「くっそう、冗談じゃない。何でこんなに!」

 樹が自分用にチューンアップしたディンで何とか応戦するが一機に対しての機体数が桁がもう既に違っていた。

『緑葉、無理はするな。なるべく艦から離れるな。』

「わかってるよ、紅女史。くそっ!」

 艦に近寄りながら両手で構えたショットガンでまた一機、ストライクダガーを打ち抜いた。

「稟、まさか逃げたんじゃないだろうな。」


新起動戦記SHUFFLE


  第3話「守りたいもの」


「さらに6時の方向、MS3。」

 オペレーターの口から更なるMSの接近が告げられる。

「くっ、迎撃!」

 撫子の言葉と同時に艦の迎撃システムが作動し近づいてくるMSに向かって牽制する。

「ああ〜んもう、ちょっとなっちゃん、これ以上はやばいって!」

 麻弓が撫子に悲鳴にも似た声を上げる。

「あきらめるな、まだ何とかなる。緑葉、一点突破だ。海に逃げる、こっちに合わせろ。」

『ちょっと、紅女史。稟達を見捨てるって言うの?』

 撫子の発言に即座に樹が反応する。

「体制を立て直す、連合の目的もよくわからん。こっちの言い分も聞かずにここまで一方的に襲われてはこっちの身がもたない。つっちー達なら大丈夫だ、あいつらなら自分達でどうにかしてここから脱出するだろう。」

 確かに稟達なら自分達でどうにかするだけの力を持っている。

 ここは信じるしかない。

「わかったよ、紅女史。何とか頑張ってみるよ。」

 頑張るか・・・・・・何とも俺様らしくない言葉だ。

 樹はそんなことを思いながらディンを駆って連合のダガー部隊へと向かっていった。


 緑葉のディン一機ではハッキリ言ってきつい。本来ならば自分達はこんな戦闘などには関わらず早々に立ち去るべきだ。

(少し軽率だったか・・・・・・。)

 戦闘の指示をしながらそんな事を考えていた。

 連合の目がカグラに向いている今なら大丈夫だと思ったが・・・・・・。

 だが、いまさらそんな事を考えても仕方が無い。

「とにかく勝とうと思うな、逃げれればいい!」

 少し怒鳴りながら撫子が叫んだ。

 すると敵機の接近を表すアラームの警告音が響いた。

「後方よりMS1、これは・・・・・・カグラの例の新型です。」

 オペレーターの声で全員にどよめきが走る。

「もう入手したって言うのか、くっ。」

 ここまでか、そんな事が頭を過ぎったがその機体が艦に向かって接近して来ていたロングダガーをビームライフルで打ち抜いた。

「何?」

 なぜ自軍の機体を打ち抜く?

