Another Side V

        【荒れ狂う戦場の風】

 

 ユーラシア大陸北部ロシア領。ルイビンスク湖の南に位置するネオジオンのモスクワ基地。

 そこでは一つの大規模な戦闘が繰り広げられていた。

 片方はもちろんネオジオン。その第十二艦隊。

 地上剪伐隊として送り込まれた部隊の一つで、実力はディープスノー隊と肩を並べるほど。もちろん、ネオジオン五指の隊の一つである。

 そしてもう一方はカラバ。

 グリプス戦役時に比べればかなり弱体化したが、それでもいまだに活動は続けている。

 連邦内でティターンズが消えてからと言うものエゥーゴとともにネオジオンの討伐にかかっていたのだが、やはり実力差は歴然としていた。各地で繰り広げられる戦いはそのほとんどが敗退。もはやカラバの軍事力は風前の灯だった。

 しかしこの戦いを行っているカラバの部隊は一味違う。彼らはいまだに一度の敗退もない、カラバでもトップの隊だ。

 故に戦闘が始まってすでに一時間弱。いまだにどちらも下がらない。戦況はほぼ互角だった。

 そしてこの戦闘の中、ある二機の戦いだけがまるで別次元のように目立っていた。

「くそ、やる!」

「さすがに!」

 飛び散るビーム粒子。響くスラスターの音。そして男と女の声。

 対峙するは『白い悪魔』アムロ=レイのアムロ専用ZプラスA型と『白銀の狼』坂上智代の専用機、レヴェレイションである。

 カラバのアムロ、ネオジオンの智代の両エースが激しくぶつかり合う。そして両者は同時にこのそれぞれの部隊の隊長でもある。だからか、激突はさらに激しく、苛烈になっていく。

「やはり強い。さすが一年戦争で『白い悪魔』と呼ばれただけのことはある!」

 襲い来る正確な射撃に、距離を取っては不利と判断。智代は自分の得意な接近戦に持ち込もうと動く。

「させるか!」

 そしてそれを妨害するようにアムロは弾幕を張る。別にアムロが接近戦を苦手に思っているわけではない。ただ、この数十分の戦いで智代の桁外れな接近戦の実力は嫌と言うほどわかっていたからだ。

「そう簡単には近づかせてはくれないか・・・!」

 その強烈な弾幕にとりあえず智代は下がることを余儀なくされる。しかし智代だって中距離戦が苦手なわけじゃない。アムロの射撃能力が高すぎるのだ。

 

 

 そうして両者が激突している最中、第十二艦隊とカラバの戦いは徐々に傾き始めていた。

「敵機、三時の方向より四機接近!」

「隊列を立て直せ!これ以上カラバなんかに好き勝手させるな!」

 部下の叫びに第十二艦隊の小隊長である住井護が怒声で返す。それと同時に近場にいたネモVを構えたビームサーベルごとビームサーベルで切り払った。

 護の乗るのは新型MSのザクV。そのビームサーベルの出力はそんじょそこらの機体では太刀打ちできないほどに高いのだ。

 そうして再び突っ込んできたネモVを一刀両断する。これで護のスコアはすでに十を超えた。

「くそ! これが最近停滞気味の軍なのか!? 一体どれだけいやがる!」

 いくら斬ろうが撃とうが減る傾向をまるで見せないかカラバの軍勢に、無意味だとはわかっていても苛立ちは隠せない。

 とにかくこのままでは駄目だ。MSの質は同等、パイロットの技量はこちらの方が上だと言っても、圧倒的に数で負けている。おそらく向こうの数は三桁を超えているだろう。たかが六十機程度では正直言って分が悪い。頼みの綱の隊長も、やたらと強いパイロットと互角の戦いを強いられている。

