによって構成されている、ってことは知ってるかい?」

 頷く祐一を見て、なた話は早い、とヨーティアは口元を吊り上げる。

「後は簡単さ。この装置はその人物のマナ連結を一時的に解除、構成を保存して別の装置にエーテルを利用して高速転送、再構築するのさ」

「……なるほど、そういうことか」

 人間サイズのものを一瞬で長距離移動させるのは難しい。が、それが目にも見えない粒子サイズともなれば話は別だ。

 おそらく魔術的な流れをエーテルにより装置間で発生させ、その波にマナを乗せることで一瞬で移動。

 あとは再構築、マナ連結し元に戻せばあら不思議、見た目には一瞬で移動が完了、というわけだ。

「つまりこれは装置が二つでワンセットなんだな? 受ける側と送る側とで」

「あぁ、そうだが……。いや、なんだ、本当にすごいな祐一殿。うちのレスティーナ殿ですらこの理論をすぐには理解しなかったぞ」

 もう少し驚いてくれても、とどこか不満げに呟くヨーティア。祐一は軽く苦笑いを浮かべ、

「いや、そうでもない。恐らく俺も前例を見てなかったらこうも簡単に信じられなかっただろう」

「前例……? ちょっと待て、それはどういうことだい?」

「ようはあの折原王のやっていたことを人為的に引き起こし、装置間でやり取りする、ということだからな」

 普通マナの連結を解除して再構成云々など、世迷言としか受け取れないだろう。

 そもそも生物はマナで構成されているという説もヨーティアが提唱したもので、他の研究者たちがその意見に乗っただけのもの。信じるにはやや心許ないところもある。

 だが、祐一はあの『半存在』という能力を持った浩平を一度見ている。とすれば信じる他ない。

 で、そのことをヨーティアに話すと、彼女はいきなり、

「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 とこちらの耳が痛くなるくらい大声で叫んで、

「マナ連結の解除や再構成を個人でやる、だと!? そんなことが――そもそも他の世界に存在の半分があるというのはどういう理屈だ? 仮に別の世界が存在するとしても、マナ構築は黄金比とも呼べるバランスで成り立ってるんだぞ? 半分もなければそれこそ崩壊しても……。いや、それともまさか何か『核』となるものが存在して、それがある場合は多少マナが薄らいでも存在を消すには至らないのか? そう仮定すると全ての謎が――いや、だとすればエーテルジャンプの原理に揺らぎが発生する……。いや待て、やはりこれは矛盾してる。もし『核』があるとするならば、それは人を成す上での中核となるはず。その場合折原王はマナ連結を解除したり再構築する際に『核』を露出するはずだがそれはない。とすれば『核』もマナでできている? だがそうなると前提条件が一致しない。『核』までマナでできているのなら別の世界にあってもおかしくなく、崩壊しない原因があやふやになる。とすれば――」

