どこでも一緒
「・・・と、いうわけで。学校終わったらどっか遊びに行こうよ」
「どういうかけかわからん」
「右に同じくです」
時は昼休み。
学校の間では唯一と言っても過言ではない自由の時間。
そう、フリーダムである。
それをかみ締めるように、橙色の髪をした少女―――朽木杏(は手に握り締めた箸を、突き刺したウィンナーごと掲げ、
「わかってない! わかってないよ二人とも。良い? 今日という日はもう二度と来ないんだよ。ならば!」
ビシッと、ウィンナーを二人に突きつける。
「その日その日を大切にして生きていくことこそ大事なことなのだよ明智君!」
「誰よ明智君って。そんなことよりいらないなら貰っちゃうからね。あむ」
「ぬわぁ!? 私のウィンナーが捕食されたぁ!?」
フフン、と小さく笑みを浮かべながらウィンナーを租借するのは青山林檎(。その拍子に後ろで一本に束ねた赤い髪がふわりと揺れた。
「お、鬼ー! 私のウィンナー返せー!」
「あれ? もう胃の中に入っちゃったけど、それでも返して欲しい?」
「・・・致し方ない」
「だろう?」
「とりあえず吐いて返せ」
「その仕方ないかーーー!」
手元にあった巾着袋(林檎の弁当が入っていたもの)を林檎は勢い良くぶん投げる。それは杏の顔面にぺしっと直撃した。
「や、やったなー! 親父にもやられ―――」
「それ以上言わせないわー!」
「ぶむぅ!?」
杏お得意の芝居が始まる前に林檎は素早く杏の弁当からイカリングを取り出しその口へと放り込んだ。
むしゃむしゃと口を動かす杏に、林檎はふぅ、と小さく吐息。全ては丸く収まったと席につく。
そして杏はゴクンとイカリングをちゃんと噛んで飲み込み、
「や、やったなー! 親父にもやられ―――」
「繰り返さんで良い!」
「ふごぉ!?」
「―――二人とも」
チン、と音がなる。
同時、林檎と杏の動きがピタリと止まった。しかもどこか恐怖のような表情を浮かべて。
そうして二人は顔を向ける。いままで二人を傍観していた少女へと。
その青い髪を黄色のゴムで纏めた少女は、瞳を閉じ箸を置いた状態で動きを止めている。おそらくさっきの音はこれを置いた音のだろう。
二人が固唾を呑んで見つめる中、尋夜水琴(は、ゆっくりと瞳を開け、
「いまは食事中です。騒ぐのもほどほどに」
「でも・・・」「だけど・・・」
「―――良いですね?」
「「・・・は、はい」」
にこりと浮かぶ笑みの下放たれる強烈なプレッシャーに、さしもの二人も萎縮して自分の席へと戻っていく。
そんな二人を見て、水琴は頷きながら味噌汁を傾け―――、
「ってちょっと待って! なんで水琴味噌汁なんて飲んでるの!?」
「うわ、ホントだ。全然気付かなかった」
「・・・なにか、問題でも?」
「大有よ!」
その味噌汁はどこで入れたのかとか、そのお椀はどこから持ってきたのかとか、突っ込みどころ満載だが・・・、
「・・・はぁ。やっぱいいや」
林檎は疲れたような表情でドッと椅子に背をかけた。
水琴はときどきこう、常識では計り知れないことを平気な顔でやってのける人物なのだ。それは長い付き合いでよーく知っている。
諦めたように林檎は自分の弁当に手をつけるのだが、
「あー、私わかった。そのポットの中にお味噌汁が入ってるんでしょー?」
「んなわけあるかー!!」
「あら、杏、よくわかりましたね」
「んなわけあるのかー!?」
グデーっと林檎は力尽きたように机に上半身を広げる。
「どうしたの、林檎?」
「どうしました、林檎さん?」
「・・・いや、うん。そうだよね。もう今更だよねー」
首を傾げる杏と水琴に、林檎は自分がおかしんだろうかと錯覚を覚えるほどだった。
そうしていつものように騒がしい昼食は終わり、昼休みも終わる。
「さて、次は・・・音楽ですね」
「移動授業か。それじゃ、支度して行こうか?」
「あー、お腹すいたよー。どっか食べにいこうよー」
「いま昼食べたばっかりじゃん」
「あんなんじゃ足りーん!」
「まぁ、杏ならそう言うでしょうね」
「・・・はぁ、仕方ない。学校終わったらどっか食べに行く?」
「さんせー! さんせー!」
「仕方ありませんね。お供しましょう」
なんだかんだ言っても三人の顔に浮かぶのは笑みだ。
そうして三人は今日も一緒。
どこでも一緒。
そんな、三人の『ごく普通』の光景。
あとがき
ども、神無月ですー。
ようやっと完成しました。リクSSです〜。
やはり人様のオリキャラを書くのは難しいですねー。設定もわからんし(汗)
まぁ、でもそこそこ似せられたんじゃないか、とか思ってます。
では、そういうわけで。
これからもこの三人がおもしろおかしい日常を歩いていけますように。