第29話 「『Oath−The made promise−(誓い−交わした約束−)』」



































「射殺せ…『空魔(くうま)』!!」

祐一の言葉に応え、『死』を司る刀が吼える。

一直線に伸びていく、死を穿つ為の刀。

だが、七夜志貴だけには、その刀の能力は通用しない。

「懲りない奴だ…。」

少しだけ自らの体を沈め、

「斬ッ…!」

突き上げるようにナイフで『空魔(くうま)』を切り裂く。

その結果は、今までと変わるはずも無く、『空魔(くうま)』は行き場を失い元の姿に戻る。

「く…。」

混乱する頭を、何とか冷静(クリア)にしようとする。

が、今の祐一にそんなことが出来るはずがない。

左腕のあった場所から血がどくどくと流れ続けている状態で。

何とか『空魔(くうま)』を放っている間に、左腕は取り戻した。

今は氷付けにして、何とか保存している。

だが、考えられたのはそこまで。

とてもじゃないが、何の札もなしで志貴に勝てるわけがない。

刻一刻と削られていく体力。

それを見抜いていたのか、

「勝とうとする意思を持たない限り、俺には永遠に勝てないぞ、相沢祐一。」

心底蔑んだといわんばかりの眼で、祐一を見下す志貴。

その言葉に反論しようとするが、言葉が出てこない。

返す言葉がないほど的確なのと、意識が本当に朦朧としてきたからだ。

志貴の姿が、陽炎のようにぼんやりとしか見えない。

今までのやり取りが、蜃気楼のような幻の様にさえ思えてくる。

――――勝ちたいか?

何処からともなく、脳髄に直接響いてくるような声が聞こえた。

――――お前は、七夜志貴に勝ちたいか?

まただ。

混濁していく意識の中で、声だけがはっきりと聞こえる。

祐一は

『…勝ちたい。 俺には、勝たなければならない理由がある。』

その声に、そう答えた。

――――ならば、自らを解き放て。

どうやって?

俺はそんなやり方、知らない。

――――頭で理解できるモノでは無い。

――――己が最も記憶に残る風景を、呼び起こせばいい。

――――それがお前の『固有結界(せかい)』として、応えてくれる。

記憶に残っている…風景?

そんなの。

7年前の最悪の光景しか残っていない。

あんな風景を『固有結界(せかい)』に出来るはずがない。

俺自身が嫌悪しているモノを、自分の世界に出来るはずがない。

――――お前は忘れているだけだ。

――――お前が戦う理由は、誰の為だ?

俺の、戦う理由?

そんなの、残された『亜族』と殺された『亜族』の為に決まっている。

晃也とお嬢と共に、誓った約束を果たす為だけに戦っている。

それ以外に、考えられる事なんてない。

――――それはお前の真実か?

ああ。

間違っているはずがない。

間違いようがないんだ。

俺は、あの時そう誓ったんだから。

あの、丘の上で。

――――違うだろう?

――――お前が誓ったのは、ある人物の為だけのはずだ。

ある…人物?

頭の中に、一瞬誰かの姿が映ったような気がした。

だが、思い出せない。

霞がかったように、ぼんやりとしか見えない。

――――もう忘れたのか?

――――己が戦う為の、最も大切な理由を。

その言葉を聞いた瞬間、目の前に懐かしい風景がよぎった。

風が吹いている。

夕焼けに染まった村。

それを優しく見下ろす、一本の大木。

そしてその大木の枝にまたがる、一人の少女。

誰よりも好きだった。

誰よりも大切だった少女。

…あぁ、そうだった。

俺が戦う決意をしたのは…。

―――月宮あゆの為にだろう?
………あゆのためだけだった。

響いてくる声と、祐一の声が重なる。

Hあゆとの戦いの後が、あまりにも嫌な光景だったから忘れそうになっていた。

いや、忘れようとしていた。

この理由は晃也とお嬢に対する、裏切りと変わらないから。

あゆの為に戦い、あゆの敵をとる為だけに戦う。

それが、俺の一番の根源。

――――ならば、己が世界の姿は見えただろう?

