Episode X
【少女たちは戦場に立つ(前編)】
風子はとりあえず走っていた。何か考えがあったわけじゃない。ただ、じっとしていられなくて。
走りながら、自分にできることを模索していた。浩平たちを死なせないためには、自分は何をすればいいのか。
考え、ふとある施設がこのコロニーにあることを思い出した。
あそこならきっとあるだろう。浩平たちを助けられるものが。
「緊急回避!」
祐一の声に、斉藤が必死で艦を操作する。
ゴウッ!
「全弾、カンナヅキを通過! 損傷はありません!」
「くそ、MSを発進させろ! 舞、お前も頼む」
舞は頷くと、駆け足でブリッジを出て行った。それを見届け、祐一はグワンランの方へと振り返る。
「三連圧縮メガ粒子砲チャージ開始!」
「ですが、敵艦は射程ギリギリの距離まで後退しようとしています!チャージ完了した時に当たる可能性は限りなく低いですが・・・」
「もとより当てるつもりなんてない! 牽制だ! MSの発進を邪魔させるな!」
「りょ、了解!」
川口が急いで三連圧縮メガ粒子砲のチャージを開始する。と、
「だ、第二派、来ます! かわしきれません!」
「斉藤、Iフィールド!」
「了解!」
再び放たれたメガ粒子砲。それはIフィールドによって何とか弾かれる。
「く、形勢は不利か!」
迎撃態勢もろくに整っていないこの状況では、体の良い的でしかない。
「敵艦よりMSの発進を確認! 数は・・・じゅ、十六機!」
「十六!?」
数が多すぎる。こっちの四倍のMSだ。普通に考えたら絶望を通り越して死を覚悟するだろう。だが、
「だけど、生憎と諦めは悪いんだよな!」
こんなところで死ぬつもりなど毛頭ない。今できることをしないで諦めることもしない。
「迎撃用意! 態勢を立て直して打って出る!」
祐一が諦めるときは、自分が死ぬときだけだろう。
グワンランから出撃したMS群の中にその四人はいた。
「さて、佐祐理を退けた実力、見させてもらいましょうか」
先導しているのは杏の乗るジャムル・フィンだ。
佐祐理とはネオジオンの中では射撃の腕で一、二を競い合うライバル同士だ。そんな佐祐理を退けた相手がこの先にいる。こんな状況でどうして楽しみにできずにいようか。
もっとも、佐祐理は実力で負けて退けられたわけではないのだが、そんなことは杏の知る由もない。
「お姉ちゃん、ちょっと先に出すぎだよ」
その後ろにくっつくようにこちらもジャムル・フィン。椋である。
「あたしが早いんじゃなくてガザ部隊が遅いのよ」
「それは確かにそうだけど・・・。でも、それは機体の性能上仕方ないことで・・・」
「そうだよ、杏さん。ガザの人たちだって頑張ってるんだから」
「・・・結局は雑魚ですけど」
杏の右翼と左翼にあゆとさいかのキュベレイMkUが並ぶ。
「さいか・・・。あんた、さり気にひどいこと言うわね」
「事実、ですよ?」
にこっと、悪魔の笑いってこうなんだろうな、なんて考えてしまうような笑みでそう返すさいか。その笑顔を見て、この子は将来ビックになるわ、なんて考えてしまう杏であった。
「お姉ちゃん、そんなこと言ってる場合じゃなさそうだよ」
「えっ?」
椋の顔にいつものふわふわ感が消えている。戦場に立つ一人の兵士の顔だ。
その椋の視線の先―――カンナヅキからは四機のMSが発進してくる。
「たった四機、ですか?」
それを見て、落胆したような声を出すさいか。
「つまらないと言いたげね、さいか」
「四機ですよ? そんなの、ガザ部隊だけでも大丈夫ですよ」
「それは違う、さいか。そのたった四機に、佐祐理や遠野少尉が退けられたのよ? 甘く見てたらやられるのはこっちよ」
杏の言葉にさいかは息を呑む。それほど、杏の言葉には迫力があった。
その迫力は小隊長として、必要な能力。本人は気付いていないが、杏には高い指揮能力の才能があった。これもそのうちの一つである。
「・・・そうですね、ごめんなさい」
「ううん、わかってくれれば良いのよ」
素直に謝ってきたさいかに、杏はにっこりと、優しい姉のような笑顔で答える。杏が小さい子供に慕われるのもこういうところにあるのだろう。
さて、と呟き杏はモニターへと視線を戻す。
その先に、視認できるほどに近づいたMSの姿があった。
「来るわよ! 各自、散開! あゆは戦艦を!」
「任せて!」
杏の号令を合図に、グワンランのMS部隊は散った。
そのネオジオンのMS部隊に向かって駆ける四機のMS。
「敵の数が多いわ。きついとは思うけど、頑張って。単純計算で一人当たり四機を相手にしなくちゃいけないから」
その先頭、BDの中で全員に注意を促す留美。
「そうだね。カンナヅキには近付けさせない。祐一には指一本触れさせないんだから」
意気込む名雪は修復されたジム・ストライクに乗っている。ちなみに修復ついでに浩平と舞がちょっくら中身をいじくったので多少性能が向上している。
