「いよっしゃー、放課後だぁぁぁ!」

 チャイムと同時、開口一番そう言い放ったのは折原浩平その人だった。

 普通であれば「何叫んでんだこの人」とかいう哀れみというか変な目が集まりそうなものだが、そこは折原浩平。

 皆も「ま、浩平だし」的にそしらぬ顔で下校したり部活へ向かったりしている。

 二年生ともなれば外部入学生であろうとも浩平の生態(?)についてはよくよく知っているだろう。だからこそ、そういう対応も取れるわけだが。

 で、これもその一環となっているわけで。

「ぬがぁぁ!?」

 椅子に乗り上げ机に片足をつき片手をビシッと突き出してプ○スリーみたいなポーズを決めていた浩平の側頭部に突如塵取りが激突した。

 バランスを崩し机の上からガッシャーンガタンガタン!! と派手に墜落する浩平のやや後方、投球フォームの少女がいる。無論、

「もう、浩平? そういう大騒ぎは恥ずかしいから止めた方が良いと思うんだよ」

 フォームを解き、腰に両手を当て呆れてます、と言わんばかりに嘆息したのは長森瑞佳である。

「ちょっと、聞いてるの浩平?」

「な、長森さん長森さん。敢えて言わせてもらうのならあなたさまの放ったこの塵取りによる惨状の方が激しく大騒ぎな気がするとこの折原浩平愚考しますがその辺は?」

「何言ってるんだよ浩平。わたし別になにもしてないもん」

「てめぇこの野郎人が下手に出てれば調子に乗りやがって塵取りを投げる女がどこにいやがるつかそれを平然と投げるなんて常識欠けてんじゃねぇかと俺は思いません嘘ですごめんなさい悪ふざけが過ぎましただからそのスイング体勢に入っている椅子は速やかに下ろしげふぁ!?」

 こんなやり取りがあって備品が飛び交おうが何しようがそれでも驚くことなく各々行動する2−Aメンバー。さすがというべきか。

「で、浩平はどうするの? これから部活?」

 そして瑞佳も何事もなかったかのように話を進める。彼女の視界には椅子に埋もれた浩平の姿はいかように映っているのだろう。

 だが浩平も慣れたものなのか、はたまた何を言っても無駄だとわかっているのか。のっそりと起き上がると痛む首を押さえつつ、頷く。

「もちろん。新学年始まったときっつーのは決めることが山ほどあるのさ」

「そうなんだ?」

「そらそうだ。軽音はイベントの華だぜ? いかに目立ちいかにそのイベントを賑わせるかにかかっていると言っても過言じゃねぇ」

「過言だと思うなぁ〜」

「ま、そんなことはどうでもよろし。長森も部活だろ?」

「あ、ううん、今日はもうないの。朝ミーティングがあったから、今日はそれでおしまい。あとは帰るだけ」

 瞬間、浩平の目が光った。

「よし、なら長森も来い」

「え〜、なんで?」

「楽器ができる奴は多いに越したことはない。もしかしたらお前に助っ人を頼むかもしれないからなっ」

「最初っから助っ人頼みというのもどうかと思うんだよ?」

「ハハハ、何を今更」

「……そうだね。浩平にとっては今更だよね」

 はぁ、と諦めたように息を吐く瑞佳。なんだかんだで受け入れてしまうお人好しな瑞佳であった。

「さて、それじゃあさっさと部室に行くか。祐一は――」

「祐くんならとっくの昔に出てったよ?」

「む。……まぁ、良いか。部室行ってようぜ」

「祐くんどうするの?」

「あいつならもう行ってるか、あるいはこれから来るだろ。あいつ、面倒ごとは嫌うが約束したことは絶対に守るからな」

 HRが始まる前に部活のことは既に話をして了承を取っておいたんだ、と言う浩平に瑞佳は微笑み頷いて、

「そうだね。それなら祐くんは来るね」

「だろう? だから行ってようぜ」

 そうして教室を出る二人。浩平が先行し瑞佳がそれに続く形だったが、

「あれ?」

 突如瑞佳の視界から浩平の姿が消えた。

 首を傾げ、ゆっくりと横を向くと、

「……あぁ、なるほど」

 遥か先に吹っ飛ばされた浩平と、飛び蹴りでもしたのか、着地するみさおが見えた。

「まったくもう、あの二人は……」

 瑞佳は手を頬に当て、呆れたように笑うと、こう言った。

「校内で暴力はいけないのに」

 お前が言うな。

 

 

 

 

 

集まれ!キー学園

二十六時間目

「軽音楽部」

 

 

 

 

 

「一つ聞きたいことがある」

 腰を押さえた浩平が言った。

「なぁに、お兄ちゃん?」

 不気味なくらい眩しい笑顔でみさおが聞き返した。

「そもそも、何故俺が何の挨拶もなしにいきなり飛び蹴りをくらわにゃならんのだ」

「むしろそれが挨拶?」

「嫌な挨拶だなおい! つか、とっととわけを教えろ」

「あ、そうそう! 聞いてよお兄ちゃん! 純一くんったらひどいんだよ。お昼に誘ったのに逃げるの。あんまりでしょ? あんまりだよね?

