Episode ][
【錯綜、そして決着】
『こちら、カンナヅキ級三番艦キサラギ艦長・・・一ノ瀬ことみです。これよりキサラギは現戦闘でのカンナヅキの援護を行います。
ですが、こちらではこの戦闘の経緯、把握ができません。よって、この戦闘での指揮権はそちらにお任せしたいのですが、よろしいですか?』
いきなりのキサラギの登場に呆然としたが、それも一瞬。祐一はすぐさま姿勢を整えた。
連邦の救助が横浜基地から来る可能性が高いのは最初から考慮していたことだ。ならキサラギが来るのも不思議なことではない。
そしてそのことみの言葉に隠された意味も祐一は理解した。
―――試したいのだ、こちらの手腕を。
「こちら、カンナヅキ級一番艦カンナヅキ艦長相沢祐一です。援護感謝いたします。また、指揮権は確かに了解しました。ではキサラギ隊はカンナヅキの指揮下に。そちらの戦力把握のため、データの送信をお願いしたい」
『了解です』
それと同時、祐一の手元のパネルにキサラギの戦力が載ったデータが届いた。
それを見て祐一は思考を開始した。
全ての状況を踏まえ、勝つ算段を。
ことみはただ待った。
その相沢祐一という男。
確かにアクシデントによって艦長代理になったのは仕方なかったが、現在ではこうして正式にカンナヅキ級一番艦の艦長をしている。
大尉という階級で艦長、しかもそれが新プロジェクトのカンナヅキ級となれば本来はありえないはず。
そこを圧してまで艦長にしたからには、きっとなにかあるのだろう。
だからことみは試してみたかった。
相沢祐一の、実力を。
祐一の視線が手元のパネルからこちらに上がる。どうやらなにかしらの作戦を立て終えたようだ。
『これから作戦の概要を伝えます』
―――その口から放たれたものは、ことみさえ考え付かないような突飛な作戦だった。
「・・・それは、少し危険だと思うの」
『かもしれない。でも・・・』
「うん。上手くいけば、これ以上の作戦はない」
逡巡は一瞬。
ことみは頷いた。
「わかったの。キサラギ各員にはこっちから言っておくの」
『よろしく頼むよ。この作戦の第一のポイントはそっちの頑張りだからな』
「任せるの」
切れた通信を眺め、ことみはただ感嘆していた。
相沢祐一。どうやら想像以上らしい。伊達に士官学校主席卒業ではなさそうだ。
「キサラギ、全速前進。迂回してカンナヅキ前方にいるMS部隊の背後につくの。各MSにも相沢大尉の作戦を伝えて」
「了解です。・・・そういえば、艦長」
「?」
「艦長が異性ですぐに口調が砕けたとこ、岡崎中尉以外ではじめて見ましたよ?」
「あ・・・」
そういえばそうだ。
いつの間に自分は丁寧口調が消えていたのだろう。そして向こうも。
・・・こっちも向こうも、互いを認めたからだろうか。
そしてなんとなく・・・そう、なんとなく雰囲気が朋也に似ていたから・・・。
「・・・い、いまはそんなことどうでも良いの」
いまは戦闘中だ。そんな思考は捨てる。顔が少し赤いと思うのもきっと気のせいだ。
その様子にオペレーターの少女は笑みを浮かべ、すぐさまコンソロールに視線を戻した。
「各機、発進準備整ったようです」
ことみはどこか納得できないような表情で、しかしすぐに艦長の表情に戻ると、
「各機発進。発進後はキサラギとともに敵後方を叩くの」
そして小さな笑みを浮かべ、
「いっぱい大暴れして、カンナヅキから注意を引き付けるの」
移動を開始するキサラギを眺め、祐一は確信していた。
