喫茶店で連絡を受けてから二十分ぐらいして港に着きバーベナの作戦室に入ると主だった面々が既に席につき待っていた。
「やあ、稟。重役出勤かい?」
そういって話し掛けてきたのは「歩くセクハラダイナマイツ」こと、緑葉樹だった。
稟はその言葉を丁重に流し麻弓に話し掛ける。
「紅女史はまだなのか?」
「そうなのよね〜、なっちゃんあれからず〜っと深刻な顔して部屋に入ったっきりなのですよ。」
「やっぱさーあのRAMが原因かな?」
麻弓の隣に座っている「驚愕の時雨」こと、時雨亜沙が聞いてきた。
「そうですわねー。・・・・まさかあれにはあ〜んな事やこ〜んな事が、まままあ〜♪」
「きゃきゃきゃあ〜♪」
カレハ、ツボミの姉妹も健在のようだ。
「りっちゃん達も何も聞いてないの?」
亜沙の母、亜麻がこちらに顔を向け訊ねてきた。
「私達も何も聞いてませんよね?」
楓の答えに稟、シア、ネリネもウンウンと頷いた。
そんな事を入り口で話していると後ろから声が聞こえてきた。
「おっ、つっちー達も丁度来たか。席につけ、これからちょっと真面目な話がある。」
新起動戦記SHUFFLE
第2話 「今の世界」
この場には稟、楓、樹、亜沙、亜麻、麻弓、カレハ、ツボミ、撫子の結成当時のメンバーとシア、ネリネの二人を足した11人がいた。
撫子が大型のモニターの横に立ち淡々と話し出した。
「まず最初にみんなにこれを見てもらいたい。わかってると思うがあのRAMのデータだ。」
そこには膨大な量のデータと共に5機のMSらしき画像が映し出された。
「これ、MSのデータですか。」
「・・・・しかも、俺様が知ってる限り連合のGシリーズに酷似しているけど。・・・・新型だね。」
稟が驚きの声を上げ、樹が答える。
「ああ、緑葉の言ったとおり明らかに新型だ、連合のGやダガーとも違う。私も連合にいた時に色々なMSを見てきたが初めて見る技術が大量に使われている、正直驚いた。」
「確かに今まで見た事無い技術がいっぱい使われてるね、お母さん。」
「そうねあーちゃん。」
時雨親子が画面を見てまじまじと答える。
整備、開発担当としてはそれなりに興味があるらしい。
確かにそこに映し出された技術は連合独特のものだが所々ザフトの技術も見られる。
そこでいったん話が切れ、撫子がまた話し出した。
「だが、問題なのはそこじゃない。このRAM自体がザフトに渡ろうとしていた事だ。」
紅女史の一言に全員が押し黙る。
「カグラは連合だ。こんな物を普通ならザフトに送る筈は100%絶対に無い。だが送られた、この意味はもうわかるな・・・・。」
このRAMがザフトに渡ろうとした、この事がどういう事か全員わかっていた。
「・・・・カグラが・・・・ザフトと手を組むって事ですか。」
稟が全員を代表して声を出した。
「正確には組んでいたという事だ。」
「えっ、なっちゃんどう言うこと?」
麻弓が聞き返すと撫子が無言でモニターのスイッチを切り替えた。
「そして、こうなった。」
全員の視線がモニターにくぎ付けになる。
そこには連合の攻撃を受けるカグラのニュース中継が映し出された。
「おそらく情報と技術のこれ以上の漏洩を恐れて連合側が焦ったんだろう。今思えばつっちーと芙蓉の件もいわゆるカモフラージュだったんだろうな。」
「カモフラージュ・・・・ですか?」
楓が聞き返す。
「これほど重要な物を国関係外の者を関わらせるなんてこと普通はしないだろ。まっ、それでも感づかれてあんな結果になってしまったがな。」
稟が視線を撫子に向け声を上げる。
「連合の目的もあのMSですか?」
「恐らくは、と言いたいがまだ確信はない。それだけの情報を既に持っていたかという疑問が出てくる。」
モニターではまた一機MSが爆発していく。
「カグラとザフトの軍も頑張ってはいるがやはり連合の物量には勝てないだろう。カグラ側の敗北も時間の問題だ。」
稟もその意見には同意だった。
