「今日も良い天気だー」
ふと見上げれば快晴の空。絶好のバイト日和といえる。
・・・のだが、
「なにがどうしてこういうことになってしまったのやら」
深々とため息を一つ。そうして横を見れば真剣な表情で店先を見つめるとても綺麗かつ可愛い容姿の怖い少女が一人。
「ね、倉田さん」
「なんですか、ツキさん」
「・・・ん〜ん、なんでもなーい」
真剣な表情。きっと何を言っても無駄だろう。
それに、いま何かを口出して・・・佐祐理に握りつぶされているパイプみたいにされてはごめんだ。
「・・・なんですか、なんなんですかこの和やかな雰囲気はー」
佐祐理の見つめる先、そこにあるのは古河パン。
ご近所ではいろんな意味で有名なパン屋であり、今年同じクラスになった古河渚の家でもある。
その入り口から見える、レジの辺り。
そこではその渚と、岡崎朋也が仲良さそうに二人並んで談笑している。
店に客はいない。決して人気のない店ではないが、かといってこの店がごった返しているというのもツキには想像が付かなかった。
ま、つまりは―――現在朋也と渚は二人っきりなわけで。
であるからして、佐祐理の不機嫌度メーターもうなぎ上りなわけで。
そこに流れとはいえ共にいる自分としては居心地悪いことこの上ない。というか、自分の命の心配すらしてしまう。
そんなところでツキのできることと言えば・・・、
「今日も良い天気だなぁ」
そんな、ちょっとした現実逃避だけだった。
集まれ!キー学園
十時間目
「休日の過ごし方(朋也編・後編)」
古河パンに張り付いて既に約一時間。
時々行きかう主婦や子供が何事かとこちらを見るが、そこをツキは長年のバイト生活で培った極上のスマイルで誤魔化した。
・・・誤魔化しきれていると、そう思いたい。
中には佐祐理の姿を見て納得している人もいたが、そんなに佐祐理は普段からこういうと突飛なことをしているのだろうか、とツキは自問し、
―――してるんだろうなぁ。
妙に納得してしまった。
「ツキさん、ツキさん」
「あーはいはい。なにー?」
「ここからじゃ何を話しているかわからないんですけど、ツキさんここからでもわかりますか?」
どれどれ、と自らも顔を出し古河パンを物陰から除き見る。
―――物陰から顔を突き出す女二人。随分と滑稽な光景なんだろうなぁ。
思わず嘆きそうな光景だが、いまは考えないことにした。考えたら負けだと、なにか自分の中で呟いている者がいた。
それはさておき渚と朋也を見る。
ほのぼのとした雰囲気。見てるこちらまで思わず微笑を浮かべてしまいそうな、そんな柔らかな光景。
こうして見れば、お似合いの二人にも見える。
・・・そんなことを口に出したら佐祐理になにをされるかわからないので決して言わないけれど。
唇を読む。
『しっかし・・・』
『どうしました、朋也くん?』
『まだ帰ってこないのか、おっさんたちは』
『今日は随分と遠くまで追いかけてるみたいですね』
『ったく。あの二人も飽きないな』
『それだけお母さんもお父さんも仲が良いということですから、私は嬉しいですけどね』
『・・・そうか。ま、古河がそう言うのならそれで良いんだけどな』
『はい』
「・・・ふむ」
そこでひとまず見るのをやめて姿勢を直した。すると佐祐理が横目で『どうでしたか?』と無言の問い。
どうしたもんか、と思いつつ、
「んー、わかったことはいまあの家に古河さんのご両親がいないこと。で、朋也くんがそのご両親と面識があること。あとは―――」
―――古河さんも朋也くんを下の名前で呼んでいて・・・。
言おうとして、しかしその言葉を飲み込んだ。それを言ってしまえば、また同じく朋也のことを名で呼んでいる自分にいらぬ火の粉が降り掛かる結果になりかねない。
「あとは?」
故に、
「あとは、特にわかんなかった」
誤魔化した。
その方が安全だと判断したからだ。だが、
「・・・本当ですかー?」
半目で睨んでくる佐祐理。なにかを疑うような視線に、思わずツキの背中を冷や汗が伝う。
恐るべきは佐祐理の勘の鋭さか。
どうしたものかと思考していれば、果たして神はツキを見捨てなかった。
「あれ、そこにいるのは・・・倉田佐祐理さんに杉山ツキさん?」
ナイスなタイミングで声がかかった。ツキは藁にも縋る思いでその方向へ振り向き、
「・・・えーと」
しかし、よく知らない人物がそこにはいた。
よく知らない、というのはつまり知ってはいるのだが話をしたことがない、ということだ。
切れ長の目を中心とした整った顔、抜群のプロポーション、肩近くのセミロングがさらりと流れる、綺麗と言って過言ではないほどの少女。
蒼月雪姫。それが彼女の名前だったはずだ。
同じキー学の生徒。特に同じクラスや委員会や部活になるわけでもなく、接点らしい接点もなかったはず。
そういえば今年は同じクラスになったような気がするけど・・・、
―――それとも、私が覚えてないだけで挨拶をするくらいにはなってた・・・?
