私は名も無き傭兵。
様々な地を彷徨い、日々、惑う者。
戦乱の中をひたすら歩み、誰の記憶にも残らない者。
もはや、どれほどの血と屍の中を歩いてきたか。
その軌跡を知る者は誰もいない。
名も無き傭兵
第一話 「傭兵」
キー大陸、カノン王国領のとある場所を旅人らしき者が歩いている。
その者は頭からマントを被っており、腰に刀とショートソードを一振りずつ、背中に大剣を背負い、街道とはまったくはずれた場所をひたすら歩いていた。
「アーフェンは‥‥‥。よし、こっちであってますね。」
その者は正規の街道を通らず、ワン自治領側の関所から一直線の最短ルートを通りアーフェンに向かっているようだ。
この者は人間族の傭兵。戦いを生業として生きているのだが、
「もう、始まっていたようですねぇ。」
すこし先で巨大な光の矢が森に次々と突き刺さっていくのが見えた。
もう戦いは始まっていたらしい。
しかも、その戦いはすでに終わりつつあった。
噂どおりなら戦っているのは魔族と人間族。人間族はカノンの兵だろうが、カノン側の兵は統率がとれておらず、もはや遠目にも勝敗は見えていた。
そして、その場に着いた頃には戦いは完全に終わっていた。
その様子をしばらく眺めているとその者に数人の魔族の兵が近づいてきた。
「そこの貴様!カノンの手の者か!?」
「違います。」
「なら、こんなところで何をしているのだ?用件によってはこの場で‥‥。」
「傭兵として雇われに来ました。」
「何?」
人間族が魔族に雇われたい。
突然の発言に魔族の兵達は少々困惑していた。
「武器も道具もそちらに預けます。そちらの主か、商談の出来る方にお会いしたい。」
そう言ってその者は魔族兵達に無理やり荷物を押し付け、なかば強引に地下迷宮に案内させた。
暗い地下迷宮の一室。
ここの主である祐一は敵将を討ったあゆをねぎらった後、今は今回の戦いで出た被害の確認をしていた。
「祐一様。」
そこにあらわれたのは久瀬。祐一の参謀役である。
「どうした?被害の確認なら今終わったところだが。」
「それが、祐一様に雇われたいという者が‥‥。」
「雇われたい?」
「旅の傭兵とのことです。人間族のうえ、一人ですが。」
「ふむ。」
祐一は考える。
今回の戦いで、主に源三郎の存在により、数人の死者が出た。
さらに水菜の使い魔も数を減らしてしまった。
魔族に雇われようとする人間族。
一見、変わり者に聞こえるが、腕に覚えがあるのなら会ってみるのも悪くない。
「よし、とりあえず会ってみよう。」
「祐一様がわざわざ出向かずとも私が話をしてもよろしいですが。」
「いや、雇うにしろ雇わないにしろ、どんな奴かも見てみたいしな。」
「御意。」
客室のような場所で待たされていた。
戦いのすぐ後なのに責任者を呼んだのだから、大分時間が掛かると思っていたが、割と早くその責任者は現れた。
「お前が雇われたいという者か?」
「はい。お初に御目にかかります。私は来日(らいひ)・フォルデリングと申します。」
名乗りながらその者はフードの様に被っていたマントをはずして顔を見せた。
そこから現れたのはなんと少女だった。
後ろで括った長い髪に、穏やかそうな目。
しかし、胴着のような服の上に着けたブレストプレートは傭兵のものらしく傷だらけであった。
「俺は相沢祐一。一応ここの主だ。さっそくで悪いが、傭兵として雇われたいと言っているそうだな?」
「はい。」
「なぜ我々のところに来たのだ?人間族ならカノンの方に仕事を探しそうなものだが。」
「見たところカノン側が負けていましたし、こちらの方が確実に稼げそうだったもので。それに私はもともとアーフェンに仕事がありそうと聞いて来たものですから。」
「ここを知っていたのか?」
「かつてキー大陸にいた魔王の血族が戻っているとだけですが。ならここしかないだろうと、ビンゴだったようですね。」
「なるほどな。」
どこで聞いたかは知らないが、もうここには数年前から住んでいた。
更に、もはや事を起こしている今ではさほど問題ではないだろう。
「俺は復讐のためにカノンと戦っている。それにためらいは無い。お前は人間族と戦うことにためらいはないのか?」
「私は根無し草の傭兵です。それを聞くのは愚問ですよ?」
「そうか、それもそうだな。」
祐一は一息ついた。
傭兵は雇われたものの味方なのだろう。
この人種も目的はそれぞれ。
生活、夢、自由。
金が全てという者もいれば、気の向くまま旅をする者もいる。
祐一は少し心に留めた。
「それで、いくらだ?」
「雇ってもらえるのですか?」
彼女の表情が少し和らぐ。