 その疑問はモニターに映った顔と通信回線から聞こえてきた声によって解決された。

『紅女史、こちら土見稟です。』

「なっ、お前、何で?」

 色々な疑問が撫子の頭を覆う。

『理由は後で話します。とりあえず手短に状況の説明だけ、俺の他にブレイドにシア、エクストラにネリネ、カタリナに楓が乗っています。』

 他の三機にもそれぞれ乗っていると・・・・・・。

 ん、ちょっと待て今・・・・・・。

「おい!、ちょっと待てつっちー、芙蓉も乗っているってどう言うことだ?」

『それは・・・・・・!』

 話の途中であったがその隙を狙ってダガーが一機スパイラルに向かいビームライフルを放った。

『くそっ!』

 それをブースターでかわし手に持っているビームライフルでそのダガーを打ち落とす。

『とにかく今は時間がありません、最悪の時は俺が何とかします、だから。』

 仕方ない、状況が状況だ。

「わかった、だがつっちー・・・・・・死ぬなよ。」

 モニターの稟は一度頷くと前線へと機体を飛ばしていった。


「あっ、・・・・・・うっ・・・・・・。」

 カグラの新型に乗っていたシアとネリネは初めての戦場に途惑っていた。 

 稟や樹からMSの操縦の仕方は教えてもらった。もちろん武器の使い方も、だが・・・・・・。

 いざその場になると体が動かない。

 心臓の音が耳に大きく聞こえる。

『シアちゃん、右!』

 不意に聞こえた声に反応してそちらを見ると、一機のダガーがビームサーベルを振り上げ切りかかってきていた。

「つっ。」

 それを片手に握っていた対艦刀で受け止めるが、その後が続かない。

 剣先が鈍ったのを相手のパイロットは見逃さなかった。

「あっ。」

 相手のMSが受け止めた対艦刀を力任せに弾きコックピット目掛けてビームサーベルを突き刺す。

 死ぬ。

 シアがそう思った時、急に目の前の機体が爆破した。

『大丈夫、シアちゃん?』

 通信の聞こえた方を見ると一機のディンが目に入った。

 あれは確か緑葉君の機体だったはず。

「緑葉君。」

『シアちゃん、撃てないんなら下がるんだ。リンちゃんも。』

 ショットガンで相手を牽制しながら二人に告げる。

「でっ、でもそれじゃあ緑葉君は・・・・・・。」

『戦えないんだったら同じだよ。』

 遠まわしだがジャマだといわれている事はわかる。

 でも・・・・・・。

『ああーっ、もう!』

 業を煮やした樹が突如ネリネの機体を掴み飛び去っていく。

『緑葉様!?』

『シアちゃん、もう少し粘っててよ、落ちちゃダメだからね。』

 そんな言葉を残し去っていく樹とネリネの機体を横目で見ていたシアだがすぐにそんな余裕は無くなっていた。

 既に目の前には別の機体が迫ってきていた。


「っ・・・・・・う・・・・・・。」

 楓はMSのコックピットの中で途惑っていた。

 心臓の音が耳に大きく聞こえる。

 喉が渇く。

 気がおかしくなりそう。

 不意に目の前にストライクダガーがビームサーベルで切りかかってきた。
 
「あっ・・・・・・!?」

 楓は反射的にMSを操縦してサーベルを交わすと体は自然に手に持っていたビームランスでその機体を薙ぎ払うよう動いていた。

「あっ・・・・・・あっ・・・・・・。」

 また私はMSに乗って・・・・・・人を殺した・・・・・・。

 あの時と同じ・・・・・・。

 楓の脳に過去の記憶が甦る。

 自らの手で何十機、何百人と人を殺した記憶が・・・・・・。

 ナニヲシテイルノ?

 頭の中に直接声が響いてくる。

 ナンデモットコロサナイノ?

 殺したくないから。

 MSニノッテイルノニ?

 本当は乗りたくなんか無い、こんなもの。

 デモノッテル、ミズカラノイシデ。

 それは・・・・・・。

 カワッテ、ジャナイトミンナシンジャウヨ。

 みんなが・・・・・・死ぬ・・・・・・?

