Another Side Y
【闇の胎動】
「新手!?」
「どうやらそのようです。ミノフスキー粒子が濃くてレーダーでは確認は出来ませんが・・・」
ディープスノー隊の旗艦であるグワンゾンの中で、雪見はその報告に大きく舌打ちをした。
なかなか良い状況にもっていっていただけに、新手の出現は流れを変える危険性がある。
「敵の確認を急がせなさい!レーダーが使えなくても確認のしようはあるでしょ!」
「明確な確認は取れませんが・・・、どうやら敵はMS三機のようです」
「三機?」
それを聞いて雪見は安心したようにゆっくりと腰を下ろした。
三機という数を聞くに、どうやら現地の守備部隊のようなものなのだろう。その程度のものならなにも慌てることなどない。
だが、そんな雪見を見てオペレーターは多少口ごもりながらも顔を向けてきた。
「いえ、ですが・・・。どうやらかなりの精鋭のようで」
「・・・・・・どういうこと?」
三機で精鋭、と呼ばせるからにはなにかあったのだろう。
訊ねる雪見の言葉に隠されない険を感じ取ったオペレーターだが、ここで言わないのは状況を悪くすることでしかないことを知っている。恐る恐るといった風に口を開く。
「クリムゾン・スノーが押され始めているようです」
「・・・なんですって?」
「く、右!?」
葉子は感覚の赴くままに機体を後ろに下がらせる。そこに数秒と待たず二条のビームが突き刺さった。
「えーい!」
気の抜けるような掛け声と供に、それからは想像も出来ないほどに鋭利な閃光が前方を駆ける。
「この・・・!」
そのビームサーベルの一撃を回避し、そのまま機体を一回転。回り込みスピードの付いたビームランサーの一撃を、しかしそのネロ・カスタムは受けるのは無理と悟ってかビームサーベルの柄で上手く受け流した。
「こう見えてもなつきは近接戦闘は得意なんだよ」
受け流され機体の重心が前方に傾いたドライセンに対し、そのネロ・カスタム―――清水なつきはなんとシールドで足を払い、倒れこむドライセンにビームサーベルを振り下ろした。
鮮やかかつ素早い動作に、葉子の目が驚愕に見開く。
葉子の戦場で培った体が、意識より先にアクセルを踏み込む。地面すれすれでバーニアが噴射、ビームサーベルはドライセンの左肩をかするにとどまった。
「むー。秋生さん直伝の攻撃が不発になっちゃった」
「・・・この人は」
距離を置き、どうにか体勢を立て直して葉子はなつきを見つめる。
はっきり言えば、このパイロットは強い。
近接戦闘での能力で言えば、葉子の知る限り最強だろう。いままでは晴香や香里、そしてそれを凌いでのけたみさきあたりが最強だろうと思っていたのだが、上には上がいたらしい。
ネロ・カスタムが動き出す。葉子を中心に円を描くように旋回しながらじわじわとこちらに近付いてくる。その動きに葉子は相手がかなり戦闘慣れしていることを悟った。この移動方では、なかなか射撃系の攻撃を当てることは難しい。自分が接近戦が得意なら、有効な手だろう。
が、戦闘経験なら葉子だって負けはしない。葉子はトライブレードを取り出すと、その円とは逆の方向へ曲がるように投げつけた。
「うわっ!?」
なつきの驚きの声が上がる。
円の動きに攻撃が当たりにくいのは、その攻撃が直線である場合だ。だがその円の動きの逆方向に回る攻撃ならば、当たらないわけがない。
なつきのネロ・カスタムの動きが止まる。といっても急に止まれるはずもなく、そのトライブレードは右肩にあるビームキャノンの砲身を切り裂いた。
あの状況で直撃を食らわないその反射能力には舌を巻くが、それもすでに計算の範囲。無理な動作で攻撃をかわしたネロ・カスタムはいまや隙だらけだった。
「もらった!」
ビームランサーを構え、その機体を真っ二つにしようと振り下ろし―――、
「まだぁ!」
しかしそれは思わぬなつきの行動によって阻まれた。
回避しようとしてもシールドで受け止めようとしても、その後しっかりと撃退する方法は頭の中で計算されていた。だが、まさか自らぶつかりに来るとは誰が思えようか。
それはビームサーベルなら通用しないことだっただろう。だが柄が長いビームランサーでは、ここまで密着されては逆に振り抜けない!
