第36話 「決戦の場へ」









































エーテライトによる縫合を終え、丸3日祐一は眠っていた。

ようやく起きた祐一にかけられた一言。

まだぼんやりとする頭の中に。

響く、鋭い氷のような声で。

「…行けるか?」

「…ああ。」

たった一言。

だが、その言葉だけで事足りた。

今の二人に、言葉など必要ない。

やるべき事はたった一つ。

己の命を捨て去ってでも叶えなければならない、『誓い』のために。

「ならば、行くぞ。 『魔族』の姫、アルクェイド・ブリュンスタッドの首を貰い受ける為に…!」

今までとは明らかに違う、晃也の眼。

凍り付くほどの、殺気。

燃え盛るほどの、憎悪。

絶える事の無い、絶対の復讐心。

全ての『負』の感情を詰め込んだ眼で、その言葉を二人に告げる。

だが、二人は嫌悪感を抱くことは無い。

恐怖を覚えることも無い。

上位の戦者でさえも、凍り付かせるほどの視線を浴びているのに。

その理由は、ただひとつ。

残る二人も、同じ眼をしているから。

力無きあの頃を思い出しながら。

終焉の舞台を目指すことだけを、ただ考えているから。

――――不吉な予感を、必死に隠すように。







































目の前に見える、広大な城。

それこそが、『魔族』の姫であるアルクェイドの住む千年城『ブリュンスタッド』。

「この城の中心。 玉座に奴は居る筈だ。」

透き通る、晃也の声。

大きい声を出している訳でもないのに、妙に頭の芯にまで響く。

辿り着いた終焉の舞台に高揚しているのか。

今まで以上に、集中力が増しているようだ。

静かに、3人が同時に眼を閉じる。

視えたのは、遠く懐かしき風景。

視えるのは、力無き自分たち。

「…行くぞ。」

黒衣をはためかせ、晃也が先陣をきって歩き出す。

その大きな背中に導かれる様に、二人も歩き出す。

最後の戦いだと。

これで終わりなのだと。

願うように思いながら。






































走る。

疾走(はし)る。

全てを置き去りにせんとする勢いで、3人は中心に向かって走っていく。

本来城の中に居る筈の雑兵の姿は一つも無く。

妨げるものの無い3人は、更に速度を上げて目的地に向かう。

不意に感じる、2対の視線。

晃也の感覚網に察知された気配。

即座にそれを『透視』する。

この能力で、知らない筈の事を、知っている様に振舞わなければならないのだから。

―――――今は、まだ。

「…出て来い、黒白の夢魔。 そんな拙い気配の隠し方で、俺を欺けると思ったか。」

速度を落とし、気配の感じられる方向に視線を向ける。

その目線の動きと同時に飛んでくる、氷の矢。

それを『雪虎』で粉砕し、何事も無かったかのようにその場に立つ。

晃也の、圧倒的なまでの余裕の姿が気に入らなかったのか。

左右から同調(シンクロ)するように、2人の少女が現れた。