 でね、鬱憤が溜まっちゃってぇ、そのぉ、ねぇ? ……思わず蹴っちゃった。てへ♪」

「『てへ♪』なんて可愛く舌出しても駄目ー! つか可愛いなぁこんちくしょういやそうではなく! つかそれってただの八つ当たりだよな!?

 っていうかくそぅ純一許すまじ! いやみさおの誘いを断ったというのはむしろファインプレーに当たるのか……!? どうなんだ、どうする俺!?」

「浩平浩平、主点があっち言ったりこっち言ったりしている上に胸ポケット探ってもライ○カードは出てこないと思うんだよ」

「冷静な突込みをどうも。……しかしみさお。あれだぞ、うら若き乙女が恥じらいもなくジャンピングキックなんてかますもんではありません」

「なんで?」

「見えるから」

 みさおは一瞬止まり、すぐにかぁ、っと顔を赤くするとスカートの端を握り締め、

「み、見えたの……?」

「うむ。っていうか黒っていうのはちょっと冒険しすぎだとお兄ちゃんは思わぶれぇあ!」

 両サイドから膝蹴りと鞄の打撃が来た。

「お兄ちゃん、サイッテー!!」

「そういうのは見えてても言わないのがマナーだよ浩平!!」

「わ、わかった! 全面的に俺が悪かったから踏まないで! 踏みつけないでぇぇぇ!」

 

 

 

 とかなんとかしながら一階の軽音楽部室にやって来る頃にはあら不思議。折原浩平はボロ雑巾のようになっていましたとさ。

「ってどこも不思議じゃねー!? つか俺の人権というか身体の心配というか、そういうのって欠片もねぇのか!?」

「お兄ちゃんどこ向いて突っ込んでるの?」

「駄目だよみさおちゃん。浩平はきっと妄想に話し掛けてるんだよ」

「うっわ……。可哀相なお兄ちゃん」

「お前らひどすぎ。いくら頑丈な俺のハートも今回ばっかりは――」

「それじゃ、どうぞみさおちゃん。あ、みさおちゃんは高等部の軽音楽部室に入るのは初めてだっけ?」

「うん! だからけっこー楽しみなんだぁ♪」

「……無視か、無視ですかそうですか。くそぅ、おかしいなぁ、こういう役回りって春原先輩とかその辺だと思うんだけどなぁ。

 なーんか俺だけ他の三人と扱い違う気がするけどその辺りどうなのよ?」

 しかしその言葉は誰にも聞かれることはなかった。

 折原浩平。廊下にポツンと仁王立ち。

「……」

 くぅ、と拳を握り締め天井を仰ぎ涙をこぼして、

「くっそー俺が悪かったよ悪かったから無視だけは勘弁してぇ! ボケを流さないでスルーはいやぁぁぁ!」

 耐えられぬというように涙を散らばせて部室へと駆け込んだ。

「……折原くん、相変わらず良いようにあしらわれてるわね」

 その部室の中。真正面の席には苦笑を張り付かせて缶ジュースを飲む美坂香里が座っていた。

 見ればその右隣に氷上シュン、左隣には白河ことりが既に集まっている。

「おぉ、早いじゃないか。お前たち暇だなぁ」

「折原くんが部室に早く集合って言ったんじゃない。本当は栞と買い物に行こうと思ってたのに……」

「よく栞ちゃんがOKしたね?」

「いや、それが『そんな、楽しみにしてたのに! お姉ちゃんの馬鹿ぁぁぁ! うわ〜ん、サバイバル部で暴れてやるー!』とか言って走り去って行ったわ……。最近、ホントにあの子の将来が心配になってきた……」

