朝、いつも見ている占い番組で星座も血液型も絶好調だった。

 朝食で飲んだお茶には生まれて初めて見た茶柱が立っていたし、登校の途中にいる野良猫はいつも逃げるのに今日に限って触らせてくれた。

 今日は何かが違う。いつもに比べて格段に良い日になりそうな気配がある。

 となると、もしかして? と考えて行きつく先はやはり好きなあの人とのもにゃもにゃであるのは現在進行形で青春時代を生きる少女にとって当然であるとも言える。

「ううん、違うよ理絵。良い日になるかも、じゃない。きっと良い日にするんだよ!」

 少女――仁科理絵は自分を鼓舞するかのように拳を握り、自分に言い聞かせる。

 いつもは緊張したりあがっちゃったりでまともに話も出来ないけど、今日なら上手くいくような気がする。そんな予感がある。

 空を見上げれば清々しいほどの快晴だ。何もかもが理絵の背中を後押ししてくれている。

「よし!」

 そして少女は走りだす。

 まずは挨拶から頑張ろう。そう胸に決めて。

 

 

 

 

 

集まれ!キー学園

六十九間目

「仁科理絵の決心(前編)」

 

 

 

 

 

 さて、教室に着くと早速チャンス到来である。

 何とあの寝坊で有名な浩平が既に教室にいて、しかも朝早いおかげで周囲にあまり人がいないではないか。

「こ、これが占い効果!」

 実際は浩平の時計が二時間以上も早くなっていて(犯人:瑞佳)、それを見た浩平が慌てて学校に来たらまだ誰もいなかったというオチなのだが、どうあれ理絵にとっての好機であることに変わりはない。

 そしてここで迷えばまた先延ばしにしてしまうことだろう。だからこそ、朝の決意をそのままに突撃あるのみ!

「い、行くぞぉ……!」

 震えそうになる足を手でポンポンと叩き、一度深呼吸をして、そして浩平の机へと近付いて行く。

 若干眠そうな顔をした浩平がこちらに気付き、視線を向けてくる。それだけで顔が赤くなるのを自覚するが、それでも今日は視線を逸らさなかった。

 行ける! これなら! そして口を開き、

「お、おぉ、お、は、おはようございましゅ!!」

 無駄に声も大きいわ呂律も回ってないわ挙句の果てには思いっきり噛むわで、もう初っ端から挫けそうになった。

 何が良い日にするだ朝の自分いきなりこんな失敗してどんな顔を見せればというかむしろわたしが顔見せられないよどうしようどうするのどうすれば良いのー!?

 気合いを込めた分余計に空振った感が凄い。もう今日はお終いだと心中で項垂れていたのだが、

「おう、おはよう仁科! なんだか今日は元気良いじゃん。何か良いことでもあったか?」

 挨拶した相手であるところの折原浩平は理絵の失敗など気にもせず気さくに応答してくれた。

「え、あ、うん。その、き、今日は……朝の占いが、良くて……」

「へー占いかぁ。女の子は占いとかそういうの好きだよなー。で、今日は絶好調な日だと?」

「いろんな占いで結果良かった、から……その、今日一日良い日にしよう、って思って……」

「良い日になる、じゃなくて良い日にする、かぁ。そういうとこ仁科らしいよな」

「……変、かな?」

「ん? いや、仁科のそういう考え方好きだぜ?」

「!!」

 好きだぜ、好きだぜ、好きだぜ……。 

 思わずふらつく。あまりの破壊力に一瞬意識が飛びかけた。

 これだから、これだから浩平さんは、もう! ……はぁ〜……(うっとり)。

「って仁科? どうしたボーっとして。おーい。おーい?」

「え!? あ、うん。わ、私は元気……だよ?」

「そっか。まぁなら良いんだけどな」

「でもその、あ、ありがとう。その……心配、してくれて……」

「クラスメイトなんだから当然だろ?」

 その答えにちょっとショックを受けはするものの、仕方ないことだとすぐに奮起する。

 いまだまだただのクラスメイトでも、そのうち必ず、いやきっと、好きな相手だからって言ってもらう! ……もらえたら良いなぁ。

 ハッ!? 駄目、駄目だよ理絵! 弱気になっちゃ駄目! 弱気になったらずるずると落ちていっちゃうから駄目! 頑張るって決めたんだもん! 頑張らなきゃ!

