Episode ]]]Z

          【戦士、再び・・・(T)】

 

「いよいよ始めてくれましたねぇ、ネオジオンの方々は」

 地球連邦軍月面基地。

 着々と進められる艦隊の発進を横目に、久瀬隆之はムツキの艦橋でモニターを眺めていた。

 モニターに映し出されているのは、数刻前に始まったネオジオン同士の争い。

「しかし・・・愚かですね。血だの何だのと、そのような理由で互いに食い合うなど・・・」

 反旗を翻したネオジオン軍・・・グレミー=トトは、自らがジオンの正当な血筋であるとし、ミネバを欺き操るハマーンを悪とした。

 愚かなことだ、と思いはするが・・・しかし正直隆之はそんなことはどうでも良い。

 理由はどうあれ、ネオジオンが自ら戦力をすり減らしていることに変わりはないのだから。

 その点だけで言えば、グレミーとかいう人物に礼をしてやっても良い。と、

「久瀬理事」

 名を呼ぶ声は、この艦の艦長である北川潤のものだ。

「先遣艦隊発進完了。残るはこのムツキだけです」

「そうですか。では発進しましょう」

 これから連邦の一部の艦隊は先遣隊としてネオジオン同士の戦闘が繰り広げられているアクシズまで向かう。

 疲弊した両軍を横から討とうと。ある意味で当たり前の作戦であるのだが・・・。

「久瀬理事、一つ質問をよろしいでしょうか」

「なんですか?」

 モニターから視線を外さないまま聞き返してくる隆之に、潤は疑問をぶつけた。

「なぜ、艦隊の旗艦がこのムツキなんですか?」

「なにかと思えばそんなこと」

 失笑し、隆之はやや嘲るような表情を浮かべ振り返り、

「以前の作戦でラー・カイラムはしばらく運行不可能。そうなれば必然的に次いで戦力の高いカンナヅキ級が旗艦になるのは当然でしょう?

 それに、ムツキの周囲にはロールアウトしたばかりの他のカンナヅキ級も配置されるんですよ?」

「そうだとしても、なぜこのムツキなのですか? それこそ、旗艦だというのなら他のカンナヅキ級かあるいはもっと良い指揮官が―――」

「あなたの能力は私も直で見てますからねぇ。今更新しい人の艦に乗るよりはまだ安心できるというものです。

 それに、あなただって嬉しいでしょう? 特殊な状況だとは言え、その若さと階級で艦隊を纏める旗艦の艦長になれるのですから?」

 確かに、嬉しくないといえば嘘になる。

 軍属に入れば誰でも上を目指すだろう。そういう上昇志向は、潤とてある。

 しかし、それでもなにか・・・納得できないものがあった。

 それはえもいわれぬ不安。

 この戦いが、良くも悪くも今回の戦争の大きな分岐点となるだろう。あるいは終末点か。

 そうなれば、あの面々・・・カンナヅキやキサラギも来るのだろうか。

 ・・・あれに誰が乗っているか、それは知らない。ニュータイプでもないので感じるなんてことも不可能だ。

 まず無いだろうと思いつつ、しかし疑念が晴れない。

 相沢祐一。一ノ瀬ことみ。

 まさかその二人が乗っているのではないか。そう思えてくるものがいままでにも何度か見えていた。作戦や、挙動が。

 もしそうだとして、彼らがそっちにつく理由。それは一体何なのだろう。

 連邦が間違っているのだろうか。・・・自分が間違っているのだろうか。

「どうしたんです? 早く発進しましょう」

「あ、はい。・・・了解しました」

 慌てて返事をし、潤は艦長席に腰を下ろした。

 考えている暇は無い。いや、おそらくあっても答えは出なかっただろう。

 しかし自分は軍人。やるべきこと、成すべきことなど一つしかない。

「ムツキ、発進する・・・!」

 

 

 

 カンナヅキ、キサラギ、クラナドの三隻は、いよいよアクシズが視認できるような距離まで辿り着いた。

 ハマーン軍とグレミー軍が戦闘を開始しておよそ半日。それだけの時間が過ぎてなお、戦火は未だ留まるところが見えない。

 両軍共に全力だ。これだけの規模の戦闘なら、二日や三日・・・・かなりの長期戦が予想されるだろう。

 それを見て、しかし誰も口を開かない。

 皆わかっているのだ。この戦いがこの戦争のターニングポイントであると。

 皆、それぞれ想いを秘めてここにいる。

 だからこそ、もう目前にまで迫った戦場をただ見つめていた。

 

 

 