「なに言ってんだ。着実にお前の姉妹として立派に育ってると思うけど――」

 バキィ!! と、何かが砕ける音がした。

 それは香里が握りつぶした缶の音であり、ゆらりと香里の目がこちらを向いて、

「それってどういう意味かしら折原くん?」

「ホントすいません私が間違っていました」

 浩平、すぐさま土下座モードへ突入。瑞佳との日常のせいかこの男、随分と怖い女性に対して反応が早くなっていた。

「まぁまぁ。それはともかく……あと来てないのは祐一くんと北川くん、あと仁科さんと杉坂さんかな?」

 シュンが仲裁ついでに話題を逸らす。こういう気遣いをさせたらこの男は天下一品だろう。四天王に次ぐモテ男は伊達ではないというところか。

「すいません、遅くなりました!」

 そうこう言っているうちに扉が開き二人の女子生徒が入ってきた。

 慌ててやってきたのか、息を切らせて勢いよく入ってきたのは仁科理絵。その後ろから面倒くさそうな表情でゆっくりと杉坂葵がやって来た。

 が、よく思い出して欲しい。

 折原浩平はいま扉の目の前で土下座の真っ最中。そして急いで入ってきた理絵はそれに気付いていない。

 この二つから導かれる未来は――、

「ごふぅお!?」

「え……? きゃあ!?」

 浩平が思いっきり踏まれるという決まりきったものだった。

「あ、わ、そ、その、えっと、ごめんなさい! あの、こんなところにいるなんて知らなかったから……!」

「大丈夫だよ仁科さん。そんなところに寝てる浩平が悪いんだし、そもそもその程度じゃ浩平はビクともしないもん」

「で、でも長森さぁん……!」

「そーそー。お兄ちゃんはこれくらいだとむしろ喜ぶ人だからやるときはてってーてきに殺らないとだよ?」

「……みさお。お前は自分の兄の名誉を地の底に叩き付けたいのか?」

「そんなことはないけど……でもやっぱり人生楽しまないとね?」

「俺は玩具かぁ!!」

 ガバァ! と勢いよく起き上がりみさおに近付く浩平。それに対しみさおは笑いながら逃げ――るのではなく迎撃にフライングニーをかますという兄妹の麗しいスキンシップが行われる中、

「あ、あの、浩平さんは……こういうのが、お好きなんですか?」

 そんな素っ頓狂な声が部室に響き渡った。

「その、もし、本当に浩平さんがこういうの好きなんでしたら……あの、こういうの苦手ですけど、そ、その……が、頑張ります……」

 誰も彼もが動きを止める中顔を真っ赤にしてボソボソと暴走していく理絵。

 胸の前で両手の指をいじりながら俯き加減に語る様は、そりゃあもうとんでもなく可愛いかったりするわけだが……その後ろから放たれる殺気がそれを越えていて注視することは憚られた。

