祐一が七瀬留美と出会ってから二週間が経った。

 とは言ってもこの二週間ずっと留美と会ってしまっていたのだが。

 二日目は前回であったルートを外して散歩していたが先回りするかのようにそのルート上に留美は居た。

 次の日も、その次の日もずっとだ。

 まるで祐一の行動をストーカーするかの如く。

「……ようやく任務が受けれる。これであの女と会うことはねェだろう」

 祐一自身も疲れ果てていた。

 散歩に出ない日にはどうやって調べたのかは解らないが、遊びに来たわよ! と言って祐一の部屋に不法侵入して来たほどだ。

 だが祐一は気付いていなかった。

 この二週間の内に家族以外の他人に対する機械的の思考が徐々になくなっていくことに。

「さて、さっさと任務を聞きにいくか」

 長く伸びた明かりが殆どない道を歩く。

 任務で負った傷は万全とは言えない、癒えてきたので祐一はさっそく次の任務を受けに向かっている。

 腕も勘も鈍っているだろうし、何より筋力が落ちている。

 それを早く取り戻すためにさっさと任務を受けにいくのだ。

 暫く歩いていると目の前に大きな扉が見えてきた。

 その前に立つと扉が重い音を立てて自動的に左右に開き、その中に足を踏み入れる。

 祐一が中に入ると、扉が閉まり闇が訪れた。

 そんな闇の部屋の中に三つの明かりが点り三つのモニターが現れる。

 そのモニターには三人の老人が浮かび上がっていた。

 ヴァルハラの長老会の長老達だ。

 そのモニターの前に祐一は鋭い眼つきで立っている。

『良くぞ来たな。第13の騎士ナイト・オブ・サーティーン漆黒の戦狼ヴェーア・ヴォルフよ』

 威厳のある声が祐一に降りかかる。

 ヴァルハラの最高指導者ウィルザークだ。

「ああ。さっそくだが今回の任務は? できるだけ難度高ェヤツをよこしてくれよ」

『相変わらずだな……今回の任務は我がヴァルハラの幹部を殺した連中の抹殺だ』

『殺された幹部の名はオールドシティの倉木剛三』

 ウィルザークの向かって右側の男――キンがウィルザークの言葉に続くように言う。

「で、俺はそいつらとそいつらに命令した奴らを鏖にすりゃいいんだな?」

『キサマが殺すのは実行者だけだ。依頼者の方は既に始末した』

 そう言ったのは左側のシンという男だ。

「そうかい」

 さらに説明は続く。

 テロリストはオールドの最奥、ゴーストタウンを住処にしている。

 危険度リスクはS級、敵の数は300人以上。

 主な活動は殺人、重火器や麻薬の密売、少女の精処理人形への調教。

『解っていると思うが失敗は赦されんぞ。漆黒の戦狼ヴェーア・ヴォルフよ』

「言われるまでもねェよ」

 そう言い返すと、目の前のモニターは消え、再び完全な闇が訪れた。





FenrisWolf's


ACT.12 飼い犬と野良猫の出会いA絶対零度の殺意





 組織専用のヘリに乗りさっさとカノンに来た祐一。

 上空からそれらしいゴーストタウンを見つけ、近くの広場に着陸するように操縦者に言う。

「お気をつけて」

 操縦者の言葉を無視して足早にゴーストタウンに向かう祐一。

 時間は深夜。

 街が静寂に包まれ、寝静まっている時間。

 そんな静かな町並みとは裏腹にココ、ゴーストタウンは間も無く殺戮の戦場と化す。

 祐一は警戒した様子もなく真正面からゴーストタウンに踏み込んでいく。

 辺りを確認すると何人かの人間が自分を観察している。

