六月も半ば。
祝日も学校行事も一切ないこの月の、生徒たちのだれっぷりはとにかく凄い。
いつもはっちゃけているキー学生徒たちも特に動こうとせず、比較的平和な時間を過ごせるのがキー学における六月であり梅雨の季節だった。
「梅雨ですねぇ……」
だから風紀委員の前線隊長とさえ呼ばれている朝倉音夢は、そういう意味で梅雨を感受していた。
窓から雨降る外を眺める音夢の表情は他の生徒と違い笑顔だ。これでもかというくらいの笑顔だ。
風紀委員の責務として日頃働きまくっている彼女からすれば、この梅雨の時期は休暇と言っても過言ではない。
――いっそずっと梅雨が続けば良いのに。あ、でもそれだと洗濯物が乾かないか。
とか考える辺り家庭的な音夢である。まぁそれも当然。朝倉家の食事以外の家事は全て音夢が請け負っているからだ。
それもこれも兄である純一がろくに動かないせいなのだが、音夢は別に構わないと思っている。
口ではもちろん怒るが、兄にはそのままでいてほしい、というのが音夢の本音だ。
『自分がいなければ兄は何も出来ない』
この状況を好んでいる音夢にとって、いまの状況が幸せとも言えるだろう。
だが……ここ最近純一の周囲には不穏な動きがある。
そう。やたらと女の影があるのだ。
確かに中等部時代から女子に人気はあった。二年の相沢祐一や折原浩平、三年の岡崎朋也ほどではなかったが。
しかし高等部に入ってからその傾向がかなり顕著になってきた気がする。折原みさおを筆頭に、その他あやしい者も多い。
「まったく……。兄さんのどこが良いんだか」
正直なところ、朝倉純一のどの要素がもてる要因なのか音夢にはわからない。
確かに顔は良いし、勉強も運動も平均以上にこなせる。しかし出不精だし出来る限り動くことを避ける半ニートみたいな男だ。見てくれで惚れたとしてもその中身を見れば誰も冷めるだろう。
だが音夢は知っている。その更に奥に、気遣う優しさやここぞというときにはどんな行動も厭わないという心の強さがあることを。
とはいえ、それはめったに外に出てくるものではなく、音夢も知っているのは自分だけで良いと思っている。
「……まさかそういったところを他の皆もわかっている?」
それはないだろう。というかないと思いたい。いやないはずだ。
「そうですよ。そんなことあるわけないじゃないですか。おほほほほ」
いきなり窓に向かって笑い出す音夢。なんとも奇妙な光景であるが、彼女を知る面々はこれもこの時期恒例のことであると理解していた。
いつも忙しい音夢がその責務から解き放たれたせいか、考え事が多くなりそして独り言が多くなる。
「……梅雨ですねぇ」
そんな音夢を見つつ、どこかの誰かが呟いた。
集まれ!キー学園
四十九時間目
「梅雨ですねぇ」
1.音夢の朝
朝倉音夢の一日は早い。
ゴミ出しや洗濯などの家事をこなし、その後純一を起こすという仕事もあるからだ。
「〜♪」
だが音夢はこういう一時が好きだった。純一のために何かをしている、という時間が持てるから。なんとも一途な女の子である。
こういうところ『だけ』を見れば音夢を彼女にしたい人は多くいるのではないだろうか。
「さーて。そろそろ兄さんを起こさないと」
昨夜の分の食器を片付け(スーパーで買った惣菜を移し変えただけだが)、エプロンで手を拭いながら時計を見る。
そろそろ頃合だ。エプロンを脱いで、音夢は階段に差し掛かる。そのまま三歩ほど上がったところで、
ドスン! バスン!
……と、そんな物音が上から聞こえてきた。
「……」
音夢の笑顔が、凍る。
そのまま黙々と階段を上り、純一の部屋の前へ。
いまは静かだ。だが、音夢にはわかる。風紀委員で鍛えられた彼女の直感が不穏な気配を察知している。
いつの間にか彼女の手には辞書が握られていた。どこから出したのかなんて野暮なことを聞いてはいけない。
音夢は一度頷くと、
「兄さん!」
ノックもなしにまるで突入する警察のようにドアを蹴り開き、身を部屋に駆け込ませた。
そこで彼女が見たものとは!