だが、その案に首を横に振る。記憶力にはかなりの自信がある。まずそれはないだろう。とすると―――、
「どうし―――」
ツキが「どうしたの、何か用かな?」と聞く前に佐祐理が首を傾げて、
「えーと、すいません。どちらさまでしょうか?」
と、ツキのときと同じ反応を繰り返した。
ツキは苦笑、雪姫もまた苦笑し自己紹介を始める。
「私は蒼月雪姫。今年は二人と同じクラスだから、挨拶だけでもしとこうかな、と思って。よろしくね」
にこりと、無垢な少女のような笑みを見せる雪姫。
・・・なんとなく、その容姿に似合わないように感じてしまうのはいけないことだろうか。
「で、二人はいったいなにしてるの?」
と、さも当然で一番訊かれたくないことを訊かれてしまった。
「え、えーと・・・」
どう答えれば良いものか。素直に「尾行しています」などと言えるはずもないが、あまり気の利いた言葉も出てこない。
そうして迷いながら佐祐理を振り向けば、頷きが見えた。なにか得策があるのかと思えば、
「実はちょっと尾行をしているんです」
「うわぁー!」
安心した自分が馬鹿だった。
そうだった、倉田佐祐理という人物はこういう人物だとさっきから理解したくもないのに理解していたのではなかったか。
「え、えーと。違うの、あのね・・・」
ほとんど初対面に近い相手にあまりよろしくない印象を与えるのはこれからの学生生活を考える上でよろしくない。
なので必死に否定というか言い訳の言葉を捜すのだが、
「へー、すごいねー! 探偵?」
雪姫は、ただ素直に感心していた。
「・・・・・・」
えーと。
「で、なんの探偵なのー?」
「浮気調査です」
「うわー、浮気? それは人として邪道だよねぇ」
「そうなんです。なのでこうして綿密に調査をしなくてはいけないんです」
「そうなんだ。で、誰? 誰? 誰の浮気調査?」
あまつさえ雪姫まで佐祐理と一緒に顔だけ覗かせる始末。
―――あれ、もしかして私がおかしいの、これ?