 だが祐一は気にした様子もなく一番多くの人間の気配がしているビルを見つけ、そこに向かうが足が止まる。

 この二週間で忘れたくても忘れられない、記憶に厭と言うほど焼き付けられた能天気の塊とも言うべき女がそこに居た。

「……おい」

 その言葉に振り向く女――七瀬留美。

 驚いたような表情を見せながら、立ち上がる。

「あら、相沢君じゃない。どうしたのよこんな処で?」

「……それはこっちの台詞だ。キサマこそ何してやがる」

「質問を質問で返すのはルール違反よ」

「……どうせキサマは掃除屋の仕事だろーが」

「そういうあんたはヴァルハラの任務ね」

 互いに睨み合い――留美は見つめているだけ――辺りの気配が微かに動いたのに気付く。

 それを合図に二人は同時に声を闇に向かってかけた。

「いい加減ツラ出せや」
「いい加減出てきたらどう」

 その言葉にいたるところの廃ビルから男達が出てくる。

 祐一達を取り囲み、それぞれ銃やナイフ、剣などを手に持っている。

「結構な数ね……60……ううん、80、90はいるわね。こっちは二人なのに大ゲサな人数って言うかなんていうか」

「へッ……こんなんじゃまるっきり足んねェよ……ま、ナマった身体や勘を取り戻す運動ぐれぇにはなってくれや」

 祐一が男達に向かって一歩踏み出し、そこで――

「――ッ!!」

 祐一が反応した。

 一瞬、足を動かし留美の身体を蹴る。

 驚いた顔を見せた留美だが、それは無視。

 二瞬、蹴った反動で自分も反対側に飛ぶ。

 三瞬、五月蠅いほど鳴り響く銃声。

 そして瞬きもする暇もなく、今しがた二人が立っていた地面が何度も穿たれた。

 地面の上に転がる二人。

 体勢を整え弾丸が飛んで来た方を素早く見遣る。

 背後――凡そ30m地点――の廃ビルの五階の窓にサブマシンガンを構えた男がいた。

 祐一は素早く目線を動かし他にいないかを確認する。

 暗闇過ぎて解り辛い状況の中、別の廃ビルの中に同じようにサブマシンガンを構えている五人を見つけた。

「あんた、よく銃声前に気付いたわね」

 天月を抜刀しながら留美が祐一に訊く。

 その言葉は二人を取り囲み、呆然としている男達の気持を代弁していた。

 背後からの狙撃。

 それも銃声前に躱したのだ驚くなと言う方が無理であろう。

 だが別段不思議でもなんでない現象だ。

 祐一はただ殺意を感じ取って、、、、、、、、銃声前に弾丸を躱しただけだ、、、、、、、、、、、、、

 それでもソレをするとなると何年もの訓練が必要の筈だろう。

「殺意を感じたからな。それさえ感じ取れれば1km先から飛んでくるライフル弾だって躱せるさ」

「随分、簡単に言ってくれるわね」

 天月を構え眼光を鋭くした留美だが、その刹那六発の銃声が辺りに轟いた。

 その音の出は自分の真横。

 首だけを動かして隣りを見ると、銃口から煙を吹いているラグナロクを斜め上に構えた祐一がいた。

 次いで銃口の向いている方角を見る。

 そこには窓の縁に上半身を引っ掛けるようにして倒れている狙撃手がいた。

 それも身を潜めたビル全てに。

 祐一は一瞬にして、その場で身体を旋廻しながらラグナロクのトリガーを狙撃手達に向かって引いた。

 撃たれた弾丸は寸分ノ狂いもなく、狙撃手達の眉間に紅い点を穿ち、絶命させたのだ。

 まさに神業ともいえる銃技だ。

「バ、バカな! この距離から六人を仕留め――ッ!」

 男の言葉は最後まで続くことはなかった。

 祐一が間合いを詰め、抜刀した聖皇で男の首を躊躇うことなく切り落とした。

