プロローグ
時はU.C.0088年。
ハマーン率いるネオジオンに地球連邦が押され始めた頃。
ジュドーたちアーガマ隊がマシュマーに執拗に攻められているその頃。
サイド6で始まったひとつの戦い。
それぞれの道。
それぞれの正義の中で・・・。
『ガンダム』の名と共に・・・。
戦いが始まる。
Episode T
【出会いは激突の狭間で】
連邦軍は見た目に衰退していた。
ティターンズの上層部がほぼ壊滅状態になってからというもの、残った保守派の面々が軍の権限を再び地球連邦軍に戻すことにより、多少は人民の信頼を取り戻してはいた。カラバなどの支援もそれに一役買ったのだろう。
だが、すべてが元に戻るわけもなく。ティターンズ時代に圧制に苦しんだ国やスペースコロニーは次々に連邦から離反、悪いところでは小規模な戦闘も起こっていた。
そしてハマーン率いるネオジオンの行動の活発化がさらに連邦を佳境に立たせる。
連邦には力が必要だった。
士官学校の早期卒業、そして早期昇格。新たなMS(モビルスーツ)や戦艦の製造。
そんな中で作られた、地球連邦軍、試作型新造機動戦艦『カンナヅキ』。
アルビオン系統の流れを組み、島国である日本で作られた艦である。
月のアナハイム・エレクトロニクスからの技術支援を受け、つい先日完成したこの試作艦は対ネオジオンの前線に投入する最終調整のためにサイド6コロニー群へ向かっていた。
そして、そのカンナヅキの中に彼、相沢祐一はいた。
士官学校卒業後、目覚しい成績で出世していき階級は大尉、今回のカンナヅキ初航行の補佐官として乗るまでに至っている。
祐一は感無量だった。
カンナヅキ航行の任務に着任したこともあるが、それよりもこの戦艦が向かっているコロニー、サイド6―――通称リーアの第4バンチは実は祐一の育った故郷なのだ。
懐かしい、と祐一は思う。あそこには数多き友人たちがいた。今はそれぞれの人生を送っているはずだが、もしかしたらあのコロニーにまだ残っている奴がいるかもしれない。
久しぶりに会えるかもしれない友人たちの姿に淡い期待を心に抱きながら、祐一はカンナヅキのデッキから宇宙に浮かぶサイド16コロニーを眺めた。
カンナヅキは現在製作されているラー・カイラムと同等のスペックを持つといわれている。が、最終調整の終了していない今の状態ではそれと比べて50%ほどにしか満たないらしい。
まぁ、カンナヅキが向かっているサイド6の4バンチコロニーは中立コロニー(表面上ではあるが)なのでネオジオンが襲ってくる確率は極めて低いのだが、万が一ということもある。
そのため、カンナヅキの護衛のために、ペガサス級戦艦ペガサスVが一隻配備されていた。
しかし、それはほとんど表面上のものに等しい。なぜなら、護衛という名の割にペガサスVにはMSが六機しか乗っていない。・・・というか、それ以前の問題で、パイロットが訓練兵も含めて五人しかいないのだ。
上層部の人間は事を少し甘く見すぎていると思う。
少女はため息を吐いた。
彼女の名前は水瀬名雪。このペガサスVで二人いる熟練兵の一人である。階級は中尉。
名雪は、護衛目的であるカンナヅキに乗っている祐一の幼馴染でもある。そんな背景もあることから、今回の作戦は無事成功させたいし、させてあげたいと思う気持ちが強いのだ。だが・・・。
名雪は再びため息を吐いた。
こんな部隊では本当にネオジオンに攻められたときに、とても太刀打ちできないだろう。
名雪は祈った。
ネオジオンが攻めてこないように、と・・・。
ネオジオンは今活気付いていた。
エゥーゴとティターンズの共倒れのような疲弊に加え、連邦の傘下から離反するスペースコロニーからの支援。全ての事柄はネオジオンを中心に動いていた。
だが、ネオジオンはまるで手を緩めない。エゥーゴにはマシュマーが、そして連邦には・・・。
ネオジオン第十三艦隊は、とあるコロニーへ向かって進んでいた。
グワンバン級戦艦グワンランを先頭に五隻の編隊だ。
「そろそろ着きます。準備をして下さい」
グワンラン艦長、水瀬秋子は艦内通信で呼びかけた。
「佐祐理さん、美汐さん。あなたたちが今回の作戦の鍵です。くれぐれも慎重に行動してくださいね」
「あはは〜、了解です」
「・・・了解しました」
佐祐理と美汐と呼ばれた少女たちがそれぞれ返信してきた。次に、秋子はMSデッキのほうに通信をつなげた。
「そちらも準備はよろしいですか? 霧島大佐」
「いつでもOKだ。この程度の作戦、どうということも事ない」
「遠野少尉も大丈夫ですか?」
「・・・へっちゃらへー、です」
MSも準備は整った。あとは攻めるだけ。
「MS発進準備、そのままで待機していてください。・・・では、行きましょうか」
秋子は片手を挙げて、針路を告げた。
「船首回頭二時。目標・・・、サイド6の4バンチコロニーです」
サイド6。4バンチコロニー。
地球連邦にもネオジオンにも属さない中立コロニーである。
・・・のはずなのだが。
ここ最近は、よく連邦製のMSを見かけるようになった。といっても別に街中をごろごろ歩いているわけではない。あくまで極秘裏に、だ。それに、今日も連邦製の新型MS、新型戦艦が来るらしい。最終調整、といったか。
ここ4番バンチはネオジオンに占領されていないコロニーの中では最もアクシズに近いから、軍事的にも使いやすいのだろう。
そんなことを彼女、川澄舞は考えていた。
なぜ彼女がそんなことを知っているのか?それは、彼女がこのコロニーで唯一の整備工場で働いているからだ。
ゆえに、舞は連邦のMSをよく見かけるのだ。
・・・と、にわかに整備工場が騒がしくなってきた。
「・・・どうしたの?」
近くにいた同僚に尋ねてみる。
「どうしたって、あの連邦の新型MSが来たんだけどよ、その正体があれだぜ!?」
そういって指差したその先にあったものは・・・。
「・・・ガンダム」
そう。一年戦争や、さきのティターンズとエゥーゴの戦いのときにも最前線で活躍した、あのガンダムと同系統のMSがそこにはあった。しかも三機。
・・・まさかここまでとは。このコロニーのお偉いさんは、よほど地球連邦に肩入れしているようだ。
だが、ここまでしていることをネオジオンに知られたら、このコロニーから中立権が剥奪されるのは火を見るより明らかだった。そんなことになっては、ここも戦争に巻き込まれることになる。
