そうして球技大会の一日目の日程は終了した。
男子側は予想通りいつもの3クラスが順当に準決勝まで残った。
しかし女子側、倉田佐祐理率いる3−Eが負けたという事実は、やはり男子にとっても衝撃の内容だったらしい。
「ウソだろ、倉田先輩のクラスが負けるとか……」
既に教室に戻り着替えなども終えホームルームを待つばかりの男子は、やはり皆その話題で持ちきりだった。
教室中ざわざわと「あの倉田先輩が敗北……!?」「明日雨降るかもねー」「いやむしろ天変地異の前振りじゃね?」とか聞こえてくる。
「今年はなんかやたら盛り上がってると思ってたけど、ホントどうなってんだ女子の方は?」
「さぁな」
浩平の言葉に、祐一は興味なさそうに一言。机に頬杖をついてぐてー、とやる気なさそうにだれている。
まだ女子が戻ってきていないため前の席を占領している浩平はそんな祐一を見て、溜息一つ。
「……お前は本当やる気ねーなー。まぁプレイ中はそこそこ本気だから良いけど……気になったりしないわけ?」
「俺に害がないなら特になー」
「本当にそう思ってるのか?」
「わからん。微妙に嫌な予感がしないわけでもない」
「じゃあもっと気にしろよ!」
「とは言ってもなぁ……」
と、祐一が廊下の方を見た。
ほぼ同時、がらりと扉が開いて着替えを終えた女子の一群が教室に入って来る。
「…………」
無言だった。終始無言だった。
それはさながら明日必死と呼べる戦場に向かうことが決められている兵士のような、覚悟を決めた顔だった。
思わず男子が道を開けてしまうほど、その雰囲気は常軌を逸していた。
「あれらに、お前は何かを訊ねたりすることが出来るのか?」
「あぁ……さすがの俺もちょっと怖いわ、あれ」
浩平すらやや引かせてしまうほどの強烈なオーラを醸し出している女子に近付ける男子は誰もいなかった。
「つか、何があるか知らんが準決勝明日だろ? なんで今日の段階でこんな雰囲気になってんだ……?」
「それが女の性(なのよ」
いつの間にか浩平の背後に柚木詩子が腕組みして立っていた。しかも何故か悟ったような顔をして。
「柚木か。お前はあの手のオーラないみたいだが……何があったんだよ?」
「言えない。いまはまだ。でもこれだけは言えるわ」
フッとどこかニヒルな笑みを浮かべ、
「明日はきっと、キー学史に残る一日になるわ……」
とか意味深なことを呟いて自分の席へと戻って行った。
……意味がわからない。
「つか、あいつもなんだかんだで雰囲気に飲まれてないか?」
「面白ければ何でも良いんだろう、柚木の場合」
やれやれ、と祐一は嘆息。
面倒なことにならなければ良いが、と思い、しかし一瞬でその考えは捨てた。
「もう、面倒なことにはなってるんだろうな」
正解です。
集まれ!キー学園
六十七間目
「球技大会における女性の抗争(V)」
キー学の球技大会、二日目。
二日目は試合数が少ないため、グラウンドを二分割せずに行われる。
つまり一試合ずつ行われるため応援がとてもしやすいのだ。
そして今日の日程は男子の準決勝と決勝、女子の準決勝と決勝という流れだ。
普段なら男子の方が盛り上がるため後回しなのだが、今回はどういうわけか女子の方が後回しとなった。
まぁ前日の盛り上がりを見れば確かにそれもありだろうが……。
「うがあああああああああああああああああああああ!!」
2−Aの南が試合中に吼えた。
「なんだいきなり騒々しい」
ディフェンダーとしてゴールキーパー南の近くにいた北川が、ややうんざりした表情で振り返る。
南はぶんぶん駄々っ子のように腕を振りながら、
「いま準決勝だぞ!? しかも相手は岡崎先輩たちがいる3−Eだ! 男子準決勝、2−A対3−Eという超好カードの試合にも関わらず……!」
バッと腕を応援席と化している階段の方に向けて、
「なんでほとんど女子の姿がねーんだよ!?」
そう。
本来なら応援合戦間違いなしであろう有名クラス同士の試合のはずなのに、女子の応援の数は限りなく少なかった。
ただでさえ他クラスの応援などしたがらない男子よりも少ない時点でその過疎っぷりがわかるというものである。
「僕の超絶プレーで女の子たちがメロメロになる計画がー!」
3−Eの春原も同じような発言をしてその直後に浩平にボールを取られていた。
ともあれ、確かに応援の数が少ない。例年と比べたら半分以下、いや四分の一にも満たないだろう。
なら女子は一体何をしているのだろうか?
