第41話 「正当と異端」





































「Since all it was not able to protect.
 守れなかった全ての為に

 Since all it was not able to tie.
 繋ぎ止める事が出来なかった全ての為に 」

澄み切った声が響くと同時に、世界が状態(カタチ)を変えていく。

「It was afraid in all and all were loved.
 全てを恐れ、全てを愛した

 In the inside of the big prairie like it cannot finish catching.
 捉えきれぬほどの大きな草原の中で                」

2種の異界創造が同時に行われていると言う事。

それは何処までもありえない事であり。

それは何処までも恐ろしい風景を作り上げていた。

互いの固有結界が現実の世界を半分ずつ侵食していく。

元々あった世界は徐々にその姿を消していき、

「One's language promised on that day.
 あの日に誓った自らの言葉は

 Oneself is poked and moved as a belief.
 信念として自らを突き動かす

 In order to kill people, to kill an evil spirit and to kill everybody.
 人を殺し、魔を殺し、皆を殺す為に

 As the revenge song to those who took,
 奪った者への復讐歌として

 As the requiem to those who were taken.
 奪われた者への鎮魂歌として

 It does not matter that there is nothing as being understood by whom.
 誰に理解されなくとも構わない

 Even if it falls to hell even if,
 たとえ冥府に落ちようとも、

 Just it took an oath on the young day.
 それこそが、幼き日に誓った

 −an eternal regret−
 −永遠の慟哭−                             」

無機質で何も存在しない剣の世界と、

「I consider the name of only one person and a darling person.
 ただ一人、愛しき人の名を思う

 The prairie which shines with gold
 黄金に光るその草原は

 Although it is immeasurable therefore, it is the fresh ground of lonesomeness.
 広大無辺であるがゆえに寂しさの境地