この戦闘は勝てる、と。
先程提示した作戦を、その隠された部分まで瞬時に見極めた一ノ瀬ことみ。どうやら噂以上のようだ。
おそらくどのような状況に転んだとてあの少女なら良い方向に持って行ってくれるに違いない。
・・・ならばこちらも最善の手を尽くすまで。
「各パイロットに作戦を通達。続いてカンナヅキは地表ギリギリまで高度を下げろ。これはタイミングが重要だ。見誤るなよ!」
「「了解!」」
キサラギのMSデッキでは次々とパイロットたちが出撃準備を開始していた。
その中でも一際目立つ、赤い塗装をしたジェガンのコクピットで岡崎朋也は全ての準備を整えヘルメットを被った。
「まったく・・・。あちらさんの艦長も無茶なことを言いやがる」
オペレーターから告げられた作戦内容に、朋也は正直正気を疑った。
あまりにも無茶な作戦。下手をしなくても危険な賭けだ。だが・・・こうなった以上はやるしかないのだろう。
・・・それに、ここで確かめたい相手もいる
カタパルトまで移動。接続を確認し、朋也は前方に広がる戦場を眺め、
「岡崎朋也だ。ジェガン、出るぞ!」
そこへ降りていった。
護の部隊は後方に回りこんできたキサラギの部隊が降下してきたことで統率が崩れ始めていた。
なんとか体勢を立て直そうとする護だが、相手はそんなことを簡単に許してくれるような連中ではないらしい。
「この!」
目の前にやってきたジムVを切り払い、そのまま左にいたジムVにメガ粒子砲を叩き込む。
爆発炎上するそれらの機体を振り捨て、護は周囲を見やった。
―――まずいな。
統率が崩れたうえ、さらに士気が下がり始めている。どうやら敵の中にこちらに不安を押し付けるような存在がいるようだ。誰か、名のあるパイロットでもいるのかもしれない。
『副隊長!』
「俺は副隊長じゃないって言ってるだろ!」
『そんなことより、おかしいんです!カンナヅキより発進された部隊が後退を始めていて・・・』
「なに・・・?」
振り返ってみれば、確かにカンナヅキの部隊が徐々に後退していくのが見て取れた。
「どういうことだ・・・?」
しかし、降下してくるカンナヅキを見て護はその狙いに気が付いた。
「正気か!?いや、しかし・・・」
確かにその作戦は成功すれば形成は逆転する。その布陣が完成されれば、もうこちらが勝つことはできないだろう。
ならば、と護はグリップを強く握った。
「ここはお前に任せる。俺は向こうの部隊と合流してどうにかあの動きを止めないと―――」
『そっちに一機行ったわ、護!』
突如届いた佐織の通信に、護の身体は条件反射で機体を持ち上げていた。
跳躍するザクVの隣で、いままで通信を行っていたズサが強力なビームによって貫かれ四散した。
「少尉!くそ・・・!」
さらに棘のついた鉄球のようなものが飛んできて、ザクVを強く打ち付ける。
「ぐぅぅ・・・!」
シールドで防御はしたものの、穴の開いたシールドはもう使いものにならないだろう。
なんとか着地し、それが飛んできたと思われる方向にビームを撃つ。
それを回避し、こちらに向かってくるシルエットは、見慣れた・・・しかし見たくない形状のMSだった。
「ガンダム・・・!?」
見たことのない黄色い塗装をされたガンダム。だが、その肩に描かれたエンブレムは、護に衝撃を与えるには十分だった。
「逆巻く竜巻のエンブレム・・・、まさかあの『盲目の緑風』!?」
絶望的な敵の登場だった。自分の力量ではまず勝ち得ない敵だ。
ここまでか―――!