「・・・・・・」
舞は憤りを感じていた。
上の人間と、・・・そして何もできない自分に対して。
所詮、自分はただの整備員。どうこう言ったところでなにが変わるわけでもない。
「おい川澄、これの整備をするから手伝え!」
仕方ないのか。・・・仕方ないのだろう。
舞はゆっくりと歩き出した。ガンダムに向かって。
・・・と、
「・・・?」
ふと、人の気配を感じた。それはどこか懐かしみのある・・・大切なあの人のような。
・・・いや、きっと気のせいだろう。彼女がこんなところにいるわけがない。舞は首を振りながら、整備の準備を始めた。
カンナヅキは無事に4バンチに着艦することができた。ドックが狭いため、ペガサスVはコロニーの外で待機している。
「いいなぁ、祐一」
4バンチコロニーを艦の中から眺めながら、名雪は呟いていた。
祐一にとって故郷であるように、名雪にとってもこのコロニーは故郷なのだ。できることなら祐一と一緒に中を見て回りたかったのだが・・・。護衛任務なのだからしょうがないか。
「・・・なんて思えないよ〜」
やはり、名雪だって軍人である前に少女。そこは、好きな人と一緒にいたいと思うのは当たり前のことだろう。
ビービー。
「んにゅ?」
『水瀬中尉、七瀬中尉。ブリッジまで来てください。水瀬中尉、七瀬中尉・・・』
「艦内放送で呼び出しなんて・・・、何かあったのかな?」
不平不満を心の中にしまいこんで、とりあえず名雪はブリッジへ向かった。
「あ、名雪」
ブリッジへ向かう途中の廊下で、名雪の耳に聞き知った声が届いてきた。
「あ、留美」
廊下の向こうから現れた女性は七瀬留美。このペガサスVに乗っている数少ない熟練兵の一人である。階級は名雪と同じ中尉。
「名雪も呼ばれてたわね。なにがあったの?」
「わたしもわからないよ」
「あ、そうなの。てっきり私が寝過ごした間に何かあったのかと思ったわ」
「・・・また寝てたの、留美?」
「ちょっと待って。その言い方は私がいつもいつも寝ているように聞こえるんだけど」
「留美、よく寝てるよ」
「あのね、それはここ最近の話でしょ。することが無くて暇なのよ。それに、寝ることに関しては名雪に言われたくはないわね」
「寝ることだってパイロットには仕事だよ」
「名雪は限度を軽く超えてると思うけど」
そうかもしれないね、と名雪は笑った。
七瀬留美は名雪にとって特別な存在だった。士官学校を卒業し、正式に連邦に入団してからできた初めての友人だ。それからというもの、いくら配属先が変えられることになろうと名雪と留美は一度も離れたことがない。
名雪は留美のことを親友だと思ってるし、留美もそう思ってくれているだろう。
「なに、そんなニコニコした顔して」
留美は怪訝そうな顔で名雪を見る。そんなに顔に出ていただろうか。
「ううん、なんでもないよ」
留美の顔には?マークが浮かんでいるが、ふーんとうなずくとそれ以上聞いてくることはなかった。
そんなこんなで気づいてみるとブリッジの扉は目の前だった。
「水瀬中尉、入ります」
「同じく七瀬中尉、入ります」
「うむ。入ってくれ」
自動ドアが開く。見渡すブリッジの中はかなり広い。名雪たちは艦長のところまで歩いくと、用件を尋ねた。
「何かあったのですか?」
「うむ。まぁ、勘違いだとは思うのだが、さっき、艦のレーダーに正体不明の何かが映ったのだ。・・・一瞬だけだが」
「一瞬・・・ですか?」
妙な話だ。艦やMSならそんなことはありえない・・・はずだ。それとも、何かの新兵器だろうか。・・・どちらにしろ、良い話ではない。
「そこで、水瀬中尉にはMSで待機していてほしいのだ」
「待機・・・? 出撃ではないのですか?」
確認のため、というのなら出撃のほうがいいはずなのだが・・・。
「さっきも言ったが、レーダーの捕捉ミスということもある。もし、水瀬中尉が出払っているときに敵に襲われたらどうする?訓練兵だけでは話にならんだろう」
なるほど。そういうことか。
「次に何かを捕捉したときにすぐ出撃できるように、そのためのMS待機だ」
「了解しました。水瀬中尉、MSにて待機しています」
「私は?」
挙手して留美。
「七瀬中尉のMSはまだ最終調整が終わっておらん。よって、七瀬中尉はこのまま艦内待機とする」
「まだ終わらないんですか?」
「仕方なかろう。七瀬中尉の機体は何年も昔に廃棄になった機体のリメイク版なのだから、パーツも少ないのだ。それを承知の上であの機体を選んだのではなかったのか?」
「それは、そうですけど・・・」
「なら今回はおとなしくしていることだ」
留美は不承不承といった感じに、了解しましたと敬礼をした。名雪も敬礼をして、二人はブリッジを後にした。
「・・・勘違いであってほしいなぁ」
MSデッキに向かいながら、名雪は何もないことを願った。
ネオジオンの二人は無事コロニーに潜入、着実に準備をこなしていった。
次で締めだ。
「美汐さん、あれで間違いないですよね?」
「・・・データ照合、間違いありません。ですが、報告より一機多いですね」
「ふぇ〜、どうしましょう?佐祐理たち、二人しかいませんよ」
「仕方ありませんね。あの三機のうちのどれか二機を奪取した後、残りの一機を破壊しましょう」
「もったいないですけど・・・、仕様がないですね」
「では、設置した爆弾を・・・」
「そうですね。このコロニーの人たちには悪いですけど・・・。元はと言えば極秘裏に中立コロニーで新型MSと新造戦艦の整備をさせた地球連邦とコロニーの上層部の人間が悪いんですから。恨むのなら、その人たちを恨んでくださいね」
・・・ポチ。
カンナヅキが無事ドックに着艦してからおよそ二時間。
祐一はとりあえずの仕事を終え、休憩がてらコロニーに下りることを艦長に許可してもらった。
艦長の話によれば、最終調整には四,五時間かかるらしい。その後、連邦の新型MSを搬入しなければいけないのでさらに一時間程度。合計で六時間ほどになる。
残りの仕事時間を差し引けば二時間はコロニーを見て回れるだろう。できることならペガサスVに乗っている名雪と一緒に行きたかったが、護衛任務では仕方ない。
「おまえの分も見てきてやろう、名雪」
なんて呟いた・・・その時だった。
ドォォォォォン!
