復讐。

それが最初の目的だった。

望んだわけではなかったその居場所。

それでも、あたたかかった場所。

でもそれは無くなった。

それは瞬く間に赤く染まって。

逃げて、逃げて、逃げて。

自分の居場所を赤く染めたヤツラを。

いつか殺してやると誓った。

そして、力尽きかけた所を拾われた。

最初は畏怖の念すら感じた新しい居場所。

でも、それでも受け入れてくれたその場所で。

わたしは強くなることを望んだ。






名も無き傭兵

         第四話「警戒、遭遇、そして‥‥‥!?」





祐一軍はカノン攻略のための準備を着々と整えていた。
兵の招集、物資の調達、先日はクラナド王女の誘拐で他国に対するカノンの面子を潰すことに成功。
進軍はもはや時間の問題だった。
そんなとき、来日は数人の魔族兵と共に周辺の警戒任務に出ていた。
今は進軍準備のため、どこも人手不足だ。
戦いになるまで暇な来日は、その間はこの警戒任務に参加している。
ここ数日は特に何も無く、現在は少し遠出したところにある林の中だ。
「ここまでは異常無しですね。」
「ああ、まあ、俺たちのことはこないだの王女の件で他の国にも知れ渡ってるだろうし、ますますこの辺には近寄ってこねぇだろうな。」
「でしょうねぇ。では、定時連絡を行います。」
と、魔族兵達も少々雑談まじりだ。
ちなみに連絡水晶を持っている者だけ魔術兵で他の二人は一般の魔族兵。それに来日をあわせ四人で行動している。
ここのところ、このメンバーとはよく警戒任務を共にしていたので、来日はそれなりに親しくなっていた。
「そういえば進軍はいつからになるんだ?」
と、槍を持った魔族兵に話しかけられる。
「確か、早ければ明日か明後日にでもという話でしたね。」
「そうか。ついに本格的にカノンとぶつかるのか。腕が鳴るぜ。」
「でも進軍には色々と準備が必要だし、不測の事態はつきもの。油断は禁物ですよ?」
「あ〜。でもそろそろこんな退屈な任務とはおさらばして派手に暴れたいんだけどなぁ、俺は。」
「まあ、そういわず。その不測の事態を起こさせず、円滑に事を進めるために僕らがこうして‥‥‥。ん?あれは‥‥。」
そう言いかけた時、弓を携えた魔族兵は何か見つけたらしい。
「どうした?カノンの偵察隊か?」
「い、いえ、多分そうでは‥‥。あれを。」
と、指差された方を見る。
すると、少し先にある平野に荷車とそれを引く者達がいた。
それは見るからに荒くれ者といった風貌の者達ばかり。
荷車の上には、なにやら武具のようなものが山ほど積まれている。
更に近づき目を凝らすと、積まれている鎧に見覚えのある紋章が刻まれていた。
「あれは確か‥‥、秋子軍の紋章?」
間違いない。いつか見た紋章とまったく同じだ。
しかし、何故?しかもこんな場所に。
「本陣と連絡がとれました、急ぎフォベイン城を確認すると。」
なるほど、と皆薄々状況が読めてきた。
祐一軍は今、進軍準備の真っ最中だ。
その軍勢はすべてアーフェンに集結しつつある。
そして、もとより人手が足りているとは言えないこの状況。
もしかしたらフォベイン城は無人同然だったのかもしれない。
実際、今確認するという連絡が入ったならなおさら。
つまりは、彼らは盗賊で、あの武具の山はフォベイン城から持ち出されたと推測される。
「どうするんだ?」
「ようは物資を盗まれたという事でしょうね。それを私たちは発見した。ならば‥‥。」
「‥‥‥奪取せよとのことです。」
さすがは話が早い。
「まず、前衛二人でしかけます。後衛は荷車を引いている者を優先して足を止めてください。恐らく荷車はすぐ逃げ出すでしょうから、なるべく急いで確保しましょう。」
「了解。」
指示を出すと来日達は林から一斉に荷車の集団に迫る。
「うおっ!?な、何だ?」
「ちっ、魔族に見つかったか!」
盗賊達に動揺が走る。ざっとみたところ十人程度。
その中の何人かは荷車に手を伸ばし、そこにある武器を手に取った。
来日も刀とショートソードを抜刀。
盗賊の一人が剣と楯を持って襲い掛かって来る。
「うりゃああぁっ!」
「はっ!!」
