ノアルの体が地面へと落ちていく。

 気を失ったためだろう。

 翼は既にはためくことを止め、既に彼女を空中に留めておく要素が無くなったのだ。

 

「ノアルっ!」

 

 半ば無意識にその体を受け止めようと、ルークが走る。

 

 だが、

 

「っ!?」

 

 ガクン、と膝が落ちた。

 いや、膝だけではない。

 体中の全てが言うことを聞かなかった。

 

 既に限界は来ていたのだ。

 無理な魔力行使や、多くの血を失ったこと。

 それはルークの体の動きを不可能にするには充分すぎる要素だった。

 それどころか、気力だけで保ってきた今までの方が不思議と言えるぐらいだ。

 まさに想いの成せる業ということなのだろう。

 

 だが、ここでそれが無くなっては駄目だ。

 まだ一つだけやることが残っている。

 

「ノアル……っ!」

 

 地面へ向け落ちてくる少女に、その手を伸ばす。

 あのまま落ちれば、傷ついた少女はただでは済まない。

 だからこそ、受け止めなければならない。

 幼馴染だから、敵だから、といった想いは、今はルークの中には無い。

 ただ自分に取ってあの少女は、無くてはならない存在なのだと理解したからなのだろう。

 ……いや、理解していたのだ。

 ルークは決着をつけると幾度と思ったにしろ、彼女の命を奪おうなどとは一度も考えたことはなかったのだから。

 そして、そんな存在だからこそ、護りたい。

 それはたった今気付いた事実。

 国や、仲間や、生活ではない。

 たった一人の、だがとても大切な少女。

 その少女を自分は護りたいと思ったのだ。

 

 手を伸ばす。

 

 ……届け。

 

 体中が激痛を訴えても、手を伸ばす。

 

 ……助けるんだ。

 

 体に残る全ての力を使って、前へと進む。

 

 ……失いたくは無い。

 

 だが――まだ距離が開いている。

 

 ……もう二度と――。

 

 足、手。全てを使っても、その距離はまだ遠い。

 

 ……大切なものを、失いたくなど無い!

 

 だから――絶対に諦めなどしてたまるものかッ!!

 

「とど……けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 ルークの背に生える、片一方だけの翼が地を叩いた。

 ほんの僅かな、もう一つの力。

 それはルークの体を前方へと確かに押し出し、そして――

 

 その刹那。

 どさりと、腕の中に少女が落ちてくる感覚。

 全身から力が抜けた。

 ホッと息を吐いた。

 これでこの戦いが終われば、本当に全てが終わるはずだ。

 

 そう。

 きっと……。

 

 

 

   神魔戦記三次創作『永久の未来へ』

    第十六話 終結を拒むモノ

 

 

 

「君は、少し休んで……」

 

 戦場から少し離れた、街路樹。

 そこにノアルの体をもたれ掛けさせる。

 

「目が覚めたら全部終わってる……きっと、そのはずだから」

 

 そして自分は、向かわないといけない。

 戦場へと。

 

 戦いは、まだ続いている。

 仲間達があそこで戦っている。

 だから、行かないといけない。

 

「待っててね、ノアル」

 

 それだけを言い残し、ルークは駆け出す。

 全てを終わらせるために。

 

 

 

 戦いは、既に終盤に差し掛かろうとしていた。

 戦うほぼ全ての兵が疲労し、目に見えてその勢いが衰えていく。

 

 そしてそれは当然、ルークにも牙を剥く。

 

「ぐ……っ」

 

 剣を振る度に体を襲う痛み。

 今だ血の止まらない左腕に、度重なる強引な魔力使用による体への負担のせいだ。

 

 それが、ルークの体を苦しめていた。

 

「っ……! ――魔力は弾丸となる――……っ!」

 

 それでも、ルークは止まらない。

 体には既に限界が訪れているはずだ。

 だけど、ルークは止まらなかった。

 