……そんなことは言わずもがな。
女子はいま、自分たちの思惑と熱情と恋慕と憎悪とそれら感情がぐちゃぐちゃになった混沌の中で思い思いの勢力に力を貸していたのだ。
確かに好きな男の活躍する試合は見たい。
だが! そんなことをしたところで誰かと海に行ってカップルなどになられてしまっては意味がない!
ならばいまは応援を捨て、少しでも自分の都合の良いクラスに勝ってもらうべく奔走することこそが最優先なのである!
「……まぁ意中の相手が同じクラスにいる佐祐理たちからすればもうどうでも良いことですけどねー」
「そうねー」
と、数少ない女子の応援であるところの倉田佐祐理と藤林杏は微妙に覇気のない声で会話していた。
「っていうかぶっちゃけ佐祐理がいれば海とかいつでも行けるしねー。この前の無人島みたいに」
「まぁそうなんですけどねー」
それを言ってはお終いである。
「でも正直、負けるとは思わなかったわ。他のクラスにも凄い連中いたもんねぇ」
「まぁ彼女たちはちょっと特殊ですからね……。いまも、いろいろ動いてるんじゃないでしょうか」
「そういえば準決勝から組み合わせはまたやり直しでしょ? どことどこが戦うことになったの?」
「ええ。佐祐理たちの敗れた2−Cは2−Aと。1−Cは3−Fとやることになったようです」
「ふーん。妨害しようと画策している女子はきっと2−Cや3−Fを応援するんでしょうね」
「でしょうねー。まぁそれは抜きにしても、1−Cもそう簡単には3−Fには勝てないと思いますよー」
「3−F? 誰かいたっけ?」
ええまぁ、と呟いて佐祐理は言葉を切った。
奇しくもそこで朋也がゴールを決めたため杏も応援に夢中になり追及はなかった。
それを横目に見ながら、佐祐理は軽く微笑んだ。
「3−F……三年裏生徒会のメンバーが揃うクラス……。こちらも一筋縄ではいかないでしょうね〜」
ある意味では、とても面白い試合になるだろう。
結局男子の試合は終始さほど盛り上がらないまま、終了した。
準決勝で朋也たちがいる3−Eを下した祐一や浩平たち2−Aが、そのまま決勝に上がって来た純一たち1−Cを撃破し優勝となった。
トトカルチョでも大本命である2−Aの優勝とあって、そういった意味でも特に盛り上がりもなく淡々と時間が流れていく。
そしてグラウンドの整備が終わり、続いて女子の準決勝が開始される。
第一試合は大本命の2−Aと、3−Eを下したダークホース2−Cの試合である。
「頑張れ頑張れ2−C!」
「2−Aを牙城から引きずりおろしてー!」
「2−Aの優勝阻止ー!」
「むしろ全員行動不能にしてしまいましょう!」
「オールハイル2−C!」
試合開始前から既に応援席には数多の女子生徒が詰め寄り、主に2−C応援の声で盛り上がっていた。
「なんじゃこら……」
決勝終わったし、とりあえず自分たちのクラス見てこね? 的な軽いノリでやって来た浩平たち一行は、その先程までと明らかに違う空気に思わず立ち尽くした。
なんというか、ここにスポーツマンシップといった単語は欠片も似合わない気がする。
まるで因縁の国同士が激突する世界大会みたいな様相で、どちらかが負けようものならフーリガンに発展しそうなほどの熱気がある。
