今日、彼女ことセイバーは衛宮家を離れ、とある場所に赴いていた。

「なんと言ったのだ、セイバー。最近耳が遠くてな、どうにも聞き取りにくい」

「そうですか。ならアーチャー、もう一度言いましょう」

 遠坂邸。その大げさな門の前でセイバーとアーチャーは睨みあっていた。

 まさに一触即発。いますぐに宝具でも飛び出さんばかりの緊迫感の中、セイバーはもう一度口を開いた。

 

「アーチャー。あなたの作った料理を食べさせなさい」

「・・・・・・はぁ?」

 

 

 

 

       セイバーの夕食万歳

 

 

 

 

 

 

「で、これは一体全体どういうこと?」

 彼女、遠坂凛が自分の家に帰宅したとき、なぜか彼女はここが自分の家であるのかないのか識別できなかった。

 それはなぜか?

 答えは簡単。遠坂邸が半崩壊しているからである。

 あるところは切り裂かれたように、またあるところはなにかが爆発したかのように抉れたりしている。

 それだけなら、まだ良い。いや、良くはない。

 それに拍車をかけるかの如く、その遠坂邸の中。台所。そこではエプロンをしてむすっとした表情で鉄鍋を振っているアーチャーと、どこかウキウキした表情でテーブルに座っているセイバーの姿があった。

「・・・アーチャー?」

「俺はなにも悪いことはしていない。文句があるならそこの自己中心的な奴に言ってくれ」

「・・・セイバー?」

「私は何も悪いことはしていません。文句があるならそこの役立たずなサーヴァントに言ってください」

 哀れ、遠坂凛。言葉を交わすたびに増えていくしわの数は見る者に涙を誘わせる。

 そして凛は口を開いて、しかし口を閉じ。だがはやはり口を開き凛は―――アーチャーに視線を向けた。

「アーチャー!これはどういうこと!きっかりはっきり納得いくように三十文字以内に答えなさいっ!」

「どうして俺に振る?俺がこんなことをしないことは明白なのだから犯人がセイバーだということはわかるだろうに」

「口答えしない!いいから説明!はい!」

 有無を言わさない凛の口調に、アーチャーはやれやれとため息を吐きながらも器用に鉄鍋から中身を皿に移す。

「この状況で君を納得させるのは困難だが・・・。まぁ、簡潔に言うことは出来るな」

「・・・なによ」

 アーチャーはエプロンで手を拭きながら凛の方に向き直ると、

「セイバーが夕食を食べにきたのだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

 確かに、その台詞はいまのセイバーとアーチャーの状態を見れば納得できるかもしれない。

 しかし、それでこの廃墟と化した(なぜか台所とリビングだけは無傷だか)家の有様をどう納得せよとこの赤い外套にエプロンの男は言いやがるのか?

 凛がそのことを言うと、アーチャーはセイバーの待つテーブルにいくつかの料理を運びながら、

「ああ。それは俺とセイバーが争ったからだ」

 しれっとそんなことを言いやがった。

 聞いた話を要約すればつまりこういうことになる。

 

 セイバー、料理を作れとなぜかえらそうに命令。

           ↓

 アーチャー、予想通りそれをあっさり拒否。

           ↓

 セイバー、唐突に風王結界を出現させ切りかかる。料理ぐらい無償で作れと豪語。

           ↓

 アーチャー、セイバーの言い草に激怒。干将・莫耶や偽・螺旋剣を召喚させ、これに応戦。

           ↓

 両者一歩も退かず。というよりむしろ争いは苛烈になり途中から“約束れた勝利の剣(エクスカリバー)”と“無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)”が発生。

           ↓

 発動寸前で唐突にアーチャーが自分たちのしている馬鹿さ加減にようやく気付く。

           ↓

 アーチャーが折れ、料理を作ることを受諾。セイバーも剣を収め、いまの現状と相成った。

 

「・・・と、いうことで良いのかしら?」

 アーチャー、セイバー供に無言で頷く。とはいえセイバーはただ単に料理を口に運んでいて喋れないだけだが。

 そんな問題の当事者、セイバーを凛はキッと睨みつける。

「ちょっとセイバー!平気な顔して料理食ってるなんていい根性してるわね!そもそもあなたのせいでこんなことになったことに悪気や責任感はないの!?」

「それは責任転嫁というものです、リン。そもそもアーチャーがさっさと料理を作っていればこんなことにはならなかった」

「それこそ責任転嫁でしょう!?なんだってセイバーはアーチャーに料理なんか作ってもらおうと思ったのよ!」

「多少、思うところがありまして」

「・・・説明する気はないっていうこと?」

「ええ。それを知ればリンがどうなるかわからない。だから私はこのことは自分の胸に閉まっておくことにしました」

 そのとき、プチンと、なにかが切れる音がした。

 すると凛はおもむろにふところから黒曜石を取り出し、セイバーに向ける。

「あったまきたっ!Geww icht(重圧、),um zu(束縛、)Ver doppelu ng(両極硝)―――!」

 放たれた銀光はしかし、セイバーに当たる寸前にその効果を打ち消され、狙いの甘いそれらの弾丸はただ遠坂邸の破壊を促進したに過ぎなかった。

「うあぁぁぁぁぁ!ちょっとセイバー!ああ、もう!覚えてなさいよ、士郎!」(←大きく八つ当たり)

「落ち着け凛。そこまで取り乱すなんて君らしくないぞ」

「アーチャー、あんたわかってんの!?これ、この状況、一体誰が責任持つのよ!・・・もちろんセイバーのマスターである士郎よね!?修理費はもちろん慰謝料もふんだくってやらないと!あと今回の食費もね!・・・フフフ、それだけじゃすまさないんだから、士郎・・・フフフ・・・」

 昏い笑みを口元に浮かべ、手元をワキワキさせる様はアーチャーでさえ一歩距離を取るほどに怖かった。

 そんなことが外野で起きていることにも脇目も振らずアーチャーの料理を食しているセイバーは、口に食べ物を運ぶたびにコクコクと頷いていた。

 

 

 

 遠坂邸からの帰り道。

 もう二度と近付くなと凛に言われたことなどすでに忘れ、セイバーは先程食べたアーチャーの料理の味を思い出していた。

 間違えるはずもない。あの味は・・・。

 セイバーは誰にともなく頷き、前方を見上げた。

「アーチャー。あなたは士郎だったのですね・・・」

 実はセイバーがアーチャーの正体に気付いていたわけはこんなところにあったのだった!

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 この物語はフィクションであり、実際の物語とは大きく違うことを最初に言っておきます。

 ・・・と、いうわけでどうも神無月です。

 凛ルート。セイバーがアーチャーを気付いていた理由は?=料理の味。

 という方程式が成り立つかどうかは知りませんが、とりあえず勢いに任せてこんなものを製作。ふふふ、どうしよう?

 神無月初のFateのSS。どうだったでしょうか?

 おもしろければメールか掲示板でご一報くだされば、有頂天になった神無月がまたなにかよからぬものをつくるかもしれません。

 読んでみたいという物好きな方がいれば、お待ちしておりますです。

 

 

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