鳥のさえずりが聞こえる麗らかな朝。

 

 羽ばたく小鳥たちの向こうで輝く太陽は、今日も明るく世界を照らす。

 

 今日も良い朝だ。

 

 文句の付けようもない素晴らしい朝だ。

 

 しかし、俺の気分は晴れない。

 

「だめー!いくらカレハでもこればっかりはだめー!」

 

 いまは俺が通うバーベナ学園への登校途中。

 

「安心してください、亜沙ちゃん。神界は一夫多妻制ですから♪」

 

 向けられる視線は女子の百パーセントが好奇心、男子の百パーセントが殺意でできていた。

 

「もう、そういう問題じゃないの!カレハはぜんっぜんわかってない!ここは人間界であって神界じゃないの!わかる?」

 

「あらあら、大丈夫ですわ。一度神界で婚儀を済ませば人間界でも認められるようになったんです。そのように神王様が法律を変えてくださいましたから♪」

 

 そしてその視線の理由は先程から聞こえていたこの声の主である二人の女性にあった。

 

「それでも駄目なものはだめー!」

 

 左。俺の腕に体を絡ませそのふくよかな胸を肘に押し付けているのは時雨亜沙先輩。

 

 天真爛漫、人当たりも良く元気という文字はこの人のためにあるのではと思わせるぐらいにパワーの塊みたいな人。

 

 とはいえ、乙女のような一面もしっかりと備えており、そのギャップにノックアウトさせられた男子生徒も多いと聞く。

 

 ・・・まぁ、俺もそんな男子生徒の一人だったわけで。

 

 現在俺と亜沙先輩・・・じゃなかった、亜沙さんは・・・まぁ、その、恋人同士、な関係である。

 

「まぁ、亜沙ちゃんったら。稟さんを独り占めですか?駄目ですよ、それは。他にも稟さんを好いている女性はたくさんいらっしゃるんですから大目に見なくては♪」

 

 対して右。こちらも俺の腕にその身を絡ませてにこやかな笑顔を浮かべているのはカレハ先輩。

 

 品行方正、成績も良くスタイル抜群なカレハ先輩は、やはり亜沙さんと並んで三年のトップアイドルだと言われている。

 

 少々危険な部分もあるが基本的におっとりで、天使のようなカレハ先輩の笑顔に力を抜かれた男子生徒も多いと聞く。

 

 ・・・まぁ、それは男なら誰でも頷くところだろうが。

 

 とにもかくにもそんな学園のアイドルに両腕を掴まれて登校している俺は周囲のいいさらし者、というわけだ。

 

 ただでさえシアやネリネ、プリムラに楓といった面々とのことで呪いと言っても過言ではないくらいの恨みを買っているというのに、この状態は火に油を越えて原子力発電所に核弾頭を撃ち込むようなものだ。

 

 はぁ、と人知れずささやかな吐息を洩らした瞬間、俺の両腕が同時にぐいっと引っ張られる。

 

「「稟(ちゃん)(さん)!」」

 

「は、はい?」

 

 正面にはどあっぷのちょっと拗ねたように唇を尖らせた亜沙さんと、どこか期待のこもった眼差しで見つめてくるカレハ先輩。

 

 あ、なんかヤーな予感。

 

「「稟(ちゃん)(さん)はどっちが良(いの)(ろしいのですか)!?」」

 

 ・・・ほーら、来た・・・。

 

 

 

 

 

Happy Festival?

By・神無月

 

 

 

 

 

「実に羨ましい状況だね、稟」

 

「そうか。お前ならそうなんだろうな・・・」

 

 本当に呪い殺されるんじゃないかと思わせるような殺意のシャワーに晒されて、どうにか教室に着いた俺は樹の嫌味も軽く流してすぐさまどっぷりと机に沈み込んだ。

 

「疲れた・・・」

 

「お疲れ様です、稟くん」

 

「あはは、土見くんも大変そうねぇ」

 

 机の横までやって来たのは学園三大プリンセスと名高い幼馴染、芙蓉楓と魔族とのハーフにして学園一の情報通、麻弓=タイム。

 