ぶっちゃけ怖くて近付けない。つか近付きたくない感じだった。
もちろん異様な雰囲気に包まれているのは応援席だけではない。
「勝つわよ」
2−A女子、円陣を組んだその中央で七瀬留美がはっきりと告げた。
「相手はあの3−Eに勝ったクラス。……とはいえあたしたちだってこれまで楽勝だったわけじゃないわ」
「まぁ確かに、いつもとは違う気迫があったわよねぇ、皆」
疲れたように林檎が呟く中、留美はグッと拳を握り、
「あたしたちにはそれぞれの目的がある。勝たなきゃいけない理由がある。そうよね?」
円陣を組んでいる七割近い女子が真剣な表情で頷いた。残りの三割弱もまた、雰囲気を壊さないようにとほどほどに頷いた。
「なら、勝ちましょう。乙女としての意地に懸けて!」
「「「おお―――!!」」」
男子運動部もかくやという大声で勝利を誓う(茜や林檎といった一部連中は若干投げやりな態度だったが)。
その向かいでは、多くの衆人を味方につけた2−Cが不敵な態度でその様子を見つめていた。
「凄い気迫だねぇ〜。やー、さすがは2−A。楽しくなりそうな予感ー!」
にゃはは、と裏生徒会メンバーの二ノ宮麗が笑う。その後ろにはもう一人大柄な女子生徒がいた。
「麗。あまりぴょんぴょん跳ねると転ぶわよ」
「ういー。みーやんはクールだにゃー」
「みーやん呼ぶな。私には花園(雅(という名前があるのだから」
クイ、と眼鏡を正すセミロングの少女、花園雅。彼女もまた裏生徒会メンバーの一人である。
麗の身長が低めということもあるだろうが、雅はまた随分と背が高い。一般男子と比較しても同じくらいの背はあるだろう。
出るところは出ているし、引っ込むところは引っ込んでいる。そうして立っているだけでモデルになりそうなスタイルの良さだ。
が、そんな彼女があまり目立たないのは基本人とあまり喋らない点や、長いスカートを好むなど地味な格好に終始するためだ。
美男美女が多いため、素質が高くても隠そうと思えば隠せてしまうのが何とも恐ろしい学園。キー学なのである。
閑話休題。
「しかしまぁ、あの会長にも勝利したことだし、この辺りで私としては手を引きたいところなのだが――」
「みーやんのばかちーん!」
ガバァ! と、唐突に麗が雅のたゆんたゆんな胸を下から揉み上げた。
「きゃあ!?」
「みーやんの頭は飾りなのー! そんなだから栄養がこっちばっかりに行くんだよぅ!」
「い、意味のわからないキレ方しないでくれる!?」
ズザザー! と勢いよく離れ自分を抱くように胸元を庇う雅に、麗は聞き分けない子供に言い聞かせるような態度で指を一つ立て、
「良い、みーやん。麗たちは裏生徒会メンバー。しかもそろそろ任期切れなのだ」
「そ、そうね。次の候補は2−Aや1−Cの面子で構成されているようだけど……」
「ならばこそ! 先代裏生徒会メンバーとして次期候補の皆の力を知るべきだと思うの!」
あー、と雅は呻きつつクイっと眼鏡を正し、
「言ってることはあながち間違ってないとは思うけど、それがソフトボールである必要性は微塵もな――」
「みーやんのばかちーん!」
名雪やあゆもかくやという速度で雅の背後に回った麗が再び胸を鷲掴みにした!