モニターでも連合軍の優勢は明らかだった。
撫子がため息をフゥと吐くと口を開いた。
「下手をすればこの一件、引き金になりかねんな。」
「いや、俺様の考えではもう手遅れだね、今のザフトのトップはあの久瀬だ。喜んで戦争をまた起こすよ。」
久瀬明、大戦後もプラントで反ナチュラルを掲げナチュラル排除を押していた人物。
前議長の失態に付け込みに議長にまでのし上がった男だ。この人物になってから便利屋の仕事もプラント相手には一気に減ってしまっていた。
「それに連合にしてもコーディネイターを毛嫌いしている者も大勢いる。」
樹の発言にみな押し黙る。
種族の問題、このバーベナにしても無縁とはいえない問題であった。
実際今でこそないものの便利屋結成当時は色々と争いがたえなかった。
できない者ができる者への嫉妬。できる者ができない者を見下す。
実際それが理由でこの艦を降りていく者も多くいた。
「まっ、これ以上暗くなるのもなんだ、ここでこの話は終わりにしよう。で、次に仕事の話なんだが・・・・。」
「何か入ったんですか?」
シアが撫子の話の途中に口を挟むと撫子は苦笑を浮かべながら・・・・。
「残念だが何も入っていない、この国はどうも平和らしい。いい事なんだがな、まーこういう結果なら仕方が無い。それでそろそろ別の国に移動しようと思うんだが・・・・。」
全員の顔を見る限り反対の意見は無いようだ。
「で、次はどちらの国に行かれるんですか?」
ネリネが撫子に質問を上げる。
「あんな事になってしまったからな。しばらくすれば連合かプラントのどちらかぐらいから復興の要請も来るだろうが・・・・それまではカノンの方に行こうと思う。」
カノン
エルサと共に中立大国として有名な国である。規模こそそれほど大きくないが、技術力等は下手をすれば連合、ザフトを上回るのかも知れない国でありマスドライバー等も保有しており独自のMS開発にも成功している。
だがその一方、他国との軍事的接触を極端に拒み今では技術貿易を行っている国は同じ中立国であるエルサだけという国でもある。
前大戦では『動かざりし国』としても有名であった。
・・・・まぁ、行くこと自体は賛成なんだが・・・・。
「あの国、入れるんですか?」
稟が不安げに問う。
そう、あの国は入国チェックも厳しい。
以前入ろうとした時は危うく不審者扱いされそうになってしまった。
「安心しろ、この国の関係者に紹介状を書いてもらった。あと、全員分の身分証も作ってもらったからな。これがあればすんなり入れるはずだ。」
その言葉に一同ホッとした。
「よーし、なっちゃん。そうと決まったら早速出発しよう。」
「ああ、でもちょっと待て。その前に寄るとこがある。」
「寄るとこ?」
麻弓が目をパチクリさせて聞き返す。
「ああ、気になる事があってな。」
撫子の発言の次の日、稟達はエルサからおよそ丸一日かけてとある島に来ていた。
どうやら無人島のようだ。
バーベナを海岸につけ稟、楓、シア、ネリネ、樹、麻弓が探索に出ていた。
そして二時間・・・・収獲、特になし。
「ちょっと土見君、こっちであってんの?」
麻弓がボヤキ出した。
「確かに紅女史にコピーしてもらった地図だとこっちの筈なんだけどな。」
フーッと稟がため息をついた。
「でも確かにこう何も無いとねー。」
シアも麻弓の意見に賛成のようだ。
「そもそも本当にこの場所に何かあるって言う信憑性が疑いたくなってくるね。」
麻弓の後ろから樹が不安な事を言う。
今彼らがここにいるのは撫子の提案だった。
あのRAMを解析したところザフトとエルサのいくつかの軍事工場らしき地図がでてきた。
その中で一つだけ撫子の知らない個所があった。
いくらザフトの軍事工場だとしても連合でも上の立場にいて様々な分野に顔を出していた撫子が知らない所となるとそれなりに興味と好奇心が掻きたてられてここに来ていた。
