夢を見る。

 それは悲しい夢。それは苦しい夢。それは辛い夢。

 そうなのに。

 自分が何を思おうが、その夢はまるで自分に何かを告げるように終わらない。

 

 今までは、そうだった。

 

 そう、ついさっきの、一瞬までは。

 

 だけど今は違う。

 

 夢を見る。

 それは悲しい夢。それは苦しい夢。それは辛い夢。

 

 だけど。

 

 その夢は今、静かに終わりを迎える。

 

 

 

   神魔戦記三次創作『永久の未来へ』

    最終話 悠久の想い

 

 

 

 目を覚ます。

 うっすらと開けた目には、外の明るさと――少女の……顔?

 

「あ、起きた」

「……」

 

 沈黙、約三秒。

 

「な、なぁっ!?」

 

 飛び起きた。

 

 いやだって、予想外だし。

 

「何でここ(カノン)にいるのさ! ノエルっ!」

「や、何でって言われてもなぁ。むしろ私が聞きたいよ。意識が無くなって、目が覚めたら見覚えがここにいるんだもん」

「はぁっ!?」

 

 もはやわけが分からない。

 どうしてエアの兵である彼女が、ここにいるのだろう。

 しかもご丁寧に、診療所にまで運ばれて。

 

「っていうか、やっぱりここカノンなんだ?」

「そ、そうだけどっていうか何で冷静なの!?」

 

 こっちは大騒ぎである。

 というか、うん。色々おかしい。

 

「や、だって騒いだ所で事実は変わらないでしょ?」

「あ……あのねぇ……」

 

 ……そういえば覚えては無いけれど、昔から彼女はこんな感じだった気がする。

 神経の太さが並ではない。

 

 でも……この状況なら驚かないだろうか? 普通。

 

 エア兵がカノンにいる。

 しかも診療所でお世話になる。

 

 それは結構、あり得ないことであるはずだ。

 

「うん、二人とも起きたみたいだね?」

 

 と、そんな感じに混乱をしていたら、不意に廊下の方から声。

 振り返ると――そこには以前に一度だけあった、あの青髪の少女がいた。

 

「名雪……さん?」

「あはは、覚えててくれたんだ」

 

 そう言いながら、名雪は部屋に入ってくると二人のもとまで歩み寄ってくる。

 

「えーっと……?」

 

 しかし、彼女とは面識の無いノアルは首を傾げるばかりで――。

 

「あ、ごめんね。私は水瀬名雪。この国に住んでるんだ」

「え、あ、ノアル=リフェティアです」

 

 だが、屈託のないその笑顔の前に、緊張感を抱くことは無かった。

 

「名雪さん……どうしてここに?」

「あぁうん。ちょっと美凪さんから伝言を預かっててね」

「……隊長から?」

 

 何だか、変な予感を感じた。

 いやまぁ、悪寒とかそういった類のものではないのだが、とりあえず変な予感だ。

 

 しかし、基本的にこういう時の予感というものは等しく当たることが多いわけで、

 

「『ノアルのことは私の関係者ということで、一時的にカノンで預かることになりました。ですので、思う存分に、話とかをしてください』だって」

「……隊長……」

 

 あの人は……一体何を考えているのだろうか。

 それにこの国も、いくら関係者だからといって、エアの人間を――。

 

「あ、そのことなんだけどね」

 

 と、その思考を中断させたのは名雪の言葉。

 

 そしてその口から聞かされたのは、キー四国の全てが、コミックパーティーなどといった国の仲介のもとで、休戦を決定したことだった。

 

「……何ていうか、眠ってる間に色々あったみたいだね」

「そうだね。私も初めは驚いたけど……でも、シズクっていう脅威が生まれた以上、仕方ないんじゃないかな」

「じゃあつまり……ノアルがここにいられるのも」

「うん。それも少しは影響してると思うよ?」

「そっか……」

 

