それは、どこまでも広大な夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月夜の下、平野を行く群れがある。

 人間だ。服装も、動きも、全てがバラバラではあったものの、皆が皆同じ目で進軍していた。

 その前方、夜の闇よりもなお黒き軍勢がいる。

 眼を真紅に輝かせて、この世の全てを葬らんとその獰猛な牙を剥く。

 まずはお前たちからだ、とその黒の群れは近付いてくる波へと押し寄せた。

「さぁ、望め! 望めよ諸君! こここそ始まりにして終わりの場所! 我らの世界がここにあるぞ!」

 黒の群れを前に、集団の先頭を行く白い装甲服を着込んだ青年が声高に言う。

「佐山君佐山君、決戦の場を自分の世界だなんて――やっぱり随分と自己中心的だね?」

 その隣を併走していた、同じく白い装甲服を着た少女の突っ込みに、佐山と呼ばれた青年は軽く髪を掻き上げる動作をして、

「ふ。隣に新庄君がいる限りその場は既に私たちの世界だとも!!」

「ま、真面目にやろうよ!」

「ぐふぅ! こ、これから決戦だと言っておきながらこの脇腹への容赦ない一撃……! 新庄君はいつでもどこでも過激だね!?」

「佐山君こそそうやって微妙に変な方向に取られそうな言葉遣いが得意だね! も一発いくよ!?」

 拳を握り締める少女――新庄に佐山はハハハと笑みを浮かべ、前を向き、

「だが新庄君、その一発は後にしよう。祝杯代わりに一発見舞ってくれると私の心身は新庄君色に打ち震えるよ?」

「気味悪いからやめとく。でも……そうだね、終わったら祝杯あげたいね、皆で」

「あげるとも」

 笑みを見せ、佐山は拳を夜空に掲げた。

 煌々と大地を照らす、黒の湖面にただ一つ落とされたかのような満月に誓うようにして、

「いまここに未来を示唆するために――さぁ諸君!」

 バッと、勢い良く手を振り下ろした。

進撃せよ(ゴーアヘッド)!!」

 オォ、という返事と同時、群れと群れは衝突した。

 数はどう見積もっても闇の方が多い。激突してすぐに人の波が押され始めるが、

 ゴォ! と、闇の群れの先頭部分を真紅の炎が薙ぎ払った。

「出鼻を挫く! アラストール!」

「うむ」

 空を舞うは、黒衣を羽織りし煌く炎髪と灼眼を持ちし少女。

 フレイムヘイズ、『炎髪灼眼の討ち手』……シャナ。

「はぁ!」

 シャナの持つ刀、『贄殿遮那』に灼熱の炎が湧き上がり、その一閃が黒の軍勢を切り裂いた。

 だが一度開いた隙間も、すぐさま黒の波に覆われていく。

「数が多い……! 火力が足りない!?」

「なら、手伝うわよ!」

 声はシャナより上。月夜に栄える真紅の眼に尻より生える黄金の尻尾。それは、

「ようこ!」

 にこりと微笑むは、犬神のようこ。

 ようこがくるりと空中で旋回し、眼下を埋め尽くす黒に指を向けて、

「だいじゃえん!!」

 刹那、シャナの炎と同等とすら思えるほどの炎が直下に振り落ちた。

 シャナとようこの炎が混ざり合い、紅蓮の光となって黒の波を薙ぎ払う。しかし、それでもやはり止まらない。

 何体かの黒の獣が突如翼を生やしシャナとようこへと踊りかかっていく。

 シャナはそれらを刀で切り裂いていくが、ようこは対応が間に合わない。

「っ!」

「ようこ!」

