「そっかぁ。お兄ちゃんが言ってた才能ある後輩って純一くんのことだったんだぁ」

 教室へ向かう廊下の中。まだ始業式の最中であり静寂に包まれている中では、そんなみさおの声はとても響いた。

 とはいえ、教師たちも始業式に出払っているはずなので、別段気にする必要もないわけだが。

 いや、むしろ気にすべきは・・・、

「なんだ、その才能ある後輩、ってのは・・・」

「え、いや、なんか一つ下の学年に二人、とっても優秀な逸材を見つけた、ってお兄ちゃん大分前に喜んでたんだけど・・・純一くんでしょ?」

 確かに『二人』というのは自分と杉並である可能性が極めて高い。高いのだが、純一としてはもう巻き込まれたくないというのが本音なので、はぐらかすことにした。

「さぁ、他の奴じゃないのか? 俺は普通の一学生にすぎん」

「えー、でもブラックリスト入りしてるんでしょう? なら間違いないんじゃないの?」

「ぐ・・・」

 鋭いところを突いてくる。むしろブラックリスト入りした理由がその辺にあるのだが・・・。まぁ、過去は過去だ。これから自分は変わるのだと決意したばかりだ。

「だが俺はもう折原さんには随わんぞ」

「うん。良いんじゃない? お兄ちゃんなんか勝手に暴走して勝手に滅べばいいんだよ」

「・・・」

 さらっと笑顔でのたもうた隣のみさおを見て、思う。

 どうして世の妹というのはこうも怖い人が多いんだろうか、と。

「なにか言いました、兄さん?」

「いえ決してなにもまったく」

 そして勘が鋭いのはもう必須スキルであるらしい。

 はぁ、と嘆息し・・・そしてふと抱いた違和感に純一は後ろを振り向いた。

 そこには数歩分だけ離れて歩く音夢の姿がある。

「なぁ、音夢」

「なんですか、兄さん」

「・・・なんか、怒ってるか?」

「いぃえぇ、別にー」

 ―――いや、その言い方はむしろ肯定しているだろうに。

 しかしどうして怒っているのか、まったく見当がつかない。そうして首を傾げる純一と、後ろで無闇にニコニコしている音夢をみさおは交互に見比べると「ははーん」と妙な笑みを浮かべ、

「ねね、純一くん♪」

 ギュッと、その右腕に絡みついた。

「な?」

「あぁぁぁ!」

「あ、やっぱり」

 突然のことに驚く純一と、やにわに叫びだした音夢を見て、一人得心がいったように頷くみさお。そうして面白ろそうな笑みを浮かべ、

「ねぇ、純一くん。純一くんっていま彼女いないの?」

「あ、あぁ。残念ながら」

「ふーん。そっかぁ・・・。それじゃあさ、わたしが恋人候補に立候補して良いかな?」

「んなっ!!」

 声は純一からではなく後ろの音夢から。

 拳を握り締め肩をプルプルと震わせる音夢を一瞥し、みさおは本当に面白そうな笑みを浮かべて、さらに純一にしなだれる。

「ね、どうかなぁ?」

 上目遣いに瞳をウルウルさせながら、きゅっと腕を抱いてくる様は、男であるなら誰もがノックダウンしてしまいそうな破壊力を備えていた。

 だが純一には効かなかった。

 というより、純一の意識は後方から放たれる強烈な殺気で一杯一杯になっており、むしろそっちでノックダウンしそうな勢いだった。

「お、折原。どういう意図があるのか知らんが、音夢を挑発するのはやめてくれ・・・」

「みさお」

「ん?」

「わたしの名前はみさお。みさおって呼んでよ。そうじゃなきゃ・・・この腕、放さないよ?」

「いや、だから折原―――」

「むー・・・、えいっ!」

 ギュッと、さらに腕に身が寄せられる。二の腕に感じる柔らかい感触に純一は思わずたじろぎ、後方からの圧力が更に増した。

「・・・み、みさお」

「うん、それで良し♪」

 満足したように笑みを浮かべると腕を放し、みさおは数歩純一の前に出ると振り返り、

「これからの一年、面白くなりそうだよっ」

 ウィンクしつつ、走って先に教室へ向かってしまった。

 それを呆然と立ち尽くし眺めていると、横を音夢が無言で通り過ぎていった。

「お、おい音夢・・・?」

 歩が止まる。そして振り返った音夢は満面の笑みであり、

「良かったですね、兄さん。学園開始早々おもてになるようで。おほほほほほ」

 そのまま哄笑を浮かべながら、すたすたと歩いていった。

「・・・・・・はぁ」

 頭を掻きつつ、吐息一つ。なにはともあれ―――、

「かったるい」

 