 正直、完全に納得した、というわけでもない。

 しかし、今が事実と認めざるを得ない状況である以上、それを認めなければどうしようもないだろう。

 

「それじゃあ、私はこれを伝えるために来たから、そろそろ行くね」

「うん、わざわざありがとう。名雪さん」

 

 部屋を出る時、名雪は一度微笑む。

 そして、部屋を出て行った。

 

「……それで? ノアルはもう身体はいいの?」

「うん。ルークほど無理もしてないし、怪我自体は治癒魔術で治ってるからね」

「そっか……っと」

 

 ルークもベッドから降りようとしたのだが、床に足をつけたところで身体がふらついた。

 

「ちょっとちょっと……無茶しないでよ? 私はともかく、ルークは魔力回路まで結構ダメージがいってるんだから」

「あー……それもそっか。かなり、無茶したからなぁ……」

 

 あそこまで魔力を行使したのだ。

 それぐらいの反動がきたとしても、おかしくは無いのだろう。

 

 ……まぁ、さすがにちょっと情けなくはあるんだが。

 

「もっと鍛えようかなぁ……」

「それよりも、まずは身体を治さないと」

「あはは……それもそっか」

 

 確かにそれはもっともだ。

 立つことすらままならない今では、鍛えるとか言ってはいられない。

 

 まぁ……どの道今は、戦いが終わったばかりなのだ。

 少し、休んでも罰は当たらないだろう。

 

「とりあえず、何か食べる? 何か私達、二日間寝っぱなしだったみたいだし」

「うわぁ……やっぱりそれぐらい時間経ってるのか」

「まぁあんなことがあったから仕方ないと思うけど。それで、どうする?」

「うん、じゃあお願いしていいかな」

「了解」

 

 頷いてから部屋を出て行くノアルを見送り、ルークは目を閉じた。

 

 そして思い返す。

 あの戦いで、最後にノアルが言った言葉を。

 

 だが答えは――どうなのだろう。

 まだ記憶も戻っていない今、自分がその言葉に答えてもいいのだろうか。

 ノアルが好きだと言ったのは、昔から一緒にいたルークなのだ。

 しかし今のルークは、その記憶が無い。

 だから自分に、その権利があるのだろうか。

 

 それだけが、ずっと心に引っかかっていた。

 

「お待たせ」

 

 その時、部屋へとノアルが戻ってきたため、思考を中断する。

 

「うん、ありがとう」

「ついでに、食べさせてあげようか?」

「何のついでなのさ……。いいよ、自分で食べれるから」

「つまらないなぁ」

「あのね……」

 

 苦笑を浮かべながら、ノアルから食器を受け取る。

 ノアルは何だか残念そうな表情を浮かべたのだが、その辺は気にしないでおこう。

 

 ……というか、突っ込んだら問答無用で嫌な流れに持っていかれる気がする。

 

「ところで、ルーク」

 

 そんなことを考えながら、料理を口に運んだところで、ふとノアルが口を開いた。

 一瞬、考えていたことがバレたかと思ったけど、そんなわけはないと自然に反応を返す。

 

「どうしたの?」

「うん。この後なんだけれどさ、ルークは暇だよね?」

「うんまぁ……今起きたばかりだから、予定も無いけど」

 

 そう返すなり、ノアルの表情がぱぁっと明るくなる。

 一体何かと思ってみれば、

 

「だったらさ、後で散歩しようよ」

 

 なんとも唐突に、ノアルはそんなことを言い出した。

 

「……散歩?」

「そそ。大通り辺りをぐるっと。車椅子、押してあげるからさ」

「……急に、どうしたのさ」

「うーんとね……。ほら、私ってエアに住んでて、他の国のことってあんまり知らないからさ。この際に見物していきたいなぁって」

「あぁ……そういうこと」

 

 つまりはまぁ、外国見物をしていきたいと。

 で、ルークにはその案内役のために着いてきて欲しい、と。

 要約すればこんな感じだろうか。

 