 ならば、ここは唯一勝っているパイロットの技量で戦うしかない。

「敵の陣形を突き崩す! 鷹文、佐織、一緒について来い!」

「「了解!」」

 答えたのは坂上鷹文と稲木佐織。共にこの第十二艦隊のエースパイロットである。

 二人はシュツルム・ディアスを駆り、護のそれぞれ左右についた。

 突如戦線から突き抜けてきたその三機に、当然のように敵からの圧倒的な数の攻撃が飛んでくる。まるで視界を覆わんばかりのビームや弾。それをどうにかシールドで防御しながら突き進んでいく。

「な、こいつら正気か!?」

 この弾幕の中を向かってくるその三機に、カラバの部隊長は驚きを隠せなかった。

 そしてその驚きが部隊の隙を作ってしまった。一瞬指揮が遅れ、部隊の動きが止まる。

 それを護は見逃さなかった。

「鷹文、佐織、前方に並ぶ敵MSを叩く! タイミング、合わせろよ!」

 護は敵の部隊長が前方、中心にいることを見抜いていた。そして信頼する部下は護の意思を明確にくみ取った。

 ザクVから強力なメガ粒子砲と腰部ビーム砲が放たれる。そしてほぼ同時に両脇のシュツルム・ディアスからもビームキャノンとビームピストルが放たれた。

 それらのビームの雨は前方に並ぶMSを、隊長機も含む五機を沈めた。

 カラバに走る動揺。隊長機を失ったことで統制は崩れ、そして復元の兆しを見せない。

「よし、敵の統制が崩れた! 各機、自由に敵を殲滅せよ!」

 こなってしまえばもうネオジオンのやりたい放題だ。これは指揮官という存在がいかに戦争において重要なものであるかを如実に表した結果であったと言えよう。

 

 

 その様子を智代と戦いながら遠目で見ていたアムロは、自分の部下のあまりの不甲斐なさに憤りを感じていた。

「ちぃっ! なにをやっているんだあいつらは!」

 すでに指揮がボロボロで統制もなっちゃいない。おろおろしながら敵に良い様にされている部下を見て、アムロはこの場にいない一人の人間に思いを馳せた。

「やはり郁未がいれば・・・!」

 郁未とは天沢郁未のことで、アムロの直属の部下である。

 その戦闘能力たるやアムロも目を見張るほどのもので、おそらくもっとちゃんと訓練すれば自分と同等の位置にまで上り詰めるだろうと考えている。また、指揮能力も高く、カラバにとって数少ない貴重な凄腕パイロットなのだ。

 しかし、そんな彼女はいま連邦の新造戦艦偵察任務で月に向かっていて、不在なのである。

 そもそも、どうしてそんな任務に郁未が行かなければならないのかアムロにはわからなかった。偵察など他の人間にでもできることだ。カラバでも三本の指に入る郁未をわざわざ向かわせるとは一体どういう了見だろうか。

 アムロは必死に反対したが、なぜか郁未本人が行くことを了承してしまったものだからもうどうしようもなかった。

「はぁ!」

「くっ!」

 振り下ろされたビームサーベルを、どうにか回避する。

 余所見や考え事をしていたせいで、いつのまにか智代との距離が詰まってしまっていた。

 距離を取ろうとするのだが、智代の乗るレヴェレイションはなによりもスピードを重視して設計された機体。そう簡単にはさせてくれない。

(このあたりが限界か!?)

 もう一度部下のほうを見やる。向こうも劣勢で、数は減っていく一方だ。

 残り少ないカラバの戦力を惜しげもなく投入したこの作戦、どうしても成功させたかったが・・・。

 アムロは悔しげに唇を噛み、通信回線を開いた。

「これ以上の戦闘はもう無理だ!各部隊長は自分の部下をちゃんと掌握して下がれ!撤退するぞ!」

「勝手に突っ込んできて、勝手に逃げる気か?そんなことをこの私が許すとでも?」

「ここで死ぬわけにはいかないっ!」

 撤退させまいとして背後に回る智代を無視して、アムロは跳躍。そのまま飛行形態に変形して逃げに走った。

「変形機能がついていたのか!」

 ビームライフルを撃つが、この程度の射撃に当たってくれる相手ではないことぐらいいままでの戦いでわかっている。智代は二、三発だけ撃つとビームライフルをゆっくりと下ろした。