「あの一瞬で、それを判断したと言うのですか!」
悔しさに、葉子は強く歯噛みした。
なつきはその間にもビームサーベルを出現させ、こちらに突き刺そうと振りかぶっている。
「いい気になって!」
膝で打ち抜く。それにより開いた距離でビームランサーを振るうが、その時にはしっかりとビームサーベルで受け止められた。
強い。
訓練で戦った美凪たちも強かったが、チームとして強いのではなくこの相手は明らかに個として強かった。
晴香も大分苦戦していた。突如空から振ってきたそのネロ・カスタムは本当にドライセンより性能が低いのかと疑いたくなるほどに強かった。
近接戦闘においてはこちらの方が上だろう。しかし、射撃能力と反応速度、そしてニュータイプ(晴香は強化人間であるが)の感覚などは全て相手の方が上だった。
接近できてもその反応の早さから回避され、距離が開いたらもう向こうの好き放題だ。戦闘経験も豊富らしく、どうにも手を付けられない。
少し驕りがあったのかもしれない。
クリムゾン・スノーなどと呼ばれ、強いと言われ慣れた部分もあった。しかし最近のこの体たらくはどうだ。
負けに負け続け、プライドなど最早あってないに等しい。
銃撃。こちらを突き刺さんとするビームの放流を、なんとか回避するが、さていつまでもつだろか。
「いい加減に堕ちてください!」
「調子に乗って!」
諦めずもう一度接近戦に持ち込むべく一歩を踏み出す。
しかしまいかのネロ・カスタムは一定の距離を保って後ろへ下がる。
「くっ!」
三人のチームプレイで戦ってきたこれが付けか。
自分ひとりではエース級一人相手にできないのかと晴香は大きく歯噛みした。
「くぁ!」
機体が大きく揺れる。
たたらを踏む機体をどうにか立て直し、襲い来る二条のビームをどうにか回避する。
「まずいわね・・・!」
状況は著しく傾いていた。
突如現れた新手によって葉子と晴香が抑えられてしまい、自分が一人でこのガンダムの相手をする羽目になったのだが・・・。
正直言って一対一では勝てる気がまるでしない。
パイロットとしての腕、戦場での経験。全てにおいて香里は絶対の自信と信頼を持っている。だが、香里は決して自分の力を驕ったりしないし、相手の力を過小評価したりしない。
客観的に見て、腕も経験値もほぼ同等。問題は機体の性能差とそれを存分に使いこなしているパイロットのセンスだ。
「いつまでそうしてるつもり!」
「!」
急に側面から影が迫る。
それがアイアンハンマーであると気づいた頃には体が勝手に機体を回避運動に動かしていたが、いかんせんドライセンの反応速度が追いついてこない!