 ……が、とりあえずは反対の意思を見せておく。

 

「一応さ、僕これでも目を覚ましたばかりなんだけど」

「大丈夫大丈夫。ちゃんと外出許可はもらったよ?」

「……あぁ、そう」

 

 なんとも、用意周到で。

 

 

 

 数日前にはシズク襲撃という事態があったというのに、カノンの大通りは既にいつもどおりの賑わいを取り戻していた。

 店によっては半壊し、それどころでは無い所も確かにあったものの、それでもそこの喧騒に違いは無い。

 

「凄いね……」

「うん、同感」

 

 おそらく、ノアルのその言葉には幾つも意味があったのだろう。

 

 数日前にあった出来事を乗り越えて、ここまでの賑わいを見せる大通りに。

 エアを軽く越えているその大通りの賑わいに。

 多種族が、差異無く接しているその光景に。

 

 その全てに、ノアルは感慨の息を吐いていた。

 

「これがカノン……か」

「驚いた?」

「……うん」

 

 しばらくの間の後、ノアルは頷く。

 初めて見る、全種族共存の国。

 それは、種族による差別を考えないものであれば一度は考えたことがあるであろう、理想郷だ。

 そしてこの国は、その理想郷の一片。

 感慨深くなるのも無理は無かった。

 ルークだって、初めてこの国を見た時は同じような感想を抱いたのだ。

 その気持ちはよく分かる

 

「それよりノアル。大丈夫なの? 君だって起きたばっかりなのに、こんなこと」

「んーん、まだ戦いは出来ないけど、歩いたり車椅子を押すぐらいなら問題は無いよ。だからルークは、余計な心配はしなくていいの」

「余計じゃないと思うけどね……」

 

 戦闘で消費した魔力とかを考えれば、ルークほど酷くは無いのは明らかだが、それでも多少のダメージは残っているとは思うのだが。

 が、彼女が大丈夫と言う以上、それを撤回することはまず有り得ないので、仕方なく自分を納得させることにした。

 

「それで、散歩って言ったけどさ」

「うん、言ったよ?」

「……だったら先に言っておきたいんだけどさ」

「ん、何?」

 

 ちなみにそれは、憶測ではなかった。

 だってルークが言わんとしていることは、ルーク自信が経験をしたことなのだから。

 

「……さっきから適当に動いてるみたいだけどさ、迷うよ? この国広いんだから」

 

 即ち。

 目覚めて早々、ある意味でデンジャラスな目に遭うかもしれない可能性を危惧しての言葉だった。

 

 だが――しかし。

 後悔後先に立たず、という言葉があるように、

 

「あー、ごめんルーク。既に迷子だから」

 

 ぶっちゃけ、気付いた所でどうにもならないことってあるのだ。色々。

 

 

 

 

 

 

「うぁ……さすがにちょっと疲れたかも」

「自業自得というか何と言うか……。これに懲りたら、ちゃんと考えて行動しようね?」

「嫌だよ、直感的行動が私のモットー」

「あのねぇ……」

 

 結局、国内を一時間近く回った挙句、やっと診療所の近くに出ることが出来た。

 そして今は、そのすぐ傍にあった公園にて休憩中な二人。

 

 診療所に戻る、という気はまだ無いらしい。

 

「でも、いいじゃない。色々と見て回れたんだから」

「そこは否定しないけどね……。ただ、路地裏とかまで見て回る価値があったとは思えないんだけど」

「そう言うところに、意外と穴場な店があるかもしれないよ?」

「いやいや……あるとしたら間違いなく怪しい店だよ……」

 

 いやまぁ、万に一つぐらいは確かに穴場みたいな店もあるかもしれないが、そんな危険を冒してまで探したくは無い。

 それに、車椅子のまま路地裏を通るって何気に無理があったし。

 診療所のものなのだから、傷はつけないで欲しかった。

 

