キー学園の昼休みは四十分と、普通に比べてやや長い。前後の授業によっては約一時間もの時間が取れるのだ。

 というのも昼食をしっかりと消化し、午後の授業にしっかりと励んでもらう、というのが目的らしい。

 まぁそんなことは別段どうでも良い生徒たちにとって、重要なのは昼休みが長いという事実だけだ。

 で、そんな昼休み中の中で。

 キー学園の制服を着た少女が一人、学園の外を歩いていた。

 腰まで届く長髪を靡かせ、絶対の自信を表すように威風堂々と歩く様はやや女性離れしているかもしれない。

 その少女の名は水城祥子。高等部一年C組の生徒だ。

 キー学園は基本的に昼休みに学園の外へ出ることを認めている。……とはいえ、これも今期の生徒会長が就任してからのものだが。

 年々生徒数が増えるキー学園において、昼食の問題はなかなかに大きなものであった。

 食事する場所が多いとはいえ、さすがに一度に大量の生徒が放たれれば混雑するのもまた必然。

 故に生徒会長は外への食事を可とすることを通し――いろいろと一悶着もあったが――学園側もこれを承認したのだった。

 そんなわけで、祥子は窮屈な学食や購買などを避け、外に出たというわけだ。

 祥子は別段人が嫌いなわけではない。ただ人で混み合う場所がどうしても好きになれなかっただけ。

 いつもは朝にでもコンビニで弁当かパンでも買って屋上か世界樹辺りで食べるのだが、今日は朝寝過ごしてしまいそんな余裕がなかった。

「さて……どうするか」

 昼食の目処は、特に無い。好き嫌いはあまり無いほうで、外食に来るときは適当に目に入った店に入っている。

 そして今日は某有名ファーストフードチェーンのMで始まる店に入ろうかなと思い足を向けて――、

「あおっ!?」

 思いっきりなにかを踏みつけた。

「ん?」

「おおお……ミーの、ミーの足がぁぁぁ!」

 軽く視線を向けた先、そこには――明らかに出現する時代を間違えたと思われるリーゼントに着崩した学ランというバリバリの不良がいた。

「大丈夫かよカトちゃん!」

「やべぇ、これ骨折れてるぜ!」

「おいテメェ慰謝料払えやコラァ! ――ってオイ!?」

 と、これまた典型的すぎるほどの文句であるが、そんなこと知ったこっちゃない祥子は無視を決め込みつつそのまま店へと向かっていく。

 だがやはりというかなんというか、男たちは祥子を逃しはしなかった。

 肩を掴まれ強引に振り返させられると、そこには中腰でこちらを見下ろす古い不良たち。

「てめぇ、人様に傷負わせといて素通りとは言いご身分だな。おおう?」

「てめぇ何様だコラァ。あぁ?」

 どうでも良いがどうして不良というのは一々最後に語尾を延ばして疑問系になるのだろうか。

「なにシカトぶっこいてんだコラァ!」

 あぁ、今日は本当に運が無い、と祥子は嘆息した。

 ……まさかこんな絶滅危惧種に指定されそうな典型的な不良に出会うとは。この運をできれば他のところに回して欲しい。

「おい待てよテメェ!」

 肩を掴まれる。それでカチンときた。あたしの身体に触れるとは命知らずな奴、そう祥子はその手首を掴み投げ飛ばそうとして、

 ポン、と。

 そんなかるーい音と同時、祥子とその男の真ん中でいきなり花が咲いた。

「「……は?」」

 男、祥子、ともに状況を飲み込めない。

 が、今度はその花に布が被され、そしてすぐさま取り外されると今度は鳥になって空へと舞い上がっていった。

 それをやはり呆然と見上げる男たちと祥子。と、それに目を奪われた瞬間、祥子は一気に誰かに引っ張られた。

「走るよ」

「え? は?」

 わけもわからないまま手を引かれ走り出す。その相手は、祥子と同じキー学の制服を着込んだ青年だった。

「あ!? こらテメェ待ちやがれ!」

「待てって言われて待つ馬鹿がいるのかなぁ」

 男たちが追ってくるが、完全に鳥に目を奪われていたせいでかなり差が開いていた。それにこの青年、男たちのガタイが大きいことを考えてか人ごみを縫うようにして素早く動いていく。