黒衣を纏った少女と、白衣を纏った少女。

揺れる銀の髪と、蒼の髪。

鏡像を思わせる二つの影は、どこか神々しく。

そして、それを上回るほどの禍々しさを纏っていた。

「ようこそ、千年城『ブリュンスタッド』へ。 でも、貴方達は此処から先には進めない。

私達を、殺さない限り。」

慇懃無礼な態度で、白の少女が語り始める。

黒の少女は黙ったまま、その語りを聞きながら、祐一達を牽制する。

白と黒の2対の殺気を伴った視線が、祐一達の体に纏わりつく。

しかし。

「…では、此処は俺一人で十分だ。」

その殺気ですら生温いと。

与えられる殺気の遥か上を行く殺気を以って、晃也が応える。

「…行け。 姫を倒す役割は、お前達の物だ。」

静かに、二人を促す晃也。

その言葉に反論は許さないと、ゆっくりと『雪虎』と『銀牙』を引き抜く。

その背に、祐一とお嬢は全てを託し、何の警戒もせずに黒と白の少女の横を走っていく。

2人の少女は動かない。

いや、動けない。

目の前の存在から眼を離せば、その瞬間に自分が死ぬ事になるだろうと、本能が理解したからだ。

それを理解(わか)っている祐一とお嬢は警戒する事もなく走り去っていった。

風に乗るように聞こえた

「…死なないでね。」

お嬢の、小さな声。

その音に、晃也は口元を歪めた。

いつもの様な微笑ではなく、どこか悪意さえ感じられる歪んだ微笑。

二人の姿、気配が完全に消える。

そこでようやく、晃也が口を開いた。

「感謝するよ、使い魔の黒白の夢魔。 お前達のおかげで最後の最後まで、俺の切り札を見せずに済んだ。

この戦いでは、出さざるをえないと考えていたからな。 あの二人の、前で。」

本当に嬉しそうに、口元を歪めたまま晃也は語る。

その意味を黒と白の少女は理解っていない。

晃也の考えている、奥底で滾っている気持ちを二人は知らない。

故に、理解不能。

だが、そんな事は関係ない。

目の前に存在するのは敵。

ならば、自らの力の最大を以って、

「……。」

「貴方の考えなんて知らないけど、此処で死んでもらうわ。」

白が黒の気持ちを重ねながら、言葉を紡ぎ。

その瞬間、二つの姿が目の前から消え去った。

晃也は動じない。

的確に風の乱れと、殺気の放出を静かに読み取る。

左右から穿たれる2対の氷の矢。

ギィン!! ガッ!!

それを、小太刀で弾き飛ばす。

黒と白は刀を振った瞬間に再び氷の矢を繰り出す。

少しでも体勢が崩れた瞬間を狙い、一気に氷の矢を放つ。

その数、合計20。

「ふ…、『Patels Wall(花弁の城壁)』。」

己を包み込む花弁の盾によって、弾き飛ばす。

「…それで終わりか、使い魔。」

溢れ出る殺気と、漲る圧倒的な自信。

その両を含んだ透き通る声が、黒白の少女の脳髄まで浸透していく。

「様子見は、無駄の様ね。 行くわよ、レン…!」

「……。」

白の少女の言葉に頷き、黒の少女が晃也に向かって駆け出す。

一歩で晃也の懐に潜り込み、下から突き上げる様に氷を放つ。

それを後ろに一歩下がり、何事もなかった様に避け、

ドォン!!