 ワタシガタスケテアゲル。

 いや・・・・・・。

 アナタヲカイホウシテアゲル。

 次の瞬間、楓の瞳には今までとは違う光が輝きだした。


 OSを上書きしておいて正解だったな。

 やっぱこっちの方がしっくりくる。

 稟は機体を操作しながらそんな事をふと思っていた。

 ナチュラル用のOSでも操作はできるがコーディネイターの自分にはやはり専用のOSの方が格段に操作性が上がる。

 だが今はその事に感動している場合じゃない。早く楓を探さなければまたとり返しのつかない事になる。

 自らに襲ってくる連合の機体をビームライフルで牽制、あるいは打ち落とし楓の機体、カタリナを探し続け・・・・・・。

「楓ー!」

 前方にカタリナの反応を確認すると稟は機体のスラスターを全開にしてその反応に近づいていった。

 そしてその反応が目で確認できる位置まで近づくと・・・・・・。

「か・・・・・・え・・・・・・で・・・・・・?」

 地獄、そう呼ぶに相応しい光景がそこには広がっていた。

 カタリナは自機に襲いかかるMSをまるで自らにまとわりつく虫を振り払うかのように無造作にそして確実に破壊していた。

 しばらく稟はその壮絶な光景を前にして動く事ができなかった。

 一番恐れていた事が起こってしまった。こうなる前に止めたかった。

 様々な思いが稟の胸中を駆け巡っていた。

 すると前方で戦っていた機体、カタリナがこちら側に狙いを定め襲いかかってきた。

 信じられない速さで襲い迫るカタリナの一撃をシールドで防ぐも後方に吹き飛ばされてしまう。

「ぐっ!」

 まるでトラックにぶつけられたかのような衝撃が稟を襲った。

 スラスターで衝撃を和らげ機体の体勢を整えると腰からビームサーベルを抜きカタリナに迫った。

 カタリナのビームランスとスパイラルのビームサーベル、二つの光刃がぶつかり激しく火花を散らす。

「楓ー!」

 激しいせめぎあいの中で訴えるように叫ぶ。すると聞きなれていながらもまるで別人のような声色が耳に入ってきた。

『ツチミリーンッ!』

 楓?・・・・・・いやイヴか!

 数度の交錯の後、二機の間に距離が空きその瞬間を狙って他のMSがスパイラルとカタリナに襲い掛かった。

「ちっ!」

 稟はその機体をビームサーベルとビームライフルで牽制し、敵機を遠ざける。

 カタリナの方に視線を向けると襲い掛かる敵を全て一撃の下に撃墜していた。

 そして襲い来る敵機を全て一掃した後、またこちらに狙いを定めてきた。

『アアアーーーッ!』

 叫び声を上げながら切りかかって来るカタリナを稟は捌ききるだけで精一杯だった。

「ぐっ・・・・・・あっ!」

 数回の斬り合いの後、稟の機体が大きくバランスを崩した。

 しまった!

 目の前にカタリナのビームランスが目前に迫る。

 その光刃が機体に触れると思われた直後カタリナに向かい射撃が行われた。

『クッ!』

 とっさの攻撃にアンチビームシールドを掲げて防御体勢に入る。

 その隙を見逃さず稟は機体を大きく後退させ体勢を立て直した。そして射撃の行われた方向に視線を移し驚いた。

 ブレイド?シアか・・・・・・いや、でも今の動きは・・・・・・。

『稟、大丈夫か?』

「樹!、おまえ・・・・・・何で?」

 ブレイドにはシアが乗っていたはずだが・・・・・・。

「シアとネリネは?!」

『大丈夫、俺様がちゃんと・・・・・・稟!』

 樹の声に反応し目線を前に戻すとカタリナのフォルティスビーム砲から放たれたビームが迫っていた。

 とっさに機体をひねりその軌道から何とか機体を反らす。

 どうやら呑気に会話などしている暇は無いようだ。

「くそっ!」

 ビームライフルをカタリナに向かい撃つが全て紙一重で交わされてしまう。

『ハアーーーッ!』

 スパイラルに向かいまたもカタリナのビームランスが迫るが・・・・・・。

『楓ちゃん、落ち着いて!』

 横から樹の乗ったブレイドが手に持った対艦刀で寸前の所でその光刃を防いだ。そしてそのまま力任せに横に振り抜きカタリナを吹飛ばした。

「今の楓に何を言ってもダメだ、完全にイヴが表に出ている。」

 稟自身、もう既に感じていた。こちら側を完全に殺しに来ている以上、イヴとして対応しなければならない。

「気を抜いてると瞬殺されるぞ。」

『ああ、稟もね。』

 そう短く言葉を交わすとこちらに向かって放たれたビームを境界線に二機は二手に分かれた。

 数度の攻防の後、稟は不意に妙な事に気が付いた。

 ダガー部隊がいない・・・・・・?

