さて、三年E組にやってきたかえでとみさお。
しかし三年生、つまり上級生の教室というのはなんとも居心地の悪さを感じてしまうのは何故だろうか。
隣を歩くみさおは全っ然そんな素振りはないが、これはきっと性格だろう(断言)。
とはいえそんなことを考えている暇はない。この教材を置いてしまえばもうここにいる意味はないのだ。
だから迅速に観察をして……、
「お、君たち可愛いね? 一年生?」
と、唐突にそんな浮ついた声が耳に届いてきた。
その方向に視線を向ければ、「不良です」とアピールしているとしか思えない金髪の男がニヤニヤと立っていた。
パッと見、顔は良い。いや、顔だけではなく身体のバランスも整っている。どちらかと言えば格好良い部類に入るだろう。……なのだが、何故か。
――キモい、です。
それがかえでの一番最初に頭に浮かんだ感想だった。
それはみさおも同じだったのか。やや眉を顰めて、
「えっと、あなたは誰ですかね〜?」
「僕? 僕は春原陽平。このキー学じゃ結構有名なんだけど、知らないかな?」
「あぁ」
ポン、と手を打つみさお。
「お、知ってる? いやぁ、一年生にも知られてるなんて、僕の人気もすごいよねぇ」
笑顔の陽平にみさおはこくこくと頷いてにっこりと、
「へたれの春原陽平ですね」
「へたれ言うなっ!! っつか呼び捨てかよっ!!」
「でもなんかその受け答えが既にへたれっぽい」
「生意気な一年生ですねぇ!? こうなったら僕の怖さをその身に思い知らせてやるぜ! ハァハァ!」
目が血走っていて怖い。むしろへたれというより変質者じゃ? と思うかえで。
と、そこへ、
「その息切れが怖いんだよへたれ」
「だからへたれ言うなっぷぇらぶ!?」
陽平の鳩尾に一発。崩れ落ちる陽平の向こう、呆れ顔の男子が立っていた。
おぉ、と思わずかえで。現れたのはかなりのハンサムさんだった。
顔も良ければ背も高く、身体も引き締まっていてスポーツマンな雰囲気。そしてどことなく優しそうなイメージも見受けられる。
芸能界でも十分通用しそうなこの容姿、もしかして……。
「あ、岡崎先輩。こんにちは〜」
みさおの言葉に、やはり、とかえでは心中で頷いた。
格好良い男子ランキング第二位。岡崎朋也だ。
なるほど確かにこれはすごい。芸能界にいてもなんらおかしくないほどの容姿である。
その朋也はみさおを見て、
「ん? あれ、お前は確か……部活勧誘のときに純一と一緒にいた――」
「はい! あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。わたし、折原みさおって言います。いつも不肖の兄が迷惑をかけているようで」
「折原……? 兄……? 待て、まさかお前……浩平の妹の折原みさおか!?」
「はい♪」
瞬間、教室中から驚愕の声が沸きあがった。
「二年の折原浩平の妹!? あれが!?」
「うわー、可愛いねー。美形兄妹かぁ、すごいなぁ〜」
「あんな妹がいるなんて……折原浩平、許すまじ!」
「でも、折原みさおってあれだろ? あの噂で有名な……」
「あぁ、あの折原譲りの破天荒っぷりに加え、その可愛さと頭脳を持って何人もの男を没落させていったという、天性の小悪魔……」
「なるほどなぁ。あれならそれも頷けるわなぁ……」
「なんでも噂じゃ今年のターゲットはあの四天王の一人、朝倉純一だとか」
「それ、ある意味面白そうよね?」
「確かに……。朝倉くんが堕ちるのか、それとも小悪魔の負けか……見ものですねっ」
とか、なんか後半から徐々に話の内容が怪しくなってきていると思うのは気のせいだろうか。
きっと気のせいだろう、とかえでは一人納得し、そして教室に視線を向けた。
みさおが朋也と話し込んでいるいまがチャンスだ。いまのうちに他の生徒の観察もしてしまおう。
集まれ!キー学園
三十時間目
「スターを探せ!(後編)」
さて、このクラスのランクインは朋也を含めて六人。
朋也の観察は終えたので、残り五人をざっとすませてしまおう。
可愛い女子、第七位。星条撫子。
ウェーブのかかった綺麗な長い髪……いまは座っているのでよくわからないが、恐らく立てば腰より下まであるだろうか。手入れが大変そうだ。
そして顔立ちも確かに綺麗だ。バランスも整ってるし、美人と呼んで遜色ない。……が、それはどこか氷めいた美しさで、どこか怜悧なイメージが感じ取れる。
――たーしかに美人なんですけど、ちょ〜っと芸能人向きじゃないですよねぇ。愛想なさそうですし。
いや、いま流行のツンデレで行けるだろうか? と思いつつ次へ。
可愛い女子、第四位。黒羽皐月。
最初に思ったことはただ一つ。
――小さっ!!
