名も無き傭兵
         第八話『交じり合う想いと誇り』





剣が交わり、魔術が飛び交う。
互いに全力。
ここは王都カノン。
祐一軍と、北川潤王子率いるカノン全軍との最後の決戦が始まっていた。

(祐一さんたちはなんとか城に入れましたね。)
来日はしばらく本隊と共に進軍し祐一達を城までほぼ無傷で導くことに成功。
そして今彼女は城下と城とを繋ぐ橋の前にいた。
隊長格は皆それぞれ戦闘に入り、戦いはいよいよ激化してきた。
(カノンにいるという聖騎士も現れましたし、あちらも全力ですね。)
その聖騎士は今、クラナドから脱走してきた、今は祐一の仲間である少女と戦っている。
正面から戦ったのでは雑兵がいくら束になろうと敵わないだろうが、彼女はその圧倒的な力を持つ聖騎士と一対一で互角に戦っていた。
(あちらはまかせて、私は周りを。)
「であぁぁ!!」
と、考えている間に敵兵が襲いかかってくる。
「ハッ!!」
来日はすでに抜き放ったショートソードで相手の剣を捌き、間髪入れずに反対の手に持った刀で相手の兜に峰打ちを食らわせる。
「がっ‥‥‥。」
いくら兜をかぶっていようと、刀の重さを乗せて放たれた打撃で脳をシェイクされては、さすがに脳震盪を起こし倒れる。
一般兵の使う装備程度では、ある程度の斬撃には耐えられても強い打撃にはあまり効果が無い。
加えて来日は攻撃のとき、腕に強化をかけているのだからその効果はかなり高い。
来日は今回の戦い、なるべく不殺を心掛け戦っていた。
個人的にこの戦いでこれ以上無駄に犠牲をだしたくない。
自分の方が技量が上回っていれば出来ないことではない。
いつもならば一般兵程度にならやれることなのだが、
(ある程度予想はしていましたが、これは‥‥。)
何人かと打ち合ってきた。
まだ死人は出していない。
しかし、
「でぁぁぁ!!」
「くっ!」
相手の士気が驚くほど高いのだ。
それは、いままで戦ってきたカノン兵とは比べ物にならない程だった。
「!!」
相手の胴に峰打ちを叩き込み、ショートソードを握ったまま側頭部を殴りつけなんとか気絶させる。
(これは、いつまでも気絶させるというわけにはいかないかもしれませんね。)
鬼気迫るとは正にこのこと。
一人一人の士気が尋常ではない。
ただ追い込まれているのとも違う。
いうなれば、国に仕える者の誇りとでも言うべきか。
それほどにカノン軍の士気は高い。
そして再び何人かの兵と対峙する。
そこに、
「そこの娘。先程までの戦い、いまだ一人として殺していないようだが。」
と、炎と雷が飛び交う塔を背に一人の騎士が前に出る。
「そうですね。しばらくは動けないでしょうけど。」
「人間族か。どうやら魔族に与している者がいくらかいるようだな。」
そういって剣を抜く騎士。
その気迫はこの戦場にいる者の中でも一際大きい。
「同胞を生かしてくれたことには礼を言おう。だが、人間族とはいえ魔族と共にいる者が命を取らぬとは。我らなど、もはや殺す価値も無いということか?」
「それは私個人がこれ以上の犠牲者を出したくないというだけです。あと、魔族に属するだけでその考えに至るのは誤解ですよ。」
仰々しく話す相手に来日も淡々と返す。
「そうか、それはすまなかった。そしてその考えもありがたい。だが‥‥‥。」
と、礼を込めた言葉と共に言う。
そして、
「我らにも、命を懸けてでも守りたいものがあるのだ。」
そう言って、騎士は構えを取る。
「はい、そうでしょうね。でないと‥‥‥。」
来日もそれに応じて構えを取る。
「それが無い戦いは、ただの殺戮です。」
そういって相手を見据える。
そしてここでも戦いは始まる。
「ウオォォ!!」
「ハァッ!!」
振り下ろされた剣をショートソードで受け止める。
それと同時に来日は右手の刀をがら空きになった相手の左肩に向かって峰打ちを‥‥。
「!?」
放とうとしたが思わぬところで刀が止まる。
見ると、相手の左の篭手に仕込まれたバックラーに止められていた。
「私とて、潤王子に仕える騎士達の末席にその名を連ねる者の一人。ゆえに‥‥。」
騎士の手に握られている剣に更に力が込められる。
「その王子の加護を受けたこの誇り!そう簡単に砕けはせん!!」
「くっ‥‥‥!」
来日はとっさに相手の腹に蹴りをいれ、その隙にバックステップで距離をとる。
「やるな、だが‥‥‥。」
しかし、相手は瞬時に体勢を立て直し、
「私は、負けるわけにはいかないのだ!!」
なおも向かって来る。
「‥‥‥!!」
動きほどさっきと変わらない。
来日は相手の剣を避け、今度こそカウンターで峰打ちを放つ。
「ぐ、ぬう‥‥!」
しかし、それでも相手は倒れない。
「潤王子は、この状況を憂いておられた。」
「え?」
その状態で更に剣を振るい、今度は来日を吹き飛ばす。
「うぁ‥‥‥!」
「我々はそれを知りながら、元老院どもに口を挟むことは出来ん。できるのは、こうして王子に近づこうとする外敵と戦うことだけだ!」
そして、来日に向かって更に迫る。
「この剣は王子のために!その大いなる誇りのもと、カノンに勝利を!!」
「私にも‥‥‥。」
来日は刀とショートソードを再び握り、
「この戦いに込める、想いがあります!!」
「ならば、ここで互いの命を懸け戦おう!!」
互いの想いと誇りが交差する。
何度も打ち合い剣戟が響く。
「でも、あなたも気づいているのでは?」
「なんだと?」
「あなたがそこまで言う程の方がいながら、この国がとった行動は決して‥‥‥。」
「‥‥‥‥。」
来日が言うのはエフィランズでの事件のことだ。
カノンはエフィランズの部隊が全滅したということであの兵器を持ち出した。
しかし、全滅させたのは祐一達ではなかったし、仮にそうだとしても、民の安否も考えずにあの大量破壊兵器をなんの躊躇も無く使ったカノンの上層部は、もはや正義と呼ぶには程遠い。
「それでも私は‥‥‥。」
騎士は全力で剣を振るい、来日のショートソードを叩き落とす。
「王子のこの国を思う、心と誇りを守りたいのだ!!」
空に走っていた雷は止み、城を守る炎もその勢いを無くす。
だが、騎士はそれでも剣を振り上げる。
「それほどの想いがあるなら‥‥‥。」
「うおおおおお!!!」
そして、その剣は振り下ろされる。
それに対し、来日は左手に魔力を込め、
「『貫く破閃(シュトーク・エクス)』!!」
「!!??」
その振り下ろされた剣にのみ、貫く破閃を放った。
爆発の衝撃で騎士は倒れ、そこに来日は刀の切っ先を突きつける。
「殺すがいい。もうカノンは‥‥、この国は‥‥‥。」
すべてを失ったような表情でそういう騎士に来日は、
「それほどの想いがあるなら、もう少しこの先を見てみてください。」
そういって、突きつけた刀を鞘に収める。
「私に生き恥をさらせと?」
「生きることを恥だなんて言わせません。さっき言っていた想いは本物なのでしょう?なら、最後までこの国のことを見守るべきです。どうか、その誇りがただの片意地になどならないように‥‥‥。」
そういって来日は、地面に突き刺さっていたショートソードを抜くと、味方のいる方に歩いていった。
「大丈夫ですか?」
倒れた騎士に一人の兵士が駆け寄る。
「ああ、なんとかな。だが今はそれより見守ろう。」
「見守る?」
「そうだ。我らが仕えてきた、この国の行く末を。見ろ、始まるぞ。」
そうして、戦いは祐一軍の勝利に終わり、祐一はこの国の新たな王となった。
そして、今回も彼女は生き残れたようだ。


