数多の咆哮が巻き上がっていた。

 

 それは如何なる敵にも決して挫けぬ、強者のもの。

 それは自身の決意を守り抜くと決めた、戦士のもの。

 それはたった一つの想いを貫き通す、若者のもの。

 

 その咆哮は数多に、しかしその方向性は統一され、戦場に轟いていた。

 

 それとは即ち、絶対に負けぬという想い。

 

 この戦いで平和が訪れるのかもしれない。

 そんな想いを抱いているのはきっと一部かもしれないが、それでもそんな想いを成し遂げるために、彼等は戦う。

 

 既に人では無くなった、その者達と。

 

 

 

   神魔戦記三次創作『永久の未来へ』

    第十七話 Last finale

 

 

 

 咆哮は、ここにもあった。

 無論その方向性はやはり等しく、彼等は成すべきことのため、その者達と戦い続けていた。

 

「"魔剣・天空断斬(グラッデ・リグレイド)"!!」

 

 ノアルの剣が魔力の衝撃波を生み、正面に立ち塞がるシズク兵を幾体も薙ぎ払っていく。

 

 この状況において、まだ魔力の尽きていないノアルの存在は非常に頼りになるものだった。

 前衛として、後ろの魔術師である二人を守ってくれる上に、その攻撃力にも申し分は無い。

 

 先程は敵として戦った。

 だが、味方として戦う今、彼女ほど頼もしい存在は無かったかもしれない。

 

「おぉぉぉぉぉ!!」

 

 そして、ノアルがこじ開けたその空間に、双剣を構えた少年が飛び込み――一瞬で放つ幾重もの銀閃。

 乱舞とでも言えばいいのか、その攻撃は一瞬もの隙を与えることは無く、シズク兵達を切り裂いていく。

 

 が、しかし。

 シズク兵の数は、その少年一人の十数倍。

 当然少年一人で抑えきれるものではなく――やがて数人のシズク兵がその攻撃を抜け、少年へと攻撃を仕掛けた。

 

 だが――。

 

「『踏破せし光の波(ラスターウェイブ)』!」

「『突き抜けし水の刃(ウェイブスライサー)』!」

 

 それらのシズク兵達は、地面より噴出した光の波動。

 そして横合いから薙がれた水の鞭により、一掃される。

 

 その隙に少年はその場所から後ろへと飛んで、

 

「行け! ルーク!!」

 

 仲間の名を叫んだ。

 

 それに返事は無い。

 しかし、反応はあった。

 

 少年が叫んだ刹那、突如として現れた、雷の魔術による――雷弾。

 その数は、六つ。

 その雷弾は、少年を狙って一箇所に集まったシズク兵達を取り囲むように展開していた。

 

 そして、次の瞬間、

 

 ザンッ! と、そのシズク兵達の中心に降り立つ者がいた。

 突然の出来事に反応が間に合わないシズク兵だったが、そんなことは関係無しにその者――ルークは、その手から七つ目の雷弾を生み出して――近くにいたシズク兵を足場に、高く、斜め方向へと跳んだ。

 そしてそれと同時。

 

「"集いし雷の怒り(サンダー・ファランクス)"!!」

 

 シズク兵を取り囲んでいた六つの雷弾が、一斉にその中央にある雷弾目掛けて、光速で収束。

 凄まじい速度のそれは、間にいたシズク兵など簡単に貫き、そして――中央に集結すると同時、雷弾は互いに相殺しあい、雷の柱となって、シズク兵の中央で弾けた。

 

 それはこの速度があってこそ生まれる、小規模な爆発だ。

 だがしかし、そこに集結していたシズク兵を一気に吹き飛ばすには、十分な威力だった。

 

 ルークは皆の近くへと着地し、そのまま後ろへ下がろうとするが――。

 

「っ……!」

 

 ガクン、と、その時全身から力が抜けた。

 

 だが、それも当然のことだった。

 ルークの魔力量は、既に限界に達していた。

 それなのにルークは、ほんの十分程度魔力回復に努めただけで、あの一撃を放ったのだ。

 もとより大量の魔力を必要とする能力発動は、もはやルークの残る魔力を奪うには十分なものだったのだ。

 

「お前は下がってろ。後は俺達がやる」

「……っ。ごめん……」

「何言ってるのよ。ルークがいなかったら、ここまで数を減らせないってば」

「そうだよ。ここまではルークのおかげなんだから。後は私たちに任せてよ」

「そういうこと。動けるようになるまで、しっかり休んでなさい」

 

 ノエル達はそう言葉をルークに掛けると、再度シズク兵達と向き合った。

 