 Nobody follows and sticks to the place.
 故に誰もその場所には辿り着けずに

 The solitary sanctuary of me only.
 今もずっと私1人の、聖なる世界                         」

ただ黄金のススキだけが存在する風景とが鬩ぎ合う空間へと変貌していた。

二つの『固有結界(いじょう)』がぶつかり合う音は、もはや断絶魔に近い。

これ異常ない魔力と魔力の収束がぶつかり合い、お互いの心象風景をつぶしにかかる。

残るのは、異常の中でさえも残り続ける事が出来る椅子は、ただ一つ。

何も無い、異端が故に作り上げられた剣の世界。

魔術師であるが故に、正当であるが故に作り上げられた純粋な世界。                     

本人同士の生まれとは全く逆の構図で、異界は激突しあう。

「喰らい尽くしなさい、『海魔』。」

その終着を見届ける事無く、お嬢は自らが持つナイフに魔力(チカラ)と言霊を込めた。

地に潜るナイフは、処刑の為に存在する断頭台。

その様子を静かに受け入れ、

「舞い散れ、『桜花・守影』。」

仲間の証であったはずの景色の『天』と魔力を使う凶器であるからと言う理由から付けられた『魔』の字を

取り除いた、晃也が持つ最強の切り札を解放させた。

地中から這い出す大量の刀身。

それを事も無げに静止させる晃也の『桜花』。

黒く染まった桜の前に、『海魔』は攻撃を成立させる事が出来ずにお嬢の元へと戻った。

ふわふわと晃也の周りを浮かぶ、黒色の桜の花弁。

それは絶対の盾と同時に、

「…行け。」

最強の攻撃手段でもある。

神速を謳うほどの速度で、黒き桜がお嬢に襲い掛かる。

だがその速さでさえも、現在(イマ)のお嬢には届かない。

「『Patels Wall(花弁の城壁)』。」

1秒を数えるまでも無く現れた花弁の盾は−それは奇しくも本来の色である桃色の桜の花弁−、黒に染まった

凶器の花弁全てから、お嬢の身体を守り抜いた。

行き場を失い、再び晃也の周りを浮遊する『桜花』。

2人は、この場において間違いなく互角。

それならば、何が戦局を変えるのか。

それは、先程から耳障りな音を奏で続けている互いの固有結界の確立。

―――――自分の眼を疑った。

魔術師としての適正、および魔力の量では晃也はお嬢には及ばない。

確かに魔術師としての適正が恐ろしく高い晃也ではあるが、それでもお嬢と言う最強の魔術師には及ばない。

お嬢の魔術師としての適正は、もはや魔法使いの域に達しているのだから。

故に、普通の魔術行使での対決あれば敗北は必死。

ただ純粋に魔力比べをするならば、晃也の敗北は必死

だがそれは、あくまで普通の魔力自体を考えればの話。

物事には全て例外が存在し、その例外こそが戦局を変化させる事があるように。

存在自体が異端である『固有結界』という異種創造の鬩ぎあいなら、

「…勝負あったな、お嬢。」

より異端である、晃也の剣の世界が上回るのが道理。

埋め尽くされる剣と、それ以外の鼓動を何も感じさせない何処までも『無』を象徴とさせる風景。

その中心に、晃也は立つ。

「この世界で殺す者全てに言ってきた言葉だ。 

『俺の世界は出来損ないだ。俺の力は剣にしか特化していない故に、お前のような多種の魔術を放つ事は

 出来ない。 ただ剣だけがある、無機質な領域だ。 だが、歪ゆえに、一つの物事に対して何処までも

 強くなれる。 この世界は敵対する者全てを滅ぼす為に、存在している。』

 その意味が理解できないほど愚かではあるまい、最強の魔術師である水夏。」

明らかに異端であり、剣という1点にのみ特化した出来損ないの『固有結界』。

完成された魔術師は万能である事が多く望まれる事を考えると、落第としか考えられない『固有結界』。

だがその異端であるが故の突出した部分が、お嬢の均等である正当な魔術師として最もふさわしいカタチの

『固有結界』を撃ち貫いたのだ。

その事実を受け入れながらも、お嬢の表情に変化は無い。

「『天魔』と言う名を捨てても解放できるんだ、その武器。」

ただその紅き瞳でかつては『天魔』と呼ばれていた刀を見つめていた。

仲間だと疑いもせずに、自分たちの絆として捉えて来た武器を。

「…それ自体が思い違いだ。 この刀の元々の名が『桜花』。 

『君が大地に美しく咲く菜の花なら、俺はそれを空から見守り、それに負けない美しき桜になる。』

 この刀はただ一人、俺が誰より愛した少女、高町なのはとの誓いから生まれたモノだ。」

その言葉は、現在のお嬢にとってさえ衝撃的な発言だった。

つまり晃也には、最初から自分達は眼中に無かったと言っているのだから。

「かつて、初めて解放した時のような美しき桃色は消え失せたが、その色を黒く変えてからは攻防共に

 能力が大きく向上した。 …この刀は、護れ無かった後悔だけが残る刀だ、出来損ないの風景と共に

 あるのが最も自然な形だろう。 黒く染まった桜は、無機質な剣の世界にこそ映えるように。」

全てを黒に染めるほどの、圧倒的な憎悪と憤怒。

それこそが、現在(イマ)の最強の名を有する月宮晃也を作り上げていた。

「…流派永全不動八門一派、小太刀二刀術、御神・裏。 不破真刀流及び我流剣士、月宮晃也。

 この全てを捨てた世界で、相手をさせていただく。」

瞬間、鳴り響く指音。

開幕の音を聞いた無限の剣たちは、迷う事無くお嬢の元へと向かう。

その光景を燃え盛るような紅き瞳で見続けながら、

「来なさい、『Patels Wall(花弁の城壁)』!」

何を語るでもなく、始まる戦闘を黙って受け入れた。






































ズキンッ!