「おや? あれって・・・岡崎くんと・・・古河さん? へー、あの二人浮気だったんだー」
「あははー、雪姫さん。あまり素っ頓狂なことを言うと・・・絞めますよ?」
「・・・え、え、だってこれ浮気調査なんじゃ―――」
「朋也さんが浮気なんかするはずありません」
「え・・・?」
「ないったらないんです。良いですね?」
「え、えーと・・・・・・はい」
佐祐理はその返答に満足したのか一度頷きつつ、
「ところで雪姫さん?」
「な、なに?」
「あなたから見てあの二人はどう思います?」
「えーと・・・」
あまり下手なことは言わないほうが良い、と助言したいのだがここでおおっぴらに助言できないのが悲しい。
あとは雪姫がそんなへまをしないことを祈るばかりだが、
「お似合いに見えるねー」
あぁ終わった、とそう痛感した。
「―――っ!? いた、いた、イタイイタイ!? なに、どうしたの、なんなの!? どうして私が卍固めさせられてるのぉぉぉ!?」
「あははー。天罰ですー」
「い、意味がわからないぃぃぃ!?」
ふと雪姫と目が合ってしまった。向けられる助けを乞う視線。
―――はぁ、仕方ない。
「倉田さん倉田さん」
「あははー、なんですかーツキさん? いま佐祐理は天罰執行中で忙しいんですが」
「どこの天使か知らないけど、あんまり騒ぐと朋也くんたちに勘付かれるよ? ほら」
と言って指差す向こう。朋也が怪訝な表情でこっちの方を見ており、
「? どうしました、朋也くん?」
「いや、なんとなくあっちの方が騒がしいと思ったんだが・・・」
だが朋也の視線の先は既に静かなものだった。
「・・・気のせい、みたいだな」
で、そこでは卍固めを解除し雪姫の口を手で封じた佐祐理が安堵の息を吐いていたのだった。
「・・・どうやら、ばれなかったようですね。もう、駄目ですよー雪姫さん。あんまり暴れちゃ」
コクコクと頷く雪姫から手を離し、佐祐理は再び物陰から朋也を観察し始める。
そーっと佐祐理の傍から離れる雪姫。そしてその距離がそれなりになった瞬間ばっと勢いよく離れツキの隣に座り込む。
「こ、こ、怖いぃぃぃ・・・。く、倉田さんってあんな人だったっけ・・・?」
「うん。それだけで私たち良い友達になれそうな気がするよ、蒼月さん」
同情の念から出た言葉に、雪姫はツキを見上げ、
「・・・そっか。杉山さんもいろいろと苦労したみたいだね」
「とりあえず拉致されて関節決められるくらいには苦労したよ」
「う、うわぁー・・・」
雪姫、苦笑。そして立ち上がり、
「私のことは雪姫、で良いよ。私もツキ、って呼んで良い?」
「OK。それじゃ早速、雪姫」
「なに、ツキ?」
互いに名を呼び合う二人。どこかおかしな友情の名の下、ツキは雪姫を見ながら、
「私まだここから離れちゃ駄目なのかなぁ・・・」
「あ、あはは・・・。きっと無理だと思うよ」
こうして雪姫も早速佐祐理のことを理解することとなったのだった。
と、
「あぁ、もうじれったいですねー。こうなったら力ずくで朋也さんを動かさなくては」
そう言っておもむろに携帯を取り出す佐祐理。
隣で雪姫は首を傾げているが、ツキにはなんとなーくなにをしようとしているのかわかった気がする。
佐祐理は数度ボタンをプッシュし耳に当てると、事もなげに一言。
「佐祐理です。古河パンのパンを全部買い占めてください」
「あぁ、やっぱり・・・」
思わず額に手を当てたツキに雪姫は目を大きく見開きながら、
「・・・え、新手の冗談じゃないの?」
「そうであったらどれだけましなことか。こんなのを実際にやっちゃうのが倉田さんなの」
「・・・う、うーん」
そして数分も待てば、大きなトラックが二、三台古河パンに止まり、それが去るとまるで手品のように陳列してあったパンがなくなっていた。
確かにパンが全て売れてしまえば店を開けている必要性も無く、そうなれば朋也が手伝う意味も無くなるだろう。
「うわあ」
改めて驚きの声を上げる雪姫。だが、誰よりも興奮しているのは古河渚その人だった
「す、すごいですっ! すごいです朋也くん! わたし、生まれて初めてですこんなこと!