「くっ!」
直撃こそ避けたもののその強烈な一撃は、かすっただけでセンサー各種をいかれさせるには充分だったようだ。
「メインカメラがいかれた!? サブカメラは・・・こっちの方が使い物にならないじゃない! レーダーは・・・、このミノフスキー粒子じゃ、くそ!」
ドライセンは確かに性能が高い機体と言えるだろう。
だが、今度は絶対もっと上等な機体を配備してもらえるように上に訴えようと心に決め、香里は撤退を始めた。
みさきは後退していく香里を追撃しようとはしなかった。いや、できなかった。
相手は気づいていなかったようだが、みさきのタイガーもセンサーが破壊されていたのだ。
まぁ、もともと盲目のみさきにとってセンサーがいかれたくらいどうってこともないのだが、自動補正照準やもろもろのことを考えると深追いは得策ではないだろうと判断したのだ。
周囲を見やれば、香里以外のドライセンも次々と後退して行っている。
どうにかこの場は助かったようだ。
みさきは大きく息をつき、目を瞑って背もたれに体を任せた。
美凪たちもいよいよ追い詰められてきた。
渚の出現によって三人の連係プレーはかき乱され朋也の動きを止められなくなったうえ、澪の部隊を単機で退けた栞が合流したものだからたまったものじゃない。
美凪のパラス・アテネこそ未だ無傷だが、往人のギラ・ドーガは朋也との一騎打ちでボロボロだし、みちるは渚の狙撃のダメージがでかい。援護しようにも栞の駆るウインドは片手間に戦える相手ではなかった。
「えぇい!」
飛来するビームをシールドで弾き、連装ビームガンで応戦するがそう簡単に当たってはくれない。
ミサイルの残弾数もわずかとなり、ビームのエネルギーもそろそろまずい。美凪はここまでと判断し、往人とみちるに撤退の旨を伝えた。
「各機、後退してきます!」
オペレーターの言葉に、雪見はもう口を開くことすらしなかった。
美凪、みちる、往人など有能なメンバーも増えたというのに、いきなり現れた援軍―――しかもたかが三機に流れを変えられてしまった。
確かに危機の状態に陥ったときの援軍というのはテンションを上げるものだが、それにしてもしてやられた。
「・・・艦長?」
「撤退。撤退よ、もうこれ以上ここにいてもできることはないわ」
エリート軍団と呼ばれた自分たちが二度もの敗戦を、しかも同じ相手に繰り返すとは・・・。
過信していたわけじゃない。だが、自負はあった。
「・・・この借り、いつかきっちり返させてもらうわ」
キサラギの方向を睨みつけ、雪見は戦線からの離脱を操舵手に命じた。
ラー・ケイム。
現在鋭意製作中のラー・カイラム級の僚艦を目指し設計されたクラップ級巡洋艦である。
ラー・カイラム級やカンナヅキ級と比べると火力も機動力も劣るが、安定した性能を誇り、またコスト面でも前者の二級に比べて遥かに効率が良い。
制作開始時期はカンナヅキ級より若干遅れた程度だが、これからの連邦の主力艦となる予定で現在量産ラインに入ろうとしている。
その三番艦、ラー・ケイムにことみと朋也、そしてみさきがやって来ていた。
ことみはこの艦の艦長と話しがある、ということで朋也とみさきの二人でラー・ケイムのMSデッキにまで赴いていた。
「そういえば朋也くんは『静寂なる狙撃手』の古河大尉とはお知り合いだったんだっけ?」
「ん、ああ。まぁ・・・な」
どもる朋也に首を傾げるみさき。と、
「あ、朋也くんです!」
響いてきた少女の声とともにこちらに向かってくる一つの影。
そして次いでトンと軽く体に走る衝撃。
「は・・・?」
「わぁ」
ぼけっとした朋也と、驚いたように口に手をやるみさきの前で彼女―――古河渚は一足飛びに朋也の胸の中に飛び込んでいた。
「・・・・・・!?」
ボーっとした表情から気付いたように赤くなる朋也。無理もない。彼の知る古河渚という少女はこんな大胆なことをするような少女ではなかった。
ほら見ろ、周りの整備員やら何やらがこちらを唖然としてみているし、みさきはみさきでなにやら面白そうな笑みを浮かべてこちらを傍観している。
「久しぶりに朋也くんに会えました。わたし、すごく嬉しいです」
「お、おう。久しぶりだな、―――渚」
渚、とその名で呼んだ瞬間渚は弾かれたように朋也の顔を見上げ、そして本当に嬉しそうにはにかんだ。
そのはちきれんばかりの笑顔に、朋也の鼓動がわりかし早くなっていく。
渚ってこんなに可愛かったか・・・?