「に、仁科……?」

「え? ……あ!」

 まぁ何も知らない人物からすれば、突然鬼気迫る勢いで拳を握られたら、何、俺殴られるの? と錯覚しても不思議はあるまい。

 事実瑞佳や留美と言った凶暴な女性陣が周囲に多くいる浩平にとってそう連想するのは何も不思議なことではないだろう。

 そして理絵もそんな若干引き気味の浩平に気付き、慌てて握った拳をひらひらさせながら乾いた笑みを浮かべた。

「な、何でもないの。そ、その、ちょっとね、うん、一念発起というか……頑張ろう、って思っただけだから」

「そ、そうか。なんか燃えてるんだな。仁科にしちゃ珍しいけど、まぁ何かに頑張ろうって思うことは良いことだしな。何だか知らんが頑張れよ!」

「う、うん!」

 ここで、「実はあなたのことなんだよ」と言えればどれだけ楽だろうか。いやそもそも言えたら現在進行形でこんな風にはなっていないだろうが。

「あ、仁科」

 はぁ、と溜息を吐いたのと同時、浩平が何かに気付いたようにこちらの顔……というより口元を指差す。

「今日の朝、何か青のりかかってるようなもの食べただろ? 口元、青のりついてるぞ」

「えぇ!?」

 ガーン、である。好きな男の子に青のりを口元につけたままの自分を見られたとあっては乙女にとってはまさしく一大事。

「あぅあぅ……こ、ここ?」

「あぁ違うそっちじゃない。こっちこっち」

 慌てて取ろうとするも、空振りばかりで一向に取れないらしい。こういう日に限ってコンパクトを忘れてしまったのだから情けない。

 これは運悪いと言えるんじゃないだろうか、と涙目になりながら慌てる理絵を見て浩平は苦笑すると身を少し乗り出して、

「仕方ないなぁ。ちょっとジッとしてろ。俺が取ってやるから」

「え!?」

 ドキン!

 近付く浩平。真正面から浩平の視線に見据えられ、彼の手が頬に触れる。

「あっ……」

 ピクン、と身体が勝手に反応してしまう。

 ほんのちょっと触れられただけなのに、電流が走ったかのような衝撃だった。触れられた部分が熱を持つように熱い。

 ちょっぴり触れられただけでこれでは、もしも抱き締められたりしたらどうなってしまうんだろう……?

 ――あわわわわわ……!

 青春に妄想はつきものである。が、威力が高すぎた。

 身体が勝手にぷるぷると震えてしまう。だが浩平にはそれがどうやら拒絶に見えてしまったらしい。パッと手を下げ、

「あ、悪い。仁科も女の子だもんな。配慮が足りなかった。誰か他の奴に――」

「い、いえ! そんなことない、です! ちょ、ちょっと驚いただけで……」

「そうなのか?」

「う、うん。だ、だからその……浩平さんが取ってくれると、う、嬉しい、です」

「お? お、おう」

 そしてまた差し出される手。今度は誤解されないようにじっといようと意識を集中させる。だがそれがむしろ仇となってしまう。

 スッと頬に触れる指。くっついている青のりを取ろうとしながらも、こちらに不快な思いをさせないようにという配慮だろう、絶妙な力加減がなんともこそばゆい。

 そして集中している分それらの感触を思いっきり享受してしまい、なんだか身体が熱くなって背中がぞわぞわしてしまう。

「ジッとしてろよ?」

「う、うん」

 ここが学校の教室ということもあり、何故だかすごくいけないことをしているような気さえしてくる。背徳感ビンビンである。

 あぁ、もうこのまま時間が止まってしまえば良いのに……。いやいっそこのまま世界が滅んでしまえば良いのに。

 ……あれ? いまわたし何かおかしいことを考えた?

「お、ようやく取れたぞ。まったくしつこい青のりだったぜ。……っておい仁科ー?」

 ハッと意識を取り戻す。慌てて首を振り、

「ふぇ!? あ、うん! ありがとう。……ごめんね?」

「何で謝るんだよ。まぁそういう奥ゆかしいっつーか、そういうところがお前の美点なのかもしれないけどな。そこは礼だけにしておこうぜ」

「あ……うん。そうだね。ごめんね」

「だーかーらー」

「あう……え、えっと……いろいろとありがとう、ね」

「よしっ」

 ビッと親指を立てて太陽のような笑みを向けてくれる。自分にだけ。そのことが何だかたまらなく嬉しい。

 いつもならこうなるよりも前に葵か他の誰かの妨害が入ったりするのだが、朝で人が少ないからか問題なく進行している。いや占い効果だろうか。

 ともあれ、だったらいまこの状況をもっと有効活用すべきではなかろうか? そう、何せいつまたこんなチャンスが来ないとも限らないのだから!