 引っ張られている祥子が誰にもぶつからないことを考えれば、かなりの運動神経を持っていることがわかるだろう。

 で、数分後にはもうあの男たちは簡単に撒いていた。

「撒けたみたいだね。うんうん、何より」

 それなりに走ったにも関わらず息を一つも乱していない青年が軽く微笑む。

 だが祥子はむすっとその手を振り解いて、

「余計なことを。あんな連中あたしならどうにでもできたのに」

「うん、そうだろうね」

 簡単に頷く青年。予想外の反応だ。

「ん? いやだってあの瞬間手首捻って投げ飛ばそうとしてたじゃん。むしろ俺はあちらさんを助けたつもりだったんだけど?」

「……あ、そ」

 にこやかに言われてもそれはそれで釈然としないのは何故だろうか。

 いや、そんなことはともかく。

「……で? あんた誰よ」

「え、俺? 同じクラスなんだけど……覚えてない?」

「うん」

 一秒も考えず首を縦に振る祥子にややショックを受けたのか、苦笑しつつ、その青年は名乗った。

「俺は佐藤康介。一応、マジシャンだよ」

 

 

 

 

 

集まれ!キー学園

三十一時間目

「凹凸コンビ誕生?」

 

 

 

 

 

 敢えてもう一度言うが、祥子は別段人が嫌いなわけではない。ただ人で混み合う場所がどうしても好きになれないだけ。

 もっと端的に言うのなら、騒がしいのが嫌いなのだ。

「――なのにこの状況はなんなんだ!」

 思わず叫びたくもなるこの状況。

 なんせ自分の周りは人、人、人の壁。眩暈するほどの人の群れが周囲をぐるりと囲っているのだから。

「ほい」

 その中央には康介がいる。最前列には笑う子供。

「……やれやれ」

 それを見てしまえば、まぁ仕方ないかと思えてしまう自分もよっぽどお人好しだ。

 さて。

 この状況を説明するには五分ほど時間を巻き戻す必要がある……。

 

 

 

「俺は佐藤康介。一応、マジシャンだよ」

「マジシャン、ねぇ」

 祥子は康介の頭から足先まで見下ろし、そしてまた顔に視線を戻して、

「馬鹿?」

「うわ、ひどいですよこの人」

 いきなりマジシャンと言われてはいそうですか、と納得できる者がいたら見てみたいと思いつつ祥子は踵を返した。

「あれ、礼もなし?」

「あたしを助けたつもりはないんでしょ? なら礼を言う必要あんの?」

「うーん、確かにそうだけど。水城はきっつい性格してるなぁ〜」

「? あんたなんであたしの苗字知ってんの?」

「いやだって同じクラスだって言ったじゃん」

 あぁ、なるほど。

 だがいくらクラスメイトだとはいえ高等部が始まったばっかりの、しかも話もしたことのないような相手の名前を普通覚えているものだろうか。

 いや仮に覚えていたとして顔と名前が一致するのだろうか。

 ――もしかしてストーカー?