だがバーベナで上から確認したところ特に何も見当たらなかったが印がある以上何かあるはずという訳でここに来ているのだが・・・・。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜もう、何にもな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。」
ついに麻弓が叫びだした。
まあ、気持ちはわからないでもない。
なぜこう何も無いんだ。
「本当に何もな・・・・。」
そう言いきる前に前方で何か動いたような気がした。
自然と全員に緊張が走る。
草むらの陰から銃口らしき物がチラッと見えた。
「よけろ!」
反射的にそう叫び横の草むらに身を投げ自分はハンドガンに手を伸ばす。
全員がどうにか身を隠すとそれまで自分達がいた場所に銃弾が通過していった。
「チッ。」
自然と舌打ちが出てくる。
それと同時にハンドガンをその相手に向けたが・・・・。
「きゃあっ!」
ネリネが隠れた拍子に足を踏み外し崖から落ちそうになってしまった。
「リンちゃん!」
とっさにシアが手を伸ばすが支えきれずに一緒に崖から落ちていってしまった。
「稟!」
一瞬相手から目を離した所に先ほどこちらを狙ってきた相手が銃口を向けていた。
やられる、そう思った瞬間。
バンッ、バンッ。
そう音がした後、前で銃を向けていた相手が倒れた。
「油断大敵だよ、稟。」
樹がハンドガン片手にゆっくりとこちらに歩いて来る。
「それよりシアちゃんとリンちゃん大丈夫かな。」
四人が崖下を見てみるが木々で隠れてよくわからなかった。
「シアちゃんとリンさん、大丈夫でしょうか?」
楓が心配そうな声を上げる。
「わからないがとりあえず二手に分かれた方がいいな。」
「土見君、どゆこと?」
稟の発言に麻弓が聞き返してきた。
「さっき襲ってきた奴を見ろ、連合だ。しかもこちらを未確認で射殺しようとしてきた。」
撫子がこの場所を知らない事から恐らくカグラのザフト軍用の工場か何かと思っていたが・・・・。
まさか連合が来るとは・・・・。
まずいな、下手をすればここが戦場になる可能性がある。
恐らく俺達をザフト関係と勘違いしたのだろう。
「とりあえずバーベナに戻って紅女史に知らせるのと、シアとネリネの救出に分かれよう。」
そう言った途端、樹が弾かれたように声を発した。
「よーし、じゃあ俺様がシアちゃんとリンちゃんを救出に行くから他の人は早く紅女史に知らせに行きなよ。」
「救出してどうするつもりだ、緑葉樹君?」
「もちろん当然俺様のあつ〜いベーゼでぅえ。」
最後まで言い切る事無く麻弓の強烈な一撃を受け樹はノックダウンした。
「はははー、んじゃ土見君、楓、二人の事よろしくね。私はこの粗大ゴミもって帰るから、何かやばそうだからなるべく早く帰ってきてね。」
そう言うとどこから出したのか縄で樹を縛って引きずっていった。
「はぁ〜、あいつ事の重大さがわかってるのか?」
「さ、さぁ?」
楓も苦笑するしかないようだ。
ともあれ早く二人を見つけないといけない。
楓と二人で少し遠回り気味に崖を下っていくと人影が見えた。
少し近づいていくとそれがシアとネリネだとわかった。
「お二人とも大丈夫ですか?」
楓の声に反応して二人がこっちに気付き手を振ってきた。
近づくにつれ二人とも特に大きな怪我は無い様なのでホッとした。
「ええ、何とか。」
「あっちこっち擦り傷はできちゃったけど。」
どうやら木々で勢いが和らいだのと落ちた所が砂だった事が幸いしたようだ。
「よし、じゃあ早いとこバーベナに戻ろう。」
さっきの事もあるので早めに戻ろうと来た道を引き返そうとしたとき・・・・。
「ほう、もはやここまで兵が来とるとわな。」
木々の間から低い声がしてしばらくすると杖を突いた老人が木々の間から出てきた。
歳にして70か80歳ぐらいだろう。
その鋭い視線がこちらを窺ってくる。