「『白い悪魔』アムロ=レイ・・・か」

 

 

 アムロが智代から下がっていくと、次いでネモV部隊も撤退していく。

 こうしてカラバのネオジオン基地制圧作戦は失敗に終わった。

 とは言ってもネオジオン側にも充分の被害を与えており、痛手を与えると言う意味では成功したと言えよう。

 しかしこれ以降カラバは物資の少なさにより、しばらく動けなくなることを余儀なくされたのは言うまでもない。

 

 

 あの戦闘からおよそ五時間。

「やれやれだな」

 疲れた声をあげながら智代はため息を吐いた。

 ここはモスクワ基地内の智代の自室。特にこれといった物がないのは智代の性格ゆえか、はたまたすぐに移動になることを見越していたのか。どちらにしろかなり質素な部屋であることに変わりはない。

 その中で唯一と言ってもいい物である机の上、そこにはいまだ処理しきれない始末書の山が積み上げられていた。

 死亡者四十九名、負傷者九十一名。大破の戦艦二隻、同じくMS三十五。中破から小破扱いの戦艦が一隻にMSが十八機。基地の防衛施設もほとんどが全壊。

(カラバを甘く見すぎていたな・・・)

 思う。

 最初、攻め込んできた部隊がカラバのものであるとわかったとき、智代は大した損害もなくけりがつくだろうと考えていた。

 しかし、それは一人の隊長としてしてはいけない憶測だ。敵の力を過小評価してしまったがゆえに思わぬ損害を受けてしまったのは指揮官である自分の責任である。

 ネオジオンは現在地球侵攻を進めている。つい先程本隊からダカールを制圧したとの報告があった。おそらく補給を求めればすぐにでもよこしてくれるだろう。いや―――、

「もしかしたらこの基地ともそろそろお別れかもしれないな」

 ダカールを制圧したと言うことは、地球連邦の動きを抑えたと言うことだ。とすると、これからの進み方によっては地球から離れることもあるかもしれない。

 考え、薄く笑う。

「・・・いま考えても仕方ないことか」

 考えが早すぎだ。まだそんなに事が早く動くとは思えない。

 早く戦争を終わらせたい。その思いがどうしても先を急いで物を考えさせてしまう。それを考えるのはまだまだ先であると言うのに。

 と、不意にノック音が聞こえてきた。

「坂上大佐」

 声は護のものだ。・・・もしかしたらまた始末書が増えたのだろうか。

「どうした」

 護は扉を開けて机の前まで歩いてくると、一つの書類を差し出してきた。

「霧島大佐より電文が届いております」

「霧島大佐・・・?」

 智代は護からその電文を受け取ると、無言のまま読み進める。そして読み終わるとため息を吐き、あろうことかその電文を破り捨ててしまった。

「た、大佐!?」

「どうやらこちらの方へ来るらしい。応援をよこせと言ってきた」

「ならば・・・」

「私はあの女が好きじゃない」

「た、大佐〜」

 歯に衣着せぬ智代の言い方に頭を抱える護。無論、いままで智代の片腕としてやってきた護だ。智代が聖を嫌っていることは知っている。しかし、軍事に私情を挟むのは良くないことだと思うのだ。

「それに、お前は現在のこの状況で私たちの隊から応援を派遣できると思うのか?」

「そ、それは・・・確かに」

 護の顔が曇る。

 事実、先のカラバとの戦闘で第十二艦隊の戦力は半減してしまっている。ここで応援を派遣してしまっては、いざと言うときに対処しきれなくなる可能性もあるのだ。

「それじゃあ、その旨を報告して応援は出せないということで返信しておきます」

「ああ、頼む」

 出て行く護を見送り、智代は破れ落ちた電文を一瞥した。

「・・・気に食わんな」

 立ち上がり、その部屋に唯一つある窓へそっと寄っていく。

 そこから見える風景はロシア特有の、どこまでも広く白い雪原。その風景を遠くを見つめるように眺める。

「なにを考えている・・・? 霧島聖」

 智代はうすうす感じていた。

 聖の思惑。聖の悪意。

 しかし、明確な部分が見えてこない。うまく見せようとしていないのだろうが・・・。

 智代は背後から募る不安を振り払うように頭を振った。

 