護は降下してくるカンナヅキの船体によって徐々に見えなくなっていくもう一つの部隊を悔しげに一瞥した。
「・・・・・・」
いきなり後退をはじめたカンナヅキ部隊に追いすがってきたMSを切りつけながら、舞は来た方向を眺めていた。
あの人は・・・間違いなくそこにいる。気配を感じる。
このまま戻れば、おそらくあの人とは戦えないだろう。
でもそれは・・・駄目な気がするから。
「ごめん。私は戻る」
『川澄!?』
突如ブレーキをかけ後退を止めた舞に、小隊長であるアムロが驚きの声を上げた。
『どうした、なにをしてる!』
「私は・・・あっちで戦わなくちゃいけない相手がいるから」
『川澄・・・?』
『アムロ隊長、すみません。私にも行かせてください』
『郁未・・・お前までか』
『何も言わずに・・・お願いします』
その声音に、なにかを感じ取ったのだろうか。アムロはこれ見よがしに大きくため息を吐き、
『わかった、行ってこい』
投げやりにそう言ってアムロは機体を再び走らせた。
その後姿を数秒だけ眺め、
『・・・いくわよ、舞』
「うん」
二機のガンダムは来た道を再び疾走していった。
カンナヅキの後ろにいるネオジオン部隊(最初にカンナヅキを取り囲んだ部隊)は突如船体を下げてきたカンナヅキにみな怪訝な表情を示した。
なにかエンジントラブルでもあったのだろうか?
そんな安易な思考を巡らせた者たちが、好機とばかりに次々とカンナヅキへ攻撃を仕掛ける。
―――それが罠だと知らずに。
『な、なんだ!?』
『うわぁぁぁぁ!?』
「な、どうした!なにが起こった!?」
次々と発生する悲鳴に、隊長格らしい男がうろたえる。
だが、遅い。全てはもう後の祭りだった。
『西の方向からMS部隊!』
「馬鹿な!また増援だとでも言うのか!?」
『いえ、このMS部隊は・・・カンナヅキのMS部隊です!』
「な、なにぃ!?」
さっきまでずっと前方にいたMS部隊がどうしてここに・・・!
しかし答えが出る前に、目の前に迫った量産型百式改の一撃によって意識は刈り取られた。
「どうやらしっかりと引っかかってくれたみたいだな」
状況を艦橋で眺め、祐一は安堵の笑みを作った。
―――祐一の立てた作戦はこうだった。
キサラギがカンナヅキ前方に出現した敵の後方を叩く。すると敵は後方からの攻撃に対処すべくキサラギを優先せざるを得ない。
ここでカンナヅキの部隊は一旦下がらせて、カンナヅキは高度を下げる。
後方の部隊は突如降下してきたカンナヅキに目を奪われ、そこに攻撃を集中させてくる。
だが、ここで後退したカンナヅキの部隊は降下してきたカンナヅキを壁のようにして伝い、そのまま後方の敵の側面に出る。
そう。カンナヅキは囮と同時に目くらましの役割を担っていたのだ。
そしてカンナヅキの部隊がそのままさらに後方を突けば、包囲網がネオジオンから連邦側に移る。
それを指摘するはずの敵の参謀も、キサラギからの攻撃を対処しているだけで精一杯で身動きが取れない。
下手をすれば壁役になったカンナヅキが堕とされかねないが、現にこうして無事なのだ。祐一の博打は勝利に終わった。
・・・そう、あとは掌握するだけ。
「各員に通達!このまま一気にけりをつける!」
・・・ここで、流れは連邦へと傾いた。
「・・・まずいな」
戦場を駆け抜ける銀に煌くシルエット。それはまるで獲物を狩る狼そのもの。
故に『白銀の狼』。
そのレヴェレイションのコクピットで、智代は自軍の劣勢を身体で感じ取っていた。
部隊は綺麗に二分され、しかも囲まれる形になっている。・・・もはや勝つのは絶望的だろう。
だが・・・まだやらねばならぬ事がある。
「・・・む」
刹那、視界の隅に煌くものが見えた。半ば条件反射で機体を横に滑らせると、先程までいた場所をビームが貫く。
「MA?・・・いや、違うか」
それは増援部隊の中で一番最初に現れたあのガンダムタイプ・・・ガンダムウインドだ。
「私に挑むか、面白い」
空中でMSに変形、そのままビームサーベルを掲げて急降下してきた。
こちらもビームサーベルを抜き、受け止める。発行して飛び散る電子粒子の向こうで、ウインドに動きがあった。
ビームサーベルを突き出している椀部が、せり上がる。
「―――っ!」
咄嗟に機体を翻すと、連続した銃声が耳を掠めた。
―――ガトリングガンか!