ドック内に響く爆音が祐一の鼓膜を襲った。
「く・・・! な、なんだ!?」
そんな祐一の言葉をさえぎるように、さらに立て続けに炎が破裂する。それに導かれるように聞こえてくる悲鳴、悲鳴。
これは完璧に人為的な爆発だ。おそらく、爆弾の類だろう。とすれば・・・。
「ネオジオンか!くそ、ここは中立のコロニーだぞ!」
ドォォォォォン!!
「!?」
―――目の前で爆発!・・・駄目だ、かわせない!
祐一はそのまま爆風に巻き込まれた。
コロニーの外で待機していたペガサスVは混乱に飲み込まれていた。
「何が起こったの!」
名雪はMSデッキからブリッジに通信で状況を聞いた。
『4バンチコロニーで正体不明の爆発を多数確認! 現在も続いている模様!』
オペレーターからの悲鳴染みた返信。状況はかなり悪いようだ。
「爆発!?」
『被害拡大、カンナヅキからの応答ありません!』
「!!」
カンナヅキからの応答がない!?
―――祐一!
名雪は動くが先か、通信を艦長に切り替えた。
「艦長、出撃許可を! コロニーの様子を見てきます」
『・・・うむ、分かった。出撃を許可・・・』
『か、艦隊接近! 八時の方向よりネオジオンの艦隊接近中!!』
「『!!』」
ブリッジにオペレーターの声が響く。
『水瀬中尉、状況が変わった。出撃は許可する。だが、目的はコロニーではなく、ネオジオン艦隊の足止めだ』
「そんな・・・、艦長!」
『艦長命令だ。ネオジオンのMSがコロニーに侵入してしまってはそれこそ収拾が付かん・・・いけるな?』
「・・・了解しました」
艦長の言うことはもっともだ。コロニーが爆発していることに変わりが無い以上、その原因追求よりも、近くまで来ているネオジオンを止めるほうが効率はいい。
名雪は焦る気持ちを必死に抑え、MS、ジム・ストライクに搭乗した。
ジム・ストライクはジムVを名雪用に改修したもので、基本性能が底上げされている。ジムVと大きく違うところは、肩のミサイルポッドを外し腰部分にグレネードランチャーを装備していることと、ビームサーベルを二本所持しているところだ。スラスターの推力も通常のジムVの二倍近い。
コクピットを閉じた。システム起動、モニターが映し出される。
グォォォォォン・・・
MSデッキのハッチが開く。その間にジム・ストライクはカタパルトまで移動、接続。射出ランプが赤から・・・青へ!
