朋也は夜の森を走っていた。

 ときたま背後から銃声が聞こえてくるが、どうやら杏も佐祐理も健在らしい。

 杏はもともとこういったゲームは得意分野だし、佐祐理は佐祐理で運動神経良いし準備が万端でなければ自分からゲームを提言はしないだろう。

 つまり、この戦いは長期戦を強いられることになる。

 だが朋也とて逃げているだけではない。これはゲームだ。参加してこそ意義がある。

「さて……そろそろ獲物の役も終わりにしておこうか」

 立ち止まり、朋也はそう小さく呟くとゆっくりと背後を振り向いた。

 どこまでも続く夜の闇。その向こうのどこかに佐祐理と杏がいるはずだ。

 空を見上げる。時季を考えるに、あと三時間くらいで夜も白み始めてくるだろう。そこまでが勝負だ。

「よし、それじゃ、俺も始めるか」

 日頃の彼からは考えられないような楽しみに満ちた笑顔と……バスケの試合などで見せる真剣な表情を同時に宿した朋也が、動き出した。

 

 

 

 

 

集まれ!キー学園

三十九時間目

「キャンプでGo(W)」

 

 

 

 

 

 一方、その頃祐一たち裏生徒会メンバー候補たちは……。

「ロン。リーチ、河底撈魚、純全帯、三色同順、一盃口、ドラ2、裏3」

「なっ!?」

「うわ……」

「ふぅ」

 何故か雀卓を囲んでいた。

 とはいえ無論四人だけ。和了ったのは美汐。嘆いていたのは順に浩平、綾那、香里である。

 祐一はその横でビールを飲みながらその光景をボーっと眺めていた。(※飲酒は二十歳になってから!)