 展開するハマーン艦隊の最後尾、コア3の近くに位置するその場所に旗艦であるサダラーンがある。

 そこにいるのは無論ハマーン=カーンだ。そこで戦況を見守っているハマーンは呟きを漏らす。

「優劣は付けがたいな・・・。長い戦いになるかもしれん」

 戦力はほぼ五分五分だろうか。いや、純粋な兵力ならハマーン軍の方がわずかに上だろうが、質で言えばアクシズを抑えたグレミー側の方が上。

 そういう状況下で五分五分であるのなら、時間が経てば不利になるのはこちらだろう。

 それにグレミー側には虎の子であるニュータイプ部隊がいることも知っている。そういう意味でこの状況はあまりよろしくない。

 と、そうして思考を巡らせていると、不意に副官がこちらに向き直った。

「ハマーン様。五時の方向に艦影が・・・」

「艦影? 数は?」

「三です」

 三つの艦影。それを聞いてハマーンの脳裏を掠めたものがあった。

 ―――宮沢有紀寧とその仲間たちか。

 報告は来ている。それの討伐に聖たちを向かわせたのだが、聖は壊滅させることなく戻り、グレミー側に着いた。

 以前からあまり信用はしていなかった。あの従順なように見えて、しかし奥底では黒い泥のようなものが渦巻くその感じ。

 何かを企んでいるとは思っていたが・・・もしかしたら今回のグレミーの決起にも一枚噛んでいるかもしれない。

 そして・・・この有紀寧たちの行動にも。

「いかがいたしましょう」

「あまりこちらに近づけるのは得策ではないな」

 宮沢有紀寧はネオジオン内では有名な存在で、いわばアイドルのような者だ。

 そんな人物がこの戦域に割り込んできて何かを言えば、戦場は大きく混乱するだろう。

 それは避けなければならない。とするならば、事前に手は打っておくべきだろう。

「秋子はいま?」

「はっ。水瀬大佐は現在右翼艦隊に配属されています。戦闘はいまのところ無し」

「よし、ならば電文を打て。橘の艦隊を率いてこちらに向かってくる三隻の艦を迎撃せよ、と」

「はっ!? いえ、ですがしかしこの状況であの二艦隊を部隊から外すのは・・・!」

 副官の訴えも当然と言えば当然だろう。ただでさえ二分化したこの状況下で、ハマーン軍でも有数の指揮官である秋子と啓介を向かわせるなど、正気の沙汰とは思えない。

 しかしハマーンはあくまで真剣な表情を浮かべ、

「その三隻にはそれだけの力があるということだ。時間を掛ければ掛けるだけ接近を許す。早くしろ!」

「は、はっ!」

 慌てて下がる副官を一瞥し、ハマーンはその三隻を考える。

 こちらの新型艦はともかく、カンナヅキもキサラギもいままで何度も戦闘し、墜とせなかった艦だ。

 そんな連中に、ここに踏み入られては困るのだ。

 ハマーンはただ一人の少年を待っている。

 その少年との戦いは、誰も邪魔されるわけにはいかない・・・。

 

 

 

 聖率いる第十七艦隊は最前線からはかなり離れた場所に配属されていた。

 最前線では現在プルツーの駆るクィン・マンサやラカン率いるドーベンウルフ隊が奮戦していることだろう。

 ・・・グレミー派はこの戦いが長期戦になると見越して兵力を分散させていた。

 故に聖や雪見の艦隊は後ろで待機状態であり、切り札とも言えるニュータイプ部隊に関して言えば未だアクシズの中だ。

 しかし聖はこれはこれで楽しんでいた。グレミーから譲り受けた新型機で暴れ回るのも一興だが、こうして荒れる戦場を傍観するのも良い。

 この戦場を作り出したのは自分だ。

 そう思えばこそ、口元は愉悦に歪む。

 もっと戦え、もっと殺せと。呪いのように戦場を見つめる。

 この消えいく命こそが、霧島聖の精神を昇華させていく。

 怨念、憎悪、悲哀、それらが駆け回る戦場をまるで高みから見下すこの快感。

「苦しめ、人間。これこそ貴様たちの業の結果だ」

 ククッ、と喉が鳴る。

 そしていま、この最終舞台に招待した者たちが向かってきている。

 カンナヅキ、キサラギ、そしてクラナド。

 ・・・相沢祐一に川澄舞。

 この結果を見せ付けたくて呼んだ者たちがいまこちらに向かっている。・・・しかし、

「ハマーンめ。奴らをここへは来させない気か」

 ハマーン軍から二十隻ほどが配置を抜け、カンナヅキらの進路を妨害するようなルートを進んでいる。

 このままいけば数十分後には接触、戦闘が開始されるだろう。

 しかも識別からして向かったのは水瀬秋子と橘啓介。その配下もかなりのメンバーが揃っている。

 ともすれば、もしかしたらそこで倒されてしまうかもしれない。

「それはよろしくないな」

 相沢祐一も川澄舞も。トドメを刺すのは自分でなければならない。

 お前たちの行動は全て無意味だったと、所詮人間などこの程度のものだと、そう絶望を叩きつけて殺さなければ意味がないのだ。

 それに水瀬秋子も、出来るならこの手で・・・。

 だからこそ、聖は動く。

「指揮下の艦隊に打電、これより我々はこの宙域に接近しつつあるクラナドら三隻の迎撃に向かう、と。

 あと雪見の艦隊にも着いてくるように言っておけ」

「グレミー様には報告しないのですか?」

「グレミーとて馬鹿じゃない。モニターを見れば我々がどうして動いたのかなどわかるだろうさ」

 自軍の長であるグレミーのことを呼び捨てにした聖を、オペレーターは半ば唖然としつつも自分に割り振られた作業に戻った。

 そんなオペレーターを、聖はもう見ていない。

 彼女の頭にあるのはただ一つ。

 この戦いを最も悲惨な形で終わらせることだけだ。

 

 

 