「金額にもよる。それは交渉しだいだがな。雇うなら寝床と食事くらいは用意するつもりだが。」
「それなら、いつもはこのくらいです。」
彼女の言う金額は命を懸けて戦場に出るには微妙な金額だった。
正規の兵でもないし、こんなものなのだろう。
「あとは武器の手入れと、防具に薬の補給ができればいいのですが。」
「ふむ。まあいいだろう。雇うことにする。」
「では、契約成立ですね。雇い主は祐一様ということで、よろしくお願い致します。」
「ああ、兵が増えるのはありがたいしな。」
そういって差し出された契約書にサインをする。
「それと、そんなに改まってしゃべらなくてもいいぞ?」
「そうですか?でもこんな感じが普通ですし。なら、呼び方だけでも祐一さんと。」
「ああ、それでいい。では戦いになったら兵として呼ぶ。」
「はい。了解しました。」
彼女はふと思った。
こんなに円滑に契約が進むとは。
彼女自身は種族間に偏見はないが、もう少しは悩まれるのは覚悟していた。
しかも、この祐一という魔族の放つ気配にもなにか違和感を感じていた。
そこに、
「お呼びですか?ご主人様。」
と、現れたのはメイド服のような格好の人間族の少女だった。
「人間族の相手をするなら人間族の方がいいと思ったが、どうやらお前はそういった偏見が薄いらしいな。」
「こちらの方は?」
「はじめまして。このたび祐一さんに雇われた傭兵です。」
するとメイド服の少女はそうなのですか、と答えた。
「彼女は召使いというか、まあ仲間だ。それと俺は正確には半魔半神、魔族と神族との間に生まれた、呪われた存在だよ。これでお前の疑問が少しは晴れればいいが。」
祐一の思わぬ出生の秘密に、彼女はさすがに驚いたが、それならば疑問や行動にも納得がいった。
復讐をしている理由。
恐らく過去にその生まれで追いたてられたのだろう。
自分をあっさり雇ったのも、種族に対する偏見が薄いと感じたのなら、とっつきやすかったのかもしれない。
そして戦場で見た光。
魔族が勝ったはずなのに、光の攻撃の後人間族が負けた。
もしかしたら神族の仲間もいるのかもしれない。
だとすれば、ここには全種族が揃っていることになる。
もしそうなら、と彼女はここの印象を新たにした。
「美咲、彼女を部屋に案内してやってくれ。後で預けてもらった武具も運ばせておく。」
「はい、かしこまりました。」
「頼んだぞ。」
と、祐一は部屋を後にした。
「では、ええと‥‥。」
「来日・フォルデリングです。美咲さんでよろしいですか?」
「はい、フォルデリング様。」
「あ、来日で構いませんよ。」
「では、来日様。こちらです。」
そういって部屋を出て案内された。
これから戦いになれば仕事が始まる。
そう思って案内されていると、
「ところで来日様は旅をしていたみたいですが、どんなところを旅したのですか?」
「ああ、この前まではタイプムーン大陸で仕事をしていました。普段は国境付近で仕事をしていましたね。あとは今のウタワレルモノやビッグバンエイジができる前後あたりにそこにいた時もありますよ。」
「仕事って傭兵のですよね?すごい‥‥、ひょっとして物凄くお強いのでは‥‥?」
「いえ、私はただ生き残っただけですから、そこまでは‥‥。」
「でも、魔力の気配も感じます。魔術も使えるのでは?」
「使えるといっても身体能力の強化と、あとは出来損ないの魔術だけなので。そんなことを言ったら美咲さんだって、私とは比べ物にならない魔力を感じますよ?」
「わ、私はただ、ご主人様のお役に立とうと思っただけで、必死に‥‥‥。」
そういって、少し頬を赤らめる美咲。なるほど、と来日は思った。
「あ、ここです。この部屋をお使いください。」
と、ひとつの部屋に通された。
「へぇ‥。いい部屋ですね。」
そこは地下とは思えないほどいい部屋だった。
きれいに掃除されていて、机にベッドもあり、広さもちょうどよかった。
節約で野宿が主の彼女にとっては、まさに天国のようだった。
「では、何かあったら気軽にお呼び下さい。」
そういって美咲は戻っていった。
「ふう‥‥。」
しばらくして預けていた荷物が届いた。
それを確認したあと、長旅と契約とで疲れたので、今日は床についた。
これから始まるであろう、長く厳しい戦いに備えて。
「雨風がしのげる所で寝られて、よかった‥‥‥。」
本当に疲れていたようである。
あとがき
ども、壱式です。
本当に書いてしまった。神魔三次創作。
しっかし、文章のまとまりが微妙。
ああ、もっと文才がほしい‥‥‥。
一応、続き物ではあるけど原作に申し訳ない出来ですいません。