 楓は本当に心配そうにこちらを窺い、麻弓は心底楽しそうにこちらを見下ろしていた。

 

「良い気味だよ、稟。君みたいな幸運の塊でできているような輩にはこれだけでもお釣りが来る。変われるのならぜひとも変わってやりたいね」

 

 前の席から嫌味を吐きまくっているこれは緑葉樹。見た目はハンサム、成績も良く運動神経も抜群。ただそこに鎮座していれば女性に万人受けしそうな男であるが、その実大の女好きで、趣味は美少女&ナンパという駄目人間ぶり。

 

 ときどき思うんだが、俺はどうしてこいつの友達やってるんだろうなぁ。

 

 しかしまぁ、ときたま良いことを言うやつではある。・・・ときたま、な。

 

「稟くん、おはよう」

 

「稟さま、おはよう御座います」

 

「あぁ、シア、ネリネ、おはよう」

 

 新たに教室に入ってきた美少女二人。

 

 その二人こそ楓と並び学園の三大プリンセスと名高い残りの二名。

 

 向かって右側。リシアンサス。通称シア。人一倍元気でいつも笑顔を絶やさない神族の少女。ちなみに神界の長である神王様の一人娘でもある。

 

 対して左側。ネリネ。通称リン。まぁ、俺の名前が稟だから俺だけはネリネと呼んでいるけど。物静かで、しかしそれでいて芯のしっかり通っている魔族の少女。こちらもシア同様魔界の長である魔王様の一人娘である。

 

 そんな二人は自分の席に鞄を置くと、こちらに向かってきた。

 

「あれぇ、稟くんどうしたの?なんかお疲れだね」

 

 ピョコン、とその尖った耳を揺らせてシアが訪ねてくる。

 

「いやね、また今日も三人で仲良〜く登校してきたそうで、周りの殿方からの視線に射殺されそうになったんですって。笑っちゃうわよねー、あははははは」

 

 俺の代わりにシアに答えた麻弓が、そのまま本当に愉快そうに笑い声を上げる。くそ、他人事だと思って・・・。

 

「稟さま、大丈夫ですか?稟さまの心身を深く傷付けるような方がいるのでしたら私が天罰を―――」

 

「うおっ、いい、大丈夫だからっ!だからこんなとこで魔力を集めるな!」

 

「え、あ、す、すいません。つ、つい・・・」

 

 ネリネの右手に集まりだした魔力を見て俺は慌てて止めに入る。

 

 どうにもネリネは俺のことになると見境がなくなるというか・・・。以前もこれで体育館丸ごと消し飛ばしたからなぁ。

 

「でもさ、結局土見くんはどうするわけ?カレハ先輩の言うとおり一夫多妻制おーけーの神界に行って二人ともげっちゅうですか?」

 

 ほれほれ、と肘で小突いてくる麻弓の横、シアとネリネがずいっと体を近づけてくる。

 

「もし神界で結婚するんなら何人とでも結婚できるし、あの・・・私とも・・・その・・・どうか・・・な?」

 

「そ、その・・・。わ、私も・・・よければそのうちの一人に・・・。ま、末席でも良いですので・・・」

 

 顔を赤くして詰め寄るシアとネリネ。くそ、・・・可愛いな、ちくしょう。

 

 それにしてもネリネ。末席って、昔の王族でも無しに・・・。

 

「おやおやぁ?これは遠まわしなプロポーズ!ほら、楓。あなたもボーっとしてないで名乗りをあげなさいよ」

 

「え、えぇ、でも、私は亜沙先輩に稟くんをお願いしましたし・・・・・・。で、でも・・・、もし稟くんが・・・良いって、い、言って・・・くれるなら・・・私は・・・・・・」

 

 顔をトマトのようにしてもじもじと俯く楓。

 

 ・・・あぁ、頼むからこれ以上そんな可愛いしぐさでこっちを見ないでくれ。ほら、教室中の男子の視線が痛いから。比喩無しに抉るような視線がすこぶる痛いから。

 

 そのとき、ガラリと大きな音を立てて教室の扉が開いた。

 

「ほーら、みんな席に着けー」

 

 ナイスタイミング!