 っていうかなんでキャンプ場に雀卓があるのか不思議で仕方ないのだが、まぁ倉田家が関わっているというだけで大抵の疑問は意味を成さない。

 ようはそういうことなんだろう、と今日数度目の無理やりな納得をした。

 時刻は深夜一時。

 キャンプのような友人同士で泊まりあう、という行事においてこの時間はまだまだ活動圏だ。騒ぎ足りないと考える者も少なくはあるまい。

 現に浩平たちはトランプの大富豪に始まりブラックジャック、UNO(この辺りまでは全員でやっていた)、そして何故か雀卓があったので麻雀に移行したわけだが、

「くそ、また美汐の勝ちか〜!」

「っていうか美汐ちゃん運良すぎだよー」

 浩平、綾那の言うとおり終始勝者は天野美汐だった。

 大富豪では革命に革命返しを行ったり、ブラックジャックではほぼ毎回ブラックジャック、UNOも四枚出し連続と、某金ぴかのような幸運っぷりだ。

 とはいえイカサマをしている素振りはまるでない。

 いや、仮にしていたとしてもこれだけ皆が注目している中で行えるのであれば最早玄人の領域だ。

「畜生! 今度はポーカーで勝負だ!」

「ええ、別に構いませんよ。どの道、私には神が憑いているんですから」

 美汐はキー学のある街にある二つの神社のうちの一つ、天野神社の一人娘だ。しかも巫女。

 キー学においてはもう一方の神社の一人娘、胡ノ宮環と組んで巫女部なるものを作る始末。それだけ真性の巫女……ということなのだろうか。

 ともあれ、(自称)神に愛されし美汐のLUCKは凄まじい。このままの流れならまた、

「フルハウス」

「ぬあぁぁぁぁぁぁ!!」

 番が一巡することさえなく、最初の手札で終了していた。

「やれやれ」

 麻雀から解放され嘆息しながらやって来た香里を、祐一は苦笑で迎えた。

「よ、お疲れ」

「ん」

「お前もなんか飲むか?」

「……相沢くん、お酒飲んでるのね」

「あったからな。それに、ビールくらいじゃ相沢の家系は酔い潰れないさ」

 事実祐一は既にビール瓶を三本空けているが、完璧に素面の状態だ。

「香里も酒は強そうなイメージあるけど?」

「んー、よくわからないわ。うちもお正月とかそういう年間行事にはたまに出されるけど、強さがわかるほどの量飲んじゃいないし」

「でも弱い、って感じじゃないんだな」

「それは、まぁ確かに」

「それじゃあ今日その限界に挑戦してみたらどうだ?」

 ほれ、とビールの口を向ける。香里はその口と祐一の顔を交互に数度見比べると、諦めたように紙コップを手に取った。

 そのコップにビールを注いでいると香里が半目で、

「……正直、意外。相沢くんって結構押しが強い方なのね。受け攻めで言うなら受けの方だと思ってた」

「その言い回しはどことなくおかしいと思うが……まぁ俺が受けなんじゃなくて回りが攻め一辺倒な連中が多いだけだろ。多分」

「あぁ、それは納得」

 香里は親友でもある名雪を思い出し、苦笑。コップに並々と注がれたビールを見下ろし、

「ん」

 一気に飲み干した。

「おいおい。酒飲み慣れてない奴が一気飲みなんかすると急性アルコール中毒になるぞ」

「景気付けに一杯目だけよ。ほら、お替り」

「ほいほい」

 空になったコップに再び祐一がビールを注ぐ。と、祐一はどこか不敵な笑みを浮かべてこっちを見ている香里に気が付いた。

「香里。顔が悪女になってるぞ」

「うっさいわね! ……たださ、ちょっと面白くて」

「何が?」

「日頃あれだけ女の子たちに騒がれている相沢くんにお酒を注がせてるなんて……ちょっと優越感?」

「安い優越感だなぁ」

「あら? 名雪に言ったらきっと泣いて悔しがるわよ。もしかしたら血涙流すかもね」

 光景が安易に想像できた。そしてその後、名雪は自分も同じ事をしてもらおうとビールを持って押しかけてくることだろう。

 そのありありと鮮明に思い浮かぶ未来像に祐一は若干表情を青褪めさせて、

「……言うなよ?」

「さて? どうしようかしら」

 クスクス、と笑う香里はとても楽しそうだった。

 

 

 