 シャナが慌てて駆けつけようとするが、間に合わない。ようこは大きく目を見開き、

「――白山名君の名において告ぐ。カエルよ……破砕せよ!」

 それらを迎撃するように下からカエルの消しゴムが投げ放たれ、闇の獣は爆砕した。

 その攻撃。自らを守ってくれた一撃にようこは満面の笑みを浮かべ、自らの主の名を呼ぶ。

「ケイタ!」

「ったく、油断してんじゃねえぞようこ!」

 カエルの消しゴムを指に挟みながらにんまり笑うは川平啓太。犬神使いでようこの主だ。

「さっすがケイタ! かっこいいよ!」

「ありがとよ! ――って、下がれようこ! でかいのが来る!」

「!?」

 黒の獣の群れの中央、雄叫びを上げるように仰ぐ獣の上空に巨大な暗黒の球体が出現する。

 どういった類の代物なのか。距離はそれなりに離れているはずなのに、それでも身体をビリビリと衝撃が襲う。

「あれは、俺が潰す! お前たちは下がれ!」

 それを見て、怯むことなく前に出る青年がいた。

 どこかの学生服を着込んだ、一見普通の高校生だ。だが、その目はどこまでも真っ直ぐに暗黒の球体を睨みつけている。

 それを聞いてようことシャナが下がる。すれ違うようにして走る青年ごと目の前の軍勢を焼きつくさんと、その巨大な球体が発射された。

 人である限りどうあっても防げない冥府の一撃。しかし、青年は下がらない。ただ前へ、前へと突き進んでいく。

 お前たちなど怖くはない、とありったけの気合を振り絞り、その青年――上条当麻は右手を大きく振り被り、

「世界の滅亡、だと? ……ふざけんな」

 ギリッと、強く歯を噛み締め、

「そんな幻想――この俺がぶっ壊してやる!!」

 迫る暗黒の球体を打ち抜かんと、その右手を振り抜いた。

 するとどうしたことか。人である限り防げないはずの闇の一撃が、まるで壊れた風船のように一気に弾け飛んだ。

 感情のあるはずがない闇の獣たちがまるでざわめくように身体を揺らす。

 その右手の名は、幻想殺し(イマジンブレイカー)

 それが『異能の力』であるならば、たとえ神様の奇跡(システム)ですら打ち消す異能の右手。

 その手の前に、たかが(、、、)人の身では防げない程度の攻撃なぞ通用するはずもない。

 黒の獣たちがまるで怯んだように動きを止める。それを目にして、すぐさま佐山は進撃の号令を繰り出す。

 そしてそれに伴い、集団の後ろにいた天使の輪を頭に浮かべ凶悪なフォルムをした棘付きバットを構えた天使がむん、と力を入れた。

「さぁ、ボクたちも行くよ桜くん!」

「『さぁ、ボクたちも行くよ桜くん!』じゃないよドクロちゃん!? なんで僕たちこんなところにいるの!? 明らかに場違いだよ僕たち?!」

「もぅ、何を言ってるの桜くん!! 桜くんは人類の一人のとしてこのみぞーのききをどうにかしよう、っていう勇気はないの!?」

「無いことは無くもないかなぁ、とは思うけど僕はいたって一般の高校生だし……ってドクロちゃん人類じゃないじゃん!?」

「細かいこと気にしたらそこで負けだよ桜くん! それに大丈夫! そこまで心配しなくても! ……桜くんはボクが守るから!」

「おぉぉぉぉ!? とっても格好良いこと言って浸ってるところ本当に申し訳ないんだけどドクロちゃん!? エスカリボルグこっち向いてるこっち!