 

 

 時は遡って十二時間前。

 

 

 日本、連邦横浜基地。

 そこでは先日の戦闘の処理が進んでいる。

 そしてキサラギの発進準備も着々と進んでいた。

「えっと、美坂栞です。どうぞ、よろしくお願いします」

 場所はそんなキサラギの艦橋。

 そこには主要と思われるメンバーが全員集結していた。

「まさか・・・本当に栞が連邦に入るなんてな」

「あはは・・・」

 少し驚いた風に言う朋也に、栞は困ったように苦笑いする。

 あの戦闘の後、栞は連邦の極秘扱いの機体に乗ってしまったことで軍法会議にかけられそうになったのだ。そこを止めたのがことみ。結局一般人で駄目ならば、ということで栞は急遽軍属に就くことになったのだ。そしてそれは栞にとっても望むところだった。

 栞はどうしてももう一度会いたかったから。姉である、香里と。

「それで、ガンダムウインドは栞ちゃんに乗ってもらうことになったの」

「はぁ!?」

 ことみの言葉に大声を上げたのは陽平だ。

「ちょ、ちょっと待ってよ。どうして昨日今日入隊したばっかりの子にあんな高性能なMSが支給されるんだよ」

「でもこの前のシミュレーションの成績、春原くんの最高成績を一回目で軽く上回ってたけど?」

「そんなことはどうでもいいんですっ! 問題はガンダムなんていう高性能機にどうして新米のこの子が乗るのかっていうことなんすよ!」

 みさきの何気ない一言に少し(大分)傷付きながらも、陽平は反論する。それに答えるのはやはりことみだった。

「もともとあのウインドはみさきちゃんの機体になる予定だったけど、みさきちゃんはタイガーのほうが性に合ったみたいだし。

 そのタイガーは乗れるパイロットがいなくて保留になってたから、今回のことはちょうど良かったの。それに栞ちゃんの腕は本物だから」

 そう言ってことみは栞に笑いかける。栞は少し照れながら笑い返した。

「いや、でもさ・・・」

「いい加減諦めろ春原。どうやってもお前にあの機体が回ってくることはない。つまりお前に新型はないってわけだ」

「べ、べべべつにいりませんヨッ!」

「思いっきり声が裏返ってるぞ」

 いらないと言葉では言っていても、ふてくされているのは誰にでも見て取れた。

 まぁ、無理もない。陽平はいまこの場にいるパイロット組の中で最もシミュレーションの成績が低い。実力順に新型が支給されるなら、陽平はだいぶ先になるだろう。

 みさきはそんな陽平に苦笑を漏らし、ことみの方へ視線を向ける。

「それで、これからどうするの?」

「・・・上層部はいま浮き足立ってるの」

「どうして?」

「連邦軍総本部・・・。ダカールがネオジオンに落とされたの」

 ことみの言葉にそこにいた全員の顔に驚愕が走った。

「嘘・・・だろ?」

 朋也の愕然とした声に、しかしことみは頭を横に振る。

「それじゃなに?連邦は事実上崩壊したってこと?」

 その陽平の言葉がシンとしたキサラギブリッジにこだまする。そんな中、ことみがもう一度口を開く。

「まだ情報が曖昧で不明瞭だけど・・・、重要な人物は事前に脱出していたらしいの」

 その言葉にみさきが怪訝な表情をする。

 しかし誰もその変化に気付かないのか、話は進む。

「そっか。なら最悪の状況にはならずに済んだわけだね。ははは、僕ちょっと心配しちゃったよ」

「・・・なにがだ?」

「いや、だって連邦が解散なんてことになったら僕たち路頭に迷うことになるじゃん?」

 お前な〜、と頭を抱える朋也。

「それじゃあ、これからどうするんです?」

 そんな朋也を横目に見ながら、栞。

「ダカールが落とされてしまった以上、あんまり目立った行動は取れないの。・・・そこで私たちに任された任務は、交渉」

「交渉、ですか?」