 先程まで大量にいた連合のMSが一機も見当たらなくなっている。

『稟!』

 樹の声とほぼ同時にカタリナからビームが発射される。それを稟はアンチビームシールドで受け止めこちらもビームライフルで打ち返す。

 今はそんな事気にしている場合じゃない、目の前のこの状況を何とかするのが先決だ。

 余計な考えを捨て稟は機体を走らせた。


 稟と樹が楓のカタリナと対峙していた時バーベナの方は・・・・・・。

「やっとこちらの言葉が届いたのかな・・・・・・。」

 連合のダガー部隊が下がっていく様子を見て撫子はフーッと一息ついた。

「ハ〜〜ッ・・・・・・でもさ、なっちゃん。」

 大きく息を吐きながら椅子に全体重を預けるようにもたれ麻弓が声を上げた。

「ん、どうかしたか麻弓?」

「ほぼ半壊の状態にまでしときながら退却って明らかに変じゃない。」

「まぁ確かにな、ここまで追い込んでおいて今更退却など普通ではありえん。」

「じゃあさ、なっちゃんはなんで退却してったかわかるの?」

「さあな、だがそのおかげでこちら側が助かったのも事実だ。」

 今のバーベナの状況からしてこれ以上攻めてこられたら撃沈は免れなかっただろう。

 そういった意味ではこの状況は正に不幸中の幸いといった所だろう。

「麻弓、こっちはもういいからシアとネリネの方を見てきてやってくれ。いきなりMSに乗ってあんな状況だ、精神的にも参っているだろう。」

 撫子がそう言うと麻弓は椅子からヒョイッと飛び起きると・・・・・・。

「アイアイサー!」

 と敬礼ポーズとると一目散にドアから出て行った。

 その様子を見てまた一息つくと・・・・・・。

「お前らも毎度毎度すまんな。」

 周りにいる他のクルーにそう告げた。すると回りから苦笑が漏れた。


「はい、これでもう大丈夫ですわ。」

 バーベナの医務室ではシアとネリネがカレハとツボミの治療を受けていた。

「でもまー、あんな状況で打ち身だけで良かったって。」

 隣でその様子を見ていた亜沙が声を上げた。

「・・・・・・でも稟様と緑葉様がまだ・・・・・・。」

「あはははは大丈夫大丈夫、緑場君も行ってくれたし・・・・・・きっとね。それに・・・・・・。」

「それに?」

 亜沙の言葉にシアが聞き返す。

「二人は見ないほうがいいよ、きっと・・・・・・。」

「うん。・・・・・・誰にだって他の人に見せたくない姿ってのはあるのよ。」

 重い空気がその場にのしかかる。

「あの、・・・・・・昔カエちゃんに何か・・・・・・。」

 シアがそんな空気の中、亜沙に訊ねようとした時・・・・・・。

「お二人さ〜ん、だ〜いじょうぶ〜?」

 麻弓が医務室のドアを開けテンション高めの状態で入ってきた。

「麻弓さん。」

「いや〜まあ色々あったけど後は土見君と緑葉君にまかせて後は高みの見物といきましょうか。」

 そう言いながらシアの背中を叩きながら高らかに笑い声を上げている。

 麻弓の登場により今までの重い空気が吹き飛び場に和やかな雰囲気がおとずれた。

 その様子を見て亜沙も苦笑を浮かべる。

「大丈夫だよね、稟ちゃん・・・・・・楓・・・・・・。」

 天井を見上げ愛しい人達の名をそっと呼んだ。


「はーっ!」

 稟がビームサーベルで切りかかったがアンチビームシールドで受け流された。

 しまった!