「ところでさ」
と、そこまで傍観していたみさきがひょこっと朋也と渚の真横に立ち、
「いつまでそうしてるつもりかな? みんな見てるみたいだけど」
「え・・・?」
驚いたように渚はみさきを見やり、次いで周囲を見渡し、そして最後に朋也と自分の状況を確認して―――、
「はわぁ!?」
顔を真っ赤にしてすぐさま朋也から距離を取った。
「す、すすす、すいませんっ! わたし、久々に朋也くんに会えた嬉しさから、つ、ついこんなこと・・・!」
最後の方は声が小さすぎて何を言ってるのか聞き取れなかった。
そんな渚の態度に、朋也はどこか安心したような表情で髪をかきあげた。
どうやら渚はあまり昔と変わっていないらしい。よくよく考えてみれば、渚の部隊の人間が唖然としているということで気付けたものを。
「渚先輩、真っ赤ですよー」
新たに声。
振り向いてみれば向こうから二人の少女がこちらに向かって歩いてきていた。
「な、なつきちゃんに、まいかちゃん」
そうしてその二人の少女は渚の隣に立つと、そのうちの一人、眼鏡をかけた少女がおもしろそうにこちらをじろじろと見上げてくる。
「へ〜。この人があの噂の岡崎朋也さんですか・・・」
にこっと笑い、
「はじめまして。なつきは清水なつきって言います。噂はかねがね渚先輩から聞いていますっ。
そっか、連邦内の噂と大分違うからどっちかなぁ、って思ってたんだけど・・・、渚先輩の言ってたことの方が当たりかな?」
ころころと笑う少女清水なつき。
天真爛漫。一言で彼女を表せと言われたらそれだろう。
「それはともかく噂ってなんだ?」
そう言って渚に振り向くと、渚は慌てたように手を振りながら、
「な、なんでもないですっ」
「なに言ってるんですか?昨日だってさんざん『朋也くんに会えますっ』とかなんとか幸せそうに言ってたじゃないですか」
「な、なつきちゃんっ!」
「ねぇ、まいか?」
「そうですね。渚隊長は日頃から岡崎中尉のことを話していますし」
「まいかちゃんまでっ!」
きゃいきゃいと騒ぐラー・ケイム隊のエースパイロット三人組。
女三人寄れば姦しいとはこのことか、なんて朋也は苦笑を浮かべた。
と、みさきがくいくいと袖を引っ張る。それで朋也はここまで来た理由を思い出し、もう一度渚のほうへ振り返った。
「そういえば、どうしてラー・ケイムはこんなところにいたんだ?」
しかしその質問に答えを返してきたのはなつきだった。
「あぁ、それはもともとラー・ケイムはイブキから帰還するキサラギと合流して日本の横浜基地に行く予定だったからですよ。
最近は新造戦艦を狙っての攻撃が相次いでいますから、新造戦艦は固まって行動した方が良いということだそうで」
確かに。宇宙のカンナヅキやムツキといい、このキサラギといいネオジオンからの執拗な攻撃を浴びている。
クラップ級も新型巡洋艦。戦艦ではないのでそう狙われるとも思えないが、まぁ用心に越したことはないのだろう。
そこでふと朋也はあることに思い至り、渚に視線を振った。
「そういえばオッサンもいるのか?」
「あ、いえ。お父さんはお母さんと一緒に月に行ってます。お母さんの護衛、ということで」
渚の母親である古河早苗。
連邦内でもかなりの影響力を持つ人で、その温和な性格から兵士からの人望も厚い。いまだに和平を唱える数少ない人物で、それ故に命を狙われやすい人だ。
そしてその夫であり渚の父親、古河秋生。
連邦の中でも知らない者はいないだろう、名実ともに連邦内最強のパイロット。彼に狙われた獲物はその時点で死を迎える、という言葉が残っているほどの射撃技術を誇り、その血は間違いなく渚にも受け継がれている。