「あ、あのね浩平さん!」

「ん? どした」

「……えっと」

 何というか、勢いのままに口を開いてしまった。何が言いたいとか、聞きたいこととかいろいろとあるけど、具体的に何かが形になってくれない。

「?」

 小首を傾げる姿もちょっと子供っぽくて可愛いなぁ、なんて思考は一瞬。早く何か言わなければと焦燥に駆られて出た言葉は、

「そ、そろそろ期末テストだね!」

 ……なんて、当たり障りのない話題だった。

(あぁぁ〜! 私の意気地なし! もっと普通じゃできないお話をするのに絶好のチャンスなのに……)

 しかもその話題はあまり選んではいけない部類の話題だった。何故なら、

「あー……期末テストねぇ。そんな憂鬱なイベントもあったねぇ」

 はぁぁぁぁ、と。そりゃあもう盛大に豪快に溜息を吐いて、浩平は机に突っ伏してしまった。

「え!? や、あの、その……で、でも浩平さんは赤点取ったり補習を受けさせられたりはしてないはず……だよね? それでもそんなに憂鬱なの?」

「そりゃあまぁ赤点取らないためにはそこそこ勉強しなくちゃいけないしなー。楽しくないことに時間を割かれるのは嫌なもんだ」

「そっか……」

 個人的なことを言えば、理絵は勉強が嫌いではない。

 新しい知識を得るのは好きだし、いろいろなことが自分の礎になっていくのだと考えると頑張ろうという気持ちになってくる。

 でもそれが異色であることは知っている。親友の葵にしたって勉強はあまり好きではないと言っていたし。

「まぁ無理な話ではあるが、勉強も楽しく出来りゃやる気も出るんだろうけどなぁ」

「!」

 ピンと来た。閃いた。これぞ絶好のチャンスではなかろうか。

 いつもならあれこれと考えて尻込みするところだが、今日は頑張るの決めたのだ。だからただ感情の赴くままに任せて口を開いた。

「じゃ、じゃあ、あの、も、もも、もし良かったら……私と一緒にお、お勉強……してみませんか?」

「仁科と?」

「う、うん! 一人でやるよりは楽しいと思うし、そ、それに……きっと新鮮な気持ちで出来ると思うの! だから、えと……」

「なるほど。確かに仁科と勉強とかしたことないしな……。それは面白そうかもしれないな」

 予想外の好感触だった! あまりせっついても怪しまれるだろうとそのまま固唾を飲んで返事を待っていると、

「オッケー。んじゃ折角のお誘いだし、一緒に勉強してみるか」

「あ……ほ、本当!?」

「もちろん。こんなことで嘘つく必要ないしな。で、いつどこでやる?」

「え!? え、えーっとそれじゃあ……今度の土曜日午後一時くらいに、街の図書館で……どう、かな? 静かだし、はかどると思うの」

「ん、良いぜ。図書館なんかほとんど行かないから、更に新鮮な気持ちでやれるかもしれんしな?」

 パーっと理絵の顔が明るくなる。

 浩平さんとお勉強! しかも誰の邪魔もされずに! これが占い効果!