「ハマーン軍、グレミー軍両軍よりそれぞれこちらに向かってくる艦隊あり! 艦影、共に二十隻から三十隻!」

「俺たちをアクシズまで近付かせない気か・・・!」

 川口の報告を聞き、祐一は思わず歯噛みした。

 有紀寧はネオジオンの平和の象徴だ。そんな彼女が言葉を掛ければこの状況も少しは変わるかと思ったが・・・。

『でも、こんなところで負けるわけにはいかないの』

「そうだな・・・。あぁ、そうだ」

 ことみの通信に、祐一も頷きを返す。

 この状況を打破するために戦っているのは自分たちだけではない。エゥーゴの部隊も既にこの宙域に入っているらしいのだから。

 ならば自分たちは自分たちの戦いをするだけだ。

『祐一さん、ことみさん、少しお時間をよろしいでしょうか』

 そこで有紀寧から通信が入った。

 この状況で、とも思うが・・・有紀寧とてそれはわかっているだろう。その上でこうして進言してくるからにはそれだけの意味があるのだ。

 だから祐一とことみは同時に頷いた。

 すると有紀寧はありがとうございます、と呟きクラナド艦内の通信をフルオープンにした。

「皆さん、おそらくこれが最後の戦いです」

 その声はクラナドだけに留まらず、カンナヅキ、キサラギにも通信を介して響いていく。

「わたしたちは、もしかしたら間違っているのかもしれません。戦争を終わらせるためにと、わたしたちも剣を抜いているのですから」

 パイロット、整備員、クルー、全ての人間が静かにその声に耳を傾ける。

「ですが、わたしは信じています。争いはまた新たな争いを生む。だから、その因果を断ち切るためにもわたしたちには剣が、力が必要なのです」

 有紀寧の凛とした声には力がこもっている。強く、優しく。

「力がけでも、思いだけでも戦争は終わりません。なら、その両方を持ってわたしたちは戦いましょう。

 相手を倒すためでなく、殺すためでなく、滅ぼすためでなく―――」

 一息。有紀寧は深く息を溜め、

「戦争を終わらせるために!」

 そう宣言した。

 一瞬の静寂。直後、全ての艦が揺れた。オォー、と気合のこもった声が艦を揺らしたのだ。

 高まる一体感。その言葉を聞いた者の全ての胸に思いが宿る。戦争を終わらせる、その思いが。

「ああ。これでこんな戦い、終わらせてやる!」

「もう、悲しい思いは嫌なの。だから、終わらせるの」

 祐一とことみからそれぞれ通信が返ってくる。二人に向かって頷き、そして二人も頷き返す。そして、

「「「MS部隊、発進!」」」

 三人の言葉に、三つの艦のカタパルトが大きく開いた。

「川澄舞、ガンダムカノン、出る!」

「倉田佐祐理、ガンダムインフィニティ、行きます!」

「坂上智代、レヴェレイション、出る!」

「月宮あゆ、量産型キュベレイ、いくよ!」

「稲葉佐織、ドーベンウルフ、出ます!」

「折原浩平だ、リアンダー・ゼオン、いくぞ!」

「美坂栞、ガンダムウインド・カスタム、いきます!」

「伊吹風子、ガンダムアークレイル・カスタム、いきますっ!」

「神尾観鈴、ガンダムエア、いきます!」

「天沢郁未、ガンダムムーン、出るわよ!」

「国崎往人、リアンダー・ゼオン、出るぞ!」

「霧島佳乃、リアンダー・ゼオン、いっくよー!」

「岡崎朋也、Sガンダム、出る!」

「清水なつき、リアンダー・ゼオン、いきます!」

「神尾晴子や、リアンダー・ゼオン、いくで!」

 そして戦士たちは飛び立っていく。その胸に、戦争終結を夢見て・・・。

 

 

 

 カンナヅキ、キサラギ、クラナド三隻の部隊とネオジオンの部隊が激突する。

 しかしハマーン派とグレミー派も共闘する気は無い。隙あらばと互いに攻撃を交わし、戦況は三つ巴の様相を見せていた。

 そんな中、秋子の乗るグワンランを狙うグレミー派のMSは後を絶たない。

 水瀬秋子とも言えばネオジオンでも有名な名指揮官にして名パイロットだ。ここで落とせればと考える者も多くいる。

 しかしそうして向かってくるMSの部隊をいま、的確なビームが次々と撃破していった。

 その射線の先には、誰もが見たことも無いような純白のMSが君臨している。

 モノアイ式の頭部からしてジオン系の機体であることはわかるが、既存の機体のカラーリング変更でも追加武装でもなさそうだ。フォルムが明らかに違う。

 それを見て、数十のMSが射線をその機体に向けるが、その機体はとんでもない回避性能を見せそのことごとくを回避、迫ってくる。

 手に握られているのはビームトマホーク。それが先頭のバウを真一文字に切り裂いてからが恐怖の始まりだった。

 わずか一分。その間にそこにいたはずの数十の機体は全てその純白のMSに撃破されていた。

 無理も無い。

 なにせ乗っているのはネオジオンでも五指に入る技量を持つパイロット―――水瀬秋子本人なのだから。

 さらにその機体はハマーンの新型機として開発された最高スペックの新型機、アテナ。

 そんじょそこらの兵が束になったところで敵うはずも無い。

「さて・・・」

 そもそも水瀬秋子がどうしてハマーン用の期待に乗っているかというと、ハマーン本人からこれを受け取ったからだ。

 秋子はハマーン用の新型機だから受け取れない、と最初は言ったのだが、そんな秋子に対しハマーンは笑みを浮かべてこう言ったのだ。

『私にはキュベレイで戦わなくてはならない相手がいる』

 だからこそ、ハマーンは一番信用を置く秋子にこの機体を託した。

 そして秋子はその信用に答えるため、いまこの機体に乗り戦場を駆る。

 秋子は祐一たちよりもまずグレミー派・・・聖を叩くと決めた。

 ハマーンを裏切った聖を許すわけにはいかないし、それに・・・名雪のこともある。

「霧島聖・・・。私を怒らせた罪は重いですよ」

 温厚な秋子が怒りをあらわにしている。

 気圧されて動きが鈍くなったMSを根こそぎ撃破しながら秋子は聖の艦であるグワンゾルへバーニアを吹かした。

 