 ……ぶつぶつ独り言を呟きながら思考の穴に落ちていってしまった。

「……あー、ヨーティア殿?」

「仮に『核』の存在をαとすると人が人として存在するためのマナ濃度が――ん? 呼んだかい?」

「……すまんが折原王に関する考察は後にして説明を続けてくれないか?」

 ようやくそこで気付いたのか、ヨーティアはバツの悪そうに頭を掻き、

「お、あ、ああああ、すまんすまん。ついつい。わからないことがあるとすぐにあれこれ考えちまうのは悪いくせだな、ホント」

「このままエターナル・アセリアとこのカノンの友好が続けば、いずれ折原王に会うこともあると思う。そのときにでも本人に見せてもらえば良い」

「おや、ワンはカノンと手を組んだのかい?」

「まだだ」

「まだ、ねぇ……。ってことは既にその手筈は整ってる、と。いや、ともかくそれはなによりだ。

 それじゃあその『いずれ』を楽しみにさせてもらうこととして説明を続けよう」

「助かる」

「とはいえ、もう説明することはほとんどない。理論はいま言った通りで、既に実験も成功している。あとはこれを適当な場所に建設すれば良い。

 が、ここでちょいと問題がある」

「問題?」

 あぁ、とヨーティアは頷き眼鏡を正して、

「エーテルジャンプの送受が一基で両方できないこと。そして一回の転送じゃ十人くらいが限界だということだな」

「転送の限界人数は仕方ないとして、一基で両方できないということは……つまり送る装置と受ける装置は別々、というわけか」

「そうなるね。だからかなりかさばるけど……それだけの設置スペースはあるかい?」

 祐一は設計図に視線を落とす。そこに書かれている大きさは、およそ家二軒分に相当する大きさだ。

 野外なら問題はないだろうが、設計図から見て取れるとおりかなりデリケートな代物のようだ。

 どうせ十人程度しか一度に転送できないことと踏まえれば、出来る限り屋内の方が都合が良いだろう。

 とすれば、

「……そうだな。それじゃあ地下に建設をお願いしたい」

「地下?」

「あぁ。俺たちの前、旧カノン王国が使用していた広大な研究スペースがある。

 いまはもう器材もろもろ全部処分してしまったからがら空きなんだ。これを二基置けるくらいの面積はあるだろう」

 リリスや怒号砲といった研究をしていた場所がまるで隠されるように地下に存在していたのを発見したのは、新しい国造りを始めてすぐの頃だ。

 研究員はあのときの戦いで死んだのか逃げ出したのか。ともかく器材だけが放置されていた地下は、いまやもうただの広い空間でしかない。

「まぁ私たちはどこだって良いよ。そっちの都合の良い場所にしてくれ」

「わかった。それじゃあこちらで手配しておいた材料もそっちに回しておくとしよう。あとは――」

「ご報告申し上げます!」

 言葉を切るような大きな声が謁見の間に響き渡った。

 同時、入ってきたのは久瀬隆之。

 節度のしっかりしている隆之が、客人がいるときに謁見の間に現れることなどまずない。

 つまりは――それを無視してでも報告せねばならない何かが起きたということ。

「久瀬か。何かあったか?」

「はい。実は……」

 と、久瀬が橙子たちを見やる。しかし祐一は構わないと視線で告げた。すると一度恭しく頷き、

「……クラナド軍に動きが」

「何……?」

「北上を続けていたクラナド軍は数日前よりエア王国の城砦グエインTに駐留していたようなのですが、ここにエアの想定範囲の全軍が合流」

「エアの全軍だと……!?」

「そしてエア、クラナドの両軍はそのまま東に進軍を開始したとのこと」

「東……そうか、そういうことか! くそ、やられた!」

 祐一は弾かれるように席を立ち、

「久瀬、すぐに全軍を召集させろ! 美汐、お前は雪見と澪、そしてクリスを呼んできてくれ!」

「「御意」」

「香里はヨーティア殿たちを案内しろ。その後、そのまま護衛に入れ。城の指揮もお前に預ける」

「御意」

「……戦いかい?」

 真顔になったヨーティアの問いに頷きを返す。

 するとヘリオンが駆け寄ってきて、

「あ、あの、祐一様、これは一体……?」

「最初、あいつらの狙いは俺たちだと思っていた。エアと合流して一気に叩く算段なのか、と。だが間にアゼナ連峰があるし現実的な策じゃないと思っていたが……狙いは最初から俺たちじゃなかったんだ」

 え、と呟くヘリオンを真っ直ぐに見て、祐一は苦々しく口元を歪め、

「あいつらの狙いは――ワン自治領だ」

「なんですって……!?」

 その驚きはヘリオンではなく、ちょうど美汐の空間跳躍で現れた雪見のものだった。その隣には澪とクリスもいる。

「ちょっと、どういうこと!?」

「来たか。手短に説明するぞ。クラナドの全軍、エアの全軍が城砦グエインTで合流、一気に東に進軍している。間違いなくワンに攻め込む気だ」

「そんな……」

「いや、でもおかしくないですか? 全軍ということはいまエアとクラナドのそれぞれの王都は無防備ということですよね?