「うん。いまだに連邦に所属していない中立国家に、連邦に加入することを交渉しに行くのが今回の私たちのお仕事」

「なるほど。表立って動けないいまのうちに軍事力を強化しておこう、ということですね」

「栞ちゃんは頭の回転が早いの」

「ことみにそれを言われると嫌味に聞こえてくるな」

 本人にその気はないんだが、と朋也は呟く。そんな朋也に、ことみはかわいらしく首をちょこんと傾けた。

「それで、そこはどこなんですか?」

 栞に聞かれ、ことみは一回みんなを見回してから、

「中立国の中でも最高の技術力と人員を誇る島国。―――イブキ」

 そう言った。

 

 

 

 日本からだいぶ離れた海の真ん中。

 インド領、ラッカディブ諸島。

 そこでネオジオン第九艦隊、ディープスノー隊はユーコンU99補給部隊と合流していた。

「―――以上で補給物資の搬入、終了しました」

「了解。こちらでも確認したわ。お疲れ様」

 深山雪見は搬入リストを返し、敬礼してきた兵士に敬礼を返した。

「それにしても、結構な痛手ね・・・」

 呟き、背もたれに身を任せる。

 前回の横浜基地での戦い、ディープスノー隊は大変な被害を被った。

 MSや戦艦はまだ良い。それよりなにより痛手なのはそれらに乗っていたパイロットたちのことだ。

 一人の訓練生をりっぱなパイロットにするまでには莫大な時間を要するのは自明の理。加えてディープスノー隊はネオジオンでも優秀なパイロットが集まったエリート軍団なのだ。以前のレベルにまで戻すのに一体どれだけの時間が必要になることか・・・。

 しかし、ならば勝てても良かったようなものだが、雪見は知らない。自分たちが戦った相手にはその優秀と呼ばれるパイロットを楽に超越する化け物パイロットが三人ほどいたことに。

 そうやってため息を吐いていると、不意にブリッジの扉が開いて誰かが入ってきた。

「え・・・・・・?」

 その人間は雪見の知る人物だった。が、なぜこんなところにいるのかまるで見当がつかなかった。

「久しぶりだな。深山」

「霧島大佐・・・? 地球に降りられていたのですか?」

「地球侵攻に伴いハマーン様と共にな。ダカールの方もかたがついたからこっちを手伝うようにとハマーン様に言われたのだ」

「では・・・」

「ああ、いや。私のほうが上官ではあるが、この艦隊は君のものだ。指揮は全権君に任せる。私は口出しせんよ」

 そうですか、とほっとしたように雪見は吐息一つ。

 雪見は決して聖のことを嫌ってはいないが、その作戦方針には反感を抱いていた。聖は大佐、自分より上官だ。指揮権を剥奪されたらどうしようかと内心ひやひやだった。

 そして一方の聖も雪見のことを嫌っていない。そして雪見の方が指揮能力が高いことも充分に把握しているので、そこは雪見に任せたのだ。・・・聖が私情を挟んだりしてしまうのは水瀬秋子という存在だけなのだ。

 と、そのときになって雪見は聖の後ろに立つ二人の人物に気が付いた。

「その人たちは・・・?」

「ん? あぁ、こいつらか」

 そう言って聖はその二人を前に出す。

「遠野美凪少尉と遠野みちる准尉。私の直属の部下だ。腕は確かだから、しばらくの間は存分に使ってやってくれ」

「・・・遠野美凪少尉です。・・・よろしく」

「みちるは遠野みちるだよ。よろしくねー」

 遠野美凪と名乗った少女は雪見と同程度か少し年下ぐらいだろうか。遠野みちるはもっと下なようだが。

「二人とも遠野っていうことは姉妹か何かなのかしら?」

 その言葉に美凪のこめかみがビクッと動いたのを雪見は見逃さなかったが、あえて見てない振りをした。

「んにっ! みちると美凪は仲の良い姉妹なのだー」

 明るく言うみちるに対し、美凪は口を開こうとしない。

(・・・やっぱり、なにかあるのね)