「うん! きっとそうだよ! そうなるよ!」

「お、仁科も何だかテンション高いなー。じゃ、俺も当日は少しは頑張りますかねぇ」

「もう駄目だよちゃんと勉強頑張らないと?」

「お、言われちまったな」

「あはは」

 嬉しくて嬉しくて、何だか会話がとても弾む。あれこれと考えるより先に言葉が出る。友達と喋っている時のように自然に口が開く。

 テンションが高くなっているから一時的なものなのかもしれないけど、でもこうして二人、面と向き合って笑っていられるというのは何だか凄いことだと思う。

 本当にこの時間が止まってくれれば良いな、と思った。思ったけど、もしここで時間が止まってしまったら土曜日も来ないわけで。

 でもそれは贅沢な悩み。だから、

「それじゃ浩平さん。約束、忘れないでね」

「おっけー」

 私は話に区切りをつけて自分の席へと向かった。

 いまならもっと話を出来るとも思ったけど、時間が時間。そろそろクラスの皆が教室にやってくるだろう時間帯だ。

 そして誰かが来始めれば、人気のある浩平のところにたくさんの人が集まって来るだろう。そうなれば何か突っ込まれて折角の雰囲気が壊れるかもしれない。

 なら自分で区切って、あと数日先のことを考えながら平和に過ごそうと、そう思った。

「あ、おはよう浩平。今日は早いねー」

「あ! 長森貴様、俺の時計に細工をしやがったな……! おかげで俺ぁこんなに早く登校するはめになっちまったよ!」

「遅刻しすぎるからいけないんだよ。わたしは浩平が遅刻しないように心を鬼にして時計の針を二時間も戻したんだよ?」

「たかが遅刻くらいで戻す時間じゃねぇよなそれ!? 精々三十分で良くね!?」

「そこはほら、わたしの溢れんばかりの慈愛の心が成せる業なんだよ」

「慈愛? お前のどこに慈愛があるというんだ。むしろあるのは狂気――ぷげらッ!?」

 そして案の定、登校してきた瑞佳たちと浩平の相変わらずも騒がしい会話が響いてくる。

 いつもは羨ましく感じる会話(やはり人とはずれていることを当人は認識していない)も、今日は普通に聞いていられるから驚きだ。

 これが大人の余裕というものなのかもしれない(※違います)。

「おはよう理絵」

「あ、おはよう葵ちゃん」

「? どうしたの理絵。なんか機嫌が良さそうだけど」

「そう見える?」

「ああ。なんかこぼれ落ちんばかりの笑顔」

「そっか。そっかー。……えへへ。葵ちゃん」

「ん?」

「恋って良いよね?」

 がたん、と葵が背負っていたカバンを落とした。そしてブリキ人形のようにぎこちない動作で首の向きを変えていくと、

「折原浩平貴様ァァァァァァ!!」

「うぉわ!? 長森の次は杉坂がやって来たー! 何だお前俺に何の恨みがってうぉお怖ぇ!?」

「よけるな! お前はここで死すべき存在だ!」

「どこの敵役の台詞だよ!?」

「ええいすばしっこいやつめ! それが貴様のオーバ○スキルか!」

「俺キングゲ○ナーじゃねぇから!?」

 いつもはああやってじゃれている浩平と葵を見るのも心苦しかったりするのだが、いまは笑って見ていられる余裕があった。

 それもこれも、きっと小さな一歩が生んだ結果があるからだろう。自分だって、やれば出来る。出来ることがあるとわかったから。

「うん」

 教室から窓へ視線を転じる。ガラスの向こうにはずっと続く青空がある。その広大さは、希望に満ちているかのように見えた。

「早く土曜日が来て欲しいなぁ」

 きっとまたいろいろ喋られなかったりとか、ヘマをしてしまうかもしれないけど、それでも楽しみで楽しみで仕方ない。

 願わくば。

「良い一日になってくれますように」

 

 

 

 そんな理絵の願いが果たして届いたのか届かなかったのか。

 来る土曜日。二人の約束の日。

 理絵は遅刻しないように支度を念入りにして、何も忘れ物がないのを確認してきっちり一時間も前に家を出た。

 天気は今日も晴れ。天気予報でも雨が降るといったこともなさそうだ。図書館だからあまり天気は関係ないが、それでも初デート(と言っていいかどうかわからないが、少なくとも理絵自身はそう思っている)なのだから、晴れが良いなと思っていた。

