Episode ]Z
【そして時は交じり合い】
「ん・・・?」
目を覚ませばそこは見慣れた艦長室だった。
いや、それ以前に寝たという記憶がない。それに横になっているようでもない。
そこから導き出される結論はと言えば・・・、
「・・・やべ。あのまま眠っちまったのか」
腕の下には乱雑にばら撒かれた書類の山。どうやら書類のチェックをしたまま寝入ってしまったらしい。
時刻は早朝と呼ぶには少し遅く、昼と言うには少し早いという中途半端な時間帯。
「あたたたた・・・」
変な格好で寝たせいで痛む腰をさすりながら彼、祐一がゆっくりと立ち上がろうとしたのと、
トントン。
軽く叩くノック音が扉の向こうから聞こえてきたのは同時だった。
「はい?」
「俺だ」
声は浩平だった。
促し、入ってきた浩平は祐一を見て、
「おはよう」
そんなことを言ってきた。
「えっ?なんで・・・」
「どういう寝方をしてたか知らんが、寝癖、すごいぞ。待っててやるから顔洗ってこい」
呆れたような表情で言ってくる浩平に、祐一は照れ隠しに頬を掻くとすごすごと洗面所へと向かった。
「―――で、用件は?」
濡れた顔をタオルで拭きながら戻ってきた祐一はデスクの方に向かいながら、立っている浩平に尋ねた。
「ああ。まず艦の修理がほぼ完了した」
「予想以上に早いな」
「それだけカラバの連中の動きが良かったんだよ。どうやら心底早くけりをつけたいらしい」
「なる」
「とはいえ、カンナヅキは連邦の最新艦だ。エンジンなんかには特殊な技法が取り込まれてるから、そこらへんだけは俺たちで修理したけどな」
「確かに、さすがにそこまでは見せられないからな」
タオルを肩にかけながら、祐一はゆっくりと椅子に座り込む。その目の前に差し出された書類を受け取り、上から順に読み進めていく。
「で、まずは・・・ってことは他にもあるんだろ?」
「損傷の激しいガーベラSFとパーツ不十分のBDは無理だったが、その他のMSはほぼ修理を終わらせた」
「良い仕事するな」
「カラバが艦の修理を買ってくれたから俺たちはMSの修理に専念できたんだよ」
「お疲れさん。そんで、他には?」
「あと春原曹長の怪我が大分良くなったとかで今日の朝、医務室から出ることになった」
祐一は少し驚いた表情で書類に落としていた目線を浩平に向けると、
「すごいな。お前、そんなことまで情報掴んでるのか」
「俺は立場上いろいろな話を聞くからな。そのうちの一つだ。そのうち挨拶に来ると思うが・・・それとももう来てたのかもな」
「あー、ありえるな。俺爆睡してたみたいだし」
苦笑。それなら少しかわいそうなことをしたな、と思う。
「どうやらパイロット業を復帰したいらしいぞ」
「いくら治ったって言っても、まだ出たばっかだぞ?」
「それがパイロットってもんだよ。守ることには慣れてても、守られることには慣れてないものさ」
そんなものなのだろうか。・・・いや、そうなのだろう。こうして元パイロットがそう言うからには。
祐一は小さく吐息一つ。椅子を回して背を反ると、
「なら・・・そろそろかな」
言って浩平を横目で見やる。
浩平も頷いた。
祐一も頷き返し、
「悪いがカラバと連絡を取ってくれないか。・・・いまからカンナヅキはモスクワ基地に進撃する」
その宣言を紡いだ。
そしてその宣言はすぐさま実行され、カンナヅキは出航を開始した。
ミノフスキークラフトによって浮かび上がる白い船体。
その中には連邦とカラバの混合部隊、MSにしておよそ六十機ほどが積まれている。
・・・そしてその様子は監視していたネオジオン兵士によって速やかにモスクワへと伝えられた。
