ぴんぽんぱんぽーん。

 今回は冒頭部分のみ一人称視点でお送りいたします。

 

 

 

 神をいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないような話だけど、それでも僕がいつまで神などという想像上の偉そうなおじさんを信じていたかと言うと、これは確信を持って言えるけど最初から信じちゃいなかった。

 何故なら本物の女神が僕のすぐ傍にいたからだ。

 その女神の名は倉田佐祐理。正真正銘僕の姉ちゃんだ。

 別に僕が神の直系だとか電波でふざけたことを言いたいわけじゃあない。ただ、あまりに完成された女性がたまたま姉だったというだけなんだ。

 神に愛された、とかそんな言葉じゃ生温い。というか足りない。そう、まさに姉ちゃんこそが神なんだ!

 あの慈悲深き笑み! 透き通る凛とした声! 聖母も真っ青の笑顔! 世界中のどの宝石より綺麗な瞳! 艶やかな唇! 黄金率さえ霞む体の曲線美! 絹のようなしなやかな髪! 触れるのさえ恐れ多いとさえ思わせる手! 見る者を魅了して止まない太股! どこまでも先を見通す知性! どのようなスポーツも華麗にこなす運動神経! いかなるものも(以下二十分程続くので省略)。

 こほん。ともかく姉ちゃんは僕の自慢で僕の理想で僕の目標で僕の憧れで僕の(以下これも二十分程続くので省略)。

 こほんこほん。ま、まぁともかく。語りつくせないほどに姉ちゃんは凄い人なんだ。

 ……だけど、そんな姉ちゃんを誑かそうとする悪魔がいる。

 そう、その男の名は岡崎朋也。

 姉ちゃんの人の良さに付け込んで堕天させようとしている地獄の使いだ。許せない。死刑だ。

 おっと、少し取り乱した。ともかく、姉ちゃんもどういうわけか岡崎朋也に騙されていると気付いていないようで……み、認めたくはないが……いまじゃあの男にすっかり惚れ込んでいるようだ。

 ぐ! 自分で言っておきながらイライラする! ええい岡崎朋也め許すまじ!

 だから姉ちゃんの目を覚まさせるにはあの岡崎朋也を打倒・粉砕・必殺・激滅・抹殺せねばいけないのだが……これがそう簡単にいかないんだ。

 というのもさすがは姉ちゃんを誑かすほどの悪魔。その能力は姉ちゃんには及ぶべくもないが、凡人の領域を遥かに越えてるときた。

 人間でまともに相手にできるのは相沢先輩とか……別の意味で折原先輩とかその辺だろうけど、生憎あの二人も岡崎朋也の魔手により既に従属させられている。

 いや、だからと言って諦めるなんてことはしない。なんせ僕は姉ちゃんの弟だ。だから姉ちゃんを守る義務がある。

 というか姉ちゃんに近付く男は全員敵だ。神に近付こうなんて恐れ多いこと断じて僕が許さない。

 だからこれは聖戦。神を悪魔の手から救い出すため、僕は英雄のみが抜くことを許されるというこの『約束された勝利の剣』を引き抜き――、

「あははー。ただいま戻りましたー」

「ハッ!?」

 神の降臨!

 僕は早速姉さんを迎えるべく、廊下のコーナーで藤原○海ばりのドリフトを決めながら玄関へと爆走した。

 するとそこに、絶世の美女がいた。そう、何を隠そう僕の姉ちゃんである倉田佐祐理その人だ。

 あぁ……眩しいよ姉さん。

 その姿を見ただけで僕の急降下中だったテンションが対流圏や成層圏をすっ飛ばしてコスモの彼方にまで一気に上り詰めていく。

「はっ!?」

 いや、駄目だ。いまは浸っている場合じゃない。僕には姉ちゃんに聞きたいことがあったんだ!