 気温はやはり少し高い。夏休みも間近なのだから無理もない。

 というわけで今日は普段着ないような少し丈が短く、しかも肩をさらけ出すキャミソール型のワンピースを着てきた。

 少し露出もあるし恥ずかしい気もするけれど、それはそれ。きっとここが攻め時というものなのだろう。不慣れだけど、頑張れるところは頑張りたい。

 そうして自然と少し早足になっていた理絵は、予想よりも早く図書館へと辿り着いた。時刻は正午を少し過ぎたくらい。予想以上に早かった。

「浩平さんは……もちろんまだ来ないよね」

 学校でもそうだが、浩平はやや時間にルーズなところがある。もちろん三十分くらいなら待たされるのも覚悟の上だった。

 とはいえ、さすがに日差しの中立ってはいられない。日陰を見つけて、あと自動販売機か何かで飲み物を買っておこう。

「あ、そういえば図書館の入口に自動販売機あったっけ。あそこで何か――」

 買おう、と足を踏み出しかけて――止まる。止まらざるを得なかった。何故なら、

「……蔵書入れ替えのため、本日臨時休業いたします……?」

 ――その入り口に貼られた告知は、理絵にとっては死刑宣告にも等しい破壊力を持っていた。

 動けなかった。折角何もかもが上手く進んでいると思ったのに、最後の最後でとんでもない落とし穴が待っていた。

 だが何度目を擦って見てみても、告知内容が変わるわけもない。無情な一文は、相変わらずそこに記されたままだ。

「……ど、どうしよう……!」

 十分近くかけてようやく思考が追いついてきたが、その回復はやや遅かった。

「おおーい、仁科」

「!?」

 声に弾かれるようにして振り返れば、大きく手を振る浩平の姿があった。時計はまだ待ち合わせの三十分前だ。

 どうして、という気持ちが届いたわけではないだろうが、浩平はうっすらと額に浮かんだ汗を手の甲で拭いながら苦笑し、

「家のクーラーが壊れちまっててさー。どうせ図書館行くんならそっちの方が涼しいだろうからって早めに出てきたんだけど、まさかもう仁科がいるとはなー。

 いやー、さすがに真面目な子は違うねぇ、お兄さん感心しちゃうよ。うんうん。ところでボーっとしてどした?」

「え、あ、それが、その……」

 何も言えず、告知文に目が行った。それを浩平も追いかけてすぐに理解したようだ。

「ありゃりゃ……臨時休業か。そりゃまた何ともタイミングの悪い。これぁもしかして俺に勉強するなと神様が言ってるのかもしれねーなー」

「そ、そんなことないと思うけど……でも、本当に運、悪いよね……」

「だなぁ。それじゃあどうする勉強? どこか別の場所に行くか……それとも今日はこのまま解散するか?」

 それは嫌だった。折角こうして自分で一歩を踏み出して浩平と外で二人で会えるところまで来たのだからこのチャンスは逃したくない。

 ならどうすれば良い? ファミレスなどは最近店内での勉強などを断っていることが多いし、他に場所の当てもないと来ている。

「え、っと、えーと……」

 占いが悪かった? 占いが外れた? だからこんなことになった?

 ……違う。そうじゃない。そういうことじゃないんだ。

 図書館が閉まっているとか、そんなこと本来瑣末な問題でしかない。それに浩平は言っていたではないか。

『良い日になる、じゃなくて良い日にする、かぁ。そういうとこ仁科らしいよな』

 だったら足掻く。図書館が休みだったくらいで、この勇気はまだ潰れたりしない! 踏み出した一歩をなかったことになんてしたくない!

 だから!

「こ、浩平さん!」

「お?」

「さっき浩平さんの家は、その、クーラーが壊れたって言ってたよね? ってことはきっと家に帰って勉強なんか、出来ない……よね?」

「まぁそりゃそうだな。そもそもやる気なんかないのに、あの暑さで勉強しようなんて欠片も思わんだろうさ」

「だったら!」

 ギュッとスカートの裾を握りしめる。言いたいことを、ハッキリと、何も考えずに言えるように……!

「わ、私のお家に来ませんか!?」

「へ……?」

「一緒に、私の家でお勉強しましょう!」

 ここに、仁科理絵の一大決心が幕を開けるのである。

 

 これは彼女が、勇気で一歩を踏み出した小さくて、でも大きな変化のお話――。

 

 

 

 あとがき

 こんばんは、神無月です。

 仁科さんは個人的に好きなサブキャラなんですが、アニメCLANNADの仁科さんは随分と芯の強そうな子でしたね。見誤ったかw いやあれも良かったけれど。

 まぁそれはともかく。今回は比較的コメディ少なめ恋愛要素多めでお送りしました。どうだったでしょうかね?

 キーが学も学園を舞台にした作品でありますから恋愛毎は切っても切れぬ関係……ですよね?

 まぁコメディ重視だからそこまで恋愛要素前面に出してはいなかったわけですけど、時々こういうのも良いかも、とね。

 ……いやまぁ同人のゲームシナリオに引っ張られてる感じも多少ありますが……そこはまぁ御愛嬌ってことでw

 しっかし、思った以上に長くなってしまった上に前後編に分割する展開に……。まぁ良いか。

 キー学はその場の思いつきで書いているから何ともね〜。こういうのも仕方ないということで一つw

 ではでは今回はこの辺で〜! 

 

 

 

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