「そうか。・・・いよいよ来るか」
坂上智代はどこか安心したような笑みを浮かべてその情報を聞いた。
彼女がいるのは自分の家ではなく、基地の自室。
そろそろカンナヅキが動き出すのはモスクワ基地の面々にもわかっていたことだ。だからいつでも戦闘できる準備はしてある。
いずれ果たさねばならぬ戦いだ。ならば・・・、
「全力で迎えよう。来ると良い、連邦とカラバの者。いや、カンナヅキ一行と言ったほうが良いか」
智代は立ち上がる。
そして室内を見渡せば、三つの人影がある。
弟である鷹文、そしてこれまでずっと自分を支えてきてくれた住井護と稲葉佐織だ。
その三人を順に眺め、智代は口を開く。
「始めるぞ」
簡潔にただ一言。
それだけだが、三人も頷き返しゆっくりと立ち上がる。
「では、大佐。お先に失礼します」
「ああ、期待しているぞ」
「任せてくださいよ」
そう言って護だけ先に部屋を退出した。
実は今回の戦闘に関する指揮は全て護に一任してあるのだ。
指揮能力ではまだまだ未熟な点もあるが、その頭の回転の速さと特出した策の張り方を見越して護に任せた。
なぜなら智代には他の役目がある。
・・・直に戦わなければならない者たちがいるから。
「では・・・私たちも行くぞ」
歩き出す自分に付き添うように後ろに並ぶ二人の足音。
それを聞きながら、智代は考える。
おそらくこれが最後の戦いとなるだろう、と。
白に包まれた大地に、一つの金属の塊が浮いている。
そんな風に見えるモスクワ基地を、すでに祐一たちは眼前に置いていた。
そこを眺め、祐一はカンナヅキの現在の状況を確認する。
装甲は完璧。ミノフスキークラフトも順調に動いているし、武装面も完璧に修繕されている。ただ、Iフィールドジェネレーターの修理はパーツの関係上できていないので、今回は通常の戦艦とスペック的にはほぼ変わらなくなってしまっている。
・・・仕方ないだろう。いつでも万全に事が進むわけがない。
しかし、と祐一は苦笑し、思う。
そもそも万全で事に当たったことがあっただろうか、と。
ならば何を思う必要があるだろうか。要はいつも通りなのだ
「艦長。そろそろモスクワ基地の防空圏に入ります」
「ああ」
祐一は立ち上がり、手を大きく振り下げる。
「カンナヅキ突撃。作戦通りにMSを展開しろ!」
「了解。MS部隊第一派、出撃してください!」
ブリッジからの通信によって待機していたMS部隊が動き出す。
祐一の言う作戦とは、MS部隊を二派にわけて出撃させるということだ。
戦場は敵の基地の中。いわば敵のテリトリーの中なのだ。なにがあるかわからない。
そこで対処できないような状況を作らないためにもMSを艦の中に残しておくという寸法なのだ。
そしてその第一派に組み込まれたのは半数の三十名。その中には留美と風子、そしてコウの名があった。
「・・・っていうか、私まだこの機体の試行運転すらしてないんだけど」
そんな中、金色のMSのコクピットで文句を並べている少女がいる。
『気にするな。お前ならすぐに乗りこなせるだろ、七瀬?』
「そういう問題じゃないのよ。機体が違えば多少の差異はあるの。私は折原ほどMSの操作は上手くなかったんだから」
『まぁ、いいじゃないか。量産型とはいえ百式改って言ったらカラバの高級機だぞ?』
「そりゃ、そうなんだけどね・・・」
やれやれ、と呟くのは七瀬留美。乗っているMSは浩平の言う通りカラバから借り受けた量産型百式改だ。
アムロになにか貸してもらえる機体はないか、と訊ねたところ『蒼き死神』の留美ならば、とかいうことですんなりとこの機体が送られてきたのだ。