「さて、久々の殺しだ。愉しませろや」

 その言葉が死合開始の合図となり、90人近くの男達が襲い掛かってきた。

 両者の違いがここでハッキリと別れた。

 祐一は一人一人を一切の容赦もなく惨殺し、留美は一人一人を半日ほど起きないよう気絶させている。

 肉を裂く音、血が迸る音、打撃音、銃声、倒れる音がゴーストタウンにメロディーのように響き渡る。

 五分と掛からずに90人以上の男達が倒された。

「あんた容赦ないわね。殺すほどの相手じゃないのに」

 天月を納めながら祐一が引き起こした惨劇を見渡す。

 血が辺り一面に紅い海を形成し、切り落とされた手や足、首などがごろごろ転がっている。

 流石に祐一の手に掛かった連中は一人も生きてはいない。

「フン。殺さねェテメェがどうかしてるんだよ。敵は殺す。常識だろ?」

「裏の世界では、ね。こいつらの実力から言って殺すまでもない相手よ。あたしが倒した連中の場合は半日は目が覚めないから問題もないわ」

 そう言って留美が残りの連中が居るであろう廃ビル目指して歩みを進めた時、背後から銃声が六発轟いた。

 驚いて後ろを振り返ると、留美が昏倒させた内の六人が頭を弾丸で穿たれていた。

 そして撃った張本人はクィックローダーを使ってラグナロクの弾倉に弾丸を装填し、再び別の男達の頭に弾丸を撃ち込もうとする。

 それを留美が慌てて止める。

「何をしてるのよあんたは!?」

「……見て解んねェのかよ? 殺してるんだよ」

「相手は半日は目覚めないって言ったのに、どうして殺す必要があるのよ! 事が片付くまであと1時間も掛からないわ。その後警察を呼んだら十分不殺に済むことだわ!」

 祐一の行為に怒りを隠すことなく留美が怒鳴りつける。

 留美自身も命を奪うことはあるが、不要に殺したりはしない。

「だからどうした。俺が受けた任務はこのテロリスト共を一人残らず抹殺することだ」

 そう言って祐一は銃口を向け、指をトリガーを掛ける。

 トリガーが絞られると同時に祐一の首に天月の刃が押し付けられる。

「何度も言わせないで。殺す必要はないわ……それに気絶している相手を殺すのもどうかと思うわ」

「気絶してるものを殺すな? 綺麗事だな。戦いは殺るか殺られるかだ。気絶してようが戦意がなかろうが関係ねェ」

「かもね。でも、むやみやたらに殺すのはあたしの主義に反するのよ」

「キサマの主義なんか知ったことかよ。キサマの考えを他人に押し付けんじゃねェよ」

 敵地の真ん中で仲間割れを始める二人。

 いや、元々仲間でもないか。

「俺はこいつらを殺す。それが俺の任務だからな」

「相沢君、あんたさっき言ってたわね。ナマった身体や勘を取り戻す運動って。それはこいつら動けない連中相手を殺らなきゃ戻らないものなの?」

 留美の挑発するように言葉にトリガーに引こうとしていた指が止まる。

「……なんだと?」

「動かない連中より動く連中を相手にした方が取り戻せるんじゃないの?」

 そう言われ考え込む祐一。

 確かにこいつらは今気絶してるし、いつでも抹殺できる。

 だが今一番必要なのは抹殺よりナマった身体や勘を取り戻すこと。

 今自分が為さなければならないことは何かを考える。

 結論を出した祐一はラグナロクを収め、廃ビルに歩いていく。

 それに安心したのか留美はホッ、と息を吐き祐一の後に続いた。

 留美は祐一の隣に立つと疑問に思っていたことをぶつけた。

「ところでさ、さっき何であたしを助けてくれたの?」 

「あ? どういう意味だ?」