「それじゃあ、少し休んだらまた行こうか」

「……まだ行くんだ」

「大丈夫大丈夫。今度はちゃんと大通りに沿って歩くし」

「あぁうん……。つまりは道を外れたんだね? さっき」

 

 道理で迷うわけである。

 まぁ、気付かなかった自分も自分ではあるのだけど。

 

 今度は自分がしっかり見ておこうと、ルークは密かに心に誓った。

 ……ちなみに、彼女の性格上の問題で、その提案を却下するという選択肢は無くなっていた。

 

 そう考えているうちに、ふと気が付く。

 隣からのノアルの声が、止んでいたのだ。

 ふと気になってそちらへと視線を向けると、ノアルはベンチに深く腰掛け、空を見上げていた。

 何と無し、ルークも車椅子にもたれて同じように空を見上げる。

 

 透き通るような、爽快な蒼。

 広がる果てしない景色がそこにはあった。

 

「色々……あったよね」

 

 そして空を見上げながらポツリと呟いたのは、ノアル。

 

「……うん、そうだね。沢山のことがあった」

 

 ノアルの言葉に、ルークも思い返す。

 エアを出て、そして今までの日々を、ゆっくりと。

 

 悲しみ。喜び。出会い。別れ。再会。

 

 数多の記憶が頭を過ぎっていく。

 本当に、多くのことがあった。

 その全ての記憶が今、頭の中を駆け巡る。

 

 そして――。

 

「そう言えば、ノアル。この間の返事……まだだったよね」

「……え? この間の……って、あ、あれ!?」

「……何で言った本人が慌てるのさ」

「だ、だってあれ! 何ていうか混乱してたって言うか普通はあんなこと言えないしっ!?」

 

 ルークが言葉を告げると同時、彼女は顔を真っ赤にして両手を振り、慌て始める。

 その様子に、柄でもなく可愛いなぁ、何て若干惚気てみたりしながらも、とりあえずルークは言葉を続けることにした。

 

「僕も好きだよ。ノアルのこと」

「……あぅ……」

 

 瞬間、煙がでそうなぐらいにノアルの顔が赤くなる。

 そして拳を握って俯いてしまうが……まぁ、これは話を聞いてくれる態勢ってことでいいんだろうか。

 勝手にそう解釈をし、言葉を続けた。

 

 ただし、その言葉は――そう。

 長い間失っていた気がする、その断片のようなものだ。

 だからそれは、ルークにとってもノアルにとっても、特別以上に特別な意味を持つ。

 

「多分、これからもずっと。今まで(、、、)がそうだったように、これから、ずっとね」

「……う、うぁー……ルーク、私の言葉より恥ずかし、い……こと――を?」

 

 ノアルの表情が固まる。

 そして、その首がゆっくりとルークへ向いて――。

 

「今……何て?」

 

 まるで、ルークの言葉が信じられないと言うように、驚愕に染まった表情でそう問う。

 まぁ、無理も無い。

 

「今までがそうだったように……だよ」

 

 だってその言葉は――。

 

「……ルーク……記憶が……?」

 

 ――長い間失っていた、とても大切なものの断片なのだから。

 

「うん、戻ってきたみたいだ。……まだ、不鮮明なんだけどね」

 

 だからその事実が、彼女にとっては何よりも嬉しくて。

 故に、目から溢れるそれを止めることは出来なかった。

 

「……うぇ……」

「あぁもう……。泣かないでよ」

「そ、そんなこと言ったって……勝手に、流れてくるんだよぉ……っ」

「変わらないなぁ……ノアルは昔っから」

「う、うるさいよ……っ。出るものは出るんだから……仕方ないでしょ……っ!」

 

 そんなノアルを見ていたルークの表情が、ふっと和らぐ。

 そして、その頭にぽんと手を置いて、ちょっと態勢がきついかもしれないが、軽くノアルの顔を自分の胸に押し付ける。

 