 

 入ってきたのは我らが担任紅女史。

 

 教師の登場に俺に向けられた視線も渋々解除され、シアたちも残念そうに席に戻っていく。

 

 ふぅ、なんとか難は去った・・・。

 

 そんな表情が露骨に出ていたのか、樹が戻る前に一言。

 

「いいかい、稟。なにごとも先延ばしじゃいつか痛い目を見るよ。というか見ろ」

 

 うっ。

 

 人が気にしていることを言って去っていきやがった。しかも最後はどう考えても本音だったな、あいつ。

 

「はぁ」

 

 紅女史のHRを聞き流し、窓から見える厚く黒い雲を見やった。

 

 いま、季節は冬。

 

 亜沙さんと付き合いだしてもうかれこれ三ヶ月程度になる。

 

 最近では定期的に魔力を消費している亜沙さん。もう体調の心配もなく、平和に時は過ぎていった。

 

 おそらくカレハ先輩も亜沙さんの体調がもう良い事は気付いていたのだろう。

 

 カレハ先輩が俺に対して熱烈なアピールを開始し始めたのがちょうど安定してきた辺りからだったからだ。

 

 心配事はもうない、と言わんばかりの凄まじい攻勢に俺も亜沙さんももうたじたじ。

 

 ・・・しかし、まぁ。俺も男だ。ここまでされて嫌な気はしない。

 

 というか最近本気で考え始めている。

 

 亜沙さんという正式な恋人がいる以上カレハ先輩とは付き合えない・・・と前までは思っていた。

 

 だがしかし、どうしてと聞かれると俺としては返答に詰まる。

 

 カレハ先輩やシアの言うとおり神界は間違いなく一夫多妻制。向こうで結婚式を挙げるなら別に何人の女性と付き合っていようがおかしなことはない。

 

 それでも人間界での倫理観があるだろうと考えていたが、神王のおじさんを見ているとそんな倫理観もぶっ飛んでしまう。

 

 俺は亜沙さんが好きだ。これに嘘偽りはない。

 

 しかし、だからといってカレハ先輩が嫌いなわけじゃない。いや、むしろ好きな部類に入る。

 

 こう言っては駄目人間な樹と同格に思われるかもしれないが、シアもネリネも楓もプリムラももちろん好きだ。

 

 ・・・となると、下手に突っぱねるのもなんとなくおかしな気がしてこなくもない。

 

「・・・って、俺なんか駄目人間街道まっしぐらなような気がしてきたな」

 

 ヒュン!

 

「あ痛っ!」

 

 突然なにかが俺の頭に直撃。ぶつかった部分を手で押さえ、下を見てみれば転がっているのは・・・チョーク?

 

「こら、つっちー!ボーっとしてるんじゃないぞ!」

 

 俺のことをつっちーなんて呼ぶのは紅女史しかいない。どうやらボーっとしていた俺に気付いていたらしい。

 

「ははは、すいません」

 

「お前にはいろいろと気苦労があるのもわかるが・・・。いいか、お前のことだから大丈夫だとは思うが、決して緑葉のようにだけはなるなよ」

 

「!?」

 

「あ、いや、そんな落ち込まんでも。大丈夫だ、お前と緑葉とじゃそもそもできが違うから安心しろ。だからそこまで落ち込むな」

 

 ・・・そうか。傍から見ていたら俺は樹と同レベルなのか。

 

 頭ではほんの少し、1ミクロンくらいそうかなとは思ったが、他人にそう言われるとここまで衝撃を受けるものなんだな・・・。

 

「そうだよ稟くん。緑葉くんみたいなんてことはないから」

 

「そうです。稟さまはそんな人ではありません」

 

「だ、大丈夫ですよ。誰も稟くんのこと、樹くんと同じには見てませんから」

 

 各所から聞こえてくるシア、ネリネ、楓の励ますような言葉。しかし無常にも我がクラスの男子たちは魂の全部を込めたかのような勢いで首を横に振っていた。

 