「むぅ……」

 その光景を真反対から見ていた桐生伊里那は無意識に口を尖らせていた。

 伊里那は祐一にほのかな想いを抱いている。

 これが俗に言う『異性としての好き』なのかどうかは本人にとっても断定できることではないのだが、それでも気にしていることに変わりはない。

 それを意識したのは祐一が高等部に上がり部活からいなくなってからだが、気弱な伊里那が自らアクションを取るようなことできるはずもない。

 高等部に上がってからも祐一の周囲には常に女子の姿があるし、どうこうしようもなく、ただ目でその姿を追うことしかできなかった。

 そういう意味で今回の裏生徒会事件は千載一遇のチャンスとも呼べるものだったのだが、

「……出るタイミング、ないよ」

 なんか、祐一と香里がやたら良い雰囲気なのである。

 っていうかお似合いじゃなかろうか。何処かのバーなどで横に並べば見紛うことなき大人なカップルである。

「ど・う・し・た・の、お姉ーちゃんっ」

「わひゃあ!?」

 ガバァ! っといきなり後ろから抱きつかれ素っ頓狂な声が口から漏れた。

 まるで自分の心境を覗き見られたかのような錯覚を感じ、驚きと二乗の意味で心臓が早鐘を打つ。

「あらら。ちょいと驚きすぎじゃない? お姉ちゃん」

「あ、綾那ぁ」

 舌をぺろっと出し悪戯っぽく微笑んでいるのは綾那。伊里那の妹だ。

「あ、天野さんたちと一緒にゲームをしてたんじゃなかったのっ?」

「負け続きでさすがに飽きたからかえちゃんと交代してきた」

「かえちゃん?」

「戸倉かえでちゃん。ほら」

 と、指差す先、確かにテント中央でポーカーを行っているメンバーが変わっていた。

 美汐、浩平はもちろんとして、かえでや林檎、純一に杉並が入っている。

「ずっと俺のターン!」

「それは反則ですよ浩平先輩」

 馬鹿を言う浩平に辟易とした調子で純一が手札を見せた。

「ブタ。やっぱこういうゲームは俺には向いてないな」

 美汐が運に恵まれた存在であるのだとしたら、純一はその真逆で運に見放された存在かもしれない。

 大方こういう運が絡むゲームの場合自分は負け込む、というのが純一がこれまでの人生で得てきた教訓だった。

「ツーペアだな」

「ブタ」

 杉並、林檎が続く。そして浩平も苛立たしげにバシィ! と手札を叩き出す。

「くそ、ワンペアだ! また負けか」

「ふふふ。まだ私がいますって」

 だがまだ希望は残された。

 かえで。彼女の表情には絶対自信があった。そして示されたそのカードの中身はなんと、

「ジョーカー入りのキングのフォーカード!」

「おぉぉぉ!」

 フォーカードと言えばポーカーの中でも四番目に強い役だ。

 これを越える役が出ることはまずないはず。これで悲願の初勝利かと思いきや、

「甘いです」

 シャキーン! と入るカットイン(心像描写)。そして繰り出された美汐の手札は、

「ロイヤルストレートフラッシュ」

「ありえねぇぇぇぇぇ!!」

 やはり美汐の勝利は揺ぎ無かった。

「……も、盛り上がってるねぇ」

「負けず嫌いが多いみたいだしね〜。特に折原先輩は」

 伊里那からするとやや過剰とも呼べる盛り上がりっぷりだが、こういう雰囲気も嫌いではない。

 というより、この雰囲気を利用して祐一に声を掛けてみるのもありなんじゃないだろうか、とも思い始めた。

 そういうアクティブな方向に思考が行くだけ、既に伊里那は若干この雰囲気にほだされているのだろう。

「……うん」

 手を握り締め、奮起。さぁ行くぞ私! と立ち上がろうとして、

「お? お姉ちゃんがなんか気合入れてる。もしかして相沢先輩に告白でもするの?」

 つんのめった。

「そ、そんなことするわけないでしょ!?」

「えー」

「えー、じゃないの! も、もう」

 伊里那は座りなおし、場を誤魔化す意味で近くにあった缶を手に取り、中身が何かを見もせずにプルタブを開け一気に飲み下した。

「もう誤魔化して……って、お姉ちゃん待った!?」

「ん? なに……よぉ〜?」

 いきなり世界がぐにゃりと歪んだ。

 あれ? と疑問に思う間もない。平衡感覚は消え失せ、ふにゃふにゃと身体の底から力が抜けていく。

「はれ……?」

「これチューハイ、お酒だよ! ああもう、お姉ちゃんはアルコールまるっきし駄目なのに! って、うわ、しかも半分もない! 一気に飲みすぎー!」

 耳元で騒ぐ綾那の声ももう伊里那には届かない。良い気分になり、意識が混濁する中、何故か綾那の方へと倒れこんだ。

「へにゅう……」

「うわぁ、ちょ、お姉ちゃん!?」

「えへへ……綾那は柔らかいねぇ」

「ひゃあ!? お姉ちゃん、胸に顔埋めないで! くすぐったいから……!」

「すー……すー……」

「ってもう寝てるし!?」

 桐生伊里那。

 結局祐一と会話することできず、自爆で終了。

 

 

 