「はい。頑張りましょうね」
観鈴が乗るジム・クロウはこれが初陣だ。メンテも万全。浩平のお墨付きで、敵に挑む。
そんな三人の少し後方、若干遅れて舞の駆るガンダムアークレイルが続く。そのコクピットの中で、舞はただただ精神を集中して感覚を研ぎ澄ましていた。
―――違和感は二つあるけど・・・、うん。今回は佐祐理はいないみたい。
それはニュータイプとして、別のニュータイプを感知する能力。
舞はその感覚を行使し、敵の中に佐祐理がいないことを確認していた。違和感が二つ―――、敵の中にニュータイプは二人いるようだが、それは佐祐理とは違う。
確認が終わり、舞は少し安堵していた。
確かに撃つと宣言した。その言葉を今更変えるつもりはない。
だが、やはり戦わずにすむのなら佐祐理とは戦いたくはない。それが自分の本心だった。
「舞? どうしたの、大丈夫?」
留美の言葉に、舞は意識を元に戻す。
「うん。大丈夫」
「そ、ならいいわ」
今は戦うことに専念しよう。そう舞は思考を切り替え、
「祐一は私が守る」
戦場へと飛び出していった。
どこか殺伐としてしまったコロニーの中。
佳乃は風子を追ってここまで走ってきた。
「ここ・・・だよね」
風子の向かったであろう先―――、つまりここ、MS博物館を佳乃は息切れしながら見上げた。
風子があまりにも速く見失った佳乃であったが、進行方向からおそらくここではないか、と当たりをつけてきたのだが・・・。
「鍵が・・・開いてる」
この博物館は今では珍しい、南京錠を扉に使っていた。しかし、あまりにも型が古く、逆に無断で入りにくくなっていたのだが・・・。
「ふうちゃん、どうやって入ったのかなぁ?」
風子にここを開ける術はないはずだ。佳乃の予想ではこの扉の前で立ち往生しているはずだったが、なにかがあって入れてしまったらしい。
それは非常にまずいことだ。今の風子は何をしでかすかわからない。
「早く探さなきゃ」
意を決し、佳乃も博物館へと足を踏み入れた。
「うわ〜、暗いよぉ」
中は照明が全て落ちていて、ほとんど前が見えないくらいに暗かった。だが、そこで立ち止るわけにもいかず、佳乃は手探りで歩を進めていった。
「ふうちゃーん、ふうちゃーん、どこー?」
なぜか小声になる佳乃。それは無意識であったが、自分と風子以外に南京錠を開けた誰かがいると体が気付いていたのだろう。
佳乃が何度呼ぼうと風子からの返事はない。どこに行ってしまったのか、そんなことを考えていると、
たたっ。
「えっ?」
その音、それが足音だと気付いたときには佳乃の体に衝撃が走っていた。
「うわわっ!」
「うお!」
佳乃はその衝撃で転がり、足音の人間も反対側に転がったような音がした。・・・どうやらぶつかってしまったらしい。
―――いたた・・・、この人誰だろう?
痛む尻をさすりながら、相手の正体を探っていた。
風子ではない。感覚が違うし、なによりぶつかたときにわかったことだが相手は自分より背が幾分も高かった。声も男のそれだったような気もする。
勘繰っていても仕方ない。それになぜか、懐かしい感じがする。だから佳乃は声をかけてみることにした。
「えっとぉ、あなたは誰かなぁ?」
その影は佳乃の声によほど驚いたのか、見えないながらもこちらにその感覚が伝わってきた。
「この声は・・・佳乃か?」
今度ははっきりと聞こえてきたその声。それは佳乃にとって忘れられない男の人の声。
「えっと・・・、もしかして、往人くん?」
暗闇に目が慣れてきた。
その向こう、座り込んでいる男の姿は見間違えることなんてない、あの男の姿だった。
「さて、お手並み拝見といきましょうか!」
杏のジャムル・フィンから四機に向けてミサイルが放たれる。それらをかわし、散開する舞たちにさいかのキュベレイMkUが迫る。
「敵は・・・撃ちます」
さいかの意思に反応し、背中からファンネルが放出される。それらは不可思議な機動を描きながら、舞たちへと襲い掛かる。
「これは、噂に聞くサイコミュ兵器!?」
留美の驚愕の声が、ほかの三人に緊張感を与える。観鈴と舞はサイコミュ兵器なんて知らないが、感覚でそれらが強力な兵器だというのは感じ取れた。
「さぁ、踊りましょう?」
さいかの愉快気な声に、ファンネルが答えるように軽やかに舞いながらビームを撃ち出す。
「くっ!」
「うわ〜!」
ニュータイプではない留美と名雪にとってどこから来るかわからないファンネルは、ギリギリかわすのが精一杯だ。いや、かわすことができるだけ褒めるべきだろう。そこへ、
「見えない敵と戦うのは、慣れてる!」
舞は気配―――、感覚の赴くままにヒートダガーを投げつける。それらはまるで吸い込まれるように縦横無尽に動き回るファンネルへと突き刺さり、破壊した。
「舞!」
「名雪と留美、観鈴は他の敵をお願い。これの相手は・・・私がやる」