相手の剣をショートソードで受け止め、その後刀を振るうが楯に遮られる。
だが来日は間髪入れず、がら空きになった相手の腹に蹴りを放つ。
「ぐえっ!?」
そこにすかさずとどめの一閃。
まず一人。
一方、一緒に突撃した魔族兵はポールアクスを持った盗賊と交戦していた。
この男なかなかの使い手らしく、身体能力で上回っているはずの魔族兵と互角に打ち合っている。
援護に入ろうとした時、更に二人の盗賊が来日に襲い掛かってきた。
一人目のナイフをかわし、二人目の斧を受け止めて弾く。
しかし、こいつら盗賊の割には動きがいい。
もしかすると軍人くずれか、傭兵でもしていたのか。
その時、荷車の方はすでに逃げ始めていた。
今しがた味方の弓兵が荷車を押す者を一人打ち倒したが、自分は目の前の二人を倒さないと進めそうにない。
荷車は限界まで積まれているせいか、そんなに速くはないが、急がなければ林にでも入られたら見失う可能性もある。
「だあああぁぁっっ!!」
斧を持った盗賊が再度迫る。
それに対し、来日は近づかれる前に投げナイフで応戦。
「ぐおあぁ!?」
更に魔力をめぐらせ身体能力を強化、場所は脚。
そして一気に踏み込んで間合いを詰め、相手にショートソードを突き立てる。
「ぐふっ‥‥。」
と、仕留めたと思ったその時、突然肩に激痛が走る。
振り返ると血の滴るナイフを持った盗賊が更に襲い掛かろうとしていた。
「切り刻んだりゃああぁっ!!」
と、その時来日は手にしている刀を急に手放した。
「!?」
相手のその一瞬の驚きを来日は見逃さない。
突き出された腕をつかみ、勢いと共に本来あらぬ方向に捻じ曲げる。
ゴギィッ!!
景気のいい音が響き、更にナイフを奪って止めを刺す。
「倍返しですよ。」
すでに倍どころではない気もするが、続けて奪ったナイフを今度はポールアクスの男の脚に向けて投擲。
ナイフが刺さりバランスを崩した男は魔族兵にあっさりと倒される。
「ハァ、ハァ、すまん。助かった。」
「まだ荷車を確保できてないです、急ぎましょう。」
四人で逃げる荷車を追う。
残る盗賊は五人。
「しつこいヤツラめ。おい!先に行っとけ。さっき手に入れたこいつを使ってやる。」
と言って、鎧に身をつつんだ男が、なにやら腕輪のようなモノを持って前に出る。
「へい!おら、急ぐぞ!」
「待てっ!『闇羅』!!」
味方の魔術兵が魔術を放つ。
その時、鎧の男は腕輪に刻まれている模様を指でなぞった。
「あれは!?」
すると男の腕輪から火炎が放たれ魔術を相殺した。
「法具か!やっかいな。」
どうやら『火炎球』の魔術が込められているらしい。
「こいつはいい!ほれほれぇ!!」
男は調子に乗って何度も模様をなぞる。
そのたびに幾つもの火の玉が飛んできた。
威力も通常の『火炎球』と遜色ない。
来日は相手の攻撃をかわしつつパターンを見る。
どうやら、一回に飛んでくるのは四つが限界らしい。
逃げながら槍を持った仲間に話しかける。
「あの火炎が止んだら、あいつの腕輪を弾き飛ばすことができますか?」
「あ、あの程度の距離ならなんとか踏み込めるが、それがどうした?」
よし。ならば、
「私があの火炎をなんとかします。幸いあの人は調子に乗っているようですし。その隙に腕輪の方をお願いします。」
「そんなことができるのか?」
「やってみせますよ。」
そう言って少し笑みを浮かべながら、来日は前に出る。
そして背中の大剣を抜く。
その刀身は傷だらけだった。
「わざわざ前にでるとは、火達磨になって死ねぇぇ!!」
「それはイヤです。」
彼女は魔力をめぐらせ身体能力を強化、場所は腕。
男の腕輪から四つの火炎が飛び出す。
「はああぁぁっっっ!!!」
そして、その細腕からは想像できない速さで、自分の身の丈ほどもある大剣を振るい、四つの『火炎球』すべてを弾き落した。
実はこの大剣、恐ろしく硬く、来日自身も武器以外に楯としても使用しているくらいだ。
この程度の火炎なら、なんの問題も無い。
「今だっ!!」
その隙に魔族兵は踏み込んで男の腕輪を弾く。
「ひぃぃっ!?」
武器を失い逃げだそうとした男に対し、来日は一瞬で踏み込み、

ドゴォォッッ!!