「きゃあああああああああ!?」
「スポーツでこそわかるものもあるんですー! 汗と涙と血でわかちあう夕暮れの橋の下男同士の殴り合いなんですー!」
「後半支離滅裂すぎて何言ってるかわからない上にいい加減胸揉むの止めろっつーんだよこのクサレチビがぁぁぁぁぁ!!」
雅の腕が蛇のようにしなり麗の顔目掛け奔る。
だが次の瞬間、麗は既に雅の前方にいてその拳は空を掻いた。
「んの糞チビがぁ! そこに直れ。アタシが直々に教育してっやからよぉ!」
「みーやん、眼鏡取れてるよ眼鏡」
「あ? ……げっ!」
先ほどの一悶着で眼鏡を落としていたらしいことに気付き、慌てて雅はそれを拾い土を落とすと眼鏡をかけなおす。
若干顔を赤くしつつ、こほん、と咳払い。
「……危ない危ない。危うく裏の顔をさらけ出してしまうところだったわ……」
「やー。割と出てたよ?」
「だとしたら麗のせいでしょうが! ……ったく、わかったわよ。要するにまだ本気でやれってことでしょう?」
「そうだよ〜! やるからには全力じゃないと面白くないもん!」
「面倒だけど……仕方ないわねぇ。皆も、それで良いの?」
それまで黙っていたらしい他の裏生徒会メンバー二年がそれぞれ頷く。
……というより面白いからただ傍観していたようだ。皆頷きながらもニヤニヤした顔をまるで隠そうともしない。
こいつらぁ、と呻きながら雅が拳を握り締めるのを余所に、麗が手を振り上げ、
「そんじゃまぁ、楽しくハードに行きましょう〜♪」
おー! と2−Cが同調した。
なんだかんだで息が合っているようだ。
そうして遂に女子ソフトボール準決勝第一試合、2−A対2−Cの試合が始まる。
先行は2−Cだ。つまり2−Aが守備となる。
「2−C! 2−C!」
「かっとばせー!」
「ふっとばせー!」
一部暴力的な応援もあったような気がするが、とにかく声援は完璧2−C。2−Aからするとアウェー的戦場だった。
だがこの程度の状況で怖気付くほど2−A女子は繊細ではない。
彼女らとて掴み取りたい勝利(≒好きな人との海、ないしその妨害)があるのだ。燃えないはずがない。
2−C側一番打者は二ノ宮麗。身体が小さすぎてバットを持っているというよりは持たされている感があるほど不釣合いだ。
とはいえ、対するピッチャー坂上智代は手加減するつもりなど微塵もない。
見た目に惑わされるようではキー学で生徒会などやっていられない。
故に真っ向全力勝負。そも3−Eを倒した相手に油断など出来ようはずもないのだ。
そしてその構図は、奇しくも生徒会VS裏生徒会の図にもなっていた(智代は裏生徒会メンバーを知らないので気付いていないが)。
「プレイボール!」
主審役の女子ソフトボール部のメンバーが試合開始を宣言した。
智代が投じる第一球。
「ふっ!」
――フォン!
ズバン!!
「す、ストラーイク!」
まるでF1カーが通ったかのような風切り音と共に、いつの間にかボールはキャッチャーミットに吸い込まれていた。
あれだけ張り切っていた麗も若干顔を引きつらせて、
「……わー。これはさすがに予想以上だなぁ〜。っていうか女子高生が投げるボールじゃないよ、これ」
だろうな、とキャッチャーの留美も思う。そもそも留美がキャッチャーなのは智代のこの剛速球を自分くらいしか受け止められないからだ。
香里や林檎も受けることは可能だが、それでも何十球も受けていると腕が痺れ出すらしい。
柔な乙女ね、と思っている留美だが、彼女の乙女とは根本的に定義がおかしいので気にすることはない。
「むーん。よーし!」
麗がバットを短く持った。それでミートしようという魂胆なのだろう。
だからと言って方針を変える智代ではない。真正面から正々堂々、それが彼女のスタンスなのだから。
第二球を……、
「ふっ!」
投げる!