「最近のザフトはえらく人手不足のようだな、それとも連合か?」
こちらに向かって訊ねてくる。
どうも言い方に刺があるように聞こえるが・・・・。
「あっあの、私達は別にザフトでも連合でもありません。」
シアの言葉を聞きこちらを見回した後口を開いた。
「ふっ、まぁいい。こっちに来い。怪我の手当てぐらいせにゃならんだろう。」
そう言うと老人は一人で歩き出した。
ついて行こうかどうか悩んでいると老人が立ち止まりこちらを振り返る。
「早く来い、あそこら辺の植物は下手に触るとかぶれるぞ。男のお前はともかく女性はいやじゃろ、薬をやるからついて来い。」
かぶれると言われてシアとネリネがうっと顔を歪ませた。
やはり女の子はそう言う所のケアは大事らしい。
仕方なくついて行くことにして10分ぐらい歩いて行くと洞窟らしきところに着いた。
洞窟の中に入ると中は以外にも普通で日用品等の家具も置いてあった。
「ここで生活しているんですか?」
「・・・・とりあえずな、なるべく人のいない所という条件でここに住んどる。」
老人は棚の引出しから塗り薬を取り出しこちらに向けて放り投げた。
「ほれ、さっさと塗ってやれ。」
楓がそれをキャッチすると中身を確認してシアとネリネの方へ近づいていった。
シア、ネリネ、楓が薬を塗る作業をしている時、稟が部屋の中を見回すと一枚の写真が目に入った。
写真の後ろには連合のMS、その前には十数人の作業員と中央には先ほどの老人が写っていた。
「MS関係者だったんですか?」
稟が写真を見ながら訊ねると老人が隣に立ち話し出した。
「まぁな、・・・・もう昔の話だ・・・・。」
しばらく無言でその写真を見つめていた。
すると老人が口を開いた。
「お主はMSをどう思う?」
「どうって・・・・。」
「そんな難しく考えんでいい、客観的に見てどう思うかと聞いとるんだ。」
そう言われて少し考えてみる。
MSを初めて見たときの印象は・・・とても大きいな・・・と思ったがそう言う事ではないだろう。
それ以外では戦争後に復興作業で使用したのが記憶に新しい。
「MSは運転した事があるんですがとても便利でしたよ。」
「便利・・・・か・・・・。」
「はい、その時は復興作業で瓦礫等を除去したりするのに使用したんですが・・・・おじいさんはどう思っているんですか?」
MS関係者の意見等滅多に聞けるものじゃない、そんな軽い気持ちと好奇心で聞き返してみた。
「わしか・・・・わしにとっては・・・・人殺しの道具だ・・・・。」
稟は想像していなかった事をいわれて一瞬言葉を詰まらせた。
「人殺しの道具・・・・ですか・・・・。」
「連合もザフトもMSを開発したがどちらも人殺しの道具としか使わなかった・・・・。」
気付けばシア達もこちらに来て話を聞いていた。
「わしは連合に居た時はMSの設計から開発までやっていたからな。一人の人間としてこれほど悲しいものはない。」
「おじいさんが連合のMSを開発したんですか?」
シアが少し興奮気味に声を上げる。
「正確には開発した一人だがな、まっ昔の話だ。」
老人はフーッと一息ついた。
「結局わしは人殺しの道具の開発をしておったんだ。」
「いっ、いや別にそんな言い方しなくても。」
稟があわてて口を挟む。
「気にするな、事実じゃ。連合がMSを開発したために結果戦争は長引いた、そのため死ななくてもよい命も多く散った。」
場が静寂に包まれた。
稟はMSは便利なものと思っていた自分が恥ずかしくなってきた。
人殺しの道具。恐らくMSを生み出した背景には効率よく人を殺す方法といった定義が組み込まれていたのだろう。
MS開発の思惑は自分達が考えていたよりずっと深くそして黒いもののようだ。
「お前達は今の世界を平和だと思うか?」
稟達は急に話題を変えられて言葉に詰まった。
「結局何時の時代も人は己の欲望を抑えきれんものなのかも知れんな。」
「欲望・・・・ですか?」
楓が聞き返す。