 しかし、やはり感覚は鈍ってきていたのは確かだった。

 何故なら、ルークは背後に迫っていたその気配にギリギリまで気が付かなかったのだから。

 

「っ!」

 

 不意に感じた殺意。

 経験からその危険を感じ取り、ルークは『砲裂剣』をその殺気へ向け振るった。

 

 だが。

 

 ギィン! と高い金属音が響き、ルークの一撃は、いとも容易く止められた。

 

「な……っ」

 

 それに、ルークは困惑を隠せない。

 既にこの辺りにいる兵達は、皆疲労が限界に近い者しかいないはず。

 なのに――自分の一撃を、相手はあっさりと受けきった。

 疲労の溜まった者には、不可能なこと。

 

 まさか、エアの主力部隊の誰かが来たのか。

 そうだとすれば、自分には確実に勝ち目は無い。

 

 故にルークはその相手を確認すべく、振り返って――。

 

「――っ!?」

 

 そこにいた相手に、言葉を失った。

 

 

 

 生気を宿さぬ、光を失った瞳を携える兵士。

 しかしその表情は、何かに魅入られたように歪んでいる。

 

 明らかに生きたように見えない、者達。

 

 誰もがその姿を見て思っただろう。

 

 何故――シズク兵がここに、と。

 

「何でこんなタイミングで……っ!?」

 

 そしてそれは当然、ルークとて同じだ。

 全ての兵が疲労した、そんな絶妙のタイミングで介入してきたシズク兵に疑問を抱かぬはずがない。

 しかも、そのシズク兵はどちらに味方することも無く、始めたのは一方的な虐殺。

 全てを混乱に招く、明らかなイレギュラーだった。

 

「そうだ……っ! ノアル……ッ!!」

 

 いきなり何処からか現れたシズク兵。

 それが、ノアルの元に現れていないとは限らない。

 

 いやむしろ――最悪の光景が頭を過ぎった。

 

「くそッ!!」

 

 その場での全てを差し置いて、ルークはノアルの元へ向かった。

 途中襲い掛かってくるシズク兵には目もくれず、多少の傷もお構いなしにノアルがいる場所へと駆ける。

 

 そして、一つの角を曲がり――今まさに、意識の無いノアルに剣を振り下ろそうとする、シズク兵を見た。

 

 それを見た瞬間、ルークの中の何かが弾けた。

 

「ノアルから――離れろぉぉぉぉッ!!」

 

 瞬間的に振り上げた『砲裂剣』から弾丸が放たれ、シズク兵の武器を持っていた腕を直撃する。

 それと同時、ルークの空いている手の前に、一つの雷の球が生まれる。

 

 そして――。

 

「"光速の雷弾(レールガン)"ッ!!」

 

 あの一瞬で形成されたメインの点である銃弾へ向かい、放たれる。

 そして、轟! と空気が穿たれ、その一撃はシズク兵の身体を完全に貫いた。

 

「ぐ……はぁ……っ」

 

 もはや残り少ない魔力。

 それをさらに振り絞ったものだから、ルークの身体にはまた痛みが襲い掛かる。

 

 けれど――それでもノアルを守れたことに、安堵の息を漏らした。

 

 痛む身体を引きずりながら、何とかノアルのもとに辿り着き、その身体を抱き抱える。

 幸い怪我が無いその様子に、もう一度安堵の息を吐いた。

 

 ――が、それも、束の間。

 

 何処から現れているのか、またシズク兵が幾体も姿を見せたのだ。

 しかし、それを見てもルークは臆さない。

 

 それどころか、その既に人では無くなった者達を見据え、言った。

 

「さぁ……掛かっておいでよ。守るって決めた意志の強さ、見せてあげるから」

 

 もう何も恐れない。

 今までは、この少女と向かい合うことで抵抗を覚えていた。

 

 だけど――今は守るために戦う。

 だからもう、恐れるものは、何も無い。

 

「掛かって来い! ノアルには、指一本触れさせやしないッ!!」

 