 しかし……先の一撃で数は大量に減ったとはいえ、シズク兵の数も半端ではない。

 故に、数分もすればまた同じような状態に戻ってしまうだろう。

 だからできるのならば、そうなる前に何とか打開策を見つけたい彼等だったのだが――。

 

「……え?」

 

 それに初めに気がついたのは、誰だったのか。

 

 一番初めは、影だった。

 巨大な影が地面に映り、その存在を、誰かが見つけたのだ。

 本来ありえないような大質量である物体。

 空を舞う、その船の姿を。

 

 誰もが唖然とした。

 

 ルーク達だけではない。

 そこにいたシズク兵達もが、その存在の登場に動きを止めていた。

 

 そう――それこそ、エルシオン級二番艦アルテミス。

 コミックパーティー軍の参戦だった。

 

 

 

 

 

 

「船が……飛んでる?」

 

 空に浮かぶのは、大質量の船。

 しかし船とは本来、海を進むための乗り物のはずだ。

 それが今――確かに空を飛んでいた。

 

 それは果たして、どういう理屈なのか。

 何をどうすれば、そんなことが可能なのか。

 

 誰もが動きを止める中、おそらく誰もがそう思っていただろう。

 

 

 

 しかし、驚愕はそれだけでは尽きない。

 

 

 

「『乱れ狂う雷の槍(ボルティス・ランサー)』!!」

 

 魔術の発動を告げる声が響いた。

 刹那、宙に形成されるは、五本の雷の槍。

 

 そして――それは一斉に、シズク兵へ向けて降り注ぎ、その多くの命を断っていた。

 

「よく頑張った、チビども」

 

 その声は後ろから聞こえた。

 あまりに連続的に続く予想外な出来事に、半ば反射的にルーク達はそちらへ視線を向け――彼等を、見た。

 

「あなた達は……」

 

 十数人はいるだろうか。

 そこにいた全員が、同じ鎧を身に纏っている。

 

 だが、その鎧にあった紋章を見、誰もが驚きを隠すことは出来なかった。

 

「コミックパーティー……?」

「あぁそうだ。シズク撃退のために、俺達は援軍に来た」

「援軍って……嘘……なんでこんな早く――」

 

 ノアルの声は、途中で中断された。

 ……いや、中断せざるを得なかったのだ。

 

 その答えは――もう既に自分達の真上にあったのだから。

 信じられないのだが、おそらくはそれが事実なのだ。

 

「詳しい話は後にしてやる。だからお前等はそこでじっとしておけ。ここは――俺達が片付ける」

 

 そう小隊長らしき男性は告げると、後方の兵達に指示を飛ばす。

 そして武器を構え、一斉にシズク兵へと向かい展開していった。

 

 

 

 目の前で戦闘を繰り広げるその姿を見て、ルークは立ち上がった。

 

「ちょっとルーク! 無理しないの!」

「……大丈夫だよ、ノアル。魔力を使わなければ、まだ十分動ける」

「でも――」

「僕はこの国を捨てた。……でもね、それでもここが僕の故郷であることに変わりは無いんだ」

 

 ルークは誓った。

 大切なものを全て守ろうと。

 

 だからこれは、都合のいい考え方なのかもしれない。

 

 一度捨てたはずのこの故郷ですらも――捨てきれずに守ろうとするのは。

 

「だからね……僕は最後まで戦うよ」

 

 そう言って、ルークは足を動かした。

 

 大丈夫。魔力さえ使わなければ、まだ身体は十分に動かせる。

 まだくたばってしまうのは――早い。

 

 しかし、動いたのはルークだけではなかった。

 

「しゃあねぇなぁ……」

「ま、旅は道連れってやつかしらね」

「でも――祐人の考えには賛成だよ?」

 

 そのルークの後ろに続く、大切な仲間達。

 そして――。

 

「……全くもう。そう言うところは変わらないんだから……」

 

 ――守りたいと思った、大切な人。

 

 

 

 さぁ。

 最後の戦いの始まりを始めよう。

 

 

 

 

 

 

 ふらりとルークの身体が揺れた。

 その手にはもう力を込めることすら叶わず、支えを失った『砲裂剣』は地面へと落ちる。

 そしてその隣に――ルークは倒れた。

 

「ルーク……大丈夫?」

 

 その少し横。

 同じように地面に倒れていたノアルは、心配そうにそう問い掛ける。

 

「何とかね……。ただまぁ、しばらくは動けないかなぁ……」

 