「水瀬名雪、ジム・ストライク、行きます!」
カタパルトの擦れる音とともに、名雪の駆るジム・ストライクは広大な宇宙に発射された。
目指すは目の前まで接近してきたネオジオン艦隊。その艦隊から多数のMSが発進してきた。
(この数を相手にするなんて・・・、厳しいよ)
戦艦五隻。MSが数十機。とても一人で相手にできる数ではない。訓練兵の乗るジムVが名雪に続いて三機出撃されたが、果たしてあれでどれだけのことができるのか。留美のMSはまだ調整中らしいから出てこれないだろうし。
―――訓練兵じゃお話にならないよね。きっと。
と、愚痴っていても仕方が無い。一人でこの大多数を相手にどれだけできるが分からないが・・・。
「やるしかないよね。ふぁいと、だよ」
名雪はストライクのバーニアを噴射させた。
「・・・くる」
遠野美凪は感覚として敵が来るのが分かる。
そう、俗に言うニュータイプである。
「聖さん、敵が来ます。その相手は私がやりますから、聖さんはペガサスVをやっちゃってください」
「フッ、了解だ。二分で沈めてやろう」
霧島聖はそう返信して美凪機から離れた。
「・・・二分」
『黒い天使』の異名を持つ聖なら、本当に二分で墜としてくるだろう。
しかも、聖が乗っているMSは新型MS『ギラ・ドーガ』だ。凡庸機として開発、大量生産される予定のMSであるが、凡庸といってもその基本スペックはガザDやバウ、ドライセンとは比較にならないほど高性能だ。今回の作戦が初の実戦投入ではあるが・・・。
聖のギラ・ドーガに続いてガザDが何機かついて行った。残ったのは美凪の乗るバウMkUとガザCが数機。
そこでようやくレーダーに敵MSが映し出された。
「・・・ジム?」
・・・いや、若干違う。新型、というわけではなさそうだから、多分乗っているパイロット用にチェーンされた機体なのだろう。
とすれば、相手のパイロットの力量はかなりのものといっても過言ではないはずだ。
「少し・・・、手強いかも知れませんね」
美凪はペダルを思いっきり踏み込んだ。
バウMkUがジムに向かって突撃する。
バウMkUが、ジム・ストライクがビームサーベルを抜き放った。
激突する両機、はじけ飛ぶビームの火花。
「コロニーには行かせないよ、祐一がいるんだから!」
「オールドタイプでは・・・、ニュータイプには勝てませんよ」
名雪と美凪の声が宇宙でぶつかり合う。
地獄絵図を見ているようだった。
逃げ惑う人々、爆発に巻き込まれて朽ち果てた死体。
・・・冷静に考えて、これはネオジオンの仕業だと考えるのが普通だろう。
そんな中、舞は一人整備工場にいた。
なぜ逃げなかったのか。それは自分でも良く分からなかった。ただ、なぜかここから離れてはいけない気がしたのだ。
強いては、ガンダムから離れてはいけない気がした。
「・・・ん?」
いま、ガンダムの近くを誰かが・・・横切ったような。おかしい。整備の人間は自分以外全員逃げたはずだ。
とすると、ネオジオンの兵士かもしれない。舞はとっさにコンテナに身を隠して、ゆっくりとその人影のほうを見やった。
「!」
見えたその人影に、舞は驚愕した。
その人物がネオジオンの兵士だったというのもある。だが、それよりも・・・。その人物が・・・。
「佐祐理・・・!?」
倉田佐祐理。
間違えるわけが無い。それは、間違いなく佐祐理だった。
昔、まだ自分たちが高校に言っていた頃の親友。自分と、佐祐理と、祐一の三人でよく遊んだものだ。
そんな佐祐理がなぜネオジオンの制服を着てここにいるのか。
と、佐祐理はもう一人いる仲間と思しき人物と一緒にガンダムに近づいて行き、コクピットを開いた。
まさか・・・、ガンダムを奪う気なのか!?
舞は物陰から飛び出すと思いっきり叫んだ。
「佐祐理!!」
今まさにコクピットに乗ろうとしていた少女が舞のほうを向いて・・・、そしてその顔が驚きの色に変わった。
「・・・ま、舞!?」
佐祐理の動きが止まった。舞はその隙を見逃さず、すかさずダッシュ、佐祐理のほうへ走った。
「佐祐理さん! 何をしているのですか、早く!」
異常に気づいたもう一人の兵士が佐祐理を急かした。我に帰った佐祐理はすぐさまコクピットに乗る。
・・・間に合わないか!
舞が佐祐理の乗ったガンダムに手を掛ける・・・、すんでのところでガンダムが起動、ブースターの風圧が舞を遮った。
「佐祐理ー!」
舞の叫びも虚しく二機のガンダムは飛び立ってしまった。
・・・いや、待て。二機?
舞は辺りを確認した。・・・あった、ガンダムがもう一機残っているではないか。これで追いかければまだ間に合うかもしれない。
舞はそのガンダムに駆け寄ると即座にコクピットに乗り込んで、システムを起動した。すると、モニターに『No,0―――ARKRALE』という文字が浮かび上がった。
運がいい、と舞は思った。
さっき見た資料が確かなら、このガンダムが三機の中で一番機動力があったはずだ。
名をガンダムアークレイル。
対MS戦を前提に開発されたMSで、近距離戦闘を想定したつくりになっている。
遠距離武器は、ビームライフルはおろか頭部バルカンすら付いてなく、武装はハンドビームカッター、ビーム型ブーメランがそれぞれ二本、投擲用のヒートダガーが八本、あとはビームサーベルと背中に挿してある超大型大出力ビームブレード。大機動用補助ブースターをボディのいたるところに取り付けたことで実現した爆発的な機動力で瞬時に相手の懐に入り込み、それらの武器を使って切り裂く、正に正真正銘の近距離攻撃型だ。
舞はグリップを握った。MSの操縦はしたことがあるが、戦闘用MSは初めてなのだ。
―――佐祐理・・・!
ペダルを踏み込んだ。ガンダムの上体が浮き出す。
「く・・・!」
舞の体にとてつもない重力反動がかかる。想像以上の機動力だ。舞はそれでも何とか踏ん張って、さらにペダルを踏んだ。
目指すは、佐祐理の乗っていったNo,2、ガンダムグリューエルだ。
「佐祐理さん、後方からこちらを追って来る機体を確認。残り一機のガンダムです」
佐祐理は美汐に言われる前からそのことに気づいていた。乗っている人間が舞だということも。
佐祐理も舞もニュータイプなのだから(舞は気付いていない)。
(舞・・・)
佐祐理にとって舞は掛け替えの無い親友だ。それは昔も今も変わらない。
・・・戦いたくない。このままでは戦わなくてはいけなくなる。
ならば。
「美汐さん、先に帰艦してくれませんか?」
「佐祐理さん・・・?」
「佐祐理は少しあの人とお話がしたいんです」
「ですが・・・」
「お願いです。美汐さん」
「・・・了解しました。先に帰艦します」
「ありがとうございます」
美汐の機体が離れていくのを確認した佐祐理は通信回線をオープンで開いた。
「こちら佐祐理です。聞こえますか・・・舞?