ならば、そうそう安易に切り結ぶ事は出来なくなる。そうこうしている間に蜂の巣になりかねない。
「・・・遠距離戦をするしかないか」
そうでなければ、ヒット&アウェイを繰り返すか。しかしこの場合他の者が来た場合に対処に遅れてしまう。
判断。智代は一足飛びに距離を取り、ビームライフルを取り出した。
「接近戦よりは不得手だが、そこらの者よりは腕は良いと自負してる」
連射する。しかしそれは全弾回避された。・・・だが、
「動きが雑だな。スピードに任せて強引に回避運動を取っている」
それは戦闘経験の少なさが如実に見える動きだった。
その思考に、苦笑が浮かぶ。
・・・最近、自分は腕が立つのに経験不足な連中と戦う事が多いな、と。
ならば教えてやろうと思う。・・・戦いの、全てを。
瞬間、智代はビームライフルを前方に投げつけた。動きで、相手が驚いたのがわかる。
・・・そのあまりにも純粋な静止に、智代は微笑を貼り付けた。
そして跳ぶ。
驚愕によって反応が遅れたウインドのビームライフルがこちらに照準をつける前に、智代はビームサーベルを投擲した。―――先程投げつけたビームライフルに向かって。
爆発。爆風がウインドの機体を煽り、動きを止めさせる。その瞬間にレヴェレイションは着地し、もう一本のビームサーベルを抜き放つ。
一閃。
銀光がウインドの頭部を跳ね飛ばす。そしてサブカメラに切り替わる前に機体の勢いそのままで回し蹴りを喰らわせた。凄まじい振動だ、これでパイロットはしばらく動けまい。
「さて、終わりかな?」
吹き飛ぶ機体を追い、ビームサーベルを掲げて、
「!」
しかし振り下ろさずその場を一歩後退した。その目の前を一条の光が突き抜けていく。
―――やっと来たか。
視線をやれば、そこにいたのは先日戦ったあの二機のガンダムタイプがいた。
舞はすぐさまその二機の間に割り込むような形で機体を動かした。
「大丈夫?」
倒れている頭部の無くなった機体からはどこか懐かしい気配がするが、上手くは思い出せない。でも確実に知り合いだろうと、舞は簡潔にそれだけを訊ねた。
『あいたた・・・、なんとか大丈夫です』
聞こえてきた声は、それでも驚きを禁じえない相手だった。
「・・・まさか、栞?」
『あれ?この感じ・・・それにその声、舞さんですか?』
やはりそれは間違いなく高校時代の後輩、美坂栞で間違いないらしい。
どうして連邦に、とかどうしてここに、とかいろいろ聞きたい事はあったが、
『舞、そんな話をしてる余裕は無いわよ』
「・・・わかってる」
舞は意識を前方の相手に集中させた。
『・・・気を付けてください、舞さん。その人・・・すごく強いです』
「知ってる。・・・一度負けてるから」
・・・いまならわかる。ただ立っているだけにもかかわらず放たれるこの威圧感。ハッキリ言って自分とは格が違う。
しかし乗り越えなければならない壁だ、とも思う。なぜかは、わからないけれど。
「・・・郁未」
『ええ、いきましょ』
頷きあい、二機は同時に疾駆した。
流れる景色の中、朋也は袈裟切りにビームサーベルを振り下ろした。
それに伴いガザDが真っ二つに機体を割り、破砕する。
・・・これで十機ほどか。
周囲を見渡せば、すでに戦況は誰から見ても連邦有利に進んでいる。目に付くネオジオンのMSはそのほとんどが残骸だ。
このままなら勝利はかたいだろう・・・と、
「!」
不意に向けた視線の先で、信じられないような攻防が繰り広げられていた。
