mirage-annal.
  第一章「目覚めのプレリュード」
      二話「雪の街」





「それで、何であゆがここにいるんだ?」
「うぐぅ。祐一君その前に言うことないの?」
「ん?……あぁ、なんであゆ地面に突っ伏してるんだ?風邪ひくぞ」
「何でじゃないよ!祐一君が攻撃したからだよ!」
「何だそれは。まるで俺が悪いような言い方だな」
「実際そうだよ!」
「そんな馬鹿な!」
「あ〜相沢?ちょっといいか」
祐一とあゆが漫才をしているとそれを横から見ていた北川が止めに入った。
「何だ北川。今俺の無罪を証明しているところで忙しいんだが?」
「いや、どうみても相沢は有罪だからな」
「そうだよ!抱きつこうとしたら祐一君が掌底してきたんだもん!悪いのは祐
一君だよ!」
「あゆがフライングボディプレスをしてきたからついな」
「フライングボディプレスなんてしてないよ!」
「あ〜それで漫才は置いといてちょっといいか?」
「「漫才じゃない(もん)」」
「そ、そうか………」
祐一とあゆの見事なユニゾンに北川がたじろぐ。
だが当の祐一とあゆは北川を無視してにらみ合っている。
「そ、それでだな。相沢、聞いてるか?」
「聞いてるから早くしろ!」
どなられて北川が再びたじろぐが今度は許可が出たので疑問を口にする。
「その、天使の子誰だ?」
そう、北川はあゆとは初対面。それも人と敵対している神界の者である。
祐一の知り合いということで北川も警戒は解いているがやはり不信感は否めな
い。
祐一とあゆもようやく北川の存在を思い出し顔を見合わせる。
「あ〜そのだな、こいつはだな……」
内心で北川があゆを攻撃するのではと危惧しつつも祐一が適切な言葉を探す。
あゆもここが人界ということを思い出し祐一の後ろに隠れる。
「そうだな……知り合い、いや友達かな」
「天使のか?」
北川は祐一の言葉に不信感をよせる。しかし、
「そうだ。お前や名雪や香里と同じ友達、親友だ」
北川の疑念を知ってなお祐一は断言する。そのまま手の剣に力をいれて、
「だからあゆに危害を加えるというならば北川、」
―――お前でも斬る。
言葉にはせず。しかし言葉よりも強い意志で祐一は北川に目を向ける。
それで臆したというわけではないのだうが北川は警戒心を完全に解いた。
それを見て祐一も剣を納める。何故なら祐一は北川潤という男を理解している
からだ。
目の前の敵が強大でもあきらめない、臆さず立ち向かう。そうした強い心をも
っているのが北川潤である、と。それでこそ親友である、と祐一は思っている。
だから祐一は、
「ありがとう」
思いを口にする。北川は何も言わない。だがそれで十分だった。
「えっと、その、祐一君。そっちの人は?」
張りつめた空気が消えたのを感じたあゆが祐一の後ろからでて北川に目を向け
る。その問いに答えたのは聞かれた祐一ではなく、
「俺は北川潤。相沢のクラスメートで親友だ」
君は?と向けられた視線に目を合わせて北川が問う。
「え、えっとボクはあゆ。月宮あゆ。あの、その見たとおり天使です…」
言葉の最後、天使というところであゆは目をそらした。
そんなあゆに北川は苦笑しながら、
「知ってる。というか見ればわかるしな。月宮さん、でいいかな?よろしく」
普通に、人に対応するように手を差し出す。
そんな北川にあゆは驚きの目を向け、そして隣の祐一を見上げる。
視線を送られた祐一は軽く笑いながら、
「そういう奴だ、北川は」
「ひどいな相沢。まるで俺が馬鹿みたいじゃないか」
「そのとおりだろ?」
「うわっ!ひどっ!」
漫才ともとれる祐一と北川のいつもの会話。だがそれはこの場でプラスに働く。
二人の掛け合いにあゆも笑いをこぼしながら、
「よろしくおねがいします、北川君」
差し出された手を握り返した。
「あぁよろしくだな月宮さん」
「よし、これで一段落ついたな。それで、あゆは何でこっちに来たんだ?」
「え?………そ、そうだよ!祐一君!ミカエル様とラファエル様が!