「く・・・そったれが・・・!」
毒づいてみる。だが、それで状況が変わってくれるわけも無く、ただひたすら響く爆音に耳を傾けるしかなかった。
「はぁ・・・」
手近にあったコンテナに体を預けて座り込む。すると、今まで麻痺していた傷の痛みが襲ってきた。
「ぐ・・・」
祐一は生きていた。奇跡的、と言ってもいいだろう。
怪我ですんだ・・・と言えば聞こえはいいが、そんな生易しいものでもない。死ぬほどのものでもないが、動くとなるとかなりきつい大きい怪我だ。・・・いや、この出血では早めに止血しないともしかしたら死ぬかもしれない。
「まぁ・・・無理だな」
祐一は諦め気味に笑った。
カンナヅキのクルーはさっきの爆発で大半が死んでしまっているはずだ。ここでの治療は望めない。かと言って、このコロニーの病院に行くにしても、そこに着くまで自分がもたないだろう。仮にそれまでに着けたとして、この騒ぎで病院がちゃんと機能しているかも疑問だが。
つまり、どの道助からないということだ。
・・・思えば短い人生だった。
「・・・の・・・」
せっかく念願の軍人になれたというのに。
「・・・あ・・・〜・・・」
軍人になれたときから死の覚悟はできていた・・・つもりだ。
「・・・あの〜」
だが、いざその時になってみると色々と考えてしまうものだ。
「あのー!」
「・・・ん?」
いつの間にいたのか、祐一の前には一人の少女が立っていた。・・・看護服を着て。
「よかった、やっと反応してくれた・・・。もう死んじゃっているのかと思った」
そう言って少女はにこっと笑った。ひとつにまとめた長いポニーテールがかわいらしく揺れた。
「君は・・・看護婦? なんでこんなところに・・・?」
祐一の疑問はもっともだった。
このコロニー病院はひとつしかないはずだが、その病院はこのドックからかなり離れていたはずだ。普通に考えて、こんなところを歩いているとは思えない。
すると、少女は再びにこっと笑いながら、
「ここに来たほうが良い気がしたから来たんです」
訳の分からないことを言い出した。
「・・・はぁ?」
祐一は思わず聞き返してしまった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、わたしの勘はよく当たるんですよ? こうしてあなたとも会えたし」
「・・・俺?」
「はい。というわけで、わたしが治療しますね。応急手当しかできないけど」
すると少女はどこに持っていたのか救急箱を取り出しなにやらごそごそと探り始めた。
そのまま少しの間うなり声を上げながら救急箱と睨めっこをしていた少女は、何かを思いついたかのように手を打つと顔を上げて尋ねてきた。
「そういえば名前、まだ聞いてなかったですね」
「・・・俺の名前は相沢祐一だ」
「相沢祐一さん・・・。祐一さん、ですか。にはは、いい名前」
「君は?」
「わたしの名前は神尾観鈴。観鈴でいいですよ、祐一さん」
ズドォォォォン・・・
「これで四機目!」
名雪は善戦していた。美凪の相手をしつつ、回りのガザCを次々に墜としていっているのだ。
「ええぃ!」
ストライクのビームライフルがまた別のガザCを直撃、墜とした。
「五機目!」
ジム・ストライクのスピードは通常のジムVを軽く凌駕している。それをこれほどまでに操ることのできる名雪は連邦軍の中でも屈指の腕前だった。
「・・・なかなかのお手前で・・・」
それを静かに傍観していた美凪。
実は彼女、まだ本気を出してはいなかった。ガザCを餌に、名雪の腕を確かめていたのだ。
「そろそろ・・・いいかも・・・」
バウMkUのモノアイが不気味に明滅する。
「ガザC部隊はここから離脱、・・・聖さんのお手伝いに行ってください」
「ですが」
「・・・一人で十分ですから」
「・・・了解しました、遠野少尉」
戦場から離れていくガザC部隊。
逃がすまいとする名雪のストライクの前に美凪はバウMkUでその進路を塞いだ。
「残念。通行止めです」
「あなたを倒さないと駄目みたいだね・・・」
しばし対峙する両方。
バシュウ!
どちらが先だったか、あるいは同時。それぞれのビームライフルが唸った。激突した荷電粒子が霧散する。
ストライクはブースターを全開、超スピードでバウMkUに襲い掛かる。
「赤い彗星に比べれば・・・この程度のスピード、たいした事もありません」
名雪機が繰り出したビームサーベルを難なく回避した美凪は、すれ違いざまにメガ粒子砲を叩き込んだ。
「うわぁっ!」
直撃は免れたものの、右腕を持っていかれ、マニュピレーターもいかれた。ダメージはかなり深刻なものだった。名雪はストライクを立て直そうとするが、その隙を見逃す美凪ではない。
バウMkUのメガ粒子砲が追い討ちを掛ける。
「っ!」
これを、何とかすんでのところで回避。適当に距離をとり、体勢を立て直す。
―――この人、すごく強いよ・・・。
「まだまだ・・・ですよ」
「わっ!」
バウMkUの激しい猛攻に防戦一方の名雪。徐々に距離を詰められていく。
そんな状況を留美は艦内モニターから見ていることしかできなかった。
「くそっ!」
ドカッと手近に会った壁を殴りつける。なにもできない自分の歯がゆさにが、ひどく悔しかった。
『七瀬中尉』
「艦長!?」
突如部屋にこだました声は確かに艦長のものだった。