 そう言いながらも、ルークは顔だけを上げて、周りに視線を流した。

 そしてそこには――数多に倒れるシズク兵達の姿。

 

 その中に――もう動く者はいない……。

 

「……勝った、んだよね?」

「うん……勝ったよ」

 

 長い、長い戦いだった気がする。

 言葉で表せばそれだけ、しかし、本当に長く、疲れた。

 

「ご苦労さんだったな」

 

 そんな彼等の隣に、あの男性が歩いてきた。

 

「……皆は?」

「安心しろ。向こうで同じようにぶっ倒れてるが、意識はしっかりしてる」

「そっか……良かった……」

 

 息を吐き出し、今度こそルークは全身から力を抜いた。

 同時、どっと押し寄せる疲労に痛み。

 ちょっと無理しすぎた、と感じる頃には、ルークの顔は苦悶に歪んでいた。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「あ、はは……。ちょっと大丈夫じゃなくなってきたかな……?」

「まったく……無茶をするからだ。おい! 回復、こいつを優先だ!」

 

 男性が立ち上がり、仲間の一人へとそう声をかけながら歩み寄っていった。

 

「ねぇ……ルーク」

 

 その合間、不意にノアルが口を開いた。

 

「私……少し疲れたんだ」

「うん……それは、同感」

「だからさ……ちょっと色々、変なことを口走るかもしれない」

「……うん」

 

 静かに、ルークは彼女の言葉を待つことにした。

 

「……会いたかった」

 

 そして彼女の口から漏れたのは、そんな言葉だった。

 

「ルークがエアを出たのを知って……私、凄い寂しかった。もしかして、もう会えないんじゃないかってことも……考えたよ」

 

 話す彼女は、どんな表情をしているのだろうか。

 そちらに視線を向けてはいないので、それは分からなかった。

 

「でもワンでの戦いの時にルークを見つけて、嬉しくって……悲しかった」

 

 大切な人との再会。

 だがその再会の相手は、自分のことを忘れていたのだ。

 一瞬の喜び、そして悲しみ。

 一体それは、どれほどに彼女の重みになったのだろうか。

 

「それで今日……全部終わらせるんだって決めたはずだった……」

 

 その時だった。

 彼女の声が――掠れる。

 

「でも……駄目だね、私……。自分で決めたことなのに、凄く悲しくなったんだ……」

 

 嗚咽が漏れる。

 彼女の頬を、一滴の雫が濡らす。

 

「ルークと戦いたくなんて無かった……。ずっとずっと……一緒にいたかったのに……」

 

 そしてそれは一筋の細い流れになり、乾いた地面を濡らしていく。

 

「私……ずっと、辛かった……っ。ルークが敵だって言うことも……戦わないっていけないことも……全部、全部分かってたはずなのに……!」

「ノアル……」

「それでもやっぱり……無理だよぉ……! ルークと……戦いたくなんか、無い……っ! 一緒に……隣にいて欲しい……っ!」

 

 それは、矛盾だ。

 ノアルがルークに言った言葉と、明らかに異なる矛盾。

 

 だけどそれは――ノアルの本心でもあった。

 

 今までが、偽りだった。

 彼女が自身の想いを押し留めるために、建前を作るために生み出した、偽りの想い。

 だけど今、彼女はその偽りを捨て、本心を告げた。

 

 ――いや、告げるため、最後の言葉を口にした。

 

「だって……私、ルークのこと好きだから……っ!」

「……ノアル……」

 

 今すぐにでも、返事をしてあげたい。

 その言葉に、自分の想いを重ねて返したい。

 

 そう思っていた。

 思っていたのに……。

 

 動かそうとした体は動かなくて。

 発そうとした言葉は声にならなくて。

 全身を襲っていた痛みが限界に達して。

 

 ルークは――そこで意識を失った。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 お久しぶりです、昴 遼です。

 えー、実に数ヶ月ぶりになってしまいましたが、『永久の未来へ』第十七話をお送りします。

 

 さて、なんだがぐだぐだの内に終わった最終決戦、如何でしたでしょうか?

 個人的には、もう無茶苦茶だと思ってるんですがww

 

 まぁ、いいです(ぉ

 

 

 

 それはともあれ、もう分かりきってるんだろうなぁ、っていう感じもあるでしょうから、さっさとノアルの気持ちとかも書いてしまいましたw

 どうにもこういう形のエンドが好きな自分ですので、お約束展開には目を瞑ってくだされば嬉しいです、はいw

 

 ともあれ、次回辺りが最終話になると思いますので、皆さんどうか最後までお付き合いくださいね。

 でわー。