 身体の限界を超え、ルークは『砲裂剣』を構える。

 

 疲労? 魔力? そんなもの、関係無い。

 

 今はただ――自身の全てを出し切って、戦うだけだ。

 

「――魔力は弾丸となる――」

 

 『砲裂剣』に弾丸を再装填。

 同時、襲い掛かってきたシズク兵の攻撃を横へ受け流しつつ、その腹へ拳を叩き込んだ。

 

 今の状況で、攻撃を受けるのは自殺行為だ。

 だから、受け流すことで隙を作る。

 

「はぁぁっ!」

 

 それ故、今の一撃で微かにだが仰け反ったシズク兵の隙を決して逃しはしない。

 

 その腹に『砲裂剣』の切っ先を突き刺し、弾丸を放った。

 内部からのその衝撃に、シズク兵の背中から血が噴出すが、いちいちそれを確認する暇など無い。

 『砲裂剣』を抜き去ると、すぐに次なる攻撃に備えて構える。

 

 はっきりとした自我を持たないからか、シズク兵は連携が無いことが唯一の救いだった。

 もしシズク兵等が、一般の部隊のように連携を組んでくれば、おそらく既にルークは敗北しているはずなのだから。

 

 しかし、だからといって楽観視出来ないのも事実。

 その分シズク兵は、精神感応によって極限まで肉体を強化されているのだ。

 だから、結局のところ、非常に厄介な相手であることに間違いは無い。

 

 横合いから振り下ろされた一撃を、先と同じように流しながらバックステップで距離を取る。

 そしてその位置で弾丸を放つが――如何せん、痛覚をまるで持たない彼等からすれば、そんなものは滅多に致命傷にはなり得ない。

 腕を貫こうが、脚を貫こうが、彼らは容赦無しに襲い掛かってくる。

 

「く……っ!」

 

 そんなシズク兵の攻撃を再度受け流すが――。

 

「アハハハハ! 殺ス殺スコロスコロスコロスッ!!」

「っ!? しま――!」

 

 背後から同様に迫っていたシズク兵に、気づくことが出来なかった。

 

 ザクリ、と生々しい音。

 自分の背中が斬られたのだということには、すぐに気が付いた。

 

 燃えるように背中が熱くなり、全身から力が抜けていくのが分かった。

 

「かぁ……は……っ」

 

 痛みで、声が声にならない。

 まだ倒れるわけにいかないのに、身体が言うことを聞かなかった。

 

――こんな……の……。

 

 これで、終わるのか。

 こんなことで――自分は護るべきものを護れずに終わるのか。

 そんなのは嫌だ……。

 

 けれど、身体は動かなくて。

 

 脚から全ての力が抜けて、もう立つことすら出来なくて。

 

 ルークは、その場に倒れ――。

 

 

 

「一人で格好付けてんじゃねぇぞ、この馬鹿野郎」

 

 

 

 その寸前、誰かに抱きとめられた。

 

 知っているその声。

 間違えるはずも無い、長い間を共に過ごしてきたその声。

 それを聞いて、ルークは無理やりにでも笑みを浮かべた。

 

「いいでしょ……。僕にだって……意地っていうものが、あるんだから……っ」

「そういうのを、意地っ張りっつーんだよな」

「相変わらずだからね、ルークは」

「まぁ、それがルークのいい所なんでしょうけど」

 

 さらに増える、声が二つ。

 

「さてと。俺達の仲間をここまでボロボロにしてくれて、テメェ等、覚悟は出来てるんだろうな?」

「当たり前だけど、ただで済むと思ってないわよね?」

「全力で、私達が相手してあげるよ」

 

 ここまで来ても、やはり途切れない絆というものはあるらしい。

 ルークはそれを実感し、そして全身の激痛に耐えながらも、再度その身体を立たせた。

 

「おい、無茶はするなよ?」

「大丈夫……。じゃあ、無いけどね……。でも……僕だけ休めるわけ、ないよ……」

「まぁ、そう言うとは思ってたけど……」

 