 祐一は留美の問いの意味が解らず首を傾げる。

 留美の場合は祐一が自分を弾丸から助けてくれたことが理解できなかった。

「サブマシンガンからあたしを助けたことを訊いてんのよ」

 その言葉に祐一の歩みが止まる。

 どうしたのか、と留美が顔を覗き込むと驚いたような信じられないような顔を浮かべていた。

「俺が……キサマを助けた、だと?」

「ええ、あたしを蹴ってね。っていうか、あんたまさか気付いてなかったの?」

「俺が助けた……そんな筈は……俺がキサマを助ける筈がない」

 祐一は自分が留美を助けたという事実に困惑している。

 というよりも自分が他人の命を助けたという事実に戸惑っている。

「残念ながら事実よ。ま、あたしも驚いたけどね。最初の頃は、あたしを殺そうとしてたあんたに命を救われるなんて」

「ッ! く、下らねェこと言ってんじゃねェよ」

 祐一はそう言って足早に離れていく。

「あれ? あれあれ? もしかしてテレちゃ――」

 留美の言葉は言い終わることはなく、銃弾が頬を掠めた。

 祐一の手にはラグナロクが握られ、銃口は留美の方に向けられている。

「五月蠅ェ」

 そう言うと祐一はさっさと目の前の廃ビルに向かって行った。

(この俺があの女の命を助けた? そんなバカなことある筈がない)

 祐一は未だに自分が留美の命を助けた事実を認められずにいた。

(うーん。相沢君、初めて出会った頃に較べると随分変わったわね。何かあったのかしら?)

 留美は留美で自分が変える原因になったことに気付かず変わった理由を考えている。

 祐一は別に助けたいと思って行動したのではない。

 研ぎ澄まされた危機感知能力により身体が勝手にを動き留美を蹴っただけだ。

 留美も祐一を変えてやりたいと思ってはいたが、変えるような行動はとった覚えはない。

 ただありのままの自分で接していたのだが、それが変える切っ掛けに繋がるとは思はないのだろう。

(ま、別にいいか)

 二人は同じ思考で結論付けた。

「さて、中に入るわよ」

 留美は廃ビルの扉に手をかけると、軋みながら扉が開いた。

 辺りには大小様々な木箱があり、その周りには鉄骨などが無造作に置かれている。 

 窓には木が打ち付けられ、天井は所々が抜け落ち二階部分が覗いている。

 人の気配はするが、物音一つしない静かな空間だ。

 否、物音はしていた。

 小さく、水気のある音が二人の耳に響く。

 祐一達の眼前、15メートル程の位置に木箱に座った男がおり、その男の前には全裸で首輪を付けられた一人の少女がいる。

 少女は男の股間に顔を埋め、頭を機械的に前後に動かしていた。

 二人は少女にナニをさせているのかを理解した。

「ようこそヴァルハラの人間よ。待っていたよ」

 男の言葉に留美が眉を顰める。

「ねぇ、相沢君。待っていたってどういう意味か解る?」

「ああ。俺が連絡しておいた。今からキサマらを潰しに行くぜってな」

 それを聞いて留美は呆れると同時に納得が言った。

 まるで侵入者が来るのを予測ように用意された包囲網。

 総てが解った。

 自分のナマった身体を勘などを取り戻すために祐一が用意させたのだと。

「お前の戦いぶりは拝見させてもらってたよ。流石は円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンドの一人だ。漆黒の装飾銃を見るとお前が漆黒の戦狼ヴェーア・ヴォルフだな? 驚いたよ、まさかこんなガキだったとは」