「・・・わかった、任せるわ。名雪、観鈴、行くわよ!」
「う、うん。川澄先輩、気をつけて」
「すぐ、戻ってきますから」
舞の言葉に頷き散っていく三人を一瞥だけすると、ビームサーベルを抜き放つ。
「あなたの相手は私」
「ふふふ、おもしろい、ですね」
さいかは再びファンネルを射出すると、ビームガンを放ちながらアークレイルへと近づいていく。
それら全てのビームをアークレイルの補助ブースターを駆使して回避、近くのファンネルを切り払っていく舞。そのあまりの運動性と、なにより舞の反応速度にさいかは驚きを隠せなかった。
「・・・強い」
今更ながらに接近戦はまずいと判断したさいかは、近づくのをやめ後退しようとする。が、そんな隙を見逃す舞ではない。
「せいっ!」
舞の放ったビーム型ブーメランがキュベレイMkUの右腕から肩にかけてまでを切り裂く。
「・・・!」
その不意の衝撃にさいかは唇を噛み、しかしそれでも機体の制御を狂わせることはなかった。
「なるほど・・・。確かに甘く見ているとやられるのはこっちです」
杏の言葉を思い出すさいか。認めよう、この相手は間違いなく強い。
「なら、全力で相手をするまでです」
さいかは三度ファンネルを展開。だが、今回はそこに気迫が乗っている。
「なに、この感覚・・・」
対峙する舞に迫るさいかの強いプレッシャー。それは戦意を根こそぎ奪っていくような、そんな感覚さえ抱かせる。
「駄目」
あのプレッシャーに飲まれてはいけない。舞は頭を振り、精神を集中させる。
「負けない」
高まる集中力。そして舞からも放たれる、強いプレッシャー。
お互いはしばしそのまま。一瞬後、刹那の時に二つの大きなプレッシャーは肉薄する。
ヒュン!
おそらく普通の兵士にはそんな音が聞こえただけだろう。
視認さえ出来ず、ただ風が通り過ぎたかのように思えた瞬間には、意識はこの世から消えていたはずだ。
「な、化け物か! あのMS!」
ガザ部隊を襲う、一機の黒いMS。音速を超えているのでは、と錯覚すらさせるその速さは既にガザ部隊から戦意というものを失わせていた
その黒いMS―――ジム・クロウのコクピットにいる観鈴は体を襲う強烈なGと闘いながらもなお、ガザ部隊を追い詰めていく。
「えい!」
振り下げたビームサーベルがガザDを堕とすことすでに五度目。今回もろくな反撃が出来ぬままガザDは撃墜された。
「くっ、藤林中尉たちは!?」
「だ、駄目です! 他の機体に抑えられています!」
「ええい! どうにかならんのか!」
言っていることが他力本願だが、それも仕方ないだろう。機体性能も、パイロットの力量も観鈴の方が遥かに上だ。これで勝てと言うほうが酷だろう。
と、そんな話をしているときにもまた新たに一機のガザDが堕ちる。
「くそぉ! こうなったら全員で同時にかかるんだ!」
「了解!」
確かにそれしか道はなかっただろうが、それも過ちだったと気付くのはそう遠い未来ではないだろう。
それだけ観鈴は強かった。
「「はぁぁぁぁぁ!」」
二人の気合の咆哮は重なり、ぶつかって火花を散らす。
杏のジャムル・フィンから放たれた無数のミサイルをビームサーベルで切り落としながら距離を詰めようとする留美。
「させない!」
すかさずMA形態に変形、その機動力で距離を離す。
「ちぃ、ちょこまかとうるさいやつ! あんたそれでも男なの!」
「なに言ってんのよ! 私、乙女よ!」
「はぁ? 誰が乙女? あんたが? いや、ありえないから」
「・・・その減らず口、いますぐ後悔させてあげる!」
「上等じゃない。やれるものなら・・・、やってみなさいよ!」
杏は再びMSへ変形。振り向きざまにハイメガキャノンを撃ち込む。
それを機敏な動きでかわし、ビームライフルを撃つ留美。といっても留美の射撃の腕はたいしたことはない。これはあくまで動きをさえぎるためのものだ。だが、
「そんな小細工で!」
杏はその攻撃が当たらないとわかっているようにそれにひるまず、ただ撃ち返す。
「くっ! やるじゃない!」
杏の射撃の能力は憎いほど正確無比。かわすにしたって限界がある。多少の損害覚悟でBDは突っ込んでいく。
「そんなことして。こっちに来る頃には蜂の巣よ!」
「さて、どうかし・・・ら!」
「!?」
これだけ固執するのだ、留美は接近戦のほうが得意で、遠距離線は不得手なのだろうと杏は踏んでいた。事実、ビームライフルの照準などあってないようなものだった。
しかし、距離は十分に開いていたにもかかわらず杏の機体が大きく揺れている。いったいなにが起こったのか。
損害を調べ、杏は愕然とした。
ジャムル・フィンの左足。そこにビームサーベルが突き刺さっていたのだ。
「投擲!?」
そう、あの瞬間留美は目にも留まらぬ速さでビームサーベルを抜き放ち、投擲してきたのだ。これはBDの関節駆動部の素早さあってこそのものだが、留美の腕がなければ出来ないことなのは言うまでもない。