そう、すんごい小さい。いやむしろちんまい。どう見ても小学生。確かに可愛いが、それは幼児特有の可愛らしさ。
「……そっか。ロリ路線っていうのも大事ですよね、確かに」
芸能界でも需要の多いジャンルではある。アイドルユニットにさえ一人はその役割を担う者はいるくらいだ。
要チェックです、と心の中で二重丸を押し、また次へ。
可愛い女子、第二位。倉田佐祐理。
裏生徒会長でもある彼女は――、
「あれ、いない……?」
教室を見回すも、倉田佐祐理の姿が見当たらない。裏生徒会の会長だと言うし、もしかして仕事中でいまはいないのだろうか?
だとすれば運が悪いとしか言いようがない。仕方なしに男子の方へ調査を変更しようとして、
「朋也さ〜ん。佐祐理がただいま裏生徒会のお仕事から戻ってきましたよー。ねぎらってくださーい♪」
スパーン! と勢いよく扉が開きいままさに颯爽と現れた!
雑誌のグラビア顔負けの極上スマイルを浮かべた、まさに美少女である。
スタイルも抜群、顔なんて最高、あまりに自然な笑顔ともはや文句の付け所もない。素晴らしい逸材である。……が、
「げ」
と、みさおの相手をしていた朋也が呻いた。そして同時、佐祐理の双眸がキュピーンと輝く。
「あらあら朋也さん。その可愛い〜女の子はどこの誰でしょうか〜?」
「いや待て佐祐理。とりあえず携帯に速攻でメールを打ち込むのはやめろ。倉田家がまた何をしでかすか怖すぎる。
とりあえず誤解ないようすぐ説明するが、この子は折原みさおって言ってあの浩平の妹だ。浩平のことについて話をしてたにすぎん」
「本当ですか〜?」
にっこりみさおに確認する佐祐理。それに対しみさおもにっこり笑顔を浮かべ、
「嘘ですよ〜?」
「とーもーやーさーん〜……?」
「うわお前なんて嘘を……! こいつやっぱ浩平の妹だ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ、という効果音を背負い一歩一歩ゆっくりやってくる様はまさに般若。そのプレッシャーときたら音夢の比ではない。
「あ、いや、すいません! 場を和ませる冗談です本当にッ!!」
さしものみさおも命の危機を感じ取ったのか、慌てながらすぐさま訂正した。
やはり笑顔のままの佐祐理がホラー漫画に出てくるからくり人形のような不気味な動作でみさおを見やり、
「本当でしょうね〜?」
「神に誓って!!!」
「……まぁ、良いでしょう。浩平さんの妹ということを考えればそういうことをしでかしてもおかしくありませんですしね」
ホッと胸を撫で下ろす朋也とみさお。
しかし佐祐理はまだその暗黒オーラを払拭しない。そのまま今度はかえでに目線を向ける。
「!!」
あのみさおがビビるだけはある。直視されるだけで腰が抜けそうになるこの圧力は、さすがキー学の裏生徒会長とでも言うべきだろうか。
「で、あなたはどちら様でしょう?」
「あ、え、えーと、私は戸倉かえでです! みさおと一緒に古語辞典を運びに来ました……」
「それだけですか?」
「それだけです!」
するとフッとあの強大な気配が消え、太陽のような笑顔に戻り、
「そうですか〜。やっぱり朋也さんは佐祐理一筋なんですね〜♪」
「なんで今度はそういうことになる! っておいこらくっつくなー!」