 カノン軍を無視して、それにシズクの脅威もある中でそんなことありえますか……? それじゃあ王都を簡単に攻め落とされてしまう」

「俺も最初そう考えたさ、クリス。確かにこの状況を利用して王都を攻め込み、落とすことはできるだろう。だが、その段階で俺たちの負けだ」

「負け……?」

「考えても見ろ。そうなると俺たちは占領地を守るために戦力を分散せねばならない。

 が、エアとクラナドの部隊は一点集中。しかもその頃にはおそらくワンも潰れているだろう。

 とすれば俺たちはワンの助けもなく三分の一の戦力で、エアとクラナドの全軍と戦わなくてはならない。……これで勝てると思うか?」

「で、ですが拠点を潰されてば兵糧もなくなりますし――」

「甘いな。エア・クラナド軍はワンを占領している、という状態なんだぞ?」

「あ――」

 ワンにある食料では一ヶ月も持たないだろうが、それだけあれば占領されていた首都を奪還することなど容易いだろう。

 なんせこっちは一箇所に一国の三分の一の戦力で、あちらは二国の全軍なのだから。

「俺たちじゃなく仮にこれがシズクだったとしても、結果は同じだろう。……してやられた。完全に後手に回った」

「じゃあ、どうすれば……!」

「落ち着けクリス。まだ手はある」

 祐一は雪見たち三人を等分に見やり、

「お前たちは美汐の空間跳躍ですぐにワンに戻れ。美汐の力ならエアとクラナドが到達するよりも早くワンに辿り着けるだろう」

「相沢陛下……」

「ここで黙って見ていることなどできない。ワンの存続はカノンにとっても重要な問題だ」

 ここでワンがやられてしまえばカノンはキー大陸で孤立する。戦力だけではない。食物の輸入経路がワンなのだから、そっち方面でも潰される。

「俺たちも兵の召集が完了次第すぐに駆けつけるが、それにしても二、三時間のタイムラグは出るだろう。だからその間を持たせて欲しい」

 エアとクラナドの全軍とワンの兵力比は三十倍以上の差がある。普通、その戦力差で二時間も三時間も持つはずがない。

 それがわかっているからこそ、エアもクラナドもカノンに対してなんの妨害行動も見せないのだ。どうせ何をやっても間に合わない、と。

 ……しかし、祐一はそうは考えない。

 祐一は知っている。浩平や茜、雪見に澪といったワンの面々の強さを。

 それこそ一騎当千の猛者がワンには揃っている。だからこそ、祐一はこう言えるのだ。

「二、三時間。絶対に死守してくれ。そうすれば俺たちが必ず助けに行く」

 絶対の意思を宿し断言する祐一。それを見た雪見たち三人は互いを見やり頷いて、

「言われるまでもないわ」

『二、三時間じゃない。絶対に守り通すの』

「なんせ、僕たちの国ですから」

「――頼む。美汐!」

「はっ!」

「お前は三人を連れて全速力でワンへ向かえ。以後、一時的にお前はワンの指揮下に入れ」

「――御意。さ、皆さん。私に掴まってください。行きます」

 そして次の瞬間美汐たちの姿が消える。それを確認してすぐに祐一は香里を見やり、

「城を頼む」

「はい。どうぞ、ご武運を」

「あぁ。行くぞヘリオン、お前も来い!」

「はい!」

 ヘリオンを伴い駆け出そうとして、

「祐一兄さん!」

 しかしその呼び声が足を止めた。その声の主は、

「……鮮花?」

「あの、兄さんは!?」

 兄さん、幹也のことか。

 下手をしたらここも戦地になる。それを恐れてのことだろう。だが、

「安心しろ。幹也はいまキー大陸にいない。あいつはいまサーカス大陸だ」

「サーカス大陸……? どうして――」

「すまん、鮮花。いまはその説明をしている時間がない。続きは後にしてくれ」

「……わかりました。絶対ですよ。それと……祐一兄さんもどうかご無事で」

「あぁ、必ず戻ってくる」

 告げて、再び走り出した。

 ここからは時間との勝負。

 いまできるのは出来る限り早く軍を動かすこと。そして、

「――ワンを信じること、か」

 

 

 