「!」
瞬間、智代は見た。麗が構えを変えたところを。バットを前面に出し、手を添えるその姿勢は、
「セーフティバント!?」
こつん、と軽い音が響き渡る。
「くっ!」
意表は突かれたが、バント自体は浅い。キャッチャーの留美が送球すればおそらく間に合うはずだ。
ボールを拾い送球体勢に入り、
「なっ……!?」
留美は動きを止めた。
「どうした留美! 早く投げ――!?」
智代も一塁を見て言葉を切った。何故ならば、
「ぴーす♪」
既にそこに麗の姿がいたからだ。
「さすが麗ですね〜」
2−A陣が驚愕し、観客が沸き立つ中、倉田佐祐理だけがただ一人納得するように頷いた。
裏生徒会諜報、二ノ宮麗。
決して成績が良いわけではない。他者を率いる統率力を持っているわけではない。
が、皆をぐいぐいと押す強引さがあり、それを受け入れてしまう憎めない独特の雰囲気を持ち、そして他者を明るくさせるムードメーカー。
あまり諜報向きでは性格だが、仕事は確かだし諜報向きのスキルが彼女にはある。
足だ。麗はかなりの軽業師で、その俊足っぷりは短距離で言えば名雪に勝り、瞬間的な速度ではあゆに劣るが持続力が長い。
バットに当たれば最後、彼女の足より早く刺そうと思えば杏や音夢などの強肩でなければ対処できないだろう。
「さて、これに2−Aの皆さんはどう対処するでしょうかね〜?」
続く二番、三番打者は何とか打ち取ったものの、その間に麗は三塁へ足を進めていた。
ツーアウト三塁。状況としては際どいところだ。とりあえず一回で先制点はなるべく避けたいところだろう。
そしてここで2−Cの四番が登場する。
「みーやんふぁいとー!」
「うるさいわよ麗」
眼鏡を正しつつ、金属バットを軽く片手で回転させながらボックスに入ってきたのは、長身の雅だ。
その挙動、そして四番という順番からして明らかなパワータイプだろう、と智代と留美は判断する。
――どうする? 敬遠しとく?
――いや、いきなり逃げ腰では精神的に負けを認めることになる。私は正々堂々と勝負する。
――ま、それでこそ智代よね!
アイコンタクト終了。坂上智代と七瀬留美のバッテリーで搦め手を使えという方が無理がある。
というわけで剛腕一閃。
見送りストライク。
続けて二球目。
同じく見送りストライク。
一回も振らずにツーストライクになった。
……というかこの少女は振る気があるのだろうか? そう思わずにいられないほど、あまりに無造作に突っ立っていた。
「こらー! みーやんさっき全力でやるって言ったじゃんよーぅ!」
三塁にいる麗がぷんすかと抗議するが、雅は素知らぬ顔だ。顔がやっぱめんどくなったーと如実に語っている。
それを見て麗が両手を振り、
「タイム! ターイム!」
タイム宣言。そのままズンズンと雅の方へ歩いていくと、ベンチの方からも2−Cメンバーが出てくる。
「ちょっと何よ麗、引っ張って……ってこら! ちょ、あんたたちもなに眼鏡を取ろうとしてんのよ! ばか! 止めな……止めろっつってんだよこのビッチ共がぁ!!」
爆発した。人が突っ込んだ後の鳩の群れのように、「わー」と2−Cメンバーが散っていく。一人残り肩で息をする雅の顔からは眼鏡が消えていた。
雅は盛大に「チッ!」と舌打ちし、金属バットを肩に担ぐと、
「この糞女共がぁ……。今度コンクリ詰めして東京湾に沈めてやろうか!」
「みーやんみーやん! その怒りをボールにガツーンぶつけるんだよ〜!」
「うっせぇよ糞チビが……! いつかブッ殺す!」
悪態を吐きながらも何とかバッターボックスに戻っていく雅を、2−Aの面々はやや驚いた顔で見ているが、それだけだ。
なるほどそういうキャラか、程度の認識で終了してしまっている辺り、キー学生徒の個性の強さが現れていると思うのだがどうか。
で、ゲーム再開。
雅は顔を俯かせて苛立たしげに何やらぶつぶつと呟いている。いまのうちにアウトにしちゃいましょう、と留美はキャッチャーミットを構えた。
智代も頷き投球フォームに入り、そうして投げた。
迫る豪速球。もはや振っても遅いというタイミングで、
「あぁもう――」
雅がグリップを強く握る音と同時、
「何もかもウザいんじゃああああああ!!!」
ガキィィィィィィィィィン!!!