あははー、と朋也の言葉を無視して抱きつく佐祐理。なんというか……予想を遥かに超越した存在のようだ。
確かに外見は一級も一級、超一級なのだが……。
――アイドル向き、ではなさそうですよねぇ……。
いや、毒舌家としていけるだろうか? ……しかしそれではまるでお笑い芸人だ。
触らぬ神になんとやら。ここはとりあえず保留といういことで男子に移ることにする。
格好良い男子、第九位。柊勝平。
一年の工藤叶と似たような女性顔だ。いや、男子制服を来てなければまんま女子だろう。
だが工藤と違いどこか馬鹿っぽいイメージが伺える。だからこそきっとこの順位なんだろう。(←何気にひどい
顔は申し分ないんだが……まぁ、次に行くとしよう。
格好良い男子、第八位。真坂浩朗。
勝平とは一転、硬派な感じのするタイプだ。顔も女顔というより男として凛々しい。昨今では珍しいタイプかもしれない。
しかし……、
「……何故でしょう。あの人、どこかで見たことある気が……」
携帯に目を落とし、杉並の補足コメントを見て「あぁ」と思い出した。
真坂浩朗はどうやらラジオ局でADのバイトをしているらしい。かえでは、葉月優香としてラジオにも数回出ている。
きっとそのラジオ局で見かけたのだろう。
「あれ。それってまずいんじゃ……」
下手をすると気付かれる可能性大である。
とりあえず全員観察し終わったのでここは早々に立ち去るのが吉だろう。
「み、みさお。そろそろ……」
「あ、うん。そうだね。それじゃあ岡崎先輩。お幸せに〜♪」
「おい、他人事だと思って無責任な言葉を吐くなっ!!」
「あははー、ありがとうございますみさおさん。佐祐理たちは幸せになりますよ〜!」
「だー! くっ付くなって言ってるだろうが胸を押し付けるなー!」
「くっそぅ、岡崎ばっかり良い思いしやがぶぁあ!?」
「お前は勝手に生き返るな!」
「そ、それって……ひどすぎ、ますよ、ねぇ……がくっ」
後ろから聞こえてくる騒ぎは自分たちのせいなんだろうか、と悩みつつかえではみさおと共に三年E組から撤退した。
で、時間は変わって昼休み。
「それじゃあ行こうかー」
そうみさおが声をかけてきたのは、まだかえでが四時間目の教科書やノートを片付ける前のことだった。
「行くって……どこにです?」
トントン、と教科書などを整えながら聞くとみさおはややげんなりした顔で、
「どこにって……。あと残ってるのは二年A組でしょう? だったら行くところなんか決まってんじゃん?」
「え!? お昼休みに行くつもりだったんですか……?」
「なに言ってるのー。一番話ししやすい時間帯じゃない」
「いや、確かにそれはそうですけど……そんないきなり行って変な顔されませんかね?」
警戒されるとやりにくいことこの上ない。しかしみさおは余裕の表情で自分を指差し、
「わたし、折原浩平の妹で祐一さんとも知り合い。別にお弁当持って一緒に食べましょう〜、って言っても違和感ないなーい」
「お弁当まで一緒に食べる気だったんですか!?」
「それが一番違和感ないと思うけど……不満だったらもう少し連れて行こうか?」
連れて行く? と疑問に思う間もない。
みさおはバッと勢いよく振り返り、ある生徒に向かって手を振った。
「おーい、ことりー! お兄ちゃんのクラスに一緒にお弁当食べに行かなーい?」
「あ、うん。行くー」
「えぇぇ!?」
白河ことり!?
