名も無き傭兵
         第六話『空、迫る理由は』





対怒号砲戦に勝利したのも束の間。
今度はキー大陸一の軍勢を誇るエア王国が、祐一軍を討たんとついに動いたとの情報が入った。
しかも、悪い出来事は立て続けに起こり、それとほぼ同時に倉木水菜が誘拐されたという知らせも届く。
これにより祐一軍は、大将である祐一不在のままエア・カノン混成部隊を迎え撃つ事となってしまった。
戦いは始まり、両軍の隊長格が激しい戦いを繰り広げる中、来日も迫り来る敵軍との戦いに備え剣を抜いた。

『さぁ!みんな、来るよ!!』
さくらからの指令が祐一軍に届いた。
「確かに。この戦い方なら、なんとかなるかもしれませんね。」
その指令は防御重視の陣形。
戦士系二人、魔術師一人でチームを作り、攻めて来る敵を迎撃。
こちらから攻めなくとも、相手は十中八九自分から攻めてくる。
傭兵として各地で戦ってきた来日も、いままでの経験からしてそうなることは予想出来た。
(それにしても、これだけの人数に的確に念話を送るとは‥‥‥。)
そう考えていると、後ろから声がかかる。
「我らも陣形を。」
と、そばにいた二人と来日も陣形を組む。
準備は整った。
しばらくすると、敵は数で上回っているのもあってか、やはり全軍で攻め入ってきた。
来日はその中でも突出してきた神族兵と戦闘に入る。
「消えろ!悪しき魔族ども!!」
その一撃は自分たちが負けるはずがないという自信に満ちていた。
しかし、その攻撃は素直すぎた。
それは来日にとって至極わかりやすい攻撃だった。
「‥‥‥、ハァッ!」
相手の攻撃をいともたやすく捌き、そこに反撃を見舞う。
(‥‥‥どうして、そんな考えしか‥‥。)
そう思いつつ、再び迎撃体制に入った。

「‥‥フッ、この戦力差なら楽勝だな。」
空から戦場を眺めながらそうつぶやく神族の男。
この男はエア王国軍第三部隊所属の小隊長の一人。
彼の家は代々エア王国軍に仕えており、一族のほとんどがエア王国軍になんらかの形で所属しているという、いわゆる軍人家系だ。
それもあり、かつては長い間エリート軍人としての家系を保ってきた。
だが、彼の家系は過去のムーン王国との戦いで、当時軍に入隊していた先代たちをすべて亡くしてしまったことで勢いを無くす。
事実、その後入隊した彼はやはり先代たちのように順調には出世できなかった。
しかし、彼はこの戦いにチャンスを見出していた。
この戦いで戦果を挙げることで、一族の栄光を取り戻す。
それが今の彼の目的だ。
だが、その高いプライドとともに彼は、
「地上のカノン軍と第四部隊の連中に先行するよう伝えろ。その後われらの小隊は消耗した魔族どもに止めを刺す。」
「了解しました。」
「忌々しい魔族も、目障りな混血どもも片付く。フッ、良い事だな。」
とても典型的な神族でもあった。

祐一軍は迫るエア・カノン混成軍を迎え撃っていた。
作戦通り、兵の間に決して穴を作らず、強固な壁を作り出す。
もともとカウンターを主に戦っている来日にとって、この戦い方は後方からの魔術による支援や、横にいる仲間の援護がある分、いつも以上に相手の攻撃に集中して戦うことができる。
つまりは後方の憂いが無い分、彼女にとってこの作戦はとても戦いやすかったのだ。
散発的に攻撃を仕掛けてくるエア・カノン混成軍に対し各個撃破を行い、その数を確実に減らしていった。
だが、神族を相手にすると聞いていたのに、始めに予想していたより敵の地上部隊が多い。
もちろんカノンの部隊もいるからだが、その中にはあきらかに人間族でない者もいる。
来日はその部隊をよく見てみる。
するとそこには他の神族と比べ、わずかな違いがあった。
(混血、ですか‥‥。)
神族の部隊の中には、他に比べ翼が小さい者や、獣の耳を持つ者などが多数いた。
おそらく混血が多く配備された部隊なのだろう。
「神奈さまと、隊長のために!!」
だが、正直いってこの者達が敵の中で最も勢いがあるように思えた。
彼らの目は守るものがある者のソレだ。
「――――っ!‥‥ハァッ!!」
だが、だからといって負けるわけにはいかない。
その思いに対し、来日は剣を振るうことで答えた。

