グラウンドは真っ赤な夕焼けに包まれている
そんな見慣れた光景をただボーっと眺めながら私は校舎の淵に座っていた
……お別れの言葉も言えなかったな
今日でもうお別れ
二度と会うこともなくなるだろう
あの笑顔はきっともう想像の中でしか見れない
結局、私は弱いままなんだ……
なんとか奮い立たせて舞台に登ったけど、ただそれだけ
いざ本番になって幕が上がれば私は右往左往してるばかりの駄目役者
……最低だ
夏燐にも綾那にも申し訳が立たない
あれだけ後押ししてくれたのに私はこうして逃げて何もせずに座っているだけ……
「はぁ……」
思わず出た重く白いため息
……寒い
そういえば今日は雪が降るんだっけ
これ以上寒くなる前にこの場を離れようと腰を上げて――――
「あれ、そこにいるの桐生じゃないか?」
「え……?」
不意に耳に届いたのはここ最近で聞き慣れた、あの声
優しい声、長い手足、整った顔立ち
そしてあの笑顔
見間違えるはずがない
見上げた私の視界に映ったのは間違いなくあの人の姿で……
「ど、どうして、相沢先輩……」
「ああ。今日でこの学校とお別れかと思うと妙に全部が懐かしく感じてな……」
そう言って相沢先輩は膝をつくと、グラウンドを撫でる
慈しむように、優しく
「桐生はどうしてここに? もう帰ったんじゃなかったのか?」
「え……」
地面を見つめながらの質問に、私の心臓が大きく跳ねる
そ、そうだ、言わなきゃ
今がチャンスなんだ
「あ、あの……相沢先輩」
「ん?」
「あ……」
言わなきゃ
言わなきゃ後悔する
……でも私の口は一向に開こうとしない
――怖い
土壇場で湧き上がる恐怖に足が竦んで、口が開かない
喉が動かない
「…………っ」
言葉が出ない
いろんななにかが渦巻いて、何がなんだかわからなくなってしまう
「桐生……?」
先輩が怪訝な表情でこっちを見上げてきた
なんだろう、と思った瞬間落ちて地面を濡らす雫
私……泣いてる?
「どうした、桐生?」
心配そうな顔でこっちを伺う先輩の表情が歪んで見える
どうして私は泣いてるの?
どうして私は言葉が出ないの?
わからない
もう何もかもわからなかった
ただ怖くて
「……っ!」
「桐生!?」
だから私は逃げてしまった
差し出された腕から逃れるように背を向けて、私は走り出していた
意気地なしな私
臆病な私
根付いた私の恐怖心は、やっぱり払拭出来ていなかった
また目の前のことから逃げて……
私はいったいどこへ行くのだろう
私はあの頃から変わらず弱くて
この言葉を言ってしまったら何かが壊れてしまうようで
だから、そう
壊れてしまうならいっそ何も言わないで夢のまま終わらせたほうが良いように感じられて……
「あ……れ……?」
どこをどう走ったのか
私は数日前に相沢先輩に助けられたあの場所にいた
そう
ここで相沢先輩に会ったのはほんの数日前
なのにそれは随分昔のように感じられる
……もしもここであんなことがなければ、そうすれば――
「好きになったり、しなかったのかなぁ……?」
誰にともなく言った言葉は、そのまま私の心を強く突き刺した
痛い、痛い、痛い、痛い
ものすごく痛い
身体の奥、抑えられない
いつの間にか膝をつき、身体を抱いていた
誰か助け――――
「桐生っ!!」
それは救いの声だった
その声を聞いただけで痛みが引いた
「はぁ、はぁ……どうしたんだ、いきなり」
「あ、相沢先輩……」
目の前に相沢先輩がいる
私を追いかけて来てくれた
それがたまらなく嬉しかった
「相沢先輩っ!」
相沢先輩に抱きつく
私を二度も救ってくれた恩人に
「うわっ!」
驚く相沢先輩
「ど、どうしたんだ桐生?」
「うっ……ひっく……」
「泣いてるのか……?」
相沢先輩は泣いている私を優しく抱きしめてくれた
「もう、大丈夫です……」
「そ、そうか」
あの後
私が泣き止んだ後、周りに人垣が作られていた
それでここが交差点の付近だと思い出して
相沢先輩と私は顔を赤くしてその場から立ち去った
そして今、公園にいる
「――なぁ桐生?」
相沢先輩に声を掛けられる
「はい……」
まだ赤くなっているだろうと俯きながら返事をする
「好きな人っているか?」
唐突な質問
「――はい」
目の前にいます
私の一番好きな人です
でも私は臆病だから
そこまでしか口に出せないんです