 

 

「こ・・・のぉぉぉ!」

 カンナヅキに向かってくるMSの群れに、郁未はスプラッシュビームシャワーを放つ。

 範囲の広いビームの雨に数機のMSが墜ちるが、それでも全てではない。撃ち漏らしたズサやガルスJが突っ込んでくるが、

「させないよ!」

 それは控えていた観鈴のビームライフルによって次々と撃破されていく。

「観鈴、右側! 敵機来てるわ!」

 ビームランサーを手に突っ込んでくるドライセンをヒートロッドで串刺しにしながら郁未は注意を促し、そちらに対し観鈴は肩のハイパービームキャノンで応戦する。

 ・・・艦の周辺はすぐさま激戦の渦中となった。

 ネオジオン艦隊はハマーン派、グレミー派、そしてカンナヅキらはそれぞれ三角形に展開し、互いを撃ち合っている。

 しかし、数で明らかに劣っているこちらを先に潰そうと言う考えは共通なのか、ネオジオン同士の争いよりもこちらに兵力を注いでいる。

 ハマーン派とグレミー派、両方合わせればおよそ五十隻強の艦隊に対しこちらはわずか三隻。MSの差はより激しいだろう。

 だが、それでも皆奮戦していた。

『アルファZ小隊、ベータZ小隊、うちに続けぇ! 右翼に突出している敵エンドラ級二隻を叩く!』

『折原小隊、岡崎小隊、キサラギ右舷に敵多数接近! カバーに入ってください!』

『『了解!』』

『こちら稲葉中隊、敵エース級と接触! くっ、きつい・・・!』

『こちら坂上智代だ。倉田小隊を一時的に抜け稲葉中隊のカバーに入る! オメガZ小隊、続け!』

『こちら倉田佐祐理、了解! 舞、しばらく二人だけど、いけるよね!?』

『大丈夫!』

『クラナド、装甲強度80%まで低下!』

『カンナヅキが前面に出る! Iフィールド展開、実弾はアルファE小隊に任せる! 敵MSの対処は・・・あゆ、やれるか!?』

『任せてよ!』

『カンナヅキに連動しキサラギは左翼へ移動。右舷の敵を払いつつグレミー軍のビーム攻撃からクラナドを守るの!』

『こちら霧島小隊! オメガE小隊の指揮官機が撃墜されたから残ったエイレスは全部こっちに入れるよ!』

『了解! コード名は霧島中隊とします!』

 通信から雪崩のように飛び込んでくる言葉の応酬。そして目に飛び込んでくるのはあちこちで輝く爆発の閃光。

 これが戦争。この規模の戦闘は、さすがに郁未とて経験は無い。

 カラバはティターンズと戦ってたときもネオジオンと戦ってたときも兵力で劣ってはいたが地の利を生かしたりなどしてどうにかやっていた。

 しかしこの戦闘は敵の数が段違いだし、なによりこの周囲は遮蔽物がほとんど無く、真正面から飛び込んでいくしかなかった。

 だが、皆それがわかっててここに乗り込んだのだ。

 今更、怖気づいてなどいられない・・・!

「郁未さん、右!」

「!?」

 観鈴の言葉に頭で理解するより身体が機体を後ろに下げさせていた。

 すると一瞬の後、そこをビームサーベルの軌跡が通り過ぎていく。そしてその機体を見て、郁未は舌打ちした。

「紅い機体・・・! クリムゾン・スノー!?」

 直接戦ったことは無いが、その噂は以前から聞いているし、キサラギ組からすれば因縁の相手であるという。

 現在は一機減って二機であるが、その実力がエース級であることに変わりはない。

 ・・・しかし、

「何、この感覚・・・?」

 相手から受けるこの感じを、自分はずっと昔、どこかで感じたことがある。

 それはどこだっただろう、と考えているうちに、そのうちの一機がビームを放ちながらこちらに接近してきていた。

 郁未は咄嗟にビームサーベルを抜き、相手のビームサーベルを受け止める。

『あんた・・・郁未なの!?』

 ビームサーベル同士が火花を散らせる向こうで、接触通信で耳に届いたのはそんな声。

 その声を聞いて思い出す。

 この感覚。それは連邦で強化の実験を受けさせられていたとき、一緒にいて、そして共に逃げた者たちの気配であり、それは・・・!

「晴香、それに・・・葉子さん!?」

 

 

 

「いやぁ、派手にやってますねぇ、ネオジオンと例の三隻」

 隆之はムツキの艦橋から激しい戦闘を繰り広げている前方の宙域を見て、クククと喉を振るわせた。

「ま、前座としては良い舞台ですね、我々もあそこにいきますよ?」

 いまあの場で多くの命が散っているというのに、隆之はそんなことまるでどうとも思っていないのだろう。

 数ヶ月の付き合いではあるが、潤はそれを嫌になるほど知っていた。

 何を言ったところで無駄だ。この男は戦争を何かゲームのようなものと錯覚している節がある。

 しかし、言っていることは間違ってないこともある・・・と、思う。

 それはもしかしたら自分が『普通』じゃなくなっただけなのかもしれない。祐一やことみがいれば、いったいどう言っただろうか。

 ―――何を考えているんだ北川潤! 目の前で既に戦闘が行われているんだぞ!