竜巻でも起こさんばかりの超高速スイングが智代のストレートを真芯で打ち返した!
「なっ――!?」
驚愕に目を見開く智代の遥か頭上を越え、外野の面々を更に飛び越しぐんぐんと伸びていく打球は……。
ガシャーン!
グラウンドを突き抜け校舎にまで到達、窓ガラスを破砕しどこぞの教室へと吸い込まれていった。
「あー!? 南森ー!? どうした大丈夫か返事をしろー!」
「へ、返事がないただの屍のようだー!」
「ぎゃー! 密室殺人事件だー!?」
とか教室から聞こえてきたような気がしたが特に誰も気にしなかった。
一瞬の静寂の後、大喝采が沸き上がった。
「さすが雅ですねー」
んでもって再び佐祐理だけが納得するように頷きながら、面倒くさそうにダイヤモンドを回る雅を眺めていた。
裏生徒会役員、その他に分類される肩書なしの一人である花園雅。
その他三名というのは基本、その代の裏生徒会長が好きなように扱って良いというポジションなので佐祐理はその三名のことを『遊撃班』と呼んでいる。
その雅は一見バリバリの文科系だが、それはただの仮面。実際の彼女の性格は眼鏡を外したこちらである。
別に二重人格とかそういうものではない。雅はただ眼鏡をかけることで自分に「地味な優等生である」といった類の、いわば自己暗示をかけているに過ぎない。
そのため眼鏡を外すと素の雅……この周辺の街一帯を縄張りにする極道、花園組の一人娘である花園雅としての性格になるのだ。
遊撃班でも荒事担当。その腕っ節の強さは佐祐理の持つボディーガードすら容易く屠るまさに人間ターミネーターだ。
行く行くは倉田家の専属に迎えたいと画策しているが、それはここだけの話。
「ともあれ。眼鏡を外した雅のパワーは留美さんや智代さんに引けを取りません。この勝負……どうなるでしょうね」
その後、どうにか後続を打ち取って2−Cの攻撃は終わった。
一回の表が終了し、2−A対2−Cの得点……0−2。
次は2−Aの攻撃である。
あとがき
……えー。はい、約一年振りの更新となってしまいました。いやホント申し訳ありません。
にも関わらず前回からの続きだし、その上今回メインは裏生徒会のオリジナルキャラだしでホントどうしようかと思いましたよw
いっそキンクリして球技大会は終わったぜ! みたいなノリで行こうかとも(結構マジに)考えましたがねーw
ま、さすがにそれはどうかと思ってタイミングとか関係なしにそのまま続きを書いちゃったけどね!
まぁそんなわけで球技大会の続きです。ええ。VS裏生徒会ですね。
本当はこのクラス他にも裏生徒会メンバーいるんですけど、あんまり一気にオリキャラ出すのもどうかと思ったので自重してます。
まぁ身体動かすの得意なのはこの二人くらいなんでちょうど良いでしょう。多分。文官(?)はそのうち登場させます。
さて次回更新は一年後……いや嘘です嘘ですから石を投げないでー!
出来れば月刊〜隔月更新くらいで行きたいと思います。
ではでは。