――長い年月を培い築かれてきたものでも、やがては終わりが訪れる。

 

「これで全部か」

 

 瓦礫の下から、まだ使えそうな家具を引っ張り出すと、ソラ=リースティンはそう呟いた。

 

 ――それはどんなものにも例外は無い。

 

「とと……危な」

 

 さすがに家具を持ったままだと、この瓦礫の上では身体強化を施していてもバランスが取り辛い。

 それでも何とか体のバランスを保ったままソラは家具を地面へと置いた。

 

 ――形のあるものは然り。

 

「ふぅ」

 

 一息つき、ソラは今まで自分が立っていた場所を見る。

 かつての姿は見る影も無い、たった一度の戦争により倒壊してしまった、自身の家だった物。

 

 ――そして、形の無いものも。

 

「これからどうすればいいと思うよ、アキ」

 

 今までに運び出した家具の上に置かれた写真立てに向かい、ソラはそんなことを問い掛けた。

 これでも思い出の一つや二つは詰まっていた我が家。

 それがここまで跡形もなく壊れたとなっては――本当にどうしようも無かったのだ。

 ソラの呼び掛けに答える者がいるはずもなく、写真立てに収められた写真に写る一人の少女、アキ=リースティンは変わらず満面の笑みを浮かべていた。

 

 ――故にソラは、今だけを見て生きる。

 

「本当、どうするかなぁ」

 

 写真立てから視線を外すと、今度はソラは意味も無く周囲を見渡す。

 かつては多くの人で賑わっていた通りもまた、今では見る影も無い。

 だがそれも仕方がない。

 

 ほんの二日前。

 カノン王国は、一度滅んだのだから。

 

 

 

   神魔戦記三次創作『いつか見る明日』

    第一話 壊れた国

 

 

 

 味気の無い携帯食料を齧りながら、ソラはぼーっと窓から外を見つめていた。

 ソラがこうしている今でも、外では復興作業が進み、カノンはカノンとしての姿を取り戻していっている。

 だが、それは実に不思議な光景だった。

 復興活動を率先して行っているのは、カノンの国民でもなければエフィランズのように周囲の街に暮らす人々ではない。

 

「自分達で攻めた国を、自分達で復興する――か」

 

 そう。

 今カノンを復興している彼等は、まさに二日前、カノンを攻めてきた張本人達なのだ。

 彼等は人間族や神族、魔族などが当然のように一緒に行動し、種族の壁なんて無いように声をかけあっている。

 それははっきり言ってしまえば、不思議な光景だった。

 元よりソラは種族に対しての偏見というものを持ってはいない。

 だからここに神族や魔族が当然のようにいることに不快感は抱かなかったが、それ故にそんな想いが先行していた。

 

「どんなことを考えてるんだか」

 

 決してそれは馬鹿にしているわけではない。

 ただ純粋に、ソラはそんな彼等に興味があった。

 種族という壁を超えた関係を持っている者達。

 そして、そんな者達が付き従うたった一人の王たる人物。

 会ってみたい――そんな些細な思いも生まれたりして。

 

「あー……全身が痛い……」

 

 そんな時、扉が音を立てて開き、一人の少女が家の中へと入ってきた。

 

「おかえり、疲れてるみたいだな」

「そりゃ疲れもするよ……。まだ手伝ってくれる人もそんな多くなくて、一人一人に掛かる負荷が半端じゃないんだから……」

「だったらもうちょっと身軽な格好で動きゃいいものを」

「ダメでしょ……これでも一応は見回りも兼ねてるんだから、何かあった時に対処できないとか笑えないって……」

 

 そう言いながら、少女は来ていた鎧を脱ぐと床に無造作に転がし、腰に付けていた剣もベッドの上に放り投げる。

 

「キミもさ、せめて手伝いぐらいはしてよ。こんなところで暇潰してる時間があるんだったらさ」

「今のところ、俺は自分優先で動かせてもらってるからな」

「まぁ……家がああなあっちゃったんだし、そこまで文句を言うつもりは無いけど――」

 

 そして肌着に手を掛け、胸元まで捲り上げて――。

 

「……っ!?」

 

 バッ、とその首がソラの方へと向けられ、

 

「ナイスサービス」

「で――出ていけえええぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

 その光景を見てグッと親指を立てたソラに向け、外にいた人が何事かと振り返るぐらいの怒号が放たれたのだった。

 

 

 

 そんなわけでソラは一度外へと追い出され、少女――シフォン=フィリスが着替え終わった後に再び中へと入れられた。

 ただし、今度は椅子ではなく床に正座することを強制されたが。

 