確かにいい機体だ。スペックで言えばジムVやネモVなんかより遥かに高い。
今度もしこういう機会があったなら、もう少し余裕を持って借りようと留美は決めた。・・・まぁ、できることならそんな機会がない方が良いわけだが。
『こちら風子です。発進準備完了しました』
『こちらコウ=ウラキ。こっちも発進準備完了した。いつでも出れるぞ』
留美の下に他の二人のエースから通信が入る。
実は今回留美は風子、コウとあと数名の兵を従えた小隊長に抜擢されていた。
留美の小隊レベルでの指揮能力は定評があり、アムロと祐一の決定でこういう形をとったのだ。
留美本人はあまり乗り気ではなかったが、やると決まればしっかりこなすだろう。浩平もそれはわかっていた。
「オーケー。それじゃいくわよ。各機、発進後は距離を一定に保ちなさい。そのまま敵の中央を打ち抜いてカンナヅキの進路を確保する。いいわね?」
『『了解』』
切れた通信を一瞥し、留美は一つだけ残った通信モニター、浩平を見やる。
「それじゃ、行って来るわ」
『ああ。頑張ってこい』
通信は閉じられ、留美は視線を前に向ける。
次々と機体がカタパルトに接続され、
「七瀬隊、七瀬留美。量産型百式改、出るわよ!」
「七瀬隊、伊吹風子。ZガンダムプラスC型改、行きます!」
「七瀬隊、コウ=ウラキ。百式改、行きます!」
発進される。
そして遂にカンナヅキのモスクワ基地攻略戦が始まった。
カンナヅキから発進されたMS三二。対してモスクワ基地から迎撃に出た機体はわずかに十五。しかも中には負傷したままの形で出ているものもある。
そして基地のトーチカや砲台からの攻撃もない。
どうやらカラバの基地強襲の痛手は直っていないと見える。
祐一は艦橋でその状況のまましばらく様子を見ていたが、さらにMSが増えたり砲台が出てきたりということもなさそうだった。
MS戦も留美の小隊を先頭に一気に押している。戦闘が開始されてわずか数分ですでに敵のラインはガタガタになり始め、後退を始めている。
おそらく基地内にも守備用のMSはいるだろうが、前回前々回の傷跡は大きいようだ。
ならばこのチャンスを使わない手はない。
「カンナヅキ突入!一気に畳み掛けるぞ!」
その言葉に、カンナヅキのエンジンが強く点火した。
そんなカンナヅキを眺めている者たちがいる。
「敵艦、あと少しでポイントに到達します」
「よし。この作戦はタイミングが勝負だ。厳にな」
住井護とその部下たちだ。
「はっ、住井副隊長」
「だから副隊長はよせ」
「あっ、は!すみません!」
MSにも乗らないで護たちはある基地内の施設の屋上でカンナヅキを監視していた。
・・・作戦は順調だ。
計るのはタイミング。護は静かにそれを待った。
「さて、・・・俺たちからの盛大な歓迎パーティーだ。まぁ・・・」
カンナヅキがある一線を越える。それを確認し、
「強制参加だがな」
護は片手を上げた。それは地獄の歓迎パーティー幕開けの合図だった。
留美たちの猛攻の前に敵MS部隊は徐々に後退して行き、すでに基地の中央付近にまでカンナヅキはやって来ていた。
基地内に入って敵部隊は多少増えたが、それにしても留美たちの方が傍目にも押し込んでいた。
「・・・妙だ」
優勢を維持したまま基地内に潜入したにも関わらず、祐一の表情は晴れなかった。
上手く行き過ぎている。こうもトントン拍子に事が進むものだろうか?
あの舞と風子を相手にして互角以上に戦っていたあの白いMSもまだ見えない。
これより先で待ち構えている、というのも考えられるには考えられるが、それにしても引っかかるものがあった。
・・・もしかして、これは罠か?