 

 

 

 

集まれ!キー学園

六時間目

「さぁ、入学式だよ!(中編)」

 

 

 

 

 

 純一たちが教室に着いてしばらくすると、廊下が騒がしくなってきた。どうやらちょうど始業式が終わったようだ。

 そうしてこの教室にも生徒が入ってくる。見知った顔、知らない顔、折々だ。

「ふっ。始業式早々からサボりとは・・・さすがだな、朝倉よ」

「・・・色々とあったんだよ」

 そんな見知った顔の一人である杉並が例の如く気配を消して突如横に出現する。しかし、それで驚くほど純一はもう純粋ではなくなっていた。

「ちょっと待て。なんだ純粋じゃなくなったって」

「どうした朝倉。誰に向かって話している」

「いや・・・すまん。どうやら幻聴だったようだ」

「ふむ・・・。どうやら本当に参っているようだな」

 どこか哀れんだ視線がむしろ辛いなー、と考える純一15歳。

 そんな純一の肩を杉並はポンと叩き、

「ま、何も言うな。お前の苦労くらい手に取るようにわかる」

「口から適当なことを。ったく、お前はどうしてそう―――」

「折原嬢に言い寄られたのだろう? それで朝倉妹が激情してにっちもさっちもいかない状況に―――」

「なぜ本当に知っているか!?」

「ふっ、非公式新聞部をなめないでいただきたいものだな、朝倉」

 口からこぼれるキラン、と光る歯が憎たらしい。

 とはいえ、今更どうして知っているなどと野暮なことは聞かない。強いて言うなら、それこそが非公式新聞部ワールド、とても言っておこうか。

 まぁ、その情報能力には助けられたこともあるので、特に言いはすまい。

「まぁそう落ち込むな。なんなら朗報を教えてやろうか」

「朗報?」

 うむ、と杉並は頷きある方向を指差した。そこを見てみれば、

「・・・へぇ」

 思わず見とれてしまうほど可憐な少女がいた。窓からこぼれる風に透き通るような長い髪を靡かせている少女。

 まるでそこだけ世界を切り取ったような、そんな雰囲気。

「綺麗だろう?」

「確かに。でも見たことないな。外部入学か?」

「あぁ。名を白河ことり。そして既にファンクラブが設立されているようだ」

「まぁ、あれならわかるが・・・。白河、ことり・・・ねぇ」

「朝倉?」

「・・・いや」

 どこかで聞いたことがあるような・・・そんな気がしたのだ。

 まぁ、気のせいだろうと首を振る。

「さらにあっちも見てみろ」

「うん?」

 わずかに視線を前の方へスライドする。

 すると、そこにも白河ことりに負けず劣らずの容姿を持った少女がいた。

 茶色のポニーテールを揺らしながら、もう誰かと話し込んでいる。

 ことりが可憐、というイメージなら、こちらは元気、といった感じだろうか。気さくな雰囲気も見受けられる。

「同じく外部入学の戸倉かえで。無論こちらも既にファンクラブが設立されている」

「なるほど。まぁ、こっちもわからんでもない、か。・・・しっかし」

 相変わらずこの学園には美男美女が集まるなー、と吐息混じりに考える。

 このことりとかえでなんかそのまま芸能界で一級のアイドルになれるだろうと思えるほどの容姿だし、それでなくてもみさおや眞子、環などかなりの美少女までいるのだ。

 もちろん男だって、一学年上の相沢祐一や折原浩平、三年の岡崎朋也なんかはそれこそ芸能界レベルの容姿だ。

「まったく・・・。この学園、入学試験のときに容姿で決めてるんじゃないだろうな」

「ふむ・・・。なるほど。朝倉、その考察は非常に興味深いな。是非今度我らが新聞部で議題としよう」

「おいおい、杉並―――って」

 振り返り、純一は思わず目をパチクリしてしまう。

 杉並がこちらを見ていない。というか、先程から視線がある方向へ向いたままだ。その方向はといえば、

「・・・気になるのか、戸倉が」

「うむ」

「惚れたか」

「安直な回答を晒すことは自分を馬鹿だと認めているようなものだぞ、朝倉」

「やかまし。じゃあ、なんで?」

「いや―――」

 珍しく、杉並が言葉を切った。

 何事に対しても無闇な自信と共に口舌を繰り返す杉並が、だ。

 ―――これはいよいよマジで惚れたか。

「そうではないが・・・朝倉よ」

「いや待て杉並。お前いまさらっと人の思考を読んだな。さらっと」

「戸倉かえで・・・。どこかで見たことあるような気がしないか?」