その翌日、来日は例の傷薬を栞に届けた後、少し城内を散歩していた。
すると少し城内が慌ただしくなる。
「どうかしたんですか?」
来日は近くにいた少女に話しかける。
その少女は先日城の橋の前で聖騎士と戦っていた少女だった。
その少女の話によると、どうやらカノンの兵達を軟禁している地下訓練場で騒ぎがあったらしい。
「なんでも、一緒に食事を運んでいた子を人質にしようとしたらしいのよ。」
「ええ!?そんなことが‥‥。」
「ああ、大丈夫。その問題を起こした兵士はすぐさま取り押さえられたらしいわ。あの倉田佐祐理が手助けしたらしいし、それに‥‥。」
その少女はさらに話を進める。
「その兵士が錯乱しかけて自害しようとした時に、これ以上カノンの誇りを汚すなってその兵士を止めた奴もいたんだってさ。もうそれで体の芯からこたえたみたい。もう今後こんな事は無いでしょう。ま、カノンの誇りってのも案外捨てたもんじゃないってことじゃないかしら?」
「‥‥‥はい、そうですね。」
来日は心から安心した。
きっとこれからこの国は生まれ変わるだろう。
カノンの人々も、これから少しずつでも受け入れていくのではないだろうかと。
だが、世界はそんな国の誕生を素直に祝福するほど優しくもなかった。







あとがき

ども壱式です。
今回はカノンでの決戦の話でした。
誇りというものも描写は難しいです。
でも、こんな軍人もいたのではと思い書いてみました。
次回は原作通り、ホーリーフレイムとの戦いです。
ではまた次回。