そういえばみさおとことりは仲が良いと杉並の補足コメントにあった気がするが……。
「ほら、これでことりと仲良く出来たら一石二鳥じゃない?」
ことりが弁当の準備をしている間にフフフ、と耳元で囁くみさおにかえではある種の恐怖を感じ取った。
この少女は絶対に敵に回したくない、と。
「準備良いよ、みさお」
「あ、ことり。今回はかえでも一緒ね」
「え?」
そこでことりの視線がこちらに向けられる。
考えようによっては、確かにみさおの言うとおりこれは一石二鳥のチャンス。だとするならば、このチャンスは有効活用すべきである。
だからかえではそれこそ佐祐理でさえ眩むほどのテレビに向ける笑顔を浮かべ、
「はじめまして。戸倉かえでです」
それはことりですらおぉ、呻いてしまうほどの笑みだった。
「ことり、ことり、止まってる」
「――あ」
頬を赤くして止まっていたことりがみさおの言葉で慌てて動き出す。
「あ……はじめまして。白河ことりです」
「おー、ここに一年の双璧が邂逅したわけだね」
「一年の双璧? なにそれ」
「入学早々にファンクラブが出来た二人だからねぇ〜。いやはや」
みさおはおもむろに数歩下がり、指で四角を作りカメラのファインダーを覗き込むように片目で眺め、
「……うーむ。素晴らしいくらいに絵になる。そのまま抱き合ったら漫画もびっくりの百合っぷりだね」
その言葉に、おおお、と男子が色めき立つ。
そんな視線にことりとかえでは勢いよく手を振り、
「ちょ、ちょっとみさお〜!」
「いやいやいやいやいや、それはいろいろまずいですから! あと後ろの男の子たちの顔が怖いですから!」
「えー」
「そ、そんな不服そうに言われても……」
「ことり。みさおは放置しておくと何をしでかすかわからないからさっさと連れて行きましょう!」
「そうだね、かえで。早く処理しないと余計大変なことになりかねないし……」
「あれ? なんか二人いきなり仲良くない? 名前で呼び合っちゃって。っていうか左右で腕掴まれて引きずられてるわたしってなに?
ん? 捕獲された宇宙人? あれ、無視? え、ひどくない? うわ、とことん無視? ボケ殺し? 訴えて良い?」
「「黙ってて」」
「はい」
ずるずるみさおを引きずる傍ら、かえでとことりは互いを見やり、小さく苦笑。
なんか一気にことりと打ち解けてしまった。
もしもこれさえもみさおの計算だとしたら……ホント、とんでもないと心底思った
「だからな。俺は常々思うわけだ。妹萌えというのは二次元でしかありえないものなんだ。現実を見てみろ? 妹なんてただ凶悪な生物なんだ。
それを何を血迷ったかゲーム業界はこぞってこれを萌え扱いだ。俺は声を大にして言いたい! 妹なんてものぶあっるちぇらばぁ?!」
出だしはいきなり折原浩平に対する折原みさおのシャイニングウィザードで始まった。
教室に入って早々何事も言わずに颯爽と跳んだのを見たときは思わず感心してしまったかえでである。
きっとみさおにとってはこれが日常なんだろう。そして驚かない折原浩平の周囲にとっても。
「さてお兄ちゃん? 妹なんてものは……なんなのかな?」
「み、みさお!? お前が何故ここにいれぶぇらがぁ!?」
「先にこっちの質問に答えて欲しいなぁ〜? ん〜?」
「くぉ、ぉぉぉ……は、腹を踏むのは、やめ……」
「じゃあ早く吐いちゃいなさい」
「食ったものが逆流してく、るぅぅぉぉ、ぉ、おぉおおお……おえぇぇ……」
「そっちの吐くじゃないわよこのクソ兄貴ぃ!!」
ゴキン!! という強烈なインパクト音が聞こえて折原浩平は動かなくなった。
「あ、あははは……。ね、ことり。これっていつものことなんですかね?」
「う、うーん。どうもそうみたい」
格好良い男子、第三位。折原浩平。
補足コメントでは(無闇に)明るく、(度が過ぎたほどに)騒ぎが大好きで、(シスコンと呼べるほど)妹であるみさおを溺愛しているという。
その誰とでも分け隔てなく接するところや思わず笑ってしまう馬鹿なところとか、男女問わず人気はあるようだ。
そしてもちろん顔も良い。みさおの兄だと言われてすんなり納得できる美形。カジュアルな格好がかなり似合いそう。
こういう性格はある意味では芸能界に持って来いだろう。一応、要チェックとしておく。
みさおと浩平がギャーギャーと騒いでいる間に他の生徒を確認する。
窓際。そんな光景を楽しそうに見ている超美形の青年。
格好良い男子、第五位。氷上シュン。
分類的には一年の工藤叶や三年の柊勝平に近い女性顔。しかし二人にはない、どこかミステリアスな雰囲気が妙にこちらの視線を惹きつける。
立っているだけで絵になる、というのがなんともすごい。薔薇でも持たせたらもう少女漫画に出てくる王子様にでもなりそうだ。
「ことり。お前も来てたのか」
と、不意なその声は正面。
「あ、お兄ちゃん。こんにちは」
ことりの対応を耳で聞きながら正面を見やり――思わず、固まった。
――なっ、なんですかこれはぁぁぁ!?