留美が驚いたのも無理はない。現在この艦は戦闘中なのだ。なのにもかかわらず、このような通信が入ってきたのだから。
「艦長、現在は戦闘中のはずです!こんな通信なんかしていては・・・」
『いや、その必要はない。どの道この艦はもう堕ちる』
「!?」
留美が驚き言葉を失くしているそのときも艦はどこかの爆発によって揺れている。
『そこで、七瀬中尉。君には自分のMSに乗ってコロニーへ降りてもらう』
「どういうことですか!? 私のMSはまだ調整中のはず・・・」
『戦闘にはだせんが、通常航行には問題ないところまでは終わらせてある』
「ですが・・・!」
『これは艦長命令だ。いいか、七瀬中尉。こんなところで君と君のMSを失うわけにはいかんのだ。君にはまだまだやらねばならんことがある』
「艦長・・・」
『いいか、七瀬中尉。できる限りは艦を持たせるつもりではあるがそう時間があるわけじゃない。今すぐMSデッキに向かって出撃してくれ』
「・・・了解しました」
留美は歯をかみ締め、MSデッキへ向かうために走り出し―――しかし立ち止まると、モニターへ振り返り黙って敬礼。そして再び走り出した。
それをモニター越しに見ていた艦長は小さくため息をついた。
「・・・私はそんな敬礼をされるようなことはしていないよ、七瀬中尉。
こんな戦争の時代、死ぬことより生きることのほうがよほど残酷だ。その残酷な人生を我々の分まで背負わせてしまうのだからな・・・」
そして留美がMSに乗り、艦を飛び出した後、ペガサスVは宇宙に散った。
メガ粒子砲が、ビームサーベルがストライクを蝕んでいく。美凪の的確な攻撃に、ストライクはいつ墜とされてもおかしくない状況まで追い込まれていった。
「これで・・・決めます」
バウMkUのビームサーベルが名雪のストライクを両断する―――その寸前。
『戦艦の消滅を確認。これよりコロニーに侵入した二人を援護に向かう。・・・遠野少尉、そんな死に底無いなど放っておけ』
美凪のコクピットに聖から通信が入った。
「・・・了解です。聖さん」
美凪はビームサーベルを仕舞い込んだ。
確かに、この損傷ではろくに動くこともできないだろう。まして、戦艦は堕ちている。補給を受けることもできない。
「命拾い・・・しましたね」
そう言い残し、美凪のバウMkUはコロニーへと向かって行った。
その様子を見ていることしかできなかった名雪。
「・・・ぐす・・・祐一・・・」
惨敗。
全壊と言ってもよいジム・ストライク。そのコクピットで、ただただ名雪は泣いていた。
『こちら佐祐理です。聞こえますか・・・舞?』
通信機から聞こえてきた声。
懐かしい、佐祐理の声。
「佐祐理・・・」
『舞、まだこのコロニーにいたんだね。驚いちゃった」
「・・・祐一が、帰ってくるって言っていたから」
『あはは〜、相変わらず舞は祐一さんのことが大好きなんだね』
「佐祐理・・・うるさい」
昔に戻ったような会話。だけど・・・、どこか遠慮したようなぎこちなさが付きまとっている。
無理も無い。
「・・・なんで佐祐理がネオジオンにいるの?」
舞は核心に迫った。
佐祐理は・・・答えない。
そのまましばし静寂が流れた。舞にそれを急かす気は無い。ちゃんと佐祐理の口から言ってほしいから。
どれほど経ったか、佐祐理はゆっくりと口を開き始めた。
『佐祐理は・・・、倉田佐祐理だから。倉田はジオン=ズム=ダイクンにお世話になっていた身なの。
だから・・・佐祐理は倉田としてジオンを手助けしなくてはいけないの』
「家・・・。佐祐理にとって大事なものだっていうのは分かる。・・・だけど、それで、それだけのために佐祐理や私・・・、祐一が育ったこのコロニーを破壊するの!?」
『・・・佐祐理にとって、家は命よりも守らなければいけないものなの。それに、このコロニーを破壊する気なんてないよ』
「だけど、こんなに人が死んでいる!」
『元はと言えば、中立と言っておきながらこんなMSを置いておくこのコロニーが悪いんだよ!
・・・こんなものが置いてなければ佐祐理だってこんなこと・・・』
「佐祐理・・・」
佐祐理は唇を噛んでいた。つらそうだった。何かと何かの思いに板ばさみにあっているような、そんな苦渋の顔。
しばらくして、佐祐理は顔を上げた。何かを決断した、そう思わせる顔をしながら凛とした声で喋り出した。
『舞、今すぐその機体を捨てて逃げて。そうでなければコロニーに入ってくる別働部隊から攻撃を受けることになる。・・・佐祐理が舞を墜とさないといけなくなる!』
「・・・私はこのコロニーを、このコロニーの人たちを守る。私や、佐祐理、祐一といたこのコロニーを、思い出を――守る!」
『舞!』
「佐祐理・・・私はこのコロニーが好きなの」
『佐祐理だってこのコロニーの人たちを殺したいわけじゃない!
でも、それよりも、佐祐理は舞と戦いたくないの!! 舞に死んでほしくないの!!』
「私も佐祐理と戦いたいわけじゃない。ただ守りたいだけ」
『殊勝な心がけだな。感心に値する』
『「!?」』
突如通信機から聞こえてきた声は、舞でも佐祐理のものでもなく・・・。
『き、霧島大佐!?』
佐祐理の驚愕の声がコクピットに響く。
霧島聖。
漆黒の機体、ギラ・ドーガが悠々と立つ。――舞のガンダムアークレイルの目の前に。
『だが、邪魔をするなら容赦はせんぞ』
ギラ・ドーガのモノアイが真っ赤に光る!