 視線が「てめぇうちの理絵に手ぇ出したらどうなるかわかってんだろうなあぁん?」と物語っている。

 浩平はつくづく思った。俺の回りの女ってどうしてこう怖いのが集まるんだろう、と。

「え、えーと。これってどういう状況? つか入って良いかな?」

 と、いつの間にかその後ろに北川潤がやって来ていた。手に某有名コンビニの袋を持って。

「はわ!? あ、ご、ごめんなさい!」

 それでようやく我に返った理絵は慌てて自分のよく使う席に座る。

 それに続いて葵がゆっくりと移動し――途中で浩平を激しく睨みつけて――その隣に座った。

「なんだかなぁ……」

「どうした折原、そんな盛大に溜め息を吐いて――ってなんだかボロボロだなお前」

「そこは敢えて無視してくれ。……で? 遅いじゃないか北側。どうした?」

「今日あんなことがあって結局昼飯にありつけなかったからそこのコンビニまで飯を買いに行ってたんだ――ってだから北側じゃねぇぇぇ!」

 瑞佳とみさおと香里がゆっくりと顔を近付け合い、

「気付くの遅いね」

「馬鹿なんじゃないの?」

「そうね。北側くんってあれで結構おかしな人だから」

「ヒソヒソ話ならもっと声を小さくしようという気遣いはないのかよお三方!? ってだから北側じゃないっつーのッ!!」

「何やってるんだ北側。邪魔だからどいてくれ」

「だから俺は北側じゃねがふぅ!?」

 後ろからの声に振り向こうとした北川だったがその前に蹴りを食らい、くの字のままに吹っ飛んだ。

 自分のところに吹っ飛んできた北川を肘の打ち下ろしで迎撃し軌道を変える。

 そんな男には容赦のない浩平が見たものは、どこか疲れたような表情を浮かべている祐一だった。

「おう、祐一。随分遅かったじゃないか」

「……いろいろと面倒事に巻き込まれてな。少し疲れ気味なだけだ」

「お前が面倒事に巻き込まれるのはいつものことだと思うんだが……それで、何があったんだ?」

「説明するのも面倒で、むしろ説明したくもない。説明した時点で未来が決定していることを自分で認めてしまいそうだ。……いやもう決定事項なんだろうが」

 何を呟いているんだろう、と思うがこれ以上追求することはしなかった。

 浩平とて祐一の幼馴染。こういう状況でどれだけ聞いたとしても祐一が素直に語ることはないと知っている。

 ……だから後で柚木か杉並に聞いておこう、と完結して周囲を見やった。

「さて、ようやく全員集まったな。……なんかここに来るまでに既に俺の心も身体もズタボロなんだが――」

「お兄ちゃんお兄ちゃん。お兄ちゃんの足元にもっとボロボロで倒れてる人がいるんだけど?」

「見ちゃいけません北側がうつります。それはさておき、とっとと部活を始めよう」

「とはいえ、何をするわけ? いきなり練習?」

「ふ、美坂。お前はわかってない。それよりもまず先に決めねばならぬことがある」

 ツカツカとどこぞのエリートみたいな靴音(上履きだが)を響かせて部室最奥、ホワイトボードの前に移動した浩平は突如ペンを取り走らせて。

「それは――これだぁ!」

 バン! とホワイトボードを叩いた。

 そしてそこに書かれていたものは、

『学園祭に向けて』

 であった。

「って、もう学園祭の話? だってあれ二学期じゃない。その前に体育祭だってあるし……」

「ふふふ。そう、杉坂。誰もがそう思うだろう。だがしかぁし! そんなことではこの競争社会では生きていけないぜ!」

 浩平は二度激しく机を叩き、

「俺たちは軽音楽部! ぶっちゃけ演奏をしっかりとアピールできる場なんてそうそうない!

 そして学園祭はその数少ない場の中でも最も我らがスポットライトを浴びることのできる時と言えるだろう! 加えて俺たちへの期待も大きい!」

 実際浩平の言うように、浩平率いる軽音楽部は毎年毎年楽しみにされているほどである。

「いままでは二学期になってから学園祭をどうするよ的な話をしてそこからスタートしていたが、それでは遅いのだ!