激しくぶつかり合う三機のMS。その誰もがエース級の動きを見せている。
・・・そしてその中の一機。その気配を、朋也は知っている。
「ここに来る、ってわかった時点で会うかもとは思ってたが・・・」
一瞬の迷いを首を振って追い出す。
既に決めていたことだ。
そう判断し、朋也はその戦闘に介入すべくペダルを踏み込んだ。
まずは牽制にビームライフルを撃つ。狙いも定めてない適当な射撃だ、誰にも当たらず通過していく。
しかし、この一撃でそこにいた三機は全員こちらの存在に気が付いた。
それを確認し、朋也はビームサーベルを抜くと勢いよく地を蹴った。
「智代ぉぉぉ!」
叫び、加速する。
「智代ぉぉぉ!」
オープン回線で聞こえてきたその声は、智代のよく知る声だった。
「爆発を背に笑みを浮かべるピエロのエンブレム・・・。そうか、お前もいたのか、朋也」
突然の介入者はどうやら懐かしい相手。
―――だが、
「はぁ!」
「ふん!」
振り上げられた剣と振り下げられた剣がぶつかり合い、火花を散らす。
「智代・・・」
「朋也・・・」
どちらか・・・それともお互いか。ビームサーベルを弾き、大きく距離を取った。
そうしてしばらく間をおき、ややあってから、
「なぁ、朋也。私たちに言葉は必要か?」
「・・・さて、な。だが、やること・・・できることは一つしかないな」
智代は笑みを浮かべた。小さな、しかし嬉しそうな笑みだ。
「強くなったんだな、朋也」
「戦場で生きるって事は・・・そういうことさ」
「なるほど。そうだな」
ビームサーベルを眼前に。
「私はネオジオン」
相手も同じく。
「俺は連邦」
刹那、両者の機体が前に跳ぶ。
「お互い背負うものがあるならば、戦う他に道はない!」
「戦争を、している限りは・・・な!」
激突。ぶつかり合うのは物理的な一撃と、互いの想い。
「なにをボーっとしてる、そこの二人!手を貸せ、俺一人じゃこいつは抑えられない!」
朋也の一喝に、舞と郁未も動き出す。
―――それで良い。
朋也は手加減なしで戦ってくれている。そして、あの二人も。
「・・・ならば、ここに示そうか」
坂上智代が、戦う意義を。
この身と、心と、全てをもって。
・・・この戦いで教えつくす。
「来い!私を、越えて見せろ!」
レヴェレイションのモノアイが、神々しくも輝いた。
「なんて奴だ・・・!」
祐一はその戦いを見て無意識にそう呟いていた。
・・・もう戦闘はほぼ終結に向かっている。残っているネオジオンのMSは十数機。既に勝敗は見えていた。
だが、その中で孤軍奮闘する一機のMSがそこにいる。
あの舞と郁未、そして『爆炎のジョーカー』と呼ばれる岡崎朋也の三人を同時に相手にしてなお勢いを衰えさせない。否、逆に押してすらいる。
まるで修羅。これがネオジオンでも五指に入るという『白銀の狼』坂上智代の力なのか・・・!
「艦長、・・・どうしますか?」
「・・・どうもできないだろう。あんなレベルの戦闘に下手な奴を突っ込ませたら死人が増えるだけだ」
ここは見守るしかない。
祐一の無言の言葉に、誰もが固唾を呑むしかなかった。
「はぁ、はぁ、・・・くそ!」
所々スパークし始めているコンソロールに見向きもせず、鷹文はただシュツルム・ディアスを走らせていた。
シュツルム・ディアスは見た目にボロボロで、もうろくな戦闘が出来ないのは明らかだ。
やたらと接近戦の強いネロ・カスタムとの戦闘の結果だ。相手が他のMSに気を取られている間になんとか逃げてきたが・・・。
(姉ちゃん・・・!)