 それから三十分ほど後。

 ワン自治領、城塞都市サディンの北方、国境線沿い。

 そこに、ワン自治領軍のおよそ七割に相当する兵力が集結していた。

 残り二割は、まさに字の如く最後の砦であるサディンに、そして残り一割は万一のためにと王都に残してある。

 故にここにいるのは現在裂け得る最も最大の戦力なのだ。

「しっかし……まさか俺たちを狙ってくるとはなぁ」

 やれやれ、と先頭に立つ男――浩平が愚痴るようにして言葉を吐いた。

「ですが、確かに上手い手段ではあります」

 その左横で傘を差した茜が淡々と事実を告げる。

「兵力差は三十倍以上、下手をすれば四十倍。この戦力差はもうどうしようもありません」

「そうだね。これはかなり危ないんだよ」

 更に浩平を挟んで右横、困ったように瑞佳が嘆息する。

 しかしながら、でも、と前置きし、

「光明も、まだあるよね」

「ええ」

 頷く茜の視線の先、先程カノンから戻ってきた澪や雪見、クリスの姿がある。

 その三人はワンにとって貴重な戦力だ。その上、

「二、三時間でカノンが来てくれます」

 その情報が何よりも救いだった。後ろ盾があるのとないのじゃ気の持ちようも違う。

 ……だが、それなのに、

「――浩平。なぜ兵にカノンが来ることを言わないのですか?」

 そう。浩平は二、三時間後にカノンが来てくれることを兵に明かしていない。

 それに加え、祐一に指揮下に入るように言われたという美汐もカノンに返してしまったのだ。いまは一人でも戦力が欲しい場面のはずなのに。

 しかし浩平は何食わぬ顔で、

「ま、いろいろと考えがあるのさ」

 それだけで終わらせてしまった。

 茜と瑞佳は互いを見やり、そして同時に重い溜め息。とはいえ、それ以上何かを言うつもりは二人ともない。

 なんだかんだ言って浩平はここの王であり――そしてやるときはやってくれる人物だと信じているから。

 と、そこに四つの人影が現れた。それはワン自治領の誇る四大部隊のそれぞれの長で、

「浩平くん、川名部隊配置完了したよ〜」

 川名みさき。

「みゅー、こっちもー」

 椎名繭。

「いつでも行けるよ、お兄ちゃん」

 折原みさお。

「こっちも万全、予定通りです」

 清水なつき。

 そんな四人の言葉に浩平は満足そうに頷いて、

「よーしよし。最初の一撃はなつきの部隊だな。続いて繭の部隊、みさき先輩の部隊、で最後にみさおの部隊、と。

 奇策っつーのはタイミングが重要だ。万事、抜かるなよ?」

「心配性だなぁ、お兄ちゃんは。瑞佳お姉ちゃんがいればなんにも問題ないって」

「あはは、おだてても何も出ないよみさおちゃん?」

「事実を言ったまでだもーん」

 しかし四十倍近い戦力を相手にしているというのに、この和やかさはなんだろうか。

 誰も彼もがまるでなんでもないことのように振舞っている。

 というのも、隊長格含め浩平に近しい人間は誰もが確信を持っているからだ。

『折原浩平についていけば、なんとかしてくれる』

 そんな思いが、誰しもの心にあるからこそ、不安もなく、動じもしない。

 そもそも、ワンは血筋で王を決めるわけではない。

 十年に一度、民に最も信頼される者が王に就任するという形式を昔から続けている。

 にもかかわらず、まだ若い浩平が選ばれたその理由。

 それが、いま明かされる。

「でも、お兄ちゃん。一般兵は随分と不安そうだよ?」

「ん?」

 いま浩平たちの後ろにいる多くの兵は四大部隊のどれとも違う、一般の部隊だ。

 そしてその兵たちの顔には明らかな不安と絶望感が見えていた。

 それを見て浩平は、やれやれ、と軽く息を吐くと手近にあったやや小高い岩の上に飛び乗った。

「はーい、皆ちゅうーもーく!」

 パンパン、と二度手を鳴らす浩平に、兵の視線が集まる。

 それらを見渡した浩平はややげんなりした表情になり、

「おいおい、お前ら。なにしょっぼい顔してんだ?」

 無理もない。自分たちの兵力の十倍を軽く超える国が二つ、全力でこちらを潰しに来ているのだから。

 負けなど見えている。どうやったところで勝てるとは思えない。そんな顔。

 しかし、そんな兵たちの不安をわかっていながら、

「お前らわかってねぇな〜」

 さも簡単なように浩平は笑い捨てた。

「よーく考えてもみろ。あのエアとクラナドがだぞ? 俺たちを相手に全軍でやって来るんだ。この意味がわかるか?」

 問いに、兵の一人がややあってから口を開き

「だ、だからそれは我々を完膚なきまでに叩き潰すために……」

「そういうことじゃない」

 本当にわかってねぇなー、と呟きさらに指を立て、良いか、と前置きした上で、