「……っ!!」

『銀牙』の柄の部分で、レンの鳩尾を突き上げる。

そのあまりの胆力に、体重の軽いレンはふわりと空中に浮かび、痛みを堪えながら着地する。

その隙を縫うように、レンの後ろから白の少女が疾走する。
 
両の腕に、魔力を込めて。

一撃で終わらさんとする威力を以って。

晃也は微笑う。

その動きを待っていたと言わんばかりに。

魔力の塊の部分めがけて、音も無く『雪虎』を投げ放つ。

「…っ!!」

高速で近づいてくる『雪虎』。

前に動いている力をそう簡単に止められる筈も無く、刃と体の距離は零に向かう。

諦めさえ覚えたその絶望的な距離。

「フルール・フリーズ…!!」

その間に割って入った、氷の刃。

幾重にも重なった氷の刃は、『雪虎』の侵入を許さない。

「もらったわ、その隙…!」

絶体絶命の一瞬を乗り越えて、白の夢魔が言葉を放ち。

白の夢魔の体が一気に発光し、魔力の渦と化す。

吹き荒れる氷の噴流。

それを、言霊に乗せて。

「フルール・フリーズ・クルールー!!」

絶対の力を込めて、必殺と為す。

黒と同じく、幾重にも重なった氷の刃。

その攻撃を、

「舞い散れ、『桜花・守影』。」

悪意のこもった微笑で、受け入れた。









































走る。

ひたすらに、中心を目指して走り続ける。

終わらせる為に。

誓った目的の全てを、果たす為に。

眼に見える大きな扉を、一刀の元に切り捨てる。

―――――佇むは、『魔族』を統べる白き姫君。

絶対の力を漲らせ、目の前に立つ『亜族(てき)』を無感情のままに見つめている。

「よく来た、忌むべき『亜族』の生き残り。」

優雅な声で、戦場とは程遠い声で、アルクェイドはそう言った。

「全てを終わらせる為には、お前の存在が邪魔だ…。 死んでもらうぞ、アルクェイド・ブリュンスタッド!」

今持てる最大の最大の殺気を放ちながら、祐一は剣を引き抜く。

凍てつく様な殺気の風が、玉座を包み込む。

それが心地良いと言わんばかりにアルクェイドは、微笑った。

「来るといい、亜族。 私を、殺したいのだろう?」

その言葉が紡がれた瞬間、祐一の剣はアルクェイドの心臓を目掛けて伸びていく。

無詠唱のまま、魔力によって剣を解放させ。

一撃必殺を、限りなく100%に近づける。

完璧に隙を突いた、祐一の一撃。

「…アルト・ネーゲル!」

自らの爪を振り上げるだけで、『空魔』の剣先を簡単に弾き飛ばす。

「Spiral Allow(螺旋の矢)!!』

その一瞬を、すかさずお嬢が狙い打つ。

攻撃態勢に移ったその体が反応するのは、まず不可能。

そのタイミングで放たれた攻撃でさえも、

ふわり、と。

何事も無かったかのように、体を一歩分だけ攻撃位置からずらす。

結果、無傷。

「これで、終わりか?」

殺気を含ませた微笑のまま、静かに問いかけるアルクェイド。

それが、目の前の存在が『魔族』の長である事を本能で理解させる。

晃也でさえ、通用するかも理解らない程の実力を。

―――――それでも。

「ボクたちの願いに、貴方は必要ない。 何があっても、此処で死んでもらうよ…お姫様。」

そんな事実は全てを弾き飛ばさん、と。

体内の魔力全てを漲らせて、お嬢が吼える。

それが、始まりの音。

その瞬間に、アルクェイドと祐一の姿が掻き消えた。






































キャラ詳細

黒・レン 白・レン

年齢不明

132cm 33kg

B63 W48 H61


能力値

筋力 D 耐久 C 敏捷 A+ 魔力 A+ 幸運 A 切り札 S

武器 無手

戦闘スタイル

付与された魔力による氷の精製→氷による攻撃を中心とする中距離戦闘。


武器 無手

得意技

フルールフリーズ       (黒)
フルールフリーズ・クルールー (白)

氷の精製の能力を最大限生かした技。
自分を中心とした全方位5メートルずつに幾重に重なった氷の刃を繰り出す。
なお、本人の意思によって方向の削除(前方のみなど)は可能。
名前の違いは同一だと嫌だから、らしい。


ホウマツノユメ (黒)

球状に作り上げられた純粋な魔力の塊を相手にぶつける。
特殊能力として『当たった者は10秒間の静止』という効果が付属される。
付属能力は絶対であり、幸運・魔力が高くても能力が損なわれる事は無い。


コチョウノユメ (白)

白・レンがもつ固有結界。
魔力を持つ人形体であるからこその到達点でもある。
万華鏡のような鏡の世界へ誘い、全方位からのノータイム攻撃を可能とする。
ただし、これは瞬間契約(テンカウント)が必要である(時間にしておよそ8秒)。

























アルクェイド・ブリュンスタッド (朱い月)

167cm 53kg

B88 W55 H85 

年齢不明

能力値

筋力 S+ 耐久 EX 敏捷 S++ 魔力 EX 幸運 D 切り札 EX

武器 無手

戦闘スタイル

圧倒的な実力による、無差別スタイル。

得意技

アルトネーゲル

己の爪に魔力を流し込み、巨大な壁のごときエネルギーを撃ち出す。
高さは約5m、幅は約3mまで広げる事が出来るので、簡易防御としても活用する。


アルトシューレ

自らの両腕に魔力を流し込み、腕を振り払う事で真空波を作り出す攻撃。
形状は円で、色は紅。
射程距離が長く、発動も早いので色々な場面で活用している。


プルート・ディ・シュヴェスタァ

空想具現化によって呼び出した偽りの月を相手にぶつける攻撃。
攻撃判定が非常に広く、相手側としては厄介極まりない一撃。


グナーデン・シュトース

アルクェイドが持ちうる最強の攻撃技。
詳細不明。


※ アルクェイドが『魔族』でありながら、魔力を持っている理由は後話にて説明。