 雪見はよく人から鋭いと言われる。

 人の表情―――細かく言えば瞳孔の収縮や瞳の動き、口や頬の動きなどから相手の心理を読み取る術が、雪見は昔から長けていた。

 だが、だからといってなにを突っ込むわけでもない。これは世渡りのために身についた特殊な能力のようなものだ。他人のプライバシーに関するようなものに触れるものでもない。

「そう、よろしく」

 だから雪見はただ手を差し出した。

 みちるはすぐにそれを握り返し、美凪もみちるに倣った。

 

 

 

 カンナヅキ級は宇宙でも地上でも充分に扱えるような設計をされている。

 宇宙なら宇宙用の、地上なら地上用の装備や武装を標準装備した戦艦というのは世界広しと言えど、カンナヅキ級だけだろう。

 ことみは艦外の甲板で海風に当たりながら、キサラギの運行を見守っていた。

「うん。いい感じなの」

 ことみは自分の設計したガンダムシリーズやカンナヅキ級戦艦に絶対の自信を持っている。

 ―――否、持てる位の物を作らなくてはいけなかった。

 いまは亡き両親への、手向けのためにも。

「ことみちゃん、ここにいたんだ」

 不意に声が聞こえた。

 振り向けば、風であおられた綺麗な黒髪を押さえたみさきが立っていた。

「どうしたの、みさきちゃん」

「あ・・・、うん」

 みさきが顔をしかめる。それを怪訝に思い、ことみはみさきの方へゆっくりと近付いていく。

「みさきちゃん?」

「ことみちゃん。・・・変だと思わないの?」

「なにが?」

「ネオジオンに襲われたのに、重要な人物は事前に逃げられた?・・・どうして『事前』に逃げられたの?」

「・・・・・・・・・」

 ことみは口を開かない。

 みさきは思う。ことみは頭の良い人間だ。このことに気付いていないはずがない。そしておそらくその先の思考も・・・。

「・・・ねぇ、ことみちゃん。私たち、このまま上の言うまま動いていれば良いのかな?」

 みさきの視線がことみに突き刺さる。ことみはそれを真摯に受け止め―――、

「・・・わからないの」

 横に首を振った。

「連邦のしていること、考えていること・・・、全部が正しいことじゃないの。

 でも、それでも私は・・・守りたいから。・・・私が大好きな人たちを。朋也くんを、栞ちゃんを、・・・そしてみさきちゃんを」

 ことみはみさきの手を取り、ぎゅっと握る。

 そこに万感の思いを込めて。

「そう・・・だね」

 みさきも笑顔を浮かべてことみの手を握り返した。

 ―――だけど、その心の中では、連邦への疑念は着実に積もっていた。

 

 

 

オリジナル機体紹介

 

AMX−099

レヴェレイション

武装:ビームサーベル×2

   ビームライフル

<説明>

 ネオジオンが智代用に製作した、この世にたった一つの機体。名は「黙示」の意味を持つ。

 なにはさておきスピードを重視した作りになっているため、武装も少なく装甲も薄い。だが、それを補って余りあるほどの速力、加速力、旋回速度を叩き出している。

 カラーリングは智代のイメージカラーとなっている銀。

 主なパイロットは坂上智代。

 

 

 

 あとがき

 はい、神無月です。

 今回、新キャラ続出しまして、いよいよ出てないキャラの方が少なくなってきました。

 智代ファンのみなさんには大分お待たせしましたが、遂に登場。彼女はこれからも活躍しますので安心していてくださいね。

 そしてガンダム界の英雄、アムロ=レイも登場。

 このSSは本編の歴史にて表に出てこなかった部分の話なので、彼が出てくるのも必然なのです!そして彼は今回限りの出番ではありません。いずれまた出てきますので、お楽しみに。

 

 

 

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