 ・・・つまり俺はやはり樹と同じように見られているのか。

 

 まぁ、半分以上が僻みであることはわかっているが、それでもショックなものはショックだ・・・。

 

 ・・・・・・いや、待て。

 

 いっそ開き直ってしまうか。

 

 そうだ、物は試しと言うし。

 

「紅女史。俺はいま光明を見つけた気がします」

 

「そ、そうか。まぁお前のことだから間違いは犯さないと思うが・・・。自分の行動には十分気をつけろよ」

 

 いきなり立ち直った俺に、紅女史は少々たじろぐ。それでもしっかりと釘を刺しておく辺りさすが樹をして手強いと言わせるだけはある。

 

 さて、心は決まった。

 

 あとは一時間目終了後の休み時間・・・おそらく来るであろう二人にこの案を提示するだけだ。

 

 

 

 ―――そして教室に一人、ポツンといじける青年がいた。

 

「・・・・・・俺様っていったい・・・・・・」

 

 ちゃんちゃん。

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「よーし。今日はこれまで。各自、今日の範囲はテストでも出すからしっかりと復習しておくように」

 

 お決まりの台詞を吐いて教室を出て行く数学の・・・誰か先生。

 

 そして教室の空気が休憩時間特有の和らいだ雰囲気に変わった瞬間、

 

 ガラッ!

 

「「稟(ちゃん)(さん)!」」

 

 予想通り彼女たちはやってきたのだった。

 

 先手を取ろうと足を教室に入れた亜沙さんを遮るように立ちはだかり、そのままダッシュで俺の胸に飛び込んできたのはカレハ先輩。

 

「あぁ、ちょっ、カレハ!?」

 

「稟さん。ほんの少し会えないだけで胸が痛くなるなんて・・・。これが恋というものなんですね」

 

 すりすりと頬を擦り付けてくる度に鼻に届くほんの少しの香水の匂い。漂うそれは決してきついものではなく、その抑え目な感じがカレハ先輩によく似合っていた。

 

 ・・・いや、こう何度も同じ状況になると冷静になりもするっていうものだ。

 

 まぁ、周囲の相変わらずの刺すような視線にはさすがに慣れないが・・・。

 

「ちょっと稟ちゃん!稟ちゃんもボーっとしてないでカレハをどうにか―――って、稟ちゃんも顔赤くして!」

 

「い、いやでもカレハ先輩みたいな美人に抱き付かれたら普通男なら誰でもこうなるかと・・・」

 

「まぁ♪稟さんったら美人だなんて♪でも、稟さんに言われると私、とっても嬉しいですわ♪」

 

 そう言ってさらに身を寄せ付けてくるカレハ先輩。

 

 亜沙さんほどではないとはいえ、充分スタイルの良いカレハ先輩の胸がどうにも押し付けられるのですが・・・。

 

「カレハ!いい加減にしなさいっ!ボクの稟ちゃんを誘惑しないでよね!」

 

「あら?私誘惑なんてしておりませんわ。そういう亜沙ちゃんこそいままで稟さんを独り占めしてきたのですから少しぐらい私に譲ってくれてもよろしいのでは?」

 

「ひ、独り占めってねぇ!」

 

 きゃいきゃいと口論をし出す先輩×2。

 

 そんな二人を羨ましそうな顔で見るシアとネリネと楓とプリムラ。

 

 ・・・・・・って、プリムラ?