欲望・・・・誰の中にも絶対にある物。押さえつける事が極めて難しく困難な物。
そう、みんなが持ち世界中に満ち溢れているもの・・・・。
「わしもその一人だ、結局己の欲望を抑えきれなかった。」
「おじいさん・・・・。」
場に重い空気がのしかかる。
間が持たず稟が口を開こうとした瞬間、巨大な爆発音と共に地面が大きく揺れた。
「なっ、何だ?」
稟達が慌てて外に出てみると回りの木々が赤々と燃え上がっていた。
遠くには連合のMSが見られる。
「なっ、なぜこんな事に・・・・。」
ネリネが絶望的な声を上げる。
「くっそうー。」
「待て、今更行ってどうする?」
駆け出して行こうとした稟の腕を掴んで訊ねてきた。
「そんな、止めるに決まってるじゃないですか。」
「どうやって、現にもうここは火の海じゃ。いって聞くような奴等ならこんな事はせん。」
「そっ、それは・・・・。」
「あきらめろ、そして現実を見ろ。人とは所詮こんな生き物だ。」
確かにそうなのかもしれない、連合がなぜここを襲っているのかはわからない。
だがどんな理由だろうと島を丸ごと焼き尽くす等尋常とは思えない。
「おまえらが行った所で無駄死にをするだけだ、やめておけ。」
確かに死ぬのかもしれない。
何もできないのかもしれない。
・・・・けれども・・・・それでも止めたい、やめさせたい。
この思いに偽りはない。
「それでも俺は行きます、今この状態で俺に何ができるかはわかりません。」
行って何をするのかと聞かれてもキチンとした答えなどない。
「こんな世界でも俺は精一杯生きたいんです。今のこの世界を・・・・。」
そう、俺は誓ったんだ。この世界で生きていくと・・・・。
どんな世界になろうと生き続けると・・・・。
「・・・・この醜い欲望の渦巻く世界でもか?」
「どんな世界でも生きていれば良い事はありますよ。」
言い終わると稟はシア達の方を見た。
「俺は彼女達に会えました。」
その言葉を聞くと土見ラバーズの面々は頬を赤くして微笑んだ。
「彼女達だけじゃありません。もっと沢山いろいろな事がありました。確かにそれと同じだけ辛い事もありました。でも、それでも俺はこの世界で生きていきます。」
稟が楓達の方を見るとみんなが微かに頷いた。
みんな同じ気持ちのようだ。
「こんな抽象的な事しか言えなくてすいません。でも、俺達は行きます。」
稟達が今にも駆け出そうとしている時、老人が呟くように口を開いた。
「精一杯生きる・・・・か。」
その後また洞窟の方へと歩き出した。
「こっちに来い、時間はとらせん。」
後ろを振り向きそう一言発するとまた歩き出した。
稟達が急な事でどうしようか戸惑っていると急かすように老人が声を発した。
「早く来い、無駄死にはしたくないだろ。だったら早くこっちに来い。」
そう言われて疑い半分で後をついていく。
洞窟の中に入り先ほどの老人の部屋に入り家具をずらしその隙間にあったスイッチらしき物を押した。
するとどこからか鍵の開く音がした。
「本棚を退けるのを手伝ってくれ、一人では辛いのでな。」
「あっ・・・・はっ、はい。」
そう言われて全員で本棚を退けるとそこには扉らしき物があった。
「隠し扉・・・・ですか?」
ネリネが驚きの声を上げた。
老人はその問いに答えずに扉を開け中に入っていった。
その後に続くように稟達も中に入っていった。
中は真っ暗で足元すらまともに見れない状況だった。
「なっ、・・・・真っ暗だな。」
「稟君、足元気おつけてくださいね。」
「うわ〜、真っ暗っすね〜。」
「真っ暗・・・・ですね。」
それぞれ一言づつ率直な感想を言い終わると同時に照明がこの場を照らした。
「うっ。」
まぶしくて目を閉じた後、その明かりに目が少しづつ慣れてきてその目を開けるとそこには5機のMSが在った。
「これは!」
稟が驚きの声を上げる。
「わしの欲望のなれの果てだ。」
不意に横から声がした。