と、男は声を発する間も無く、ナマクラなはずの大剣で鎧ごとぶった斬られた。
(あ、そういえば腕を強化したままでした。)
横にいた魔族兵もさすがに苦笑いをする。
「ああっ、荷車が!」
その交戦中に荷車はかなり進んでいた。
「へへっ、このまま逃げきりゃ‥‥。」
と、盗賊達が息巻いたその時、
ドスッ!
「へっ!?」
先頭で荷車を引いていた者が突然倒れる。
「な、なんだぁっ!?」
「まったく、こんな事態が起こるとは。名雪さん、あゆさん。」
「うん、こっちはまかせて。」
「うぐぅ、いっくよー!」
突如、空間の裂け目から三人の少女が現れた。
「『琉落の夜』。」
「『光羅』!!」
一瞬で二人の盗賊を仕留める。
「くっ、くそー。これだけでもぉ!」
荷車から豪華な作りの宝箱を抱えて、最後の一人が逃げ出そうとするが、
「往生際が悪いですよ。」
再び空間跳躍で目の前に現れた美汐の一撃により倒れた。
「ふぅ。」
一息ついて槍を収める。
「よかった、援軍が間に合ったようですね。」
と、魔術兵が言う。
どうやら連絡水晶で呼んでいたらしい。
「すいませんでした。立て込んでいたとはいえ、フォベイン城の留守をおろそかにした為にこんなことが‥‥。」
「いえ、なんとかなったようなので、よかったです。」
と来日は自分の武器を回収しつつ答えた。
そして、薬を取り出し、肩の傷口に塗りこむ。
この薬は師の一人に教わった特製品で、この程度の傷なら一時間ほどで塞がるという結構な優れものだ。
終わったと思ったその時。
「ねぇねぇ、この宝箱って、何が入ってるのかな?」
「う〜ん、なんだろうねぇ?ちょっと開けてみようか。」
と羽の生えた少女二人は最後の盗賊が持ち去ろうとした豪華な宝箱に手を伸ばす。
「あゆさんも、名雪さんも。そんなことをしている場合では‥‥。」
「大丈夫だよ、ちょっとだけなら。」
と、宝箱を開ける。
「さあ、何が入って‥‥‥、うぐぅっっ!!?」
「えっ?なんだったの‥‥‥、だ、だお〜〜〜!??」
二人ともなにやら奇妙な声を上げて驚いている。
「?、一体、何がそんな‥‥‥って、ひぃぃぃ!!??」
と、さっきまで冷静だった美汐まで取り乱している。
「ど、どうしたんですか?」
さすがに心配になり近づくが、
「見、みみみ、見ないほうがいいです!!本当にっ!!!」
相当な剣幕だ。
本当に何が入っていたのだろうか?
一瞬、瓶のような物が見えたが‥‥‥。
「ふ、封印!今すぐにでも封印です!確か時谷なら封印魔術が使えたはず、とりあえずそれで‥‥‥!!」
「ん?ひょっとしてこの紙ってレシ‥‥‥。」
「あゆちゃん!み、見ちゃ駄目だよ〜〜!!ううっ、お母さん‥‥、こんなモノを宝箱に‥‥‥。」
一体何がこんなにさせるのか。
来日には検討がつかなかったが、なにはともあれ、今回も彼女は生き残れたようだ。

余談だが、その後、例の宝箱は中身ごと強固な封印を施され、地下迷宮の奥深くに厳重に安置されたらしい。
この作業は祐一自らの指揮の下、一時的に他の何よりも優先され、結果、進軍を丸一日遅らせてまで行われた。
そして、噂では事情を知るものはその作業の終了後、何か一つのことが終わったかのようなとても清々しい顔をしていたという。
やはり不測の事態とは起こるものだ。





あとがき

ども壱式です。
ちょっといつもより長くなってしまいました。
今回はエンカウント戦闘っぽく、書いてみたつもりです。
戦闘の描写は難しいですが、書いてて楽しいです。
ちょっとでもおもしろいと思っていただけたら幸いです。
最後の宝箱の中身は‥‥‥。
まあ、言わずと知れた『アレ』です。
この宝箱もあの城から持ち出された物なので。
この世界にあるかどうかはわかりませんが、敵の落とした宝箱に入ってたらおもしろいかな〜、と思って出してみました(笑)
多分、本当にあったら過去に相当な被害者が‥‥‥。
というわけで、また次回。