名も無き傭兵
         第三話「束の間の語らい」





地下での戦いの後、祐一達はフォベイン城を攻撃。
見事、水瀬秋子を撃破した。
そして、その戦いの翌日。
来日は祐一軍の武器屋にいた。(彼女自身はフォベイン城戦には加わらず待機していたが。)
先日の地下迷宮戦で壊れた篭手を新調するためだ。
しかし、
「さすがに片方だけ売るのはなぁ」
「そ、そこをなんとか。必要なのは右手側だけなんですよ‥‥。」
「うちは両手で一つという形で売っているから。それに片方だけ売ったらもう片方はどうすればいいんだい?」
「やっぱりそうですよね‥‥‥。」
店主と交渉の真っ最中だ。
話のとおり、必要なのは右手側だけ。
しかし、篭手は普通両手で一セットとして売られていることが多い。
片方だけというのもあるにはあるが、肩まであったり、用途が違い高かったりするものしかなかった。
壊れることが前提だから正直安いのがいいのだが、なかなかそう都合の良いモノがない。
「なんなら残っている方を下取りに出すかい?そんなに高くは買い取れないがね。」
「う〜ん。」
来日は考える。
これからの戦い、本格的にカノンとぶつかるだろう。
それならばこの間のように魔術を使う機会も増えるに違いない。
「いえ。やっぱりこの篭手を一組ください。」
「まいど!」
と、そこそこいい値の篭手を購入。
あまりに駄目な篭手だと、余波に耐え切れず篭手をつけている意味が薄れる。
だからといって、硬すぎると衝撃が逃げず腕がとんでもない事になる。
なので、ほどよく衝撃を逃がして壊れてくれる程度でないと「貫く破閃」は使えない。
来日はいままでの経験でどの程度の篭手がちょうど良いかを見分ける目を養っていた。
しかし、本当にいろんな意味でできそこないの魔術である。
奇襲性が高く威力もあるので覚えたのだが、使うまでの準備はとても面倒だった。
なにより、財布に直撃するのは来日にとって大きかった。
といっても、この魔術のおかげで命が助かったことは何度もある。
それにそんなことをいっては、無理を言って珍しい古代魔術を教えてくれた師に申し訳が無い。
そんな事を思いつつ買い物を済ませ部屋に戻ろうとすると、前から美咲が歩いてきた。
「あ、こんにちは、美咲さん。」
「え?あ、ああ、来日さん‥‥。」
どうかしたのか、美咲の声には元気が無かった。
「す、すみません、来日さん。私、ちょっと用事があるので‥‥。」
「は、はい、それでは。」
そういってそそくさと去って行った。
どうしたのだろうかと思ったその時、
「美咲さんは祐一様の所に行ったのでしょう。」
「うん、そうだろうね。」
と、後ろから声がした。
そうだった。
昨日の戦いの後から、祐一はまだ目覚めていないとのことだった。
美咲が心配するのも当然だ。
「と、えっと、あなた達は?」
「あ、すいません。私は美坂栞と申します。」
と、教会の服を着た少女と、
「ボクはさくら。芳野さくらだよ。で、こっちはうたまる。」
マントを羽織った小柄な少女は猫のような生物と共に答えた。
「私は来日・フォルデリングと申します。来日と呼んでくだされば。」
「来日ちゃんだね、ボクのこともさくらでいいよ。よろしく〜。」
「わかりました。私のことも栞と呼んでください。」
どうやら二人とも人間族らしい。
ここで美咲以外の人間族と顔を合わせたのは初めてだった。
やはりいいなと思いつつ、
「祐一さんはまだ目覚めていないのですか?」
「はい、そうみたいです。さっきも少し話を聞いていたのですが、私たちも心配です。」
「どうにも本来無いはずの力を使った反動だってあゆちゃんは言ってたけど。でも一日くらい寝てたら自然に目覚めるみたいだよ。」
本来無いはずの力。
来日にはそれに思いあたる節があった。
「相反属性の力‥‥とかですか?」
「知ってたの?」
「半神半魔と言っていたからもしやと思って。相反属性‥‥本当にあったんだ。」