さきほど指令を下したエア軍小隊長は地上の状況に思わず歯噛みをする。
「くそっ!一体、地上部隊は何をしているのだ!」
「は、はっ!どうにも、敵の抵抗が思ったよりも激しいらしく‥‥‥。」
「こんな奴等に‥‥、役立たずどもが。」
彼の中では、魔族は神族に討たれて当然という考え方である。
それゆえに、自分たちの方があきらかに数を減らされているというこの状況は、とても腹立たしいことだった。
その時、彼の目に敵の魔術に撃ち抜かれる味方が映る。
「ちっ、またっ‥‥!‥‥‥ムッ?」
その光景を見て、彼は一つの策を思いつく。
「おい、貴様。」
「はっ。」
「魔術に長ける者を集めるよう伝えろ。今すぐだ!」
「りょ、了解しました。」
「フッ‥‥、この状況を打開し、我が家にかつての栄光を取り戻す足掛かりとさせて貰う。」
そして、自分もそのための準備に入った。

「皆、気を抜くな!このまま守りきるぞ!」
数による差が無くなってゆき、祐一軍は雄叫びをあげ、更に指揮を上げてゆく。
(もう少しこの状況が続いて、数に差が無くなりさえすれば‥‥‥!)
敵の数は最初から比べると半分くらいに減っていた。
ここからが正念場だ。
そう思ったその時、
「ぐぁぁぁっ!」
「ぎゃああぁぁっ!」
「!?」
突如、空から大量の光の矢が降って来る。
来日はとっさに大剣を抜き、それを楯にガードするが、回避が間に合わなかった者達は次々と貫かれてゆく。
しかもそれは魔族にとって弱点である光属性の魔術。
そのほとんどが魔族により構成されている祐一軍にとって、そのダメージは通常よりもはるかに大きい。
「あれは‥‥‥!!」
見上げると、何人もの神族が魔術を放とうと再び詠唱を開始していた。

エア軍小隊長は今度こそ勝利を確信していた。
「はははっ!悪しき魔族ども、我等の神罰を受けよ!」
神族はもともと他の種族に比べ魔力が高い。
彼自身も、槍術に加えいくつかの魔術を修得していたのが役に立った。
完全に上を取り、更に空を自由に動ける彼らは、立ち位置と射程で有利に立った。
(いいぞ!このまま‥‥、このままいけば、私は‥‥‥!)

(まずいですね、このままでは。)
祐一軍は完全に不利になっていた。
さすがに状況を察してか、他の神族も上空に上がり始め、残った地上の敵も距離を置き始めた。
味方も魔術で反撃するが、立体的に動かれほとんど当たらない。
「せめて一瞬でも、動きが鈍ってくれれば‥‥‥。」
ふと、来日とチームを組んでいた魔術兵が呟く。
(一瞬でも‥‥、動きを‥‥。)
その言葉を聞き、来日はふと師の言葉を思い出す。
このような場合ならば。
そして、足元を見やる。
そこに材料はあった。
「魔術師さん。」
「え?な、なんですか?」
「私が相手の動きを一瞬鈍らせます、そこを狙ってください。」
「は、はい!でも、どうするんですか?」
「こうするんですよ。」
そういうと来日は足元にあった“倒されたエア・カノン軍が使っていた剣”を拾う。
「‥‥‥そこです!!」
そして狙いをすまして上空にいる神族目掛けて投げつけた。
「うおっ!?」
高速で迫って来る剣に驚き何とかかわすものの、相手は体勢を大きく崩す。
「今です!!」
そこに魔術兵が放った魔術が直撃する。
そう、来日たちの足元には大量の剣や槍などの武器が転がっていた。
それもそのはず、なんせ彼らは、いままで自分たちの三倍近い敵兵たちと戦い、その相手の数を半分近くも削っていたのだから。
「‥‥よし。さあ、行きますよ。」