 そう少女はため息を吐くと、目を閉じて詠唱を始めた。

 

「『癒しの水(ヒールウォーター)』」

 

 水の魔術が彼女から放たれ、ルークの傷を癒していく。

 

「魔力はさすがに回復出来ないけど……、大丈夫ね?」

「うん……ありがとう。十分だよ」

 

 奥の手はもう出せない。

 けれど、それでもやれることはまだいくらでもある。

 

 身体から傷による痛みが消えると、ルークは『砲裂剣』を構える。

 

「行くよ……皆ッ!!」

 

 もう、今自分は一人ではない。

 全力を出せる仲間達が、そこにいる。

 

 だから、ルークは思う。

 もう心配は何も無いのだ、と。

 

「おぉぉぉぉぉッ!」

 

 咆哮と共に、ルークは地面を蹴った。

 そして真正面へと全力で突撃する。

 

 一見見れば、無謀すぎる突撃。

 敵が集まる場所へ突撃していくなど、よほど腕に自信が無ければ自殺行為に等しいだろう。

 そして当然、ルークにはそこまでの実力は無い。

 確かにそこらの兵には負けないだろうが、今の敵であるシズク兵にはそんな理屈は意味は無い。

 

 しかし。

 

 そんな事実をルークは分かっていながらも。

 

 それでも、ルークには自信があった(、、、、、、)

 

 それは実力によるものでも、何かの策があるわけでもない。

 

 けれども、ただ一つ。

 今までの経験と――そして今までに培ってきた彼等との信頼があるからこその、絶対的な自信が。

 

「アハハ! ウフフフフフ!!」

 

 そんなルークに、数多のシズク兵が一斉に襲い掛かる。

 それも、まさに四方八方から。

 

 だが。

 それでもルークは止まらない。

 それどころか、ただ正面だけを見据え、『砲裂剣』を正面へと突き出していた。

 

 その、刹那。

 

「『光羅(ヴェイト)』!!」

 

 数多の光の矢が、ルーク上左右のシズク兵を纏めて吹き飛ばしていた。

 そして、残るルークの正面にいたシズク兵は、『砲裂剣』によりその身を貫かれ、果てた。

 

 絶対の自信。

 それはすなわち、途切れることの無い信頼の絆。

 彼等だからこそ紡ぎえた、決して切れることの無い繋がりだ。

 

 だが、そんなルークの右から、別のシズク兵が飛び出してきた。

 そして、今だそのシズク兵に振り向かないルーク目掛け、手に持っていた剣を振り下ろそうとし――。

 

「させるかよッ!」

 

 その二人の間に、まさに高速で割り込んだ少年の持つ一対の双剣が、そのシズク兵の両腕を断った。

 そして、空中であるがために減速できないそのシズク兵を、今度は横合いより放たれた光の矢が吹き飛ばした。

 

「お前な、少しは気を付けろ」

「信頼してるんだよ」

「言ってろ」

 

 ため息を吐くと、少年は前方を見据えた。

 先ほどの攻撃で仕留めれた数は、やはり少ない。

 

 後方からの魔術も、速度を重視して『光羅』を使ったのだろうが、やはり威力的にそれで仕留めるのは無理だったらしい。

 

「まぁ、何体仕留めたところで数に違いなんか出ねぇんだろうけどな……」

 

 正面に展開する、一体何体いるのか数えるのも嫌になってくるシズク兵。

 

「考えても仕方ないよ。今は倒すことに集中しよう」

「あぁ……言われなくても分かってる」

 

 どうしてシズク兵がこのタイミングで介入してきたのかは分からないが、それでも今は敵であることに変わりはない。

 だとすれば――今はただ、その敵を倒すだけだ。

 

「二人とも! 来てるわよ!」

 