 指揮官として、いま自分がすべきことは目前の戦闘に勝利すること。それだけだ。

 だから潤は大きく息を吐き・・・目を見開き告げた。

「全速前進しつつ各カンナヅキ級、三連圧縮メガ粒子砲チャージ完了と同時に敵戦闘区域に向けランダム発射!

 戦闘区域に直撃を確認の後、第二派として全砲門開き一斉掃射! 同時にMS部隊を発進、突入する!

 各艦長に打電、タイミングはムツキと同調せよ!」

「「「了解!」」」

 すぐさまクルーが命令を実行し、各艦の艦長から了解の返信が届く。

 それを確認する頃には三連圧縮メガ粒子砲のチャージも完了していた。

 潤は自らの迷いを断ち切るように、告げた。

「三連圧縮メガ粒子砲―――てぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

「遅い!」

 朋也は言うや否やビームサーベルをガルスJの頭部に突き刺し抜く動作と共に旋回。

 後方から並んでやってきていた二機のガルスJを切り捨て、その場を後退する。

 閃光に飲まれ散っていく三機を一瞥し、朋也はレーダーを確認する。

 ミノフスキー粒子が濃いにも関わらず、そこには自軍のマーカーを埋め尽くすほどの敵軍が映り込んでいる。

 舌打ちするも、。それで何かが好転するわけも無い。朋也はすぐさまいま一番優先すべき敵対象を探し出す。

「なつき、キサラギの三時方向から敵が迫ってる! ここは折原小隊に任せて俺たちはそっちへ行くぞ、良いな!?」

『了解!』

 僚機であるなつきの返事を聞き、機体を反転させようとした―――その瞬間だった。

 突如鳴り響くアラート音。

「『―――!?』」

 二人はすぐさま機体を散開させる。だが間に合わなかったゼオン部隊やネオジオンのMSを強烈な光が薙ぎ払っていった。

「なっ―――!?」

『キサラギ、Iフィールドによりダメージ軽微! しかしいまの一撃によりIフィールドジェネレーターの出力ダウン!』

『どこから撃ってきたの!?』

『待ってください、ミノフスキー粒子が濃くて・・・! あ、確認取れました、これは・・・!?』

 キサラギのオペレーターが通信越しに息を呑んだ。そして悲鳴に近いような声で、

『こ、後方七時の方向より連邦軍艦隊を確認! 数・・・五十以上!!』

 いや、それはもはや悲鳴だったのだろう。

 朋也もそれをどこか愕然としながら聞いていて、

『油断は命取りだよ、朋也くん?』

『朋也さん!』

「!」

 条件反射に近い動きで朋也は思いっきり機体を前面に突き出した。

 すると背部から衝撃が襲い、機体を大きく揺らす。

「ぐぅぅぅ・・・!」

 その揺れを歯噛みして耐え、すぐさま機体を反転してビームサーベルを振るう。

 するとトドメを刺さんとして目前にまで迫っていたファンネルがその刃に切り払われ、爆発した。

『あの状況で体勢を立て直すなんて、さすがだね朋也くん』

 そこにいる機体とその声を、忘れられるはずも無い。

 朋也は自分でも怒りか悲しみか、どちらともわからない声でその名を叫んだ。

「川名ぁぁぁ!」

『決着を着けに来たよ、朋也くん。・・・私の過去のために、死んで』

 瞬間、その機体―――バンズ・バウの周囲を漂っていたファンネルが一斉に動き始めた。

 

 

 

 連邦軍艦隊から次々と発進されるMS。

 そして例に漏れずムツキからも発進する三機の機体がある。

 それは友里と茜と真琴のΩ、Σ、Δガンダムだ。

「敵、敵、敵・・・。どこを見ても敵だらけね」

「ふん! 壊しがいがあるってもんよ!」

「意気込むのは大いに結構ですがそれで味方まで撃たないでくださいね。真琴」

「相変わらずあんたはうるさいわね、茜! あんたから殺してあげましょうか!?」

「・・・あなたに私が殺せるとでも?」

「なんですってぇ!」

「ほらほら、喧嘩なんかしている余裕ないわよ。あたしたちはこれ全部片付けろって言われてるんだから」

 友里の台詞に真琴はふん、と吐き捨て、茜はやはり無表情のままだ。まぁ、とりあえず騒ぎが収まったので良しとしよう。

「さて、相手は三つの軍。折角だからお互いそれぞれ分かれましょうか?」

 その案に二人とも賛成を示した。皆、互いを邪魔だと思っているのだろう。

 とはいえ、自分だってこの二人が邪魔だと思っていることに変わりはない。

 目に映る物は全て自分で壊さなくては収まらない。そう考えるように高槻にインプットされているのだ。

「じゃあ、真琴はグレミー軍とやらをやるわ!」

「では、私はカンナヅキらを」

 言うだけ言って併走していた二機は進路を変更し友里から離れていく。

「ってことは、あたしはハマーン軍というわけね」

 それを見届けた友里がうすら笑いを浮かべ、機体を駆る。

 滑るように戦場に身を乗り込ませたΩガンダムは手始めに向かってきたズサをジェノサイドクローで叩き潰し、

「さぁ、狩りの始まりだわ・・・!」

 奔る快感に身を委ね、友里は敵機を撃墜させていく。

 

 

 

