祐一が新しく王となり、全種族共存を大きく掲げ、
それにともない様々な改革がなされ、その騒ぎが少し落ち着いて来た頃。
「あ、これってまさか」
彼女ーー香里が宝物庫から見つけた一振りの剣。
文字魔術の刻まれた石橋源三郎の愛剣だった。
神魔戦記 三次創作
『清算と新たな誓い』
「ねえ、ちょっといいかしら」
シオンと、財政面での相談をしている祐一に香里は尋ねた。
「なんだ?」
「この剣に見覚えある?」
そう言って差し出したのは源三郎の法剣だ。
祐一は少し考えてから、
「いや、あんまり見覚えがないがどうした?」
「そう」
香里は頷くと、
「これ、旧カノンの隊長のだったのよ。で、どうせ宝物庫にいれて腐らせとくなら彼の墓前に供えて来てもいいかしら?」
「かまわんが……」
「ねえ、ちょっといい?」
突然、あゆが割り込んで来た。
「あゆ、人の話にいきなり割り込んでくるな」
と言いながら祐一はあゆにげんこつをくらわす。
「うぐぅ、痛いよ」
「それで、なんだ? 関係ないことなら後にしろ」
「関係なくなんかないよ、香里ちゃん」
と、突然あゆが香里の方を振り返って、
「その、ボクも一緒に行っていいかな?」
「えっ? か、かまわないけど」
「うん、じゃあボクも行くね」
こうして、香里はあゆと一緒に墓参りに行くことになった。
軍人の眠る共同墓地の中を歩きながら香里はあゆに、
「ねえ、なんであなたは一緒に来ようと思ったの?」
「うーん、いくつか理由はあるんだけどね。まずは、ボク自身の在り方の再確認ってとこかな」
「あなた自身の?」
うん、とあゆは小さく頷いて。
「ねえ、その剣の持ち主って、結構なお爺ちゃんじゃなかった?」
「え、ええ」
「多分、その人を殺したのはボクだから」
「えっ?」
ぴたっと、香里の歩みが止まった。
「まだボクたちがアーフェンにいた頃。カノンの兵隊を連れて来た大将の人だよね」
潤から聞いたこととなんら矛盾しない事実だった。
「水菜ちゃんが、やられそうになったからボクが庇ってそれから、戦って倒したよ」
なるほど、祐一が知らないであゆが知っている謎がようやく解けた。しかし、
「それって、あたしに対する自慢?」
あゆを睨みがちに視線を合わせて訊く。
ううん、と首を横に振ってから、
「そうじゃなくて、あの人は最期までボク(神族)が水菜ちゃん(魔族)を庇ったことを理解してくれなかったよ」
そう言われて香里はハッとなった。
あゆは祐一の仲間の中で数少ない生粋の神族だ。
それが、あまりにも自然にとけ込んでいるからその事実を忘れていた。
「あのときは、戦場で殺すか殺されるかしか選択肢がなかったけど、もし次があったなら、ううん。今このカノンにいる人たちには、
人間族とか神族とか魔族とか関係ないってちゃんとわかって欲しいんだ」
あゆがこの場に来たのは、あらためてそう誓うため。
やっと、香里はあゆがここにいる理由が心から理解した。
「そう、あなたは信じている。ううん、誓っているのね」
あゆは頷いて、
「うん。だから、今日はそのことの再確認」
そう言って、墓標の前に立つ。
「おいで、グランヴェール」
「Ok. my master」
それは空間を飛び越えて、槍ーー神殺し『グランヴェール』があゆの手に握られていた。
「ボクは、ボクの。あなたには信じられないかもしれないけどボクの信じる道を歩き続けるよ。
理解してくれない人がいるかもしれないけどそれでもいい。
そのことを今日あらためて誓うね」
そう言って墓標に向かって頭を下げていた。
少し考えてから香里は墓前の前にしゃがんで、
「石橋さん。あなたがいたころのカノンとは違うものになっちゃったけど、それでもあたしは守りつづけるわ。
だから、さ。そっちで北川くんと一緒に見守っていてね」
そう言って、香里は源三郎の法剣を火のマナを使って燃やし尽くしてからそのカスを墓の前に埋めた。
帰り道、
「ねえ、香里さん」
「何?」
「もし、よかったらこのあと模擬戦やってくれる?」
「そうね、一戦ぐらいなら時間ありそうね」
多忙な中でも日頃の訓練を欠いたら元も子もない。
そう思って受けると、
「よーし、それじゃあ早速訓練場に行こう」
そう言うやいなやあゆは翼を広げ飛び立った。
やれやれ、と嘆息しながら、
「まちなさい、まだまだそれぐらいの時間はあるから」
そう言ってあゆを追いかけ走り始めた。
あとがき
ふと、思いついたから衝動的に書いてみた。
構想三十分、執筆二時間(これは酷い)
あれですね、純粋なKanonの二次創作でもあんまり香里とあゆの絡みは見かけない気もするので、
書いてて中々楽しかったです。
まだ、よわよわだったころのあゆに殺された石橋さんもこれで報われたかな、かな?(CV:渚の中の人)