感覚でわかる。いま自分の姉は凄く強いプレッシャーを放つ相手を三人も相手にしている。
智代は強い。それは弟である自分が一番よく知っている。しかし、さすがにこのレベルの相手が三人、しかも同時ともなれば話は別だ。
「姉ちゃん・・・!」
姉を殺させはしない。姉は死んではいけない人間だ。
だから鷹文は走る。
走って走って、走って・・・!
「姉ちゃん!」
見えた。跳び爆ぜ斬って激突する四機のMS。
見た瞬間、鷹文は直感した。自分があそこに突っ込んだら、間違いなく瞬殺だと。
・・・なら、遠くから体勢を崩すだけでも!
思い、ビームピストルを持ち上げる。が、
「!」
横から訪れた一撃が、ビームピストルを破壊した。
慌ててその方向を振り向けば、そこには金色の機体が一機、凄まじいスピードで突っ込んできている。
「邪魔は・・・させないわ!」
対応を、とグリップを引くと同時、大きな振動と共に機体が沈んだ。
「なんだ!?爆発・・・脚部!?」
ガタついたまま走らせたツケか。突如脚部が爆発を起こし機体が制御下から離れる。
まずい、とは思うもののこの状況でなにができるわけもなく。
突撃してきた機体のビームサーベルによってシュツルム・ディアスは一文字に叩き切られた。
その光景が、智代の視界の隅に映り込んだ。
ニュータイプでもないのに、しかし智代にはその機体に乗っているのが自分の弟であると瞬時に理解した。
「―――鷹文!」
叫びにはしかし、柔らかな、・・・優しい声音が返ってきた。
「ごめんな、姉ちゃん。でも、これで姉ちゃんは・・・自由だろ?あとは好きに生きてくれよ、姉ちゃん。俺・・・姉ちゃんの生き生きしてる顔が好きなんだからさ・・・」
一瞬浮いた機体の上半身が、慣性に則って下へと墜落し、
「・・・ありがとう、姉ちゃん。俺、楽しか―――」
爆発。言葉はそこで途切れ・・・、もう聞こえなくなった。
―――想う事は多々ある。言いたいことも、行動したいことも。
だが、智代はそのどれをもしない。
「・・・・・・・・・先に行っていてくれ、鷹文」
視線を戻す。そこに・・・悲しみはない。
「私もすぐに後を追うから」
次の瞬間、なにが起こったのか正直朋也にはわからなかった。
一瞬。いや、半瞬だ。その刹那の間に、自分の機体は行動不能に陥っていた。
両脚部・・・なし。
ビームライフル・・・腕ごと持っていかれた。
メインカメラ・・・叩き割られている。
そんな馬鹿な、と思いつつも現実自分のジェガンはいま地面に激突し動きを止めた。
智代は強い。強かった。三人で戦ってなお互角なのはさすがとしか言いようがない。
だが、それすらも子供だましに過ぎなかったのか。そう思わせるほどいまの動きは他を超越していた。
「くそ・・・!」
毒吐き、もう自分にはなにもできないことを知る。
・・・あとは誰かに任せるしかなかった。
神速の攻撃が雪崩のように舞と郁未へ襲い掛かる。
「・・・っ!」
「こ・・・の!」
相手は一機、こちらは二機。だが終始攻撃をしているのは相手で、自分たちは二人いてなお防御しか出来ないでいる。
「どうした!まさかこれで終わりというわけではないだろうな!」
その言葉に反論が出来ない。
隙がない。余裕がない。一瞬でも防御を解いたら蜂の巣か細切れだろう。
しかしこのままではいつシールドが破壊されてもおかしくなく、またこちらの集中力が切れないとも限らない。
―――ほんの一瞬、せめて一瞬でも隙があれば・・・!