 ムツキの右翼には、つい数週間前にロールアウトしたばかりのカンナヅキ級四番艦、ヤヨイがいた。

 その艦長は古河早苗。大破したラー・カイラムに変わりこの艦を任されたのだ。

 今回もまた配備は最前線。だが、隆之の乗るムツキもまた最前線であることを考えれば、今回は本気で戦う気でいるのだろう。

 この状況を生かし、ネオジオンを掃討する。それが連邦の総意だ。

 ・・・だが早苗は、既にこの戦闘に疑問を抱いている。

 連邦の取った作戦は別段卑怯でもなんでもない。相手が弱っているところを突くのは兵法として当然のこと。

 だがそうではなく、連邦の掲げる正義に疑問を禁じえないのだ。

 秋生の話では連邦を離反したカンナヅキ、キサラギには朋也やなつきもいるという。

 連邦に利用され、裏切られる形となった両艦だが、それでも彼らは自らの意思でこの戦場にやってきた。

 その意味するところを、聡明な早苗が受け取れないはずもない。

 だからこそ、早苗はこの選択をした。

「MS部隊は全機、ネオジオンを狙ってください。カンナヅキらのMSに対する攻撃行為は禁止とします」

 その宣言に思わず振り向くブリッジクルー。

 各艦で指揮系統が違うとは言え、このような命令。独断も良いところだ。

 だがそうして不安がるブリッジクルーとは裏腹に、豪快な笑い声が通信越しに届いた。

『あっはははは、さすがは早苗、俺の妻だぜ! よく言った!』

「ありがとうございます、秋生さん」

 秋生はおう、と頷き、わずかに横を見るような仕草をして、

『良かったなぁ、渚。これであの小僧と戦わずにすむじゃないか』

『はい。・・・ありがとうございます、お母さん』

 その言葉に、早苗はただ笑みを浮かべるのみだ。

 そして一拍。表情を真剣なものに一変させ、再度宣言する。

「繰り返します! ヤヨイのMS部隊は全機ネオジオンを狙ってください! なお、これは私の独断であり、全ての責任は私が負います!」

『おら、返事はどうした!』

『『「「「りょ、了解!」」」』』

 呆気にとられていたクルーやパイロットたちだったが、秋生の一声により慌てたように返事を返す。

 それを聞いた秋生が親指を立てる動作だけをして、通信を切った。

 そんな夫を誇りに思いつつ、早苗は告げた。

「ヤヨイは指揮下の艦隊を引き連れて戦闘区域に右翼から突撃します! 各艦、艦対戦用意! 目標、ハマーン軍艦隊!」

 

 

 

「はあぁぁぁ!」

 浩平はビームサーベルを片手に敵ズサ部隊に特攻する。

 迎え来るミサイルのカーテンをその異常なほどの機動で回避しつつ中央に切り込み一瞬で三体を切り刻む。

 さらに片手のビームライフルを併用しつつそこにいたズサ十二機をわずか数秒で全機撃破してのけた。

 だが手を休めてなどいられない。周囲を見渡せばそれだけで敵など至るところで見つけられるのだから。

『浩平さん! 朋也さんの部隊が新型MAに足止めされてキサラギの右翼ががら空きです! カバーに入りましょう!』

「なに!?」

 栞の言葉に振り返れば、確かに朋也となつきの二人がMA一機に抑えられている様子が伺える。

 そのせいでキサラギがグレミー軍MSの総攻撃を受けている。かなりまずい展開だ。

「よし、俺たちはこれから岡崎小隊のカバーに入る! 栞、風子、いくぞ!」

『『了解!』』

 三機は編隊を組み、キサラギの右翼へと移動していく。

 しかし、その道程を半分ほど過ぎたとき、栞が不意に叫んだ。

『はっ! 浩平さん、上・・・!』

「っ!?」

 咄嗟に機体を反転させたリアンダー・ゼオンの横を直上から圧倒的なビームの放流が突き抜けていった。

「なっ・・・!?」

 見上げた先、そこにいるのは、瞼に鮮明に焼きついたあのガンダム。

「ガンダムエターナル・・・長森かっ!」

 しかし返事は来ない。エターナルはそのまま構えたハイパーメガランチャーを放つだけだ。

 それを再び回避した浩平は、瑞佳が自分を優先して狙っていることに気付く。

 ―――頭痛の種を先に消そうってわけか。だがそうはさせない・・・!

 みすみす殺されるようなことはしない。今度こそ守ると・・・救い出すと、そう決めたのだ。あのときに。

「栞、風子! 長森は俺に任せてお前たちはキサラギを!」

『でも、いくら浩平さんでも一人じゃ・・・!』

『そうです、ここは風子たち三人で―――』

「そんなことしてたらキサラギが墜ちるだろう! いいからお前たちは行け、早く!」

 エターナルがファンネルを展開し、その全てを浩平に向けてくる。踊るように周囲を舞い、不規則なビームを放ち続けるファンネルの猛攻。

『『浩平さん!』』

「俺なら大丈夫だ、信じろ! ―――だから早く行けぇ!」

 栞と風子は互いを見やり、一瞬考え込むように俯くと、どこか縋るような視線で、

『・・・わかりました』

『風子、浩平さんの言葉を信じました。嘘ついたらひどいですよ!』

 そう言い残して二機は反転、キサラギへと向かっていった。

「さぁて・・・」

 浩平はビームの雨をかわし、あるいはシールドで受け止めながらエターナルを見やった。

 その機体の奥にいま、未だ眠り続けている幼馴染で恋人だった少女がいる。

 一度は悔やんだ。

 しかし、どうあれ救えるチャンスがもう一度来たのなら、今度こそその手を掴み、そして長い眠りから叩き起こしてやらなくては。

 ―――昔は、俺が起こされる側だったんだけどなぁ。

 過去に想いを馳せる。しかしそれも一瞬だ。浩平は決意に満ち満ちた視線でエターナルを仰ぎ見て、叫んだ。

「長森、いい加減目を覚ましてもらうぞ!」

 