「まだ終わってないのよ!」
「あっ!?」
杏のその一瞬の隙を突き、BDはジャムル・フィンへ体当たり。突き飛ばされるジャムル・フィンから素早くビームサーベルを抜くと振り向きざまに蹴りを放つ。
「きゃあ!」
大きく揺れるジャムル・フィン。そのコクピットで杏はしこたま頭をぶつけた。
「いったー・・・。ちょっと、馬鹿になったらどうすんのよ!」
「そんなの私の知ったことじゃないわね」
罵り合う二人。・・・どうやらこの二人、すこぶる気が合わないらしい。
「まさか、これで終わりじゃないでしょう?」
「余裕ぶって・・・。あたしを本気にさせたいようね」
機体を立て直し、再び対峙する両名。
そしてその均衡は、互いの放ったビームによって崩れた。
椋の視界の中、その向こうで杏が苦戦しているのが見えた。
「お姉ちゃん!」
駆けつけようとする椋。しかし、そこへ進路を遮るように放たれてくるビーム。
「どこ行くの?」
「っ!」
ジャムル・フィンのわずか後方、そこにビームライフルを構えて立つは名雪のジム・ストライクだ。
「あなたの相手はわたしだよ」
「また、あなたですか」
さっきから必死に撒こうとMA形態で動き回っているにもかかわらず、まったく差が開かない。ジャムル・フィンの機動性をもってしてもこのジム・ストライクから逃れることは出来なかった。
となると、やることは一つ。
「力ずくでもどいてもらいます」
「わたしは、そう簡単には負けないよ?」
その言葉が終わるかどうか、その瞬間にはお互いのビームが唸っていた。
MS博物館はアルペロンコロニーの政治部が観光用にと作った施設である。
その中には過去の戦争で使われ、しかし時代の流れによって使われなくなった古いMSたちが所狭しと並べられている。
照明の点いたMS博物館。その光の下、二つの人影はゆっくりと歩いていた。
「ところで、往人くんはどうしてこんなところにいるのかなぁ?」
その一人、佳乃はいよいよ核心に迫る言葉を口にした。
「あ〜、いや、そのな・・・。そ、そう、俺はここで警備員をやってるんだ」
「私服で?」
「え゛! あ〜、ほら、私服警官っているだろ?あれの警備員版だな」
「ふ〜ん。それじゃあ、警備員さんに任命された往人くんは、どうして明かりも点けずに巡回してたのかなぁ?」
「ぐ・・・」
佳乃に質問攻めされる男―――国崎往人はどうやら言葉に詰まったようだ。
「ほ〜ら、往人くん? 怒ったりしないから。どうしてこんなとこに無断侵入したのかな?」
「お、俺はそんなことしてないぞ!」
「往人くん以外にどうやってあの南京錠を傷つけずに外せるの?」
「ぐ、ぐぅ・・・」
以外に着眼点の鋭い佳乃に、ぐぅの音も出ない往人。いや、言ったが。
往人はしばらく黙っていたが、諦めたような顔をすると、淡々と語り始めた。
「あれからいろんなコロニーへ行ってあるものを探しまわっていたんだ。だが、いくら探してもどこにもなくてな。それでそのうち懐が寂しくなって、ここでまたしばらく人形劇で金を稼ぐかと思ったんだが・・・、そこで俺は重大な過ちに気付いたんだ」
「ふむふむ?」
「このコロニーでは俺の人形劇は通じないということをな・・・」
自分で言ってダメージを受けたのか、ぐは、と呻く往人。それほどに子供に無視され続けたのはきつかっただのだろうか。
「そっかー。往人くんの人形劇はいつまでたってもここでは受け入れられないんだねぇ」
あまりにもリアルに現実を突きつける佳乃の言葉に、さらに先ほど以上のダメージを受けうおぉぉぉ・・・、と呻く男一人。その背中には哀愁が見えた。
「それで、ここにきた理由は? もうなんとなくわかってきたけど」
「それでも俺の口から言わせる気か」
「罪の告白は自分の口からするのが普通なんだよ? 嘘つきは泥棒さんの始まりなんだからぁ」
左手を腰に、右手は人差し指だけを立てて、いいかな?とでも言いたげに、それはそう、まるで子供でも諭すように言う佳乃。
往人はまたもしばらく黙ったが、佳乃の目を見てため息をつくと、
「実は・・・」
「うん」
「いま外が少し騒がしいようだったから、それに便乗してMSを拝借しようかと・・・」
あちゃ〜、と顔に手を当てる佳乃。予想通りだとはいえ、ショックはショックである。
「仕方なかったんだ! 俺には、もうそれしか生きる道がなかったんだ・・・!」
「往人くん。それ以上の演技は自分を虚しくさせちゃうよ」
「・・・はい」
佳乃の的確な突っ込みに往人は意気消沈する。
そんな往人を見ながらどうしたものかなー、と佳乃が考えていると、
「話は聞かせていただきました」
突如としてどこか幼さの残る少女の声が聞こえてきた。
「この声は・・・」
辺りを見回す佳乃と往人。しかし、その声の主は見つからない。
「ここです」
「上か!?」
声の方向、往人は上を仰ぎ見て―――、
ゴシャ!!