「……」
「あー、おはよう音夢」
何故か床で寝転がっている純一と、二段ベッドの上で何かを蹴落としたかのようなポーズで眠る月城アリスだった。
「……」
「とりあえず落ち着こうぜ音夢。俺も何がなにやらわからないうちに落とされたんだ。ほら、俺も被害者だろ、な?」
とりあえず音夢は辞書を純一の顔に落とした。
「毎度毎度言いますが」
「はい」
「どうして彼女が兄さんの部屋にいるんですか?」
「さぁ、何故でしょう」
居間。
朝食(パンを焼いただけ。あとはコンビニの味付け卵)を取りつつ、テーブルで音夢は純一を睨んでいた。
もちろんその横にはちゃっかりとアリスも座ってパンを頬張っていたりする。純一と物凄い至近距離である。肩が触れそうな近さだ。
そんな態度も音夢にとってはイラつくのだが、それよりふと一つの疑問が浮かんだ。
「……ねぇ、アリスちゃん」
「?」
「兄さんの部屋にはどうやって入ったのかな?」
以前知らない間に設置されていた梯子は燃やしたし、さくらの家から入れるように立っていた木は叩き割った。
それこそ二階からの侵入は不可能な気もするのだが、アリスはさも平然と答えを口にした。
「……壁蹴りで」
「壁蹴り!?」
「おー、アリス。そんなんどうやって覚えたんだ?」
アリスはグッと親指を立てると、
「ロック○ンXを見て会得しました」
「ゲームかよ……」
音夢は知らないことだが、アリスはこれでめちゃめちゃ運動神経が良い。伊達にサーカス団出身ではない。
「そんな技術にどう対抗しろと。……滑りやすいように壁に油でも塗っておく? いやいっそ接触感知地雷とか。倉田さんに頼めばあるいは……」
「音夢、なんか口から物騒な言葉が漏れてるぞ」
「え? あらやだ。おほほほほ」
誤魔化し笑いも誤魔化し切れてないのだが……まぁさすがにそこまではしないだろうと純一は思う。
しかし、音夢は割かし本気で考えていたりした。
なんせ彼女は朝倉音夢だから。
2.音夢の学校(午前中)
さて、キー学に登校して。
「ふぅ。今日も疲れた」
朝の風紀委員活動、遅刻生徒の取り締まりを終えた音夢が肩を抑えて腕をくるくるストレッチをしながら廊下を歩いている。
ちなみに本日の補導生徒は十二名。うち九人は音夢が捕獲したと言うのだから前線隊長とか特攻隊長とか肩書きがつくのも当然かもしれない。
大変不本意な称号ではあるのだが、この肩書きによって皆が悪さを謹んでくれれば別に良いか、とも思う。
「さて、それじゃあ本日も勉強を頑張りましょうか」
なんて呟きつつ教室に入ると、
「あ゛ー……だりぃ」
のべ〜、と机に身体を丸投げしている気力の欠片も見当たらない純一が目に映った。
はぁ、と嘆息。これは一つ注意をしてやらないと、と近付いて、
「じゅ〜んい〜ちくん♪」
音夢の足が止まった。机の上でだれていた純一の背中にがばーっとみさおが抱きついたからだ。
だが純一は緩慢な動作で首だけを向け、
「みさお、暑い」
「わ、純一くん冷めてるー。可愛い女の子の抱擁に言うことはそれだけ〜? もう慌てふためく可愛い純一くんはどこかに消えちゃったの?」
慣れというのは恐ろしい、と音夢は思う。
純一は四天王と呼ばれるほど女子に人気はあるが、こういうスキンシップは本来苦手だったはずなのに。
……とはいえそれは純一に近寄る女子をのきなみ音夢が牽制していた結果なのだが。