 違う違う、敵はあっちこっちは僕だっとおぉぉぅあえあぁぁ!? だ、駄目ぇぇぇ! エスカリボルグで僕のお腹を突っつかないでぇぇあぁあぁ!?」

 ……まぁこの二人は割愛する。

 闇の群れを、人の軍勢が切り開いていく。

 先程の上条の一撃が、闇の獣たちを浮き足立たせていた。

 とはいえ、それでようやく戦況は五分五分。数の違いがあまりに大きすぎた。

 そしてその事実が闇の獣たちに再び自信を取り戻させていく。人など所詮この程度。我らを相手に勝てるはずがないのだと。

 だが、そんな闇の獣たちを打ち崩すかの如く、両脇から突如破砕のきらめきが出現した。

「別働隊、来たみたいだね!」

「あぁ、少々時間に違いが生じたが、許容範囲内だ。いけるね」

 喜びの声をあげる新庄に、佐山もまた笑みで答える。

 そう、彼らにはまだ仲間がいたのだ。

 右側。

 黒の獣たちをゴミでも相手にしているかのように容赦なく打ち払っていく、飄々とした男がいる。

「……くだらないことをするね、闇の亡者たち」

 鬱屈とした嘆息をする獣たちと同じく黒のワイシャツとジーンズを着込んだ男は、月島亮史。

 ……彼は人間ではなかった。むしろこの目の前の獣たちに近い存在だ。

 何故なら彼は吸血鬼。本来は闇の側に位置する住人。

 それがわかるのだろう。獣たちは男を見る。何故我々と戦うのか、と。どうしてお前は人間なんかと共にいるのか、と。

 言いたいことはわかっているのだろう。亮史は一度二度と頷き、

「さて、どうしてだろうね」

 と、なんでもないことのように言葉を吐きながら、

「それは、うん。僕にもわからない。でも、そうだなただ一つ言えるとすれば――」

 にこりと微笑み、

「人は、僕たちよりもずっと尊いということだ」

 獣の群れを吹き飛ばした。

「ふむ、凄まじいな。これが本当の吸血鬼の力か。いや、以前吸血鬼事件があったがいまならハッキリとでまかせだとわかるな。まるで次元が違う」

「班長。そんなことをのんきに考察している余裕はありません。わたくしたちは別働隊としてこの無粋な獣さんたちを退けねばなりません」

 声は亮史の横から。

 そこには顎に手を添え何かを考え込みながらニヤニヤ笑っている白衣の男と、それを嗜める黒のゴスロリ衣装を着込んだ少女がいた。

 その後ろにも服装はばらばらであったが、多くの人間たちがいる。

 EMP学園。そう呼ばれる超能力者の学園の生徒たちだ。

「ふ、そうだったな。すまないね茉衣子くん。いまはこの不当占拠者たちを駆逐することが私たちの使命だったね。

 ……だが、彼らは何故このようなことをするのだろうね? 人が邪魔になったから? 人が地球を汚染するから?

 ならばなぜいままで黙って見ていた。これだけの力があるのならそれこそいままでいくらでも時期もタイミングもあっただろうに」

「班長お得意の推論は結構です。とにかくいまは目の前の敵の対処を」

 言って、ゴスロリ少女、光明寺茉衣子は獣の群れに手を翳した。するとそこにサッカーボールほどの光球が出現し、放たれる。

 熱量を伴った一撃が、獣たちに直撃する。一撃一撃はたいした威力ではなさそうだが、それもマシンガン並の連射とくれば話も別だ。

「茉衣子くん、随分と容赦がないね」

「当然です。このような想念体より性質の悪い存在、消すことを躊躇っている余裕はありません」

 話中も攻撃の手を緩まない。茉衣子はただ目の前の群れを駆逐するために光球を放ち続ける。

 その様に白衣の男、宮野秀策は一つ頷き、

「まぁ確かにな。私としてもここで朽ち果てるわけにはいかん。まだまだ知りたいこと、知らねばならぬことが多くある」

「でしたら班長も早々に動いてください。さっきから口こそ動いていますが手がこれっぽっちも動いておりません」

「あぁ、それはすまないね」

 と言って、宮野はパチンと指を鳴らした。

 するとどうか、闇の獣たちの群れに強大な暗黒の影が広がり、獣たちを飲み込んでいくではないか。

「想念体との関連性も考察したいところだが、それは後回しで良いだろう。ともかくいまは茉衣子くんの言うとおり闘争と行こう。

 さて、どうする地球の申し子たちよ。我ら人は神の言葉すら跳ね除けるぞ?」

 茉衣子としては宮野との力の差を感じつつ、またそれを悔しいと思いながらもいまだけは頼もしいと素直に頷けた。

 そうしてEMP学園生徒の攻撃が開始される。各種超能力が巻き上げる閃光が、闇の獣たちをぶち抜いていく。

 そして反対の左側。

 そこでは獣たちを焼き払わんと夜空を焦がす大規模な炎が巻き上がっていた。

「行くぞ、ベレス! こいつらを全部焼き払ってやれ!」

 黒光りする鎧に身を包んだ巨大な魔神が、その声に応えるように業火を撒き散らす。

 その魔神、ベレスを使役している青年は、朝霧奏。最強と謳われる、異空眼者。

 その手には魂すら切り裂く蒼種の刀、『偽翔』を構え、自らも獣の群れへ突っ込んでいく。

「『生き物としてのカオス』も倒し、怒りの日(ディレス・レイ)も通り越し、マイナス概念の活性かも抑え込んだ!