見てください朋也くん! 陳列棚に何も残ってません! 奇跡です、神秘です! わたしはいま猛烈に感動していますっ!」
「言い回しがやけに古いな。いや、それはともかくとして。・・・ったく、強引だなぁ、相変わらず」
朋也はただ仕方ないという風に頭を掻いていた。
パンが全て売れたことにより礼を言われつつ古河家を後にした朋也。
「さて、と」
これからどうしたものか―――と思いつつ意識は後ろへ。
「いつの間にか増えてるしなぁ」
向こうはまだこっちが気づいていないと思っているようだが、あまい。
商店街に入ってからしばらくして佐祐理がこちらを尾行していることはすぐに察していた。
何を考えてそんな行動をしているかわからないが、別段気にすることでもないので放置していた・・・のだが、いつの間にやら尾行している人数が増えているし、なによりさっきのトラックなんかは正直呆れた。
「恐るべきは倉田財閥。いや、それを容認する親父さんが一番の問題か」
倉田源三。通称、倉田パパ。
倉田財閥を一代で築き上げた男。政治にすら精通しているという顔の広さは正直ただ事じゃないだろう。
そんな相手とどうして朋也の両親が知り合いなのかと言うと・・・なんと中学、高校時代の親友なのだとか。
肩書きだけなら信じられないのだが、倉田源三というその人物に会えば簡単に納得できた。
敢えて言おう。あの人はおかしい。
親ばかの頂点。『佐祐理の佐祐理による佐祐理のための財閥』と公言しているほどであり、その強力な財力の使用権は佐祐理に一任されている。
佐祐理のことを語らせたら延々―――いや、訂正しよう。永遠語り続けるであろう人物。
実際朋也はそれで佐祐理ご自慢トーク耐久レースに参加したことがある。朋也の記録は二十五時間なので一応。その後は記憶がなかった。
そんな父親のもとで育った割には・・・というか育ったからなのか、佐祐理の思考は常人をはるかに超越しているような気がする。
「というかしてるよなぁ」
まぁ、常識なんてキー学にいればあってないようなものだが、尊重したいとは切に思う。
「あ、岡崎先輩!」
と、不意にこちらの名を呼ぶ声。焦りを含んだようなその声に振り向けば、遠くからこちらへ爆走してくる影がある。
「・・・えーと、水瀬・・・か?」
腰まで届きそうな長い髪を撒き散らしながら脅威の速力で迫るのは、水瀬名雪。朋也の一つ後輩にあたる人物だ。
そんな名雪は朋也の目の前で急ブレーキを踏むと、
「岡崎先輩岡崎先輩岡崎先輩!!」
鬼気迫る瞳でこちらの襟首を掴んでガクガクと揺らしてきた。あー、視界が回る。っていうか―――、
「ちょ、ちょっと待て落ち着け水瀬! 首が絞まる! 絞まってる!」
「これが落ち着いていられますかー!? 祐一の貞操の危機なんだよー!」
・・・貞操?
「といういか岡崎先輩! 祐一を見ませんでしたか!? 見てたら教えてくださいぃぃぃ!」
「お、げふ・・・落ち着け、ま、マジで落ち着け! このままじゃ俺が死ぬ! 祐一の貞操より俺の命がピンチだ!」
「そんなことより祐一をぉぉぉ!」
そんなこと言われてしまった。
「で、どうなんですか岡崎先輩ぃぃぃ!」
「げほ、俺は、俺は見てない!」
「ホントにホントですか!? 祐一に口封じされているんじゃないですか!? 嘘だったら命の保障はしませんよ!? むしろ殺す!」
「いままさに殺されそうになってるのに嘘なんて吐くか! ホントに見てない!」
「・・・・・・むー」
手が離される。そこで朋也は空気がこんなにも美味しいものなのかと痛感した。・・・痛感などしたくはないが。
「で、水瀬。いったい祐一になにが―――」
言いかけ、止まる。なぜなら言葉を掛ける相手がそこにはいなかったからだ。
右を向けば、既に点となった名雪の背中。
「―――」
なにがなんだか。
まぁ唯一言えることは・・・、
「祐一も大変そうだ」
一方、佐祐理たちはと言えば―――。
「はぁー、はぁー、はぁー・・・」
「ふぅー、ふぅー、ふぅー・・・」
息切れしながら地面に突っ伏しているツキと雪姫。そして名雪の消えた方向をじっと見つめる佐祐理。
「もう、ツキさんと雪姫さんのせいで逃がしちゃったじゃないですかー」
「っていうかさー・・・。いや、もうなにも言わない。それが正しい気がしてきた」
「ツキ、それは現実逃避じゃ・・・」
「雪姫、現実はいつの時代も厳しいものなの。逃げたいときもあるの」
つまり何が起きたのかといえば、佐祐理が朋也に迫った名雪に我慢の限界を超え、直接手を下そうとしたのを二人が必死に止めていた、ということだ。
名雪が朋也の首を振り回している間なんか、
「あははー。朋也さんに手を出す輩に天国なんて逝かせませんよー。むしろゴー・トゥ・ヘル?」