だがそんな反応が気に食わないのか。みさおは「むー」としばらく唸っていた。が、不意に表情を綻ばせる。あれは何か思いついた目だ。
「んじゃあ、これはどうかな? ……はむ♪」
「どぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
純一は突如耳の辺りに感じた未知の感覚に鳥肌が立ち、机を巻き込みながら後ずさった。
「み、みみみ、みさお! お前いま何をした!?」
「耳を甘噛みしてみました♪」
「アホかぁぁぁぁぁぁ!!」
ギャーギャーわめく純一たちの声も耳に届かない。
「あ、あ、あああ、甘噛み!?」
音夢の思考にあるのは『甘噛み』という単語のみだ。
「に、兄さんに、みさおさんが、あ、あま、甘噛み……!」
音夢の脳内ビジョンに再生されている純一は何故かそのみさおの行動を甘んじて受け入れており……つかイチャついていた。
重ねて言うがこれは実際の映像ではなく音夢の勝手な妄想劇場である。
だがその映像の中ではいつの間にか受け攻めが変わっていて純一がみさおに○○○や○○○をさせて、果てには○○○○○を……。
「に、兄さんの――」
沸点を越えた。音夢の手には相変わらず辞書。
顔を真っ赤に染めたまま音夢は大きく振りかぶって、
「へんたぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
本日2HIT目が純一の後頭部に炸裂した。
3.音夢の学校(昼休み)
学生であれば誰もが待ち望む昼休み。
授業で取ったノートを閉じ、音夢は一息つく。彼女は授業が終わるまでわからないところを最後まで残さない主義だ。
もしわからないところが発生した場合はそれがわかるまで復習するという、かなり真面目な子だったりする。
「さて、兄さんは……」
今日は昼休みに風紀委員の仕事はない。やはり梅雨ということのせいか日頃よりローテーションが緩いのだ。
なので折角だから純一と一緒に学食にでも行こうかと思っていたのだが……。
「あれ、いない……?」
授業が終わってからざっと五分。兄の姿は教室のどこにも見当たらなかった。
学食か購買にでも言ったのだろうか……と一瞬思ったが、
「む」
キュピーン! と音夢の第六感が作動する。純一はまたどこかで女と一緒にいる、と。
それからの音夢の行動は早かった。
即座に立ち上がるとそのまま廊下に飛び出し、前後を見やる。何事かと音夢を見やる生徒たちさえ、彼女の眼中にはない。
「……違う、校舎じゃない?」
そう思うのは勘だが、純一に関しての音夢の勘はほぼ百発百中である。だから音夢は自分の直感を信頼している。
「――そこ!」
閃きに従って音夢は廊下の窓から外を見やった。
眼下に映るのは中庭。そのベンチ。ズームするように集中する視線の先に、確かに朝倉純一の姿があった。
そしてその隣には案の定、女子生徒。しかも、
「丹南さん……!?」
同じクラスの丹南翠。あまり親しい間柄ではないが、綺麗な人なので覚えている。それに、
「そういえば以前も一度兄さんと一緒にいた……!」
「いやいや。あれ以降ちょくちょくああして会ってるよあの二人」
「そうなの!? ――って」
ゆっくり振り返る。
するとそこにはニンマリ笑顔で同じく眼下を見下ろしているみさおの姿があった。
「……あなたが何故ここに?」
「そんなことどーでも良いじゃん? いまはニナミンのことじゃないの?