 後ろからの声に二人は正面に向き直る。

 今までは多少の警戒状態にあったのだろう。

 しかし、考えても無駄と悟ったのか、それとも押していけば勝てると思っているのか、シズク兵達が再度行動を開始していた。

 

「しゃがんで! 纏めて薙ぎ払うわ!」

 

 後ろからその声に続いて詠唱が始まるのを確認して、二人は同時に身を屈めた。

 そんな二人に向かってシズク兵は攻撃を繰り出そうと一歩を踏み出すが、

 

「『突き抜けし水の刃(ウェイブスライサー)!』」

 

 それらを全て、水の鞭が薙ぎ倒した。

 扱いの難しいこの魔術だが、こうやって一方向だけに振るのであれば、その扱いは剣と大して変わらないのだろう。

 ……まぁもっとも、彼女の魔力操作はその程度のレベルでは収まらない。

 第四部隊の中での彼女のそれは、かなりの精度を誇っているのだから。

 

「次から次へと――鬱陶しいのよ!!」

 

 水の鞭を、まるで自身の腕のように振るい、シズク兵達を倒していく。

 

 そしてその間にルークと少年は立ち上がり、一度後方から魔術を放ってくれている二人と合流した。

 

「ノアルは?」

「大丈夫だよ。二人が頑張ってくれてるから、こっちにシズク兵は来ないみたい」

「そっか……。でも、屋根を伝って来るかもしれないし、気をつけてくれると嬉しい」

「うん、分かってるよ――」

「っ! そっち、抜けられたわ!!」

「――っ!?」

 

 その声に、ルークは咄嗟に振り返った。

 そこには、水の鞭を掻い潜りこちらへ向かってきているシズク兵がいた。

 

「ルーク! 逆サイドは俺がやる! そっちは任せた!」

「了解!」

 

 咄嗟に『砲裂剣』を構え、数発の弾丸を放つ。

 狙うのは――脚。

 

 幾ら身体が強いとはいえ、その一点を狙われれば一瞬でもその動きは鈍る。

 致命傷にはなりえないが、足止め(、、、)にはそれで十分だった。

 

「跳んで! ルーク!!」

 

 不意に、後ろから声。

 先ほどから魔術詠唱は聞こえていたので、それに巻き込まれないため、ルークは咄嗟に横に跳んでいた。

 

「『踏破せし光の波(ラスターウェイブ)』!」

 

 それに一瞬遅れ、ルークが先ほどまでいた地面から、光が湧き出した。

 地面を裂いて湧き出すその光は、そこにいたシズク兵を纏めて一掃していく。

 

 だが、やはりそれだけではシズク兵はまるで減らない。

 後ろでは、今だ少女が水の鞭を振るっているが、既にそれは一度抜けられてしまっている。

 そのために、他のシズク兵までもが似通った方法でその水の鞭を潜り抜けてくるのだ。

 

「仕方ないわね……! 一度、魔術を引っ込めるわよ!」

 

 こうも抜けられてしまうと、魔術を維持する必要性が失せてくる。

 さらにそうなると、自分にも隙が空く。そう判断してなのだろう。

 

 だが、どちらにせよあまり良くない状況へ繋がってしまうのは必至。

 

 水の鞭が消えれば、シズク兵の進行を妨げるものは無くなってしまうのだから。

 

「……っ! 耐え切れよ、ルーク!」

「分かってるよ!」

 

 そんなシズク兵を抑えるのは、自分達の役目だ。

 後方から二人が再度魔術を放つまで、これ以上シズク兵の進行を許すわけには行かなかった。

 

――いけるかな……あと一発。

 

 この状況で"光速の雷弾"を使えれば、結構な数のシズク兵を巻き込むことが出来るだろう。

 

 そう思い至り、ルークは魔力を収束する。

 魔力は限界に近いが――絞り出せば、まだ無理な状態ではなかった。

 

――いける!