「……そっか」
何か諦めたような、それでいて決心したような声
次の相沢先輩の言葉で私の頭は真っ白になった
だってそんなこと思ってなかったから
だって――――
「俺は桐生伊里那のことが好きだ。 遠距離になっちまうけど付き合ってくれないか?」
告白されるなんて思ってもいなかったんだから
「え、え、ええっ!!」
そりゃもう情けないような叫び
みっともない叫び
でも叫ばずにはいられない
「え、え、本当に、ですか?」
「ああ。こんなとこで冗談や嘘を言ってどうする?」
相沢先輩の瞳は真剣だった
ああ
両想いだったなんて
「でも、桐生には好きなやつがいるんだろ? 別に俺は――」
相沢先輩、勘違いです
「わた、私はっ。私は相沢先輩のことが、相沢祐一のことが好きなんですっ!」
「え――」
今度は相沢先輩が驚いた顔をした
そして
「ええーっ!!」
やっぱり叫んだ
それはもう鼓膜が痛いくらい
でもこのくらいの痛みなら我慢できる
「つ、つまり両想いだった、と?」
「そ、そうみたいですね」
しばしの沈黙
そして
「ははっははっ……」
「あはっははっ……」
2人で笑い合った
……………………
………………
…………
……
…
「はぁ……」
「どうしたの、お姉ちゃん」
「はぁ……」
「……駄目だこりゃ」
もう祐一さん――あの後恋人同士なんだからとこう呼ぶように言われた――が引っ越して1年が経った
メールでやりとりするのが主で、電話は本当に話したくなったときにすることにしている
そして昨日祐一さんから電話があった
『明日、そっちに帰るから』
素っ気無い一言
でも嬉しかった
それと反面、悩み事もある
祐一さんはかっこいい
それは周知の通りだ
なので向こうに行っているときに可愛い彼女を作っていたら
そんなことばかり考えてる
そう思った時、いつも電話をする
返ってくる言葉は
『そんなわけないだろ。馬鹿な事言うんじゃない』
嬉しいけど、馬鹿は余分なんじゃないかなぁ……
「――お姉ちゃんっ!!」
突然の大声
「わっ! ……って、綾那?」
それを出した張本人、妹の綾那は頬を膨らませていた
いかにも『私、怒ってます』って感じだ
「お姉ちゃん、さっきから呼んでたのに無視するんだから」
「ごめんごめん……」
それは気がつかなかった
なので前で両手を合わせて謝る
「まったく。今日相沢先輩が帰ってくるからって呆け過ぎじゃない?」
「そ、そんなこと……」
「ない、って言える?」
「うっ……」
祐一さん、綾那が私をいじめます
助けてください〜
「――姉妹喧嘩もほどほどにな」
ふいに低い男性の声
けど優しさが籠もってる
そんな声
「「あっ……」」
声のした方を向くと、立っていた
「よっ、伊里那。それと綾那もな」
「ゆ、祐一さん……」
「相沢先輩……」
いつの間にか祐一さんがいた
前より少し背が高くなっていて
それに何かすっきりしたような顔をしている
「それにしても変わってないなぁ……って1年でそう劇的に変わるわけないか」
何故か頬に何か感じる
手を当ててみると濡れていた
「伊里那……?」
1年前の時と同じ
私は泣いている
でもあの時と違うのは
これが嬉し泣きだから
「祐一さーんっ!!」
祐一さんに抱き付くために飛ぶ
「うわっ! ……いきなり飛んでくるやつがあるかぁっ!」
勢いつけて飛んだ私をちゃんと受け止めてくれる祐一さん
「いいじゃないですか。1年振りなんですから」
「私いらない子ですか……」
綾那が何か言ってるけど気にしない
だって祐一さんとずっと一緒に居られるんですから
その後、周りに人垣が出来ていて
1年前のように顔を赤くして走ったりしたけど
そして綾那からは散々からかわれる羽目に
でも祐一さんと一緒に居られるのなら私は大丈夫
絶対幸せになるんだからっ
あとがき
まず初めに
済みませんでしたっ!!
始めの方、普通にコピペっす!
平身低頭で謝ります
で、『冬の思い出』の二次創作
kanonの三次創作ですが
the sixth daysのifものです
意味がわかんない等は受け付けません
本人が分かってませんから(ぉぃ
こんなのでも流す程度に見てくれると嬉しかったりします
それでは、いつかどこかで
出来ればStarry nightでお会いしましょう(←ちょっと宣伝)