「あ、そうでした! 何か知ってるんですか?」
「ニナミンがねぇ、お菓子を持ってくるの。純一くんのために手作りなんだよー。これはあれだね、恋だね」
「こ、恋……!?」
「っていうか。純一くんの食べてるあのお弁当もニナミンの手作りかな? うっわー、なんかラブラブ? ちょっと妬けちゃうかも〜。
……なーんて。ま、実際は恋というより趣味のお菓子に対する向上心が強いだけなんだけど……って、あーあ音夢ちゃん行っちゃった♪」
みさおが横を向いたとき、既に音夢の姿はなかった。なんてからかい甲斐のある兄妹なんだろう、とみさおはクスクス笑う。
「さーて。それじゃどうなるかここで見物と行こっかにゃ〜……っと、おや?」
純一たちを見ていたみさおの表情が崩れる。
「あーらら。こんなとこ音夢ちゃんに見られたらどうなることやら」
ま、それが楽しみなんだけど、と笑みを噛み締めるみさおであった。
その数分前……。
「はい。どーぞ」
「おぉ〜」
純一が翠から渡されたのはナプキンに包まれた弁当箱だった。
「弁当! 良いのか、俺なんかが食って?」
「うん。いつもお菓子を試食してもらってるし、そのお礼にね」
「いや、別にお礼なんて良いよ。そもそも丹南のお菓子は美味いんだから。その上礼なんて貰ってたら悪い気がする」
「良いの良いの。私の気持ちだから。あ、それともお弁当はさすがにやりすぎだった?」
「いや、そんなことはないけどな。……ま、丹南がそう言うなら折角だし、頂こうかな」
「うん。どうぞ」
翠と初めて会話をしてから、二人はこうしてちょくちょく昼食を共にしていた。
頻度で言えば一週間に一回か二回程度のものだが、それでも翠がこうやって普通に敬語なしで喋れるくらいには二人の仲は縮まっている。
その度に翠はお菓子を作ってくる。純一の感想は参考になる、ということでそれがいつの間にか恒例になっていた。
さすがパティシエールを目指しているだけあって菓子は美味いし、いっしょに昼食を食べるようになって普通の料理も上手なことを知った。
その翠が今日は菓子だけではなく弁当まで作ってきてくれたという。純一としてもわくわくしないわけがない。
「それじゃあ早速、いただきまーす! もぐ」
「どうかな?」
「……おぉ、やっぱ美味い! さすが丹南。普通の料理も上手いもんだなぁ〜」
「まぁお菓子だけ、って言うのも女としてどうかな、って思うしね。味、薄かったり濃かったりしない?」
「いや問題ない。ちょっと薄めなくらいが俺は好きだ」
「あ、やっぱり。和菓子好きな人って薄味の方が好きな人多いから、ちょっと味付け抑えたんだ。どうやら正解だったみたい」
「ぉ……」
にこっ、と笑ってどこか得意げに喋る翠がいつもとどことなく違って、純一は一瞬見惚れてしまった。
「? どうかした、純一くん」
「あ、あー、いや。なんでもない。それにしても美味いな」
「ふふ、ありがとう」
微笑み、翠はベンチの淵に足をかけ体育座りのように足を抱える。
「でも不思議」
「ん?」
「男の人と話すの、不慣れだったはずなのに……純一くん相手だと、普通でいられるの。なんでかな?」
「丹南……?」
「私、もしかしたら純一くんのこと――」
と、そこで翠はハッとしたように動きを止めた。顔を真っ赤にして大きく手を振る。
「ご、ごめん! いまのは忘れて。あ、あー、なんか飲み物買ってくるねっ」
「お、おい丹南……」
純一の言葉も聞かず走り出そうとする翠。
だが慌てたせいだろう。段差に引っかかり翠の身体が大きく崩れた。
「きゃ――」
「丹南!」
転びそうになる翠の手を取り、強引に引っ張る。それで転倒は回避したが、
「わっ」
「っと……」
ぽすん、と。純一の膝の上に翠が座り込む形になってしまった。
「……あ、ありがとう」
「いや……別に……」
思わず真っ赤になる純一と翠。
どことなーく妙な雰囲気が漂い始める中、
「……兄さん、何をやっているんですか?」
「ッ!?」
真横から、そんな雰囲気を遥かに超越する漆黒のオーラが漂っていた。
言わずもがな。……朝倉音夢の降臨である。
「ま、待て音夢とりあえず落ち着け! これは事故であってだな、決してお前の思っているような――」
「丹南さんを膝の上に乗せたまま言っても説得力ありませんよ?」
そこで慌てて翠が純一からどくが、もう遅い。音夢の両手には辞書が装填されている。
「音夢、ちょ、待っ……!」
「兄さんの……不潔――――――ッ!!!」
「うぉぉぉぉぉ!!?」
辞書が乱射され、純一はベンチに沈んだ。
4.音夢の放課後
放課後。
特に部活をしていない音夢は、風紀委員さえなければあとは帰宅するのみだ。
久しぶりに兄さんと一緒に帰ろうかな、なんて考えつつ前の席に座る純一に声をかけようとして、
「純一さん」
音夢の横を通り過ぎながらその純一に声を掛ける者がいた。それは。
「おう、美汐」
音夢の後ろの席の天野美汐だった。
思わず音夢は動きを止める。
――いま二人は、名前で呼び合っていなかった?