「……で」

 

 そうしてシフォンは見下ろすようにキッ! と正座したソラを睨む。

 

「どうしてキミが私の家の中にいたのかを説明してもらおうか」

「そりゃ、俺の家が壊れて住む場所が無くなったからだな」

「違う! 私が聞きたいのはそうじゃなくて、どうやって家に入ったのかを聞きたいんだよ!」

 

 どうにも勝手に家に侵入された挙句、着替えまで見られそうになったことでシフォンの怒りは頂点に達しているらしい。

 いやまぁ、正常な思考回路を持った女性であればそうなるのは当然なのだが。

 

「もちろん合鍵を使った」

「何でキミがそれを持ってるの!? 私恋人でも無いキミに渡した覚えないんだけどっ!」

「……扉前、右から四つ目の石畳」

「――っ!?」

 

 心当たりがあるのだろう。

 ビクッとシフォンの体が震える。

 

「不自然にその部分だけが出っ張ってたし、あれじゃあそこに何か隠してありますって言ってるようなもんだ」

「そ、そこを見なかった振りをするのが優しさで人としての常識じゃないの!?」

「それが空き巣とかに通用すればいいけどな」

「う、うぐぅ……」

「それは被るからやめとけ」

「え?」

「何でもない」

 

 ひとまずいい加減に足が痺れてきたので、正座を崩して床に胡坐をかく。

 シフォンも怒る気力を削がれたのか、ため息をついて椅子に腰掛けた。

 

「ただ、さすがに押しかけてるのは分かってるし、迷惑なら出ていくよ」

「……いいよ、何か色々怒りたいことはあるけど、そっちの事情も分かってるし。それに知らない仲でもないでしょ」

「まぁ、一応誤解を解くために言っておくけど、鍵は本当は開きっ放しだったから勝手にお邪魔しただけなんだけどな」

「え、嘘?」

「合鍵を見つけたのも本当だけど、必要なかったから手は付けてない」

 

 嘘でもなんでもなく事実である。

 ソラがこの家に来た時、鍵なんてものは掛かってはおらず、何の苦もなく扉は開いたのだ。

 まぁ実際に鍵が掛かっていても見つけた合鍵でお邪魔するつもりだったことは間違いではないが。

 

「……え? ってことは、何?」

「今までの全部、お前の空回り」

「――ッ!」

 

 顔を真っ赤にして肩当をぶん投げてきた。

 でも当たると痛いので避ける。

 

「避けるな!」

「無茶を言うな」

 

 こちとら、日々訓練に励んでいるような軍人ではないのだ。

 そこまで頑丈にはなっていない。

 そんなやり取りを数分。

 元より疲れてたところに拍車を掛けたのだから当然といえば当然だが、シフォンが折れて決着がついた。

 

「はぁ……もういいよ。何か怒る気も失せた……」

 

 怒るだけ怒っておいてその物言いもどうかと思ったが突っ込まないでおいた。

 一度ため息を吐いてから、それで? とシフォンはソラへ問いかける。

 

「ひとまずどうするの? 結構長い間いるつもりなら、部屋ぐらいは空けれるけど」

「俺の家があんな感じだからなぁ」

 

 つまりは立て直すのにも時間が掛かる。

 現状、復興活動は被害の少ない建物や通りを中心に行われているはずだ。

 被害が特に大きかったり全壊してしまった建物などの復興は、効率の関係上最後に回されてしまう。

 

「少なくとも今は行く当てが無いのは確かだな」

「うん、オッケー。それじゃあ今日中に片付けて、部屋空けちゃおうか」

「悪いな。迷惑掛けて」

「いいってば。こんな時だし、助け合わないと」

 

 照れもせずにそう笑ってあっさりと判断を出せるのは、シフォンという少女の美点だろう。

 だからこそソラだって何の気兼ねもなく頼れるわけなのだが。

 少なくとも、こんな唐突に部屋を訪れた知り合いを簡単に受け入れる者など、ソラは彼女以外に見たことがない。

 

「ま、もちろんその分は家事とかやってもらうからね?」

「一通りはこなせるから安心してくれ」

「知ってる知ってる。というかそうじゃないと私一人でやった方が早いし、こんなこと言わないってば」

 

 これでも一軒家で長いこと一人暮らしをしてきたのだ。

 それぐらいの生活スキルは身に付くというものである。

 ……というのも建前で、実際に一人暮らしを始めてすぐの頃は随分と悲惨なことになっていたのだが、そこは割愛しよう。

 