そんな思考を巡らせていると、突如けたたましくアラート音が鳴り響いた。
「どうした!」
「三時、十時の方向に敵機!距離―――九十!?」
「馬鹿な!」
近すぎる。そこまで接近されて気付くなと言うほうが難しい。さらに、
「さらに一時、四時、六時、七時―――全方位に敵機確認!囲まれました!」
全方位に突然出現した敵部隊。熱源レーダーも反応しなかった。ことそこまで思考が至ったとき、―――祐一は全てを理解した。
「くそ、はめられた!」
「か、艦長?」
「第二派のMSを全部出せ!出し惜しみするな、敵はこの攻撃に全力を注ぎこんでくるぞ!」
何が起こったのかまるでわからない様子だが、それでも祐一の指示をこなしていくクルーたち。そのうちの一人、川口が顔は向けずに声だけで祐一に尋ねる。
「あの、どういうことなんですか艦長、これ」
「はめられたんだよ、俺たちは。むかつくくらい精巧な二重トラップにな」
「二重トラップ・・・?」
「いいか、俺たちにはここの部隊の残存兵力が少ないという情報がある。そして基地がカラバの攻撃で打撃を受けているということも。そうだな?」
「は、はい」
「その心理を上手く突かれたんだ。まず、敵はわざと少ない勢力で俺たちを出迎える。あたかも自分たちは一杯一杯ですというアピールをして俺たちを基地内に誘い込むために。さっきの情報が頭にこびり付いてる俺たちはそれを疑問に思わない。
そして誘い込まれた基地の中にはまだ修繕されていない施設とMSの残骸が並んでいる。これも不思議に思わない。こっちには敵が俺たちの攻撃にこれだけの戦力しか向けられないという実感と、基地が破壊されているという情報があるからだ。
・・・だが、敵はその情報を利用した。
その残骸はあくまでフェイク。基地の破損もわざとそのまま残したんだろう。そう俺たちに思い込ませるために。そして俺たちは残骸であるはずのMSを乗り越えてこのポイントまでのこのこと引っ張られてきたんだ。・・・その残骸が本物のMSであることに気付かずに」
「ほ、本物?そんな、だって熱源には―――」
「それは思い込みだぞ、川口。起動していないMSがレーダーに引っかかるか?」
「で、でも完全に起動してなければ防御も出来ないんですよ?そんな、間違って撃たれたりしたら・・・」
「それもフェイクなんだよ。言ったろ、こいつらはこれで終わらせる気なんだ。常識的に考えてそれで俺たちを包囲したとしてもそのまま戦闘を続ければ基地を大々的に破壊してしまう。でも、それでもいいんだよ。なぜならこいつらはこの戦闘でこの基地を放棄する気だからだ。
情報と常識。この二つの心理を利用し、そしてこいつらは少ない戦力でも確実に俺たちを討てる布陣を形成したんだ」
唖然とする川口とその他のクルーたち。
作戦を立てたほうも立てたほうだが、その作戦を一瞬で看破した祐一にも驚きを隠せなかったからだ。
その祐一は悔しそうに歯噛みして、
「相手を囲むのは難しい。だが、相手がその中央に勝手に来てくれるならその例にはならない・・・か。そして俺たちはMSを全方位に向けなくてはいけない分戦力的に薄くなり艦も撃ちやすい、と。・・・向こうにはよっぽどの策士がいるな」
だがすぐに笑みを浮かべる。
「だが、気付いているか?この作戦には大きな穴があることを」
MSデッキは祐一の号令で第二派の出撃準備が始められ、人が忙しなく動き回っている。
その中、舞は自分の愛機であるガンダムアークレイルに搭乗し計器のチェックをしていた。
『こちらアムロだ。みんな出撃準備はできたか?』
『こちら天沢郁未。準備整いました』
『春原芽衣です。こちらもいつでも出撃できますよ』