 今年はこれから既に誰がどのポジションで行くかを決め、それに合わせてより激しく、より多くのミュージックを届けようと俺は思う!」

 ほぉ、と誰もが納得するように頷いた。その表情には浩平のくせにまともなこと言ってるよという色が含まれていたが。

「別に曲まで決める必要はない! ただ新しいメンバーも加わったからそういうスタートはどうだと俺は言いたいわけだ。どうよ?」

「良いんじゃないか。指針があったほうが確かにやりやすいだろうし効率も良いだろう」

「そうね、相沢くんの言うとおりだわ。その方がより良いものになりそうだしね」

「期待されてるんならそれに答えるのがマナーだよね♪」

 珍しく浩平の意見に共感を抱く軽音楽部のメンバーたち。それを見渡しながら「ありがとう、ありがとう!」と手を振る。

 が、その内心では。

 ――ククク。軽音楽部みたいに目立つイベントが表に出れば出るほど裏ではいろいろと動きやすいもんだ。

 とか既に別の思惑を考え始めていた。面白くて楽しいのが大好きな浩平は、もちろん表も裏も遊び倒す気でいるわけで。

 そしてその楽しみのためなら事前準備も怠らず、そしてこういうことに鋭い祐一にすら気付かせない二重面。

 折原浩平。なんかボロボロの扱いを受けているが彼とて四天王の一人であり、かつブラックリスト第二位なのであった。

「さて、それじゃあちゃっちゃと決めるか。まずはそれぞれ自分のできる担当を言ってもらおう。あ、新入りもいるから自己紹介も兼ねて」

「じゃああたしから。あたしは美坂香里。基本はドラムだけど、一応ベースギターもできるわ。よろしく」

「僕は氷上シュン。僕はギター全般かな。ドラムもできるけど美坂さんには及ばないね。よろしく」

「に、仁科理絵です。えと、楽器はできないんですけど……ボーカルやってました。よろしくです」

「杉坂葵。ギターもできるけどキーボードがメインかな。たまにサブボーカルもやるわ」

「えと、白河ことりです。楽器はできません。一応、ボーカル志望です」

「わたしは折原みさおでーす! キーボード志望! シンセだろうがピアノだろうが鍵盤楽器は一通りこなせるよ。よろしく♪」

「北川潤だ。一応トランペットとかできるけどあんま軽音じゃ出番ないな。もっぱら広報担当してる」

「うわ、唐突に北川くんが復活した」

 北川はバッと手を振り上げポーズを決めると、

「ふ。当然だ。俺は出番を増やすためならこの身を費やす覚悟があぎゃぱ?! み、美坂! 人がポーズ決めてるときにナッコゥは……!?」

「はいはい。北川くんは置いといて。長森さんと相沢くんも挨拶お願い、ね!」

「わたしたちも?」

 ギャー、と響く悲鳴にもまるで反応せず瑞佳はやや佇まいを正し、ぺこりと頭を垂らした。

「あ、えっと、長森瑞佳です。ときどき助っ人頼まれてます。

 吹奏楽部ではフルートをしてるけど、バイオリンやチェロなんかも弾けます。よろしくね」

「相沢祐一。俺も部員じゃないけどときどき参加させられてる。以前はギターとボーカルをしたことがある。

 一番得意な楽器は……ピアノかな。よろしく」

「んじゃ、最後に俺が軽音楽部長の折原浩平だ。担当はギターがメインだが、一通り弦楽器ならなんでもできるぜ。よろしく!」

 と最後に宣言し、しかしそこで浩平の言葉に祐一とみさおを除く皆が首を傾げた。

「弦楽器全般……?」

「ってことは浩平、バイオリンなんかもできるの?」

 ことりと瑞佳の驚きの混じった台詞に浩平は平然と頷いた。

「あぁ。ギターからバイオリン、チェロ、ヴィオラ、リュート、マンドリン、ハープ、チター、ピアノなどなどな」

「……本当なの祐くん?」

 信じられないのか、瑞佳が祐一を見る。その祐一は軽く頷き、

「あぁ。浩平のバイオリンは聴いたことあるが、かなりの腕前だぞ。ギターも俺じゃ勝てない。ま、ピアノなら多分勝てるだろうけど」

「そうだな。祐一のピアノは別格だよなぁ」

「へぇ……。わたし、浩平がそんなにいっぱい楽器できるなんて知らなかったよ」

「一時期めちゃめちゃはまってたんだよな〜、楽器。あの時は楽器を全制覇しようと血の滲む練習をしたものさ」

「なに天井見上げて回想に耽ってるんだ。っていうかお前熱しやすく冷めやすいの典型だろ。一年持たなかったじゃないか」

「まぁな〜♪」

「っていうかピアノって弦楽器なの?」

「杉坂、バイオリンなんかを見てるとそうは見えないかもしれないけどあれも音源は弦だからな。チター属に分類されるれっきとした弦楽器だ」

 祐一の説明に葵はへぇ、と呟く。横では理恵も感心するようにコクコクと頷き浩平を見ていた。……やや頬を赤く染めて。

 葵はそんな理絵に気付き、そしてキッと浩平を睨みつけ、

「折原浩平……これで勝ったと思うなよ!」

「わけわかんねぇよ」

 ともかくだ、と浩平はパンパンと手を打ち、

「けっこー担当も重複してるし、こりゃあいろいろと決めるところもありそうだな。さくさく決めていこうぜ!」

 そんな浩平の態度に瑞佳とみさおが顔を見合わせ、

「言ってることは間違いないんだけど――」

「なんとなーく納得できないのはなんでだろうね?」

「それが浩平の人徳だろう」

「ちょ、祐一! お前が何気に一番ヒデーこと言ってるからッ!!」

 うがー、と吼える浩平に祐一はまぁまぁと手で制止、苦笑しつつ告げる。

「まぁでも実際浩平の言ってることに間違いないんだ。ほら、気張ってくれよ部長さん」

「当たり前だ! 俺は目立つためなら手段は選ばない男だぜ! ――軽音に一切の妥協なし。張り切って行くぞお前らぁ!」

 おー、と続く軽音楽部一同。

 こうして新たな部員を含めた新生・軽音楽部の幕は上がった。

 

 

 

 あとがき

 というわけでこんにちは神無月です。

 えー、今回は軽音楽部、です。初陣のメンバーもちらほらいますね。

 ……で、また終わってからオリキャラが一人もいないことに気付いた神無月がここにいますが(ぁ

 まぁそれはともかく。浩平メインのお話でありました。

 彼自身も言ってましたが扱いとしては某三年のヘタレに近いものがあるかもしれません。

 違うのは多才なところと空回り率が低いところ、他三人よりは少ないものの確実にファンがいるところでしょうか。……大きな違いですね。

 彼がアクティブなせいかのか、彼を好きになる面々は何故か奥手な人たちが多い。故にこそ浩平の周りにはあまり女性の影が見えない、と。

 んま、そんなことは置いといて。軽音楽部の面々が活躍するのはまだまだ先の話(の予定)。

 のんびりお待ちくださると嬉しいです〜。

 

 

 

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