「そんなことはどうでもいいわ。あんたその子に何をさせているの?」

 留美が一歩踏み出し、男を睨みつける。

「何って、ナニに決まってんだろ。女なんざ所詮は男の性処理人形に過ぎないんだからよ」

「あんたっ!」

 留美が怒りを剥き出しにし、殺気を漲らせる。

「ふん。お前もこいつら同様に可愛がってやるよ。だが、その前にまずは漆黒の戦狼ヴェーア・ヴォルフの始末だ」

 男が少女の髪を引っ掴み乱暴に投げ捨てる。

「そいつを殺せば俺達の存在は裏世界に大きく響き渡る」

 沈黙している祐一を見ながら言った男は指を鳴らす。

 それを合図に二人を200人以上の男が取り囲んだ。

 だが男達は誰一人とて気付いていない。

「無駄な抵抗はするなよ、ガキ。抵抗しなけりゃ楽に殺――ッ!?」

 男の言葉が言い終わらない内に祐一の身体から殺気が溢れ出た。

 元々無表情だった表情が無機質なモノに変わっていた。

 殺気や殺意と言った感情以外の全てを消し去ったかのように。

 次の瞬間、周りの空気は一瞬にして凍りついた。

 誰もが動く事も許されない畏怖の重圧。

 先程の雰囲気はまるで無い。

 その姿は、研ぎ澄まされた刀身のような殺気を周りに撒き散らす“化け物”。

 そう、男達はこのことに気付いていなかった。

 リーダの男がさせていた行為によって祐一も自分でも理解できない怒りに満ちていたのだ。

(な、なによこのプレッシャーは……こいつこんなに強かったの!?)

 予想以上の殺気に留美の背筋に氷のような寒気が伝う。

 いや、それの方がまだマシかもしれない。

 こんなのを真正面からぶつけられたらたまったものじゃない。

 留美は真正面から殺気をぶつけられなかったことに安堵の溜め息を吐き、それと同時に円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンドが何故“化け物”と呼ばれるのかを理解した。