 一瞬そんな疑いが頭を過ぎったが、この暢気な笑みを浮かべた顔を見たらそんな疑問は吹っ飛んだ。

 単純に天然か。

 そう結論付けて祥子は再び歩き始めた。どうであろうと祥子には関係のないことだ。

 ……の、はずなのに。

「あれ? どこ行くの――ってまぁこの時間なら昼食に決まってるか。あ、そうだ。俺も昼食まだなんだ。せっかくだし一緒に食べない?」

 とか言いながら着いてくるのは何故だろう。

 歩を止め、振り返る。

「おい」

「ん? なに? どうしたの?」

「なんで着いてくる?」

「着いてっちゃいけない?」

「うん」

 即答。

 うわー、と康介は頬を掻きながら、

「うーん、困ったなぁ」

 と、まるで困ってなさそうに笑った。

 馬鹿だ。天然の馬鹿だ。

 もうどうでも良い。祥子はさっさと歩き出すことにした。

 すると当然のように追ってくる康介。

「ね、なんで駄目なの?」

「あたしは一人で昼を食べたいの」

「えー。一人って寂しくないか?」

「別に。慣れてるし」

「……あら、もしかして友達いないの?」

「ほっとけ!」

 なんなんだこいつは馴れ馴れしい。

 イラつきながら祥子は少し歩くスピードを早くした。

 タッタッタッタッタッタッタッタッ。

「じゃあ、俺が友達になってやるよ。だから一緒に飯食おう」

「うっさい。あたしは別に友達なんかいらない」

「友達っていろいろ便利だぜ? 学園生活には必須だと思うけど」

「群れるのもつるむのも好きじゃないの。あたしはなんでも一人でできる」

「おぉ、すげぇ自信」

「ええ、あたしは自分に自信がある。だから友人なんて必要ない」

「まぁまぁ。いればいたでホッとするもんだぜ友達って。というわけで親睦を兼ねて一緒に――」

「しつこい」

 更に速度が上がる。

 タタタタタタタタタタタタ。

「何でそこまで嫌がるかなぁ。ただ一緒に飯食うだけだぞ?」

 でも着いてくる。

「なんで見も知らぬ相手と一緒に昼食を取らなくちゃいけないのかわかんない」

「だーから見も知らなくないし。クラスメイトだし」

「そんなん偶然一緒の教室になった赤の他人じゃない」

「クールなご意見どうも。でもほら、そういう偶然が運命というかね?」

「うすら寒いわ!」

 更に速度を上げる。というかむしろ走る。

 ダダダダダダダダダダダ。

「つーかさぁ、別にそこまでする必要なくねぇかー?」

 でもやっぱり着いて来る。

「っていうかあんたの方がよっぽどそこまでする必要ないでしょ!?」

「え、いやだって返事聞いてないし」

「嫌だっつってんでしょうが!」

「いや、OKの返事」

「あんたどこまで自己中なわけ!?」

「いやぁそれほどでも」

「褒めてない!!」

「つかさ、よくこれだけ全力ダッシュしながらそこまで叫べるね。疲れない?」

「思いっきり疲れるっつーの馬鹿ヤロウ!」

 往来を行き交う人々の視線が集まっていることを自覚する。

 それも当然。真昼間に同じ制服を着込んだ男女が全力疾走しながら言い合っているのだ。誰だって目で追うだろう。

 ――あたし何やってるんだろう。

 不意に冷静になると、自分のなんて滑稽なこと。この男の足が妙に速いのはさっきの件で実証済みじゃないか。

 ここまでくると馬鹿馬鹿しい。諦める気がなく撒くこともできないのなら、もう観念するしかないんじゃないだろうか。

 というかそれが結局一番早い解決策なんじゃ? と心が折れかかったとき、

 どん!

「あ?」

「わぁ!?」

 誰かにぶつかった。

 でもこちらには全然衝撃がない。むしろ相手がすっ飛んでいった。

 無理もないかもしれない。何故ならそれは……、

「う、うわああああああああああん!!」

 小さな子供だったのだから。

 号泣号泣、超号泣。

 怪我で泣いている――というよりはおそらく、足元に落ちて無残に潰れたソフトクリームのことで泣いているのだろう。

 呆然としていると、周囲の目がこっちに集まっていることに気付いた。

 なんだどうした? 泣かせたの? あらいじめ? 警察呼んだほうが良いか?

 おいおい、と思わず心中で突っ込み。これくらいで警察って。……まぁ確かに昨今は物騒だけど。いや、というのも昨今の若者の異常とさえ言える犯罪率の上昇がこういった誤解を招くわけで……、