そちらの方を向くと先ほどの老人が立っていた。
「より強く、より凄く等といった人の欲望が作り出した悪夢だ。」
「悪夢・・・・ですか。」
「人殺しの道具を作っているとわかっていながらやめれなかった、止めれなかった。・・・・・自分にどれだけの事ができるか確かめたかったんだ。」
そこで一端言葉を切りMSを見上げまた口を開いた。
「わしの人生の中で最高のできでありまた同時に最低の作品だ・・・・。」
そう言われて稟もまたMSを見上げる。
そこで一つ疑問が浮かび上がる。
「でも何でこんなとこに?」
そう、カグラの最新鋭のMSがなぜこんな所に在るのか。
「カグラの中にもわしと同じ考えの者がおってな・・・・色々手を回しここに送らせた。」
ザフトと手を結んだといっても全員が全員納得したわけではない。
当然といえば当然か・・・・。
そして今になってここまで捜索の手が及んでいる・・・・。
「でっ、でもなぜ私達にこれを?」
そうだ、こんな重要な物をなぜ自分達に見せる必要があるのか。
「持っていけ、わしにはもう必要ない物だ。」
「「「「えぇーーー。」」」」
訳がわからない。
四人の率直な感想だった。
エルサのしかも極秘に開発されていた最新鋭のMS。
ついさっき会ったばっかりの人においそれと渡していい物ではない。
「なっ、何でですか?」
「おまえ達は言ったな、この世界を精一杯生きる・・・・と。」
そう言うと老人はまた視線をこちらに向けた。
「理想、おおいに結構。だが理想を語るには力が必要だ。これはきっとお前達の力となる。」
「でっ、でも。」
言葉が出なかった。
確かにこれを今受け取れば後々自分達にとってとても大きな力となるだろう。
だが、そう簡単に受け取っていい物ではない。
受け取ればそこの老人を含めここにMSを運んだ人達の思いを背負うという事だ。
・・・・自分にそれだけのものを背負うだけの資格があるのだろうか?
「物は扱う人によっていかようにも色を変える。」
「えっ。」
迷っている所に老人がまた話し出した。
「昔上司に言われた言葉だ。わしの周りには人を殺す以外の色は見えなかった。・・・・だが、お前達なら違う色を見せてくれると思ってな。」
「・・・・。」
「お前達の作る世界を・・・・わしに見せてくれ。」
わからない、どうすればいいのかわからない。
だが、ここまで言われて断るわけにはいかない。
自分にそれだけの資格がなくとも・・・・。
稟は無言でMSに向かって歩き出した。
それにつられてシア、ネリネ、楓もついて行く。
そんな中で楓の足取りだけが妙に重い。
シアがそんな楓に気付き声をかけた。
「カエちゃん、どこか怪我したの?」
「えっ、あっ・・・・なっ、何でもありません・・・・。」
そんな様子に稟も気付き楓に声をかける。
「楓、大丈夫か?、無理なら俺か誰かのコックピットの中に入れてもらって・・・・。」
「こっ、今度はだっ、大丈夫です。きっ、きっと・・・・。」
そんな楓の様子を見て稟が楓の肩に手を置く。
震えていた。
「最悪の場合は俺が何とかするから、だから落ち着いて。」
震えるのも無理もない、下手をすればまた『暴走』してしまう。
「訳ありか?」
老人がこっちに近づいてきた。
そして楓の前に来るとその目をまじまじと見つめる。
しばらくしてその表情が驚きへと変わる。
「お主・・・・もしや昔、『アルカトラズ』に・・・・。」
「・・・・!」
稟と楓が同時に反応する。
「やはりそうか。・・・・お主・・・・そうか、あの時の・・・・。」
楓の震えがいっそう増し膝を床につけ下を俯いてしまった。
楓の自身、心臓の鼓動が早くなるのが自分でもわかった。
過去の記憶がよみがえり無意識に目頭が熱くなり頬を涙が濡らす。
「あっ・・・・あっ・・・・あっ。」
声にならない声が口から漏れる。
今にも叫びだそうとした時、稟が楓を後ろから包み込んだ。
「大丈夫、・・・・大丈夫だから・・・・。」