 恐らく、本気になった留美の師匠もこれと同じかそれ以上の殺気を放つのであろう。

「俺を殺すだァ? おもしれェじゃねェか。やって見せてもらおうか」

 冷たい言葉、殺意の篭った金色の瞳、そして体から溢れ出ている殺気。

 それらを一身に受けた男達は無意識に後ずさる。

「ククッ。逃げられると思ってんのか? 逃がさねェよ、誰もな……覚悟しろや。一人残らず鏖だ」

 誰もがその時後悔した。

 触れてはならないモノに触れてしまったコトに――

 開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったコトに――

「来ねェのか? ならこっちから征くぜ」

 その言葉で一方的な残虐劇の幕をあげた。

 祐一が一歩踏み出すのと、同時に男達が一気に恐怖を押し殺すかのように叫びながら祐一に襲い掛かる。

 それはもう黒い波の様に……

 だが祐一はそれに怯む事無く、不敵に笑うと地面を蹴り、黒い波よりも疾い黒い風が押し迫るソレに飛び込んでいった。





































 祐一達が殺しあってる最中に留美は隙間を縫うようにその黒い波から抜け出て、少女を助け起こす。

 瞳は光がまるでなく、焦点すら合っていない。

 完全に精神が、心が壊されている。

 留美はこういったゲスなことを平気でする男が反吐が出るぐらい大嫌いだ。

 留美はこんなコトを平気で仕出かした男に殺意を抱き男を睨む。

 男はそんな留美の視線を気にすることもなく、目の前で繰り広げられている一方的な虐殺劇を面白そうに眺めている。

 ――殺す。

 今、留美の心はこの男に対する殺意で埋め尽くされている。

 むやみやたらに殺す主義ではない留美だが、こういったゲスな連中は容赦なく殺す。

 だが、今はこの少女や他の少女を助け出す方が先決だ。

 この男の始末は祐一に任せることにし、留美は少女を抱きかかえて、男の後ろの出入り口に向かって駆け出した。

 男の側にあった布の掛けられた品物を気にしながら……





































 200以上の黒い波の中で一陣の黒い風が暴風の如く荒れ狂う。

 両手には抜刀した二本の小太刀が握られ、二刀を大きく振り上げ、鋭く翻し、しなやかに叩きつけ、そして斬り裂いていく。

 男達の首が跳び、心臓を抉られ、四肢が千切れ、血が迸る。

 引き裂かれながら斬り裂かれながら殺されていく。

「逃がさねェ。誰一人とて生かしちゃおかねェ」

 祐一の聖皇に斬り裂かれた男が断末魔の声を上げる。

 吹き出した返り血を浴びるより疾く、祐一は逃げようとする男達を仕留めにかかる。

 男達の叫びと命乞いが廃ビルに木霊し、次々と儚く消えていく命。

 錯乱したように乱射される銃弾と、それをかわす漆黒の影。

 夥しい量の血が壁中に付着し、血の海を形成していく地面。

 錆びた鉄臭が辺り一面に漂い、そこはまさしく紅蓮の地獄。

 『悪夢』『恐怖』『惨殺』『絶望』『狂気』『殺戮』

 そんな言葉が似合う殺戮空間。

 そして最後の一人を残し、祐一は人を殺しつくした。

「お、お願いだ……助けてくれ……」

 今にも消えそうな泣き声で、祐一に命乞いをする男。

 そんな男に何も言わず、ただゆっくりと近づいていく祐一。

「……た、頼む……命だけは助けてくれ」

 泣きながらも懇願する子供のように、足に縋りつく男を祐一は無機質に見下ろしている。

 男の問いに何も答えず、髪を左手を掴んで無理やり立たせてから顔を自分の方に向かせる。

 そして、祐一の唇がゆっくりと開かれた。

「死ね」

 喉仏に突きつけた覇王が、男の首を刈り取る。

 赤い鮮血を撒き散らし、刈り取られた首は地面に転げ落ちた。

 周りは血のアートの数々。

 壁には、多数の銃弾の痕が残っている。

 平和という言葉がこの世に存在するのか判らなくなるほどの残酷な空間だけが残された。

 小太刀の血を拭い、リーダー格の男を睨みつける。

「いやはや、素晴らしいね君は。手駒がなくなったことだし、どうだい俺と手を組まないか? 二人でこの世界を狂気に染め上げようじゃないか」

「黙れ……誰がキサマのようなゲス野郎とつるむかよ」

「そうか……それは残念だよ。実に、ね!」

 男は傍にあった布が掛けられていたモノから布を取り除いた。

 そこから現れたのは外部動力によって六つの砲身を回転させ、連続的に装填・発射・排莢を行う仕組みの銃器・ガトリングガン。

 一分間に200発もの弾丸を撃ち出す脅威の銃だ。

 砲身を祐一に向けると、弾丸が次々に飛んでくる。

 男は無闇にやたらとそのガトリングガンで祐一のいたところへと撃ち続ける。

 祐一は横に跳び、物陰に身を潜め弾丸を躱す。

 そこいらに転がっている死体にも弾丸が当たり肉片と血が飛び、頭部が打ち砕かれ、腸が細切れになり、四肢が跳ね、首が千切れ、頭が転がる。

 死んでいるとは言え、自分の仲間であった筈の者達を容赦なく無慈悲に潰していく。

 それを見ていた殺した張本人である祐一は何故か男の行動を不愉快に思い嫌悪感を抱いた。

 何故自分がそんな感情を抱くのか理解できずに祐一はさらに苛立つ。

 そんな感情をかき消すように物陰から跳び出し、男目掛けて一直線に駆ける。

 男も迫って来る祐一に再びガトリングガンを撃ち始めた。

【御神流・奥義之歩法・神速】

 砲身が回転し、火を噴くのとほぼ同時に祐一は神速の領域に入った。

 弾丸がモノクロの世界をスローモーションで螺旋を描きながら迫る。

 飛んでくる弾丸の数も一つ残らず視認できるが、それでも流石に速い。

 祐一は身体を横に流し、擦れ違うように躱す。

 弾丸の通り道の横を駆け、ガトリングガンの横を抜けると、覇王を振り上げ男の首目掛けて一閃。

 首を刎ね飛ばした。

 祐一が神速の領域から抜け出ると、モノクロだった世界が色を取り戻し全ての存在が本来の動きに戻る。

 男の指はトリガーに掛かったまま血を噴水のように激しく吹き出していた。

 ガトリングガンは男の指がトリガーから離れるまで弾丸を撃ち続けた。

 男の身体がゆっくりと崩れ落ちる。

 男は自分が死んだと理解する間も無く絶命した。

「――くっだらねェ」

 祐一は何に対してか、誰に言うでもなくそう呟いた。

 その言葉は地獄絵図と化した廃ビル内に静かに木霊した――……