・・・と、ここまで聞くと壮絶にすごい人間を想像するが、現物は全くそれとはかけ離れている。
いや、全て実際のことではあるのだが、あの二人に会ってそれを素直に頷けと言うのは困難だろう。
頭に浮かぶのは、涙を浮かべて走り去る早苗の姿とパンを咥えてそれを追いかける秋生の姿。
・・・きっといまでも変わってないだろうな。
「朋也くん」
呼ばれる声。
振り向いてみればそこには渚の笑顔。
何年か振りに見るそれは、やはり朋也の心を温かくした。
「日本までという短い間ですけど、よろしくお願いしますね」
「・・・ああ。こっちこそな」
笑顔を交わす二人。
そしてキサラギとラー・ケイムは着実に日本へと向かっていった。
「やれやれね・・・」
大きく、そこにありったけの疲労と困憊を凝縮させたのかという息を吐く。
艦長室。その背もたれを後ろに反らせ、天井に視線をやっているのは深山雪見。
連戦連敗の精神疲労は思った以上に大きく、撤退してからいったい何度ため息を吐いたか知れやしない。
巡洋艦、二隻撃沈。
MS、三十一機大破、七機中破。
パイロット、二十九人死亡。四名重傷。
・・・戦争による負けというのは、そのまま簡単に次に送れるものではない。
物資、人材、訓練、資金。一度の敗戦でそれらをどれだけ消費するか。
思うことは己の未熟さ。あのときこうしていればもっと上手くいっていたのではないか。・・・そんな思考も一度や二度ではない。
そしてさらに思うことが一つ。
前回とさっき、戦った連邦の一味にどうやら知り合い―――しかも昔とびきり仲の良かった者がいるらしい。
連邦の超エース。『盲目の緑風』。
そして、大親友。
川名みさき。
彼女と自分は袂を分けた。いや、向こうは自分がネオジオンにいることは知らないだろうけど。
敵に逆巻く嵐のエンブレムをつけたガンダムがいた、という葉子の証言からしてまず間違いないだろう。
・・・正直言えばあまり良い気分ではない。
隊を治める身分の者として生の感情を戦場に持ち込むなど愚の骨頂であるが、みさきはずっと幼い頃からともに暮らしてきた大事な幼馴染だ。
「わかっていた・・・はずなんだけどね」
いつかこんな日が来ること・・・。予想していなかったわけではない。
しかし雪見とて生の人間だ。希望的観測をしていた部分もあった。
この広い戦場で、彼女と自分が対する確率など少ないのだと。
が、こうやって現に二人は対立をしている。同じ戦場で、互いの命を懸けて戦っている。
「みさき・・・」
呟くその名は、果たしてどんな意味が込められているのだろうか。
・・・自分のことであるのに、明確な答えは見つからなかった。
「深山」
思考に沈んでいると、不意に扉のむこうから声。
その声に雪見は姿勢を正し、どうぞと言葉を返した。
そしてスライドする扉の向こうから現れたのは、霧島聖だった。
「どうしたのですか?」
訊ねる雪見に、聖はどこか意地悪そうな笑みを浮かべて、
「どうやら深山がやつらに仕返しをするのは大分先になるようだぞ」
「・・・どういう、ことですか?」
つかつかと聞こえてくる足音とともに聖は雪見を越えて背後にある窓に近寄る。
「ハマーン様から連絡が来てな」
「ハマーン様から・・・?」
「どうやらエゥーゴにしてやられたらしい」
エゥーゴ。
確かアーガマ隊とか呼ばれる面々にマシュマーが梃子摺っているとは聞いたことがあるが・・・。
「それで、一体なにが起きたのです?」
「ダカールでのパーティー中に襲撃を受けたらしくてな。明日、宇宙に戻るそうだ」
「まさか・・・」
聖が頷く。
「我々にも宇宙へ上がれ、とさ」
雪見が勢いよく立ち上がり、その反動で椅子が転がっていった。
「そんな!我々を宇宙に上げて一体なにをさせるつもりで・・・、って、まさか!?」