「り・・・・ん・・・・く・・・・ん・・・・。」
楓が後ろを見るとそこには笑顔の稟がいた。
「・・・・大丈夫だよ、楓。」
楓がシアとネリネの方に顔を向けると戸惑いながらも笑顔を向けた。
しばらくすると楓の方も大分落ち着いてきた。
「すいませんでした、もう大丈夫です。」
楓が立ち上がりみんなに笑顔を向けたが無理をしているのは傍目でもよくわかった。
「すまんな、そんなつもりは無かったんだが・・・・。」
「いえ、私なら別に・・・・。」
楓が言い終わる前に巨大な爆発音と振動が楓の言葉を遮った。
「「「きゃっ。」」」
「おわっ。」
「くっ。」
これほどの衝撃、かなり近くで起こったようだ。
「早くいけ、もうここも危険だ。」
その一言でこの場の危険性を悟り全員頷きそれぞれMSに向かって走り出した。
「どれに乗る?」
5機あるので自動的に1機余る事になる。
迷っている暇は無い。直感にかけるしかない。
「私、じゃあこれ。」
シアが一番手前の機体に乗り込んだ。
「俺はこれに乗る。」
稟は二番目の機体。
「私はこれに。」
ネリネが三番目の機体。
「・・・・私は・・・・これに・・・・。」
そして楓が四番目の機体に乗り込んだ。
楓の事が心配でコックピットに入りきらず待っていた稟が楓に声をかけた。
「楓、もしもの時は俺が何とかするから・・・・。」
「稟君・・・・。」
楓は顔を俯かせながら一度頷きコックピットに入っていった。
楓を見送った後、稟は老人の方に顔を向けた。
「最後に一つだけいいですか?」
「何じゃ?」
「あなたもアルカトラズに居たんですか?」
「・・・・あぁ。今じゃそれも、汚点の一つでしかないがな・・・・。」
少し声を落とし稟が口を開いた。
「俺もあそこに居ました。コーディネイターの方でしたけど・・・・。」
「そうか・・・・生き残りか・・・・。だがあの『イヴ』、今は楓といったか・・・・生きていたとはな。」
『イヴ』、アルカトラズで楓はこう呼ばれていた。
もっとも呼ばれていたのは楓であって楓でない人物であったが・・・・。
昔の事が頭をよぎったがそれを振り払うかのように一度目をつむり頭を二度左右に振った。
「俺、もう行きますね。」
顔を上げもう一度老人を見る。
「そうか・・・・御堂錬(みどうれん)だ。」
「・・・・?」
「わしの名前だ、頭の片隅にでも覚えておいてくれ。」
稟はそれを聞いて無言で頷いた。
「わしからも最後に一言言わせてくれ。・・・・すまなかった。」
そういって錬は頭を下げた。
稟はその姿を最後に目に映しコックピットへと入った。
錬が頭を上げると四機のMSに繋がれていたケーブルが離れていくのが見えた。
その姿を見た錬の顔には小さな笑みが浮かんだ。
これでいい。
連合やザフトにやるよりはずっと正しい使い方をしてくれるだろう。
何が正しいか等は分からない。だがあの子達ならきっと見つけてくれるだろう。
背後のドアの奥から大勢の足音が聞こえる。
死神の近づく音が。
だが後悔は無い、最後の最後に少しだけでも償いができた。
『イヴ』も生きていた事がわかった。
生きていた事があの子にとって幸か不幸かはわからない、だが妙にうれしく思った自分がいた。
そんな事が最後に頭をよぎった直後無数の銃弾が錬の体を貫いた。
稟はコックピットに入りまずシートの調整をした。
そして一度コックピット内を見渡す。
今までのMSとは多少の違いはあるものの大きな違いは無いようだ。
これならいけそうだ。
そう思い電源を入れる。
各システムが次々に点灯していく。
そしてメインモニターにMS名が一行、写し出された。
「スパイラル・・・・か。」
あとがき
お久しぶりですみなさん、ヤイバです。
かなり更新が遅れました。待っていてくれた人がいたら(いないだろうけど)すみません。
話の展開が急なのはすいません。
作者の技量不足です。
次はもうちょっと早く更新したいです。
では、この辺で。