「ん?」

 純一はもう一度その少女を見やる。

 ・・・だが、別に見た覚えはない。

「いや、ないが?」

「そうか。だがどこかで・・・」

「どっか街ですれ違ったとか?」

「いや。この俺が興味のないものを覚えるわけがない。が、逆を言えば興味があれば絶対に覚えているはずなのだ」

「と、いうことは・・・?」

「興味はないが、自然と目に入るもの。それもしょっちゅう・・・ということになるな」

「そんなもの、あるのか?」

「わからん。・・・むぅ、なにか俺は大切な何かを見落としている気がする」

「そか。まぁ、それも新聞部の議題にしたらどうだ?」

「そうだな。そうしておこう」

 ―――マジかよ。

 もはやなんでもありだ、新聞部。これが報道の自由という奴だろうか。

 ―――音夢の怒れる様が目に浮かぶ。

 だが敢えてどちらにも口を挟むつもりはない。みさおに言ったとおり、自分は一介の学生にすぎない・・・・・・と思われるような生徒になるのだ。

「さて・・・そろそろ担任も来るだろう。俺は自分の席に戻る」

「あ、そうか。杉並は入学式で担任見てるのか。どんな人なんだ」

「・・・・・・」

 ・・・なぜかそこで杉並の言葉が止まった。

「杉並?」

「いや・・・、ふむ。なんと言えば良いか悩んでな。・・・まぁ、そうだな。教師らしくない教師、と言うのが妥当か」

「・・・?」

 杉並にしては要領を得ない言葉だ。まぁ、見ればわかるだろう。

 去っていく杉並を横目に、純一はその教師らしくないという教師を待つ。

 そしてそれに答えるように教室の扉が開き、

「ん・・・?」

 純一は思わず小さく疑問詞を浮かべてしまった。

 入ってきたのは男だ。それもかなり長身の、若く、かなり顔の良い男。

 それなら・・・確かに珍しいかもしれないが、まだいるかもしれない。だが果たして教職にある者が、ジーパンに真っ黒のTシャツを着てくるだろうか。

 そんな純一の疑問をよそに、その男は教卓へと向かって・・・なんと名簿などの手に持ったものを教卓へ放り投げた。

 そして気だるそうに教卓に立ち、一同を見やる。

「あー・・・」

 ボリボリ、と頭を掻き・・・音夢、みさお、純一を交互に眺め、

「まー、なんだ。入学式来てない奴もいるみたいだから、もう一度だけ名前を言っておく」

 振り返り、チョークを握る。そして腕を上げて―――止まった。

 首を傾げる生徒たち。そして数秒。

 その男教師はなぜかチョークを再び戻し、一言。

「書くの面倒くさいな」

 ・・・・・・・・・・・・。

 唖然とする純一、音夢、みさお。だが、他の面々は既にそれが当たり前であるかのように静観している。

 それはもう、あくまでも仕方ない、といった風であり・・・、

 ―――いったい入学式でなにがあった!?

 と思わざるをえない。

 再びその男教師は気だるそうに振り向くと、やにわに教卓の椅子に座り込み、肘をついて、

「まぁ、口答で十分だろう。俺の名は国崎往人だ。国を裂く住人(じゅうにん)と覚えてくれ」

「あ、あのー・・・先生?」

「あー? なんだ、えっと・・・佐藤美穂」

 佐藤美穂、と呼ばれた少女がおずおずと立ち上がる。純一は知らない少女だ。外部入学か・・・それとも単にいままで同じクラスになったことがないのか。

 黒髪を肩まで垂らした、可愛い少女だ。どこかおとなしそう・・・といういか少し気弱そうなイメージを受けるが、そこがまた小動物っぽい。

「え、えと・・・あの、それだと国裂住人、になってしまうと思うんですけど・・・」

 と、言いながら空中に指で字を書く素振りを見せる。すると往人は教卓に同じように指で字をなぞり、

「あ、そうだな」

 ふむ、と首肯一つ。すると往人はいたって真面目な表情で美穂を見て、

「これが俺の名前だ」

「え、でも入学式で配られたプリントには『国崎往人先生』って書いてありますけど・・・?」

「まぁ、こっちの方が格好良いからこれでいいだろ」

「え、えぇぇぇ・・・」

 純一は思う。

 なんて規格外な教師だ、と。というかこんな人物を教師にして大丈夫なのかキー学園は。

 つまりはあれか。キー学園は国立なのだから、教師は公務員。これがいまの公務員の実体か。

 おそるべし腐敗社会。国のずさんな方針はついに学校にまで及んでいたのかっ!?