「ぐぶぁ!」
垂直落下してきた風子のニーキックが顔面に直撃した。
「あはは・・・、大丈夫?」
「風子なら大丈夫です」
「どう考えてもお前じゃないだろ!」
あれから五分。それは往人が気絶してから目覚めるまでに要した時間だ。
「それで・・・、こいつはなんだ?」
ヒリヒリする鼻を押さえ、佳乃に尋ねる。
「えっとぉ、この子は伊吹風子ちゃん。あたしのいる病院に入院してるの」
「・・・んな奴が何でこんなところにいるんだ?」
「さぁ、それはふうちゃんしかわからないよ。わたしはただ追っかけてきただけだし・・・」
そう言って佳乃は風子へと視線を向ける。それは無言の質問であり、それは風子にもわかったようだ。
「風子はここにMSを取りに来たのです」
「なんだ。俺と同じ意図できたのか」
「早合点しないでください。風子はあなたみたいに私利私欲のために取りに来たわけではないです」
「ほう。じゃあ、なんのためだ」
往人のその質問に一瞬逡巡し、しかしはっきりと、
「友達を助けるためです」
そう答えた。
その目に迷いはなく、嘘偽りもない。そんなもの往人には見ればわかる。伊達に長い間旅はしていないのだ。
「友達っていうのは、外でドンパチしている奴らか?」
「はい。連邦の艦に、風子のことを友達と言ってくれた人たちがいるんです」
風子はそれだけ言うと立ち上がり、博物館の奥のほうへと歩き出した。
「ふうちゃん、どこに行くの?」
「動けるMSを探します。さっきから探しているのですが、全て燃料がないんです」
「いくら探してもないぞ。動くMSなんて」
その言葉に風子の動きが止まる。振り返り、
「そうなのですか?」
「そりゃそうだろう? ここは博物館だ。そんなもの入れておくわけがない。危険だからな」
「ふむふむ。じゃあ、往人くんはどうやってMSを拝借するつもりだったのかなぁ」
横からの佳乃の言葉に動きが止まる往人。
「往人くんのことだから、何か手があったんだよね?」
またも佳乃の鋭い突っ込みに往人は呻く。
「どうやらそこの人にはなにか方法があるようですね。なら風子を手伝ってもらえませんか」
何で俺が、と呟く往人に風子は詰め寄っていく。
「手伝ってくれるならこのことは誰にも言いません。風子はこう見えて口は爆弾岩のように堅いです」
「俺を脅迫する気か。―――って、おい、それ思いっきり爆発するんだが」
「大丈夫です。風子の爆弾岩は爆発しない爆弾岩なんです」
「ふうちゃん、それ意味ないよ」
佳乃の冷静な突っ込みを、風子はしゃきっと胸を張って「大丈夫です」と意味不明な返答で片付けた。
「さぁ、どうします、そこの人。あんまりのろのろしないでください。風子の口はところてんの如く柔らかいのです。このままではサブマシンガン並みのトークであることないこと付属で言いまわること必須です」
「おい。さっきと言ってることが逆だぞ」
「そんなことありません。風子はどちらかと言えばはっきりしてます」
きりっとした表情で、風子。
往人はげんなりした顔で、
「・・・しょせんは子供か」
ぼそっと聞こえないように呟いた。しかし、風子を侮ってはいけない。
「むっ。そこの人の目は節穴ですか? いえ、節穴でしょう。風子はどちらかと言えば大人です」
「うおっ、聞こえてやがる!」
「そこの人は、とても失礼です」
プンプン、とでもいった感じに拗ねる風子。
「まぁまぁ、二人とも。―――でもね、往人くん。あたしからもお願いするよ」
「え」
「は?」
その疑問語は二人同時。二人の向ける視線に、佳乃は頬を掻きながら、
「えーっとね、本当はあたしふうちゃんを止めるために来たんだけど・・・。
でも、さっきのふうちゃんの目や言葉を聞いたら止められなくなっちゃった。ううん、それどころか援護してあげたくなるぐらいに」
「霧島さん・・・」
佳乃は風子に笑いかけ、
「お願いだよ、往人くん」
往人の方へと振り返り、頭を下げた。
往人は頭を掻くと、
「ったく、仕方ねえな・・・」
と言って立ち上がった。