天野美汐と言えばかなりの堅物であると有名である。音夢もあまり話をしたことはないが、他者を近付かせないオーラみたいなものはあった。
そんな美汐が、純一を名前で呼んでいる?
一体何故? 二人に何があった?
「兄さ――」
それを本人から聞こうとして、はたと気付く。
既に前の席に純一の姿がないことに。
「っ……!」
慌てて周囲を見やるがどこにも見当たらない。美汐も消えていた。
「また見失った……!?」
すぐに鞄を抱え、廊下へ飛び出す。すると角に消えていく二人の背中が見えた。
だからすぐさま追いかけた。風紀委員なのに廊下を走っているが、音夢に関しては誰もが何も言わない。
怖い、というのもあるが、風紀委員として数ある勢力と激突を繰り広げる彼女が走るのは基本的に日常茶飯事なのだ。
それこそ突風が巻き起こるほどのスピードで廊下を爆走した音夢はドリフト気味に角を曲がる。
「追いついた!」
二人の背中はもうすぐそこだ。
しかし、だからこそこんな会話が聞こえてきてしまった。
「あら、純一さん。頬にご飯粒がついていますよ。そのまま五・六時間目を受けていたのですか?」
「え、マジで!?」
「だらしないですね。接客業をするからにはそれなりに身だしなみには注意してもらいませんと」
「わ、悪い悪い。この辺か?」
「いえ、もう少し下です」
「ここ?」
「違います。……はぁ、ちょっと動かないでくださいね」
え? と純一が疑問に思う間もない。美汐が純一の頬についていたご飯粒を指で掬い取り、そのままそれを口に含んだ。
「ちょ、美汐!?」
「なにか? ご飯一粒一粒にも神様が宿っているのです。大切にしなければいけません」
「あぁ、そっか。美汐は巫女さんだったもんな……」
「それとこれとはあまり関係ありませんよ。一般教養です」
美汐としてはまったく意識していない行動だが、それが一般的にはどんな光景に見えるか……言うまでもない。
そしてそれを見た音夢がどんな行動に出るか。これももう言う必要もないだろう。
「兄さん……」
「ね、音夢!? お、お前いつからそこに……!」
怨嗟滲む声に純一がハッと振り返る。本日何度目かもわからないエンカウントを果たし、純一は顔を引きつらせる。
この後の状況を悟ってか、一歩身を引く美汐がなんともシュールであった。
「次から次へとあなたという人は……!」
「偶然だ! どうしてお前はそういつもいつも変なタイミングで出てくるんだ!」
「そんな偶然が一日で何度も何度も起きますか――――ッ!!」
「事実なのにぃぃぃ!」
抉りこむような超剛速本(字違いではない)が放たれ、それを純一がかわし、逃げていく。
「待ちなさぁぁぁぁぁぁい!!」
「そう何度も喰らってたら俺の身体が持たないんだぁぁぁ!!」
ドタバタと走り去っていく兄妹。
「っていうかさぁ」
とある生徒がそんな光景を見て、ポツリと呟いた。
「梅雨だって言ってもあの兄妹だけは変わらないな」
「まぁ一種の日常だしなぁ、あれも」
「そうだな。日常だもんな」
というわけであっけなく納得。
結局梅雨だろうがなんだろうが、変わらないものは変わらないらしい。
あとがき
はい、こんばんは神無月です。
今回は比較的音夢を中心に話を進めてみました。こうしてみると一番フラグ多いの純一なのではあるまいか。
純一が何かをするとよく音夢に出くわす理由がこの話でわかったことと思います。恋する乙女は怖いのです(ぇ
さて、次回はスポーツ系のお話に向かいます。どういう話になるかは、とりあえず秘密ということで。
ではまた〜。