心中で思わず叫んでしまうほどの、超絶美形がそこに立っていた。
格好良い男子、第一位。相沢祐一。
芸能界? そんなレベルじゃない。むしろ国規模、いや世界規模で見ても有数の美男子がここにいる。
顔だけではない。身体から髪も、目も、声も、雰囲気に至るまで。まるで神が造形したかのような黄金比とも呼べる容姿。
女性であれば必ず一度は目を奪われてしまうだろうと、確信を持てるほどだ。
抜群、なんて言葉も生ぬるい。もはやこれは別次元の領域である。
「ん? こっちは……?」
そんなカルチャーショックを受けて固まっていたかえでに祐一の視線が向く。
「わ……」
それだけで不覚にもときめいてしまった。
「あ、こちら、みさおと私のお友達の戸倉かえでさん」
「え、あ、えっと、は、はじめまして戸倉かえでです! 噂はかねがね伺っております!」
「噂?」
「うわぁいえこっちの話です。どうかお気になさらず。あは、あはははは……」
「……そうか」
首を傾げつつもあまり気にならなかったのか、突っ込みはこなかった。
危ない危ない。いきなり不信感を持たれたら後々まずい。いまは何事も慎重に、慎重に。
――落ち着け私の心臓!
誰にも見えないように深呼吸。そうしてどうにか落ち着けて振り返ると、
「あ〜らことりちゃ〜ん? 一年生がどーしてこんなところにいるのかなぁ〜?」
「あははは、名雪姉さんこそ一年生相手になーに凄味なんかきかせてるんですかー? 大人げないですよ〜?」
……なにやら凍える空気が漂っていた。
にっこり笑顔のことりに対してやはりにっこり笑顔を浮かべているのは、水瀬名雪というらしい(後で聞いた)。
ランキングにこそ載っていないが十分に可愛い。そんじょそこらの学校であれば間違いなくアイドル扱いだろう。
後で杉並に聞いたところ、どうやら名雪は十五位であったらしい。これで十五位とは……恐るべしキー学、である。
いや、いまはそれよりも……。
「また性懲りもなく祐一に会いにきたのかな? 先輩として言わせてもらうと、クラスの友達を大切にした方が良いと思うよ〜?」
「大丈夫ですよ。みさおもいるし、それにこうしてかえでという新しい友達もできました。どうぞご心配なく」
「そっかー。ことりちゃんは八方美人だもんね〜。そんなだから意中の相手じゃない人たちに付き纏われるんだよ〜?」
「ボーっとしてる割に嫌なところに目がつきますね〜? 名雪姉さんこそそんなだから祐一お兄ちゃんにないがしろにされるんですよ〜?」
もはやダイヤモンドダストである。
互いに親戚だからだろう、言葉に容赦がなく聞いているだけで耳が痛い。こんな場面を見たらことりのファンはどう思うのだろう。
――まぁ、女なんて好きな男性が絡むとこんなもんなんでしょうが。
諦めにも近い感情でその二人のやり取りを見ていたら、そこに仲裁に入ってきた女性がいた。
「まぁ、二人とも落ち着け。いまは昼休みなんだ。他の皆もいる。もう少し周囲の迷惑というものを考えたらどうだ」
可愛い女子、第十位、坂上智代。
可愛いというより美人、という形容がピッタリだろう。星条撫子に通ずるものもあるが、こちらの方が人当たりは良さそうだ。
あちらは人を寄せ付けないイメージがあったが、こちらはむしろ率先して人を引っ張っていくような雰囲気を持っている。
それもそのはず。補足コメントを見ればなんと生徒会の副会長で、次期生徒会長の有力候補なのだという。
なるほど頷ける。誰もがこの人に着いていくことを疑問に思わないような、そんな一種のカリスマ性が伺えた。
そんな智代に注意され、二人も自分たちのしていたことを恥ずかしく思ったのだろう。しゅんと俯き謝ろうとして、
「第一祐一は私と一緒に昼食を取るんだ。二人が言い争う意味なんてないんだぞ?」
かちーん、と二人の顔に怒りマークが浮かんだ。
「ふ〜ん、誰が決めたのかなそんなこと?」
「そうです。坂上さんが勝手に決め付けただけのことですよね?」