『月宮あゆ。こっちもいけるよ』
舞は郁未とあゆ、そして復帰した芽衣とともにアムロの指揮下に組み込まれている。
この面子。第二派の最強部隊と言えるだろう。
・・・チェックを終え、グリップを握る舞。
そんな中、思うことは唯一つ。
おいしい紅茶を淹れてくれた、あの人物のことだ。
どうすれば戦争は終わるのか。
その問いに対する答えはいまだ見えない。
・・・ここでいま戦うことが正しいのかも、わからない。
だけど、ここでなにもしないのは間違いだとも思う。
ならば、いまは動こう。そして模索していけば良い。・・・その、答えを。
「・・・川澄舞。いつでも行ける」
通信端末の向こうでアムロは一度頷くと、
『レイ隊、出るぞ!』
五機の猛者は一気に戦場へと飛び立った。
舞のアークレイル、郁未のZU、あゆのキュベレイMkU、芽衣のGDキャノンを従えて降り立ったアムロのZガンダムプラスA型。そこに祐一の通信が届く。
『カンナヅキは周囲を取り囲まれてる』
「わかってる。こちらも戦力を分散させて敵を艦に近付かせないようにしよう」
『いや、それは止めた方が良い。それじゃ敵の思う壺だ』
思わぬ静止に、アムロは怪訝な表情をする。
「ならどうする?現状でそれ以外の打開策はあるのか?」
『ある。というよりそれ以外にこの状況をひっくり返す策はない』
言い切った。そんな祐一にアムロは驚きと共に興味を抱いた。
「・・・それで、その策とは?」
『一点突破だ』
「なっ!?」
だが、祐一の口から放たれたそれはアムロの考える策の中で最もやってはいけないことだ。
・・・期待はずれか。そう思いアムロは息を吐く。
「それは失策だろう。それじゃ逆に良いようにやられるだけだ」
『いや、一見そう見えるかもしれないがそれはない。なぜなら周囲を取り囲むと言う作戦はそのまま敵の総数が少ないことを意味しているからだ』
「・・・どういうことだ」
『この奇襲作戦。いくら残骸というカモフラージュをしたとはいえ、数が多ければさすがに疑問を抱きかねない。それに、遥か昔から敵の周囲を取り囲んでの攻撃は自軍の兵の数が少ないときにこそ有効な手だと言われている兵法だ。それだけで敵の底は見えてる。となれば、ここは思惑通りに兵力を割いて周囲で交戦するよりも、一点突破して包囲から抜け出してすぐに反転、一線に並んだ敵を一気に叩いた方が効率も良いしこちらの兵力を存分に使うことが出来る』
アムロは絶句した。
頭の回転が速いとは思っていた。だが、この戦場という狭くそして急激な状況の中でこれだけの思考を瞬時に形成するまでとは。
・・・もしかしたらブライトよりも艦長然としているかもな。
おのずとアムロの顔には小さな笑みが浮かんでいた。
「・・・一点突破の方向は?」
『カンナヅキ正面。その方が動きやすい』
「了解した」
閉じた通信端末を眺め、思う。もしもこの先なにかがあって連邦とカラバが再び対立したら、こんな奴らと戦わなくてはいけなくなるのか、と。
・・・そういう状況にならないことを祈るだけだな。
余計な思考はその一瞬のみ。
アムロはすぐさま作戦を郁未や舞たちに告げると、カンナヅキ正面へと機体を滑らせた。
「カンナヅキ、一点突破してきます!」
「なるほどな。どうやら向こうにも頭の回る奴がいるみたいだが・・・」
フッ、と護は小さく笑みを浮かべ、そのまま反転する。
「住井副隊長、どちらへ!?」
「俺もザクVで出るんだよ」
そして走り出し、
「まだまだこれからだぜ。カンナヅキ」
どことなく楽しそうに呟いた。
七瀬隊とレイ隊の部隊に攻められた正面部隊はすぐさま撃破され、包囲網に穴が開いた。