相反属性が生み出す対消滅。
祐一の場合は光と闇だろう。
それを意図的に起こすことができれば、と昔、魔術を習った師から聞いたことがある。
「でも、それは本来‥‥。」
「うん、打ち消しあって存在しえないはずなんだけど、どういうわけか祐一は両方の力を保っているんだって。」
普通はどちらかの血が濃く出るのだが、そうなると祐一はかなり特別な存在だ。
祐一が持つ気配の違和感は間違いなくこれだろう。
「そういえば、キミって人間族だよね?ひょっとして昨日ボクたちみたいに祐一の仲間になったの?」
と、考えているところに、不意にそんなことを尋ねられた。
「いえ、私はそれ以前からいましたよ。数日前に傭兵として雇われたんです。」
「へえ、そうなんだ。でもなんか立場似てるね〜、にゃはは〜。」
「そうですね。」
そういって二人とも笑う。
恐らく昨日の傭兵達の中にいたのだろう。
雇われなおしたのか、気分が変わったのか。
来日はなんとなく人懐っこそうなさくらに良い印象をもった。
「本当に祐一様には色々な人達が集まってきますね。」
「え?」「にゃ?」
栞の突然の発言に思わず二人とも変な声が出る。
「どうしてそんなことを?」
「はい。私はアーフェンが祐一様達に占領されたときにそこにいて、初めは捕虜として祐一様と出あったんです。そのときは魔族というだけで恐ろしかったのに、ここの人達や、集まって来る人達を見ていると、そのときの自分がとても愚かに思えて。祐一様は復讐が目的といっていますが、ここには種族がどうとかというのが無くて、こうして一緒にいると、なんだかとても新鮮に思えるんですよ。」
と、いままでを思い返すように栞は言った。
不意に、来日の耳に復讐という言葉が残った。
「言われてみれば、これだけの種族が一緒にいるのはすごいことだよね。」
「そう、ですね‥‥。」
少し声がどもる。
「う、うにゃ?どうしたの?ボク達なんか変なこと言ったかな?」
気づくと少し目頭が熱かった。
「あ、いえ。そんなことないです。ただちょっと懐かしくて。私が育ったとこがこんな感じだったんです。」
「色々な種族が共存していたと?」
「はい。とても少ない、それこそ十人にも満たない集まりだったし、今はもう無いんですけどね。それに‥‥‥。」
「それに?」
「私も復讐のために強くなろうとしていたんですよ。」
意外な発言に二人は驚いた表情だ。
「それで、来日様はどうなさったのですか?」
と、栞は心配そうに聞く。
「一度死んで、振り返ってみて、私に出来る事はなんでろうって思うようになりました。といっても旅をしながら傭兵稼業をしているだけなんですけど。」
「一度死んでって?」
「名前を変えたんです。以前の自分から変わろうとして、何か変化が欲しかったんです。だから私、偽名なんですよ。ちょっと変わった名前だと思いませんでした?」
「そうだったんですか。」
「確かに、このあたりで聞くには珍しいと思ったよ。」
「だから、私は考えるんですよ。」
と、来日は二人を見て、
「ここで自分にできることはなんなのか、その出来ることのために頑張ろうって。」
「うん。それってなんかいいね。」
「‥‥‥自分の出来ること‥‥‥。」
そういいつつ来日は二人と別れた。
どうやら栞には何か考えがあるみたいだったが。
「‥‥‥‥。」
一人になったあと来日は、
「自分ができることか‥‥。自分で言っておいて、私にはいったい何が出来るんでしょうか。」
と、つぶやき部屋に戻っていった。
その答えを求めて、戦うために。





あとがき

ども壱式です。
今回は完全にインターミッションですね。
主人公の来日について少しでもわかっていただけたら幸いです。
ちなみに彼女にはベースとなったキャラがいたりします。
原作からは栞やさくらが登場しました。
これからもぼちぼちゲストのように登場させてゆくつもりです。
でわ、相変わらず未熟ですが、できればこれ以降もよろしくです。