「あの、どこまでも俺たちを……ワンを見下していたあの二国が、だ。そんな俺たち相手に全軍で動くってことだぜ?」

 無言。

 その矛盾にも感じ取れる事実に誰もがようやく違和感を持ち始めた頃、浩平は答えを言い放った。

「つまりあの二国は俺たちを大きな相手と認めたっつーことだ」

 本当に見下しているのなら全軍で攻めてこなくても良いはず。

 だがそれをしないのは……無論、圧倒的な数の差で一気に攻めきろうという考えもあるだろう。だがそれとはまた別に、

「嬉しいじゃないか。いままでないがしろにされてきた俺たちに、みっともなくも全力だぜ? 大人気ないと笑ってやろうじゃないか」

 実際に浩平は「あーっはっはっは!」と大笑い。誰もがポカンとした表情を浮かべる中、浩平はコホン、と姿勢を正し、言う。

「で、俺たちはそれに対してどう応えるのが格好良いのか」

 簡単だ、と不敵に笑い、

「叩き潰して、見返してやりゃあ良い。そしてこう言うんだ。これがワンの力だ、ってな」

 それを聞いた誰もが肩から力を抜いた。

 まったくとんでもないことを簡単に言ってくれて、だの、折原王らしい考え方だ、だのという声がちらほらと上がってくる。

 だがそれは侮蔑の意味ではない。仕方ないなぁ、と笑い飛ばせるそんな明るい雰囲気だった。

「目に物見せてやろうぜ、なぁ、皆。……見くびった相手がどんだけ格好良く、そして強い相手だったかを教えつけてやるんだ!」

 皮肉ではない笑いを見せる者がいた。頷きを見せる者がいた。おお、応える者もいた。

「しっかりと着いて来いよお前たち! 足を踏み揃えろなんて野暮なこたぁ言わねぇ! 己が足で走り、敵を討て!」 

 手を打ち、

「ここが俺らの舞台だぜ! 迎えるべき観客は山の如く! ハッ、乱雑上等、丁寧な接客なんてそこらに捨てろ! もてなしは拳一つで十分だッ!」

 大地を踏みしめ、

「絶対の意思を見せろ! こっちを見下してふんぞり返ってる奴らの頭に拳を打ちつけろ! その力が俺たちには――お前たちにはある!」

 ……皆の怯えが消えた。あるのはただやってやる、という意気込みのみ。

 それらを見据え、浩平は踵を返す。

 言葉の通り、ただ着いて来いと言わんばかりに背を見せて、そして拳を天に掲げ上げ、絶対の意思のもとに告げた。

「祭りだ。祭りだぜ野郎どもッ! ここで踊らなきゃいつ踊る!? 奴らの手を取り思いっきり騒ごうぜ! ――さぁ、派手に行くぞッ!!!」

 刹那、ワン兵士の雄たけびが大地を震わせた。

 

 

 

 それを見ていた瑞佳たちが互いを見やり首をすくめ、

「相変わらず――」

「浩平は人を乗せるのが上手いですね」

 そう。しかしそんなところがまたワン国王、折原浩平らしいところ。

 カノン王国の相沢祐一のように従うことに違和感を持たないようなカリスマ性を持っているわけではない。

 折原浩平は違和感を持った人間であっても強引に「仕方ないなぁ」と思わせることに長けているのだ。

 どんなときでも暢気で、しかし信じさせてくれるような笑顔と、そして行動力。

 それこそ、折原浩平がこのワンの王である所以。

 そんな浩平を知る誰もが苦笑を浮かべ、そして頷き合う。

「浩平の言葉ではないですが、せいぜい見せ付けてやりましょう、我らの力」

 茜の周囲を水が踊り、

「そうだね。慌てふためくところとか、見てみたいね?」

 微笑んだ瑞佳の腕にはフルートが現れ、

『決して勝てない相手じゃないの』

 澪の文字に呼応するように本が開き、

「みゅー、頑張るのー!」

 繭の元気な声に部下たちが腰を落とし、

「さっさと片付けて皆でご飯も食べたいしね〜」

 みさきがゆらりと剣を抜いて、

「やってやりましょう。浩平お兄ちゃんの言うとおり、ガツーンと返り討ち」

 なつきが弓に矢をつがえて、

「そうだね。ワンに手を出すこと、後悔させてやる」

 みさおの瞳が真紅に輝いた。

 そして、

「全軍――」

 浩平が手を振り下ろし、

「俺に続けぇッ!!!!」

 火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 あとがき

 どーもどーも神無月です。

 さて、いよいよ開始されましたキー大陸編中最も乱戦となるこのバトルが。

 エア&クラナドVSワン。そしてここにカノンもやってきてはてさてどうなることやら。

 ま、他に特に言うことはないですかね。次回はこの続きです。

 ワンの力を見よ!

 

 

 

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