「・・・って、俺はなにを杉並や折原先輩みたいなことを考えているんだか」

 もはや何も言えなくなった美穂は腰を下ろし、往人はぱらぱらと名簿を捲る。

 んー、とかあー、とか呟き、今度はなにをするかと思えば、

「なぁ」

「は、はい?」

 いきなり教卓の目の前に座る男子生徒―――工藤叶に声を掛けたのだ。そして、

「お前は出席取る必要性があると思うか?」

「・・・・・・・・・はい?」

 そんなことを聞いてきた。

「い、いや、そんなことを急に言われても・・・」

「お前の思うことを言ってみろ。ん? 必要か?」

 苦笑い・・・というより引きつり笑いを浮かべる工藤は助けを請うような視線で周囲を見やる。

 だが周囲の者は皆ふいっと目線を外してしまう。そんな中、純一はピタッ、と目が合ってしまった。

(助けてくれ、朝倉!)

(いや、この状況で俺にどうしろと)

(お前ならなんとかなるんじゃないか!?)

(そういうのは杉並に頼めよ)

(杉並は席が離れすぎてて振り向けないだろ。それじゃあからさまじゃないか)

(そうか。それは残念だったな。というわけで諦めろ、工藤)

(ちょっ、朝倉!?)

(すまん、工藤。俺は無力だ。あとはお前だけの力で頑張れ)

(は、薄情者〜!)