思った瞬間、二つの影がレヴェレイションへと突っ込んでいった。それは・・・、
「てぇい!」
「このぉ!」
ジム・クロウとネロ・カスタム―――佳乃となつきだ。両者はそれぞれビームサーベルを持ち、左右から挟みこむようにして一撃を振るう。
「遅い!」
だが智代は左右のビームサーベルでそれぞれを受け止めた。
力負けしないように、と佳乃となつきがペダルを踏み込んだその瞬間、
「え?」
「わぁっ!」
レヴェレイションがスッと身を引いたことで力の行き場を失くした両機がバランスを崩す。
そこにビームサーベルの斬撃が奔った。
ジム・クロウは頭部から肩までを切り裂かれ、ネロ・カスタムは動力部を貫かれた。
「だ、脱出します!」
ネロ・カスタムは小さな影が飛び出すと同時爆発。ジム・クロウは動力部には引火しなかったのかそのまま低空飛行で近場に墜落した。
―――その間、時間にしておよそ八秒。
「はぁぁぁぁぁ!」
その間に舞と郁未は体勢を立て直し、その瞬間を隙とした。
ZUの強力なメガビームライフルが至近距離で放たれる。
だが当たらない。軽く機体をずらし回避して、その流れでZUへとビームサーベルを向ける。と、
「これ、あなたにプレゼントするわ!」
「!?」
郁未はあろうことかそのメガビームライフルをわざとビームサーベルにぶつけてきた。
距離が距離。破壊されたメガビームライフルの爆発にレヴェレイションの右手が巻き込まれ、破砕する。
「これが狙いか!?」
「まだまだ!」
続けざまにZUは跳躍し、勢いを乗せてビームサーベルを振り下ろす。
残った片方の腕でそれを受け止め―――、
「なっ!?」
ZUの後ろから一つの影が懐に潜り込んできた。
・・・アークレイルだ。腕には超大型大出力ビームブレードが握られている。
片腕はなく、もう片腕はZUの攻撃を受け止めている。
―――対処は、不可能。
「これで・・・決める!」
剣を振り上げ、その一撃が機体を両断しようかというときに、
「―――くっ!」
迷いが来た。見知った相手を殺すという、その迷いが。・・・・・・しかし、
「躊躇するな!守りたいものがあるのだろう!!」
「っ!」
振り抜いた。強く、そしてしっかりと。
「そうだ、それで良い・・・」
「坂上智代!あなたは・・・!」
郁未の声に対し、耳に届くは苦笑。
「川澄舞、天沢郁未。まだ迷っているのだろう?戦いの意味を」
切断面がスパークを始める。すぐに離れなければ爆発に巻き込まれかねない。
・・・いろいろな思考をかなぐり捨て、舞と郁未はその場から離脱した。
だが、声は・・・通信だけは続く。
「それで良い。そう、それはすぐに答えが出るものじゃない。迷って、生きて、その果てに見つけられることなのだろう。だからお前たちは一生懸命迷えば良い。そして見つけろ、本当の戦いの意味を」
最後に笑ったような声を残し、通信は途切れた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
終わった。
二人の少女の無言にて、ここの戦いは終結を迎えた。
二人が見つめる先、一つの爆煙が・・・ただただ昇っていった。
こうしてモスクワ基地は放棄され、そのままカラバが接収することとなった。
残っていた数機のネオジオンMSは投降せずそのまま逃亡。カラバの調査網を抜け、いまではもう発見は不可能だとか。
そしてカンナヅキとキサラギはカラバから少しの推進剤を受け取り、日本の横浜基地へと帰還する。
―――時にU.C.0088.10.27のことだった。
あとがき
ども、神無月です。
さて、なんとかかんとかここまでやって来ました中間地点。
いよいよここから物語りは折り返し後半戦へと入っていきます。
このまま最後まで書ききれるように精進しますので、最後までお付き合いください。
それでは。