「手伝ってくれるのですか?」
「まぁ、佳乃の頼みとなればな。それに・・・」
「それに?」
「・・・いや、なんでもない」
風子のその真っ直ぐな目に絆(ほだ)されて、それは口にせず。
往人はそのまま歩き出し、しかし立ち止まると、
「それとな、俺はそこの人なんて名前じゃない。国崎往人っていうちゃんとした名前がある」
それだけ言って再び歩き出した。
風子は一瞬目をぱちくりさせたが、すぐに小さく笑うと、
「はい。国崎さん」
風子も往人の後を追った。
「・・・なんか、二人ともかっこいいなぁ」
にこっと笑いながらそう呟き、佳乃も二人の方へと歩き出した。
「一時の方向に熱源確認。敵MSです。数は・・・四!」
「まぁ、あれだけの数のMSを全部止められるわけないよな」
カンナヅキ内ブリッジ。艦長席に座って祐一はそうぼやいていた。
MS戦闘が激化する場合、戦艦のすることは援護攻撃か、あるいは敵艦への攻撃だ。が、これだけ敵艦との距離が開いていると攻撃もままならず、援護をするにしてもあれだけ拮抗した戦いでは単なる邪魔にしかならない場合もある。
こうなると、することといえば自艦の防衛に専念することだけだ。
「専念できるだけいいけどな」
祐一はそう呟くと、サブメガ粒子砲のコントロールをこっちへまわすように川口へ言う。前回のことがあったからか、今回は川口は何も言わずコンソロールを叩いた。
手元のコンソロールにサブメガ粒子砲四門のコントロールが移る。
それを確認し、祐一は目を閉じた。
宇宙を駆けるオレンジ色のキュベレイMkU。
そのパイロット、あゆは三機のガザDを従えて敵艦、カンナヅキを視認していた。
「あれだね。みんな、散って戦うよ」
あゆの言葉に三機のガザDは散開しようとし、
「うぐぅ!?」
カンナヅキから放たれたビームに動きを封じられた。
「うぐぅ、なんなの!あれ!」
なんという射撃。あきらかにこちらの散開を封じるために撃たれた攻撃は、その効果を全うした。
続けざまに放たれるメガ粒子砲が動きを封じられたこちらを殲滅せんと襲い掛かる。
「右にかわして!」
あゆの言葉で動いた四機はなんとか攻撃を回避する。
「めちゃくちゃだよ、あの艦!」
その射撃はまるで一流のMSパイロット並み。これでは散開して攻撃していては各個撃破されかねない。
「・・・作戦変更だよ。みんな固まって動いて。回避のタイミングはこっちに合わせて」
無言で頷くガザ隊。あゆはそれを確認し、グリップを握った。
「いくよっ!」
走るキュベレイMkU。続くガザDは言われたとおりピッタリくっついてくる。
再びカンナヅキからビームが撃たれ―――、
「下!」
しかしあゆの言葉に四機は無事に攻撃を回避。反撃でビームを撃ち、
シャキーン!
Iフィールドに防がれた。
「うぐぅ、戦艦にIフィールド!? そんなのありなの!? ・・・あ」
だが、そのときになって秋子から注意を受けたのを思い出した。
ではどうしたものか。一丸となって行動している以上、Iフィールドにビームが遮断される可能性は高い。ならば、
「Iフィールドの効果範囲内にもぐりこめば!」
即座の決断。あゆはキュベレイMkUの腕を引っ込めると、加速。ガザDたちも変形して一緒についてくる。
カンナヅキから撃たれてくる弾幕はサブメガ粒子砲以外はたいしたことはない。近づくのは容易だ。
そんな時。
「え・・・?」
ふと、なにか違和感を感じた。どうやらあの艦にはニュータイプがいるようだ。それはいい。それはいいのだが・・・。
「あ、あれ・・・? どうしたんだろ、ボク・・・」
なぜか、涙が止まらなかった。
その感覚は祐一にも起こっていた。
「なんだ、この感覚。・・・懐かしいような・・・、でも、この悲しさは・・・?」
胸を打つ不可思議な感覚。気を緩めたら瞳から涙が零れ落ちてしまいそうだ。
「艦長?」
川口の声も耳を通り抜けていく。集中できない。動悸が止まらない。この零れ落ちていくような喪失感はなんだ・・・?