 

 白い肌と綺麗な瞳。あまりにも完成された端整な造りはまるで人形のよう。その歳にしては小さい背丈に、ある属性に拍車をかけるように髪はツインテールに纏められている。そこにいたのは間違いなくプリムラ。亜沙さんたちがあまりにも豪快に入ってきたので気付かなかったが、どうやら同じタイミングでこの教室に来ていたらしい。

 

「あ・・・」

 

 そのプリムラが俺の視線に気付いたのだろう、輝かんばかりの笑みを浮かべてこちらに手を振ってきた。

 

 そんなプリムラの行動に、俺は笑みを隠しきれない。

 

 随分と明るくなったものだと思う。

 

 昔の感情を表に表さなかったプリムラ・・・、本当の人形のように生気の感じなかった表情はもはや見る影もない。

 

「稟さん、どこを見ているんです?」

 

「えっ?」

 

 両頬を手で押さえられ、強引に視線を戻させられる。

 

 目前にはちょっとむくれたように口を尖らすカレハ先輩。うわぁ、やっぱ可愛いな。

 

「プリムラちゃんが可愛いのは認めますけれど、稟さんには私を見て欲しいですわ」

 

「あ〜、ですが、カレハ先輩。プリムラは家族も同然なわけで・・・」

 

「そんなことを言う口は・・・こうしちゃいますわ♪」

 

 ちゅ♪

 

 瞬間、教室の時が止まった。

 

 辺りを包むのは静寂と、一点に集中された視線のみ。

 

 だが、それはあくまでも空白の一瞬。

 

 嵐の前の静けさだった。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・まぁ♪」

 

 離された唇。そして潤んだ瞳でこちらを見上げたカレハ先輩は、視線が合うと恥ずかしそうに顔を赤くして両手を顔に添えた。

 

 ・・・・・・なんか、もう、

 

 負けだった。

 

「「「「「「あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」」」」」」

 

 そして時は動き出す。

 

 教室を埋めるのは校舎中に届くような絶叫。ガラスの一枚や十枚割れてもなんら不思議と思えないレベルの絶叫の後、

 

「り、りりりりり、稟ちゃんっ!な、なな、なにをしちゃってるのよ!恋人の前でぇ!」(亜沙)

 

「そ、そうです!稟さまとの、き、キスだなんて!しかもこんな大衆の面前で羨まし―――じゃなくて、恥ずかしくないのですか!」(ネリネ)

 

「そうだよ、稟くん!もう、こんなところでするんだったら私と―――!」(シア)

 

「シ、シアさん!どさくさに紛れて何を言うんですか!わ、私だって一回もしたことないのに・・・」(楓)

 

「良いなぁ、私もお兄ちゃんとキスしてみたいな・・・」(プリムラ)

 

 それぞれの言葉が、さらに殺気という名の密度を上げていく。

 

 あぁ、父さん母さん。俺がそっちに逝く日は案外近いかもしれません。

 

 しかしこれから自分が言うことを考えると、これでもマシなほうなんだろうなぁ、と考える。

 

 ・・・もういまさらのような気もするし、言ってしまうか。

 

「あの、亜沙さんとカレハ先輩に相談があるんですが」

 

「はい?」

 

「なぁに、稟ちゃん」

 

 こちらに向く二つの視線に、俺はわずかに喉を鳴らした。

 

 さて、これから俺が言おうとしていることは樹並の駄目人間道を行くことかもしれない。っていうかむしろそうだろう。

 

 そして下手をしたらみんなに愛想を尽かされる可能性も出てくる。

 

 それでも俺はこの言葉を言うのか?

 

 深く深呼吸をする。

 

 ・・・オーケー。決意は固まった。

 

 目線を上げ、二人に合わせると、俺はゆっくりと口を開いた。

 

「俺、試しに二人と付き合ってみようかと思う」

 

 再び静寂。

 

 いや、時はおろか音や風すらも切り取ったかのようで、さっきと比べてもなおその静寂は深かった。

 

 誰もが固まったように動けない。

 

 一秒か、一分か。

 

 それだけの時間を消費して、最初に動き出したのは・・・どことなくワナワナと震える亜沙さんだった。

 

「稟ちゃん・・・? 本気で言ってる・・・?」

 

「神界で一夫多妻制なのは事実だし、最近は無下に断るのもおかしいかなと思ってたんだ。だから、あくまで試しとして亜沙さんとカレハ先輩と一緒に付き合ってみようかな、なんて思って。それにほら、そうすれば亜沙さんとカレハ先輩もずっと一緒にいられるし」

 

 呆気に取られる亜沙さん。そしてなにかを口にしようとしたその瞬間、

 