「姉ちゃん!」

「あ、一弥。生きてたんだ」

「うん。起きてたよ――って、え? あれ? いま一文字どっか違くなかった?」

「気のせいだよー。それで、どうしたの?」

「あ、そうだった! 姉ちゃん! 二日間どこに行ってたの?!」

 そう、ゴールデンウィークが始まってすぐ、どういうわけか姉ちゃんは今日まで家を空けてたんだ。

 折角のゴールデンウィーク! 姉ちゃんと一緒に休日を楽しもうといろいろと用意してあったのに……!

「あははー、朋也さんとお泊りしてきましたー」

「な、なにぃぃぃ!?」

 背景に雷が落ちたような気がした。……なんて呆けている場合じゃない!

「ま、まさか姉ちゃん、一線を越えたりは……!」

「もう朋也さんってば全然寝かせてくれないんですよ〜」(←夜通しサバゲー)

「なっ――!?」

「しかもすっごく激しくて……。かと思うと途端に焦らしたり」(←朋也の戦略)

「〜〜〜!?」

「で、朋也さんがあまりに凄すぎて佐祐理気絶しちゃって……」(←朋也に撃たれた電気ショック)

「ぁぁぁ……!」

「でも朋也さん優しいから、目が覚めたときには隣にいてくれたの……ポッ」(←杏や椋もいた)

「ああああああああああああああ!!!」

「あれ? どうしたの一弥。ムンクの叫びというかアニメ版ひぐらしみたいな顔して唐突に顔をかきむしり出して。怖いよ?」

「嘘だッッッッッッ!!」

「あ、ちょっと一弥?」

 気付いたら僕は無我夢中で走っていた。いや、逃げていた。

 そうだ。嘘だ。ありえない。僕の女神が! いや、世界の神である姉さんが! あの、あの悪魔の毒牙に……!

「おのれ……岡崎朋也ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 あぁ、決めた。決めちゃったよ。

 岡崎朋也を殺そう。うん。マジで。

 

 

 

 

 

集まれ!キー学園

四十一時間目

「倉田一弥の憂鬱」

 

 

 

 

 

 で、地の文は通常のものに戻り……。

 

 その頃の岡崎朋也はというと。

「ふあ……っくしょん!!」

「また盛大なくしゃみですねぇ」

「やっぱ昨日のアレは無理があったか……」

 何故か純一と共に帰路についていた。

 いっそ行きと同じく全員の家の前にまで送ってくれれば良いのに、よほど急いでいたのか皆を同じ場所で降ろしその場で各自解散となったのだ。

 降ろされた場所からすると朋也と純一は途中まで方向が同じであり、なんともなしにこうして二人並んで歩いていた。

 空は憎たらしいほどの五月晴れ。

 夜通し動き回りほぼ不眠状態でのこの太陽光はあまりにきつい。

「……溶ける」

「五月に言う台詞じゃないっすよね」

「部活以上に疲れたからな」

「そんなに激しかったんですか?」

「あぁ、激しかったな」

「……」(←純一、無言で朋也から距離を取る)