 茜は思う。

 この人選はどうにかならないのだろうか、と。

「なーに黄昏てんのよぅ、あ・か・ねっ」

「その能天気さというか明るさが時々羨ましく感じますよ、詩子」

 テントの端でちびちびと日本酒を口に含んでいた茜の横に、顔を真っ赤にした詩子がどかっと勢い良く座り込んできた。

 その顔をジト目で見つめ、嘆息一つ。

「……詩子、酔ってますね?」

「酔ってませーんよ〜、だぁ」

「酔っ払いは必ずそう言いますけどね」

「あーん、連れないこと言わないでよぅ。あたしと茜の仲じゃなーい」

 あははははは、と笑いながら肩をバシバシと叩いてくる。

 間違いない。絡み上戸だ。

「ほらほらぁ、茜もそんなちびちび飲んでないでがーっと行きましょう。がーっとさ。ほら一献」

「結構です。……いや、待ちなさい詩子。その手に持っている一升瓶、もしかして全部あなたが飲んだんですか? 半分以上なくなってますけど」

「ん〜? そんなこと……あはははははは!」

「意味不明なところで笑わないでください」

「なによぅ……あたしの酒が飲めないってかー!!」

「……ああ、もう」

 酔っ払いは口で説得しても無意味だと悟った。

 注がせないことには延々と会話がループしそうなので、とりあえず諦めて空のコップを突き出す。

 そこに嬉々として酒を注いでいく詩子を半目で見つつ、正面でゲームしている連中へと視線を移した。

「しかし、意外ですね。詩子ならああいうゲームには必ず首を突っ込むと思ったんですけど」

「さっきまでやってたよ〜? でもさー、天野ちゃん強すぎねー。ありゃ勝てないって」

「まぁ……確かにそのようですけどね」

 見る先、再び勝敗が決していた。

「勝負。――五光、月見酒、花見酒、猪鹿蝶、青たん、かす。合計30文です」

「うがぁぁぁぁぁぁ!!」

 ……いつの間にか花札に変わっていたが、ともかくまた美汐の圧倒的勝利で終わったらしい。

 つまり、さしもの詩子も諦めて酒飲みに移行した、と。そういうことなのだろう。

「っていうか詩子、入れすぎです。既にコップから溢れてます」

「あははははははははは!」

「だから意味不明な笑いはやめましょう。不気味ですから」

「あたしの酒が飲めないってかー!!」

「……やれやれ」

 もう相手をするのはよそう。いまの詩子に何を言っても無駄のようだ。

 視線を移し、周囲を見やる。騒がしい光景。それを見て思うことは、

「しかし……こんな面々で裏生徒会は大丈夫なんでしょうか」

 確かに各々類稀なる才能や能力を持っていることはわかる。

 茜の知らないメンバーもいるが、知っている面々の能力から推察すれば、それらのメンバーもかなり優秀な一面を持つのだろう。

 ……だが、この阿鼻叫喚と表現しても過言ではない(と思っているのは茜だけだが)光景を見て、茜はわずかに頭が痛くなるのを感じた。

「ほらほら茜〜? ネガティブな思考で酒を飲んでると悪酔いするわよ〜?」

「既に酔っている人間に言われたくはありませんが」

「酔ってなーい!」

「はいはい」

 半ば聞き流し状態に入った茜だが、そんなこと気にもせず詩子は肩を組みラッパ飲みしつつ、

「まぁまぁ。気にしなさんな。こんな一癖も二癖もある連中だって、相沢くんだったら纏められるんじゃん?」

「詩子……?」

「伊達にあんたの親友名乗っちゃいないさー。茜の考えてることくらい全てお見通しよ〜?」

 詩子はウインク。

「まぁぶっちゃけ、佐祐理さんの考えは正しいと思うわ。あの坂上さんや久瀬くんと対等に渡り合える人間なんてそうはいないし。

 それにこういう色の濃いメンバーを纏められるカリスマ性を持っている人間なんて更に限られるしね。そういう意味で彼はぴったり。茜だってそう思わない?」

 茜は苦笑。

 してやられた、そう思い、

「……あなた、酔ってませんね?」

「だーかーらー、酔ってなんかないって最初っから言ってんじゃーんよー。

 ま、あれよ。気にするのもほどほどにしときなさい。楽しむときは楽しむべし。そうでないと人生面白くないってもんさ」

「詩子が言うと説得力ありますね」

「もちあたぼー」

 親指をグッと立て満面の笑み。本当に楽しそうに笑う詩子を見ていると、小さなことで悩んでいることが馬鹿らしくなってくるような気もする。

 せっかくのキャンプだ。こういう行事にあまり自分から参加することはないのだし、巻き込まれた以上は、

「楽しまなきゃ損……ですね」

「そう! そういうこと! 茜もよーやくわかってくれたかー。うんうん、お母さん嬉しいよ」

「誰が母ですか」

「よっしゃー! 宴じゃ宴ー! パーっと騒ぐぞー!」(←聞いちゃいない)

「……」

 いや、このテンションのハイっぷりはもしかして本当に酔っているのかもしれない。もうわけがわからなくなってきた

 ――というかもうキャンプじゃないですよね、これ。

 いつの間にか様相がキャンプからかけ離れ宴会のようになっているような気がするのは気のせいだろうか。

「……本当に、纏まるんでしょうねこのメンバー」

 ある意味纏まっているように見えなくもないが……。

「はぁ」

 結局、悩みの種は消えちゃくれなかった。

 

 

 