今度は智代を加えて三人の目線が交錯し火花が散る。かえでは知らないが様相は数日前の昼食とかなり酷似していた。
私はどうすれば良いんだろう、と助けを乞う意味でみさおを見るが未だ兄とスキンシップ中。声が届きそうにはなかった。
というわけで仕方なくこのバトルの元凶でもあるところの相沢祐一に視線を向けたのだが、
「はい、祐くん。あーん」
「お、おい瑞佳……」
なんと出し抜くように一人の女子生徒が既に一緒に昼食を取っていた。しかも「あーん」まで。
可愛い女子、第八位。長森瑞佳。
顔もスタイルも上々だが、何よりほんわかしたイメージが好感を誘う。純情そうな、というかどこか母親のような暖かな雰囲気を持っている。
きっとそこが彼女の好感度の高い理由だろう。とはいえ、
「なかなかちゃっかりした面もありそうですが」
その瑞佳の動きに気付いた智代、名雪、ことりが慌ててその動きを妨害する。
「瑞佳ー! 抜け駆けは良くないと思うんだよー!」
「長森さんはいつも良いとこを持っていきすぎっす!」
「正々堂々と戦え瑞佳!」
「えー。っていうか皆が勝手に盛り上がってただけだし。わたしがそれに付き合う義理はないもん」
わいわいきゃーきゃーと騒がしい祐一の周囲。
あはは、と苦笑しつつ残りの調査を済ませよう視線を巡らせて、
「お?」
そんな光景を遠めに見つめている生徒を発見した。
それこそ可愛い女子、第五位の里村茜だ。
こちらも美人、と呼ぶ方がしっくりくるタイプだろうか。だが、また星条撫子や坂上智代とも違う雰囲気がある。
撫子ほど冷たくもないが、智代ほど人当たりが良さそうでもない。ことりのどこか人を寄せ付けない雰囲気をやや強くした感じだろうか。
トータル的には智代や瑞佳の方が上のようにも見えるが、
――なるほど。どこか人を惹きつけるものがありますね。
何故かはわからない。が、祐一や浩平と似ているような、どこか人を惹き付けてやまない何かを感じさせる。
それはアイドルとして重要なものである。かえでは心の中で二重丸をつけた。
「とはいえ……」
視線の先には祐一たち。いや――祐一。
なるほど、とかえでは頷く。なんとも罪作りな人であるようだ。まぁ無理もなさそうだが。
「……!」
「あ」
偶然、目が合った。すると茜は慌てて視線を外し、そのまま教室を出て行ってしまった。
あの人はあのバトルには突っ込んでいかないらしい。まぁ、皆が皆あんな戦いに首を突っ込めはしないだろう。疲れるし、何より大変だ。
私ならきっと里村さんと同じ結論に至るでしょう、と心中で頷いていると、心行くまで兄を叩きのめしたみさおがガバッと肩を組んできた。
「どう、かえで? とりあえず観察は全部終わった?」
小声で語りかけてくるみさおにかえでも小さく頷き、
「はい。いろいろとありがとうございます」
「良いってこと! ま、わたしは楽しければそれで良いからね〜。そのための協力なら惜しまないよん♪」
「あ、ありがとう」
一瞬寒気を覚えたのは気のせいということにしておこう。
「さ、わたしたちもお昼食べようよ。かえでの目的のためにも、友好を深めるのは悪いことじゃないでしょ?」
「まぁ、そうなんですけど――わわ、み、みさお! 引っ張らないで!」
まだ騒ぎの収まらないその面々の中に身を投じていく。
未来の仲間を見つけにやってきたこの学園。
しかし、どうもその目的以上に厄介ごとに巻き込まれそうな……しかし、なんだかすごく楽しみな予感を覚えるかえでであった。
あとがき
どもも、神無月です。
さて、ようやく「スターを探せ!」の話も終わりました。急遽前中後編になってしまいましたが、いやぁ読みが甘かったですね。
やはり話が三学年に広がるとなかなか文量が増えてしまいますね(汗
反省です。
さて、キー学にしては珍しく次やる話が決まっていたり。っていうか数話分の予定ができていることが珍しいw
次はオリキャラしか出ません。そんなお話。
ではまた。