 

 

 聖は戦況を見つめ愉悦に浸っていた。

 混沌とする戦場を眺め、心を埋めるのはただ愉快の一言だった。

 しかし、そろそろこうして傍観しているのも飽きた。そろそろ自らあそこに飛び込むのも悪くない。

「か、艦長、どちらへ?」

 いきなり立ち上がった聖に副官が慌てた様子で声を掛けてくる。

 そんな副官に対し聖は失笑を浮かべ、

「この状況で前線以外にどこに行くと思う? 私も出るんだよ」

「いえ、ですが・・・」

「お前は私の命令に従っていれば良い。艦隊の指揮は雪見に一任してある。指示は雪見に仰げ」

 それ以上言うことはないとばかりに聖はすぐさまブリッジを後にした。後ろからこちらを止めるような言葉が聞こえたような気もしたが、無視だ。

 そのままパイロットスーツに着替えた聖はMS格納庫へと足を踏み入れる。

 しかしそこにはMSが一機も置いてない。聖はそのままそこを通り過ぎると、カタパルト脇にある、急増されたようなハンガーを降りていく。

 それはかなり深い。

 そうして数分を掛けて降りた先には大きな空洞があり・・・そこをいま、全体を埋めるような巨大な何かが細々としたコードに接続されている。

 これこそ、グレミーから聖が譲り受けたもの、超巨大なMA。

 クィン・マンサと並行して製作が進められていたネオジオンの象徴となるための機体。

 その名は、アマテラス。

 あまりに巨大なため戦艦に搭載できず、急遽別の格納庫を取り付けるほどのMAがいまここにある。

 単機で戦況を覆すことも可能と言われるほどのスペックを持った機体。

 これを操作するにはかなりのニュータイプ能力が必要だということで、。聖はわざわざ名雪の研究結果を利用して自らに強化を施した。

 それだけの価値が、この機体にはある。

「さて、行こうか」

 コクピットに乗り込み、システムを起動する。大きな駆動音と同時、モニターが映り込み周囲からコードが抜かれていくのが見える。

 アマテラス。とある国の神話に出てくる神の名を冠した機体。

 実に自分に相応しい、と聖は口元を歪める。

「私こそこの世界の断罪の神だ!」

 この力を持って、忌々しい存在全てを叩き潰す。水瀬秋子、相沢祐一、そして・・・川澄舞。 

 そのためにいま、

「霧島聖だ。アマテラス・・・出るぞ!」

 神の名を受けた機体が蠢く負の感情を内包し、漆黒の世界へと舞い降りる。

 

 

 

 そしてそれを、カンナヅキの護衛に勤めていた霧島中隊の隊長である佳乃は明確に感じ取った。

「この感じ・・・お姉ちゃん!?」

 数年振りであろうと、その感覚を間違えるわけがない。

 その感じがどこかざらつくような、歪んでいるような感覚を受けようと、その根本はやはり自分の姉である霧島聖の気配だ。

 ・・・この戦争を作り上げた、姉の。

「・・・!」

 そう思ったとき、もう自分の取るべき道は一つしかないと思えた。

「往人くん、指揮お願いできる!?」

「は!? お前いったいなに考えて―――」

「お姉ちゃんの気配を感じた。だからあたし、いかなくちゃ!」

「聖が・・・!? いや、だが待て! お前一人で行く気か!? 俺も―――」

「駄目だよ! これはあたしのわがままだから、一人で行かなくちゃ・・・。だから―――お願いね!」

 佳乃は言い終わるや否や、返事を聞く間もなくすぐに踵を返しこの戦闘区域から離れていこうとする。

「待て、佳乃―――っ!?」

 それを追いかけようとした往人だったが、それは目の前を通り過ぎていったビームによって阻まれた。

 慌てて振り向いた先、そこには見慣れた緑の機体が悠然とそこに立っている。それは、

「パラス・アテネ・・・。遠野か!」

「・・・」

 返事はない。が、すぐにパラス・アテネはビームサーベルを展開し、みちるの機体だと思われるギラ・ドーガを引き連れて突っ込んでくる。

「くそ、やるしかないのかよ・・・!」

 毒吐きながらも、あっちがこちらを殺す気で来ているのは気配でわかる。

 仕方なしに往人は肩の拡散メガ粒子砲を放射しつつ、迎撃のためにビームサーベルを抜いた。

 

 

 

「くそ、きついなこれは・・・!」

 祐一はカンナヅキ艦橋で目まぐるしい戦況に思わず愚痴をこぼしていた。

 現状、この戦闘区域はいま四つの軍が入り乱れての乱戦にもつれ込んでいる。

 それだけでも厄介なことなのだが、なによりも厄介なのはその四軍の配置だ。

 ネオジオンのグレミー軍、ハマーン軍はそれぞれアクシズ戦闘区域に有紀寧を入れたくないのだろう、進路を阻むように右前方と左前方にそれぞれ展開している。

 加え、遅れるようにして戦線に突入してきた連邦艦隊はカンナヅキら三隻のほぼ真後ろというポジション。

 つまりカンナヅキら、キサラギ、クラナドは敵軍に三角型に囲まれた形となる。

 そうなれば必然、戦闘面が周囲に広がるこちらの方が戦闘は激化し、また消耗も激しくなってしまう。

 どうにかしてポジションを変更したいのだがネオジオンはこっちから距離を離すつもりは無いようだし、連邦は数が数だから回り込むなど不可能に近い。

 結局この場に留まることしかできなのだが・・・果たしてどれだけもつだろうか。

 艦もMSも圧倒的に数の差があるこの状況で・・・。

 ―――なに考えてる、相沢祐一! お前は指揮官だろう!