 そして体勢をを崩されたスパイラルにすかさずカタリナの銃口が向けられる。ほぼゼロ距離で今にも発射されるかと思われたがその時カタリナに一本のワイヤーが突き刺さる。

『こんのー!』

 ブレイドから発射されたロケットアンカーがカタリナを捕らえ中に放り投げた。

『ジャマダ・・・・・・。』

 中に投げだされたカタリナが今まで手に持っていたアンチビームシールドをブレイドに向かって投げつけた。

『オマエハジャマダ!』

 そのシールドがブレイドに当たるかと思われた時、カタリナからフォルティスビーム砲が放たれブレイドの直前でシールドを粉々に砕く。

 予測外の行動と爆風による衝撃でブレイドの体勢が大きく崩れる。

「樹!」

 その声に反応し咄嗟に期待がわずかに左に動く前方の土煙の中から何かが飛来しブレイドの右肩に突き刺さった。

 それはカタリナのビームランスだった。

 さらに追い討ちをかけるようにカタリナがブレイドに接近してきた。

『ハーー!』

 ブレイドの間近までくると力任せにそのビームランスを下に切り落とすと続けてコックピットに向けてその光刃を向けた。

 ほぼ反射的に地面の方へと機体をずらすとカタリナの横薙ぎの一閃がブレイドの頭部を切り払った。

「イヴー!」

 ブレイドがボロボロにされていく様を目の当たりにして稟は我を忘れてカタリナに向かっていき、そのまま勢いに任せて肩からカタリナに体当たりした。

 スパイラルの接近に気付きシールドを構え防御体勢に入っていたカタリナはどうやらたいしたダメージを受けた様子も無く後方に少し吹飛ばされた程度だった。

「樹、大丈夫か?」

『な・・・・・・き・・・・・・が』

 途切れ途切れにノイズと共に通信から聞こえてくる声を聞いてひとまず安心する稟。右肩が切り落とされ、頭部もない状態だがどうやらコックピットの方はどうやら無事のようだ。

『ツチミリィィィン!』

 安心したのも束の間にカタリナがまたもこちらに向かい機体を走らせてきた。

 稟もカタリナに向かって機体を走らせた。

 今の状態のブレイドに近づけるわけにはいかない。

 ブレイドはもう既に大破寸前。ならば自分一人でどうにかするしかない。

「だぁぁぁーっ!」

 再びスパイラルとカタリナの間に火花が迸る。

 数秒の鍔迫り合いの後、スパイラルがカタリナを大きく吹飛ばした。

「これで!」

 追い討ちをかけるように肩口からバッセルビームブーメランを投げつけた。

 回転して襲いかかる光刃がカタリナの右足を切り裂いた。だがカタリナは右足を失いつつもフォルティスビーム砲をスパイラルに向かい放ってきた。稟はスラスターを使い間一髪の所でそれを避けるが続けざまにビームライフルが放たれる。

 その後、距離をとっての攻防がしばらく続いた。

 カタリナは右足が破損しているにもかかわらず凄まじい機動力を見せスパイラルに襲い掛かってきた。

 稟の攻撃を巧みにかわし凄まじいプレッシャーを放ちながら迫るカタリナを前に稟は徐々に追い込まれていった。

 何とか・・・・・・何とかしなければ・・・・・・。

「イヴーーーッ!」

 稟は危険をかえりみずカタリナのビームの中に突っ込んでいった。数センチずれれば機体に穴が空きそうな状況のなか、カタリナに近接するとアンチビームシールド越しにカタリナに体当たりを行った。

 スパイラルがカタリナとの間にアンチビームシールドを挟んで覆い被さるように地面に倒れこんだ。

 後は何とかイヴを気絶させれれば・・・・・・。

 だが稟の思惑とは裏腹にここでカタリナはアンチビームシールドに向かいビームライフルで零距離射撃を行ってきた。

「なっ!?」

 アンチビームシールド越しだったためスパイラルにダメージは無いがカタリナのビームライフルが零距離の衝撃に耐え切れず爆発し、同時にグリップを握っていた右腕も失われた。その爆発でできた僅かな空間を利用しカタリナが機体を振り回すかのような動作を行いスパイラルを吹飛ばした。