「馬鹿……もう子供じゃないんだよ……?」

「いいよ。胸ぐらい、いつだって貸してあげるから」

「……ルークのくせに……」

「あはは。悪かったね」

 

 そう文句は言っても、ノアルは抵抗しなかった。

 ルークの胸元をぎゅっと掴み、そして自分からその胸に顔を押し付けようとした時――。

 

「うっわ……ラブラブだよ……ホントに……」

「コラ、馬鹿っ。声出すなって言ってるでしょっ」

「お前等、声でかいっての……っ」

 

 背後から聞こえたその複数の声に、二人は同時に振り返った。

 

「ほら……見つかった……」

「あー……あははー。じ、邪魔をするつもりはー……」

「……あー……その、何だ……」

「皆……いつからそこに……?」

 

 なんだろう。

 今までの雰囲気が、一気にぶち壊された気がする。

 

 誰に? 無論、あの植木に隠れている者達のせいだ。

 

「あー……始めっから?」

「アホ! 正直に言う奴が――げ……」

 

 趣味悪く覗き見をしていた三人の表情が、歪む。

 その視線の先にあるのは、ルークの隣。

 ……その、何ていうか言葉で表現しちゃ駄目っぽい雰囲気を携え、口元にはうっすらと笑みすらも浮かべる……ノアルだ。

 

「ふふふ……これで通算何回目かなぁ……? 少なくとも、そろそろ二桁になると思うんだけどなぁ……?」

 

 どうやら、まだ記憶は不鮮明なので分からないのだが、これは初めてのことではないらしい。

 

「折角、両想いになってこれから色々話そうとしてたのに……そう。皆邪魔するんだぁ?」

「あ……あの……ノアルさん? 何かネジが……」

「うん、ぶっ飛んでるねー。誰のせい? 誰のせいかな?」

 

 一歩。ノアルが歩を進めた。

 ひっ、とそれにあわせて下がる三人。

 で、とりあえず傍観を決め込んだルーク。

 

 白昼の下、三つの断末魔が、カノンに響いた。

 

 

 

 

 

 

「ルーク、見て見てー」

 

 嬉しそうな声をあげながら、ノアルがルークの部屋へと入ってきた。

 少しは落ち着いたらいいのに、なんて思いながらも、ルークはノアルを見る。

 そして彼女が来ていた物を見て、微笑む。

 

「あぁ、カノンの」

「そそ。これで私も正式にカノン軍だよ」

 

 その身に纏っているのは、カノンの紋章が刻まれた鎧だった。

 

 そう。

 あの後、彼女はカノンへと軍籍を移したのだ。

 

 今まではルークとの思い出があるエアを離れようとはしなかったのだが、どういう風の吹き回しか、彼女は不意にこのことを決めた。

 彼女曰く、『昔のことはもういいんだよ。今からの思い出を大切にしようと思ってね』とのことらしいが、ぶっちゃけ彼女の心はよく分からない。

 が、それでもこれからは一緒にいられるという事実だけはわかり、自然とルークの頬は緩んでいた。

 

「あ、何にやけてるのよ」

「ううん、何でもないよ」

「怪しいなぁ」

「そんなこと無いってば」

 

 言いながら、ふとルークは窓から外を見た。

 

「そろそろ、かな?」

「うん? 何が?」

「今日ね、学園に呼ばれてるんだよ。集団戦闘の特別講師って感じで、元・第四部隊のメンバーが」

「へー。結構忙しいんだ?」

「そりゃあね。一応、軍属の身だし」

 

 言いながら、ルークは着々と準備を進めていく。

 まぁ何かよっぽどのことでもない限りは遅刻とかにはならないだろう。

 

 しかし、そんなルークを見ていたノアルは、何を思ったのか。

 

「ようし、私も行こう」

 

 いきなりそんなことを言い出した。

 