「何たって仕込んだのは私だからね」

「……読者の皆さんにスルーしてもらおうと思ってたのにこの娘っ子は」

「何のことかなー?」

 

 ニヤニヤと笑うシフォン。

 これではさっきと立場が逆だ。

 しかも言ってることは間違いでないのでなお性質が悪い。

 事実、ひょんなことからそんなソラの生活を知り、シフォンがお節介を焼いたのが二人の関係の始まりでもあるのだから。

 

「ま、それじゃあちゃっちゃと始めちゃおうか?」

「疲れてるんだろ。場所さえ教えてもらえればこっちでやっておくから休んどけ」

「ありゃ、いいの?」

「いいも何も無いだろ、世話になるのはこっちなんだし、自分のことは自分でやるよ」

 

 少なくとも、今回のことは家が壊れてしまったというやむを得ない事情がある。

 もとよりあまり他者に頼るということはしないソラだが、今回は例外として、もっとも信頼の置ける相手であるシフォンを頼ったまでのこと。

 だからそれ以外に自分で出来ることは、極力自分で済ませてしまう気でいた。

 

「うーん……別にもっと頼ってくれてもいいのになぁ……」

 

 しかしシフォンとしてはそれでは納得できないのだろう。

 故にそんなことを呟いてはいたが、そらは聞こえない振りをすることにした。

 どんなことであれ、線引きは必要なのだ。

 それはソラが一人暮らしを始める際に決めたルールの一つで、既に身に染み付いたと言ってもいいそれを今更破る気にもなれなかった。

 

「ま、いいや。キミがそういうなら尊重するけど、少なくとも他の家事ぐらいはさすがに私を頼ったりしてよ?」

「別にお前の下着ぐらいじゃ欲情もしないけどな」

「誰もピンポイントに洗濯のこと言ってないよ!? というかどーして遠回しに気を回せないかなキミはっ!」

「悪いな、性分だ」

「やっぱり出ていけ! ソラのバカーっ!!」

 

 本日二度目になる外まで響く怒号が、こうして響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 少女にとって、その世界は始めて見るもので溢れていた。

 城下に溢れる人々。

 そこにある喧騒。

 少女は長い間、日の当たるよりずっと深い場所にいた。

 そこから解き放たれたのはほんの少しだけ前で、それから少女は『外』の世界を知った。

 多くの人がそこに生きていることを知った。

 その人達にも多くの違いがあることを知った。

 そんな人達の中に、自分を受け入れてくれる人がいるのを知った。

 

「パパ」

 

 その姿を思い浮かべる。

 自分の存在を受け入れて、仲間と呼んでくれた。

 何も知らない赤子同然の少女に、この世界を教えてくれた存在。

 何故か知らないけれど、胸がぽわぽわとした。

 でも気持ちは悪くない――むしろ心地いい。

 

「たの……しい?」

 

 何か違う気がする。

 人並みには言葉は使えても、その意味をまだ理解しきれていない少女には、その気持ちを言葉にすることはまだ出来なかった。

 

「うん」

 

 分からないことは後で皆に教えてもらおう。

 少女はもう孤独じゃないのだから。

 そう決めて、少女はその思考を一旦他所へやる。

 

 ふと何気なく上を見た。

 

「青い」

 

 色は分かる。

 この世界を知って、一番に眼に映ったのは色だ。

 物を知らない少女に取って、真っ先に頭に浮かぶのは何よりもその色だった。

 

「空」

 

 続いて、名前。

 この世界のことを少女はまだ何も知らない。

 だから少しずつ学んでいきたい。

 誰かを殺すことにしか自分に意味を見つけられなかった少女だったが、今ではそう考えることが出来た。

 なんでか知らないけど、口元が緩んだ。

 

「あ……そっか」

 

 嬉しい。

 さっきは出なかった答えが、今度は出た。

 誰にも聞かずとも、その答えが出てきた。

 嬉しかった。

 

「嬉しい」

 

 言葉にする。

 胸がぽわぽわしていたのが一層強まったように感じた。

 何度のその言葉を胸の内で反芻する。

 どこか心地いいその気持ちに、このまま身を委ねようとした時だった。

 

『やっぱり出ていけ! ソラのバカーっ!!』

 

 どこからか聞こえてきたそんな叫び声に、少女はピクリと反応した。

 

「……そ、ら?」

 

 自分が今まで見ていたものを見上げる。

 雲一つ無い、晴天の空。

 『そら』がどうしたのだろう。

 