祐一は観鈴に肩を借りながらドッグの中を歩いていた。
応急処置をしてもらった祐一は、カンナヅキが気になって観鈴に無理を言って戻ってきたのだ。
「あの、祐一さん。やっぱりこれ以上動くのは危険だよ」
観鈴が横ではらはらしたような顔でこちらを見上げている。
「俺はね、観鈴ちゃん。せっかく助けてもらった命を無駄にしたくないんだよ。俺は軍人。自分に課せられた任務は絶対に最後までやりぬく」
「祐一さん・・・」
観鈴はそれから何も言うことは無かった。
ただひたすら歩く。
カンナヅキまでがそんなに遠いわけではない。祐一の歩行速度が遅すぎるのだ。
それでも歩いていればいつかは着く。
祐一たちがカンナヅキの元に着いたとき、生き残ったのだろう兵士たちが数人集まっていた。
「あ、相沢大尉!」
そのうちの一人がこちらに気付いた。その声につられて他の兵士もこちらに視線を移してくる。
「ご無事でなによりです」
「無事じゃないが・・・、お前たちもな」
祐一の言葉にそこにいた者たちの顔に安堵のような色が浮かぶ。それを一瞥した後、祐一はカンナヅキを見上げた。
所々壊れてはいるようだが、航行に支障はなさそうな軽いものだ。
祐一はそれを確認すると、次に状況を把握しようと考えた。
「ドッグ開閉口が閉まっていてコロニー内部の様子が分からない。誰か知っている者はいるか?」
「コロニー内で戦闘が起きているようです。識別は不明ですが、友軍反応がひとつ、あとは敵軍のものですね」
祐一は友軍反応と聞いて最初、名雪のジム・ストライクかと考えた。だが、それならコンピューターのリストに載っているはずで、識別不明なんてことは無い。と、いうことは・・・。
「新型MSか」
それしか識別不明のMSなんて無い。それに誰かが乗って戦っているということなのだろう。となると、黙って構えている祐一ではない。
「カンナヅキを起動する」
「・・・はっ!?」
「カンナヅキの主砲でドッグ開閉口を破壊した後、コロニーの中に入る。そしてその友軍機を援護する」
「し、正気ですか! ここに残っている兵士は艦の正規クルーではないのですよ?」
「そんなこと言っている暇は無い。それに、戦争は何が起きるか分らないものだろう。こういう状況でもちゃんと動けるのが本当の軍人というものだ」
「ですが・・・」
「おまえたちもマニュアルは読んでいるはずだろう。操作できないわけがない。・・・手伝ってくれ」
「・・・・・・」
黙り込んでしまった兵士たちに、祐一は頼むと言って頭を下げた。兵士たちはしばしお互いを見つめると、
「・・・分かりました。微力ながらお手伝いさせていただきます」
そう言って敬礼してきた。
祐一はありがとう、と小さく呟くと、表情を変えて声を張り上げた。
「カンナヅキを起動する! 各員、自分のできる仕事を探し、持ち場につけ!」
「はっ!」
散っていく兵士をしばし眺めると、祐一は観鈴のほうへ向き直った。観鈴は『?』を頭上に出しながら祐一を眺めている。
「なにかな?」
「観鈴ちゃん、ここまでありがとう。助かったよ。でもここまでだ。病院に戻ったほうが良い」
観鈴は何か言いにくそうに顔を顰めた。
「・・・でも、もう戻る場所無いんだ」
「えっ?」
「病院、爆発に巻き込まれちゃって・・・。にはは」
観鈴は笑った。力ない笑いだった。
祐一はしばらく考え込むと、良いことを思いついたように手をポン、と叩いて、
「じゃあ、一緒に来るか?」
「・・・えっ?」
「帰る場所が無いんだろう? だから一緒に来るか、って聞いたんだけど」
しどろもどろになる観鈴。その表情が祐一にはたまらなく面白かった。
「え・・・っと、あの・・・。祐一さんさえ良ければ・・・」
祐一は顔を赤くしている観鈴の手をとった。観鈴は何がどうしたのか分からないといった表情でうろたえている。そんな観鈴に祐一は笑顔で言った。
「行こう」
観鈴は一瞬呆けた後、顔を輝かせながら、
「うん!」
にっこりと笑った。
ガキィィィィィン!
「どうした、この程度かガンダム?」
「・・・くっ!」
飛び散る火花。ビームの閃光。
―――戦況は聖が押していた。しかも圧倒的に。
機体性能は舞のガンダムアークレイルの方が上なのだが、いかんせん舞はMSの操縦の経験があまりにも少ない。幾度もの戦闘を潜り抜けてきた聖とはまさにレベルが違った。
「ほら」
ギラ・ドーガのビームマシンガンが吼える。
「っ!」
アークレイルの機動力を駆使して回避。そのまま旋回、ギラ・ドーガ目掛けてヒートダガーを投げつけた。
聖はそれを避けようとせずに、ビームソードアックスで切り払う。そしてそのままブースターを点火、ビームソードアックスを構えた状態でアークレイル目掛けて突っ込んで行く。
「これで終わりだ、ガンダ・・・・・・!?」
それは長年の勘だったのだろう。何かを感じ取った聖はとっさにレバーを上げた。今までギラ・ドーガがいた場所をビームが貫く。
「新手か!?」
聖は即座にビームの発射された先を注視した。そこには一機の青いMS。
ジムのように見えるが、若干違う。カラーリングは青を基調とし、その他の部分はすべてが赤。武装は今撃ったビームライフルだけなのか、ジム系統なのにシールドも持っていない。まだ調整中の機体なのだろう、各部にメカ部分が丸々見えるところがある。
そのMSは再び聖に向かってビームを放ってきた。
「そんな出来損ないの機体でこの私を堕とせるものか!」
難なくそのビームをかわし、その青いジムへと向かおうとして―――、
ズドォォォォン!