ようやく動き始めた痛覚が、意識を呼び起こす。

ずきずきと痛む12斬の傷を、意識的に気にしないようにしながらゆっくりと立ち上がる。

見渡す風景は、自分を除いた誰もがいない。

―――――また、自分ひとりが置いていかれた。

祐一はそれを即座に感じ取った。

アルクェイド・ブリュンスタッドとの戦い然り、自分より強い者と戦う時には必ず自分は蚊帳の外にいる。

その事実が、死にたくなるほどに自分を苛つかせた。

だが、祐一とて何時までもその場に立ち止まっているばかりの男ではない。

「存在さえ射殺せ…、『真槍・空魔幻蒼』…。」

死を覚悟した戦いの中で手に入れた、今の自分が最も信頼できる武器を呼び出し、意識を集中させる。

祐一の瞳が、ゆっくりと蒼く染まっていく。

かつてお嬢は七夜志貴との戦いの中で、祐一をこう分析していた。

『相手の特殊能力を奪取した』、と。

その分析は、一部の狂い無く的を射ていた。

祐一はあの瞬間、確かに七夜志貴が持ちうる最強の魔眼『直死の魔眼』を奪取していたのだ。

そしてそれは、今に繋がっている。

真槍・空魔幻蒼を使っている時の限定発動なのだろう、今この瞬間に目の前の空間の死が視えるのだから。

魔力が濃密された、ありえない部分を更に集中して視続ける。

幾多にも及ぶ死の線を束ねる点、それが見えた。

それを祐一は、迷う事無く撃ち貫いた。

音を立てて崩れる目の前の空間。

現実の風景を穿ち、入る事が出来た世界はただ剣のみの風景。

そこで眼に入ったのは、見たことも無いお嬢の表情(カオ)と黒き桜を纏い、無数の剣を宙に待機させている

−今でも自分が最も憧れる強さを持つ−晃也の姿だった。

息を一つ置く事も出来ない内に、此方へも飛んでくる無限の剣。

異端は、異端であるが故に異常を許さないとでも言いたいのか、本来の標的である筈のお嬢よりも幾分多くの

剣たちが祐一の命を狙いにかかる。

だがそれを、

「我流槍技の壱…、『轟(ごう)』!!」

裂帛の気合を感じさせる一声と共に繰り出された槍の一撃で、全てを吹き飛ばした。

我流槍技・轟、自分自身を回転軸とした力技としか考えられない槍技。

だが、一般の槍ならともかく真槍・空魔幻蒼であれば、その力技でほぼ全ての攻撃を薙ぎ払う事が出来る。

魔力の密度の高さ、解放武具としての完成度の高さがそれを成している。

そして、唯一剣技としても使用し槍技としても使用できる技の構えを取る。

右手を柄の部分に、左手を槍の先端を添えるような独特な構え。

最も得意で、最も早くに自分で編み出した自身最強の剣技。

お嬢と相対し、こちらを意識していない今しかチャンスは無い。

それをぼんやりとした意識の中で考え、

「牙…突!!!」

迷う事無く『神速』3段階目の領域に突入した。

『牙突』の速さは、元々の状態でも十分に速いといえる速度を誇っていた。

それに祐一が持つ最速の状態を加えれば、それは『神速』の4段階目にも届くほどの速度となりうる。

今もなお襲い掛かってくる剣の群れごと吹き飛ばしながら、晃也の心臓目掛けて槍は疾走る。

「舞い集え、桜花…『終景・黒幻桜(こくげんおう)』。」

ガギィィッッッ!!!!!

だが、それでさえも晃也には届かない。

晃也の周りを浮遊していた黒桜が、一瞬にして小太刀の形を取ったモノが祐一の一撃を止めたのだ。

『桜花終景・黒幻桜』、晃也が持つ解放武具『桜花』の最終形。

攻防一体であった無数の黒き桜を2振りの小太刀の姿に凝縮させ、攻撃力を爆発的に上げた解放。

流派永全不動八門一派、小太刀二刀術、御神・裏、不破真刀流及び我流。

すなわち、小太刀による攻撃を極めた晃也だからこそ最も力を発揮できる形状。

それこそが、晃也の最終解放なのである。

攻防一体である姿を捨て、極端なまでに攻を主体とするカタチを晃也は最終形に望んだのだ。

「…その程度の奇襲が、俺に通用すると思ったか…?」

静かに祐一の耳に通る声。

更に絶望を強くさせるその声と共に、再び無限の剣が動き始めた。