「……はい?」

「ほらだって、私も今日からカノンの兵士だし。それに部隊もルークと同じになりそうだし。ほら、都合いい」

「……いやね、呼ばれてるのは元・第四部隊なんだけど」

「今更一人や二人、分からないでしょ?」

「まぁそれもそうだけどさ……」

 

 どうやら、彼女は意地でもついてくるらしい。

 ……本当、自分の言ったことは曲げない性格である。

 

「……しょうがないなぁ。それじゃあ、準備してきてよ。早めにね」

「やったっ。ありがとー、ルークー」

 

 仕方無しにルークが折れると、ノアルは満面の笑みを浮かべて、部屋を出て行った。

 

「何だかなぁ……」

 

 どうにも、自分も結構駄目なのかもしれない。

 あの笑顔が見れるなら、これぐらいなことならいいや、って思えてしまうのだから。

 

 

 

「ほらほら、急がないと遅刻だよっ。ルークっ」

「誰のせい!? ねぇ誰のせい!?」

「女の子は時間が掛かるものなんだってばーっ」

「理由になってないよーっ!?」

 

 二人は叫びながら、大通りを駆け抜けていた。

 まぁ見ての通り、遅刻寸前である。

 

 ノアルの準備を待っていたら、予想外にも時間が過ぎてしまったのだ。

 

「何か、懐かしいねっ」

「何がっ!?」

 

 走りながら、ノアルは笑っていた。

 

「小さい頃、思い出さないっ?」

「あぁ……っ。確かに、懐かしいかもっ」

 

 もう既に完全に回復した記憶。

 そこの中に、確かに懐かしいと呼べる光景もあった。

 幼い頃、孤児院の門限を破りそうになって二人で走って帰った記憶。

 それが、今と少し重なる。

 

「変わらないよね、私達ってっ」

「成長はしてると思うんだけどねっ」

 

 ぶっちゃけ、走りながら会話をするその様子は非常に変なのだけど、まぁ当人達は気にしていない様子。

 

「ってうわぁっ! このままだと間に合わなさそうっ!」

「うわぁ、速度アップっ?」

「アップに決まってるって! 問答無用、行くよ!」

 

 ルークは叫んで、ノアルの手を掴んだ。

 そして駆け出す。

 

「うわぁ、ちょっとルーク早いってぇ!? っていうか何で走れるの!?」

「知らない! 聞こえない! それで多分治った! 行くよっ!」

「うわぁい無茶苦茶ー!?」

 

 騒がしくなりながらも手をしっかりと握り、彼等は駆け抜けていく。

 

 

 

 これからも、きっと多くの出来事がある。

 そしてそれはきっと、楽しいことばかりではない。

 辛いこと、悲しいこと、その全てがあるだろう。

 

 だが、それでも彼等は、真っ直ぐに進みつづける。

 

 そう誓ったから。

 そう決意したから。

 

 だから、彼等は決して止まらない。

 

 そしていつか辿り着くのだ。

 

 永久に続く未来へと。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 どうも、昴 遼です。

 えー、長い間読んでいただいて、ありがとうございました。

 至らない作品ではありましたが、いかがでしたか?

 もし楽しんでいただけたのなら、幸いです。

 

 ……がしかし、ぶっちゃけ幾つかの伏線を回収できませんでした。

 ルーク達の過去話とか、ルークが記憶を失ってしまった理由とか。

 書きたかったんですけど、出来るだけすっきりした形に収めようとしたらいれる暇が無かったので……すいません。

 まぁ、もし気になるのでしたら言っていただければ、簡単になら設定とか明かしますので、よろしくです。

 

 

 

 さてさて……長期にわたって連載してきましたが、これで完結です。

 こんな作品を載せてくださった神無月様。

 読んでくださった読者の皆様。

 その他、意見を下さった皆様。

 本当にありがとうございました。

 

 いつかまた会えるといいなぁ、って思っていますので、その時までさようなら。