「待て待て待て。お前の考えているようなことはしてねぇ。いろいろとあったんだ」

「……まぁ、そういうことにしておきましょう」

 疑いの眼差しは消えきっちゃいなかったが、いまはそれを訂正することさえかったるかった。いまなら純一の気持ちがよくわかるかもしれない。

「は……はっくしょん! うぅ〜。やっぱ風邪引いたかな……。これからインハイの予選もあるのに身体は壊したくないんだが……」

 身体に宿る倦怠感は疲れから来るものだと思っていたが、もしかしたら風邪なのかもしれない。

 その証拠に、こう身体の底から寒気というか震えを感じる。

 だがそんな朋也に純一は苦笑を浮かべながら、

「もしかしたら風邪じゃなくて噂でもされてるんじゃないっすか? ほら、くしゃみ二回は悪い噂って言うし。誰かに狙われてるとか」

「縁起でもないことを言うな。狙われるなんて行為、二日も続いてたまるか」

「……あー、俺が言うのもなんですが、そのくらい日常茶飯事じゃありません?」

「……言うな、気が滅入る」

 はぁ、と二人の嘆息がユニゾンする。

 と、そこで純一はふと思い至ったように周囲を見渡し、

「そういや朋也先輩、さっきから気になってたんですけど」

「なんだ?」

「ここ、普通に住宅街ですよね」

「そうだな。それがどうした」

「いや。なんでさっきっから誰ともすれ違わないかなぁ、と思って」

「あん……?」

 言われて、朋也も初めて気付いた。

 そういえばさっきから人を見かけない。

 ゴールデンウィーク中、家族旅行などに出ている家庭も多いだろうから人気が少ないのは納得もできよう。

 しかし人っ子一人見つからず、家の方からも何も音が聞こえてこないというのはかなり不気味だった。

「……あのさぁ、朋也先輩」

「なんだ」

「ちょっとこういう現象に心当たりがあるんですけど、言っても良いっすか?」

「……言ってほしくはないが、とりあえず聞こう。なんだ?」

「こういう無茶を押し通す人、朋也先輩のすぐ近くにいましたよね。しかもついさっきまで」

「ああ、いたな。でもあいつは帰ったじゃないか。俺が言うのもなんだが、あいつはそう何度も連続で動く奴じゃないぞ」

 なんせ一回一回が全力だから、何をするにしても間隔を開ける、というのは昔からの付き合いでわかっていたことだった。

「……なるほど。とすると、残された選択肢は――」

「ま……一つしかないわなぁ」

 納得した瞬間だった。

 周囲のマンホールの蓋がドカン!! と跳ね上がりそこからゾロゾロと黒服の連中が出現したのは。

 十、二十、三十……まだまだいるだろうか。

「……なーんかこの人たち出る作品間違ってるんじゃないのかなぁ」

「なんか言ったか純一」

「いえ別に。ただハヤテ○ごとくとかで見たような展開だなぁ、と」

「それ伏字の意味ないだろ」

「心の文字に突っ込みを入れないでください」

「あなたたち二人状況わかってますか!?」

 いきなり突っ込みが入ってきた。しかも上から。

 なんだ? と両者見合わせ、そして同時にその方向に視線を向け――それを見た。

 ある一軒家の屋根の上。そこに腕を組み直立不動のポーズを決め込んだ一人の男がいた。しかも変なマスク付き。

 なんか悦に浸っているというかどこか誇らしげに胸を張るその男に、二人はポカンと口を開き、

「……なんでわざわざ屋根の上?」

「ほら、馬鹿は高いところが好きだって言いますし」

「ここはお約束で『貴様は何者だ!?』っていう場面でしょう!? 悪なら悪らしく悪のお約束をしてください!」

「なんで悪?」