とにこやかにのたもうたものだ。思い出すだけで体が震えてくる。
「っていうか、いつまでこうして尾行してなきゃいけないんだろう。しかも私まで」
「倉田さんに声かけた時点でバッドエンド確定なんだよ、雪姫。もう諦めた方がきっと得策」
杉山ツキ。この数時間で完璧に佐祐理の特性を掴みきったもよう。とはいえ、それは諦めの境地とも言えるのだが。
立ち上がりつつその張本人である佐祐理を見れば―――なぜか佐祐理は朋也のいる方向とも名雪の走り去った方向でもない方を向いている。
「・・・? どうしたの、倉田さん?」
「いえいえ。いまなんとなーく小馬鹿にされたような雰囲気を感じたもので・・・。あれは―――折原さんですかねー?」
なんのことだかわからないが、それよりツキには気になる光景があった。
「ね、倉田さん」
「なんですかー。いま佐祐理は怨念を送っているんですけどー」
「・・・後半部分は聞かなかったことにしておいて、とりあえずあれ見て」
ツキの指差す先に佐祐理と雪姫の視線が向く。
そこでは小学校低学年くらいの少女がおり、また視線を合わせるように屈んでいる朋也の姿があった。
佐祐理はそれを見てハッとし、
「まさか朋也さんにそんな趣味が!? ま、まさか・・・だからいままで佐祐理を見てくれなかったのですか・・・!?」
「いや、朋也くんに限ってそんなことはないと思うけど・・・」
言いながら、ツキはその二人を注視する。
よく見れば、少女はなぜか泣いていた。どうやら状況的には朋也が泣いている少女を宥めているようだ。
『わかった。それじゃあ、兄ちゃんが手伝ってやるよ』
動く唇が、そんな言葉を紡いでいた。
―――手伝う?
なんのことだろうか、と思っていると朋也が立ち上がり少女の手を取り引っ張っていく。
「拉致!? そんな朋也さん佐祐理というものがありながら・・・!」
「お、落ち着いてよ倉田さん! 岡崎くんのこと詳しいわけじゃないけど、きっとそんなことする人じゃないからー!」
隣で騒いでいる佐祐理と雪姫を意識的に無視しつつ視線で追っていけば、向かう先はお好み焼き屋。
「なんでお好み焼き屋?」
が、そこでふと違和感に気づく。
―――店主が・・・いない?
するとなんと朋也がお好み焼き屋の鉄板の前に立ち、お好み焼きを焼き始めたではないか。
その隣で、心配そうに朋也を見上げる少女。
『わかった。それじゃあ、兄ちゃんが手伝ってやるよ』
そこで理解した。
つまり朋也のしようとしていることは―――、
「倉田さん、雪姫。尾行はここまでにしようよ」
「「え?」」
じゃれ合っていた二人の動きが止まり、こちらに視線が向く。それに視線を合わせながらツキは微笑み、
「優しい朋也くんの手助けに行こうか」
「さて―――」
どうしたものか、と朋也は考える。
目の前ではじゅーじゅーと香ばしい匂いを立ち上げながら焼かれるお好み焼きがあり、隣ではこちらを心配そうに見上げる少女がいる。
・・・発端はきわめて単純。この少女を見たことから始まる。
名雪が去っていった後、どうしたものかと周囲を巡らせれば、道の真ん中で泣いているこの少女を見つけた。
最初朋也は迷子かと思った。そのまま放置するわけにもいかず、声を掛けたのだ。
だが、少女は迷子ではなかった。ただ途方にくれていただけなのだ。
この少女はお好み焼き屋の店主の娘であるらしい。
なのだが、その店主であるところの父親がなにかいきなり鬼の形相でどこかへと走り去ってしまったとのこと。
それでも客は来るもので。一人残された娘は右往左往。父親を探しに出たは良いものの見つからず、思わず泣いてしまった―――と。
そんな事情を知ってしまえば放っておくわけにもいかない。なんとか元気付けて手伝う、とは宣言したものの・・・、
「そういえば俺お好み焼きなんて焼いたことないんだよなぁ」
いまさら致命的なミスに気づく。
さて、この状態でいったい自分はどうしたものか―――、
「なんか困ってるね、朋也くん。手伝ってあげよっか?」
思案に落ちた意識の中、どこか穏やかな声が降りかかる。鉄板から見上げればそこにいたのは、
「・・・ツキ?」
「やっほ」
ぴっ、と手を掲げる肩までの深い茶髪をした少女。それはさっきも出会った人物の、杉山ツキであった。
「なんでお前がここに? さっきバイトに行く途中だったんだろ?」
「あはは。ま、いろいろあってねー」
そうしてツキが肩越しに振り替える先には、さらに二人の少女の姿。その片方は朋也の知るところで、
「佐祐理?」
「あははー、こんにちわ、朋也さん」
いつもの無邪気な笑みで挨拶をする佐祐理。
―――とすると、さっきまで尾行してきたのはこの三人なのか?