振り返る聖。その顔にはどこか歪んだ笑みが浮かんでいた。
「一部の隊を除いて全て宇宙へ戻るようにと。・・・ハマーン様も思い切ったことをする」
「宇宙に上がる・・・。戦力的にではなく、避難のために」
目を見開く雪見の向こう、聖はゆっくりと窓から空を見上げた。
そのさらに向こう、宇宙を見つめるように。
「再び地球に落ちてくるぞ。・・・あのメキドの炎が」
その頃、地球連邦軍横浜基地内。
そのとある一室。その中で二人の影が向かい合っていた。
「研究の方はどうですか?」
デスクに座っている青年が呟く。デスクに両肘を突いて手を組みその上に顔を乗せる様はどこかの尋問員のようだ。
服装は軍服ではなくただのスーツ。上下黒で統一したそれはしかし、その男に妙にマッチしていた。
「は、順調に御座います」
答えたのはその正面に立つ男。歳は座っている青年より高いだろう。こちらも軍服ではなく、白衣を着込んでいた。
「そうですか。高い資金を投資しているのです。・・・数年前のような失敗は許されませんよ?」
「巳間博士はもういません。今回は大丈夫です。我々にもプライドというものがありますからな」
「近々大きい戦いが起きることになるでしょう。そのときまでには間に合わせてほしいものですが・・・」
「はっ。三人ほどならどうにか間に合うかと・・・」
スーツの青年は眼鏡を正すと、デスクの上においてある書類に手を伸ばす。
「レベル10を越えたというあの三人ですか?」
「はい。彼女たちならあともうしばらくで強化の最適化も終了するでしょう。我々が絶対の自信を持って提供できる三人です」
書類をめくり上げ、そこに映る三つの顔写真。そこに映る少女たちの顔を見て、男は口元を崩す。
「里村茜、沢渡真琴、名倉友里・・・ですか。それでは、彼女たちに期待するとしましょうかね。ねぇ―――高槻博士」
「ええ、お任せください。―――久瀬隆之理事」
高槻、と呼ばれた白衣の男は一歩下がり頭を垂らすと、速やかに部屋から出て行った。
そして残されたのは久瀬隆之と呼ばれた青年一人。
隆之はゆっくりと腰を上げると、その部屋唯一の窓に近寄ってそこを眺めた。
視界に入るのは急ピッチで製造が進められる三機のMS。顔部分が出来上がっているそれは―――ガンダムのものであった。
「戦争は勝って終わらなければ意味がない。・・・どうしてあなたにはそれがわからないのでしょうね、古河少将?」
隆之は邪悪な笑みを浮かべて、窓にカーテンを下ろした。
あとがき
どうも、神無月です。
久瀬&高槻、キタ――――(゚∀゚)――――!
ようやく、ようやく彼らの出番がやってきました!
彼らこそ、ザ・悪役。彼らを置いて悪役はありえません。
もちろん高槻は高槻ですので郁美や晴香たちなんかとは繋がりがあります。まぁ、彼女たちが連邦を恨む理由ももうわかる人にはわかったでしょう。
二人が悪役っぷりを発揮するのはもうちょっと先ですが、これからちらちらと出番は増えていきます。
あと、質問のあった志乃まいか嬢。いえ、彼女は決してオリキャラではありません。
彼女はAIRのAir編に出てくるステゴザウルス(だったかどうか記憶が曖昧だけれど)の人形を神社から持っていこうとした「しのまいか」ちゃんの妹です。えぇ、ちゃんと本編でも「おねえちゃんの病気が〜」という台詞があったので間違いないと思われます。
さて、このAnotherはそろそろ終わりを迎えます。次回か、あともう一話。それであとは合流ということになりますな。
実際こっちが本編を追い抜いてしまったがために、こちらをしばらく止めていたようなものですからね。
それでは次回もお楽しみに。