――――あとは、感じるままに口にすれば良い。

――――世界は、必ずお前を受け入れる。

…わかった。

やってみるよ。

あゆとの誓いも、仲間たちとの誓いも守れるように。

朦朧とした意識のまま、祐一は静かに口ずさんだ。

自分の根源となった、あの大木の風景を謳う唄を。












































志貴は今にも崩れ落ちそうな祐一の姿を見て、

「…下らん。」

その一言で、一蹴した。

生粋の殺人鬼である志貴にとって、この程度の戦闘では満足に値するものではなかったのだろう。

あとはただ、人形の如き祐一を殺すだけ。

無表情のまま、ナイフを握り直す。

「この憤りは、月宮晃也と戦う事で、晴らさせてもらうとするか。」

そう一言呟いて、祐一に止めを刺そうとした。

その瞬間だった。

祐一の周りに、恐ろしいほどの魔力の渦が出来上がったのは。

「な…。」

今度ばかりは、流石の志貴も表情を変える。

ほとんど死に体だった祐一の体から、あれだけの魔力が放出されている事に。

…先程よりも、明らかに力を感じることに。

「 The monochrome reflected to an eye is natural.
目に写るモノは自然 
 
  The monochrome reflected to an eye is a hometown.
目に写るモノは故郷 

  The monochrome which flows to the heart is a wind.
心に流れるモノは風 
 
  Pulsating is the beat of a life.
脈打つは生命の鼓動 
 
  All were wrapped in and all were loved.
全てを包み込み、全てを愛した
 
  Only one forgotten sanctuary
  たった一つの忘れられた聖域 

  The promised promise is still under that tree.
誓った約束はイマもまだあの木の下に

Its body is also even its heart.
  自らの体も、自らの心でさえも

  It has put on that slightly elevated hill that made the promise.
約束を交わしたあの小高い丘に置いてきた

  When oneself dies in a life
  己が命の果てる時まで

  It continues protecting as a belief.
  信念として守り続ける

  That spectacle that shines.
  あの光り輝く光景を                       」

風に消えそうな、小さな、本当に小さな祐一の声。

だが、その声には意思があった。

虚ろになった目からは、信じられないほどの意思がこもった言葉。

その詠唱に、世界が目を覚ました。
























































「カット、カット、カットカットカットォォ!!」

叫ぶように言うシオン。

その声と同じ様に振り上げられる腕。

そして、その腕の動きと呼応して襲い掛かる、真空波。

嵐のような攻撃の前にして、晃也は微笑っていた。

「…面白い…。」

ギィン! ガギィ!! ギッ!! ギィン!!

二刀の小太刀を最大限にまで防御に使いつつ、シオンの攻撃を防ぐ。

上下左右、四方八方から襲い掛かってくる真空波を、目の動きだけで捉え

「…ふっ!」

ギィン!!

小太刀で弾く。

シオンの攻撃速度をさらに上回るほどの剣速で、薙ぎ払う。

力を解放させたシオンの攻撃を、正確に防ぐ晃也。

この時点で、勝負は決まっていたのかもしれない。

知性を落とし、能力を底上げしたシオン。

いまだ最強の技を出さず、相手を制している晃也。

違いは、明確すぎるほどだった。

「ぁぁぁぁ…、あぁぁぁぁっっっ!!!」

狂ったような叫び声をあげて、シオンは銃を取り出す。

この状況を、頭ではなく体で感じ取ったのだろう。

状況をひっくり返すには、この技しか考えられないと。

「…興ざめだ、シオン=エルトナム=アトラシア。 錬金術師は自己を保つ事が第一の定義。

それを放棄したお前に、何の興味も沸かない。 ここで、終わらせてもらう。」

そんなシオンを冷たい声で突き放す。

しかし、自ら動こうとはしない。

両手の小太刀を構え直したまま、止まっているだけ。

晃也は、待っているのだ。

シオンの最強の攻撃を。

それを防いで、完全な意味で倒す事しか頭にない。

敵を倒す時は、完膚なきまでに叩きのめすのが基本だと言わんばかりに。

突き刺さるような殺気を放出しながら、シオンの攻撃を待つ。

その意図に気付いたのか。

ドンッ!!

地面を激しく蹴り上げると、一瞬で晃也との距離をゼロにし

「ブラックバレル、レプリカ…フルトランス!!!」

ドォン!!!!!