「何だ!?」
何かの破裂音。それがドッグ開閉口の爆発だと気づくのに聖は数秒を用いた。そしてそこには、見知らぬ白い戦艦の影。
「連邦の新造戦艦!? まさか・・・あれほどの爆発で堕ちていなかったのか」
現れた戦艦は、すかさず聖機に向かって砲撃してくる。何とかそれを回避するのだが、この狭いコロニーの中では戦艦の量に物を言わせた攻撃にいずれ当たってしまうかもしれない。
『どうしますか』
美凪からの通信。即座に判断した聖は仲間にこう告げた。
「即刻このコロニーから離脱。外で迎え撃つ!」
「敵機、コロニーから離脱していきます」
「ふぅ。賢い相手で助かったな」
オペレーターの言葉に、カンナヅキの艦長席に座っている祐一は安堵のため息をついた。
これで宇宙に出ない限りは安全なはずだが・・・、だからと言ってずっとこのままでいるわけにもいかない。ネオジオンはきっと外に出てくるのを待っているだろう。となると、ペガサスVはもう堕ちていると見て間違いないか。
名雪のことも気になるが、とりあえずやれることからやるしかない。
「あそこにいる青いジムのような機体は・・・味方か?」
「識別信号確認・・・。はい、護衛のペガサスVに搭載されていたMSです。パイロットは・・・七瀬中尉です」
「よし。味方とわかっているなら後回しだ。あの新型機・・・、ガンダムに通信取れるか?」
「やってみます」
通信パルスを設定、チャンネル接続。ビームライフルなどの荷電粒子が電波をうまく通さずノイズだらけだが聞こえないこともないだろう。
「こちら地球連邦軍所属、相沢祐一大尉である。通信が聞こえているなら返信をいただきたい」
『祐・・・一?』
ノイズ越しに聞こえてきたその少女の声に、祐一は驚きを隠せなかった。
「もしかして、舞・・・か?」
その名は、川澄舞。かつて、祐一とともに学生生活を過ごした友だった。
オリジナル機体紹介
RX−90−0−A
ガンダムアークレイル
武装:ハンドビームカッター×2
ビーム型ブーメラン×2
ヒートダガー×8
ビームサーベル
超大型大出力ビームブレード
特殊装備:大機動用補助ブースター
シールド
<説明>
一ノ瀬ことみ氏が設計、アナハイムが開発した五機のガンダムのうちの一機。
近距離、特に対MS戦を想定した作りになっており、ボディのいたるところに取り付けた大機動用補助ブースターを駆使した変則的な動きと爆発的な機動力で瞬時に相手の懐に入り込むことができる。
その点、パイロットにかかる負荷も相当なもので、パイロットを選ぶ機体である。
超大型大出力ビームブレードの威力は絶大の一言につき、これを越える接近武器は約二十年後、クロスボーンガンダムX03が製作されるまで無かった。
主なパイロットは川澄舞、伊吹風子。
RX−90−1−S
ガンダムスコーピオン
武装:クラッシャーハンド×2
ハンドビームキャノン×2
ディスターブ・ランス×10
高振動ワイヤー×6
特殊装備:ステルスコート
<説明>
一ノ瀬ことみ氏が設計、アナハイムが開発した五機のガンダムのうちの一機。
中距離戦を想定して作られた機体で、敵MSと一定の距離を取った闘いができる。
新型特殊装備であるステルスコートを展開すると、いかなるレーダーでも捕捉不可能になる。ただ、エネルギーの消費が極端に激しく、またジェネレーターと直結しているため、火力不足が担えない。
特徴的な武器としてディスターブ・ランスがあるが、これは攻撃力は極めて低いが、突き刺さった相手にコンピューターウィルスを流し込み、コントロールを失わせるという凶悪な能力を秘めている。
主なパイロットは天野美汐。
RX−90−2−G
ガンダムグリューエル
武装:ビームライフル×2
ビームカノン×2
アサルトビームキャノン×2
ミサイルポッド×2
胸部ガトリングガン
頭部バルカン
特殊装備:Iフィールド
<説明>
一ノ瀬ことみ氏が設計、アナハイムが開発した五機のガンダムのうちの一機。
遠距離戦を想定して作られた機体。機動性は低いが、火力に物を言わせた作りになっており、対MS、対艦、どちらにでも対応出来る。
このサイズのMSでは初のIフィールド所持機であり、改良も進んでいて、長時間の展開を可能にしている。
当初はほかのガンダム、特に近距離戦使用のアークレイルの後方支援として使われるはずだったが、ネオジオンに奪われてしまったため、その状況になることは無かった。
主なパイロットは倉田佐祐理。
RGM−86R−STR
ジム・ストライク
武装:ビームライフル
ビームサーベル×2
グレネードランチャー×4
<説明>
ジムVを名雪用に改修した機体。
バックパックにGP−01のユニバーサル・ブースター・ポッドの改良型を積んでいて、高い機動力を誇る。
その平均的に高いスペックを評価され、後に製作されるGDストライカーのベースとされる。
主なパイロットは水瀬名雪。
AMX−107−2
バウMkU
武装:ビームサーベル
ビームライフル
グレネードランチャー
メガ粒子砲
特殊装備:シールド
<説明>
バウをニュータイプ用に改修した機体。
とは言っても、反応速度が若干上昇しただけで、後はこれと言った変更点は無い。
これが開発された頃には、キュベレイの量産計画が進行していたので、実際に作られた機数は十機にも満たない。
主なパイロットは遠野美凪。
あとがき
どもー、神無月です。はじめまして。はじめましてじゃない人もいるかもですけどね。
とにかくこんなものを書かさせていただきました。これはガンダムを知っていないと少々きついやもしれません。時代としてはZZ時代とリンクしています。その頃の人たちには、いずれ会うことになりましょう。
ZZファンの皆様。この話を書くにあたっていろいろ調べたりはしたのですが、もしかしたら本編と違うところがあるかもしれませんが多少は目をつぶってくださると嬉しいです。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、これはZZとは違うあるガンダムのシナリオに沿って動いていきます。ZZと連動していますので、途中部分が異なる予定ですが、始まりと終わりは似せる予定です。まっとれよ?
このSS(もはやSSでもないか・・・)にはMOON、ONE、Kanon、AIR、CLANNADのキャラが出てくる予定です。
期待してくだされば本望です。