「稟さーーーーーーん!」

 

 耳を大きく劈く声とともに跳んできたのは、見紛うことなきカレハ先輩の姿。

 

 そのままギュッと俺の体に抱きつき、

 

「稟さん稟さん、ついにその気になってくれたのですね!私、私・・・!とっても嬉しいですわぁ♪♪♪」

 

 本当に嬉しそうに微笑むカレハ先輩。その笑顔はすごく可愛くて、いつにもまして♪マークが炸裂していた。

 

「それでどうかな? 亜沙さん・・・」

 

 窺うように見上げる俺に対し、むぅ、とジト目でこっちを睨む亜沙さん。・・・いままで睨まれたことは多々あれど、その中でもこの視線の威力は絶大で、その沈黙は俺の胃に多大なダメージを与えていた。

 

 けど、しばらくして「はぁ」と大きく息を吐いて、

 

「もう。・・・ほんとうに仕方ないなぁ。稟ちゃんは・・・」

 

 スッと俺とカレハ先輩の横に膝を着いて視線を合わせながら、笑みを浮かべた。

 

「それじゃあ・・・?」

 

「まぁ、稟ちゃんが人気あるのは知ってたし? ボクとしてもカレハと一緒に稟ちゃんの奥さんっていうのも悪くないかなーって思ったわけでして」

 

「亜沙ちゃん・・・!」

 

 感極まった、といった感じで亜沙さんに抱きつくカレハ先輩。それをよしよしと宥める亜沙さん。

 

「これからもずっと一緒にいられるね、カレハ」

 

「はい。これからもずっと一緒ですわ、亜沙ちゃん」

 

 そして同時にこっちに振り替えり、

 

「「稟(ちゃん)(さん)と三人で」」

 

 それに対し、俺も大きく頷いた。

 

「もちろん」

 

 それと同時、一拍の間を置いて教室に湧き上がるのは怒号:悲鳴:号泣=7:2:1。

 

 まずいな。ここにいたら本当に命がいくつあっても足りないっぽい。

 

 ボーっと人事のように傍観を決め込んでいると、急に両方の腕を持ち上げられる。

 

「亜沙さん、カレハ先輩・・・?」

 

「ボーっとしてる暇はないでしょ、稟ちゃんっ」

 

「そうですわ。ほら、早く逃げないと」

 

 笑顔で腕を引っ張っていく二人。

 

 あぁ。

 

 きっと俺はこの二人の笑顔が大好きで、それをずっと見ていたくて。

 

 倫理なんか気にしなくても良いんだな。それが大切なら、それで良いんだろう。

 

 今日から神王のおじさんや魔王のおじさんの考えが少しは理解できそうだ・・・。

 

 だからまぁ、俺も走り出す。

 

 いつまでも三人が笑顔でいられるように。

 

「よし、逃げるぞ!」

 

「うん!」「はい!」

 

「あ、待ってよ稟くーん!私も一緒に行くよー!」

 

「稟さま、私もついていきます!」

 

「ま、待ってください稟くん!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 ・・・もしかしたらその笑顔の数は増えることになるかもしれないけど・・・。

 

 でもまぁ、とりあえずは・・・、

 

「命があってから考えることだな」

 

 まぁ、そういうわけで・・・、

 

 今日も今日とて土見稟の人生は波乱に富んでいましたとさ。

 

 ちゃんちゃん♪

 

 

 

 

 

 あとがき

 以上、SHUFFLE!のSSを捧げる、どうも神無月で御座います。

 これどうなんだろ。年上属性の方のハートをミドル攻撃できたかな?

 最後はハーレムチックに終了。賛否両論あると思いますが、これはこれで良いだろうと思われます。まぁ、SHUFFLE!だし。

 続きはなし。これ以上書きようががないしね(オイ

 まぁ、駄文中の駄文ですが感想などあれば嬉しいです。

 

 最後に一言。

 カレハの「稟さん」という呼び方。毎回変換すると「リン酸」と出てきて面倒だった。

 

 

 

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