なんでツキと佐祐理が知り合いなのだろうか、という疑問もあるが、まずそれよりも佐祐理の隣にいる人物が気になった。
「えっと、あんたは―――」
「あぁ、一応・・・はじめまして、かな? キー学で何度か会ったこともあるけど、話したことないもんね。私は蒼月雪姫。よろしく」
どちらかと言えば綺麗に分類される容姿なのに、口調はかわいい感じというギャップに、意味不明な感心を覚えた。
「あぁ、俺は岡崎朋也。えっと―――」
「好きなように呼んで良いよ」
「あぁ、それじゃ、蒼月で」
「うん。じゃ、私は岡崎くんで」
それにしてもツキといいこの雪姫といい、あまり佐祐理の友人として合わないような気がするのだが、どうなんだろうか。
けれどパッと見、この三人にはなにか修羅場を潜り抜けてきたかのような強力な連帯感が見えるのはなぜだろう。
「あー。駄目だよそれじゃ」
ツキがこちらの手元を見て慌てて屋台の方へ入ってくる。そして朋也からへらを取り上げ、鉄板に広げられたタマを慣れた手つきで混ぜていく。
「わ、お肉も入ってない。朋也くん、お好み焼きはね? 本来最初にお肉をさっと焼くものなんだよ?」
「そうなのか?」
「そ。ま、今回は仕方ないけど。・・・いよっと」
へらが踊り、軽やかにお好み焼きがひっくり返る。その手捌きはまさに本物だった。
「すごいな。もしかしてお好み焼き屋のバイトも経験済みなのか?」
「もちろん。私が経験してないバイトなんて数える程度しかないよ」
そうなのか、と感心して―――しかし問題がそこでないことに気づく。
「っていうかお前たち、いったいなにを―――」
「そんなの、朋也くんと同じに決まってるじゃない」
え、と呟く朋也の前、ツキは手を動かしながらもウインク一つ。
「困ってる人を放ってはおけないでしょ?」
「あははー、そうですよ。朋也さんが困ってるのに、手を貸さないはずがないじゃないですかー」
「まぁ、ここに居合わせたのもなにかの縁だし。手伝うよ、私も」
「―――はは」
ツキに続くように佐祐理と雪姫。その言葉に朋也は思わず笑い、
「よし、それじゃあ―――いっちょ皆でやるか」
「「「おう(はい)!」」」
「それじゃあ、お好み焼きは私が焼くから、朋也くんと雪姫は材料の準備。倉田さんはお客さんの整理をお願い。さーて、やるわよー!」
こうしてお好み焼き屋はいつも以上の騒がしさで、そしていつも以上の賑わいを見せることになる。
まぁ、こんな日も良いだろうと、誰もが思った―――そんな休日。
あとがき
なんか中途半端に長くなってしまった、どうも神無月です。
・・・なんか、ツキ、だいぶ大活躍?(汗)
当初そんな予定はなかったんですけどねー・・・。ま、いいか。
さて、残るは二人。次はどっちにしようかなー、と思いつつ、ではでは。