 ピッ、と親指を立て、純一も目線を外した。

 ちなみに、この間全てアイコンタクトである。こんな芸当ができる相手は、杉並と工藤、あとは先輩である相沢祐一と折原浩平くらいだろうか。

「えっと・・・必要だと思います」

「なぜ?」

「え。えーと・・・それが、普通だから・・・?」

「なるほど。じゃあ・・・」

 工藤がホッと息を吐く。だが、

「・・・やっぱ面倒くさいから出席は良いや。全員いるのはわかってるしな」

 ガタン、と大きな音をたてて工藤の顔面が机に崩れ込んだ。

 工藤にしてはなかなか珍しいアクションだ。純一は良い物を見た、と一人頷いた。

 きっと工藤の心情としては「だったら聞くなよ!」といったところだろう。

「まぁ、あれだ。これから部活勧誘もあるだろうから、お前たちも早く終わった方が良いだろう。ここでHRも終わりとする」

 どこからか「早っ」という声が上がる。声からして彩珠ななこだろうか。そうか、彼女も同じクラスだったのか。

「ま、初日くらいさっさと終わらせよう。ということで日直―――は決めてないからいいや。以上」

 とか言って往人は名簿で肩を叩きながら教室を出て行った。

 ・・・なるほど。杉並の言っていた『教師らしからぬ教師』という意味を完全に理解した。

「だろう?」

「だからお前はどうしてそう気配もなしに現れる?」

「ふっ・・・」

「答えはそれだけかよ」

「まぁ、なにはともあれ、あれだな。今年も面白くなりそうだ」

「・・・ま、担任があれで、クラスがこの編成じゃあ・・・騒がしくなるだろうな」

 やれやれ、と息を吐き机に崩れる。腕を伸ばつつ、これからどうしようか、と思案する。

「ところで朝倉よ」

「あん?」

「部活勧誘には行かんのか?」

「あー・・・別に俺は部活なんて入る気ないからなぁ」

「では、我が非公式新聞部に―――」

「入らん」

「むぅ・・・。お前の戦力はなかなかに有効なんだがな」

「何を言っても俺は入らないぞ。んじゃ・・・帰るからな」

 何も入っていない鞄を肩に掛け、純一は席を立つ。

 部活勧誘は基本的に出るも出ないも自由。部活に興味のないものはこれをチャンスとばかりに早く帰るものだ。

 で、純一もそれらに漏れず帰ろうとする。だが、

「あ、純一くん待って」

 それを止める者がいた。振り返れば、今日だけでだいぶ見慣れた少女の姿。

「あ、みさお。・・・と?」

 が、みさおだけではなかった。その後ろにもう一人少女がいた。

 それは先程眺めていた少女であり・・・、

「あ。そうそう、こっちは白河ことりちゃんっていうの」

「はじめまして。白河ことりです」

 にこりと、それこそ極上の笑みで。

 純一は不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。

「あ、あぁ。はじめまして。俺は朝倉純一だ。えっと・・・白河さん?」

「ことりで良いですよー」

「え、あ、いや・・・・・・良いのか?」

「はい。朝倉くんは良い人そうなので、許しちゃいます」

 なんとなく照れるようなことを言ってくる。これは狙いっているのだろうか。・・・いやまさか。

「んじゃあ、ことりって呼ばせてもらうな」

「はい」

「しっかし・・・ことりって外部入学だろ? もうみさおと仲良くなったのか」

「いえ、みさおちゃんとは以前からのお友達なんですよ」

「へー」

「で、だよ純一くん」

 みさおがこっちの服の裾を握りながら、見上げて来る。

「わたしたち行きたい部活あるんだけどさ・・・純一くん付き合ってくれない?」

「なんで俺が?」

「えー、だって、これだけ可愛い子が二人で並んで歩いてたら、危ないじゃん? やっぱそうなると、事前にナイト雇っておこうかなぁ、ってね♪」

 ―――自分で可愛いとか言いやがりましたよ、この子は。

 さすがかっこいい惑星の王子だと言い張る折原浩平の妹、ということだろうか。言ったら殴られそうなので言わないが。

「別に俺じゃなくても良いんじゃないか?」

「んー、でもわたしは純一くんが良いなー。それとも・・・嫌?」

 ちょっと瞳を潤ませつつこちらを見上げるみさおの視線に、純一は思わずたじろぐ。

 こっちは絶対に狙っている。わかっていて使っている。間違いない。今朝の件で折原みさおという少女はそういう少女だと確信していた。

 だが・・・、

「わ、わかったよ。付き合えば良いんだろ、付き合えば」

「あっは、ありがとう、純一くん♪」

 男なんて弱い生き物だ。そう思えてならない純一であった。

「それに、もう行きたい部活は決まってるんだよ。ね、ことりちゃん」

「うん」

「決まってる?」

「そ、純一くんも知っている人がいるところだよ」

「俺が知ってる―――って、おい!?」

 みさおが腕にしがみ付いてくる。それに身を震わせる純一だが、そんなことみさおはお構い無しだ。

「えっと・・・杉並くん、だったっけ? それじゃあ、純一くん借りていくね」

「あぁ、俺に断りをいれずとも持っていけ。・・・では、朝倉。俺はここで。先輩方にも会いに行かなくてはいけんのでな」

「あ、こら杉並!」

「ははは。せいぜいカ頑張れよ。あと・・・背中には気をつけろよ」

「背中・・・?」

 ・・・そういえば、なんか冷気なようなものが背中を撫でているような、そんな鳥肌が立つような悪寒を感じる。

 ゆっくりと振り向いてみれば・・・、

「・・・・・・(にこにこ)」

「ね、音夢・・・」

「なーんですかぁ、兄さん?(にこにこ)」

「い、いや。音夢こそ・・・なんでそんなところに立っているんだ?」

「いいえぇ、別に。私は委員会に入っているので部活に入る気はありませんでしたから? 兄さんと一緒に帰ろうかと思ったんですけどぉ、忙しそうなので一人で帰りますねぇ!(にこにこ)」

 音夢はそう言い放つとズンズンとこれ見よがしな足音を立てて教室を後にした。・・・終始笑顔のまま。

「はぁ・・・」

「えっと・・・ご迷惑、だったみたいですね・・・」

「あぁ、気にしなくていいよ、ことり。あいつはいつもああなんだ」

「いつもなんですか?」

「まぁ・・・なー」

「きっとお兄ちゃんである純一くんが大好きなんだね。やきもち焼いてるんだよ。ま、それはともかく」

 腕を引っ張られる。その先、みさおが笑顔で、

「ほら、行こうよ。まさか・・・帰っちゃわないよね?」

「ま、付き合うって言ったしな。行くさ」

「うん♪」

「で、どこに行くんだ?」

「それは・・・ね、ことりちゃん?」

「はい、軽音楽部です」

「軽音楽部・・・? ・・・待てよ。ということは―――」

 みさおが頷く。

「お兄ちゃんと、あときっと一緒にいる瑞佳お姉ちゃん、祐一さんと名雪さんに会いに、ね♪」

 そんなことを、笑顔で言ってのけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 はい、神無月です。

 まぁ・・・結局今回も祐一たち出てきませんでしたね。でもとりあえず次回は絶対出ます。向かう先が向かう先ですし。

 ことりとみさおが仲良い理由も次回わかります。乞うご期待。

 次回は部活勧誘ということで、一年でなくてもオリジナルキャラが出る予定です(もちろん部活に入っているキャラのみ)。

 今回はオリキャラ登場が少なかった分、次回は結構出ますので、お楽しみに。

 

 

 

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