「って、落ち着けあたし」

 子供の泣き声に思わず現実逃避しかけた自分の思考をどうにか戻す。

 このままにはしておけないだろう。さて、どうしたものか。もう一度ソフトクリームを買えば機嫌直ってくれるかな、と考えたところで、

「おーうどうしたー少年」

 祥子を延々追ってきていた康介がいつの間にか膝立ちで子供の前にいた。

「駄目だろー? 男の子がそう簡単に泣いちゃー」

「うう、だって、だって僕のソフトクリーム〜〜〜!」

「うーん。困ったなー。……よし、じゃあお兄さんが面白いものを見せてやろう」

 そう言うと康介は少年が落としてしまったソフトクリームのカップを拾い上げた。それを少年の目の前にちらつかせる。

「いまからこれをお兄さんが魔法で元通りにしてあげるよ」

 え? と子供が目をしばたたかせるより早く、康介がそのカップを自分の口の中に入れて――飲み下した。

 するとすぐにポケットから赤いやや大きめのハンカチを取り出し、左手に沿えた後にそーっと上に引き上げると、

「わぁ!」

 あら不思議。なんとソフトクリームが完全に復活しているではないか。

「はい、あげる」

「お兄ちゃんすごい!」

 いつの間にか少年は涙を止めてキラキラと瞳を輝かせていた。

 そんな少年の頭を軽く撫でながら康介は笑みを浮かべ、

「あははは、まぁお兄さんは魔法使いだからな」

「お兄ちゃん魔法使いなんだー! すっげー! 他にもなんかできるの!?」

「んー? できるぞ?」

「見せてよ!」

「うーん。魔法はおいそれと見せられるもんじゃないんだけどなぁ。……ま、仕方ない。ちょっとだけだぞ?」

「うん!」

 というわけで突如始まる路上での康介マジックショー。

 最初こそその少年だけだったのだが何事かと周囲の人たちが足を止め、康介の華麗なマジックに驚き、賛辞を送る。その繰り返しでどんどん人が増えていく。

 ……で、先程の状況に戻るわけだ。

 なるほど確かにマジシャンを自称するだけはある。この近距離で見ている祥子でさえタネがまるでわからない。

「すごいすごーい!」

 少年はソフトクリームそっちのけで笑っている。先程の泣き顔が嘘のようだ。

 やれやれ、と祥子もまた小さく笑った。

 騒がしいのは嫌いなのだが……まぁ少年が笑っているから良いか、と納得することにした。

 助けられちゃったかな、とも思うが……元はと言えば康介が追ってくるのが悪いんだから借りに感じる必要もないのか、と康介をチラッと見て、

「フッ」

「!?」

 一瞬康介と目が合った気がした。どことなく恥ずかしく感じてそっぽを向く祥子。

 そんな祥子に康介も笑みを浮かべ、

「さぁ、これでラストだぞ少年! しっかり見とけよ!」

 一時の魔法の演技は幕を閉じた。

 

 

 

「悪いなぁ。お前まで巻き込んで」

「別に良いよ、もう。あの子を泣かせちゃったのはあたしだしね」

 で、その後。

 結局一緒に某Mで始まるファーストフードで昼食を取ることになり、いまは学園に戻る途中である。

 なんやかんやで流された感もあるがまぁ諦めも肝心だろう、と祥子は半ば容認状態になっていた。

「そういえばあんた、本当にマジシャンだったんだ」

「おう。俺、人が驚く姿を見るのが好きなんだよねぇ〜」

 うわ、と祥子は一歩引いて、

「……本当にあんた、悪趣味なやつね」

「よく言われる」

 なはは、と笑う康介。と、そこで何かを思い出したように小さく手を打ち、

「そういえばさ」

「何?」

「お前さっき笑ってたな」

「……そうだっけ?」

「おう。可愛かったぜ、すごく」

「なっ……!?」

「あれ? 顔赤い?」

「う、うっさい!」

 覗き込んでくる康介から逃れるように視線をそらす。

 ――くそ、どうにも調子が狂う!

 というか、むしろ最初から話なんて噛み合っていなかった気がする。

 きっとすこぶる相性が悪いに違いない。

「でもさぁ、俺初対面でここまで口軽くなることないんだよなぁ。俺たち相性良かったりしてな――ってどうした変な顔して?」

「いまハッキリあんたとあたしの相性が最悪なのを悟っただけ」

「えー、そうかなぁ?」

「だいたいあんたいままでの経緯でどうやったら相性良いだなんていう結論に辿り着く――」

 ちゃ〜んちゃちゃーんちゃーちゃちゃららら〜ちゃっちゃっちゃちゃらら〜♪

「あ」

「……着メロ? それってエレクトリカルパレード?」

「そう。某ネズミの王国のあれ」

「なにそのすっごい遠まわしな言い方」

「ん? 大人の都合ってやつ?」

「はぁ?」

「いやこっちの話。ほーいもしもし?」

 こっちの話はまだ途中だ! と怒鳴りそうになって、しかし途中で止めた。きっとこいつには何を言っても無駄だ、という諦め意識で。

 康介はそんな祥子の溜め息に気付いているのかいないのか。携帯に対しふんふん、と頷いている。

「うん。うん。う……えぇ? 今から? マジで? 別に俺じゃなくても――えー、どうしても? あー……はいはいわかりましたよ。ういー」

 やれやれ、と肩を落としながら通話を切り、携帯を閉じると康介はこちらを向いて、

「わりぃ、祥子。俺これから仕事入っちゃってさ。そのこと先生に言っておいてくれないか?」

「仕事?」

「ん? や、だから俺マジシャン」

「え……もしかしてプロ!?」

「何を持ってプロと言うかがよくわからないけど、一応売れっ子だぜ? 俺。テレビにも結構出てるし」

 まぁ確かに先程のマジックショーは自分でさえ目を奪われたものだが――いや待てそんなことより。

「ちょっと、どうしてあたしがあんたのことを先生に報告しなくちゃ――」

「んじゃなー」

「って颯爽といなくなってんじゃいわよッ!」

 言うだけ言って康介は手を振りながら人ごみの中に姿を消していった。

 あーもう、と一人ごちつつ頭を抱え、

「……あたし、これからあんなやつと同じクラスなんだ」

 気が滅入るとはまさにこのことか。……いやそれよりも、だ。

「……っていうかあいつ、いつの間にかあたしのこと名前で呼んでなかった?」

 聞き違い……ということにしておこう。

 嫌な予感はひしひしと残っていたが。

 