 何だかよく分からないことに、きょとんと少女は小首を傾げる。

 だけど考えても当然のように答えは出ない。

 疑問が増えるのはあまりいい気持ちではなかったけど、同時にやっぱり不思議な気持ちにもなる

 これも帰ったら聞いてみよう、そう決めて再び歩き始めようとして、

 

「ほら! やること無いなら夕食の買い物でもしてきてよ!」

「あーはいはい」

 

 バンッ! と急に目の前の扉が開いて、その中から知らない少年が飛び出してきた。

 飛び出した――というよりは押し出されたのだが、今の少女にそんなことを知る由はない。

 とにかく、それはあまりに突然の出来事過ぎて、少女は驚愕にその場に立ち竦んでしまった。

 

「さて――」

 

 その少年は、そこに立ち竦む少女には気づいてはいないようだった。

 軽くその場で伸びをしつつ、何かを思案するように辺りを見渡す。

 

「ん?」

 

 そこで、少女は少年と目が合った。

 

 

 

 

 

 

 買い物をして来い、とは言われたが、今はまだ空も明るい時間帯だ。

 このまま買い物に行ってすぐ帰ったところで、しばらく暇な時間が出来てしまうだけだろう。

 故にソラは、しばらくの間何処かで時間を潰すためにいい場所を求めて思考と視界を辺りに巡らせ、

 

「ん?」

 

 すぐ傍にびっくりしたように佇む少女を見つけた。

 おそらくは年端も行かない――そんな少女が、ぽかんと口を開けて突っ立っている。

 何で、とも思ったが、よく考えなくとも原因は自分にあるのだろう。

 いきなり飛び出す形になってしまったせいで、を驚かせてしまったのかもしれない。

 

「ごめんな。驚かせちゃったか?」

 

 そう思ってソラは、謝罪と少女を気遣うように話しかけた。

 が、帰って来た答えはソラの斜め上を行くようなものだった。

 

「おどろ、かせた?」

 

 きょとんとした表情で小首を傾げ、少女はそう不思議そうに口にしたのだ。

 これには、今度はソラがきょとんとすることになった。

 予想とは違う反応、というのもあるのだが、少女の反応はあまりに不自然すぎた。

 それはまるで、驚くというのがどういうことなのかすらを理解していないようで。

 

「びっくりしちゃったか、って意味なんだが」

 

 年端も行かない子供に言い聞かせるように、ソラは少女の視線の高さになってそう言い直した。

 なんで――というわけでもないが、ソラがそうした方がいいと思っただけだ。

 その甲斐もあってか、今度は少女はソラの言うことを理解したらしく、こくんと頷きが帰ってきた。

 

「うん……ちょっと、ビックリした」

「そっか。ごめんな」

「ううん、リリスは平気。えっと……どう、いたしまして?」

「……?」

 

 リリス、と少女は言った。

 おそらくはそれが少女――リリスの一人称なのだろう。

 

 それはともかく、だ。

 なんだか会話がかみ合っていなかった。

 本当に言葉を覚えて間もない子供を相手にしているような錯覚を覚えそうになってしまう。

 しかも、言葉自体はおかしいところがあるわけでもないので、なおややこしい。

 

「? 何か違った?」

「いやまぁ……『ごめんなさい』って言われて、『どういたしまして』って返事はあまりするものじゃないと思うぞ」

「そうなの?」

「そういう時は『大丈夫』とか『ありがとう』でいいんじゃないかな」

 

 謝られて、特に何もないのなら大丈夫と言えばいい。

 それが自分を気遣ってのことならばありがとうと言えばいい。

 それは簡単で当たり前のことじゃないだろうか。

 

「……えっと、じゃあ、ありがとう?」

「よく出来ました」

 

 なんとなく、その頭をぽんぽんと軽く叩く。

 リリスは驚いたように目を閉じたが、その辺りの挙動はやはり年相応の子供っぽかった。

 

「ところで、こんな所に一人でいて大丈夫か? 迷子、とかじゃないよな」

 

 ここもそれなりに人通りはあるものの、賑やかな場所ではない。

 それに回りを見る限りはリリスの親らしき姿も見えなかったので、少し不安になった。

 先の戦争で――という可能性ももちろん考えたが、リリスが持つ雰囲気的にそれはないと悟ったのだ。

 

「違う。佐祐理がいいよって言ったから、一人で散歩してるの」

 

 佐祐理というのは、母親の名前だろうか。

 

――……ん? 佐祐理?

 

 そう言えば……魔術部隊の隊長も確か、そんな名前ではなかっただろうか?