「朋也先輩のことじゃないっすか?」

「殴って良いか」

「やめてください」

「漫才を止めろぉぉぉ!!」

 別に漫才をしているわけではないのだが、どうやら聞かない限り話が先に進まないらしい。

 やれやれ、と嘆息し演技派朋也はスゥ、と息を吸い、

「キサマハー、ナーニーモーノーダー」

「なんで片言なんですか! おちょくってんですか!?」

 おちょくってるのかと聞きたいのはこっちなんだが、いまのでは納得してくれなかったらしい。

 面倒くさそうに頬を掻き、朋也は息を吐いて、

「で、お前何者なんだよ」

「貴様ら悪党に名乗る名などないッ!」

「だったら言わすな倉田一弥!!」

 すると屋根の上に立つ男こと倉田一弥はギョッと肩を揺らし、

「ば、馬鹿な!? 昔見たヒーローの格好で素晴らしく正体を隠蔽したはずなのにすぐさま看破するなんて……! ええい、さすがは岡崎朋也!」

「いや、つかこんなことする遺伝子は間違いなく倉田家だろ。佐祐理じゃなかったら一弥しかいないだろうに」

「佐祐理って姉ちゃんを呼び捨てにするなぁぁぁ!」

 叫んで、自分の醜態に気付いたのか慌てて姿勢を正しこほん、と咳一つ。

「……まぁ、良いです。今日は悪を成敗に来たんですから」

「悪を成敗、ねぇ」

 呟き、朋也は周囲に取り囲むように布陣した黒服たちを見て、

「正義振りかざして数で勝負か。随分と陰険だな、倉田一弥」

「はぁ?」

 一弥は心底から朋也の言っていることが理解できないらしく、真剣な顔で首を傾げて、

「何言ってるんですか。昔から戦隊モノは敵一人に対して複数人でかかってたじゃないですか。即ち数こそ正義。正義こそ数なんです」

「いや、それは何か根本的に解釈を間違ってる気がする」

「ええ、そうですね。確かに腑に落ちない部分もある。例えば、どうして戦隊モノは敵が巨大化するまでロボットを出さないんでしょうか。

 最初っからロボットを出して踏み潰せばそれで終わりなのに。……いや、あるいは敢えて小さな痛みを与えることで反省を促しているのか?」

「反省促して最終的にやっつけるんだったら促す意味ないよな」

「そこの朝倉純一! さっきから無関係な人間が一々突っ込まないでください! 味気ない人ですね!」

「無関係なら俺帰って良いかな? どうやら狙いは先輩だけみたいだし」

「オイ」

 だが一弥は首を横に振った。

「いえ、残念ですがこの状況を見られた以上生きて帰すわけにはいきません」

「おいおい、それどう考えても悪人側の台詞じゃん」

「っ……! ええ、決めました。朝倉純一、あなたも悪ですッ!!」

「ちょ、待て!? 図星だったからってそんなんで悪人扱いされてたまるか!」

「問答無用! 皆さん、やっちゃってください!」

 しかも当人は手を出さないのか、という言葉を言う余裕はなかった。

 黒服たちが脇から銃を取り出したからだ。

「なっ……実銃!?」

「何言ってんですか。そんなの持ってたら銃刀法違反でしょう? エアガンですよエアガン。まぁでも――」

 と自分も取り出したエアガンを一弥は無造作に近くのコンクリート塀に撃ち込んだ。

 ほぼ無音に近い発射音の後、ビシィ! と埋まる何か。

 もちろん――銃弾。

「改造済みでコンクリートくらいなら減り込みますけどね?」

「「……」」

 朋也と純一は顔を見合わせ、

 バパパパパパパパパパパパパパパ!!!

「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 包囲網の一部をぶち抜き、飛んでくる弾丸の嵐の中二人は一気に逃走した。