「うわっ落ち着けあゆ。話が見えてこないぞ」
祐一は掴みかからんばかりの勢いで迫るあゆを静止しながらも北川に目をむけ
る。
「北川、どうする?世界に関わる話になるっぽいが聞くか?」
ミカエルとラファエル。その言葉でことの重大性を感じた祐一が巻き込みたく
ないという思いで北川に問う。
それに対して北川は苦笑しながら、
「乗りかかった船だ最後まで聞くぜ」
「そうか、悪いな」
「気にするな、代わりに月宮さんとの出会い話も聞かせろよ」
「長くなるから却下だ」
「簡潔にでいいからさ、頼むぜ」
「まぁ、いいが……それで、あゆ落ち着いたか?」
「うぐぅ、ごめんなさい。もう大丈夫だよ」
まだ多少興奮気味だが先ほどよりは落ち着いたと判断した祐一は何で人界に来
たのかを再び問う。
「うぐぅ、それがミカエル様とラファエル様の行動が上にばれてそれで沢山の
天使が襲ってきたんだよ。それでミカエル様とラファエル様は皆を逃がして二
人で戦うって言ったんだ。皆は反対したんだけど結局は納得して逃げて、でも
ボクと神奈は最後まで残って説得してたんだ。そしたらミカエル様が、」
『あゆ、神奈。お前たち二人は世界を繋ぐ橋とならねばならない。だからまだ
死ねないのだ。そして、それは私達も同じ。だからお前たちは御行きなさい。
力の担い手たちの元へ』
「そう言ってボクと神奈を人界に飛ばしたんだ。後のことはわかんないけども
神奈が三万の天使が向ってるっていってたから………」
「そうか、それであゆはこっちに来たのか。それで神奈はどうしたんだ?」
「住人君のところに行くっていってた、ねぇ祐一君ミカエル様とラファエル様
は……」
不安そうにあゆが祐一を見上げる。しかし祐一は楽観した顔であゆを見返して、
「それなら大丈夫だ」
「うぐぅ、何で?」
「ミカエルはまだ死ねないっていったんだろ?なら大丈夫だ。ミカエルもラフ
ァエルも自分の為すべきことがわかっているはずだ。だからあゆはあゆの為す
べきことをすればいいんだ」
「うぐぅ、ボクのすること?」
「そうだ、まずはその羽を隠して宿探しだな」
「あ、そうだね。んっと……――aιz――」
あゆが呪文――神界魔法の詠唱を呟くと背中の翼が消える。翼さえなければ天
使は人となんら変わりはなくなる。体の構成、魔力の回路、そして発する気配(・・)
まで(・・)まったく同じとなる。故に今のあゆは人界の街角を歩いていても誰も不審
に思うことはない。
「すごいな。人と同じじゃないか……」
初めて気配のことに気付いた北川が驚嘆の声を上げる。
まぁ無理もないか、と祐一は思いつつも意識は周囲へと拡散、充満させる。
神界魔法を使ったのだ。気配や魔力の動きに敏感な者なならば気付いたかもし
れない。
だがそういった感じはいっさいしない。場所の都合もあるだろう。今祐一たち
がいるのは街の外れの森、その中でも結構奥に位置する。そんなところに来る
ような奇特な人間はほとんどいない。
不審な気配や存在が付近にいないとわかった祐一は意識を戻して北川を見る。
「どうした、相沢?」
「いや、今の会話での質問があるんじゃないかと思ってな」
「あ〜まぁあるといえばあるな。でもどこまで聞いていいかわかんねーから答
えれる範囲でいいぞ。」
「心配するな元よりそのつもりだ」
「そっか。でだミカエルとラファエルってのはなんだ?なにやら不穏そうな発
言がいくつか聞こえていたんだが」
「ミカエルとラファエルは十天使だ」
「は………?」
よく聞こえなかった、と北川がいうと祐一はもう一度、北川の聞き違いじゃな
いというように、
「ミカエルとラファエルは、十天使の一角だ」
「うそ……だろ」
「本当だ」
驚きで北川が固まる。
無理もない。十天使というのは天使のトップ。他とは一線を画くほどの強大な
権力と実力の持ち主だ。何故そんなおえら方、それも敵側のと祐一が知り合い
なのか?