 

 

 で、翌日。

 朝、教室に入った祥子はその嫌な予感が的中したことを悟った。

「おう、おはよう祥子〜」

「なっ……」

 にこやかな笑顔で名前を呼びながら手を振る康介。と同時、集まるクラス中の好奇の視線。

 無理もない。昨日康介が早退したことを告げたのは祥子だ。その翌日でこの反応。何かあると思わないほうがむしろおかしい。

 かー、っと顔が赤くなる。

 いやそんな反応をしたらあいつの思う壺だとりあえず落ち着け、と深呼吸。

「ん? おーい祥子ー、無視すんなよ〜。一緒に子供あやした仲だろ?」

「ごほっ! げほっ!」

 おおおおお、と驚きにクラス中が沸き立つ。

「子供……まさか二人のか!?」

「ええ、マジで!?」

「やだ、若者夫婦!?」

「禁断の愛ってやつね!」

「あぁ、そういうの憧れる〜!」

「違うに決まってるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 がー! とクラスの面々に吼え、そのままの勢いで康介にズンズン近付き、

「あんたも誤解を招くような言い方をするなー!」

「あれ? でも嘘は言ってないぞ?」

「言い方がわざとくさいのは気のせい!?」

「まぁまぁ。あんまり怒ると血圧上がるぞ祥子? にぼし食えにぼし」

「うっさい! あと祥子って呼ぶなッ!」

「えー」

「えーじゃない!」

「いーじゃん」

「良くもない!」

「ま、ま、とりあえず落ち着け。声大きいぞ。クラス中注目してるぞ。気付いているか?」

「あ――」

 気付けば教室の中は不気味なほどの静まり返っていた。

 こちらの言葉を一語一句逃すまいと面白そうに聞き耳を立てているクラスの視線に祥子は再び顔を真っ赤にして、

「〜〜〜〜っ!!」

 脱兎の如く教室を出て行った。

「あらら。そろそろホームルーム始まるのにどこへ行くのやら」

 クスクス笑う康介の横、それまで傍観を決め込んでいた純一がジト目で康介を見やる。

「おい康介。……お前、また他人様にちょっかい出したのか」

「嫌な言い方するなぁ。単なるスキンシップだって」

「お前のスキンシップは度を越していると俺は身を持って断言しよう」

 康介の陰謀により鞘に追いかけられ更に音夢の機嫌が悪くなってきている純一の言葉にはかなり説得力がある。

 だがそんな純一の言葉もどこ吹く風。あはは、と笑って誤魔化す。

「まー、でも。あいつの驚いたときの顔はいままで見てきた誰よりも可愛いんだ。だからどうしてもからかいたくなっちまうんだよなぁ」

「小学生かお前」

 そのくらいの年頃だと、好きな女の子相手にちょっかいを出したがる男の子、というのはよく見かける。

 それを言うと康介は苦笑し、

「はは、違いない。心境はまさにそんな感じ。あぁ認めよう。俺もやっぱガキなんだな」

「……え、何。本気なのかお前?」

「割とそうらしい。自分でも少し驚いてる」

 祥子の出て行った方向を見つめ、

「ま、これでこの学園生活に張りが出来たってもんだ」

 浮かんだ笑みは、言い表せば『ニヤリ』に近いものだった、と後に純一は語るのだった。

 

 

 

 康介と祥子。

 二人が肩を並べて歩くようになるのは、もう少し先のお話――。

 

 

 

 あとがき

 はい、どーも神無月です。

 えー、どうでしたでしょうか今回。またいろいろチャレンジ的なことをしてみたのですが。

 まず主登場人物オリキャラのみ。

 さらに言えば、ギャグ色よりもラブコメ色を強くしたというか。……いやまぁ祥子の性格が性格なのであんまりラブコメしてませんがw

 これくらいだったら「キー学」として通用しますかね? どうでしょう?

 さて、次回は一転、根っからのコメディになります。

 主登場メンバーが北川や住井や南森ら、ということでお察しくださいw

 ではまた。

 

 

 

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