 わずかでも弱気になった自らの思考を叱責する。

 指揮官として、皆の命を預かる者として、最後まで諦めるわけにはいかないのだ。

 上に立つ者が全てを投げ出してしまえば、そこで全てが終わってしまう。

 ―――そんなこと、させるかよ!

「ベータZ、シグマE小隊全滅! ガンマE小隊とシグマZ小隊は残存兵力で混成部隊を編成!」

「国崎機、敵エース級二機と接触! 艦の防衛ラインより離れていきます!」

「折原機も敵エース級と戦闘しつつ徐々に防衛ラインを離れていってます!」

「キサラギのIフィールド熱量増大! ハマーン軍艦隊の一斉掃射を受けています!」

「月宮機、補給要請! 整備員はすぐに第一カタパルトに待機!」

「ラムダZ小隊、連邦のガンダム級に接触! 全滅です!」

「クラナド、連邦軍艦隊の攻撃を受けています! 第四エンジン被弾したもよう! 推力低下!」

 錯綜する報告を取捨選択する。まずなにを優先すべきかを的確に捉え、即座に実行に移さなければならない。

 最善の手に最善の手を繋げる。ここで死んだとなれば、いままで自分たちのために散っていった者たちに合わせる顔がないのだから・・・!

「カンナヅキ急制動の後反転、クラナドの背後に回りこみ連邦艦隊の頭を抑える!

 整備員にはあゆの補給を最優先と伝達! 近付いてくるガンダムタイプには・・・!」

『祐一さん、佐祐理がいきます!』

「佐祐理!?」

『カンナヅキの防衛に舞を残します! 大丈夫です!』

「そうじゃない! お前たちはクラナドの防衛があるだろう!?」

『大丈夫! クラナドはカンナヅキとキサラギに挟まれる形になるから敵のMSもそうそう近づけない!

 それにあそこはいま戻ってきた智代や佐織が防衛に当たってくれてる!』

「・・・っ! わかった! 佐祐理は敵ガンダムタイプの対処! 舞はそのままこちらに防衛を頼む!」

『『了解!』』

 制動をかけ、その場で反転を開始するカンナヅキ。その間にクラナドはカンナヅキの横を抜け、三隻の編隊は一直線となる。

 そして向き合う形となった連邦艦隊の先頭には、見慣れた戦艦の姿。

 カンナヅキ級二番艦、ムツキである。

 一時は共に戦ったその艦の姿を、祐一は複雑な表情で見つめる。

「・・・お前なんだな、北川」

 感覚でわかる。そこにいるのは親友とも呼べる相手、北川潤。

 ・・・だが、だからと撃たれてやるわけにはいかない。

 自分たちはここに来るまでにいくつもの想いを背負ってきた。そして、連邦が間違っているということはいまでも断言できる。

 だからこそ向き合わなければならない。それがたとえ、親友であったとしても。

「―――ミサイル装填準備! 同時に三連圧縮メガ粒子砲チャージ開始! 全兵装準備整い次第一斉発射! 目標・・・ムツキ!」

 苦渋の選択をして、祐一はその言葉を紡いだのだった。

 

 

 

オリジナル機体紹介

 

AMX−016

アテナ

武装:ビームトマホーク

   メガビームライフル

   メガ粒子砲×

   頭部バルカン

   ファンネル

特殊装備:シールド

     ダミー機能搭載

<説明>

 ネオジオンがハマーン用に製作した新型機。

 名は「a tough hope extremely newtype armor」をひねり、ギリシャ神話に出てくる戦女神のアテナの名を冠した。

 スペックはこの時代でも最強の部類に入る。

 しかしハマーンではなく秋子が乗ったことにより、せっかく搭載したファンネルも無用の長物となってしまった。

 なおこの設計図は後の世に流れ、第二次ネオジオン抗争の際にサザビーに用いられている。

 主なパイロットは水瀬秋子。

 

 

 

NZ−111

アマテラス

武装:前面部メガ粒子砲×4

   側面部メガビームキャノン×10

   テンタクラーメス×32

特殊装備:Iフィールド

<説明>

 クィン・マンサと並行して製作が進められた巨大MA。

 形式番号からわかるようにこちらもクィン・マンサ同様ネオジオンの象徴として製作されていた。

 大きな筒のような形状をしており、前面部の上下左右にメガ粒子砲、側面部五方向にそれぞれ二門ずつメガビームキャノンが付けられている。

 この機体の特徴としてテンタクラーメスと呼ばれる先端が圧縮されたビーム刃を展開する触手のような武器を側面部に搭載。

 設計当初は125基設置の予定であったが、サイコミュシステムの過負荷が大きく32基まで大幅に減らされた。

 それでも十分な火力を誇り、単機で艦隊に挑むことすら可能としている。

 主なパイロットは霧島聖。

 

 

 

 あとがき

 はい、どうも神無月です。

 さて、いよいよ最終決戦です。今回は面子合わせみたいなもんで、次回から本格戦闘です。

 もちろんネオジオン軍同士の戦闘や連邦とネオジオンの戦闘もあります。

 さて、いろいろとゴチャゴチャしてしまいましたが、過去類の無い激しい戦闘であるということでかなり頑張ってみました。

 戦闘の激しさが少しでも伝われば良いなぁ、と思ってます。

 では、また。

 

 

 

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