 

 そう確信した、その時だ。

 

「きゃぁぁっ!?」

 

 背後から、悲鳴。

 

「っ!?」

 

 ルークと少年がそちらを振り向くと、そこには、屋根を伝ってきたらしいシズク兵が、二人。

 

「ちぃっ! このタイミングで!!」

 

 咄嗟の判断で少年が地面を蹴り、そちらへと駆ける。

 ルークも、シズク兵から彼女等を護るべく『砲裂剣』をそちらに向けたが――。

 

「くそ……ッ! 間に合わねぇっ!!」

「っ! 弾が無い……!!」

 

 少年が二人のもとへ辿り付くよりも。

 ルークが弾丸を装填して再度構えなおすよりも。

 

 シズク兵の動きは――遥かに速かった。

 

「やめ、ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 咆哮と悲鳴が、その場に響き渡った。

 

 間に合わない。

 ゆっくりと湧き上がる絶望の中、ルークはそう思ってしまった。

 

 分かってしまった。

 もう、何をしても間に合わない、と……。

 

 もう、自分に彼女達を助けれる術は――無かった。

 

 ――けれど。

 

「"魔甲・裂壊陣(レディオ・ティオノイズ)"ッ!!」

 

 自分には無くとも――それは、彼女(、、)にはあった。

 

 凄まじい音が――シズク兵の鎧を打ち砕く轟音が、辺りに響いた。

 誰もが唖然とする中、彼女は――ノアル=リフェティアは、拳を構えた体制でそこに立っていた。

 

「目を覚まして一番にこれは……ちょっと辛いんだけど」

 

 全身の傷が癒えていところを見ると、治癒魔術を掛けてくれたらしいのが分かった。

 だからこそ、彼女はこんなに早く目覚めることが出来たのだろう。

 

「それで……とりあえずぶっ飛ばしちゃったんだけど、これ、どういう状況?」

 

 おそらく、先のは本能からの行動だったのだろう。

 ため息を吐きながら、誰か説明してよ、と視線を巡らせた。

 

「……シズクが、攻めてきたんだ」

 

 心を落ち着け、やっと初めに口を開いたのはルークだった。

 

「シズクが……? そんな、何で」

「俺達だって知りてぇよ……。ただ、今の敵は、互いにエアでもカノンでもねぇのは分かるだろ」

「今は敵味方にこだわってる暇は無いのよ……。否応無しに、手伝ってもらうわよ」

「お礼も言えてないのに……ごめんね。また後できちんと言うよ」

 

 皆が思い思いに口を開く中、ノアルという存在の参戦に脚を止めていたシズク兵達がゆっくりと動き出した。

 戦力的には、ただ一人敵が増えただけ――という認識程度にしかならなかったのだろう。

 

「まぁ……そうだね。今はそんなこと言ってる場合じゃないみたいだし、共同戦線だ」

 

 ノアルは剣を抜くと、ルークと少年の隣に並ぶ。

 

「本当は、こうやって並べることを懐かしみたいんだけれど……それも後だよね」

「そうだね。……でも、この戦いが終わったらきっと、そうなれると思う」

「そうだね……そうだと、いいな」

「うん」

 

 長い言葉はいらない。

 それ以上の話は、全てが終わった時にすべきことなのだから。

 

「行くよ!!」

 

 ルークの言葉を合図に、再度彼等はシズク兵と激突した。

 

 

 

 

 

 

  あとがき

 

 お久しぶりです、昴 遼です。

 何だかとっても久々になってしまいましたが、十六話をお届けしました。

 

 さてはて、最終決戦もいよいよ山場です。

 次回で全部終わらせるつもりですが……さてはて?w

 

 ちなみに、前回のあとがきで書いたルーク達が戦いにくい理由ですが。

 本編ではあまり表現していませんでしたが、彼等は多人数での連携で力を発揮できる、と自分は思っています。

 ですので、その連携が、少人数であるためにあまり生かせない、というところですね。

 ……まぁ、ぶっちゃけ気にならないぐらいあっさりと進んでしまいましたがw

 

 まぁ、また次回にお会いしましょう。