 予想範囲外の行動に一瞬判断に迷いが生じたためスパイラルの着地の体勢が僅かに崩れてしまった。その隙を狙いスラスターで強引に起き上がり空中からフォルティスビーム砲を放ちながらビームランスを構えカタリナが迫ってきた。

『オワリダー!』

 フォルティスビーム砲をアンチビームシールドで受け止めるが度々負担をかけていたアンチビームシールドがついにその威力に耐えきれず激しい爆発音と共に砕け散ってしまった。

「がぁっ!」

 爆発の衝撃で体勢がさらに崩れた所へカタリナのビームランスが目前まできていた。

 ・・・・・・ここで死ぬのか・・・・・・?

 ・・・・・・楓に・・・・・・殺されて・・・・・・。

 稟の脳裏に昔の映像がフラッシュバックのように思い出されていく。


 森の木々の間を少年と少女、三人が何かから逃げるようにひたすら走っていく。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・。」

 早く、早く遠くに。

 少年の少女の手を握る力に一層力が入る。

 しばらくすると前方を走っていた少年がふとその走りを止めた。

「おい、祐一! どうしたんだ、早く!」

「稟・・・・・・俺、やっぱ戻るわ・・・・・・。」

「ちょっ!? おまえ!」

「あの人、やっぱほっとけない。」

 その言葉を聞いた途端、稟と呼ばれた少年は言葉を詰まらせた。

「あの人ならきっと大丈夫だと思うけど・・・・・・やっぱ理屈じゃないんだよ。」

 そう言うと祐一と呼ばれた少年はスッと二人に背を向け腰から拳銃を取り出し右手に構えながらまた喋りだした。

「だから稟、後は頼んだ。」

「祐一・・・・・・。」

「楓も・・・・・・なっ!」

 首だけ振り返り二人にニコッと微笑んだ。

「祐一・・・・・・君。」

「早く行け、追っ手は俺が何とかする。だから稟・・・・・・楓を・・・・・・頼む。」

 その言葉を聞き少年の少女を握る手にさらに力強くなる。

「ああ、わかった。楓は俺が・・・・・・。」


 守り抜いてみせる!

 遠のきそうになった意識が一気に覚醒したのと同時に肩口からバッセルビームブーメランを取り出しカタリナのビームランスを半ばから直接砕き、そのまま勢いに任せその場で一回転するとカタリナのコックピット付近に直接回し蹴りを叩き込む。

『アウッッ!』

 カタリナはスパイラルの急な動きに何の対応もできずにスパイラルの回し蹴りをくらい吹き飛んで地面に倒れたかと思うと動きが完全に停止した。

 助かったのか・・・・・・。

 その様子を見ると稟に凄まじい虚脱感が襲いかかりコックピット内で完全にだらけてしまった。パイロットスーツを着ていなかったのがどうやら功を奏したようだ。

 しばらくボーっとしていると樹から通信が入った。

『稟、大丈夫か?』

「樹、通信直ったのか?」

『通信だけは何とかね、それよりそっちもどうにかなったみたいだね、俺様が60点をつけてやろう。』

「何だよその中途半端な点数は・・・・・・まあ何はともあれ楓を今のうちに連れて行こう。ブレイドは動けるか?」

『頭部と右腕は無いけど動くだけなら何とかね。』

「よし、じゃあ早速カタリナを・・・・・・!」

 樹と共に足早にこの場を去ろうとした時、機内に敵機接近の警告音が鳴り響く。

「このタイミングでまたか、くそっ!」

 自然と愚痴がこぼれるような心境だった稟だがそこに表れた機体名を見てその心境が驚きに変わる。

「GAT−X105 ストライク!?」




  あとがき

 かなりお久しぶりなヤイバです。

 もう少し早くと言いながらかなり遅くなってしまいました。

 次はどうなるかわかりませんがお付き合いいただけたら幸いです。

 では。