晃也を突き上げるように、その一撃を放った。



























『魔族』設定集












七夜志貴 (ななやしき)

17歳

178cm 63kg


武器


ナイフ

銘は『七夜』。
『直死の魔眼』という超Aクラスの反則技を持っているので、このナイフ1本で
どんな敵でも殺すことが出来る。
なお、『死期』を持たない物も存在する。


魔力 −

『魔族』なので、魔術を行使する事は出来ない。
あえて言うなら『直死の魔眼』が魔術に近い存在。
数値化するなら、明らかにEX(測定不能)。


戦闘スタイル

ナイフによる近接戦闘


得意技

閃鞘・八穿 (せんさ・はっせん)

空中から打ち下ろす攻撃。
高速で走り出し、その勢いは殺さぬまま空中に飛び、視界から消える。
人間の視界の範囲を上手く利用した技。


閃鞘・七夜 (せんさ・ななや)

高速の走りからの、中段切り。
速さがあるので、掠っただけでもダメージは自然、大きくなる。


閃鞘・八点衝 (せんさ・はってんしょう)

近距離から、ナイフによる斬撃を連続で繰り出す技。
リーチは短いので、あまり使わない。


閃鞘・迷獄沙門(せんさ・めいごくしゃもん) 

七夜志貴の最強の技。
『直死の魔眼』と己の身体能力をフルに活用し、一瞬で相手を17個の肉片に変える。
発動した瞬間、志貴から膨大な殺気が放出されるので、並の実力者はこの時点で『死』が
確定する。


能力のパラメーター

筋力A 敏捷S+ 耐久A 魔力− 幸運C 切り札EX(測定不能)


補足説明

その他、細かい設定は『月姫』や『メルブラ』の七夜志貴と同じ。

なお、志貴が『姫』に従っている理由は、簡単に殺害理由が出来るからで、あまり上下関係はない。

が、志貴が本気を出しても『姫』には敵わない。









遠野秋葉 (とおのあきは)

16歳

163cm 46kg


武器

特になし
自身の能力が『炎』による攻撃なので、使う必要がない。

  
魔力 −

秋葉も『魔族』なので魔術は使えない。
が、秋葉の能力(チカラ)は、限りなく魔術に近いので、使えない事は問題ない。


戦闘スタイル

炎による、万能型。


得意技

紅主・檻髪 (せきしゅ・おりがみ)

秋葉の最強の技。
最も威力が高いのは零距離に持ち込んでの、一斉放出。
だが中・遠距離からでも使用可能。
どうしても分散化してしまうため、威力はやや低くなるが。


能力のパラメーター

筋力A 敏捷A 耐久A++ 魔力− 幸運A 切り札S


補足説明

細かい設定は七夜志貴と同じく。

なおこのSSでは、秋葉と志貴は義兄妹ではない。

秋葉は実力の差によって『姫』にしたがっている。










シオン=エルトナム=アトラシア

20歳

167cm 48kg


武器

鋼糸 

鋼を極限にまで薄くした糸のような形状の武器。
切る事だけではなく、縛ったりする事も可能なので、非常に便利。
が、リーチなどを常に考慮に入れないといけないので、人気は薄い。




シオンの銃は実弾専用。
ただ強度が半端では無いので、錬金術を生かして作った銃弾も使用可能。
ただしそれは、連発が出来ない。


エーテライト

これは厳密に言うと武器ではない。
相手の神経系と接続させ、相手の行動を操作できる特性を持つ。
なおそれは自分にも適用されるので、(人体の)縫合にも利用できる。
ほとんど擬似神経のようなものである。


戦闘スタイル

鋼糸・銃による中距離戦闘



得意技

ブラックバレル・レプリカ

相手の懐に入り込み、突き上げるように銃弾を打ち出す技。
なお、この技に使用する銃弾は実弾ではなく、シオンが精製したもの。
エネルギーの塊が全てを粉砕する。
なお、シオンの生命力をさらに注ぎ込み威力を上げるモードを『フルトランスモード』と呼ぶ。


能力のパラメーター

筋力A 敏捷B 耐久A 魔力− 幸運C 切り札A+
           ↓ 覚醒後(吸血鬼化)
筋力A+ 敏捷A 耐久S 魔力− 幸運E 切り札A+






補足説明

細かい設定は志貴・秋葉と同じく。

シオンも秋葉と同じく、実力の差によりしたがっている。

なお、シオンの吸血鬼化はタタリの吸引ではなく、姫の吸引によるものである。