当然北川はそれを尋ねた。それに祐一は、
「あゆとの出会い話にも繋がるんだがな、6年前のちょっとした事件で知り合っ
てな。公けにされてはいないが名雪の父親、奏悟さんがなくなった事件でもあ
るんだが……」
「まて、水瀬さんの父親って言えば『空の蒼』(Bule of Sky)だろ?Xランク所持者だぞ!?」
「そうだ。奏悟さんは強かった。だがその事件では他にもSSSの『魔錬封』(Deamon Seal)、
『剣聖者』も死んでいる。それほどの事件だ」
「嘘だろ!?皆国内、いや世界でもトップクラスじゃないか!?」
人界のDDDが設けた力のランク分け。これによりDDD所属の者はその実力
に見合った任務を与えられる。またランクは一般人でも取れるようになってお
り、養成校では16歳までに取得が義務づけられている。
ランクは下からE・D・C・B・A・S・SS・SSS・Xとなっておりまた
ランクを取得していない人はPランクとなる。その中でXランクは人界で10
余名、SSSランクも100名程と数からみてもかなりの実力者だとわかる。
それゆえに祐一の話す事件の規模の大きさが見て取れた。
「すまないが真実だ。話を続けるとだな、ミカエルはその時の神界側――あ、
この時は三世界の三つ巴だったんだが魔界側は関係ないからおいとくぞ。それ
でミカエル、ラファエルは神界側の指揮官だったんだがその事件をきっかけに
和平派になったんだ。そしてその時その場にいたのが俺とあゆ、他にも何人か
というわけだ。話せるのはこれくらいだ。」
祐一がそう言うと北川は少し思案をし、
「要するに神界には和平派がいてそれがばれたんで月宮さんがここに来たと、
そういうことでいいんだな?」
「あぁ、北川にしてはよくまとめれたな。他に聞きたいこととかないのか?」
うるせえ!と北川は文句をいいながら他には何も言わない。
実際には聞きたいことがあるのだが聞けるような話ではない。
そう、XランクやSSSランクが死ぬような大事件、その中で起こった出来事
について北川はもっと詳しく知りたかった。だが、祐一とあゆの雰囲気からと
ても聞けるようなことではないと判断したのだ。
学園での成績は超低空飛行な北川だがこと場を読むことだけは上手かった。
だから北川は疑問を胸の内にしまって、
「いや、だいたいわかった。それよりもうだいぶ時間も遅いし帰ろうぜ」
話題を変える。しかしその程度のことに気付かない祐一ではない、のだがここ
は北川の好意を受け取って話に乗る
「そうだな、あんまし遅いと秋子さんが心配するしな、帰るか」
「おう。って月宮さんはどうするんだ?」
「あ」
忘れていた、と続く言葉を祐一は押し込める。しかし早めに答えねば忘れてい
たことがばれる。それでは自身の尊厳にかかわる。
まぁ北川や香里あたりが聞いたらそんなものはないと即答するだろうが。
「相沢?」
「あ〜〜え〜」
「もしかして忘れてたとか?」
「―――っ!」
「うぐぅ!祐一君本当!?忘れてたの!?」
あゆが祐一の袖を引っぱりながら尋ねる。
まずい、と思った祐一は高速で思考を走らせ対策を練る。
「うぐぅ!祐一君本当に忘れてたんだね!?」
「そそそそ、そんなことはありませんよ?」
「なんで敬語?ついでに聞き返すなよ」
「いや、まぁあゆも秋子さんのとこでいいだろ」
祐一が辿り着いた結論は単純であった。しかしよくよく考えるとよい案である。
秋子さんも事件を知る一人であり和平派でもある。あゆが身を隠すには最適の
場所ともいえるだろう。
「よし、そうと決まれば行くぞ」
考えが纏まれば後は動くだけ。我ながら実に単純だと思いながら祐一は歩き出
す。
「あ、おい待てよ」
「うぐぅ、祐一君待ってよ」
その直ぐ後を北川とあゆが追う。追いついた位置はあゆが祐一の隣で北川は反
対側のちょっと後ろ。なんとなく北川がいつもいるポジションだ。隣ではなく
後ろ。戦闘中ならその重要性はかなり高い。だからというわけではないが北川
はそのポジションが気に入っていた。
「あゆ、人界にいる間は翼を出したり神界魔法をつかうなよ?」
「うぐぅ、それくらいわかってるよ」
「でも咄嗟って時にでちゃうかもよ?」
「うぐぅ、ボクそんなドジじゃないもん。北川君の方がドジっぽいもん」
「いや、北川は馬鹿なだけだ」
「うわ、相沢ハッキリ言いやがって」
「くすくす、二人とも仲いいね」
「「どこが!?」」
「そう言うところだよ」
雑談をしながら森から街へ進む影が三つ。沈みかけた夕日に照らされて、出会
いの場所にまたねと告げる。

―――またね、ユウ



To be continue…



※後書き※
長らく停止していて尚且つ駄文ですみません。
もし読んでいる方がいてくれるなら感謝を。
たぶんですがこれからは週一くらいで行きたいのでもしよければ読んでくださ
い。
戦闘物なのに戦闘がないですね〜
次で一応クロスの七作のうち五個までわかるかと思います。
それでは〜