そして不意に頭に浮かぶ景色―――。
「大きな・・・木?」
「この木・・・。なんだろう、わからないけど・・・。ボクはこの木を知ってる」
あゆの頭にも浮かんだその景色は、確かにどこかで見覚えがあった。
ずっと昔。あそこで、ボクは、誰かと・・・。
「うぐっ!」
そこまで思考がいった瞬間、急に頭に痛みが走った。
その痛みのせいで、それまでの景色が徐々に霧がかり、そして消えていく。
「駄目・・・だよ。その木は・・・すごく大切なものだったはずなのに・・・!」
頭痛に顔をしかめながらも、その続きを見ようとする。が、体か、あるいは心が拒否しているのか、消えいく景色は止まらない。
必死でそれに抗おうとして、しかしその刹那、
「敵・・・!?」
なにより鍛えられた兵士としての感覚が新しい敵の接近を告げていた。
急遽後方へ下がるキュベレイMkUの目の前を強烈なビームが通り過ぎていく。その横で反応が遅れたガザDがそれに貫かれ、四散した。
「どこから・・・?」
急いで周囲を見渡すも、敵の姿は肉眼では視認できない。どこか遠距離から狙撃されたようだ。
そして再び一発。
「よけて!」
あゆの声に反応し、今度は全機回避する。だが、咄嗟のことで各機がばらけてしまった。
あゆが急いでガザ隊を集めようとすると、
「させません」
その声とともに一条の光が視界を切った。
「う・・・ぐぅ!」
それがビームサーベルだと認識する前になんとかあゆは回避する。自分がニュータイプでなければいまのでやられていただろう。
急ぎその敵と距離をとる。
そうして少し余裕が出てくると、ようやく敵のMSに視線が向けられた。そしてそこあったのは―――、
「ガンダム・・・?」
見違うわけもない、ガンダムタイプの機体。
左手にはビームサーベル。右手にはロングビームライフル。バックパックからは羽のように長い、三本のプロペラントタンク。
「風子・・・参上です」
それは伊吹風子の乗る、GP04・ガーベラの姿であった。
「んな・・・!」
風子の登場に驚いたのはなにもあゆ達だけではない。無論、祐一も唖然としていた。
しばらく思考が止まり、しかし頭を大きく振って無理やり思考を元に戻すと、
「な、なにやってんだ風子!」
『援護します』
当然のごとく聞く祐一に、当然のごとく返す風子。
「援護って、お前・・・」
『お姉ちゃんの結婚式に出てくれると・・・、風子を友達と言ってくれました。戦う理由はそれだけで充分です』
風子の目は本気だった。それはわかるし、その言葉も嬉しい。だが・・・。
そうやって祐一が渋っていると、
『もう、いまはそんなこと話してる場合じゃないよぉ』
「か、佳乃!?」
今度は佳乃から通信がかかってきた。
『いまは敵を倒すことに集中しようよ。細かい話はあとにしてさ』
「だ、だけどな・・・」
『ほ〜ら、男ならガツンと景気よくいこー! オーケーって一言頷くだけだよぉ?』
その一言がどれだけまずいことなのかということを、当たり前だが佳乃は知らない。
だが、しかし・・・。
「・・・そうだな。細かい話は後だ。二人とも、援護してくれるか」
現状、きついことに変わりはない。まず生き残ることに専念しよう。
『了解です』
『わかったよ。あ、でも二人じゃなくて三人だからね』
そう言って二人の通信は切れた。が、最後佳乃はなにか不思議なことを言っていなかったか・・・?
「三人って・・・?」
そして風子はあゆと対峙する。
「下がるのなら見逃しますが?」
「そんな昔のMSでキュベレイに勝てると思ってるの?」
その言葉はほぼ同時。重なるように紡がれた。
しばしお互いをにらみ合う。
「退かないのですか?」
先に口を開いたのは風子だった。
「退かないよ。ボクは戦うためにここにいるんだから」
「そうですか。いえ、逃げ足が速そうでしたので、つい」
カチンと。そんな音が聞こえた。
「き、君だって逃げ足速そうに見えるけど!」
「なにを言いますか。風子はどちらかと言えばおとなしくて、おしとやかな少女です。そんな風子がいったいなにから逃げると言うのです」
「そんなのは知らないけど・・・。で、でも君、背、小さいし、小回り効きそうだし」
カチンと。またも、しかし今度は別方向から。
「背のことをいったらあなたも小さいです! あまりにもミクロすぎて涙を誘うほどです」
「うぐぅ! ボクそんなにちっちゃくないもん! っていうか、君のほうがちっちゃいじゃないかぁ!」
「・・・そんなことはありません。子供のあなたにはわからないことでしょうが」
「物理的な問題に子供も何もないよ! ―――って、ボクは子供じゃない! 自分のことを名前で呼んでる君の方がよっぽど子供だよ!」
「風子はどちらかと言えば大人です! 自分のことを“ボク”だなんて呼ぶあなたを子供と言わずして誰を子供といいましょうか。いえ、ずばり言えないでしょう。あなたは子供です!」
なんと低レベルな言い争いか。なまじ体型や精神年齢が似てるだけ許せないのかもしれない。
「こうなったら実力行使です!」
「望むところだよ!」
ついに限界を超えたのか、二人は言い争いをやめMS戦に突入していった。
「お願い、ファンネルたち!」
あゆの意思に従って、背中から幾多ものファンネルが飛び出す。