「あー、くそ! なんだこの時代錯誤な展開はぁ!」

「嘆きたいのはこっちです! 俺完璧にとばっちりじゃないっすか!?」

「くそ、まずはあいつらをどうにかしないと駄目か……! 純一! お前も手伝え!」

「はぁ!? なんで俺が!?」

「どうせ家に帰っても突然いなくなったことを過保護な妹に怒られて飯食って寝るだけだろ! だったら先輩を助けろ!」

「ば、ばか言わないでくださいよ! 怒ったときの音夢がどれだけ怖いか知らないからそんな――って、うおぉ!?」

 頬をかすり、純一は慌てて角を左に曲がり、壁を背に預ける。

 見れば朋也は右側、反対方向で同じく銃火を凌いでいるところだった。

「この現在進行形で行われている火線の集中砲火と音夢の怒りどっちが心配なんだお前は!」

「音夢に決まってんでしょう!? あいつの辞書投擲はどういう理屈かコンクリートぶち破るんですよ!? 減り込むくらい屁ですよ屁っ!」

「あー……即答したことに突っ込みたかったけど思わず納得」

 でも、と朋也はわずかに顔を出し後方を見やって、

「だったらなおさらあいつらどうにかしないとまずいんじゃないか? このままじゃ帰ることさえままならないぞ」

「まぁそうなんですけどね……。はぁ、やれやれ。なんだかんだで俺も巻き込まれ体質だよなぁ」

「そういう星の下に生まれたと思って諦めるんだな。はっはっは」

「先輩もね」

「……そうだよなぁ、諦めが肝心だよなぁ」

「いや、そこで落ち込まれても困るんですけど……」

「こうなったらもう自棄だ! ほら、行くぞ純一!」

「ういっす」

 瞬間、二人が一気に飛び出した。

 近付いてきていた数人を一瞬で撃退し、銃をかっぱらい、応戦しながら一気に距離を詰めていく。

 速い。そして当たらない。

 二人は視認できないはずの銃火の中を軽々と疾走し、時には撃ち、時にはすれ違いざまに体術を決め込んで次々と黒服たちを倒していく。

「なっ――!?」

 一弥たちの驚愕もなんのその。

 なんせ二人はこれだけの挙動を見せていながら、こんな会話をしている余裕さえあった。

「ところで先輩、音夢に何か言われたら弁護してくれるんでしょうね?」

「……かったりぃ」

「ちょ! それは俺の台詞っすよ!? 帰りますよ!?」

「冗談、冗談だからそう怒るな。一応頑張るよ」

「いま背中から撃ちたくなりました」

「誠心誠意説得に当たってやるから敵に回らないでくれ」

「ホント、頼みますよ?」

 余裕も余裕、超余裕である。

 最初こそ状況についてこれず慌てていたが、それはそれ。一度本気モードに突入した朋也や純一はそんじょそこらの一般人を軽く凌駕する。

 特殊訓練された黒服たち相手でさえ圧倒する二人はまさに異常。だがキー学生徒の大半はこの状況を見ても素直に納得するだろう。

「馬鹿な、こんな……!」

 もちろん、一弥とて朋也や純一が人並外れた運動神経を持っていることは知っていた。

 だが、一弥は元々朋也が嫌いであり朋也を初めとした四天王の噂も眉唾もの以前に最初から信じる気もなく、しかも故意に見ようとしていなかったのでここまでとは思わなかったのだ。

 が、目の前の現実はその「は? ありえないだろ、それ」的な噂を全部信じさせるのに十分な光景だった。

 ものの数分。

 たったそれだけの時間で黒服たちは見事に全滅となっていたのだから。

「あぁ、くそ疲れた。二日連続でこういうのはさすがにきつい……」

「俺だって浩平先輩に延々付き合わされて寝不足だったんすよ。あー、身体に響く」

 台詞ではあんなこと言ってるがほぼ無傷で死屍累々(死んではいないけど)の中央に立つ朋也と純一。一体どういう体の構造をしているのか。

「っていうかそんな超展開認めるかぁ!? なんだそのコンバットバトルアクションみたいな人外の動きは!?

 貴様らあれだな! ジェ○イだろ!? フォ○スでも使ったんだろ! あるいはあれか!? 蜘蛛の細胞でも取り込んだのか!?」

「……なんかあれだよな。一弥って割りかし危険なネタばっか口から出るよな」

「貴様らのそのとんでもスペックの方がよっぽどネタじゃあああ!!」

 何言ってんだこいつ、という類の表情を浮かべる二人に一弥はさっきまで以上の怒りを覚えた。

 足を踏み出し、シャキーン! と銃を取り出し天を指して、

「こうなったら仕方ない! この僕が直々に貴様らを葬って――」

 だがそこから先の言葉は紡がれることがなかった。

 そしてそれを見ていた朋也と純一の顔が一気に蒼白になっていく。

「あーはーはー。かーずーやー? こんなところでなーにをしているのかな〜?」

 一弥の後ろ。一弥の頭を鷲掴みにして黒いオーラを撒き散らす悪鬼がそこにいた。

 一弥は振り向けなかった。頭をガッチリ痛いほどに掴まれていたからだ。

 でもその声だけで誰かはわかる。当然だ。なんせその声は一弥が崇拝している相手のものに間違いなかったらだ。

「あぁ、姉ちゃん! 来てくれたんだね!」

 ――ごっさ嬉しそうに言ってるー!?