「バ、バカな、こんな‥‥!?」
一人から始まった予想外の反撃に、エア軍小隊長は焦りを露わにする。
チーム単位で行われているその行動は、他のチームにも伝染し始め、魔術と投擲による波状攻撃が徐々に行われ始めた。
魔術を回避しても投擲が、その投擲を回避しても今度は別の者の魔術が。
チームを組み、しかも密集されている状態にからの波状攻撃は、互いの攻撃を見事に補完しあい、途切れる事の無い攻撃を可能としていた。
「くそっ‥‥、くそぉ!!」
勝利をまじかにしたと思った矢先、またも突然の不足の事態。
神族である自分が魔族などに負けるはずが無い。
そう信じていた彼の怒りはもはや頂点に達していた。
「‥‥あいつか‥‥!!」
そしてその怒りは、最初に反撃を行い始めた少女に対して向けられる。
「あいつだ!あの女!奴を殺すぞ!!」
その目はもはや冷静さは微塵もない。
「はっ!?しかしこの状況では‥‥。」
「うるさいっ!突撃するぞ!あの女を狙え!!そこから奴らを切り崩してくれる!!」
そう言い放つと、手に魔力を集中させながら、自らの小隊を引き連れ、物凄い勢いで降下していった。

「なっ!?」
空の光景に来日もさすがに驚く。
なんと数人の神族が、自分目掛けて急降下してくるではないか。
更にその中心にいる人物からは、激しい殺気が感じとれる。
あまりに直線すぎる行動のゆえに、周りの者は次々と迎撃されてゆくなか、そいつだけは見事に回避しつつも、勢いを殺さず迫ってくる。
しかもその手には、凝縮された魔力が唸りをあげていた。
「これで消えろ!!」
そしてそれは放たれる。
「『輝く巨星一つ』!!」
彼の全魔力が込められた魔術。
しかもその距離では回避不能と、そこにいる誰もが思った。
だがその時、
「‥‥‥‥‥!!」
来日は大剣を抜き放ち、なんとそれを相手に向かって投げつけた。
魔術は大剣の表面にぶつかり、空中で大爆発が起こる。
突然の出来事にエア軍小隊長は思わず目を瞑る。
そして、その目を開けた時、
「なっっ!?」
目の前にはすでに、自らの脚を強化して跳躍していた来日がいた。
「はぁぁぁぁぁ!!」
そして、彼は縦一文字に切り裂かれる。
「かっ、ぐばっっ‥‥‥。」
「終わりです。」
勝敗は決した。
「ち、父上‥‥、わ‥わたしは‥‥いえ‥を‥‥、まも‥‥‥れ‥‥。」
(‥‥‥、この人も‥‥‥。)
そこに、彼の最後の断末魔が聞こえた。
その後、来日は着地した後、地面に突き刺さっていた大剣を引き抜いた。
その時、空の敵たちが一斉に苦しみ始めた。
上空でさくらが魔術を使い、敵に大打撃を与えたようだ。
そして、敵たちは皆地上に降りてくる。
皆が好機と思ったその時、更に後ろから追撃が入る。
「皆!いままでよく持ちこたえてくれた!!」
祐一たちだ。
どうやら間に合ってくれたらしい。
「あともう少しだ、ゆくぞ!!」
大将の到着により、祐一軍は更に勢いを上げていった。

その後、敵は隊長格を含め撤退。
その敵隊長の力により、追撃こそ出来なかったものの、祐一軍はなんとか勝利を得た。
「‥‥‥‥‥。」
戦いが終わった後も、来日の頭には散っていった敵たちの言葉が残っていた。
(分かってはいるつもり、なんですけどね‥‥‥。)
戦争とはいえ、彼らもどういった理由であれ、皆守るものの為に戦っているのだから。
そう思いつつも、今回も彼女は生き残れたようだ。





あとがき

ども壱式です。
今回はエア・カノン混成部隊戦の話です。
敵側のエア軍小隊長については、神族の悪いと思われている部分の結晶を、と思って書いてみました。それでも、彼には戦う理由があったみたいですけどね。
話の途中視点が変わることが多かったので人によっては読みにくかったかもしれません。
ちょっと申し訳ないです。
でわ、また次回。