 

――いや、まさか。

 しかし、彼女に子供がいるなんて聞いたことはないし、どう見てもリリスぐらいの子供がいる年齢にも見えない。

 おそらくは同姓同名の別人なのだろう。

 

 それにしても、自分の母親を名前で呼ぶのも変な話であるが、その辺はあまり突っ込まないことにした。

 何も自分から関わりを作る気も無い。

 基本的にどんなことにも深く関わらず、厄介事は避ける。

 それがソラの基本スタンスである。

 

「それじゃあ、散歩の邪魔しちゃ悪いな。気を付けて散歩してくるといい」

「うん。大丈夫」

 

 根拠も無くそう言い切って、リリスは再び歩みを再開した。

 が、数歩を歩いたところで直ぐに立ち止まった。

 ソラが何かと思ってそっちを見ていると、リリスはもう一度ソラの方を振り返る。

 

「リリスは、リリスって言うの」

 

 自分を指差し、そう告げた。

 それが自己紹介だと気づくのには時間は掛からなかった。

 

「佐祐理が、始めて会った人にはちゃんと自分の名前を言わないとダメって」

「そっか。確かに礼儀は大切だし、な。俺はソラ=リースティンだ、よろしく、リリス」

 

 関わりは持たない、と言っても、さすがにこのぐらいの人付き合いはする。

 それはもう少し踏み込んだ、もうちょっと深いところのことだ。

 

「……ソラ?」

 

 しかしソラの自己紹介に、リリスは再びきょとんとしてしまう。

 

「空?」

 

 そして今度は上を見上げて――ソラはリリスの言いたい事を悟った。

 

「そ。その『そら』だよ。いい名前だろ」

「うん。凄く綺麗な名前」

「ん、ありがとうな。素直に言ってもらえると嬉しい」

「ううん。……えっと、どういたしまして」

「今度は正解」

 

 そう言うと、リリスは少しだけ表情を崩して、笑った。

 年頃の子供と見ればそれは些細な変化だったのかもしれないが、ずっと無表情に近かったリリスにとってそれは確かな変化だった。

 だから、やっぱりリリスは子供なのだ。

 それを知って、意味も無くソラは微笑ましくなった。

 

「それじゃ、またな。リリス」

「うん、バイバイ。ソラ」

 

 あまり引き止めるのも悪い。

 そう思って、ソラはリリスに別れを告げ、リリスも手を振ってから今度こそ大通りの方へと歩いていった。

 

「さて――どうしたもんかな」

 

 再び一人になり、ソラ再び思考を巡らせた。

 どこで暇つぶしをしようか。

 そんなことを考えながら、ソラもまた歩き出した。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 お久しぶりの方はお久しぶりです。

 初めましての方は初めまして。

 さて、再び神魔の三次創作ということで筆を取らせていただきました。

 今回の舞台は、カノン王国編終了時のカノン、となっております。

 神魔で語られている時間軸に合わせてしまうと、以前書いたものと話の流れが被ってしまいそうな気がしたので、神魔ではあまり語られていない数ヶ月間に物語を作ってみようと思いました。

 ですので、色々とぐだぐだになったりすることもあると思いますが、お付き合いいただけると幸いです。

 

 さて、ひとまず主人公について。

 簡単な設定を語っておきますと、まず軍には所属していません。

 ただ一応それなりには戦える――という感じですが、化け物スペックを持っているわけでもないのであしからず。

 それと、ソラは基本的にシフォンなどの例外を除いて、あまり色んなことに深く関わろうとはしません。

 簡単に言っちゃうと厄介事は避ける事無かれ主義に近いですね。実際には全然違いますがw

 

 それと、もう一人のオリキャラ――ヒロイン? な立ち位置のシフォンについて。

 まず、現状ソラとのフラグというものは無いです。これっぽっちも。

 話の流れ的にどうなるかは分かりませんw。

 こちらはソラと違い、軍に所属してそれなりに腕も立つ子です。

 また、ソラとは真逆で色んなことに首を突っ込んでいくような性格をしています。

 ぶっちゃけトラブルメーカーな元気っ子なので皆さん暖かい目で見守ってあげてください。

 

 今回は神魔キャラということで、リリスを登場させる運びとなったのですが……この時期のリリスってどういう感じに動くのかよく分かってません;

 なので色々違和感があるかもしれませんが、そこは指摘していただければ、以後気を付けて行こうと思いますので、よろしくお願いいたします。

 

 では、あまりぐだぐだ書くのも何なので今回はこの辺りで。

 無事完結出来ることを祈って――それでは、失礼します。