「ん・・・!」
それに対し風子は大きく距離をとり、ロングビームライフルを構える。
放たれるお互いのビーム。しかし両者共にビームを回避する。
「やるね」
「あなたも」
あゆはファンネルを従って、ビームサーベルを展開、突っ込む。それを見た風子もロングビームライフルを仕舞い、二本のビームサーベルを抜き放つ。
ぶつかり合い、飛び散るビームの火花。轟く閃光の音。
お互いの接触はわずか数秒。離れ、そして再び衝突する。
激突は幾重。しかし両者に傷はまだ一つもない。
その光景を遠めで見ていて、往人は感嘆のため息を吐いていた。
「やるじゃないか、あいつ。昔なにかしてたのか?」
隣に並ぶ佳乃は、しかし煮え切らないような顔で
「うーん。確かふうちゃんはMSの操縦はしたことなかったはずだけどなぁ・・・」
「なにっ!?」
それが本当だとしたらあの動きは驚異的だ。いや、そんな形容詞すら生ぬるい。あきらかに異常だ。
「すごいよねー、ふうちゃん。もしかしたら才能があったのかも」
「いや、もはやそんな次元の話じゃないんだが・・・」
にこやかに言う佳乃に、突っ込む往人。
「でも、そんな話ししてる場合でもないね」
「だな」
そんな二人に二機のガザDが襲い掛かる。ビームサーベルをかまえて突っ込んでくる二機を見て、佳乃のドム・グロウスバイルは上へ。往人のNT試験用ジム・ジャグラーは後方へと下がる。
「さぁ・・・、楽しい人形劇の始まりだ!」
往人の掛け声と共に、ジム・ジャグラーの両肩からボールが射出される。
それらは往人の意のままに動き、ガザDを翻弄する。動き回るボールから放たれた低反動キャノンがそのガザD二機に直撃する。が、
「やっぱりこんな攻撃じゃ堕ちないか」
その程度の攻撃で堕ちるほどガザDの装甲はやわじゃない。しかし、そんなことは往人にもわかっていた。
往人の狙いはただ一つ。ガザ隊の動きを止めて、注意をこっちに向けること。そうすれば―――、
「いまだ、佳乃!」
彼女がやってくれる。
「いっくよぉぉぉぉぉ!」
スラスターを展開。上から加速して下りてくるドム・グロウスバイルはその大型ヒートサーベルを振り上げ、
「玉砕と散るが良い!」
一刀の元に二機のガザDを切り捨てた。
「・・・なんちゃってぇ。あはっ!」
佳乃の後方で、二つの爆発が広がった。
グワンランから戦況を見守っていた秋子だが、その顔に余裕はまるでなかった。
「そろそろ、潮時ですかね」
戦況は劣勢。またも予想外の乱入があったが、それがなくても時間が長引いただけで結果は変わらなかっただろうと秋子は思っている。
そんなことを考えていると、突如アラートが鳴り出した。
「なにごとですか?」
「よ、四時の方向に大型の熱源を確認!ライブラリー照合・・・こ、これは、カンナヅキ!?」
「なんですって?」
それはありえないことだ。カンナヅキは目の前にいるのだから。
とすれば、考えられることはただ一つ。
「同型艦・・・?こんな短期間に?」
「カ、カンナヅキ級より大型のエネルギー反応!三連圧縮メガ粒子砲、来ます!」
「右舷サブエンジンフル点火!ピッチ角45!緊急回避!」
秋子の言葉にグワンランが機敏に動く。有能な操舵手がいることを、秋子は今回ほど嬉しく思ったことはなかった。
シュゴウ!
明確に聞こえたそんな音とともに、強力に圧縮されたビームはグワンランの横を通過していく。ビーム撹乱膜を散布していたからビームの出力が落ちたことも回避できた一つの要因だろう。
「第二派が来る前にこの宙域を離脱します。信号弾発射。MSを戻してください」
後退していくグワンランをカンナヅキの同型艦―――カンナヅキ二番艦、ムツキのブリッジで見ていた青年は感嘆のため息を吐いた。
「的確な状況判断。そして機敏な撤退行動・・・か。あ〜、あんなやつが敵にいると思うと嫌になってくるな」
やれやれ、と頭を掻く青年はしかし、どこか嬉しげだった。
「これからどうしますか?」
「そりゃあ、もちろんカンナヅキと通信つないでくれ。相沢にこの借りは高く売ってやろう」
尋ねてくる部下の少女にそう答えた青年は、面白そうに笑っていた。
あとがき
はい、神無月でございます。
えー、今回はバトルに次ぐバトル! ガンダムといえばやはり見せ場は戦いでしょう。
書いていてやっぱりバトルは楽しいです。こう、血湧き肉踊るような? そんな感覚です。わかりますかね。
さてさて、本編のお話。みなさん、実は舞がまだ敵を堕としたことがないのに気付いてますか? なんかこのSSの始まり方で舞がメインヒロインのように見えたのに(事実、筆者もそのつもりですが)大して活躍してない今日この頃。
新キャラの登場や、キャラ間の掛け合いなどに力を注ぐと、ただでさえ無口な舞は影の向こうへ・・・。あゝ、無常。
だがしかし! 真のヒロイン道とはこれからにあり!
これからビシバシ活躍(予定)します。おそらく。きっと。いや、多分。予定ではEpisode\あたりで。(遠ぉ!)
さー、今回は伏線引きまくり。まぁ、すぐにわかるのもありますがね。
んでもって、次回。今回チラッと見えたお人が出番です。一部では人気のあの人です。最後の台詞でわかる人はわかりますよね?
でわでわ、お楽しみに〜。