 朋也と純一の心の声がユニゾンした。

 あの雰囲気、あのオーラ、あの声音を聞いてあの反応を返せたら天然通り越してもう逝かれている(誤字ではない)と表現すべきではないか。

 だが、一弥の身体の一部は正常に作動していた。

 心臓は恐怖に早鐘を打っているし、脂汗も一気に放出されている。本能はハッキリと告げていた。逃げろ、さもなくば殺される、と。

 だが……一弥のシスコン脳は本能が警報と恐怖の意味で心臓を早打ちさせているのを『愛しのあの人がやってきた』というウルトラ誤認をぶちかまし、理解には届いていなかった。

 あぁ、悲しきはそのブレーン。この後起こる顛末をまったく想像できていないのは幸か不幸か……。

「朋也さん。それに純一さん。すいませんねぇ、うちの一弥がご迷惑をおかけしまして……」

「「い、いえ! 滅相もございません!」」

「ちょ、姉ちゃん! 僕は姉ちゃんのためを思ってぐぇええぇぇぇぇぇ……」

 頭を掴んでいた腕が下にスライドして首を握り締めていた。

「それじゃあ一弥。一緒に帰ろうか?」

「ね、姉ちゃん……す、スキンシップにしてはちょっと……過激、じゃないかなぁ、なんて思うんだけどぐえぇぇぇぇぇぇ……」

「ではお二人とも。今日はこの辺で。あははー」

「ね、姉ちゃん……僕のことが大好きなのはわかるけど、ちょっと苦しいかなぁ、なんて……」

 ずるずると引きずられていく一弥くん。

 屋根から消えていくその引きずられた足を見ていると、何故だろう。まるでサスペンスホラーでも見ているような錯覚に陥ってしまうのは……。

「……なぁ純一」

「……なんです朋也先輩」

「結局、なんだったんだと思う?」

「倉田の暴走……ってとこなんでしょうけど……俺、今回の一件であいつの見方変わったかもしれません」

「俺は一種同情したけどな。あそこまで純粋で鈍いのもある意味悲しいことだな……」

「……まぁ、とりあえず全部なかった方向で」

「……そうだな。それが無難だな」

 うん、と頷き合い、二人は銃を捨てて本当に何事もなかったかのように帰路につくのであった。

 

 

 

 そして。

「また鎧の中に閉じ込められた! くそ、僕が一体何をしたっていうんだ……って、あれ? なんか動いてないか?

 運ばれてる? どこに……ハッ!? まさかネバ○ランド!? マイ○ルの屋敷か!!」

 一弥が閉じ込められた鎧はゴミ収集車に運ばれどこかへと消えていったのであった。

 

 

 

 一方、朋也と純一たちのその後は、

「……兄さん。二日も連絡なしでどーこをほっつき歩いていたんでしょうねぇ……? 納得のいく説明をお願いしますよ? うふふ♪」

「と、ととと、と、朋也先輩! ほら早く! 早く説明を! 俺の、俺の命が燃え尽きないうちぃぃぃ!」

「ま、待てとりあえず落ち着け純一の妹さん! 話せばわかる。わかるからとりあえずその手を離そう! 純一が死んじまう! マジで!」

「うふ、あらやだ。私が兄さんを殺すはずないじゃないですかぁ。もう、岡崎先輩ったら〜。うふ、うふふふふふふ」

「ぎゃああああああああ!!」

 倉田佐祐理と同等の黒きオーラを撒き散らす音夢によって尊い犠牲が生まれようとしているところだった。

「って犠牲!? 殺されるの俺!? いやだぁぁぁ!」

「あは、あはははは、あははははははははは!!」

「ああ、もう! どうしてキー学の姉とか妹ってこんなんばっかなんだ!!」

 朋也の叫びは、こう心にグッとくるものがあったとかなかったとか。

 

 

 

 あとがき

 というわけで、はい神無月です。

 今回も前回同様若干アクション風味ではありましたが、ギャグ色強めで。

 前回との繋がりも強い今回の話。……というか冒頭部分のネタがやりたかったための前回のバトルと言っても過言ではないかもしれない(マテ

 倉田一弥、神魔と随分性格違いますけど、こういうキャラこれからもいっぱい出ますんでよしなにw

 ……さて、次回もまだゴールデンウィーク明けません(まだか

 誰が出るかは、見てからのお楽しみということで。

 では、また。

 

 

 

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