 各々が楽しんでいる(ある意味別ベクトルで)中、ふと香里が思いついたように口を開いた。

「でも、あれよね。正直拍子抜けというかなんというか」

「ん?」

 コップに残っていたビールを全て呷り、祐一にコップだけを差し出してきた。

 注げ、ということなのだろう。もう完璧に注ぐのは祐一の役目になっているらしい。

 しかし香里、やはり酒は強いようだ。既に八杯目、次で九杯目であるが顔や言動にまったく変化が見られない。わずかに赤くなることさえない。

 これが栞だったら一杯目で潰れてそうなイメージがあるが、さすが香里だ、と意味不明な納得を心でしつつ、祐一は新しいビール瓶を開けた。

「で? 拍子抜け、って何が」

「だってあの倉田先輩が関与してるのよ? どれだけ突拍子もないキャンプになるかと思えば、最初以外は本当に普通のキャンプなんだもの」

「普通のキャンプか? これ」

「……まぁやってることはともかく、平穏でしょ? ――っとと、ありがと」

 溢れそうになる泡に慌てつつ一口飲んで、香里。

 なるほど。キー学での傍若無人っぷりを発揮している佐祐理を知っていれば、キャンプなんてものを飛び越えた宴会モドキのこの展開も『平穏』の二文字て片付けることもできるだろう。だが、

「平穏、ね。……ま、そう感じはするが、実際のところは違うんだろうさ」

「どういうこと?」

「佐祐理さん、こっちに手を出す余裕がないだけだろ」

 確かに佐祐理は何もしていない。しかし、矛先は一つではないのだ。

「……つまり?」

「朋也先輩の方がとんでもないことになってるだろう、ってことさ」

「あぁ……なるほど」

 佐祐理がこんな美味しい状況下で『何もしない』なんてことはありえない。

 にも関わらず何も起こらないということは――別の何処かで何かが起こっている、という答えしか残っていない。

「まぁ、朋也先輩はご愁傷様ってところだけど……あの人はあの人でそういう騒ぎ実は好きだし、まぁなんとかなってんじゃないかな」

「へぇ。岡崎先輩のことよく知ってるのね」

「浩平や名雪たちほどじゃないけど、昔馴染みだしな」

「なるほどねー」

 納得したように香里は頷いたが、今度は祐一をジーっと見て、

「……んー、でも案外わかりやすい人かもしれないわね」

「朋也先輩が?」

 香里は頷き、

「だって相沢くんと似てるもの」

「……は?」

 いや待て。それはつまり、

「俺もわかりやすい人間、ってことか?」

「だって相沢くんも実は好きでしょう? こういう騒ぎ」

「――」

 思わず無言になってしまった祐一に、香里は何が嬉しいのか「ほーら」と笑顔で呟き、

「だから、でしょ? 結局なんだかんだで裏生徒会の会長を受け入れたのは」

「……」

「強制だから、っていうのはいわゆる妥協点? 多分倉田先輩もその辺はわかってたと思うけど。

 ともかく、相沢くんは本当に嫌なことなら強制だろうとなんだろうとしない人よ。

 それが最終的にするって決めたのなら、それは相沢くんが数パーセントでも『やってみたい』って気持ちがあったから」

 そこまで言い切り、そして香里は祐一を正面から見据え、

「違う?」

 確信の笑みで問うてきた。

「……あー」

 ぐぅの音も出ない、とはこのことか。

 祐一は敗北の証ということでサムズアップしつつ苦笑し、大きく息を吐いた。

「……うん。やっぱり香里は敵に回したくないな」

「あら、それは褒め言葉として受け取っておくわね。会長?」

 皮肉めいた呼び名と共に差し出されるコップ。中にまだビールが入っている時点で、その意向を悟って、

「オーケー。これからもよろしく頼むわ」

 笑い合い、無言のままに乾杯をした。

 

 

 

 キャンプはキャンプとして成り立ちはしなかったが、それでも親睦会としてはしっかりと成功した、と言えただろう。

 そういう意味では、こんな状況を作り出した佐祐理に感謝をしても良い、と祐一は思った。

「……ま、きっとそれどころじゃないんだろうけど」

 

 

 

 祐一の勘は結局のところ真実であり、

 

 

 

「あははー。狩りの時間ですよ〜?」

 その頃の佐祐理は口元を歪ませハンティングを楽しんでいたのだった。

 

 

 

 あとがき

 ってなわけで、こんにちは神無月です。

 えー、結局もう一本追加ってことになりました。

 いや、本当はこの話がまるまる予定にはなかったんですが「裏生徒会候補たちの話をもう少し」って要望がちらほらあったので。

 今回は若干コメディ色ではなくほんわか系?

 っていうか学園もので終始コメディに突っ走るのは難しいっすね。時にはこういうマジ? とはちょっと違うけどコメディ色抜かないと。

 で、次回はアクションになるのだろうか。

 いずれ行われるゾリオンの前哨戦とでも思ってください。

 ではまた。

 

 

 

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