もともと周囲を取り囲む方法は少数でも敵と対等に戦える布陣ではあるが、その分一箇所の層は薄い。祐一はそこを突いて一点を突破、包囲網を突き崩したのだった。
あとは反転して後方に寄って来た他のMSを叩けば良い―――はずだった。
「なっ!?」
「どうした!」
「し、進路上にさらに敵影!数、およそ五十!」
「っ!?」
そこにはガザやズサと・・・シュツルム・ディアスやザクV、そしてあの白い機体・・・レヴェレイションまでもがいた。
どうやらこの行動までも読まれていたらしい。
「三重トラップか・・・!やってくれる!」
・・・相手は一筋縄ではいかないようだ。
新たに前方を塞がれたので、前後を挟まれてしまった。
さっきとは違い層が厚い。横は開いているが、この状況で横を向けば良いように撃たれるだけだろう。
ならばこのまま突っ切るしかない。
そう判断し、祐一は高らかに告げた。
「前方の敵を排除する!このまま前進!」
いきなり前方に出現した部隊に、統制が崩れるカンナヅキのMS部隊。
そこに再び集まる時間など、与えるはずもない。
「さぁ、これで詰みだ!カンナヅキ!」
部隊を率いて掌握に掛かる護。だが―――、
バシュウン!
突如上空から降ってきた二条のビームによって護たちの前を走るズサが貫かれた。
「なんだ!?」
「上よ、護!」
「なっ!?」
遥か上空。そこには日の光を遮って飛ぶ一機のMAの姿があった。
・・・いや、それはこちらに降下してくると同時に変形しそのフォルムをMSへと変化させていく。そしてそれは、
「ガンダム、だと!?」
「えぇい!」
落ちてくるはビームサーベルの軌跡。聞こえてくる少女の声と共に、それは護の傍にいた機体を切り裂いた。
「なんだ、援軍・・・なのか?」
突如現れた謎のガンダムはそのままネオジオンを攻撃している。なら考えられるのは・・・、
『こちらキサラギ隊です!これよりキサラギ隊はカンナヅキ援護に入ります!』
突如届いた通信。ミノフスキー粒子のせいか、映像は乱れているが音声だけはしっかりと聞こえる。
その台詞の中にあったキサラギとは、一ノ瀬ことみが艦長を勤めるというあのキサラギだろうか?
・・・いや、それよりも気になることがある。この声だ。
心当たりがある声だ。だが、その声をこんなところで聞くことは・・・ないはずだ。
しかし確認はしなくてはいけない。祐一は恐る恐る、といった風にその心当たりの名を口にする。
「もしかして・・・お前、栞・・・か?」
『え、この声・・・。祐一さんですか!?』
この反応。
どうやら声の主は祐一の学生時代の後輩、美坂栞で間違いないらしい。
「お前がどうして連邦に!?」
『ええと、いろいろありまして・・・、って、いまはそれよりこの敵を片付けるのが先ですよ、祐一さん!』
それもそうだ。こんな状況でゆっくりと久しぶりの再会の語らいをしているわけにもいかない。
そしてその思考とほぼ同時、川口の声が祐一の鼓膜を振るわせた。
「三時の方向に艦影確認!識別信号、友軍です!」
さらに新しい通信端末がモニターに開く。
そこに映っていたのは祐一には見たことのない、どことなく幼さを残した少女。
だが、直感というやつだろうか。栞からキサラギという名前を聞いたからだろうか。
祐一にはすぐにその少女が誰なのか理解できた。
『こちら、カンナヅキ級三番艦キサラギ艦長・・・一ノ瀬ことみです』
―――こうしてここに、二人の天才指揮官は邂逅を迎えた。
あとがき
どうも神無月です。
やっとこ合流しました。
次回からはキサラギもこちらでやっていくことになります。
さぁ、次回は二つの艦が合流して最初の話です。決着、VS智代。
では、お楽しみに〜。