 それでもお前たちが世界を飲み込もうとしても、俺や未来や、その他全ての人間たちを終わらせようとしても……!」

 ありったけの想いを胸に、奏は偽翔を振り抜いた。

「――お前たちなんかに世界は譲らない!」

「その通りだぜ!」

 その奏に応じるように、上空を紫の光が切り裂いていった。

「全て踏み潰してきたんだ! この世界を潰そうとする魂胆全てを! なら……こんなところでてめぇらにくれてやるものなんかどこにもねぇ!!」

 それは、人間だった。紫に光る翼を背に生やした、一人の男。

 降旗洸。天使の欠片――聖骨をその身に宿す、最も神に近い人。

 しかし、その力を洸は人を守るために使う。

「来いよ、サンクレディア……!」

 洸の言葉に応じるように手に、天使の力の具現である楔斬刀(サンクレディア)が出現する。

 巨大な刃。二メートル近いかなりの重量を伴う剣を、しかし洸はしっかりと握り締め、

「とっととどけよ邪魔者ッ! 俺たちはここで生きていくんだ、いつまでも支配者気取りしてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 紫の光に満ちた刀身を一気に振り下ろした。光によりさらに伸びた刃が、黒の波を切り裂いていく。

 闇が、押されていく。

 この世界の意思であるはずの闇が、生きることを諦めないたかが『人間』たちに押されていく。

 闇の数は無限。これが世界の意思であるならば、そこに終わりなどあるはずがない。

 それを知っていてなお、何故諦めないのか。絶望しないのか。

 いつもはいがみ合っていて、意見が違えばそれだけで殺し合いを始めようとする種族が、何故こうして共に立ち上がるのか。

 UCATが、各Gの住人たちが、犬神たちが、フレイムヘイズが、学園都市の住人が、魔術師たちが、超能力者が、吸血鬼が、異空眼者が。

 そして他の一般人までが。何故こうまで戦うのか。

「世界が修正を望むか。……独りよがりな話だね?」

 その獣たちの疑問に答えるように、ポツリと佐山が呟いた。

「いつまで上に立っているつもりだ世界よ。私が生まれた時点でそんな理は既に崩壊しているよ。

 いや、私だけに限らず全ての生き物が生まれたその瞬間に、だ」

 ゆっくりと、当然のことのように、

「我らは我らが足で生を謳う。何故なら我らはこうして世界を歩いていくからだ。故に、勝手に見限ってもらっては困るね」

 やれやれと呟いて、前を向き、

「――だから私たちは戦うのだよ世界。諦めず、絶望せず、想いを胸に、誓いを我が手に、未来を夢見て、そこに希望を見出し……」

 言う。

「人はこれからも生きていく」

 闇の獣たちが否定を意味する雄叫びをあげる。

 その人こそが愚かな生き物だと。全てを根絶やしにする世界の敵だと告げる。

 だがここにいる人は全て想っている。

 どれだけの理不尽を突きつけられても、悲しみを背負わされても、それでも先を思い、人を想い、剣を取った。

 どれだけの邪魔が押し寄せても、切り開いていく開拓者のように。

 だから、

「諸君! 世界に我らが道を示せ! 我らの誓いを立てろ! 想いを刻め!」

 人は、進む。

 進撃する。

進撃せよ(アヘッド)進撃せよ(アヘッド)進撃せよ(ゴーアヘッド)ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は、人を拒絶しても。

人は、世界を望んだ。

 

これは、その戦いの、人々の物語……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スーパー電撃大戦

 

登場作品

「終わりのクロニクル」

「灼眼のシャナ」

「いぬかみっ!」

「とある魔術の禁書目録」

「撲殺天使ドクロちゃん」

「吸血鬼のおしごと」

「学校を出よう!」

「灰色のアイリス」

「想刻のペンデュラム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※注意※

この予告はフィクションです。ぶっちゃけ嘘です。

新連載でもなんでもないのでそこんとこよろしくです。

とりあえず勢いで書いてみました。というかきっとシナリオ破綻すること間違いなしだねw

というわけで突発ネタでしたー。

 

 

 

戻る